第8話
「新しいブルーだって!?」
「らしいですね。
でもまだ正式な決定じゃありませんから」
良二は、自分の代わりのブルーが来ると薫から聞いて驚いていた。
「なんでまた?」
「貴方が怪我をしているということと、元々長官が適正に疑問を抱いていたということで、戦闘力がより高いメンバーを新たに選んだそうですよ」
俺の戦闘力は正直低いが、まさか首になるとは。
そう考えていると、光が見慣れない男を連れて医療室に入ってきた。
「失礼するよ」
「あ、どうぞ」
見慣れない男は良二を無遠慮に見下ろしており、それが気になった彼は男に問いかけた。
何なんだ、こいつ。
「どちら様で?」
「あぁー、一応自己紹介しとくぜ。
もう会うことはねえだろうがな。
俺は新ブルーの清水隆だ。
ヨロシク、そしてサヨナラ旧ブルー」
この男が、俺の代わり?
「まだブルー(仮)でしょう」
まだ決まってはいない事だったので、薫が訂正した。
「いいじゃねーか。
どうせすぐ仮が取れるんだからよぉ」
やけに自信が有るようだが。
「なんつっても俺がこいつに負けてる所なんか1つもないし、大体こいつ全ヒーロー中最弱だった奴なんだろ」
痛いところをはっきりと突いてきやがって。
「そこまでにしておきたまえ、ブルー。
青山君、今までご苦労だったね。
後の詳しい説明は黒澤君がしてくれるから」
光は既に良二への興味を失っているようで、目を合わせずに出て行った。
「へいへい。
んじゃあな、アンタの代わりはこの俺がもっと上手くやってやっから。
ブラックもさっさと説明なんか適当に終わらせろよ」
清水という男は、最後まで良二を馬鹿にしたような笑みを浮かべて去って行った。
「……どういうことなんだ、ブラック」
「新メンバーを決める会議がありましてね。
そこで長官が、貴方がしばらく戦えなくなった事を良いことに交代案を出してきたんですよ。
それでしばらくは様子を見ながら比較して最終的なブルーを決めるそうですが、あの分だとブルーの復帰は厳しいでしょうね」
相変わらず事実を淡々と告げる奴だな。
「まだ貴方のヒーロー登録は残っていますが」
「そうか……」
お払い箱ってわけか、まあ仕方ないよな。俺弱いしな……。
「ブルー(仮)の他に、女性2名がグリーンとオレンジとして新たに登録されました」
合計7人か。
「ちょっと多くないか?」
「昨今の特撮とかではそれ位良くあることだから気にするな、と長官が言っていました」
まあ、追加戦士とか良くあるけどさ。
「それで、チームをレッド、イエロー、ピンク、ブルー(仮)の4人と、僕、グリーン、オレンジの3人の2チームにし、それぞれのチームを独立して行動させることになったんです」
「そうか。
じゃあ、お前はチーム2のリーダーってわけだな。
出世したな」
「別に嬉しくないですよ。
総隊長はレッドのままですし」
あ、レッド名目上はまだチーム№1なのか。
「でも、これでお前とのコンビも解消か」
「そうなりますね、寂しくなります。
このままあのブルー(仮)が正式メンバーになればの話ですが」
まあほぼ確定事項なんだろう?
「そういえば、お前なんで新ブルーのこと仮って呼んでるんだ?」
「僕にとっては、貴方がまだブルーですから」
まだ、俺のことを仲間だって思ってくれてるのか……。
「ありがとう、ブラック」
「早いところ戻って来て下さいよ。
あなたのことはイエローも、ピンクも、僕も嫌いじゃありませんから」
「好きとは言ってくれないんだな」
良二はは、この日初めて笑った。
あなたが一番都合が良いですしね。まあ、それなりに気に入ってはいますよ?
