ある日。 具体的にはピクニックの翌々日の朝、ベットで朝の惰眠を貪っていたら唐突にノウラに怒られた。 何を仕出かしたのですか、と。「へ?」 寝ぼけ眼でノウラを見る。 緊張か興奮かは判らないが顔が赤い。 そして突き出された手が怖いです。 何か白っぽいものを持っているみたいですが、プルプルと震えていて良く見えない。 ついでに言うと、反対側の手で持っている仕込箒も怖いです。 自重10kg近いって思うような鉄芯入りの箒って、発案者の正気を疑っても良いと思うのですよ。 何を掃除するつもりでしょうか。「何事よ?」 サヨウナラ、麗しのベットよ。 そしてコンニチワ、面倒な現実よ。 手に取った白っぽいモノ。 手紙だった。 こんな早朝(多分)に勤勉な郵便配達もあったものだとノンビリとひっくり返して見たら、目が覚めた。 蝋封の紋章が、王国公式機関印であったからだ。 慌てて、片隅のサインを確認する。 差出機関は、宰相府となっている。「………普通じゃないですよ、宰相府の呼び出しなんて」 冷静に考えれば神託がらみだというのは簡単に推測できる。 推測出来るが、冷静に考えられない。 それが一般市民の感覚ってものかもしれん。 しかし、涙目っぽく此方を見ているノウラ。 両手でしっかと箒を持っているのが、どこか幼く見える。 ベイビー そんな風にしないでくれ。 余りに可愛すぎて、キスをしたくなるから。 異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント1-08漸く登場、かも? 手紙の内容は出頭令状であった。 本日昼頃に宰相府に宰相府に来られたし、との。 トールデェ王国宰相府とは王都の中枢、王城に付随して立てられている建物群の1つである。 格式ある建物は、宰相にして三頂の一角であるダニーノフ伯爵家の当主である、オーガスト・ダニーノフ執務している場所だ。 宰相ダニーノフ伯が、国内の治安等も担当する内務卿を兼任しているからと言って、ノウラが危惧するように何かをしでかしてと云う訳ではない。 ピクニックに行ったときに、酔っ払い複数を泉に叩き込んだが、別に罪に問われる事では無い。 どっかのキモギモは、別に問題なし。 無いというか、翌日にご家族から丁寧な文面の詫び状が届いて、こっちが恐縮したものである。 詫び状を持ってきたメイドが、「坊ちゃんを護ってくださって有難う御座います」と真摯に頭を下げられた。 どうやら蹴っ飛ばした目的は、きっちり伝わっていた模様。 何だろう、普通に家族やらメイドさんから愛されている模様なキモギモ。 チョッとだけ羨ましい。 チョッとだけだが。 尚、抜剣した無粋な酔っ払いに関してはもっと単純だった。 所属していたのが<北の大十字>傭兵騎士団だったので、其処経由で絞ってもらったのだ。 基本、傭兵の<北の大十字>傭兵騎士団ではあるが、有事には国軍に放り込まれるのだから愚連隊じみた行動は宜しくないわけで。 ええ。 騎士団長から直々に絞り上げられたそうです。 多少、可愛そうだと思わない訳でもないですが、餓鬼相手に抜剣するんだから、仕方が無い。 というか下っ端の貴族やらぽっと出の成金の身内程度、或いは立身出世でも夢見た傭兵如きに出張る様な立場じゃないのだ、宰相や内務卿と云う身は。 精々が内務卿の下にある警務局が対応する程度。 本来は王都警護騎士団が話を聞く程度の事なのだ。 宴席の出来事なんてものは。 と云う訳で呼ばれた理由。 それは推測どおり、オルディアレスの海大伯に買収されて決まった冒険に関してだった。 そりゃぁもう、王都警護騎士団の地方詰所で、となる筈がない。 とはいえ、呼び出しを掛けて来たのは、ダニーノフ伯ではなかったが。 その下の下の下の人。 宰相府次官補神宮局主事なる役職の人が差出人だった。 宰相を支える次官の補佐役で主に神宮局、宗教分野での現場トップとでも呼ぶべき人だ。 まぁ当然である。 トールデェ王国に於ける宰相とは、女王の補佐役として軍務や外務と云った7つの大臣を束ねる8卿議会を主催し、国を運営する最前線に居るのだ。 そんな忙しい御仁が、俺みたいな下っ端の貧乏男爵家嫡男を相手にする筈が無いってなもので。 というか、神宮局主事ってのも本来はもう少し格上の人を相手にする筈な人の筈で。 ここら辺、オルディアレス伯の肝煎りな事に俺が参加するからの事かもしれない。 兎も角。 ウチに送られてきた出頭令状を入り口で差し出したところで案内されたのが、豪奢な装飾の施された部屋。 やや威圧感のあるそれは、国政を司る場所にあっては必須のものなのかもしれない。 いい加減に考えるに、だが。 そんな部屋で暇している俺。 勇んで来たが、呼び出し人の神宮局主事殿だがどうやら仕事が立て込んでいて、直ぐには来れないと云う。 