案内というか誘導してくれた人が教えてくれたが、人数の増えた理由は郡都から落ち延びた(● ● ● ● ●)人間を吸収していたのだった。 そう、目的地であった郡都だが、既に<黒>の猛攻によって陥落していたのだ。 コイツは吃驚、である。 そして現在、郡都から30km程離れた川辺でキャンプ中との事である。 敵に近すぎね? 後、この川辺だけど木々がそこそこ生えちゃいるけど、割と見通しが良くて、遠くからでも見えやすいのだ。 というか、俺たちも遠くからキャンプポイントが丸見えなんで、チョッとヤヴァくね?? 頭、痛くなってきた。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント2-13戦闘だけが戦の全てじゃありません 夕暮れを前に合流して判ったが、本隊の状況は動きたくても動けないのだった。 郡都から落ち延びた人間は怪我人多数であり、その上で問題なのが統制が取れていないという事だ。 要するに、コッチの様な村長クラスの取りまとめ役が居ないのだ。 だモンで各人がてんでバラバラに要求を口にして、で、根っこがお人よしのアデンは、要求に対応しようとしてパンクしていたのだ。 こりゃぁ、拙い。 なのアデンさんらベルヒト村組みとクートヌ村脱出組みとの顔合わせの際に、率直に言う。 状況、マジヤヴァス、と。 動かないと殺される確率200%なのだ。 <黒>の捜索隊に発見捕捉される確率100%で、もう100%は、郡都の略奪を終えた連中が来る確率ってなもので。 多少はオブラートに包むとはいえ、リアルな危険性に関しては掛け値なしに言葉する。「………」 アデンさんやらフォルクマーさん、ヘレーネ夫人さん達も渋い顔になる。 場の雰囲気が最悪です。 とはいえ、命の掛かるここで妥協は出来ない訳で。「とはいえ、怪我人が多すぎっし、状態が悪りでな。動かし辛れど」 苦い口調で言うアデンさん。 彼自身、この状況を良しとしていた訳ではなかったらしいが、重態の人間多く居て、動かせば命に関わるとの事だった。 川の畔でというのも、治療に新鮮な水を使えるというメリットを勘案してだ。 そりゃぁ仕方の無い面はある。 あるけれども、だ。「もう少しすれば、症状も落ち着く人も多いのですが」 即製治療班の責任者に祭り上げられているミリエレナが難しい顔をした。 これは、郡都から落ち延びてきた人の中にブレルニルダの信徒や神官までいたので、<聖女>の看板で簡単に組織化できたからとの事だ。 流石、<聖女>を字名とするだけあって、戦だけが能では無かった模様。 コレは素直にあり難い。 尚、敗残兵な連中につき物の不埒モンは、お供のエミリオが何がしの対応とかをする前に、シロガネに呻られるand睨まれるor舐められるの一発で、子犬よりも大人しくなっているそうな。 デスヨネー 俺だって大人しくなるわ、マヂデ。「しかし、食料の問題があっで、いつまでん此処に居っ訳にもいかんぞな」 オイゲンさんが深刻な顔でいう。 確かに食い物の問題は洒落にならない。 郡都から落ち延びてきた人たちは、身の回りの現金他を持ち出すだけで精一杯であり、食料なんて殆ど持っていないって話だ。 現金があるから買えはするが、こんな辺鄙というか平野の真ん中で誰が食料を売ってくれるというのか? である。 困ったモンだ。 問題点を整理しよう。 動けない理由は、怪我人が多いから。 動かなければならない理由は、王都集参に関する王命と食料の残り少なさから。 動かなければ自滅。 食料の手持ちは、ベルヒトとクートヌの分を合わせても1週間も食いつなげない量だし、そもそも敵にみつかりそうだし。 