義侠心だけで助けました。 最後に、ミリエレナが使い魔(ファミリア)を作りましたけど、それは俺はカンケーねぇですだよ。 常に戻れば、クルトさんの隊商の用心棒でしかないんですけど。 なのに、何故、こんな所に居るんでしょ。 村の首脳陣かき集めての会議の場に。 村に戻ったら、クルトさん共々、連れてこられてしまいました。 大きなテーブルの真ん中に地図が置かれ、喧々諤々の議論が進んでいる。 問い詰めたい。 普通は部外者立ち入り禁止じゃないんですかと小一時間問い詰めたい。「東のブラウヒア郡は、ウルヒアに集まっていた郷土軍も壊滅したそうだ」「あそこの郡都は大規模な堀があったぞ、それが短期間に、か!?」 今後の方針を決める上での情報収集、この村に来ていたの馬車列は、ベルヒト村からはやや北東に位置する郡、ブラウヒアからの難民であった。 元々、ブラウヒア郡でも王都への集合命令が出ていた為に郡都であるウルヒアに集まっていた所、<黒>の強襲を受けて、壊乱。 此方へと逃げてきていたそうだ。 馬車列には郷土軍の将兵は護衛に付いておらず、有志が武器を取っていたとの事。 ブラウヒアの郷土軍は、その郡を統括する上士ブラウヒア家の当主が陣頭指揮を執っていたが、いつの間にか状況は混乱し、難民達がウルヒアから逃げ出している頃には命令系統など、無きが如しであったという。「はい。郡外に居た民が多すぎて、軍は上手く動けずに…………」「ブラウヒア家の当代は、まだ若いながらも文武に優れていた聞いておったが、無理であったか」「私がヘルベルト様を見たのは、軍を率いて出陣される所でしたが、もうそれっきり………」 嗚咽する男。 大の男がみっともない ―― そんな事を言う気にはなれない。 このべウラウヒア郡からの難民を取りまとめている、この男はブラウヒア家の陪臣だという。 であれば、ブラウヒア郡にもその家にも思い入れがあるだろうし。 しかし、問題はそこではない。 このブラウヒア郷土軍は、大体が2000人近い規模だったと云う。 それが、状況は不明だが鎧袖一触みたいな感じである。 どれだけの規模が、コッチに来ているんだかと、思う。 この地図を見る限り、ルッェル公国の形は歪なY字に近い3角形だ。 であれば、北の砦を襲っているのは囮で、このブラウヒアやゲーベルといった国の柔らかな下腹部と言える農村地帯を襲っているのが本命か。 <黒>の連中は、食い物を奪い、人を殺す事を楽しみにしている連中なので、そう考えると、辻褄は合う。 その事を口にすると、ゲルロトさんが信じられんと呟いた。「北の砦、いやその周辺のノルト郡からブラウヒアに南下するには、大きな山脈を越えなければならない。アレは、アレを簡単に超える事は出来ない筈だが……」 この国の東から伸びてくるソレは、<黒>の領域と人類の領域とを隔てる大山脈 “壁の山脈(グレート・ウォール)” に連なっているのだ。 それを聞くと、突破できないと思わないでもない。 が、現に突破してきているのだ。 山脈が抜かれたと見て、問題は無いだろう。 それに、問題は原因ではない。 対処なのだから。 その事を思いっきり告げる。「確かにビクターの言うとおりだな。ここで悩んでいても始まらない」 ゲルロトさんが頷いた。 参加者一同に、危機意識はあったのだろう。 それから話はあっさりと、今後の方針に移った。 王命として、王都集合令が出ている以上、如何に状況が危険と化しているとはいえ、行かない訳にはいかない。 いっそ、この村が<黒>に包囲でもされていれば話は違うが、そうでない以上は万難を排して王都に行かねば抗命罪として処罰されるだろう。 今のラッェル公王は、自分の権威付けに必死なので、それに傷を付けたと成れば、死罪となる可能性も高い。 全く持って、やってられない話である。「しかし、戦獣騎兵が出回っているのだ。何の手段も無しでは、襲われて終わるぞ」 それに関しては、一つだけアイディアがあった。 手を挙げて、発言許可を求める。「案があるのか?」「何もしないよりは、その程度ですけどね」「ほう。言ってきれ」「では―― 」 俺が提案するのは、ある意味での護衛船団方式だ。 