+ 一寸した事(コンバット)が終って、一路<第4聖都>を目指す俺たち。 馬車と徒歩でのんびり、という訳じゃ無い。 3桁以上の人間が大行列で、だ。 イゾッタ嬢達もだが、兵隊さん達全員を含めたジェンガさんの部隊も居るからだ。 何でも、魔獣を討ち取ったという事で報告に行くのだそうな。 第2第3の魔獣がと思わないでもないが、そこはジェンガさんに否定された。 魔獣とは群れとして生まれず、個体としてのみあるらしい。 何でも変異とか魂の変質とか色々と難しい事を言ってたが、要約すればそういう事らしい。 うむ判らん。 取りあえず特殊な場所で魔力を浴びた獣が特殊な突然進化して生み出されるので、量産される事は無い。 そう理解しておけば良いみたいだ。 適当かもしれないが、そんなモンだろう。 原因究明だのを聞いても判らない。 成り立ちのさわりを聞いても理解出来なかったんだから、これで良いよね。 俺だし。 それよりも問題、と言うか大事なのは大集団での移動になった事。 そして周りに軍が居る事。 不寝番が要らなくなったという事。 やっぱり夜は眠りたいよね。 ぐっすり眠りたいよね。 寝る子は育つ。 俺、もう少し身長が欲しいからね。「楽だな」 フェルが言う。「全くだ」 頷くしかない。 頷きながら炉からお湯の入ったポッドを取ると、黒茶の茶葉を入れてゆっくりと動かす。「申しわけない位です」 エミリオは真面目だ。 とは言え、軍が見張りという大事な役目を外にあずける訳も無いので、仕方のない話でもあるのだが。 蒸らしが終わったら金属のカップに注ぐ。 芳醇な香り。 フェルとエミリオに渡す。 男だけの、満天の星空の下での寝る前の楽しみだ。 旨い。 だが、やはり珈琲が飲みたい。 インスタントで良いから珈琲が飲みたい。 焦げた匂と豆の匂い。 アウトドアではやっぱり珈琲だよな。 本当に残念だ。「そう言えば明日だったか」「ああ。広い荒野があるらしいから試せる」 ナニをと言えばナニだ。 迷槍コングナーの全力射撃だ。 魔法とか魔力とかに詳しいエメアさんに見てもらいながら魔力をぶっこんでみようと言うのだ。「ど、どうなるんでしょ!?」「どうなるんだろうね」 いや、本当に。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント3-06修羅場(※ Level.1 射爆場(暫定)に到着した時、丁度昼頃だった。 隊列を解いて昼飯の支度をする。 今回はそこら辺をクローエさんに丸投げしての実権だ。「何時でも私にお任せになって宜しいのですよ?」「有難うございます」 甘えすぎると自分が怠惰になりそうなんで、ね。 <第4聖都>から向こうは、又、3人旅になる筈なんで、そこら辺に備えると俺の料理力を落とす訳にはいかんのですよ。「支度はよいぞ」 エメアさんが声を掛けて来る。 見渡す限りの野原、荒野で酷い事に成っても他人様に迷惑を掛けそうにないのがありがたい。 と、エミリオが適当な棒に布を巻きつけたのを立ててる。 標的か。 気が利くな。「弓の練習とかだと必須ですから」「有難うよ」 コングナーを呼び出す。 改めて見る。 ルッェル公国の国宝、先の大帝國時代の遺産っぽい槍。 しかも、知性っぽいものを持っている。 穂は幅広型の直槍、刃先から柄までも白く輝き、装飾と呼べるのは穂の付け根から口金の辺りまでに施された金色の唐草模様と、口金の辺りに輝く赤い宝石だ。 ルビーとか、単純な宝石とかではなさそうだ。 水気を感じる輝きを持っている辺り、実に厄介な予感のする。 だが、逆に言えば、その来歴からすれば驚く位に御大層な感じが無い。 装飾は実用性を邪魔しない範囲で行われている、上品な槍だ。 尤も、俺としては使い辛い魔槍の類だ。 特に、バカスカと魔力を吸いに来る辺りが。 