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No.8422の一覧
[0] 百年戦争史・シャルルマーニュ伝[サザエ](2009/07/20 01:47)
[1] プロローグ[サザエ](2009/06/07 03:41)
[2] 師匠[サザエ](2009/06/07 03:42)
[3] 王族[サザエ](2009/10/25 20:47)
[4] 外伝1.シャルル危機一髪[サザエ](2009/05/04 21:06)
[5] 追放[サザエ](2009/06/07 03:43)
[6] ブルゴーニュの陰謀[サザエ](2009/06/07 03:43)
[7] 初めての諸々[サザエ](2009/06/07 03:44)
[8] 説得[サザエ](2009/06/07 03:45)
[9] 大都市ミラノ[サザエ](2009/06/07 03:46)
[10] 出会い、そして内政①[サザエ](2009/06/07 11:44)
[11] 蠢き始めた獅子[サザエ](2009/06/07 04:07)
[12] 外伝2. 母の思い[サザエ](2009/06/07 04:12)
[13] シャルルの軍[サザエ](2009/10/25 20:48)
[14] 内政②通信革命と傭兵の集い[サザエ](2009/06/21 22:40)
[15] イングランド政変[サザエ](2009/06/13 21:56)
[16] 交渉準備[サザエ](2009/06/28 12:58)
[17] 会談・大貴族ブルゴーニュ公[サザエ](2009/10/25 20:48)
[18] 祭りの後の地団駄[サザエ](2009/07/13 02:24)
[19] ギヨーム恋愛教室[サザエ](2009/07/06 14:55)
[20] 少年リッシュモン・英雄の原点[サザエ](2009/07/19 03:49)
[21] 婚約と社交会[サザエ](2009/07/20 01:39)
[22] 外伝3.薔薇の少女イザベラ[サザエ](2009/07/20 01:47)
[23] 外伝4.その頃イタリア・カルマニョーラ[サザエ](2009/10/13 00:22)
[24] ミラノ帰還~リッシュモン編~[サザエ](2009/09/06 21:44)
[25] ミラノ帰還~ガレアッツォ・イザベラ編~[サザエ](2009/11/25 04:21)
[26] フィレンツェの事情・戦争の開幕[サザエ](2009/11/25 04:21)
[27] ボローニャ攻略戦[サザエ](2009/09/26 03:23)
[28] 戦後処理[サザエ](2009/10/09 16:51)
[29] フィレンツェ戦前夜[サザエ](2009/10/13 00:22)
[30] 急転する世界[サザエ](2009/11/25 04:22)
[31] 事変後の世界[サザエ](2009/10/19 09:32)
[32] 謀・その大家と初心者[サザエ](2009/10/25 20:46)
[33] 外伝5.軍師~謀・その陰と陽~[サザエ](2009/11/07 22:19)
[34] 大乱の幕開け[サザエ](2009/11/07 22:18)
[35] 皇帝廃位[サザエ](2009/11/19 14:07)
[36] シャティヨンの戦い[サザエ](2009/11/25 11:12)
[37] 外伝6.屍が蘇った日[サザエ](2009/11/30 21:36)
[38] 戦火の後に[サザエ](2009/12/25 17:37)
[39] ブルグント王国復興の宴[サザエ](2009/12/11 18:57)
[40] 塗り換わった勢力図[サザエ](2009/12/16 18:39)
[41] 同盟締結[サザエ](2009/12/22 00:05)
[42] 外伝7.最期の望み[サザエ](2009/12/25 17:40)
[43] 黒い年末[サザエ](2010/05/30 17:44)
[44] 外伝8.エンファントの日常[サザエ](2010/01/12 18:12)
[45] 派閥の贄[サザエ](2010/01/24 00:18)
[46] 嵐の前[サザエ](2010/01/31 21:20)
[47] 陽炎の軍[サザエ](2010/02/15 22:04)
[48] 揺れる王国(加筆)[サザエ](2010/05/30 17:45)
[49] 闇夜の開戦[サザエ](2010/05/30 17:49)
[50] 決戦前夜[サザエ](2010/07/11 05:01)
[51] 決戦は遥か[サザエ](2010/08/28 19:43)
[52] 雛は歩き出す[サザエ](2010/11/19 17:57)
[53] 騎士の道[サザエ](2010/12/09 21:40)
[54] 作中登場人物・史実バージョン[サザエ](2009/09/26 03:27)
[55] 年表(暫定版)[サザエ](2010/02/17 18:17)
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[8422] 同盟締結
Name: サザエ◆d857c520 ID:14833451 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/22 00:05
後年、動乱の年として知られる1403年も秋が深まり、冬が近付いていた。
秋は収穫と蓄えの季節として知られる。
農民達はその2、3ヶ月を働くことのみに費やし、厳しい冬に備えなければならない。
身を切るような寒さ、不毛の季節を人々は家に篭もりひたすら春を待ち続ける。
かつて、冬はそんな『待ち』の季節だった。
必然的に秋はその準備に追われ、農民達は雑事にかまけていられなくなる。
数万という規模で掻き集められたポーランド軍が秋の近付きと共に引き揚げざるを得なかったのも、その大部分を構成する農民達のそういった事情にあった。
そういう訳で、貴族にとっての秋は戦をすることもできず領地で狩りに夜会にと道楽に耽る、そんな季節なのだ。
だが、今年ばかりはそうはいかなかった。
ヨーロッパの地図が大きく塗り変わった動乱の影響で、貴族達も交友関係を刷新させる必要に迫られたのだ。
庇護してもらっていた大貴族が凋落してしまった者も少なくなく、連日開かれるパーティーには悲壮な面持ちで臨む中流貴族の姿が後を絶たない。
一方で勝者となった筈のブルグント貴族、ポーランド貴族もまた勝利の美酒に酔いしれる間を手にしていなかった。
彼等は互いに、同盟締結に向け段取りを整えるべく東奔西走するという非常に忙しい日々を送っていたからだ。
動乱の年。
1403年は外交によって暮れようとしていた。