動けば80人近い怪我人の命がヤヴァイ。 ふむふむ、チト、悩ましいな。 いやまて。 怪我人で重症重態は80人前後か。「それなら___ 」 誰もが口を閉ざしていた中で、発言しかけた俺に皆の視線が集中する。 こりゃ、突き刺さるってな感じだ。 痛いって、マジで。 何で俺、ここに居るのかな。 合流したらお役御免になるかと思ってたのに。 残念! 嘘です。 面倒な予感はしてました。 阿呆な事を弄びつつ言葉を選ぶ。「集団を分けましょう」 移動する本隊。 ここでの治療を継続する怪我人と治療班。 外周で防御を行う遊撃班、いや、隊規模だろうな。「見捨てるというのですか?」 睨みつけてくるフォルクマーさん。 いやいや、本旨は別の所ですよって事で強く否定する。「違います」 天幕内の耳目がコッチに集る。 心地よいとは言いがたいが、まぁ仕方が無い。 皆してマジだし。 濡れそうになる。 嘘だけど。「1つの籠に入れる卵の数は減らしましょうって事です」 動ける人だけ動かしてこの場に居る人の規模を下げ、動かせない人が発見されるリスクを低減させる。 少しでも多くの人間が生き残れる様にするってのが狙いだ。「怪我人の家族は離れたくないでしょうが、死ぬよりはマシです」 背筋を伸ばして自信がある様にし、皆を睨むようにして言う。 目力って奴があるなら、それが俺にある事を信じる。 現状、議論で踊ってる暇は無いのだから。「どうですか?」 評すれば迫力勝ち(● ● ● ●)って事になりました。 多分。 そもそも、皆して状況の逼迫具合は理解してたんでしょ。 でなければ10代半ばの坊やの言う事に従う筈もなしってなもので。 兎も角。 一度方針が決まれば、後は危機感を共有する同士であるので大馬力で動き出したのだ。 この辺りの地理に詳しい人間は、本隊の避難先の策定を行っている。 村長さん×2とヘレーナ夫人さんとの首脳s’は一般避難民、怪我の無い連中を幾つかのグループに訳で管理しやすくし、食料その他の物資を配分する用意を行っている。 ミリエレナは救護班の人員を一般避難民組みと怪我人組みとに分配を行っている。 そして何故か俺は戦闘部隊の取り纏め役に就任しました。 アリエネー マジ、アリエネー 大事な事なので2回言う ―― 代わりに2回ため息をついて仕事をする。 基本的には前と同じ、哨戒(ピケット)部隊と邀撃(インターセプト)部隊、そして予備兵力としての直衛(エスコート)部隊と編制し、対応するのだ。 戦力比は哨戒部隊が3割、邀撃部隊が5割、直衛部隊が2割って位を想定している。 避難民2隊への貼り付けな直衛部隊が少なく見えるがコレは理由があって、正直、戦意はあっても戦闘向きじゃない人間を集めておいた、予備と治安維持が主任務だからだ。 理想を言えば、哨戒部隊で接近する<黒>の悉くを捕捉し、邀撃部隊で撃退する事を目論んでいる。 上手く行けば良いんだけれども。 とりあえず、概略を今日中に仕上げて、明日、全てが実働予定という強行軍である。 灯火管制という事で星明りの下で戦闘部隊の中核メンバーとアレコレと物事を決めていく。 ああ、男臭い。 汗臭い。 風呂入りたい。 フカフカの布団と温かい飯、そしてマーリンさんの柔肌が恋しい。 結構切実に。 だが現実は非情。 周りに居るのは男男男、少しだけ女ってなもので。 汗臭さは煙草で誤魔化し仕事に邁進だ。 つか、そもそも俺はエミリオとミリエレナの護衛な筈なのに、どうしてこうなったい。「ビクター?」「何でもない、何でも、な」 何でもないのだ。 愚痴は言うまい、男の子だもの。 先ずは目の前の仕事を片付けると致しましょう。 夜明けの太陽が眩しい。 徹夜って嫌だよね。 