+ エメアさんが参加しての旅路は中々に刺激的(エキサイティング)だった。 素敵だった。 愉快だった。 うーそーでーすー 誰だ、そんな事を言った奴。 出てこい(ハイっ! ラブコメって見てて良いと奴。 出てこい(ハイっ!! 最悪じゃないか。 微妙過ぎる空気って最悪じゃないか。 ラブコメが楽しいのは画面の向こう側だけだ。 と言うか、そもそもラブ要素が微妙と言うか微香料微糖なんだよ。 エメアさんとエミリオにラブ臭はゼロだし、そもそもエミリオとミリエレナでもゼロか、コンマで9個位並んだ0の下に数値が出るとかそんなレベルだし(多分 思春期の少年少女にラブコメ求める方が間違ってる。 間違っていたんだ!! あー 面倒くさい。 とは言え、快刀乱麻を断つ様な解決策は無い。 在る筈もない。 人間関係だもの。 特に、思春期の少年少女だもの。 なので発散しよう、そうしましょう。 健全な心は健全な体に宿ってくれると大変に有難いという精神をもって、身体を動かしましょう。 別に、フラストレーション発散の為にボッコボコにしたいという訳じゃありません。 ありませんったら、ありません。 全力で体を動かして発散するのです。 エメアさんの使い魔アンクーが航空優勢をガッチリ握った上で周囲を警戒しているので、今はそういう贅沢が出来るのです。 凄いぞアンクー! ミリエレナと一緒に熟睡しているっぽいしろがねとは大違いだ!! 木剣での打ち合い。 実践的にやる。 踏み込み。 打つ。 左の木剣、その切っ先はエミリオに届かず。 掲げられた木盾を叩く。 連続攻撃。 右へと身体を回(スイッチ)しながらの打ち込み。 身を詰めて来る。 振り切れない。 浅い。 なのでそのまま右の拳骨で盾を殴る。 寸打(ショートパンチ)。 小さな予備動作で打ち下しの一撃が盾で見えなかったエミリオ、蹈鞴を踏む。 蹴る。 踏み込んでの膝蹴りは盾へ。 押す、押し飛ばす。 体格差とそもそもの力の差あればこその荒業だ。 とは言え、倒れずに踏みとどまれるエミリオ。 重ねて来た修練に、実戦経験が加わった事で、なかり、良くなっている。「いいな、エミリオ」 思わず褒めた。 と、盾に隠れてたエミリオが顔を出す。 笑ってる。 嬉しそうだ。「そうですか!」「ああ。嘘じゃない」 俺の踏み込みにかなり対応できる様になってきている。 完全にいなせている訳じゃ無いが、致命打に成らぬように対応出来る様になってきている。 うん。 成長した。 しているのが判るのだろう。 エミリオ、凄く嬉しそうな笑顔になっている。 ん、構えを解く。 良い笑顔過ぎて、何というか、打ち合う気になれなくなった。 今朝はこれくらいで良いだろう。「朝飯にするか」 剣戟の音にミリエレナ達も起きているだろう。 腹ペコのしろがねが馬車影から覗いてきてる。 猫だ。 猫の仕草だ。 野生は何処に行った。 水を飲む。 少しだけ火照っていた身体に、ひえた水が旨い。 スッキリした。 汗をかくと気持ち良い。 腹も減る。 運動は良いな。 悩みを忘れさせてくれるよ。 後は、黒茶の一杯だ。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント3-03美少女と美人が増えました! やったね!! メンタル面でのアレやコレやはあれども、旅自体は快適順調だった。 昼夜を問わぬアンクーの周辺警戒のお蔭で夜中の歩哨役が不要になって快眠出来た。 地味に有難い。 後、空を飛ぶアンクーが水場なども見つけてくれたり、旅路のコース選択でも馬車の動きやすい道を教えてくれたり。 アンクーは人語を話す訳ではないが、使い魔と言う事でエメアさんとは意思疎通が出来るのだ。 これ、人工衛星を伴いながら旅している様なものだ。 凄いわ。 至れり尽くせり。 これで旅が順調でなかったら、逆に信じられない。 