オレは新たに得た旧エッセル伯領に来ていた。
広く開けた平野部に位置するこのエッセル伯領は軍事演習にはもってこいの場所。
そういう触れ込みを聞いたこともあり、オレはエンファントと傭兵隊の一部、そして大勢の人足を引き連れてこの地に訪れたのだった。
エッセル伯の居城はその身代に見合ってこじんまりとしたものだったが、生活観の滲み出た温かい住居はどこかほっとさせる空気がある。
打ち壊さねばならないことが勿体ないような気もする。
しかし、こうして人足も連れて来たしまった以上、予定を変更するわけにもいかない。
オレは旧エッセル伯城を大幅に改修し、ついでにエンファントに城の構造を実地で学ばせようと思ったのだった。
城の成り立ちを知っていれば思わぬ攻め手を思いつくかもしれない、という実に安易な思い付きである。
尤も、一つ所でひたすら訓練ばかりして気が滅入っていた彼等にはいい息抜きにもなっているようで、
彼等は年相応の無邪気な表情を浮かべて走り回っていた。


「さて、私達は彼等のように遊ぶことを許されていない。早速だが改修の打ち合わせをするとしよう」


話し合うのはモルト老とリッシュモン、そしてガッタメラータの三人だ。
フリッツはいない。
自分は謀は得意だが戦は経験が浅く門外漢である、といって辞退したのだ。
今はオレの代わりにエッセル伯領を見回り、その実態を調査していた。
最初に口火を切ったのはリッシュモンだった。


「大砲です。これからの時代、必ず大砲が活躍する時が来ます!!
 今こそ、対砲防御を兼ねた城というものが如何なるものなのかを試行すべきです」


いつになく熱く語るリッシュモン。
彼は大砲に魅せられていた。
それは先日のことだ。
オレは現在の地位を利用し、イスラム世界から多くの書物を取り寄せている。
昔と違って世間から注目されているのでイスラーム商人と直接顔を合わせるにはいかない。
書物の収集はそれ故の代償行為であった。
この時代の最先端であるイスラーム世界を無視するというのは愚行である。
リッシュモンもまたオレのそういった考えに共感し、翻訳された物を片っ端から読んでいる。
そして、リッシュモンが読んだ大量の書物の中に大砲に関して詳細に記述したものがあったのだ。

