+ 取りあえず、ヴァーリア姫さんの相談役(スタッフ)になった。 役職レベルが上がった。 責任が増えた。 業務範囲が増えた。 そして手当は人を護る達成感(プライス・レス)……素敵!(ヤケクソ異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント2-17責任とか色々? 泣き言を言ってても始まらないので、責任を全部放り投げれる王都到着まで出来る限り最速で向かう事とする。 真面目な話、野営が続くと体力の無い女子供に老人の健康状態の悪化が怖いのだ。 数日程度なら粗食にも、野宿にも耐えられるだろうけど、それが続くとなると洒落にならない。 幾ら、基本が馬車移動とはいえ、健康を崩して体力が低下すればどうしても移動速度は低下してしまう。 移動速度が低下すれば、<黒>に捕捉される可能性が激しく高まる事になる。「という訳で、出来る限り早期に本隊と合流、王都を目指すべきだと思うのですが、宜しいですか?」 ヴァーリア姫さんに上申する形で述べるのは、彼女が立場的には最上位者だからだ。 血脈的にはヘレーネ夫人さんも同じ位置に居たけど、彼女はブラウヒア家の降嫁していて、尚且つ幼い上に指揮官では無かった ―― 当主代行で、戦闘部隊の臨時指揮官というか旗印だったからこそ、俺に戦闘部隊の全権をブン投げても問題化しない、不満を言う奴が出なかったのだ。 だが、ヴァーリア姫さんは違う。 公家第1王女の身分にあり、正規軍であるヴァーリア鉄槌戦士団の正規の指揮官なのだから。 にも関わらず、同じように指揮権を俺にブン投げると、不満を言う奴が出る。 絶対に出る。 好き好んで、見ず知らずの異邦人の下に付きたがる奴など少数派なのだ。 多分。 今は素直なヘイル坊やだって、最初は凄い勢いで突っかかって来たモンだ。。 だからこそ、指揮官の地位をヴァーリア姫さんに押し付けるのだ。 で、実際の指揮官としての俺の命令は、俺からの上申を受け入れて、ヴァーリア姫さんが発するという形で実行するのだ。 面倒くさいと言うなかれ。 茶番だって言うなかれ。 軍隊なんて無茶なシロモノを適正に動かそうとしたら、そうやって上位者の顔と権威を立てて、ピラミッド型の階級を維持してないと出来ないのだから。 後、面倒くさくて茶番の必要な人以外に対しても、実は意味があるのだ。 俺が指揮した場合、実際の指揮官である俺と身分的な最上位者であるヴァーリア姫さんとで、ある種、二重の指揮系統が出来てしまうのだ。 幾らヴァーリア姫さんが、俺に全権を委任すると言っても、どうしてもヴァーリア姫さんの顔を窺う奴がでてくるだろう。 となると最悪である。 下の側から見れば指揮官が2人居る様なものになってしまうからだ。 両方の命令を確認したり、顔色を窺う事になる。 こうなるともう駄目。 組織としての動きの効率が覿面、低下してしまう ―― 船頭多くして船山に上るとなるのだ。 面倒くさい。 本当に面倒くさい。「うむ。護民こそ我らルッェル公国軍の本懐だ。では、その様にしよう。良いな?」「はっ!」「では、即座に移動準備を行え」「御意!」 ヴァーリア姫さんの威にヴァーリア鉄槌戦士団の各位指揮官が、姿勢を正して唱和し、駆け出していった。 アレな現状だけど1つだけ良い事があった。 その辺りの面倒事をヴァーリア姫さんがキチンと理解しているという事だろう。 中々のものだ。 こうなると、逆に判らなくなる。 こんな人なのに、何であんな底の浅い奴(ロータル)に好き勝手されたのか、と。 政治、公王からの人間なので無下にできなかったという事か。 