お蔭で、古の大帝圀イェルドゥの廃都、エンフェルドを出て砂ノ中原を走る事僅か2週間で交易路まで出れたのだ。 凄い。 多くの隊商が行き交っている交易路は、<白>の東方領域に於ける動脈だ。 トールデェ王国にとって、金と物資を持ってきてくれる生命線とも言える。 その為、道の整備はもとより宿場町っぽいものも良く整備されている。 物流の表街道だ。「帰って来た気がしますね」 エミリオが行き交う隊商に目を輝かせている。 うん、気持ちは判るが、まだ俺たちは行く途中だからね。 とは言え、砂ノ中原から交易路に接続する地域は<第4聖都>であるノルヴィリスまでは指呼の間といった所なので、1段落という部分はある。「ん?」 と見れば、多くの人がコッチを見ていた。 何ぞ? 俺? 違うな、やや視線が上だ。 風切音 見上げれば白くも見える黒い影。 ああ、アンクーか。 ふわりと降りて来る。 しゅたっと、重力を感じさせない着陸を果たす。 実際、重力は余り関係ないのかもしれない。 竜族は翼で風に乗って飛ぶのではなく、魔力を噴射しながら飛んでいるとの事だ。 物理法則に喧嘩を売れるトンでも生物なのだという。 本物(リアル・チート)な訳だ。「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 誰かが声を上げた。 それを切っ掛けに悲鳴と怒号が連鎖した。 そら、見た人はビックリするよね。 ビックリするのは仕方が無いよね。 交易路が大混乱だよ!! 泣く子供。 逃げ出す大人。 慌てて走り出す馬車とか暴れる馬とか。 凄く大混乱だよっ!!!「ピァッ」 小首を傾げて小さく叫ぶアンクー。 文章化すると可愛い感じられるけど、サイズがサイズなので耳で聞くと可愛くないよ!! 緊急事態対応と言う事で、アンクーには空へと上がって貰った。 地上からチョッとばかし見え辛い高度にまで上がって貰う。 後は、混乱した交易路の慰撫だな。 原因が俺ら(アンクー)なので見て見ぬフリはしかねるってね。 あ、しろがね君、君はおっきな犬のフリ、宜しく。「わ”ん”」 宜しい。 努力は認める__ 怪我人の救護や騒動している人の沈静化(物理)をやっていく。 いいぞしろがね、睨んでやれ。 怯えろ(慌てるな)! 竦め(ウロチョロするな)!! 戦獣なんて見た事ないよね。 大きい犬だよ。 人なんて、噛まれたらイチコロだよ。「ヴァヴッ!」 グッドだ。 しろがねの吠え声に、緊張した様に動きが止まった。 良いぞ良いぞぉっと、馬車が脱輪してやがる。 見れば雑多な荷物満載な馬車だ。 囲に野次馬っぽいのしか居ない辺り個人商人(トラベラー)の類かしらん。 馬の尻を叩いている主さんっぽい人。 馬も悲鳴を上げて引っ張ろうとはしているが、動く気配が無い。 しろがねに、ミリエレナの所へ行くように指示して人ごみに入る。 割れる人並み。 歩きやすい。 声を掛ける。 壮年を少し過ぎた、小太りのオジサンだ。「大丈夫か」「大丈夫に見えるかぁ!?」「見えないな」 石敷きされた交易路の路の端には歪みがあり、浸食して溝が出来ていた。 そこに細い車輪溝にはまり込んでいる。 僅かには動くがそれだけ。 これは、このままだと無理っぽい。「荷を下ろして動かすしかないんじゃないか?」「餓鬼が、こんな所で荷を下ろしたら盗まれるわっ!!」「あー」 治安、良い訳無いよね。 回りを見れば、眼を合わせない挙動不審っぽい人も居る。「大体、お前だって信用できるか。何者だよ!?」 こういう時、<聖女>力(パワー)で回りを1発で信用させてくれるミリエレナが居れば良いのだが、向こうでエミリオを連れて怪我人を救護している。 呼ぶ訳にはいかない。「安心してくれ、トールデェ王国の従騎士だ」 従騎士票(ドック・タグ)を襟元から引っ張り出して見せる。 