『天を突き穿ち轟き渡る轟音。それが私の耳を貫いたと思った次の瞬間、眼前に聳える大きな岩にヒビと深い穴が生じていた。
 固い岩に穴を穿つ。
 信じられない力である。
 常識を超えた現象に仰天した私がこの兵器は何と言うのか尋ねると、砲と教えてくれた』

国家機密であるため製造法など詳しい記述はないものの、その書物には数十ページに渡って大砲という兵器に対する筆者の感激が書かれている。
その余りの絶賛振りに、リッシュモンもすっかり感化されてしまったのだった。
この時代のヨーロッパにおいて、大砲という兵器は未完成で実験の域を出ていない。
先見性のある大貴族が物珍しさから造ってみることもあるが、とても実用に耐えれる代物ではなく、珍品扱いしかされていないっもが実情だった。
それ故、イスラーム世界で実用兵器となっているという記述にリッシュモンは深い関心を抱いたのだろう。


「想像して見て下さい。
 発射される弾丸。砕け散る城壁。轟音に怯える敵兵。 
 これまでの戦を全く別のものに変える新兵器を。
 我々は一刻も早く、この大砲を取り入れるべきです」


そう熱弁を振るうリッシュモンの表情は、かなり妖しいものだった。
思い込みの激しい人物というのは想像力も豊かなものだ。
リッシュモンの脳裏には、大砲が思う様に敵を蹂躙する様子がまざまざと浮かんでいるに違いない。
現代から来たオレとしても、その見解に否やはなかった。


「大砲ねぇ……。
 別にその書物を疑うわけじゃねぇがよ、実際どんな代物なんだ?
 こう、造りとかよ。
 イスラームの秘密兵器だ。
 そこら辺の所は一切分かっちゃいないんだろ」


しかし、モルト老とガッタメラータは否定的だった。
懐疑的、といってもいい。
それは戦争に関する深い造詣があるが故のものだった。
特に一回大砲を見たことがある、というガッタメラータは大砲の有用性にかなりの疑いを持っている。


「ありゃぁ、使い物にならないぜ。
 そりゃあ、目の前でぶっ放されたときは驚いたけどよ。
 一回ドカン、とやっただけで壊れちまったんだぜ。
 そんな柔な兵器、揃えた所でどうってこたないだろう」


彼等二人が保守的であるという訳ではない。
ヨーロッパ世界では、それが大砲に関する一般的見解だったのだ。
しかし、この時代以降兵器が辿る歴史を知る身としてはリッシュモンの先見性に同意する他無い。


「私もリッシュモンと同じく、大砲の時代が来ると思う」


オレの言葉に眉を顰める二人と顔を輝かせるリッシュモン。
それは次の瞬間逆転した。


「だが、それは今ではない。まだまだ先の話だ。
 確かにヨーロッパ各地で大砲めいた物が作られているが、実用化には程遠い。
 今強いてその戦術を練る必要がどこにある?」


オレの考えに当然ながらリッシュモンは反発した。


「皆がそう考える時期であるからこそ、新たな戦術を取り入れるべきなのです。失礼ながら殿下の御考えは保守的に過ぎるのでは?」

 
確かにオレには若さ故の無鉄砲さはない。
リッシュモンには保守的に映るだろう。
しかし、オレにはオレで言い分があった。


「大砲の研究などという大掛かりで金の懸かるものが私の一存で出来る筈がなかろう。
 王に上申し、国家として取り組むべきだ」


そう、金が無いのだ。
大砲の鋳造には鉄が要る。
その研究となればもっともっと大量の鉄が必要になるのだ。
なにせ研究は失敗の連続だ。
数多の失敗の末にやっと成功が見えるかもしれない。
研究とはそんなあやふやなもの。
その効果に疑いはないとはいえ、幾ら金が掛かるか分からない物に個人で手を出せる筈が無かった。
はっきり言って、大砲の研究はオレの手に余るのだ。