あのブルー(仮)はなるべく早くなんとかしますから。
「新メンバー?」
「うむ、どうやら長官が決めたことらしい。
まあ、相変わらずリーダーは自分だがな!」
太陽がいつもどおりのテンションで喋る中、春美ときいろは顔を見合わせた。
急な話だったし、良二もまだ復帰していない。
「あ、あの人達がそうなのかな?」
きいろが視線を向けた先に2人の女性と1人の男が立っていた。
太陽も気がついたらしく、三対三で向かい合う形となった。
「アンタ等が先輩か。
へえぇ、2人ともなかなかいい女じゃねえか」
チンピラ風の男が嘗め回すような視線で見てくる。
「よしなさい。
清水が失礼しました、先輩方」
眼鏡をした真面目そうな雰囲気の女性が男を嗜め、彼の発言を謝罪する。
「ふうん、アタシがやっぱり一番年下なんだ」
最後にまだ高校生位の女の子が春美達を観察した。
「えっと、貴方達が新メンバー?」
きいろは半信半疑なのか、確認のために質問をした。
「はい、私がグリーンの緑川優子です。
以後よろしくお願いします」
「アタシは緋崎茜。
オレンジね」
「んでもって、この俺が新ブルーの清水隆だ!」
新ブルー?
「ちょっと待って。
新ブルーって、ブルーは間に合ってるわよ?」
ブルーはあの手のかかる彼だけで充分だ。
「だぁかぁらぁ、旧ブルーは首なんだよ、ク・ビ!」
「どういうことだ!
自分は聞いてないぞ!」
春美、きいろ、太陽が3人とも混乱している中、緋崎茜が口を挟んできた。
「えっとぉ、長官が言うには使えないからだってさ」
「正確には首ではなく、あくまで保留ですが9割9分9厘首は確定でしょうね」
さらに緑川優子が余計な補足を入れてくる。
「そんな、今まで一緒にやってきたのに……」
きいろも流石にショックを受けているようだ。
「いいじゃねえか。
俺の方が使えるぜ?
さっさとあんな奴の事なんか忘れさせてやるよ」
そういう問題じゃないわよ。
さっきからこいつの言動には苛々する、まだレッドの方がましだわ。
「あんまりイエローを苛めないで下さいよ、ブルー(仮)」
険悪な空気の中、薫がタイミング良く登場した。
本当にタイミング良いわね、盗み聞きでもしてたんじゃないの?
「あ、薫!
何やってたの?」
緋崎茜が嬉しそうにブラックの方へ駆け寄った。
「ちょっとブルーに説明してて遅くなったんですよ。
すみません」
「おい、ブラック!
いつまで(仮)をつけて俺を呼ぶんだ!」
ブルー(仮)か、あいつはこの呼び方で良いわね。
薫のネーミングセンスに心の中で笑ってしまった。
「ブラック、何故ブルーの代わりにブルー(仮)がヒーローになるのか説明してもらえる?
後、なんでその子とそんなに仲が良さそうなのかしら?」
随分と手が早いのね。
「詳しいことはブルーの見舞いにでも行ったときに彼から直接聞いてください。
それと茜とは先日ちょっと『お話』して『仲良く』なったんです。
あんまりプライベートには干渉しないでくれませんか?」
「わかったわ。
レッド、イエロー。
ブルーの見舞いに行くわよ」
春美は振り返らずにブルーのいる所に向かった。
「ねえピンク、あたしはブルーがブルーじゃなきゃ嫌だな」
「自分もだ!
あいつがいないと自分のカッコよさが引き立たないではないか!」
そうよね、イエロー。後、レッドは自重しなさい。
「行っちゃったね。」
3人を見送った後、部屋には薫と新メンバー3人、計4人が取り残された。
「ブラック、てめえさっきはよくもシカトしやがったな!」
清水隆はいきなり殴りかかってきたが、彼はそれを避けカウンターを叩き込んだ。
「ぐへぇっ!!」
這い蹲る隆を冷めた目で見下ろす。
呻き声まで品が無いですね、この前の茜は良い声で喘いでくれたのに。
「わぁ、薫強いね」
「どうも」
「確かに黒澤さんは強いですね。
ブルー(仮)は、所詮補欠合格ですか」
グリーンも案外毒舌ですね。
「てめえ、覚えてやがれ!」
隆は背を向けて逃げ出した。
所詮補欠か。
それは負け犬の遠吠えですよ。
「茜、グリーン。
後で青山さんのお見舞いに行きませんか?」
「アタシはオッケー」
「私も、先任の方に挨拶しておこうかと」
ピンク達は上手いことブルーにフォローしてくれているでしょうかね。
医療室で休んでいると、春美、きいろ、太陽がやって来た。
「ブルー、貴方がヒーローを辞めることになるかも知れないってブルー(仮)に聞いたわ」
もうその呼び方浸透してるのか。
「ああ」
「あたしは、あのブルー(仮)が新しいブルーっていうのは嫌だな」
「私もよ。
あんなのとチームを組むなんて」
イエローにピンク、ありがとう。
「その通りだ、あいつは態度が気に食わん!