実は名誉号として貰ったルッェル公国正騎士票も革ひもには通しているのだけど、国の力と言うか知名度の差があるんで、口にしない。 こればっかりはね。 マジマジと真銀(ミスリル)の従騎士票を見た親父さん、大きく息を吐いた。「おっ! がっ、いや、若いのに大したもんだな」 餓鬼って言おうとしたよね。 別に、その通りだけど。 トールデェ王国に限らず、10代前半でで従騎士位を取るのは割と大変なのだから俄に信じがたいかもしれないけども。「そういう訳で、助けるよ」「だがどうやってだ。馬でも持ってるのか?」 馬ね。 馬はいないね。 前には凄い(アブナイ)馬に乗ってたけど、今は居ない。 手放せれた。 アレ(ロット)は俺の人生には要らない。「いや、持ってみようかと思って」「え!?」 いや、前は火事場の馬鹿力(ファイト・イッパツ)で家を持てたしね。 馬車はしっかりとした作りをしている。 重量物も運ぶ独立商人(トラベラー)のものであればこそ、なのかもしれない。 とは言え、重そうだ。 手を握って開いて、準備運動。 頑丈そうな場所を掴む。 と、影が差した。「手伝おうか?」 見上げれば、偉丈夫だった。 白い道着みたいなモノを身にまとった、がっしりとした体格の大男だ。 ただ顔はまだ若々しい。 同世代か、少し上か。 180からはありそうな身長が羨ましい。「誰?」「トラブル好きの愚か者よ」「ゑ?」 しっとりとした響きを持った子供の声。 エライ可愛い声を出すんだなっと思ったら、偉丈夫の影から小柄な子供が顔を出した。「?」「保護者よ」 紫色の外套をまとった、超然とした雰囲気のある女の子だ。 フードから零れた銀糸みたいな髪、美人になれる気配をさせている。 ただ、只今のお顔は見事なドヤ顔。 薄い胸を逸らせてドヤァな態度を見せ居ている。「フンッ」 そんな女の子を見下ろしている偉丈夫。 その目は慈愛とか全くなくて、どっちかと言うと悪ガキっぽい感じだ。「俺がな」 発言もホントに子供二人組な塩梅だ。 一体、何事?「私の名前はイゾッタ・アガッツァーリよ!」「俺はフェルモ・カファロ、フェルで良い」 名前は判った。 だがそもそもとして、君たち何者? 疑問。 誰何は兎も角、先ずは路肩の馬車を何とかしようという事になった。 偉丈夫、フェルさんと合力して持ち上げる。 というか持ちあがった。 割と簡単な風に。「おぉぉっ!?」 周囲からも歓声が上がった。 判る。 その気持ち、良く分る。 凄いなこの人。 単純な膂力だと俺の倍ぐらいあるんじゃないのか? 雑多な事を考えながら、ゆっくりと馬車を地面に下す。 馬が嘶いた。 過大な荷重が減ったのを感じたのかもしれない。 馬って、本来(● ●)は繊細な生き物だから。 多分。 だったような気がする。 アレ(ロット)を思うと、とても信じられないけど。「有難とよ!!」 独立商人さん、素晴らしく手早く去って行った。 うん、お礼でもふんだくられるとでも思ったかな。「しかし、スゲェなお前」 フェルさんが力こぶを作ってみせながら言う。 嫌味かよ。 お前の方がスゲェよ。「貴方に勝てませんけどね」 肩を竦める。 いやホントに。「分別臭いわね」 お子ちゃまなイゾッタ嬢に言われた。 自分はエラソーな口調なのに、良くも言うモンだ。「それはどうも」 他人に初っ端から礼節ガン無視(タメ語)なんて出来るか、普通。「まぁ良いわ。こういう時に無償の行為が出来るのは立派だから、褒めてあげるわ」 うわーい。 超上から目線頂きました。 薄い胸を反ってるから、ホントに上から目線な体勢だ。 嫌味な風が無いから別段に嫌な感じはしないけど。 その後、フェルさんの協力を貰いながら事態収拾を行った。 他の有志が加わった。 道路整理に始まってこざこざとした何やらかにやら。 フェルさんとの一番の仕事は無論、力仕事だ。 具体的にはもう2台ほど馬車が脱輪からの脱出だ。 