見上げた空は、見たこともないものだった。 ないない。 それはない。 阿呆な連想し、そこで鈍痛を自覚して額に手をやる。「うぅっうぅ」 痛いのは額だけじゃない、顎周りも痛い。 てゆうか左側だ。 フック気味に殴られたか。 何が何事、何故に。そんな疑問符だらけの気分。 ド畜生。 てゆーか、奥歯がグラグラする。 乳歯なのが救いか。 永久歯が逝ってたら、泣くじゃすまない。 てゆーか状況、どうなった? 子供は? 敵1号と2号はどうなった? 周辺確認を――と腹筋に力を入れて体を起こす。 ゾンビみたいに。「っ!」 腹も痛い。 体中が痛いと悲鳴を上げている。 クソッタレ。 ファック。 シット。 シッパル。 ありとあらゆる事が気に入らない。 痛い。 世界が歪んで感じる。「起きたか?」「あっ?」 声の方を睨む。 其処には――美人が居た。 スゲェ別嬪さんだ。 クール系っぽい顔立ちは年齢不詳っぽい艶があり、髪は青みのある黒髪で、それをひっつめにしている。 一種のポニーってか、アレだ顔立ちと併せて芝村の末姫っぽく見える。 良いねぇ。 後、スラっとしたボディらいんだが、凸る所と凹む所はご立派。 云う事無しである。 が、問題はそんな魅惑な御仁が何で俺を見てる? 判らない。「大丈夫ですか?」 小さな声が投げかけられた。 見ると子供だ。 手には濡れてるっぽいタオルがある。「無事だったか?」 どうなったか判らないが、僥倖だ。 この場が外なのだ、幽閉されている訳じゃない。 美人さんが敵を追い払ってくれたのか。 剣を佩いているし、その雰囲気は素人じゃないし。「わっ、私は大丈夫です。それより――」「なら良い。助かったみたいだな。俺は間抜けを晒したっぽいが」「そんな事、無いです!!」 イジケタ様な事を口にしたら、子供に怒られた。 いやだって、助けたのって俺じゃなくてその美人さんでしょに。 そんな気分で視線を美人さんに合わせたら、急に頭を下げられた。 何故に。「すまなかったな、勇敢な少年」 口でも誤られた。 何故に。 その疑問は、直ぐに氷解した。 要するに、敵2号さんの正体は美人さんだったのだ。 んで、美人さん的には俺は親から子供を掻っ攫っ風に見えたそうな。 なんでーと言うか、見えなかったんでしょうな。 薄暗く、良く見えづらい裏路地。 打ち倒された大人で、そこから子供を連れて逃げ出す俺。 んで、何をしていると問い掛ければ光物を抜く始末。 あぁ、そら俺でも敵――と言うか、不法で不埒な奴に見えるわな。 だからぶっ飛ばした訳だ、美人さんは。 教育的指導ってな感じでフルパワーで顔を殴ったらしい。 体中が痛いのは、殴られた勢いで壁に叩きつけられたかららしい。 バケモノめ。 ウチの母親様並だ。 んで、絞り上げようとしたところを子供が俺を庇い、しかも、大人は逃げ出したんで、真実が見えた、と。 畜生。 自業自得かよ。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント0-03自業自得さー 子供を護って悪漢に一撃食らわし、悪党に間違われて美人に一撃喰らった今日。 家に帰る気分はドナドナ。 護ろうとしただけなら気分は宜しいのだが、何とも、美人さんに切りかかったってのも間抜けなら、何もしないウチにボコられたのは恥以外の何でも無い。 ド畜生。 どーでも良いと思って帰ろうとしたら、美人さんに止められた。 親御さんに詫びを入れに行きたいとの事だった。 義理堅い人って訳では無い。 何でも、ウチの母親様のお知り合いだそーな。 名前はマーリン・シンフィールドさん。 うん、なんぞそのウチに森に封じられる魔法使いっぽいってか、Pで51なナニを生まれ変わらせたりとか思うのがプチな軍オタ故にだと思う。 アノ世界の、魔法染みたハイテク兵器ってどうなたんだろ。 立憲君主式の世界最古の帝国は、C-XとかTK-Xとかどーなたんだろ。 畜生、いまじゃマジで妄想するしかない。 ツマラン。 それはさておき。 マーリンさん、最近は行ってなかったから俺は顔を知らなかったが、赤子の頃の俺を見た事があるそーな。 チート少年の俺様だが、流石に眼球周りが完成していない頃の事までは判らない。 が、まぁ美人さんが言うなら、そうなのだろう。 