特に仕事絡みだと特に。 欠伸をかみ殺しながら、編制を確認する。 戦闘部隊総人員175名、馬72頭を割り振ったのだ。 哨戒部隊 指揮官:ゲルロト 9班編制 管制班:ゲルロト 人員3名 馬2頭 哨戒班各2名編制 人員16名 馬16頭。 邀撃部隊 指揮官:ビクター 2班編制 主力隊:ビクター 人員44名 馬44頭 予備隊:バイル 人員38名 馬4頭 直衛部隊 指揮官:オイゲン 2班編制 避難者直衛隊:オイゲン 人員42名 馬4頭 怪我人救護隊:ヘレーネ 人員32名 馬2頭 邀撃部隊が当初予定よりも大分少ないのは、疲労疲弊した馬が予想以上に多かったのが原因である。 馬って繊細な生き物なんだよね。 予定というか予想外っていうか、考えが甘かったてなものだ。 後、馬の少ない邀撃部隊予備隊は、基本的に直衛部隊怪我人救護隊と一緒に動かす予定である。 じゃなければ名誉配置にしてもヘレーネ夫人さんを指揮官にとかは在りえない訳で。 副官で、ついでに怪我の治療も受けているグロッセさんの上申を良く聞いて、後は実務はバイルさんにある程度投げてねってなモノである。 このように各隊各班、政治とかの問題も考えて名誉とか責任とかが平等に行き渡る様に考えました。 考えましたとも。 お陰で徹夜だ、ああ、眠い。 政治的とか、大っ嫌いだ!!!「眠そうだな」「そりゃね、眠いよ」 即答しておく。 ストークだ、ナンか湯気の上がるコップを持ってきてくれている。 大感謝だ。「白湯だがな」「あり難いよ」 物資不足ですね、判ります。 というよりも梱包から茶葉を出すのが困難とかでしょ、きっと。 後、ここも引き払う予定なので、誰だって荷物は開きたくないってなもので。 尚、ストークとかヘイル坊やとかマルッと全員、ウチの邀撃の主力隊に動員である。 戦場(ピクニック)には気心の知れた奴と一緒に行きたいからねってなもんで。 会ってまだ数日だけども。「旨い」 温かみが五臓六腑に染み渡るってなもんで。 酒も良いけど、疲れたときは柔らかくも温かいのがイイよね。 朝もやの中で人たちが動き出す。 そんなのを横目にまったりとする。 夜も働いていたからイイじゃない! いや、マジで。 しばらくはアレコレと駄弁っていると、三々五々と集ってくる元・ベルヒト村遊撃隊面々。 この数日で見慣れた顔ばかりだ。 乙々っと挨拶していく。 実に気持ちの良い奴ぞろいだ。 嗚呼、こいつ等を死なせたくないなぁ。 何だかんだと邀撃部隊の面々で細かい打ち合わせをしていると、食料の配給があった。 村長さんs’仕事が速い。 食料の消費は計画的にって事だろう。 とはいえ、その配給された朝食であるが、保存食並みというか、まんま保存食なパン、そして水だった。 ソレ(● ●)だけである。 パンは乾パン級な水でふやかさないと噛み千切れない ―― とまでは言わないけど、フランスパンよりは硬かった。 前歯で噛んじゃ欠けそうなので、犬歯辺りで噛んで奥歯ですり潰す。 飲み込む。 塩っ気も無くて、実に美味しくない。 自前の馬車にならもうチッと等と言うレベルじゃない保存食が山ほど積んでいるが、こんな状況下でンなモンを喰おうものなら袋叩きってモンだ。 というか、逆の立場なら俺がする。 確実に。 絶対に。 とはいえ、放出する訳にも行かない。 この後の事、クルトさん達のキャラバンから分かれての道 ―― この国から更に北の方は、継承戦争とか、そもそもの地脈を暴走させた大魔法(クリエイト・オブ・グレートフォール)の余波で土地が貧しくなってるってな話なので、食料の補充はかなり厳しい事が予想されるからだ。 或いはルートを変えて南に下りるにしても、食料が無ければ動けないのだから。 