護衛部隊を3つに分け、1つは馬車列を直衛する班とし、そしてもう1つは馬車列に先行乃至は周囲に展開して警戒を担当する。 最後の1つは、戦獣騎兵などが接近してきた場合に邀撃する、戦闘能力の高い連中をかき集めるのだ。 可能な限り馬車列よりも遠距離で迎撃すれば、馬車列の被害はある程度は抑えられるだろう。 多分。 直衛護衛艦とレーダーピケット艦、そして迎撃機とか、そんな風に考えれば、空母機動部隊の護衛方式っぽいかもしれない。「 ――聊か、人手を要しますけど、これならある程度の対応が可能です」「人手か。ゲルロト、今の郷土隊はどれだけ残っている?」「61人、だぞ親父殿」「うむん。あーブラウヒアの。そっちは何人くらい使えるのがおる?」「アルハンです。私も含めて、武器を持っているのは10名も居ない。若い者で自衛団を組んだが途中で戦獣騎兵に見つかって………」 アルハンさんの顔色が悪い。 殿を務めて喰われた、となれば、生還は期待出来ないのだろう。 難民の取りまとめ役としては、嘆く他はないだろう。 悲しい話だ。 が、今の問題は兵員数だ。 俺やエミリオを入れても、70名チョイって感じだ。 厳しい数値だと言えるだろう。「何とか出来るか、ビクター?」 え、更に俺に話を振るの? と驚くが、驚いたのは俺以外にも居た。 まだ若い、というか子供が怒ったように立ち上がった。「コイツは余所者じゃ、親父!!」 子供か。 その反応はデスヨネー だ。 俺だって、余所者に村の命運をとか言われると、退くってもので。「だがヘイル、クルトの話だとビクターは南の大国の軍学校を出たと言う。戦の知識はわしらよりもあるじゃろう。その意見を聞かんでどうする」「じゃけど、余所者じゃ!!」 不満げに叫ぶヘイル。 今まで自分には発言を許されなかったのに、俺には意見を求めたので、気分が荒れている模様。 若いって思う。 跳ねっかえりってのは、若さの特権だと思う。 というか、俺って余所者なので黙って聞いておこう。 あぁバター茶がウメェ。「黙らんか。命が掛かっている時に、余計なことを考えるな」「じゃっけども!」「わしは、村長が黙れと言うとるんじゃ。ヘイル、お前は村長の言葉に不服か?」「不服じゃなかです」「判ればよい。座っとれ」 静かになった室内。 バター茶を啜る音がしない様に気をつけよう。「良い機会だから先に言う。俺はビクターを信じるど」「兄ぃまで!?」「馬鹿たれが。身一つで戦獣騎兵に仕掛けて勝った男ぞ。信じる理由は十分じゃ」「言っておくがヘイル、俺と第2班もだぞ」 ゲルロトさんが重々しく宣言し、ストークさんも同意しやがった。 期待が少しだけ、重たい。 というか個人的武勇と作戦の立案と指揮能力って別ものなんだけどねとか思ったり。 基本的にそこら辺は、学校でもレニーに頼りっぱなしだったので、ブッチャケて不得手だったりする訳で。 が、人命が掛かっているので頑張りましょう。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント2-05会議は踊らず、ただ進む(ウダウダやっている暇は無い! 村の中枢な人たちって、基本的に郷土隊ってので軍役を得ているので、基本的な部分では話を進めやすかった。 ここら辺、トールデェ王国の属国としてといか、北方邦国群の構成国として、軍を重視している影響だろうか。 跳ねっかえりなヘイル君は、まだ参加した事が無かった模様。 郷土隊に入る前の子供たちが、村の手伝いをする青年組という組織のトップだった模様だが、そこで天狗になってしまっていたご様子。 親兄が出来物系なので、弟もと煽てられたりしたのだろう。 が、それが通じたのは子供の社会だけで、大人の世界だとさっきの如く調子に乗るとペチコンされる訳で。 その意味では可愛そうなものである。 兎も角、実務的に話を進める。 基本的な部分はさっきの3班編成で、人員の配置や班の編成。 そして避難する際の手順や荷物に関しても決めていく。「避難に於いて優先すべきは速度です。それ以外の要素は切り捨てます」 言い切る。 馬車は限られている為、当座の食料と金品以外の家財道具の持ち出しは禁止。 家畜の連れ出しも禁止。 