「それに論点がずれているぞ。
 今論議すべきなのはこの城館をどのように改修するかであって、大砲を研究するかどうかではないだろう」


オレは建設的議論をするべく、リッシュモンを窘める。
それにも関らず、リッシュモンは諦めない。
あくまで食い下がろうと抵抗を試みる。
その頑固さと執着振りはある意味で彼らしく、ある意味で彼らしくなかった。
きっとリッシュモンはオレに大砲研究をするよう進言する機会をずっと待っていたのだろう。
彼からはここで説得を、という気合が感じられた。


「ですから城館を対大砲用のものに、と提案して……」

「大砲を使う敵もいないのにか?」

「何れ必要となります」

「だが、今ではない」


平行線を辿る遣り取りに決着を付けたのはガッタメラータの呆れ声だった。


「そもそも政治的イニチアシブを取るために改修するんじゃなかったのか?」


その声を聞いたオレとリッシュモンは、ぴたりと言い合いを止めて耳を傾ける。


「実験とかそんな事をするよりもだ。
 誰にでも分かりやすい形の前線基地にした方がシャルル的にもいいんじゃねぇのか。
 アウグスブルクの咽喉下に突き立てる感じで、軍勢を集結させられるように大きくしてさ。
 攻められても援軍が来るまで耐えれるように堅固な城塞都市。
 そういうのを作れば自然とここが対アウグスブルク拠点になるし、その持ち主であるシャルルの発言力も無視できないものになる。
 そういう主旨で改修する、って決めたじゃねぇか。
 二人ともそれを忘れてどうするよ」


そうだった!!
大砲という重要案件にオレは目が眩み、最初の目的を失していたのだ。
オレは込み上げる羞恥心を抑え、ここぞとばかりにガッタメラータに同調した。


「そうだ。
 オレが聞きたいのはどうすればここが前線基地として申し分のないものになるか、だ。
 大砲の話題はまた次に、いつか別の機会を設けて集中的に話し合うべきだろう?
 何といっても次世代の主力兵器だからな」


リッシュモンの機嫌をくすぐるように配慮しつつ、オレはやっと軌道修正を行えたのだった。


「私はやはり大きな城壁を建造し兵を多数収容できるようにすべきだと思うが、どうだろう?」


オレのコンセプトはとにかく大勢の兵がを入れる都市、というものだ。
オレにとって、エッセル伯領はあくまでアウグスブルクまでの繋ぎに過ぎない。
本格的な城砦整備をするのなら、アウグスブルクでやればいい。
オレはそう考えていた。
だが、モルト老の見解は違うようだ。


「もっと戦後を睨んだ形にした方がいいんじゃねぇか。
 どうせここは御前の物なんだからよ。
 でっかい搭を建ててよ、周辺を監視するための都市にしたらどうだ?
 勿論、これは御前がアウグスブルクを任されるのが前提の案なわけだがよ」


モルト老の意見を聞き、ガッタメラータがその概要を問う。
それに地図を広げつつモルト老は答えた。


「まず、アウグスブルクが中心だ。
 んで、その周囲に幾つもの都市がある。
 オレが言いたいのはだ、この都市一つ一つを砦にしてアウグスブルクと連携させようってのさ」


モルト老の言葉にリッシュモンが手を打った。


「つまり、複数の都市で為る要塞を作り上げるというわけですか?」


モルト老は頷きながらミュンヘンを指し示す。


「確かにこの辺りで一番でかい都市はミュンヘンだ。
 何たってバイエルンの公都だからな。
 けどよ、交通と経済の中心っていったらどうだ?
 間違いなくアウグスブルクだろ。
 オレが言いたいのはよ、ここを完璧に抑えちまうことが重要ってことさ。
 絶対に落とされねぇ鉄壁の街にすれば商人も今以上に集まる。
 そのために周辺都市も改修して防衛網を作ろう、とつまりはこういうことだ」