美人=正義は世の法則なのだから。 うん。 んな訳ねーか。 ぶっちゃけ、勝てない気がするだけで。 主に、雰囲気的に。 実際、一撃で沈められたしね。 畜生。 まっ、それはさておき、だ。 後ろを振り返る。 マーリンさんが子供と会話をしながら歩いてくる。 何故でせう。「その子、どうしたんですか?」 ここら辺は既に内堀の中。 そこそこに金がある人たちの居住区だ。 甚だ失礼な話だが、子供の格好からすると、こんな所に親御さんが住んでいる用には思えない。 連れてくる理由が判らない。 それ故に直球な疑問を口にする。 この街が安全に限らないのは先ほど実証されているのだ。 なのに親元から引き離す理由が判らない。 そんな俺の疑問への回答は、何ともファンタジーなものだった。 曰く、子供は父親を探しに王都に来たのだと言う。 子供が生まれ育ったのは、王都から少し離れた山間にある村。 名前はマバワンと云う小さな村。 ぶっちゃけ寒村で、それに嫌気が差した子供の父親は、子供が幼い頃に冒険者に成ると、村を飛び出したのだ。 育児放棄キタコレだが、まぁ嫁――ってか、子供の母親の実家がそれなりに裕福だったので、今までは何とか生きてこれた。 が、最近、村の周辺でゴブリンが出没する様になって来たのだ。 緊迫する村。 ゴブリンの出現は、<黒の軍>の前触れ的な要素が強いのだ。 だから子供は、冒険者として身を立てている父親に、村に戻って来てもらおうと王都に来たのだと言う。 何とも健気な話だ。 そして同時に、子供の格好が土ぼこりにまみれている理由も理解した。 旅塵なのだな。 王都の北方、マバワンのある山地は水分が乏しい地方なのだ。 そら、そんな辺りを旅してくれば塵にまみれるってモンだ。 てゆーか、にしては荷物が少なく思える。 マバワンって村の位置は知らんが、その山地自体は人の足で3~4日は掛かりそうなモンなのだが。「荷物と金は、盗られたそうだ」 マーリンさんの言葉に、子供が俯く。 暗くなる。 生き馬の目を抜く大都市は、田舎から出て来たばかりの子供には辛かったか。 同情心が更に加算する。 基本的に子供好きな俺としては、そーゆー雰囲気の子供は見て居たくない。「そう言う訳でね。一度知り合ったからには最後まで面倒を見るのも当然だよ」「手伝います」「おっ、男の子だな」「男児と言って欲しいですね」「どちらにせよ、その意気や良しだ」 莞爾と笑って、ナンゴナンゴと頭を撫でてくるマーリンさん。 精神年齢30歳Overとしては、ビミョーに恥ずかしいが、同時にナンか嬉しい。 ヤッパ、美人は良いね。 とっても良いね。 そんな良い気分のままに、子供を見る。 そして頷く。「僕も手伝うよ、お父さんを探すの」「有難う………」 短い言葉で止まった途端、子供は俯いて泣き出した。 小刻みに肩を震わせ、地面に水滴を落としていく。 ゑ、何事? マーリンさんを見る。 苦笑している。 ナニ、俺が何をした。 乾いた地面に広げられた染みは、段々と広がっていく。「その、ナニ、うん、大丈夫だから、大丈夫。ホント」 愚図る単車なら、簡単に慣らす事が出来る。 クラッチ切ってスロッル回して派手に派手にバンス管を響かせたりとか、或いはチョークを引っ張ったり、アイドリングの回転数を上げたりとかさー 簡単なのに、どうして。 オンニャノコは判らんですよ!! マジデ。「焦るな、ビクター君」 無茶ゆーな。 ナンと言うか、子供の涙は大人を焦らせるのっての。 俺ぁ大人だよ? 体は子供だけれども。「いや、うん。だから俺も君の父親探しを手伝う。大丈夫、直ぐに見つかるさ、直ぐに」「………」 肩の動きが大きくなった。 泣き声こそ上げていないが、染みの広がりが早くなった。 いや、マジでコレは胃に来る。 子供が声を殺して泣くな、頼むから。 右見る、左見る。 救いの手は無い。 マーリンさんは手を動かしている。 えぇーっと、ハグしろと? ゆーとる模様。 ファック。 何故、何で、何が。 あっぱる、慌てる。 マーリンさんが顔を近づけてくる。 助言か、とっとと、そして明確にプリーズ、ギブ、ミー! だ。「男の子だろ、責任を取れ」 なんぞ、それー! と叫びたく成った瞬間、俺の頭に雷が落ちた。 それこそドドーンっと。