結論、どうにもなりませんでした。 というか、ツィーやヴィー達であるが、彼女達も基本的に今日はハイキングに来ていたとの事だった。 何でも妹達の学校だが本日、休みであったらしい。 で、ツィーやディーは、キモギモが無聊潰しにと誘われて来たらしい。 留学生であり、ある種の苦学生であるツィーは、タダで食い物が手に入るならと、ホイホイと誘いにのって、で、ディーはお目付け役にと一緒に来たらしい。 派手めな外見から意外っぽくも見えるが、このディーと云う少女は友達思いの模様。 キモギモが不埒におよんだら即、武力鎮圧の予定との事。 尤も、キモギモは発言は不埒であるが、行動は不埒で無いので、今の所は問題は無いとの弁。 とはいえ正直な話、そんなハイキングの誘いに簡単に乗っているからキモギモが調子こいて、やれ第○夫人だのどれ第×夫人だのと言い出すのだとも思う。 その意味では、ツィー達には猛省を促したい。 促したいのだが、同時にメッシー君だのアッシー君だのって表現を覚えている元・現代日本人としては、女の子って時々、怖いぐらいに割り切っているよね! とも思う訳で。 言うだけ言わせて、実利をかっぱぐ。 うん、何が言いたいかと云うと、哀れだ、と。 男は。 或いは男が。 そしてこの場では、主にキモギモが。 異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント1-07 水も滴れ男ども(俺を除いて さてさて、だ。 ツィー達もハイキングだったと云う事で、一緒に昼食を取る事となった。 個人的には、キモギモと飯を食うなんて気持ち良くは無いが、ツィーにディー、そして妹達が同意したとあっては是非も無し、である。 ん。 キモギモの意見は聞かなかった。 聞こうとしなかった。 結論だけを伝えていた。 アッチでは主催な筈なのに、決定権は皆無の模様。 でも気にしていない。 キモギモだから。 舞い上がって、「夫人たちとご飯!」と叫びながら踊っている。 何と云うか、哀れだ。 哀れみしか感じなくなってきた。 まっ、それはさておき。 調理を再開する。 と言っても、完成寸前だったので、まぁ簡単なモノではあるのだが。 グツグツと煮込まれていくシチューの良い香りが、辺りに漂っている。 腹が鳴りそうになるが、もう少しで喰えると我慢。 と言うか、女の子達の前で腹を鳴らすなんて格好の悪いマネなど出来るものかと小一時間(以下略 煮込んでいる間に、焼きなおしたパンにチーズと肉と野菜とを挟んで更に焼きなおす。 いわゆるホットサンドだ。 スパイスの効いた甘辛いタレを塗る事で、なんちゃって系テリヤキ風味ってな按配である。 野菜はピクルスっぽいモノで、歯ごたえと風味用だ。 焼き上がったら、一口大に切って並べる。 本当は大きく切って齧り付きたいのだが、残念ながら今回はツィー達にも振舞うので、このサイズと成る訳で。 鼻歌交じりに皿に盛り付けていく。 緑分が欲しいので、サラダ用にと持ってきたレタスっぽい緑菜を千切って飾る。 割と乱暴にする事で、形に面白さと立体性を持たせてみる。 本音としてはパセリが欲しいが、流石に類似品すらも無いのだから仕方が無い。 それなりって具合で完成する。 と、視線を感じて振り返る。 キモギモの所のメイドさん達と、ツィーが興味深そうに此方を見ていた。 シチュー鍋を頼んだノウラもコッチを見ているが、コレはアレだ。瞳には呆れる様な色が浮かんで見える。「なに?」「手際が良いと思いました、から」 “あの” <鬼沈め>が、と続けるツィー。 メイドさん達も可愛く頷いている。 有無、キモギモはアレな人間だが美点が1つある。 趣味は良い。 コレだけは認めよう。 揃いの、金を掛けてるっぽいメイド服。 だがパイピングや小物には、それぞれの髪の色や肌の色に合わせたモノがチョイスされている。 一般的なメイドさんの給金では買えそうに無いと思しきモノだから支給しているのだろう。 見事である。 まっ、ウチのノウラは可愛いだけじゃないけど、可愛さだって負けてないけれども。 母親様やらマーリンさんが可愛がって色々としてますから、ね。 まっ、それはさておき。 先ずは肩をすくめる。「そうは言われてもコレが俺だし、ね?」 