人間の頭、その頭蓋骨に於いて弱点となるのはコメカミと、頭頂部だ。 嘘だと思うなら叩いて見ると良い。 メッチャ痛いから。マジデ。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント0-3家庭って素晴らしい 痛みの正体は、母親様の一撃でした。 一切合財の容赦ない、鉄拳。 それは例えるならば鉄風雷火の限りを尽くし――嘘です、御免なさい。 でも、ソレ位に痛いでした。 母親様曰く。 拳骨の理由は、息子が他所様の娘さんを泣かしている様に見えたからだそうーな。 もう少し、俺を信用して欲しいものである。 俺の脳みその具合に関わるんで、割と真剣に。「そんな甲斐性は無いって事ね、残念だわ」「まだ幼いのだ。こんな年頃から色に欲気を出していては先が困ると云うものでは無いか?」「そうね。ウチの子、ミョーに達観してるってか老けた考えしてたから、ある意味で歳相応って感じね」「老けた?」「そっ、老けた。なぁーんか、こうね、母親としてはヤンチャな男の子を期待してたんだけど………」「贅沢な悩みだな」「良いじゃない。悪戯した子を怒って叱って追いかけて、そんなドタバタって楽しそうって思ってたんだけど」「そうじゃなかった、と」「分別臭いのよ。もー 悪戯しない。お小遣いも計画的に使う。勉強は自分から。体を鍛えるのだって自分から始めてるのよ。母親の役目ってナニ!?」「くっくっくっ」「ナニ?」「いや、アノ<鉄風姫>が母親をしているなって思ってね」「2人も育てているのよ? 今更ね、その言葉は」 ナンと言うか、扉越しに聞こえる会話は、ビミョーに入室し辛い内容に成っている。 そらね、身体年齢は10を超えないが、精神年齢は30の後半突入しとりますから、そら分別臭いし、オッサン臭いのは仕方が無い。 ブッチャケ、仕様ですよ仕様。 現、ビクター・ヒースクリフって人間の。 まっ、何時までも扉の前でフリーズしてても仕方が無いんで、襟周りを指で整えて扉をノックする。 着替えてきたのだ。 出掛けた先でぶん殴られ、泥だらけの格好になっていたのだから当然だ。 深い藍色をした厚手のシャツと、焦げ茶色の半ズボン。 ここら辺、中世っぽい部分があるんで派手目な衣装が好まれているが、仕立物故に我侭を言って落ち着いた色合い、デザインのモノを作って貰っている。 だってさ、赤とか青とかの原色“だけ”を使った服なんて目が疲れるってモンである。 一応、下っ端とは言え貴族階級の一角なので、威厳を持つ為に細工はしている。 襟とか裾に金糸で縁取りをしたり、カフスには銀細工を付けたりとかである。 お洒落ではある。 てゆーか、趣味100%である。 昔の俺ってば肉厚ってかぶっちゃけプロレスラーとゆーか、熊の様な外見をしていたので、今生ではファッションの楽しみってのがある。 まぁ、まだ子供だから、十分には楽しめないが。 早く大人に成りたいってなモンである。「どうぞ」 母親様の声を受けて、部屋に入る。 居るのは母親様とマーリンさんだけだった。 子供は居ない。 妹も居ない。 後、マルティナさんも。 こゆう場合、常に女主人である母親様の傍らに付いているものなのだが。 そんな事に疑問を感じつつ、扉をそっと閉じた。 良い事と悪い事が1つづつあった。 まぁ子供らしく、褒められて叱られたのだ。 褒められたのは、義侠心を発揮した事。 非力な子供が、女の子を護る為に身を張った。それは素晴らしい、と。 別に実力を親の前で隠しちゃいないのだが、まぁナンだ。うん、母親様からすると非力な程度らしい。 どんだけー! である。 そんな、義侠心を褒められた後には折檻タイム。 日中、街中で、しかも先制的にナイフを抜いた事をだ。「街中で、それも先に抜けば、理由の如何を問わず子供でも巡邏衛士に捕まるのよ。私は教えた筈よね、ビクター?」 名前を呼ばれたのは、相当に怒ってる証拠だ。 背中に冷たいものを感じながらも抗弁を試みる。 いや、抗弁は止めだ止め。 街中で抜いちゃいけないのは聞いていたし、急場とは云え先に抜いたのも俺だ。 それを否定するのは格好良くない。「御免なさい」 深々と頭を下げた。 すると、母親様がため息をついた。 マーリンさんは小さく笑ってる。 何故。「成程。自制心があるな、ビクター君は」「でしょ」 意味が判らない。 てゆーか、生暖かい目で見るのは止めて欲しい。 マジデ。 まぁ相手からすれば、俺は子供だからねー。 今は我慢我慢。 外見と中身の差が縮まるまでは、忍の一文字だ。 畜生。 それから少しだけ雑談タイムに突入する。 マーリンさんの話は面白かった。 この別嬪さん、傭兵さんでした。 で、ウチの母親様との仲は戦友さんでした。 かつて同じ傭兵団に所属しており、その頃にコンビで暴れていて、その頃は<双の剣姫>と呼ばれてたそうな。 字名の所は、少しだけ恥ずかしそうに口にする。 チト、萌え。 