本社か銀行(メイン・バンク)からの出向者を、支社が簡単に切る訳にいかないのと一緒なんだろう。 多分。 本隊への合流は比較的に簡単だった。 比較的、そう、比較的。 念のために欺瞞と、被発見率を低下させる為の隊を小集団に分ける事で、離合集散に面倒は抱えたけど、発見されて追尾追撃される訳にも行かないので頑張った。 つか、情報と連絡連携の大切さが骨身に沁みた。 ネットワーク戦、RMAとか贅沢言わないから、せめて精度の高い地図や無線機が欲しいです。 かなり。 行方不明だった隊が合流するまでの焦燥感なんて、実に凄かったから。 戦場の霧ってのは、本当に厄介だ。 そんなアレコレを潜って、パル山脈の山道を一昼夜かけて走破する。 当初は、馬車に対して馬なので簡単に追いつけると思っていたが、なかなかどうして。 原因は離合集散の難(タイム・ロス)、それに怪我人だ。 低下している体力の問題からそもそも速度は出せず、その上で怪我人達に付いていたミリエレナからの休止要請(ドクター・ストップ)で休養を頻回に行いつつの移動になったのだ。 とはいえ、それらの条件を勘案したなら悪く無い時間でパル山脈を越え、北方交易街道のある西パル平原へと到達出来たと言えるかもしれない。 兎角、疲れたというのが感想であるが。 指揮官のヴァーリア姫さんから、多分に一番体力の無いであろうヘレーネ夫人さんや怪我人まで、軒並み、疲れた顔をしている。 そんな俺たちの目の前に広がる西パル平原は、キロ単位で遠くまで見通せる様な起伏の少ない ―― 要するに、隠れる所が無い大平原なのだ。 逆に、敵を早期に発見できるとも言える。 そんな風に見て、この西パル平原には戦の臭い(● ● ● ●)がしていないのが判る。「どうやら、此方まで来てはいない様ですね」 安堵した様に、ヘレーネ夫人さんが呟いた。 同意する。 平原には、どこかのんびりとした雰囲気がある。 神経が癒される気分だ。 とはいえ、のんびりする訳にはいかないが。「確かに。だが安堵は禁物だ、ヘレーネ。戦場での心の緩みは……そうだな、悲しみにしか繋がらない」 気を引き締める様に言うヴァーリア姫さん。 チラっと見たら、凄く渋そうな顔をしている。 もしかしたら先の戦闘 ―― 包囲されたのは、もしかしたら安堵っていうか、油断からだったのかしらん。 あの1戦で20人近い死傷者がヴァーリア鉄槌戦士団から出てたって話なので、色々と思う所があるのだろう。 多分。「失われた命は、簡単には取り返せない」「姉様……」 しんみりとした雰囲気になった。 美少女×2が戦装束で寄り添い、しんみりとしているのは実に絵になる。 絵になるが、とはいえ指揮官が湿っぽくては部隊の雰囲気が右肩下がりになってしまうという事だ。「……」 周りの直衛組みにも、そのしんみりさが伝搬し、誰もが口を噤んでしまった。 これはいけない。 いけません。 フォローをしておこう。「誰しも過ちは犯すものです。考えすぎは毒です。それよりも今を、先を考えましょう。護りましょう。生き残りましょう」「そうか、そうだな」 少し笑顔を浮かべたヴァーリア姫さん。 いやホント、指揮官はカラ元気も仕事の内ってね。 ヘレーネ夫人さんの方は、元気が出てる風も無いけど、コッチはアレだ。兵に民に家に旦那にと、失ってしまったものが大きすぎるんだろうな。 何とかしてやりたいモンだ。 俺に出来る事なんて、トンと無いだろうけど。「取りあえずはこの先の、ツヴァイク町に行きましょう。そこには南方混成群の本隊、避難民たちが居ます」 確定なのは、伝令が居たから。 パル山脈越えの最中に合流したのだ。 アデンさんの指示で哨戒を兼ねて来ていたとの事。 