要するにテメェの都合である訳だが、まぁコレばっかりは仕方が無い。 ミリエレナとエミリオに、この点はしっかりと因果を含めておいた。 勝手にばら撒かれては迷惑でってね。 オブラートは4重5重と重ねてだけれども。 ミリエレナにエミリオ。 兎にも角にも善人(ローフルグッド)って奴は扱いに困る。 善人であるが故に。 俺みたいな融通無碍の無軌道(カオティックグッド)な人間にとっては。 嫌いにゃなれないけどね。 仕事だし。「やぁやぁビクターさん!」 っと、誰かと思えばバルトゥールさんだ。 ニッコニッコと笑いながらやってくる。 歩く姿に違和感が無い辺り、傷は見事に完治したみたいだ。「ああどうも、おはよう御座います」 挨拶を返してよく見てみれば、手には紙束と筆記用具があった。 あー うん。 何をしに来たか、ワカッターヨ。 仕事熱心やね。「何やら大活躍されたみたいですね♪」 語尾が踊ってる。 凄く楽しそうである。 飯の種を前にして舌なめずりしない奴が居るだろうか、いや、居ない(反語 しかもホットな最新で、しかもほぼ独占状態なのだ。 うん、そう思えばバルトゥールさんは普通だね。 俺の所に来るんでなければ、仕事熱心と尊敬出来るね。 でも根掘り葉掘り聞くのは勘弁して欲しい。 チョイと恥ずかしいから。 飯を齧りつつ根掘り葉掘りと、うん、何だ、俺が齧られている気分になってくる。 しかも、情報代と称して干し肉と干したザクロを持ってきたので、アレだ、邀撃部隊の若い衆がペラペラッとある事無い事、喋り捲りである訳で。「ほうほう1対1で、それも筋骨隆々のミーノタウルスを討ったわけですか!」「山んごちゃ、大きさじゃった」「ほうじゃほうじゃ、見事ち一撃じゃった。で、残った奴らはビクターに怯えて逃げていったわ!!」「モーモー言いながらなぁ!」「ブヒフヒとも言うちょったど!!」「おぉ凄いですなぁっ!!」 若い衆も徹夜っぽいのでテンション上がりまくりか。 というか、その言い方だと牛だのオークだのが複数居たって感じなんだが。 しかもミーノタウルスというよりも亜巨人っぽくなってるし。 ぶっちゃけ、盛り過ぎ。 まぁいいや。 ザクロが旨いし。 程よい甘みって奴だね、コレは。「しかし俺らだって負けちゃおらんぞ? 1対1じゃなくてん、ミーノタウルスやらオークやら」「馬に乗った俺らゲーベル馬弓隊は強えど。戦獣騎兵なんぞに遅れはとらん!!」「ほうじゃほうじゃ!!」 (∩゚Д゚) アーアー キコエナーイ (∩゚Д゚) アーアー キコエナーイ 最終的にどんな風に盛った話になるか知らんけど、とりあえず俺は聞きたくない。 でも景気の良い話を作ってくれれば、この避難生活で湿気た気分になった人たちが気分が良くなるかもとか思うと、止められない。 頭の痛いお話で。 もうどうにでもなーれー。 白湯がうめぇー。 日が昇りきってから、再び会合。 権威付けって訳でもないが、即製されたっぽいテントの中は、外の喧騒 ―― 撤退準備を他所に、静かに進行している。 有無、みんなして徹夜か準徹夜で疲れているっぽい。 仕方が無い話ではあるが。 つか、案外にこのテントが作られたのって、陽の光が目に辛いからかもしれない。 もしかしたらだけれども。 さてさて会議である。 最初の議題は、いい加減に集団名をつけようゼ! だった。 いやまぁ、確かに雑多な集団。 敗残兵+αとか、面向かって言うには極度のユーモアのセンスが居ると思う。 というかシラフじゃ言えません。 俺だって。 最初、救国軍なんてのをぶち上げる人が居た。 個人の名誉の為にここは伏字を入れてヘ○ル坊やとしておこう。 義勇兵は居るけど難民も多いので名前負けするので、アウト! となった。 