人のイメージ、俺を決めて欲しくは無いってものだ。 というか、そもそもとして、“あの”って何だ、あのって。「仕方が無い、です。貴方は王立大学院の誇る<王女の狂剣>パークス・アレイノートに正面から戦いを挑み、互角に戦った人だ、から」 何ソレ、怖い。 怖いほどに厨二病風味な字名。 まっ、字名って押し付けられるものだから、当人の趣味趣向は問われないから、当人に罪は無いけど。 というか王女ってナニゴト? あの変態仮面的第1王女と何かあったのかよとかゆー疑問が沸きあがったので、正直に由来を聞いてみた。 そしたら答えはフルッていた。 パークスだが、第2王女の騎士をしているらしい。 第1じゃなく、第2だ。 武断派として名を馳せたわが国の第1王女ブリジッド・トールデェではなく、可憐と噂されるアルリーシア・トールデェの、だ。 おっと、ブリジット王女は最近目出度くも王太子の座に就いて、ディージル公爵の称号が授けられていたか。 故に、正式にはブリジッド・トールデェ・ディージル公爵。 武闘大会で剣を交えてなくて良かったよ、マヂで。 王太子とガチしましたってのは、武勇伝としてはヤヴァ過ぎるってなもので。 そんなブリジッド王太子が何でディージルなる公爵家の当主と成るかと言えば、建前としては王国を統治するまでの経験を積むべしってな話な訳である。 ディージル公爵領は、王都の割りと側で、風光明媚な土地で、王太子不在時には王家の直轄領であるとの事だ。 そんな土地で統治のイロハを学ぶべし、と成っているのだ。 が、実際問題として王国の優秀な官僚とかが配されているので殆どする事は無く、実質的には名誉称号でしかない。 故に変化らしい変化は、お小遣いは増える程度なのだ。 普通であれば。 そして普通ではない事に定評のあるってか、定評の出来つつあるブリジッド王太子だが、当然ながらもやりました。 やりやがりました。 そんな増えたお小遣いでやったのが自分直轄の騎士団━━ディージル騎士団の設立って話なのだから、マジパネェ話である。 騎士団の編成権は王家と公爵家にのみ許された特権であるが、ディージル公爵家は半名誉称号であった為、今までは編成される事は無かったのだ。 いや、それにしても儀仗騎士団とかなら判る。 判るのだが、このディージル騎士団はガッチガチの実戦部隊なのだ。 何でも「将来、王家の軍権をも担うものが、軍を実際に指揮した事も無くて良いだろうか? 否。良くない!」との理屈で編制されたとの話だ。 実際、その戦闘力は極めて高い。 人員の基幹に、国軍やベテラン傭兵等からヘッドハントした人材を配する事よって、訓練開始から半年の、それも100名にも満たない程度の小規模部隊であるにも関わらず、1000を超える群規模の<黒> の軍勢を正面から粉砕する事が可能なのだから、呆れる話である。 うん。 具体的な内容なのは、実際にやったからだ。 <黒>の領域に隣接するリード高原東部域での演習中に、リード公フォイク・アルレイドと、その第1総軍の構築した哨戒線を抜けて来た群規模の<黒>を発見し交戦。 これを見事に粉砕したのだ。 お陰でブリジット王太子には新しい字名、<戦姫>が捧げられていた。 あな恐ろしやの我がトールデェ王国、だ。 尚、こんな軍の詳細を一介の学生である俺が知っている理由は簡単だ。 母親様だ。 ウチの母親様も、この騎士団の部隊編制と練成の教導に参加していたのだ。 何でも、妹が王立大学院へ入学したのを機に元職である女王直轄の武力集団である<十三人騎士団>へ復帰していたので、その絡みとの事だった。 コレを聞いたとき、何だろう、酷いチート話を聞かされた気分になったものである。 ハイハイワロスワロス的な。 或いは、最早笑うしか無い的な。 ついでに言うと俺も、このディージル騎士団へ勧誘されはいたのだ。 が、まだ学生の身であるのでと、辞退したのだ。 次期女王の親衛とも成るのは、武門の誉れではあるのだけれど、なんかこーね、来ないのよ、色々と。 と言うか、ブッチャケてマーリンさんの居る<北の大十字>傭兵騎士団に行きたいので、勧誘ノーサンキューな訳である。 兎も角、だ。 話が逸れたが、そんな色気無しで血の気過剰な第1王女では無く第2王女、アルリーシアとパークスは関わっているらしい。 