流石は歴戦の村長、お蔭で安心して追走出来るってなもので。「そうか、なら先を急ごう。合流して民を安堵させよう」 ヴァーリア姫さん、少しだけ笑って頷いた。 目的があれば、人には力が漲るってのは本当だよね。 そう言えば、ツヴァイクの町の住人は空っぽ、既に公都ルッェルンに移動済みだったらしい。 だが、持ち運べなかった食料などが残されていたので、温かい食事に期待が持てる。 なので意図的に声を大きくして言葉を発する。「ヴァーリア殿下、ツヴァイクの町では温かい食事が準備されているという事です」「であれば益々、先に進むべきだな!」 朗らかに言う。 俺が声を大きくした理由を察知したみたいだ。 そうだ。 兵たちに希望を聞かせるのだ。 希望があれば元気が出るモンだ。「はい」「では兵士勇士諸君、ツヴァイクへ向かうぞ!!」「おぉっ!!」 おぉ、元気が出てる出てる。 平原って事で割と進軍速度が上がった。 早く目的地(ツヴァイク)に着きたいという気持ちの表れだろう。 温かい飯が食えるという希望が、元気を与えてくれているのかもしれない。 とはいえ、平原の真ん中を貫く北方交易街道は使わない。 如何に道が整備されているとはいえ被発見性の面で余りにも危険だらのだ。 なので、パル山脈の麓に沿う形で北上する。 移動すること暫し。 速足のロットが自慢の快脚を禁じられ、鈍足で歩く事に不満を漏らし出す頃、昼下がりに俺たちはツヴァイクの町へと到着した。 町の入り口、門を通る際に俺たちと町中、その両方から歓声が上がった。「ルッェル!」「ヴァーリア!」「遊撃隊!」「ヘレーネ!」 連呼されるルッェル公国の名前とヴァーリア姫さんの名前、遊撃隊、あ、ヘレーネ夫人さんの名前もある。 そのヘレーネ夫人さんが手を振りながら馬を寄せて来た。 出会ってから初めてっぽい位の、年齢相応の明るい顔をしている。「ビクターさん、手を振りましょう!」 そうだね。 俺の名前も呼ばれているんだよね。 それも割と、大きい位の声で。「ビクター!」「ビクター!!」 ハルバードを掲げたら、歓声が大きくなった。 この原因は1つだろうね。「ビクターさーん!!」 一際大声を上げて手を振っている人(バルトゥールさん)が。 実にイイ笑顔だ。 独占販売する予定の商品(詩歌)が高く売れるようにと、せっせと演出しているって事だろう。 何ぞ下駄を履か(プロデュース)されてる気になって微妙な気分になったりもするけど、実害が今の所無いので文句の言いようがないのだ。 おのれー <黒>がごく少数で出て来ないかな。 主にストレス発散の的として。 現実、やってきてもストレス発散の的じゃなくて、ストレスの元な厄介事にしかならぬがな。 あ、タバコ吸いたい。 こんな人ごみの中で吸える訳ないけど、だからこそ吸いたい。「ヴァーリア姫様!」 お、アデンさん達、南方混成群の中心人物勢ぞろいでお迎えだ。「ゲーベルの村長をしております、アデンで御座います」「私はクートヌ村で村長をしております、フォルクマーです」「苦労を掛けている。今は公王に代わって労いを述べさせてもらう」 しゃちほこばった2人に、ヴァーリア姫さんは馬から降りて挨拶する。 割と礼儀正しいお姫様である。 言葉遣いとか態度が偉そうだけど、実際に偉いのだから当然である。「お言葉、有難く」 アデンさん、流石はゲーベル馬弓隊の元勇士ってだけはある礼儀を見せてる。 それに比べてフォルクマーさんは、何だ、文官系って感じだ。 実際、ひょろいので妥当な感ではある。 連れ立ってというか、アデンさん達がヴァーリア姫さんを適当な家に案内しようとする。 チョイとした歓待なんだろうが、っとその前にしておきたい事があるのだ。