中々に厳しい条件が決められていく。 が、<黒>の大部隊が迫っているかもしれないのだ。 避難時の速度を遅くする様なものは極力、排除する必要があった。 戦争とは、非情なものだと深く思う。 かなり真剣に。「仕方が無い、か」「はい。戦獣騎兵が2騎、逃げられてます。万が一、アレが本隊を連れてきたら………」「対処は出来ぬ、か」 この村の城郭もそれなりのレベルで整備されてはいるが、流石に4桁以上の連中に襲われると心許ない。 というか、無理。 兵士が居ないのだ。 彼我兵力差が10倍超えているんじゃ、抵抗しようがない。「それでは村人が納得せんぞ、村長」「命が掛かっている。無理でも納得してもらう。ブラウヒア郡が蹂躙された状況で、四の五のは言わさせん。明日の朝までに出立の支度を済ま無い分は置いていく」「やれやれ、今日は眠れそうに無いな」「徹でしろ。でなければ起きれん眠りになる可能性があるぞ」「判ったよ、村長殿。誰か、村衆へ布告を ――」 手早く物事を決断し、進めていく。 既に<黒>の脅威を実感しているが故に、だろうか。 というか、村長であるアデンさんがかなり決断力があるんで、助かっている。 これ、優柔不断だと、物事が動かないから大変なんだけど、その点は実にグッドって事で。 そして最後は部隊の編制だった。 3つの部隊。 哨戒、直衛、迎撃。 哨戒に関しては、青年団からも人を出す事が決まった。 若いのに危険を押し付けるのは良くないが、部隊の目的が戦闘ではなく<黒>の警戒と、発見時には即時撤退を厳命という事で、決着した。 大人を班長として青年団から2人出す事で3人を1班として6個班、18名が選ばれた。 ヘイル君も参加している。 交代要員が居ないので、村から郡都までの一昼夜動きっぱなしになるが、頑張って貰うしかない。 直衛は、郷土隊の生き残りに軍役経験者を入れて、ありったけの武器を持たせて編制。 3個の班を編成して、それぞれに指揮官は配置したけど、どこまで戦えるかなんて未知数を通り越す。 ゲルロトさんが指揮官だけど、兵卒の質が、もう訓練もクソも無いってな有様だ。 ぶっちゃけて、民兵だしね。 尚、エミリオ達はこのチームへの協力をしてもらう予定。 で、迎撃。 これは、生き残った郷土隊でも腕に覚えのあって、度胸のある奴らを選抜して編制。 何で度胸かと言えば、28名しかいないのに、必要であれば戦獣騎兵相手だろうがゴブリンの戦列だろうが、相手構わず突撃をせにゃぁならないからである。 迎撃班が相手に突撃して、相手を混乱させている間に、避難の馬車列は脱出するのだ。 うむ、実に無茶な部隊である。「隊長は、私が」 ストークが志願する。 透明な笑顔をしてやがる。 あー、コレはアレだ。 死ぬ気になってやがる。 提案した俺が言うのもナンだけど、アレだよね、迎撃班って。 決死よりも必死寄りと言うか、ね。 なので、責任を取る形でも俺も手を挙げておこう。「じゃぁ私も、志願という事で」「ビクター? いや、村人でない君が危ない橋を渡る必要は無いぞ」 うむ、ストーク。 止めてくれるか、良い奴だ。 が、ぶっちゃけて俺、勝てなくても死ぬ気はないので問題無し。 コボルトやゴブリン相手に脅威は感じられない訳で。 後、危ない事の提案者が、逃げるってのは気に入らないのだ。 正直な気分としては。 迎撃班ってのは、馬に乗る事になるのが憂鬱だけど、それは我慢しよう。「わしとしては願ったりやが、良いんか?」「させて下さい」「ならば、頼む」 ある程度、話が纏まった所で、夕食となった。 肉が大量に振舞われている。 持って行けない分で、日持ちしないのを消費しきる予定だという。 肉たっぷりの煮込み料理とか、ウマウマである。 旅していると、どうしても食料調達の面での問題から必要最小限に食料の消費は削る傾向があるんで、こう、肉が大皿で来ると嬉しいものである。 炙った羊肉、ウマウマである。 香辛料がもう少しあると嬉しいけど、まぁ贅沢は言うまい。 塩っけが効いているだけでも有難い。「良いか?」 ストークが来た。 右手には杯がある。 左手には瓶がある。 うむ、昼の約束を果たしにきてくれたのだろう。 