何でも、アルリーシアは大学院に通い始めた当初、身分を隠していたらしい。 下手な爵位とかだと問題が発生しかねないので平民、王家御用達となっている富豪の娘として。 何処と無く、エチゴノチリメンドンヤノゴインキョさん風味であるのは気にしてはならない話だろう。 きっと。 後、思わず「Goinkyosan」と呟いてしまい、ツィーに首を傾げられてしまいました。 可愛ものを見れたのは良かったけど、変な目で見られると凹むから、以後は注意しよう。 身分を隠しての通学自体は、何の問題も出る話じゃない。 と言うか、法を作る側の人間なので、問題があれば法自体を改正してしまえば良いのだけの話だから簡単だ。 問題は、王立大学院と云う場所が、コネと金さえあれば通える場所なので、身分だけしか取り柄の無い馬鹿な餓鬼学生が多いと云う事だ。 身内の権威を嵩にして、威張る他に何もできない馬鹿。 そんな馬鹿が、身分の無い美人を見て放っておかなくて、で、馬鹿が集団で調子に乗ろうとしたところに、パークスが登場してペチコンとかましたらしい。 当初は言葉で、最後は実力で。 馬鹿と、馬鹿の取り巻き合わせて10人近い人間を武力鎮圧したらしい。「凄いな、パークス」 正しい事をするのは人間にとって憧れだが、同時に、集団としての人間の恐ろしさ、或いは人から悪意を向けられる恐れを考えれば、そんな事を簡単には出来ない。 出来ないからこそ、虐めとかがこの世から無くならないのだ。 にも拘らず、それをやってのけたのだ。パークスは。 そこに惹かれる憧れる。 マジで。「はい。ですが、話はここからが本番、です」「え?」 思わずツィーの顔を見た俺。 ツィーは悪戯っ子の如く唇の端を歪めていた。 そうか、この程度で“狂”の文字が付く筈がない。 精々付けて、義勇からの“義”だろう。 て事はと、恐る恐るとツィーを見れば頷いていた。「その日の夕方、面子を潰されたと鎮圧された貴族学生が親の私兵を借り出してパークスに戦いを挑んだの、です」 その数、実に70人以上。 親の威を借りる子も子だが、私兵を出す親も親ってなものだ。 夕日の下の決闘、というか乱戦か。 で、パークスは勝った、と。 素直な想像を肯定してくるツィー。「結果はご想像の通り、です」 実戦経験もあるだろう私兵集団を相手に勝つってのは、人としてどうなのパークス・アレイノート。 尚、後片付けはパークスの後見人であるリード公爵と、王宮並びに王族貴族の管理を担当する女王府が出張ったらしい。 いや、詳細は聞きたくなかったので断ったけど。 只言えるのは、後日、その馬鹿どもを王立大学院で見る事は無かったって事で、想像出来るってものだ、と。「そんなパークスと互角に戦った貴方、です。“あの”と付いても仕方が無い、です」「う………うむ、納得した」 尊敬にも似たツィーの眼差しに、むず痒い気分を味わいながらも頷いておく。 べっ、別に納得した訳じゃ無いんだからね! って感じである。 素直に言えば、諦めたってな気分だ。 実質的に劣勢だったりしたのだが、見ている分には判らんだろうし、それに憧れを受けるのを恥じるより、その憧れを受けるに足る程に己を鍛えれば良い。 そう思う。 まっ、昨日の海大伯みたいな上の人に、過大評価されるってのは、胃の痛い話だけれども。「あら、お兄様。随分とツィーと“仲良し”ですわね」 仁王立ちの妹。 ふくれっ面なほっぺたが可愛いけど、チョッと怖い。「ん、この子も手伝ってくれててね。あー ん、ヴィーはどうした?」「ちゃんと呼んだからって、駄目です」 駄目と言われても困るってな話ではある。 が、まぁお腹が空いて機嫌が悪くなったんだろうから、手早く出す事とする。 ホットサンドは完成。 シチューも、まぁ十分には煮込まれては居る。 キモギモのってか、ヴァルバスカール家のメイドさんに目配せをしたら、万事了解とばかりにカップを出してくる。 象嵌の施された金属カップだ。 熱くなりそうではあるので、注ぐことを躊躇ったら、カップを出してきたメイドさんに笑われた。 曰く、カップは熱を外に逃がさない魔法が掛けられているのだ、と。「凄いね、コレは」 熱々のシチューを入れてもカップ自体は、ほんのりと人肌程度の暖かさ。 