モルト老の提案は、今後ブルグント王国が北に拡大していくことを睨んでのことだ。
実に理に適っている。
加えてオレはこの提案に政治的な意味合いを見出していた。
来るべきガレアッツォの死後。
王位継承の内乱が起きると仮定してみる。
その場合、ミラノはジョヴァンニ派が抑えるだろう。
理由は簡単だ。
残念なことに、ミラノ貴族の支持はガレアッツォの嫡子であるジョヴァンニにあるからだ。
そのことを見越した上で、オレは所謂シャルル派のための拠点を作らなければならない。
ミラノに匹敵する大都市。
それもジョヴァンニと対峙するための拠点。
そういった面で考えた場合、ボローニャでは駄目なのだ。
何せボローニャはミラノに近過ぎる。
おまけに位置が悪い。
未だ屈していない北部イタリア諸都市のすぐ側にあるのだ。
ボローニャが安定して地盤を築くには適さない地であることは明白である。
その点、アウグスブルクならアルプス山脈という天然の要害がミラノとの間に横たわっているし、北は属国同然の皇帝領だ。
まさに誂えたかのような都市であった。


「そうなるとアウグスブルク周辺の貴族全てからも土地を貰わねばならないですね」


オレは腕を組んで唸った。
これはなかなか難しい。
しかし、そうしなければ城の改修は出来ない。
何かいい考えがないものか。
オレがそう考え込もうとすると、ガッタメラータが事も無げに言った。


「買えばいいだろ」


と。
余りにも何でもないことのように言うガッタメラータに批判気な視線を投げ掛けると、彼は宥めるように手を振って続きを言う。

 
「自分の金で、とは言ってないさ。
 いいか。
 オレ達にはアウグスブルク攻略への足掛かりのためっていう名目があるんだ。
 王様から金を引き出すのは難しくない」

「そうでしょうか?
 王は今後内政に力を入れると公言しています。
 その方針に反するような提案は受け入れられないのでは」


リッシュモンはガッタメラータの楽観に疑問を呈した。
その懸念をガッタメラータは一蹴する。


「オレはそうは思わないね」


何故これほどまで自信満々なのか。
オレもガレアッツォから資金を貰えるか怪しいと踏んでいるのに、ガッタメラータは可能であると断言するのだ。


「国王陛下は根っからの征服者だ。
内政に専念? 無理さ。
口先ではそう言っていても心の奥底で陛下の関心は次の征服地に飛んでいる。
 そんな陛下にアウグスブルクの話題を振ってみろよ。
 間違いなく乗ってくるね。
 適当な名分を付けたところで、実際は攻略への地均しなんだ。
 陛下もその事をすぐ見抜いて利用しようとなさるさ」


そう言って獰猛に笑うガッタメラータ。
オレは彼に何故そんなことが分かるのか、と尋ねた。


「同属間のシンパシーってやつさ。
 まぁ、陛下と顔合わせしたのは一回こっきりだが……まず外れちゃいまいよ。
 そうだろ、爺さん?」


水を向けられたモルト老もまた、歯切れ悪くも同意する。


「そうだな。ガレアッツォにはそんな節があるっちゃぁ、ある。
 なんせその半生を征服活動に奉げて来た奴だからな。
 そうそう切り替えることができるものじゃないさ」


二人の大人が同じ見解に達したことで、口数少なかったリッシュモンも賛意を示した。


「アウグスブルクも我等といずれ干戈を交えることは承知しているでしょう。
 ならば、と先制攻撃をしてこないとも限りません。
 彼等を牽制する意味でもモルト老の案は適していますし、一刻も早く実行に移すべきではないでしょうか」


遂に三人の意見が一致したことでオレも決断を下した。


「分かりました。陛下に上申するしましょう」


オレはそう言って、リッシュモンの方を向く。


「それと大砲のこともそれとなく触れるとしようか」


それを聞いたリッシュモンの顔が輝くのを確認して、オレは席を立った。
人足頭に指示を出さねばならない。
窓から見えるエンファントの楽しそうな声を羨みながら、オレは部屋を後にした。













ミラノへとやって来たオレは、ガレアッツォに謁見を申し出ると共に情報収集に邁進した。
ポーランドとの交渉は佳境を過ぎ、終わりに近付いている。
耳聡い者ならば既に概略を掴んでいる時期だ。
オレはそれを知るべく探りを入れていた。
未だ身分が低くミラノでの人脈も未完成なフリッツはこういう時役に立たないことから、自分自身の力量だけが頼りとなる。
とは言っても、オレとて何も闇雲に行動したわけではない。
オレには当てにする人物がいた。