やはりお前の方が便利だ!」
レッド、ちょっとはオブラートに包んでくれよ。
「まあ、ブラックからも色々聞かされたけど、今すぐ辞めるわけじゃないし。
俺が残る可能性だって1割……、いや、3割ぐらいはあるよな?」
「そんな自信無さ気に言われても」
イエローも俺も苦笑するしかないな。
無理して笑ってくれなくても良いんだぞ?
「仮にあいつがあなたより何倍も使えるって言うのなら話は別だけど、実力に差がないようなら私達からも長官に進言してみるから」
「うむ、リーダーとして部下を庇うのは当然だからな。
たとえお前がヒーロー最弱だとしても自分は見捨てないぞ!」
だから、レッドはどうしてこう一言多いんだ。
「数を増やしても駄目でしたね。
やはりもう形振り構わずに、あいつらを効率よく倒す作戦に変更すべきです」
「うむ、私も人間以外に被害が出ないならその意見に賛成だ」
怪人達の中でハト派とタカ派に分かれて会議が行われていた。
「なにかおぬし等に策はあるのか?」
「次回の作戦は私にお任せください。
特にあの青い奴は、今度こそ倒します」
隆は自分を容易く倒した薫と、自分を認めない旧メンバーに憤っていた。
「ちっ、どいつもこいつも!」
最終選考の前にブルーが怪我をしたことで彼は急遽新ブルーに選ばれたが、それは補欠合格という形であって正式なものではなかった。
また以前もブルーの候補に挙がっていたが、青山良二が現在のブルーに結果的には選ばれた。
それまで挫折を知らなかった彼にとっては屈辱だった。
自分の方が優秀な筈なのだから。自分は、無能じゃない。
実際に能力的には隆のほうが良二より少し高い。
だが、長官が太陽の当て馬を選ぶためにあえて劣る良二を選んだのだ。
「今に見てろよ!」
春美達が帰った後、薫が2人の女の子を連れてやってきた。
こいつ、結構手が早いのか。
「ブラック、その2人が残りの新メンバーなのか?」
「ええ。
オレンジの緋崎茜さんと、グリーンの緑川優子さんです」
「はじめましてっ」
「よろしくお願いします」
挨拶が済んだところで、今後のことを話し合うことにした。
「知っての通り、試験的にブルー(仮)を戦わせて貴方の今までの活動と比較することになっています。
私個人としては彼の性格は好ましくありませんが、貴方も能力的に不足していますしどちらも一長一短ですね。」
この子もはっきり言うな。ピンクと似たタイプか?
「アタシと優子さんはどっちがブルーになってもいいんだけどね。
どっちにしろ別チームだし」
やっぱり俺の存在って……。
「僕も色々大変なんですよ。
グリーンが僕の指揮官適性とかを査察して長官に報告するみたいですし、茜の面倒も見なくてはいけませんから」
昇進したらしたで、大変なんだな。
ん?今こいつオレンジのこと名前で呼んだよな!?俺の事だって名前で呼んでくれないのに!
「おいブラック!
何でその子をもう名前呼びしてるんだ!」
「貴方もそれを聞きますか。
普通にプライベートで『仲良くなった』だけですよ」
今の言い方がちょっと引っかかるが。
「お前人のこと名前で呼んだことなかったのにな」
「名前で呼ばれたいんですか?
でしたらヒーローを辞めて『青山良二』に戻ってみては?」
グリーン!?この子やっぱり酷い!