ナイヨネー というか調子に乗りやすいぞ、ヘイ○坊やめ。 大方、バルトゥールさんの戯曲のネタ! とか、救国軍の勇士、○イル!! とかしたかったに違いない。 子供め。 だから貴様は坊や(● ●)なのだ。 後は会議参加者一同の厨二炉心がギュンギュンと熱暴走してステッキーな具合に百花繚乱なネタの公開大会に突入。 というか、ドイツもコイツも徹夜でハイになっている模様。 というか、自重しろ村長×2ってなもんで。 実に酷いネタのオンパレード、村の特産品に始まって孫や娘の名前まで出すのだ。 張り合って。 うん、無理。 付き合いきれない。 仏ほっとけ、神かまうな。 醜い争いはノーサンキュー あー 白湯がうめー と、テントの隅っこにイスを動かしてまったりと他人事風味に葉巻を銜えていたら人が来た。 ヘレーネ夫人さんだ。 今日も喪服っぽい格好で、グロッセさんを連れている。 そのグロッセさん。 顔色良く、片腕だがお元気そうでなにより、である。「いやいや、ビクター殿の回復剤(ポーション)のお陰ですよ」 無ければ死んでましたと笑っている。 ポーションだが、トールデェ王国とかだと値は張ってもそれなりに売っているし流通もしているのだがこの国だと魔道錬成師(アルケミスト)、この国じゃ “魔女” なんて呼ばれ方をするらしい作り手が少ないんだそうな。 素材自体が手に入りにくいとか何とか。 疲労回復とか軽い怪我位には効く薬は作れても、重傷のダメージを抑えられるのは作れない。 なのであっても輸入品なので呆れる位に高価で、上士家以上の金持ちじゃないと先ずお目にかからないんだそうな。 馬1頭と交換でとか、そういうレベルの話もあるんだそうだ。 一般的なものであればワインとか、値の張るジュースとかとどっこいレベルの値段で売り買いされてるトールデェ王国とは別世界である。 これも1つの格差社会って奴かもしれない。「なので、お礼を持って参ったのです」 と、差し出されたのは綺麗な宝石だ。 赤っぽいが、ルビーとは違うっぽい。「先々代が時の公王より下賜されたガーネットです。命の対価としては安いやもしれませんが、我が家の家宝。収めて下さい」「ゑ?」 思わず変な声が出た。 いや、重い、重いよそれは。 ガラス玉(ガラクタ)の対価で金を得る ―― そこまで悪辣じゃないにしても、実際酷い交換比率ってなもので。 俺はそんな悪人じゃない。 なので、断固拒否だ。「何故です?」「貴方がミーノタウルスの前に立ったのと同じだからです」 ソレが何であれ、目の前に出来る事があった。 だから成した。 それだけの事なのだ。 それに___「お礼なら酒でも持ってきて下さい」 そっちの方が好みだ。 今の状況ではあっても飲めないけど、でも終わった後で飲みたいってモンで。「なら、終わったら樽ででも調達してみせますよ」「そいつは素晴らしい!」 契約成立、握手する。 終わったら、そう戦が終わったら皆で酒盛りだ。 皆で生き残って馬鹿騒ぎがしたいモンだ。 さてさて。 グロッセさんとの話が終われば、次はヘレーネ夫人さんだ。 真打登場とばかりに前に出てくる。 手には薄灰色のジャケットだ。 あぁ、洗濯が終わったのか。「ありがとう御座いました」 そっと俺の背にジャケットを掛けてくれる。 優しくて、柔らかくて、何ともくすぐったい感じだ。「どういたしまして」 チョッとだけ顔が赤いのはアレか、自分の艶姿(● ●)を思い出しているのだろう。 仕方が無いんだけどね。 戦場で歳若い新兵がどうなるかなんて、学校で、チョッとだけ似た環境に放り込まれた学生(ボーイズ)が血と涙と、それ以外の液体やら何やらを撒き散らすなんて普通だし。 