深呼吸。 エメアさんに頷く。 彼女が万が一の頼りだ。 魔力の流れを見て、ヤバいと思ったら俺から槍を叩き落としてもらう。 始めよう。「喰え、コングナー!」 柄を握り直し、魔力を流す。――対巨神戦闘機能(システム・コングナー)、始動(ブート) 喰われる。――第1機能(ブレード)、起動(アクション) 光の槍が穂先に伸びる。 喰われた。――第2機能(リンフォースマント)、起動(アクション) 体中に力が漲る。 喰われて行く。――第3機能(シールド)、起動(アクション) 左右に光る盾の様なモノが浮いている。「おぉっ!?」 誰かが声を上げたのが判った。 だが、外野に気を回す余裕が無い。――第4機能(イナールシャ)、起動(アクション) 身体が軽くなった感じがする。 魔力が吸われ続けているので、力が抜けていくが、何かが違って感じる。 意識して身体を視ていると分る。 四肢五臓六腑から魔力が流れて行っているのが。――第5機能(ザッパー)、起動(アクション) 際限なく吸われた魔力が、槍を輝かせる。 パチパチと音と紫電を放電している。 ヤヴァイ。 最初の時と違って余力があるんでまだ大丈夫だが、これは何分と持たんね。 と言うか、まだ吸われている。 底なし野郎め。 エメアさんを見る。 頷かれた。「Ooooooo、全力全開(フル・ファイヤー)!!」 光(ピカ)った。 荒野は荒地になった。 具体的にクレーターになった。 直径で20m位はありそうな大穴が出来た。 なんてこった(おぉじーざす)。 公都ルッェルンでブッパした時はまだ吸い足りて無かったのね、君。 今でもっぽいが、これ以上吸われると立ってられない。 貪欲な槍め。 貴様の名前はコングナーではなくグラトニー(暴食野郎)にしてやろうか。 取りあえず、座る。 座り込んでしまうが残当だ。 槍も手放そう。 寝っ転がりたい。 行儀が悪すぎるのでしないけど。「そのままにな」 エメアさんが俺の背中に触れた。 小さな手を背中に感じる。「?」「動かぬよう」「よろしくお願いします」 呆っとしていると、エミリオとかも爆心地を見に行っているのが見えた。 ビックリするよな。 被害半径20mじゃなくて、20m級のクレーターだもの。 併せて破片が向こう側へと行ってなければ、ここら辺も被害半径内だわな、きっと。 生身で25番(250kg爆弾)級以上の破壊力とかナイワー 呆れる。「とんでもない槍だな」 と、フェルが来た。「使いこなせないなら意味が無いよ」 手をひらひらと振る。 最初の切れ味強化とか身体能力強化とかだけを使えるならまだしも、気が付けば大砲(ザッパー)ブッパに一直線で、使えばヘトヘト。 しかも大砲は大砲で、威力が下手な爆弾どころか艦砲射撃級だ。 対巨神族用ってのは伊達じゃない。 牛刀で鶏を捌こうってなモンだ、使う気にもなれない。「<黒>と真っ向からの戦争でも無ければ使えないか」 言われて思い出すのはルッェル公国での戦争。 あれも戦争だし、全面戦争(※公国視点)だけどね。「使えないよ」 市街地で下手に使った日には、味方どころか自分まで被害半径に巻き込まれかねない。 そこら辺を説明したら呻られた。 大威力は大正義では無いんだよね。「正直、ショートソードで突っ込んだ方が後先が楽だし」「双剣使い(ソードダンサー)としてはそういうものか」「そういうもの」 物理万歳。 物理力を上げて殴るのが大正解。 と、思ってました。「そう悲観するものでなしである」 エメアさんが前に回って来た。 診察の結果や如何に。「その心は?」「消費する魔力の調整」「あはん(どういう意味で)?」 説明を聞いた。 長文と言い回しを直截的にすると、俺が、槍では無く俺が魔力を垂れ流しにしていたのが悪いのだそうだ。 