振舞い酒じゃ、アレだね、善意を無にしちゃ駄目だよね。 有難く杯を受ける。 有無有無、馬乳酒だ。「先ずは乾杯だ」「勝利に?」「明日に ―― 乾杯」「乾杯」 飲む。 チョイとクセがあるが、なかなかに旨い。 でも、アルコール度数は低そうだ。 飲みやすくて良いし、この後もあるので、酔っ払う訳にはいかないから、コレで良いのだけど。 良いのだけど、少しだけ、残念だ。「初めて飲むが、旨いな、コレ」「俺の母が仕込んでいる。旨くて当然だ」「そうれは嬉しいな」 杯を重ねる。 ウマウマである。 余り酔った気にはならないけども。「ビクター、お前はどうして遊撃班に参加するんだ」 ストークが、ポツリと漏らした。 酔っていない目だ。 真剣なので、率直に返す。「勝率を上げるためさ」 言っちゃ悪いが、この場に居る誰よりも俺は強いのだ。 多分。 ざっと見た限り、ウチの母親様クラスの人間は居なかった。「危険だぞ」 顔をしかめているストーク。 そんな顔をしていたら酒が不味くなるぞ。「邪魔か?」「それは無い。だが、有難いが………」 好んで危険に飛び込む理由が判らない。 判らないからモヤモヤしたりしているのだろう。 良い奴だ。「俺の仕事は、護る事だ」「クルトさんの隊商だろ?」「いや、より狭い部分で、護るべき人が居る」 クルトさん達も護る積もりだが、最優先はミリエレナとエミリオの護衛だ。 あの2人を護る事こそが最優先なのだ。 で、護るために直衛班に参加していたとする。 迎撃班が失敗して、避難の馬車列に<黒>が迫ってきたらどうするだろうか。 うん、間違いなく矢面に立とうとするだろう。 護れる ―― なんて、とても思えない。 護るべきものは多すぎて、ある意味で広すぎるから。 そうなっても戦うだろう。 多分、死ぬまで。 まだ短い付き合いだが、その程度は判る。 だから、なのだ。 直衛班が戦闘をしない様に、俺は俺で努力するのだ。 2人には、クルトさんの馬車を護っていてとか、ああ、そうだ。 ウチの馬車は乗り心地が良いのでって事で妊産婦を乗せ、その護衛とか言えば、2人は引き下がるだろう。 多分。 うん、俺、頭良いね。「理由がある。だから俺は遊撃班に参加する」 護衛と言えば、戦獣をミリエレナが使い魔にしたので、微妙に俺の価値って下がった気がする。 うん。 気のせいだろう。 そう言えば、名前は決めたんだろうか。「じゃぁいっそ、指揮官にならないか?」「それは遠慮するよ。ガラじゃない」「トールデェの軍学校を出たと聞いたけど?」「それは、ね。だが駄目だ。誰だって頭にするなら見知った人間の方が良い筈だ」 特に、死地に飛び込もうって事なら。「それもそうか」「なんで、俺は指揮官より突撃隊長を任せてくれ」「判った。よろしく頼むよ突撃隊長殿?」「任せて貰おう、指揮官殿」 杯をぶつける。 乾杯。 ちょっとだけ。 そう、ちょっとだけほろ酔い気分で隊商の所へ戻る。 諸々の報告とか、役割分担に関してエミリオ達に言わないといけないからだ。 戻る先は、村の入り口の近くに設けられた隊商宿所。 村営で、馬は勿論馬車まで入れられる、大型施設だった。「ただ今ですっと」 荷の確認をしていたヒルッカさんにご挨拶。 後、旦那さんは隊商で行う協力とかの事で、帰ってくるのがまだ遅くなる事を報告しておく。 だってこの人が隊商の実質的支配者だから。 クルトさんって、商人としてはやり手っぽいけど、お人よし指数が高い人なので、〆る人が居ないとどうにもならない訳で。「ご苦労様。活躍だったみたいだね」「それなりに、ですけどね」「おやおや。おっきなのが来ているのに?」 戦獣か。 そう言えば、デカイよね、アレは。 前に襲ってきた戦獣も大概だったけど、今度のは輪を掛けて大きい。 ポニークラスの狼って、どんだけって感じだ。「驚かせてすいません」「いいよ、可愛い感じだし。そうそう、ミリエレナが貴方を待ってたわよ」「え? 何ですかね」「名前をって言ってたけど?」 何のことだかさっぱりだ。 ヒルッカさんが言うには、洗い場で衣類を洗ったりしている筈だと言う。 この騒動で洗濯? と思ったのが顔に出たらしく、ヒルッカさんに笑われた。 