お澄まししたレニーだってそうだった。 あの頃はそんなに親しくも無かったが、男性陣の中に居た紅一点って事で目立ってたので良く覚えている。 同期の皆して、夜にパンツだのズボンだのを洗った、懐かしの学生時代。 そういえば、俺は漏らさなかった事で微妙な疎外感を感じたものだったな。 初陣が漏らす漏らさないよりも必死すぎて、漏らす余裕なんて無かった結果というべきか。「しかしグロッセや私はビクターさんに助けられてばかりですね」 悔しそうに告げたその顔は俯いている。 なんというか身形よりも年上に見える仕草だ。 俺のことっていうよりも、グロッセさんの名前が先に出た辺り、部下や身内への事を思っているのだろう。 言わば、責任が子供を大人にするって事か。 なんというか、痛ましい。 ヴィーよりも年下で、でも比較にならない重責を負った女の子。 憂いを帯びた未亡人ってのは美味しいシチュエーションだし、顔立ちの整ったヘレーネ夫人さんだと魅力も更に増すってものだ。 が、それでも年下なのだ。 子供なのだ。 苦笑いしか出てこない。 フト、グロッセさんを見れば、あちらも苦い顔をしている。 ねー 辛いよね、見てる周りとしても。 甘いモノでも携帯してりゃ、あげるんだけど、今は持ってない。 残念。「出来る範囲でやってるだけですよ」 軽く言っておく。 実際問題、その程度の話しだ。 命の鉄火場でって事を除けば、極普通の事だ。「それにヘレーネ夫人さんは、こう言っては失礼かもしれないがまだまだ若い。だから俺やグロッセさん。或いは大婆様を頼って下さい」「これ以上、迷惑を………」 俯いたその姿は、実に、その、ナンだろう、大人びた哀愁がある。 おいおい、だ。 おませな子供は嫌いじゃないし、背伸びしようとするのも微笑ましいが、にしても限度ってものがある。 騎士礼という訳じゃないが、左の片膝をついて腰を下ろして、ヘレーネ夫人さんの手をそっと下から支える。「迷惑なんかじゃありませんよ。頼られれば嬉しいものですよ。特に、あなたの様な淑女(リトル・レディ)であれば」 ブッチャケ、ヅカ系っぽかったレニーが年下相手にやってた仕草の真似だ。 大仰な仕草も気障な言葉回しも苦手だし、レニーがやるのを見ていてよーやるなんて思っていたが、女の子の悲しい顔を治められるなら、何でも良い。 総動員だ。「えっ」 吃驚顔になったヘレーネ夫人さん。 と、その後ろから咳が。「コホンッ!」 フリーデだ。 野外着でメイドっぽくは見えないけど、そのそっと主の後ろに立って、必要な時以外は存在感を消した様は正にメイドの鏡! いや、うん、別にノウラが自己主張が強かったとかそういうのじゃなしに。 というか、思い出しちまうのは里心かね、全く。「フリーデさんもご無事で何よりです」「あっ、いや、私って___ 」 話しかけたら慌てだした。 私だって居るのに無視すんなやゴルァ! かと思ったが違った模様。 というか、グロッセさんが笑ってる。 ヘレーネ夫人さんも、小さくだが笑い出した。 善哉善哉。 笑顔があるのはいい事さ。 修羅場の合間な平穏な時間。 堪能しようと思ってたんです。 平和的快楽主義者な俺としては、平穏が良いのです。 平穏で在ればこそ、酒も楽しいしマーリンさんともイチャコラ出来るし、なのです。「これはどういう事ですか!!!」 天幕が揺れる様な、金切り声。 見ればやや派手目な衣装を着たオバちゃん。 というか、こんな状況で派手というかドレスっぽい装飾のある、でもどっか野暮ったい服装をしているってのは、正気を疑うと言うか? 顔がヒステリーしてます。 その後ろに、ゴッツイのとヒョロイのが居ます。 つか、誰?