槍は貰える分だけ貰って、その分を力に変えているだけ。 吸わせた後に閉じないから酷い事になっているんだそうな。「そうなんですか?」 信じられない。 あのルッェルンでの最初の起動時に、酷い目にあったのが脳裏を離れない。 だが、そうではないと言う。「然り。汝は竈くべる薪を、森を焼くが如く集めている」 吸われているのではなく、垂れ流しているのだとな。 と言うか、魔道具の類が消費する魔力は魔道具が作られた時点で決まっていて、それ以上は吸わないシステムになって来た筈。 前にチョッとした魔道具を買う時に、幾らぐらいの魔力が要りますよとか言われた筈。 意味が判らん。 やっぱり駄槍じゃないか、コレ。 捨てるべきか、封じるべきか。 悩ましい。「そう言えば古い魔術兵備の中には、与える魔力を自分で制御しろってモンがあったなぁ」 とフェルが言った。 ハァ? と聞けば、何でも柴護師という立場になった時に、伝統的な武器を与えられたのだが、それが使用魔力を担い手が調整するものだったと言う。 神剣のあだ名を持つ大剣(グレートソード)ティルト・ソーナ。 神話の時代、第3神話期に作られた古くさい作りの剣なので消費魔力は手動制御(マニュアル) ―― 消費魔力を魔道具側が選んでくれないのだという。 それか。 尚、面倒くさいので持ってきてないとの事。 お前もかよ。 友よ。「然り。この槍、見た所6つの能力を持つ。それを選ぶは担い手なる」 6(●)と言いましたかコンチクショウ。 まだ使えてない能力が更にもう1個あるとかナイワー 俺の魔力を根こそぎもっていっててそれはナイワー いやいや。「どうすればいいの?」 魔力を調整するって、どうするの? この世界、数値化された魔力(MP)って概念は無いよ。 どうすりゃいいの、本当に。 取りあえず経験者のフェルと、魔力に詳しいエメアさんが協力してくれる事になった。 そのまま封印しちゃっても良いのよ ―― と思うが、フェルからすれば、それを封印するなんて勿体ない!! という事だ。 嗚呼、面倒くさい。 後、ジェンガさん所の兵隊さん達にドン引きされた。 判る。 判るし、仕方が無い。 俺も引く自信がある。 俺の面倒事はその程度だった。 問題はこの暴食槍を発端にエミリオの知識欲が過熱して、エメアさんに話かけ、それにイゾッタ嬢が絡んで神話から何からの話をし出した事だ。 3人、実に盛り上がっている。 主にエミリオが、だが。「………」 おーいぇー ミリエレナが黙々と食事をしている。 ジェンガさんと兵隊さん達向こうに居る。 フェルはクローエさん達と会話している。 アッチはしあわせそーだなー 弄られてたのしそーだなー 神様仏様(アーメン・ハレルヤ・ピーナッツバター)! 俺は何か悪い事をしましたか。「ビクターさん」「はい」 名前を呼ばれました。 気分は正座です。 何故か。 何故でしょうか。 何故だか判りません。「<第4聖都>までは後、どれくらいですか」 怖い位に声がフラットだ。 というか視線がコッチに向いていないのが良いのか悪いのか判らない。「あと3日程を予定しています」「その後の行程は?」 何だか実に事務的な会話になった。 味わい深いなぁ、おい。 エミリオが悪い訳じゃ無い。 かといってミリエレナが悪い訳でも無い。 只、ボタンと言うか何かが掛け違っただけ。 或はエミリオがまだまだ子供なだけかもしれない。 純粋培養系っぽい素直さがあるから。 噂のオルディアレス家の人間とはとても思えない。 兎角、面倒くさい。 取りあえず、後で2人に会話させよう。 とっかかりは俺が作るから、後は2人で何とかしてほしい。 昼餉のシチューの味が感じられないのは、この1回っきりにして欲しいモンだわ。 その後、行程は普通に問題は無かった。 昼過ぎまで移動して、野営の準備。 