「ヴァーリア殿下、兵たちの休息と食事の方は手配しておきますので__ 」 了解を得たと言う建前で、相談役と言う指揮権の無い立場からヴァーリア鉄槌戦士団へ指揮を出す。 相談役(スタッフ)ってのは、指揮官の相談役であって指揮官じゃないのだが、ヴァーリア鉄槌戦士団には次席指揮官が居ないのだから仕方が無い。 どうやら、あの馬鹿野郎(ロータル)が補佐として副官の位置にあり、副長も兼務していたらしいのだ。 尚、腰ぎんちゃくは居なかった模様。 どんだけ人望無かったんだ、アイツ。 兎も角、指揮官不在ってか指揮権第2位の奴が居ないので、便宜的に俺がヴァーリア姫様の言葉を代弁するって形で指示を出す為、了解を得たら指示を出すために離れる。 離れようとした。 したら怒られた。 俺、いつの間にか戦闘部隊の総指揮官になっていた模様。 うん。 俺、ゲルロトさん、オイゲンさんで貫目が一番重いのが俺、と。 一番年下なんだけどなぁ……「手配したら直ぐに戻ります」 ヴァーリア鉄槌戦士団も遊撃部隊も、とっとと序列第2位(ナンバー2)を決めないといかんな。 後で言っておこう。 休養場所の指定とか食事の配給とかは、集団の裏方(オバちゃんs’)のまとめ役になってたクラーラさんに丸投げ、もとい、お願いした。 それまでは町の片隅にフラフラしている状態だった。 乱暴者が出ないのは良いのだか、何というか、チト、何だかなー である。 デカい面した仕切り屋が居た為かもしれないけど、この各中堅指揮官クラスの積極性の無さが気になる。 後で、指揮の序列第2位を作るってのと合わせて、提案しとかねばならんだろうね。 ウチの戦闘部隊に関しては、各級指揮官が居て、遊撃部隊にはストークが居るので無問題。 全く心配が無い。 即製急造の部隊でも、各級指揮官がしっかりとしていると安心感があるよね。 そんなこんなの雑事を片付けて、ヴァーリア姫さん達に合流する。 食堂と酒場と宿屋を兼ねた場所が指揮所(HQ)になっていた。 真ん中のテーブルで話し合っているヴァーリア姫さんとか村長さんs’。 特に問題も無く、話し合いは進んでいるっぽい。 遅くなっての合流なので、端っこで誰かに状況説明をと思ったが、状況を知ってそうな人が誰も居ない。 大婆様とかもヴァーリア姫さんとかと同じテーブルに居るのだ。「ビクター、コッチだ」 迷っている間に呼ばれた。 ま、良いか。 席に座って話を聞く。 既にゲーベル郡とブラウヒア郡の状況の説明、後、南方混成群としての行動指針は伝え終った模様。 で、ヴァーリア姫さんだがそんな南方混成群を護ると宣言してくれた模様。「それこそが王家の、鉄槌戦士団の務め」 立ち上がっての宣言。 実に絵的だ。 ヴァーリア姫さん、武人で美人なので実に雰囲気が出る。 あ、拍手。 バルトゥールさん…… 本当に神出鬼没というか、勘所を抑えて居るのが上手いというか。 拍手が広がっていく。「ヴァーリア姫様、万歳!」「万歳!」「万歳!」「万歳!」 凄く盛り上がった。 盛り上がったけど、やる事は堅実に行わなければならない。 命、掛かるからね。 と言う訳で、責任者な立場の人間は徹夜でツヴァイクから公都ルッェルンへの行程に関するアレコレを決めた。 大幅に増えた味方、<黒>の浸透が広域に渡っている事などを勘案して、出来る限り素早く、そして安全に公都へと入る為の努力だ。 お蔭で徹夜だコンチクショー 眠い。 腹減った。 そう言えば俺、晩飯、喰いそびれたぞ。 おのれー「太陽が眩しい……」 最近、徹夜が多いです。 お肌の荒れが心配です__ お肌の為に、朝飯には野菜多めでお願いします。 口内炎も怖いしね! 