「そうなったら接点なくなるじゃないか!」
「落ち着いてくださいよ。
後、僕はあなたにブルーでいて欲しいんで、これからも名前で呼びませんから」
「薫はこの人がブルーの方が良いの?」
「まあ」
「ふうん、じゃあアタシも応援だけはするね」
ありがとよ……。
続く
閑話8
薫と茜 閑話7の続き
薫は目の前の女が自分を気に入るように演技していた。
その成果は出て、彼女は既に薫に好感を抱いているようだ。
「へえ、動物好きなんだ?」
「うん、特に犬とかね」
従順な生き物が好きなだけですけどね。
まあ、なかなか言うことを聞いてくれないのを徹底的に躾けて自分に忠実にするのも楽しいですが。
そろそろ薬が効いてくる頃でしょうか。
警戒もしないで飲み物を飲むなんて。
アルコールで多少なりとも判断力を鈍らせたことも効いてはいたでしょうが。
「ところで、君は長官に何か俺について言われていなかったかい?」
「うん、あのオヤジには、見張って行動を報告しろって、あれ、なんで、アタシ……?」
「おや、やっぱり効いていたようですね。
少し休める所に行きましょうか」
「アンタ、口調……」
もうサービスは終わりですよ。
ちょっとだけでも好みのタイプを演じてあげたんだから充分でしょう?
「すいませんね、こっちが素なんですよ」
さて、あとはゆっくりやりましょうか。
自分の家族や友人達も欺き続けた彼にとって、初対面の小娘1人攻略することなど簡単だった。
物心ついたときには既に、どうすれば相手に気に入られるかを常に考えていた。
好意を持ってくれる者にはそれなりの対応を、それでも悪意を向ける相手には懐柔するか処理するかしてなんとか平穏で上等な人生を歩んできたときに長官からヒーローに指名されたのだ。
当時学生だった彼は、公務員になって安定した、人並み以上の生活を送ることを目標にしていた。
特にやりたいこともなかったし、その気になればわりと何でもできたから夢が無かったと言える。
家業は兄が継いだし、僕にはすることがありませんでしたからね。
給料もかなり良かったし、良い仕事かなと思ったんです。
それに人類滅亡したら困りますし。
長官も、向こうから声をかけておいて酷いですよね。一応人類のために頑張っているのに。
まあ自分のしていることが善とは言えないことは百も承知ですが。
彼は善人ではないが、常識は持っているし、相手がされたら嫌なこともわかっている。
だから大多数の一般市民にとっては比較的安全な男なのだ。
自分の障害には、されたら嫌なことを承知で躊躇無くやるから性質が悪いが。
女性が欲しくなったときは、適当に声をかけてしばらく話せばそれでなんとかなったので、性犯罪をする理由も無い。
あくまでも両者合意の上だ。大概一晩だけの関係だったが。
今度の相手は少しだけ長い付き合いになるから、念入りに躾けておきますか。
「緑川君、早速黒澤君を探るのに緋崎君が向かったそうだね」
「彼からの誘いだそうです」
女には手が早いか、彼も男だね。
「ですが長官、なぜ黒澤薫を見張るのですか?」
「彼の行動は最近目に余ってね。
戦闘員を発案したのも彼なのだよ」
「戦闘員を!?
あれは長官が提案したのでは?」
「強引に押し切られてね。
これ以上彼の好きにさせるわけにはいかないのだ」
私も大いに賛成していたがね。
「わかったなら、緋崎君に後で連絡を取り、経過を報告するよう手配したまえ」
「はい。
……?
長官、茜さんからのメールです」
優子が掲げた携帯の画面には、短い文が浮かんでいた。
『攻略成功』
案外簡単だったね。
「以後継続して調査するように返信してくれたまえ」
女には弱いか。
実際は、茜を攻略した薫が彼女の携帯から送った文章だということを彼等は知らない。
「緑川君、今夜どうかね?」
「丁重にお断りさせて頂きます」
つれないね。
光は優秀な人材をスカウトした。
ここまでは良かったが、それを排除しようとしたことが間違いだった。