後、ジェンガさん達は汗を流しての訓練。 折角なので俺たちも混じる事にした。 先ずは素振りや軽く体を動かすなどの一寸した基礎訓練。 ここら辺、軍隊だよなぁと思う。 ゲルハルド記念大学での授業でも習った。 非戦時の軍隊が、移動時に於ける練度の低下を抑える為に野営時にはかなりの頻度で訓練を行う事を。 訓練訓練、常に訓練。 そうしなければ体は直ぐに鈍ってしまうから。 そして後は1対1での模擬戦闘訓練か。「昼の槍は出さないでくださいよ」 木剣を借りる時、古参兵っぽい人に笑われた。 笑い返す。「あれは使いたくないんですよ。すきっ腹に堪えますから」「そういつはいいや」 馬鹿な笑い話は最高だ。 さてさて、ついでにエミリオとミリエレナが馬鹿話をする様になってくれれば最高だ。 居るかなと見れば。 居た。 但し、別々の場所に。 と言うか、昼と逆だ。 ミリエレナが、誰だろう兵隊さん達と盛り上がっているのを、少し離れたエミリオが見てるって図だ。 おやま。 近づいてみる。 ミリエレナと一緒に居る連中、その話題が神殿毎の戦闘スタイルの違いとか武装の流行とかが主な辺りから察するにブレルニルダの信徒さんか。 と言うか女性の兵隊さん達だ。 年齢は様々だけど、他の兵隊さん達とは目つきが違う。 あれは<聖女(アイドル)>を見上げる目だ。 最初の頃のエミリオの目だ。 いや、あれよりもう少し邪気っぽいのがある感じかな。 何だろう、凸が無いからアレではないだろうけど、何か違う。 エミリオはもっと、何だ、無邪気だったし。「大丈夫か」「えっ………あ、ビクターさん?」「どうした?」 大体は判ってるけど聞く。 聞くって大事だよね。「いや、そのミリエレナさんって………」 口ごもるのが可愛いモンだ。 こういう時に気持ちを形にさせるのって大事だよね。 という訳でゆっくりと待つ。 待つ。 待つ。 待った。 言葉に出来ないなら誘い水を出そう。「気になるんだろ、誘って来い」「さ、誘うって__ 」「連携戦闘の練習なり何なり、理由はあるだろ? 先ずは行動あるのみ。言ってこい」 素直に突貫していくエミリオ。 素直は良い事さ。 取りあえず意識しているって事を自覚させて、後、意識されているって事を認識させてと。 これじゃ俺、世話焼き爺さんだな。「こ、断られました」 が、がんばれわこうど。 夜まで微妙な空気でした。 と言うかミリエレナ、食事まで兵隊さん達の所に行くわ、エミリオの話し掛けにはツンと応えてない辺り、何だろう。 悪意とかそんなのは感じないけど、何だろう、不思議だ。 見てわかるレベルで凹んでいるんで何かと世話を焼く。 男同士の連帯だ。 フェルはイゾッタ嬢に取られたんで、とりあえず夜に暖を取りながら秘蔵の果実蒸留酒を垂らした黒茶片手にエミリオと駄弁ってたら、ミリエレナが馬車の中からそっとコッチを伺っている。 うむ、意味が判らん。 女の子って判らない。 相談したい。 切実に相談相手が欲しい。 年齢的にはエメアさんは婆様より上だろうけど、能力は期待できない。 イゾッタ嬢は、年齢は上っぽいけど何か小悪魔っ子っぽい雰囲気を感じるんで止めてた方が吉。 レナータさんはネコ科っぽいので止めておいた方が安全っぽい。 常識人なのはクローエさんだけど、ありぁ乙女(オボコ)っぽいので迷走しそう。 誰か、常識的な女の子気持ちを教えてくれる妙齢の女性をプリーズ! ルッェルの婆様みたいな人でも良いぞ!! と言うか婆様が良い。「ビクターさん?」「うん、明日はまた頑張ろうや」 兎角、ミリエレナはエミリオを嫌っているって訳じゃ無いだろう。 仄かな気持ちが転化してとかは見えない。 であれば、うむ、判らん。 取りあえず明日も頑張ろう。 人を愛するという事は大変な事だ。 いやホント。 マーリンさん、僕は勉強しているよ。