喰い終わったら仮眠しよう。 少しは寝ておかないと、後が困る。 徹夜で脳みそが割単位で機能停止している現状で、戦闘は兎も角、乗馬なんてしたくないからな。 寝る。 寝たい。 寝るべき。 寝なければならない。 ふらふらっと、歩いていたら、しろがねが居た。 寝そべっている。 見れば、ミリエレナが配給をやってた。「温かいお食事、ありますよ!」 笑顔で食事を配っている。 そう言えばブレンニルダの教えに「腹が減っては戦が出来ぬ。だから肉を食え(命令」とか凄いのがあったから、その影響なんだろう。 実に良い。 実に正論。 後方(ロジステック)を軽く見る奴は死ぬべしなのだ。 温食は力をくれる。 空腹は力を奪う。 あー 腹減った。 朝飯は匂いから察するに、シチューというか野菜入りの乳粥というかなモノらしい。 くー くー とお腹が鳴る。 というかミリエレナ、タフだね。 戦闘から衛生、それに需品までやってるのに、元気いっぱいだ。 あ、エミリオも居た。 戦闘部隊でも結構活躍しているのに、偉いもんだ。 顔色悪いけど、ミリエレナの為なら疲労など! な勢いなんだろう、多分。「あ、ビクターさん! おはようございます!!」「お疲れ」「ビクターさんこそお疲れさまです! 朝ご飯ですか?」「ああ。頼むよ」 手渡されたのは乳粥なシチューと薄い黒茶。 温かいだけで感謝感激雨霰ってなモンだ。 何処かに座って食おうかと思ったら、配給所の裏側に白くて銀色な塊を発見。 しろがねだ。 のんびりと寝そべってやがる。 君、戦獣だよね? 喉元を噛み千切り、血を浴びて笑う魔の獣(バケモノ)だよね? なんでそんなに呑気に欠伸とかしているのよ。 ま、平和で良いけど。 という訳で、しろがねの隣に座る。 背中を預ける。 柔らかくて温かくて、素敵。 という訳でいただきます。 「 」からの癖、手を合わせてから喰らいつく。 熱々で旨い。 あつ。 うま。 あつ。 うま。 あつ。 うまうま。 あつあつ。 うまうまうま。 思わず、貪りました。 喰いおわれば、やっぱり手を合わせる。「ごちそうさまでした」 行儀って大事だよね。「……」 ああ、いい天気だ。 暖かい。 腹の中も温かい。 背中も柔らかくて温かい。 ん、ね…………「お、おぉっ!?」 目が覚めた。 どうやら涅槃(ドリームランド)に連れて行かれた模様。 空を見上げれば青空、太陽は中天を過ぎた辺りか。 お蔭でスッキリだ。 体が冷えてないのは、背中の湯たんぽ(しろがね)と誰かが毛布を掛けてくれてたお蔭か。「良く寝た……」 つっと見れば俺、ってか背もたれにしていたしろがねに子供たちも寄り添って昼寝をしている。 ひい、ふう、みいと沢山いる。 大の字になってたり、しろがねに抱き着いていたり。 共通しているのは、どの子もあどけない寝顔って事だ。 安心しているのかもしれないけど、良いのか母親さん方、と思う。 しろがねって一応、戦獣という狂暴な猛獣だよ? 陽だまりで欠伸する今の姿からは想像も出来ないかもしれないけど。 率先して寝てた俺が言うのもナンだけども。「つぅ」 傍で寝ている子供たちを起こさぬ様に注意して体を伸ばす。 熟睡したとはいえ妙な姿勢だったので、アチコチが固まってる。 って、足に重さが。 誰か俺の足を枕にした模様。 硬かったろうに ――「―― って!?」 毛布を捲ればブラウンの髪、くせっ毛。 ヘレーネ夫人さんだ。 幼げな顔つきで俺の右足にしがみついて寝てるし。 ど、どうする!?「起きたのかい?」 慌てて動く前に声をかけられた。 大婆様だ。「あ、いや、これは」 状況不明。 だけど、何か誤魔化すような、誤魔化したい気分になる。 