中央政府の役人さんなので、色々とあるんでしょう、色々と。 それは仕方が無いのだが、正直、だらけられないのが辛い。 正装とまでは行かないが、貧乏貴族とは云え、その嫡子として相応しい程度の格好をしてきているのだ。 背広を3回り程度、派手にしたような格好なので首が絞まっているのだ。 しかも、1人で応接室に居るのでは無く、部屋付きっぽいメイドさんが静かに立っているのだ。 これが益々、息苦しい。 お茶とか淹れてくれるけど、話し相手にする訳にもいかないのだ。 身分差で、なんて訳じゃ無い。 そんな下らない理由なら、ちり紙にして鼻かんでポイってなものだが、別にチャンとした理由があった。 隙を見せる訳にはいかない、という。 ウチの親、親父殿は宰相府貴族院に勤めている。 要するに同じ建物なのだ。 貴族院と神宮局とは所属が異なるとはいえ、どこで話が通じるかなんて判ったものじゃない。 隙を見せる訳にはいかないってものだ。 親父殿に恥をかかせる訳にはいかないし、失態が伝わっても恥ずかしいのだ。 こうなると、ボードの某水戸黄門な大統領閣下がチョイとだけ羨ましい。 主にフリーダムさが。 本当の意味で、強いのかもしれない。 弱い俺は、背筋を伸ばしたままに椅子に座って茶を飲むだけ。 そうだね。 この場にオデコちゃんでも来てくれれば癒されるんだけど、居るのはハイミスちっくなメイドさんのみ。 いや、結婚してるかもしれんが、このツンとしたクールさってどうなんで御座いましょう。 アレ? 実に魅力的じゃないか。 今、気がついた。「?」 下手なことを考えていたのを見抜いたか、不審げに此方を見るそのクールな眼差しなど絶頂すら覚える。 嘘です。 でも、弄りたくはなるよね。 しないけど。 だって怖いから。 弄ったのが親父殿にバレて、母親様に知られたら、きっと折檻だから。 という訳で、強い母親様に躾けられた俺は、脳内でメイドさんを弄ぶ事を選択する。 外見はポーカーフェイスのままに、ねっぷりと。 リアルで出来ない分、そりゃぁもう、ぬっぷりと。 マーリンさんに負けっ放しな鬱憤を晴らす訳じゃ無いけど、とろっとろに。 人には言えない、おピンクに染まった脳内。 ハイミスなメイドさんを亀甲な感じで縛って揉んで舐めて、言葉でゆっくりと嬲って。 少しずつ少しずつ蕩けさせ、整った顔をアヘ顔にさせてたい。 目隠しをさせて、ゆっくりと弄びたい。 更に口腔内に指を突っ込んでねっぷりと舐めさせるだとか、下の方は触らずに焦らすとか。 そしておねだりをさせたいとか、そんな救いの無いレベルに達しようとした時に、部屋の主があらわれた。「お待たせしたかな?」 いえ、もう少し待たされてても良かったです。 そんな戯言まがいの言葉を脳内で弄びつつ見た部屋の主は、いかにもなパワーエリートって風では無かった。 ぶっちゃけて、退役寸前の好々爺染みた御仁であった。 頭髪も髭も真っ白で、ふっくりとした体格をした人物。 それが宰相府次官補神宮局主事さんであった。 宰相府の神宮局ってのは、言ってしまえば国外の宗教組織と情報をやりとりしたりする場所だ。 だから善人だって事は無い。 当たり前だ。 宗教家だって人間。 良い人が居れば悪い人も居るってものである。 まっ、それはさておく。 脳味噌のスイッチをピンクから真面目に戻して立ち上がる。 背筋を伸ばし、敬意を示して。「初めましてジョンクロード主事殿。ゲルハルド記念大学学生ビクター・ヒースクリフです」 一応、この御仁も貴族である事を示す装飾をしているが、公職の人間は役職で呼ぶのが通例なので、主事と呼ぶ。 でも時々、嫌がる人も居るので要注意だ。 伯爵家当主とかの場合、役職よりも身分が高いので「低く見られたor見やがった」と臍を曲げる人が居るのだ。 面倒な話である。「うむ、私が神宮局主事ジャン・ジョンクロードだ」 鷹揚に応じてくれるジョンクロード主事さん。 どうやら臍の曲がった御仁では無かった様である。 年齢的に人が出来ているのかもしれない。 有難い事である。 しかし、冷静に考えるとアレだ。 役職名に神宮の文字があるのに、コーカソイドっぽい人ってのに違和感を感じるのは、俺の根っこがまだ日本人なんだろうな。 さて、世間話を少々。 天気の話だの何だのと益体も無い会話だが、しない訳にもいかない辺り、以外に面倒くさいものである。 しばしの時間。 淹れ直して貰ったお茶が席に置かれると同時に、本題に入った。「さて、学生ビクター。今日君を呼び出したのは他でも無い。神託に関わる事だ」 背筋を伸ばして聞く。「仔細は聞いているだろうが、先日、神託を遂行する事が御前会議にて了承された。よって本日より神託の遂行は勅命に準じる事を理解し、精進したまえ」「はい。