竜族のインパクトは絶大である。 この後、アンクーどうしよう。 とも角、アンクー騒動の後始末をした。 小一時間程で全てが終わった。 けが人も重傷者は居ない、全員が軽い治癒魔法で完治したと言うから一安心だ。「あれが貴方の仲間かしら?」 三々五々と解散する有志一同(ボランティア)。 が、何故かフェルさんとイゾッタ嬢、それに従者さんっぽい女性が2人が一緒に来た。 解せぬ。「興味が沸いたの。貴方って使える(● ● ●)人間だから。後はカンよ」 うわーい、ごーまーん。 何だろうか。 まぁ良い。 コッチの旅の行程を邪魔しないんならね。 と言うか、カンってなんじゃらほい。 良いのかよとフェルさんを見れば、笑ってる。「イゾッタのカンが悪い事に繋がる事は無いからな」 おおらかと言うか雑と言うか。 取りあえず、連れて馬車の所へと戻る。 ドンが呑気に草を食べ、しろがねは寝転がっている。 平和だな。「ビクターさん、その人達って?」 医療用の道具を片付けてたエミリオが声を掛けて来る。 ミリエレナは馬車の中か。「まぁ待て、疲れたろ? 黒茶でも飲みながらやろうや」「え、あ、はい」 手早く簡易移動式の竈を組み立てて火を起す。 湯を沸かして黒茶を用意する。 そう言えばエメアさんが居ない。 少し離れた場所で何かやってるって事だ。 うむ、エルフだから。 ハイ・エルフだからな。 謎の信頼をしてしまうなぁ。 とも角。 黒茶の淹れて、カップを皆に回す。 予備を含めて10個、この旅に持ち込んでいるので、この程度の人数なぞ余裕だ。 デザインが実用本位なのは赦せってなモンだが。「この人達は、さっきの騒動で手伝ってもらった人達でフェルさんにイゾッタさん、後、従者の人達だ」 仲人は俺、というか何で俺がせにゃならんのかと小一時間。 するけどね。「で、俺はエミリオとミリエレナ、後、この場に居ないけどエメアさんの4人で旅をしている」 俺の紹介の後の自己紹介。 先にフェルさん達が言い、此方も言う。「俺はフェルモ・カファロ、フェルで良い。ホータムから来た」 ホータムと言えば、<第4聖地>の南の山脈の所にある都市国家だったっけ? <第4聖地>の7つの支都、その1つだった筈。 多分。「私はイゾッタ・アガッツァーリ」「私どもはイゾッタ様の従者となります。私がクローエ、この者がレナータ」 お二人とも素直に美人系。 良いな、フェルさんが少し羨ましいぞ。 いやミリエレナもエメアさんも美少女系ですよ? だけどほら距離感が難しいから。 ホントのホントに。「バルブロクト神の神官をしていますエミリオ・オルディアレスです」 ここら辺は普通、普通。 トールデェ王国で一等ヤバげなご一家、オルディアレス伯爵家の子供ってのは要らない情報だよね。 後、エミリオもルッェル公国騎士位を貰ってるけど、アレ、名誉号だしなぁ。「ミリエレナ・ハルメルブよ。私はブレルニルダの使徒よ」 ブレルニルダの神官に関して、武装って冠が付く事は無い。 何故なら、ブレルニルダは勇気を司り<黒>に物理的に立ち向かう神様なので、武装しない筈が無いという事が理由らしい。 実に素敵(ブラッディ)!!「ミリエレナ、と言うのね。もしかして東端、トールデェ王国から来たのかしら?」「貴方が………」 フェルと目と目で合図して頷いたイゾッタ嬢が、恭しい仕草で頭を下げた。「改めて自己紹介を致します。私はイゾッタ・アガッツァーリ、ホータムの地にて従神にして英雄神たるフェルマーンの使徒、<七媛(レインボー・セブン)>が紫の座を預かる者。ノルヴィリスの地にて苦難を乗り越える手助けをする様にと命じられました」「あの<紫姫>のイゾッタ!?」 お、エミリオがぶったまげてる。 流石、<百貨辞書>のエミリオ、多分に有名人なのだろう。 後で聞こう。 だがそれは後で良い。 それより苦難って何だよ。