クール系な女性が恥ずかしがるのはポイントが高いってもんである。 そらね、自分の字名を人に教えるってのは、チト恥ずかしいものです。 気分良く言えるのは病人だけです。 ええ病気。 その病の名は、厨二病。 不治の病ですな。 俺も死ぬね。 死にたくなるね。 主に恥ずかしさで。 が、それはさておき。 この話には問題が1つある。 マーリンさんが母親殿とコンビを組んで活躍していたって所だ。 うん。 母親様は年齢相応に近い所があり“若々しいお母さん”ってカテゴリーには入りそうな按配だ。 一緒にフロに入るのは、諸々で問題があるんで勘弁! ってな程度ではある。 が、マーリンさん。 若いとゆーか、若々しい。 ぶっちゃけ20台前半に近い感じだ。 主に肌と挙動が。 この御仁、一体何時頃に戦場に出とったんですかい。 或いはヒューマン種に見えるけど、エルフかなんかの長命種のなのかもしれない。 まっ、美人さんだから良いことだけどネ。 主に母親様とマーリンさんが会話し、それに時々俺が質問を挟むってな感じで進む。 進んでいると、扉が鳴った。 ノックだ。「どうぞ」 入室を許す母親様。 何故に、俺を見るですか。 そしてマーリンさん、何でそんなに楽しそうですか。 ワケワカメ。 んな俺の混乱を別にして事態は進行する。 扉が開いた。 最初に入ってきたのはマルティナさん。 福々とした丸顔に、常ならば力強さを感じさせる表情を浮かべているものが、今は純粋に笑っていた。 珍しい。 チョイと、部屋に入ってきて脇に反れる。 続いたのは妹と、女の子だった。 シックな、ワンピースに近い格好をしている。 チト流行遅れ――ってか、アレは確かウチの妹さんが着てたモノじゃなかったかい。 母親様のお下がりで。 アレってしたてモノじゃなくて、既製服? いや、でもこの時代っつか世界にマスプロみたいな概念って、武器とかにしか無かった気が。 そもそも、アレだって工業ってゆーよりも、問屋制家内工業に近い程度のレベルだった筈。 いやいやそれは良い。 それよりも、この子だ。 顔立ちも悪くないってか、ブッチャケ可愛い。 が、誰だか判らない。 何故にこの場に来たのかが判らない。 母親様の客人かもしれないが、余程の事が無い限り、マーリンさんとの歓談の場に迎えるとは思えないからだ。「…?」 そんな風に考えていたせいだろう。 紳士にあるまじく、女の子の顔をじっと見ていたのは。 視線があった。 頭を下げてくるんで、此方も下げる。 うーむ、見覚えが無い。 正確には違う。 見たような気がするのに、見覚えが無いのだ。 割と性能が良い、このビクターの脳みそは、何ぞの細かい事もよく記憶できる。 なのに、だ。 そんな俺の疑問を解消したのは、女の子に続いて入ってきた妹、ヴィヴィリーだった。「おにいさま、そんなに女性の顔を見るものではありませんよ」 お父さん大好きっ娘で、お母さんを大尊敬していて、日々レディたらんとしている妹だ。 大人ですって風を見せている、そんな背伸びが可愛らしい我が妹である。 もうね、可愛い訳よ。 自分の口の端が緩むのが判る。「騎士は淑女を護るものですから」 こまっしゃくれた表情で言って来るヴィヴィリー。 そゆう部分も可愛い奴である。 兄馬鹿の自覚はある。 否定はしない。 俺の妹だ。こんなに可愛くて問題があろうか、否、無い。「ああ、そうだね。騎士的じゃなかったな」「そうですわ。おにいさまはまだ騎士叙勲を受けていませんが、何時かはおかあさまの様な立派な騎士になるんですから」 立派な騎士ってのの代名詞が母親様ってのは、きっと我が家だけだろう。 うん。 親父殿は官吏さんだからな。 マーリンさんも笑ってる。 んで、女の子はどう反応して良いか判らずに、首を小刻みに振って周りを見ていた。 子供らしい反応をした子は、助けた子供だった。 そう言えば漸く名前を聞いた。 ノウラだ。 俺が着替えをしている時、この際だからと母親様が入浴をさせてあげる様に言っていたのだ。 服は、背格好が近いヴィヴィリーのお古をあげたんだと。 入浴して小ざっぱりとした格好をしていれば、益々可愛らしくなる。 ヴィヴィリーと喋っている姿など、何とも子供らしく愛らしい。 子は国の宝ですな、マジデ。 それはさて置き。 子供たちの姿を愛でながら、耳は親s'の方へと向けておく。 視線がチラチラとコッチを見ながら会話をしているのだから、警戒しておくにこした事は無い。 まぁ、我が母親様も親馬鹿の系統だから無茶は無いと思うんだが、同時に、獅子な人なんで油断は出来ないのだ。 うん。 ハムハムコクコクってブリテンで、伝説からTS喰らった某人物じゃなくて、どっちかってぇと赤毛でゴジラな女王様っぽい感じで。 うん。 要するに、千尋の谷に突き落としそうな風なのである。「ビクター」 警戒してたら、即効で呼ばれた。 慌てずに近づくと、笑顔で言われた。 男の子なんだから責任を取らなきゃね、と。 なんでさ。