ヒーロー本部内に設置された会場の受付にマスコミや警察関係者、それに政治家が続々と集まり始める。
人類の脅威を取り除くことができたということで、海外の軍関係者もその中に入っていた。
「こうやって『終わり』を形にして見せられると、感慨深いな」
「そうよね」
春美も少し憂鬱そうだ。
「ピンクは、これからどうするんだ?」
「長官から、今と似たような仕事の誘いは受けたけど」
「そうか」
ピンクも、自分の道が決まってるのか。
慰霊碑に花を捧げてからしばらく経った日、良二は光から警察の仕事を紹介された。
健と近い職場だったため、話に乗ってもいいかなとは思う。
どう考えても閑職だったが、そんなことはどうでもよかった。
何をしていいかも分からない状態が続いていたので、何かをすることがそれを脱却する切っ掛けになるかもしれない。
そう思うと、前向きになる価値もあるのではないか。
「ん?」
良二の視線の先では、薫と茜がマスコミ関係者や政治家を集めて何事かを話していた。
「ブラックじゃないか。あんな所にいないでこっちに来ればいいのに」
「仕事でもあるんじゃない?」
「そっか、でも、相変わらずオレンジとは上手くいってるみたいで安心したよ」
俺とイエローは別に男と女の関係ってわけじゃなかったけど、あの二人には悲しい別れ方はしないで欲しいよ。
ブラックもそれなりにオレンジのこと気に入ってるみたいだし。
目の前できいろに死なれた身としては、余計なお節介かもしれないがそう思ってしまう。
「ピンクも、そう思うだろ?」
「……そうね」
歯切れが悪いな、何時もならもう少しはっきりしてるのに。
「なあ」
「何?」
「もしかしてさ、ピンクってブラックのこと好きだったりする?」
こうやって聞きにくいことも聞いてしまうあたり、自分は他人の心の機微は分かっていないだろう。
「……ちょっとね」
「悪いな」
「構わないわ、別に否定するようなことでもないから。……貴方も、イエローのこと好きだったんじゃないの?」
イエローか……。
「たとえそうだったとしても、もう、いないから。だから、どうしようもないな」
「お待たせしました、これより、祭典を始めます」
アナウンスが響く中、光は壇上にゆったりと上がってマイクに向かって話し始める。
「まずは、こうして平和な一時が過ごせるということに、怪人との戦いに協力してくださった全ての皆さんへ感謝を」
光の演説を聞いた薫は、あまりの滑稽さに微笑を浮かべる。
それに目敏く気付いた茜もまた同様に。
「絶対感謝なんてしてないよね」
「でしょうね」
長官の性根が僕と同じくらい腐ってるのは承知してますよ。
「そして、戦いの中で失われた全ての命に哀悼の意を」
聞いてて凄く説得力が無いですよ。
貴方の本性を知らない人なら騙されるかもしれませんけどね。
「そろそろこの茶番にも飽きてきましたし、動きますか」
「オッケー、こっちは任せて」
祭典が始まるまでに期間があったことで、充分に準備ができました。
各方面の協力者にも話をつけましたし、僕にとって都合が悪い情報だけを抜いた証拠も確保。
異様な怪人、人工怪人でしたか。あれの製造過程の情報も入手できました。
政府高官の方々など、保養所の件を利用してこの機会に政敵を始末する算段まで立てている有様ですからね。
以前救出した高官達は、トカゲの尻尾を切るように光一人に罪を被せることに即決した。
薫から持ち込んだ話だったが、ヒーローのトップとはいえ挿げ替えれば済むことらしい。
でも、やっぱりブルー(仮)は死んでいましたね。
隆が一番最初に出現した人工怪人の正体だった。
手に入れた情報からそれは確認した。
ここ数日家族と連絡が取れませんでしたが、おそらく何らかの形で僕にとって不利益になるだろうことに利用されているでしょう。
そのことは茜に話してはいない。
それに、マスコミ関係者がいるのだ。利用しない手は無い。
家族の話が出たら、うろたえて悲痛そうな声でも出せば世間はさぞかし同情してくださることでしょう。
まったく無事な状態で家族が帰ってくるということは、もう無いだろう。
光はそういう事に関しては容赦しないタイプだ。
無駄な努力をするつもりはありません。
家族といっても、所詮は血が繋がっているだけの他人ですしね。
子供は絶対に両親や兄弟を助けなければならないと決まっているわけでもありませんし。
両親には育ててもらった恩はありますが、それはそれ、これはこれ。自分の命が最優先です。
兄には特に恩を受けた覚えはありませんし、どうでもいいですね。
ペットの犬と同じく、死んだら多少は残念に思うだろうがそれだけだ。
薫は、既に家族を見捨てる心算だった。
続く
あとがき
大体一週間ぶりに最新話投稿です。