全力をもって務めます」 立ち上がって敬礼をする。 背筋を伸ばして直立不動、両手は手の指を伸ばしてズボンに添える。 そんな簡素なものだけれども。 トールデェ王国軍にも正式な敬礼は存在するけれども、まだ軍にも属していない俺が、それをする訳にもいかないのである。 対してジャンクロード主事さんは右手を左胸に当てる文民答礼をし、軽く頷いた。 ここら辺、ある意味で儀式っぽいが、敬意の交換とかそゆうのは組織の潤滑剤でもあるので重要なのである。「宜しい。ついてはこの任へ君が就くにあたって、正式な騎士籍が与えられる事となった。おめでとう、従騎士ビクター」「有難う御座います」 従ではあっても騎士爵賜るなら、お手当てが貰えるのだ。 これは素晴らしい。 軍籍簿にも名前が載る事になる。 これも素晴らしい。 キチンとした社会人への第一歩ってなものである。 将来設計としてはマーリンさんの所に行って爛れて淫らで鉄火まみれな人生を送る予定だけれども、地位も金も無いよりはあった方が良いのだ。 尚、将来的には男爵位を継承する予定ではあるが、それよりも嬉しいものである。 与えられるのでは無く、自分で得たと云う意味で。 正確には、実績をもって得たのではなく、任務の為のってな面が強いだろうが、であれば、相応しくなってやれば良いだけなのだ。 がんばれ、俺。 しかしそう考えると、二歩目で国外“大”遠征って辺り、どうよってなものではあるけれども。 女王の勅を受けてのだから、まぁ酷いことにはならないと思うけど。 多分。 だと良いなぁ。 兎も角。 従騎士位だ。 その叙勲とかは、正式に任務を命じられる際に行われる事となるそうだ。 他に、任務の為に与えられる予算やら何やらを詰めていく。 淹れなおされたお茶が温くなる頃、細かい事は終わった。 発注済の馬車とか、装具の代金も漏れなくゲット。 +αで、旅装とかのお金も貰えた。 外套は当日に魔法の付与されたものが、下賜されると云う。 至れり尽くせりだ。 流石は国営事業だと感心する次第。 まぁ、国からすればはした金なのかもしれないけれども。「所で従騎士ビクター、君はもう同行者である神官補エミリオと逢ったかね?」 金があることは良いことだ。 そんな事を考えながら資料を見ていた為、振られた話への対応が遅れてしまった。「はっ、あ、いえ、残念ながら」 べっ、別に必要経費で認められる額に、目が眩んでた訳じゃないからねっ! ってなものである。 誰得の脳内ツンデレモードである。「それはいけないね。幸いに今日、神官補エミリオは軍務府に居るという話だ。紹介しよう」「宜しくお願いします」 そうして連れて来て貰ったのは、軍務府。 王国の誇る2個の王立騎士団や諸侯軍を管理し、物資の補給なども担当する場所である。 意外な話では無いが、ウチのゲルハルド記念大学も、その設立経緯から判る通り、ここの管轄である。 学校からインフラ整備、果ては国外からの援助物資の分配とかもしていたりする。 何だろう、錬金な軍事国家を連想する。 するけど一応、トールデェ王国の方が健全だ、きっと。 建物が質実剛健というか、装飾性皆無の要塞構造って時点でアレではあるが。 ていうか攻城兵器や大規模攻撃魔法にすらも抗甚で出来る、分厚い構造を採用している。 何だろう、外周部に至っては、装甲の隙間を人が歩いている。 そんな印象の与えられる建物。 それが、軍務府なのだ。 王城の藩屏としては、正しい姿なのかもしれない。 そんな、物理的にも重い雰囲気がある通路を抜けた先。 そこは300m四方程度の空間━━練兵所だった。 王都に駐屯する軍事組織は3つある事を考えれば狭くはある。 が、王都とその周辺の治安維持を担当する王都警護隊は本部が内堀から外の区画に置かれていて関係は無く、ウチの母親様も参加する<十三人騎士団>がその名の通りに最大でも13人しか所属しない名誉称号的騎士団である為、この場を使用するのは王立騎士団のみだ。 その王立騎士団だが定数2000名の大所帯ではあるが、現在所属しているのは1500名程度。 しかも、野外に出城ってか支城みたいな防衛拠点を構えていて、そこが非公式には本部になっていて、支援人員や予備の兵などの殆どは、そこに居るのだ。 であれば、必要十分であった。 十分なのだろう。 まっ、他にも練兵所が用意されてもいるだろうしね。 兎も角練兵所。 多くの人間が訓練用の服装、装具を身に纏って汗を流していた。「ああ、居たね、彼が神官補エミリオ・オルディアレスだよ」 物珍しげに周りを見いていた目を、ジャンクロード主事さんの腕の示す人を見る。「ゑ?」 示す指先。 その先は、筋骨隆々とした男の背だった。「えぇ!?」 思わず、変な声を上げてしまっていた。