魔法、マジ凄い。 1つ2つ3つと、都合6つのカップに注いでいく。 アレ、メイドさん達の分が無い。「もう、カップは無いの?」 シチューが焦げぬようにかき回しながら尋ねると、メイドさんが小首を傾げた。 カップと同様に、見事な象嵌のされた野外用食器入れには、まだカップが余っている。 使い込まれているし、手入れもされている。 というか曇りの無い辺り、管理しているメイドさん達、見事である。「皆様の分はあると思いますが?」「いや、貴方達の分。美味しいよ。口に合えば良いけどね」 味見はしたけど、味覚の好みなんて千差万別だ。 美味いと思っても、それを人に押し付けるのは良くない。「匂いだけで、十分に美味しそうだと思いますから、遠慮はなさらずに、ね」 笑顔で勧める妹。 王立大学院と言えば身分差に煩い馬鹿も居る事で有名だが、我が妹がそんな程度の低い事に毒されていなくて素晴らしい事である。 かなり真面目に。 ノウラとマルティナが身内である為、かもしれない。 しれないが、それでも嬉しいものである。「あっ、でも………」 口ごもったメイドっ娘さん。 謝辞する積りかもしれないが、気にしなーい。 委細承知と言わんばかりに妹が食器入れから出した3つのカップにシチューを注ぐ。 出したのが妹で、注いだのが俺。 万が一、キモギモが狭量を発揮して譴責しようとしても、怒りの対象は俺になるだろう。 流石に懸想している妹に怒りはぶつけないでしょ。 きっと。 と云う訳でホットサンドの皿と、シチューのカップが乗せられた盆を持って、ディーやノウラ達が座っているハイキングシートの所へと向かう。 うん。 俺は手ぶらだけどね。 皿は妹に、盆はメイドさんの1人に取られた。 アッチはアッチで荷物を抱えているのに、これは私達の仕事ですと、巻き上げられた。 うにゅ。 仕事と言われては、抗しようが無いってものである。 湖の畔。 風通しが良く、見晴らしの良い場所でのランチ。 しかも可愛い子たっぷり。 これで喜ばない奴は男じゃない。 まっ、大半が妹と同世代って辺りでまロい気分は無いけど、ヴァルバスカール家のメイドさん達って若くて美人揃いなのである。 長いスカートのすっと、まくれたりとか、しっとりとした色気とか、もう素晴らしい。 キモギモ、他の全てを否定しても、美的感覚だけは肯定してやろう。 キモギモの持ち込んだ軽食も、味が良く、そしてワインまで持ち込んでやがったのは実に良し。 良く冷やして、同じく冷やした炭酸水で割って飲む。 実に美味である。 本気で趣味は良いでやがるキモギモ。 だが、妹はやらぬがな。 軽食を摘まんで、ワインの炭酸割りを飲んで、そして歌う。 持ち回りで様々な歌う。 妹が軽やかな歌を歌えば、ツィーが異国情緒のある歌をしっとりと歌い、ディーは情熱的な歌を歌い上げた。 調子に乗ったキモギモが愛の歌を歌いだした途端、妹たち3人からの総突っ込みと、総スルーが華麗に決まった。 何だろう、キモギモ。 何かを連想される、アレっぷりだ。 ………ああ、天南静竜か。 あれ程に見事な道化っぷりじゃないけれど、それでも直近のメイドさん達が主を護ろうとしない辺り、実に似ている。 惚けて、騒いで、突っ込み食らって、誰もフォローしないし、しなくても復活する辺り、特に。 まっ、良いけどね。 妹が適切に対処し、処理出来る程度の話であれば、俺は、視野に入れなければ良いだけだから。 そう思ってました。 思ってました。 それが凄く甘い考えだったのは、深く考えなくても判る事でした。 馬鹿がトラブルメーカーなのは、世の常である事は。「おうおう、僕ちゃん達、美人侍らせて騒いでおるなー」 絡んで来たのは、グッデングッデンに酔っ払った男達だった。 騎士乃至は貴族の身内と言うには、やや身なりが良くない。 安くはないだろうが高くも無い、そんな格好をしている。 武装をしているから兵士か、傭兵辺りだろうが、こんな場所なのに鎧を着込み、これ見よがしにブロードソードを腰に下げている辺り、少しばかりマナーが悪い。 ここら辺は野外ではあるが王都警護騎士団の団員が定期巡回をしている事もあって、<黒>の軍も来ない安全な場所とされている。 