次に洗濯できるのが何時になるか判らないから、井戸の使える今のうちに溜まった物を洗うのだという。「そりゃぁそうですね。じゃ洗い場に行って見ます」 隊商宿所に備え付けられた洗い場は、真夜中だけどエミリオの魔法によって昼並みの明るさが保持されていた。 うむ。 魔法って本当に便利だ。 そんな洗い場で隊商の女性陣がザブザブと衣類なんかを洗っている。 いや、エミリオも混ざっている。 エミリオは、ミリエレナがする事であれば何でも参加したがる所があるから、納得である。 子犬属性と言うべきか。「お疲れ様です」 ご挨拶って大事だよね。 すると、ミリエレナが寄ってきた。 顔つきは、割と真剣。「どうしました?」「あの子の名前を決めてませんでしたから」 指で指し示されたのは、洗い場の傍で寝そべっている戦獣だった。 穏やかな表情で、隊商の子供達をお腹の所でだいている。 なんだろう、この癒される絵は。 今後、戦獣を殺しづらいじゃないか。 いや、まぁ歯向かったら普通に殺すけど。 一寸だけ、躊躇しそうな癒しの絵だ。「ミリエレナさんの使い魔ですよ? 自分で決めて良いとおもうのですが」「だって、ビクターさんが最初に拾ったみたいなものですから。ご意見を聞こうと思いまして」 それに、何かパッと似合いそうな名前が思いつかないってのもあった模様。 ですよねー だ。 神話ネタで決めようとしても、戦獣ないしは狼って大抵は悪役っていうか、<黒>の使役獣での登場が殆どなので、良い名前が無い。 名前か。 うむ、名前が無いと不便だし、その意味では決めてやりたい。 フェンリルは、強そうだけど不吉過ぎ。 ホロは、いや、アレはアレで。 ロボは、うーん、色がどうにも。 モロは、いや、色的には似合いだけど、コイツはそもそもメスなんだろうか。 色。 色は白を基調として、金色がある。 白も、使い魔に契約したときは真っ白だったけど今では、銀色にも似た深みが出ている。 そう言えばツンドラ狼って、確か白基調だったよな。 だけど、そっから名前を引っ張ってくるのは、どうにも難しい。 だってロシアなネーミングは知らんし、な。「何か、無いですかね」 期待に満ちた眼差し。 というか、何故か洗い場の人間が皆してコッチを見ている。 そんなに期待してもらっても、その、困る。「ビクターさんって、博識ですから」 お前かエミリオ、原因は。 というか、わが事の様に褒めるな、照れるじゃないか。 宜しい、明日の朝練ではタップリと絞ってやろう。 愛の鞭だ、愛の。「因みに、案は無いの?」「一応、神話で登場するグラーバスとか、或いは直接的に白狼とか、ですかね」「白狼は直接的過ぎるけど、グラーバスは何で駄目なの?」「いや、グラーバスって “犬” なんですよ」「あぁ、納得」 オケィ、じゃぁ真面目に考えて見よう。 神話ネタは微妙だったので色から。 そう白を基調として、金色が1部配されている。 しかも単純な白じゃなくて、深みのある銀色に近い色。 白銀、か。 悪くないな。「Sirogane って、どう?」「し?」「Si Ro Ga Ne ―― しろがね」「“しろがね” と」「そうそう。遠い国の言葉で、銀色を意味する言葉だよ」「いい名前です。今から貴方の名前はしろがねです」「ワフッ!」 提案した俺が言うのもナンだけど、即決したよ、この聖女様。 グダグダ悩むよりは良いけど。 後、戦獣も気に入ったっぽい反応で何より。「うわっ!? 何で狼がこんな所にっ!!」「あ?」 慌てた声に振り返ったら、洗い場の入り口にはヘイル君が居た。 ビビった顔でしろがねを見ている。 戦獣、このサイズの狼を見て腰が引けるのは普通だよね。 しろがねの腹に子供を寝かせてられる、隊商の母親s’の正気を疑いたいよ。 ヒルッカさんの薫陶が行き届いているのかしらん。「私の使い魔です」 にっこり笑顔を見せるミリエレナに、ヘイル君、頭を掻き毟る。「なんじゃ、信じられん!?」 その反応は、正直、否定しづらい。 が、そもそも何用だ? ヘイル君。 こんな時間に。 俺の質問にヘイル君、背筋を伸ばして睨み付けてきた。「決まっとる。ビクター、貴方に決闘を申し込む為じゃっ!!」 おーいぇー 流石にそれは予想外。