「それで同盟の条件はどのようなものとなったのだ?」


ミラノ貴族といえど一枚岩ではあり得ない。
今回起こった情勢の変化によって排斥された者もまた存在する。
フランチェスコ・バルバヴァーラ。
彼もまた先の動乱の煽りを受けた人物の一人だった。
ブルグント王国は皇帝を戴いている。
経緯や実態はどうあれ、そのたった一つの事実はミラノ社交界に大きな影響を及ぼしていた。
イタリアには皇帝派と教皇派という二つの派閥がある。
この派閥は貴族や民衆問わず、広くイタリア半島に存在しており、ミラノとて例外ではない。
そんな彼等はミラノで不遇の地位にいた。
ガレアッツォの豪腕によって等しく押さえ込まれていたのだ。
二つの派閥に優劣はなく、強大な君主によって牛耳られる現状を耐え忍ぶ、ミラノでの彼等はそんな存在であった。
ところが、動乱の結果事態は大きく動いた。
今やミラノ社交界は皇帝派の天下となったのだ。
何せ主君であるガレアッツォが皇帝を戴いているのである。
皇帝派貴族はお墨付きを貰ったかのように振る舞い、教皇派を次々と追い落としていったのだ。
フランチェスコもまた、そういった勢力争いに敗れた者。
オレはそうして凋落していった者達を積極的に取り込んでいた。
教皇派と言われているからといって、何も彼等が教皇に絶対の忠誠を誓っているわけではない。
一昔前とは状況が違う。
教皇庁の権威失墜に伴って、教皇派や皇帝派といった括りは派閥の区別といったものに過ぎなくなっているのだ。
優秀な者を囲い込むのに不都合なことは存在しなかった。


「どうやら殿下にとって不味い事態になりそうです」

「どういうことだ?」


オレが問い返すとフランチェスコは深刻な口調で答えた。


「どうも先方が同盟は婚を以って通ずべし、と言ってきたようでして……。
 ヴワディスワフ2世には子がいない。
 故にその従兄弟であるリトアニア大公ヴィータウタスの娘をヴワディスワフ2世の養女とし、その上でそちらに嫁がせよう。
 と斯様に申してきたとのことです。
 そうなりますと、恐らく婚約の相手はジョヴァンニ様ということになるかと」


オレは思わず呻き声をあげた。
最悪の展開である。
間違いない。
ブルグント王国はポーランド王国との外交に負けたのだ。
娘を嫁がせるというのは人質を寄越すということではない。
むしろ逆。
ブルグントへの支配権、ポーランドは嫁を送り込むことでそれを主張できる権利を有しようとしているのだ。
これはブルグントにとってだけでなく、オレにとっても非常に不味い事態だった。
ジョヴァンニとポーランド王女が結婚する。
それはオレの競争相手の背後にポーランド王が控えるということを意味しているのだ。


「断る、という可能性はないな」


搾り出すように言った言葉。
愚痴同然のそれにフランチェスコは律儀に返答する。


「彼我の国力差を鑑みますれば、これで決まりでしょう」


オレは歯を食い縛り、憤怒の叫びをあげるのを堪えた。
最早形振りなど構ってはおけない。
早急にブルグント国内の地盤を固める必要がある。
オレの計画はまたしても修正を、それも大幅な修正を余儀なくされた。
なだらかに思えた道は突如険しい山道となったのだ。
オレは眼前に横たわった障害を切り拓かねばならない。
しかし、その道は厳しいものとなりそうだった。


「私に付くと言い切れる者を調べておけ」


オレはフランチェスコに手短に命令を下すと、足早に部屋を立ち去った。
急がねばならない。
差し掛かる暗雲をオレは振り払うべく走り出した。






------後書き------
寒くなってきました。
寒さと共に背中もしくしくと痛み出し……。
皆様、健康には本当にご注意下さい。
さて、話がどんどん進んでいますが勢力の変遷は分かりにくくなかったでしょうか?
地図を見たりして補完頂ければ、と思います。
読者任せで申し訳ありませんが……。
それでは御意見、御感想、御批判をお待ちしています。



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