だからこそ、市民憩いの場でもあるのだ。 だから不文律として、持ち込む武具は護身用程度のものとされている。 それも見せびらかしたりするのは宜しくないと云う辺り、万事が軍事優先のトールデェ王国とは云え、構成員は人間なのだと思う。 そんな癒しの場所に完全武装で居る男達。 酔っ払っている辺り、軍の任務の類では無いだろうが、にしたって許されるものじゃぁない。「俺達が東で苦労しているのに、美酒に美味を鱈腹か、羨ましぃなぁ」 巻き舌で言うと、ワインビンをそのままにラッパ飲み。 実に下品である。「金があるっていいなぁ。或いは爵位か!?」 言っている内容は正論、では無い。 この国は徴兵制は強いていない。 武による立身出世を望む人間が多いため、志願者を選抜して兵士としているのだ。 更に言えば傭兵は金、戦場での臨時給金の為に好んで戦場を選ぶ。 言ってしまえば兵士であれ傭兵であれ、好んで戦場の荒野に身を居た馬鹿なのだ。 にも関わらず、この言い分。 実に、気持ち良くない。 自分の中のスイッチが切り替わるのが判る。 荒事、それに類される事を前にした気分だ。 頭が熱く、そして冷えていくのを自覚する。 武器を、彼我の位置関係を確認する。 持ち込んでいた武器、ショートソードは手元には無い。 が、それがどうした、だ。 拳がある、脚がある。 何より、手元に鉈がある。 食後のお茶にお湯を沸かそうと焚き火した際の、巻き割りに使っていたモノが。 使う可能性は低いが。 重心移動を見ていて、そうそう技量が高い訳じゃ無い事が判るからだ。 ぶっちゃけ、素手でもノウラの強いだろう。 その程度の相手だ。 位置関係も悪くない。 武装したっていうか、ガラの悪い酔っ払いから避ける形で離れている。 具体的に言うと、俺の後ろに。 俺の前に居るのは酔っ払いs'とキモギモだけだった。 さーて、どうしてくれようかとゆっくりと中腰に、動ける姿勢に移行しようとした時、俺より先に動いた奴が居た。 馬鹿だ。 もとい、キモギモだ。 たっぷりと飲んだワインに、足元をフラフラとさせながら、それでも酔っ払いの正面に立つ。 仁王立ちだ。「彼女達ぁー 僕のぉー 連れぇーだー てぇーって、手を出すなぁー」 呂律も回っていない。 何だろう、この遣る瀬無さというか、脱力感は。 勇気は買う。 買いはするが、実力の伴わない勇気は無謀なのだ。 勇気と無謀を履き違えるなってな話で。「あぁん、ヌクヌクと育ってる餓鬼が、何をぬかしやがる。可愛い嬢ちゃん達の前で気取るんじゃねぇよ」 至極ご尤も。 しかも酔っ払い。 救いが無い。 だが、斬られる程に駄目じゃない。 しかも相対した酔っ払いが抜剣しやがった。 妹達が息を呑んだのが判る。 キモギモも脚が震えだしたのが見える。 その反応に気を良くしてか、酔っ払いが大笑いをしやがった。 耳が汚れる、ダミ声だ。「怖いか坊ちゃん? だが安心しな、酒と場所を譲ってくれれば何もしねぇよ。女の子はー一緒に飲もうぜぇ」 色々と楽しませてやるからよー とか抜かした。 宜しい、有罪だ。 吾が妹とノウラを、その友人に下品な視線を浴びせるのは赦し難い。 だから先ずはこうしましょう、てい。 キモギモを蹴る。 足先にケツを乗せるように優しく、だが容赦なく湖に蹴り込む。 ドボンと、気持ちの良い音と共に、水柱が上がった。 有無。 視線が集まってくるのを感じるが、無視。 水中でもがいているキモギモも無視。 水深は浅いので溺れる筈がない。 只、キモギモに駆け寄ったメイドさんには内心で頭を下げておくが。「頭を冷やしとけ、坊主。勇気は認めてやるがな」 そうなのだ。 無手で戦う術を持たぬまま、剣を持った相手に退治する無謀を諌める意味もあったのだ。 別にこーね、妹とかへの暴言への罰を与える為に、理由を後付けでチョイスして張り付けた訳では無い。 いや、少しはある。 が、全部では無い。 多分。「てめぇ、何だ?」 胡乱なモノを見る目でにらんで来る。 目はアルコールで赤く濁っている。 その目を柔らかく睨み返してやる。「何、只の親切さ。大人げ無い酔っ払いの酔いを醒ましてやろうってな」 往っとけみなそこ。 ドボボンボンと、俺は都合3つの水柱をおっ立てた。 あーもう。楽しいピクニックが台無しだ。