何も悪い事はしてないよ(イエスロリータ・ノータッチ)。 本当だよ!「すまないね若勇士」 謝られた。 何処に、とヘレーネ夫人さんを起こさない様に首を動かして探すと、木陰で繕い物をしているのが見えた。 鎧、革鎧(レザー・アーマー)っぽいのを修理しているみたいだ。「いや、ま、出来る事をしているだけですからね」 いやホント。「それは若勇士が出来る人間(● ● ● ● ●)だからさ。だけど婆は無力さ。子も孫も失い、戦も姫嫁も頼ってばかり」 俯いた大婆様の顔には悲哀があった。 俺みたいな他人が見てはいけないと思える顔だった。 だから、視線を逸らす。 下を見る。 寝顔は年相応のあどけないヘレーネ夫人さんを。「戦は、戦だけは得意ですからね」 女性が得意なんてのは間違っても言いませんよ。 ええ、本当に。「得意だからと頼られてばかりでは辛かろうに」「そうでもないですよ?」「くっくっく、優しいのう」 大婆様が笑ったのが感じられた。 ヘレーネ夫人さんの髪をそっと撫でる。 優しい、優しいのかな。 ミリエレナやエミリオの気持ちもあるが、俺が俺の我が儘でやってるだけって部分も多い。 戦うのが好きだ。 誰かを守って戦うのは燃える。 知った顔が死ぬのは寂しい。 その程度の気分でしか、俺は戦ってないのだから。 ある意味で徹頭徹尾、我が儘の為なのだ。「若勇士や。図々しいとは思うておるが、1つだけ頼みたい事がある」 大婆様が畏まった。 目を合わせる。 皺から覗く目には悲しさ、懇願が見えた。「俺に出来る事なら」 姿勢を正すとまではいかないが、気持ち、というかヘレーネ夫人さんを起こさぬ範囲で背筋を伸ばし、聞く。 大婆様の願い。 それはヘレーネ夫人さんに関してだった。 今、この戦の間だけは見ててやって欲しい、と。「姫嫁はまだ幼いのに当主代行になってしまった。それ故に婆達の前では気を抜こうとはせぬ。それは王家の血、責任感の強さであろう。だからこそ……」 ルッェル公国の理、律の外に居る俺の前では年相応で居るから、と。 今も、俺に毛布を掛けた後に気が抜けてそのまま寝入ってしまったのだという。 夕べの徹夜な話し合いでも、ヘレーネ夫人さんはブラウヒア家の当主代行で(一応は)指揮官の1人と数えているけど、幼いので彼是と理由を作って先に休ませたのだ。 なのに、寝ているってのは、疲れがたまっているのだろう。 後、大婆様の言う通り、責任感から常に緊張していたのかもしれない。 撫でる。 見れば体は細い。 幼いという言葉通りの体格だ。 そんな小さく細い肩に、家と民を背負っているのだ。「出来る事なんて微力かもしれませんけど、だけど、任されます」「有難う、若勇士__ 」 しかし大婆様、まるで俺を拝むみたいな勢いだ。 止めて下さい、俺、間違っても稀人なんかじゃありませんから! 大婆様とおしゃべり。 ヘレーネ夫人さんの事やら、この国の事などを聞く。 中々に知的会話は楽しい。「しかし、若勇士は何者なんだい?」 一通り喋った辺りで、大婆様が呆れる様に言った。「トールデェ王国の大学出ってだけじゃ駄目ですか?」「それだけに見えないからね」 笑われた。 慧眼って奴か、年の功って奴か。「なら改めて。トールデェ王国宮廷男爵ヒースクリフ家嫡男。王国従騎士、ビクター・ヒースクリフです」「なんとまぁ、若勇士は王国の貴人であったか」 スッゲェビックリされた。 それで、俺への対応が変わらない辺り、大婆様は実に大婆様であった。 尚、大婆様と会話してたらヘレーネ夫人さんが目を覚ました。 寝ぼけた顔で俺と大婆様を見て、それから自分の姿勢というか、寝てた事に気付いて一瞬で真っ赤になった。 実に可愛い仕草で御座いました。