冷静に考えてみよう。 片道だけでも約10000kmの旅路。 シルクロードよりも遠いし、パリ-ダカールラリー程に手厚い支援は無い。 つか、パリダカの倍やん、倍。 ランエボが欲しいし、ランチア・ストラトスが欲しい。 というかアレだ、いっそラレード持ってこい、ラレード。 当然、ATでな! コティも忘れるな!!1!!111!o( ̄皿 ̄)o まっ、現実逃避は兎も角。 シルクロードと違って交易は極めて盛んだし、交易路はそれなりに整備されているんで、宿泊施設とかは大丈夫だろう。 大丈夫だと信じたい。 大丈夫だと、良いなぁ……… 異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント1-03鍛冶屋は男のロマンです。きっと…… 発注する馬車の基本的な方向性を専門家でもあるアビアルダに相談し、概略を決めてから工房の馬車製造ライン(・・・・・)へと赴く。 ラインである。 実はアブラメンコフ工房、フォード式チックな馬車の製造ラインを作り上げていたのだ。 まぁレールの上に馬車のフレームを乗っけて、流れ作業で各部品を取り付けるってな、簡素って言うか名前負けな代物だが、コレが馬鹿に出来ない。 工程をかなり細分化し専門的に行ったお陰で、製造効率は従来とは比較にならないレベルに向上したのだ。 言ってしまえば従来の半分程度の製造コストで馬車が作れるのだ。 実験的にやってみた結果に、アビアルダもだが提案した俺も吃驚したものである。 流石はフォード式(偽。 アメリカ黄金時代のチートはテラスゴスと、驚くべきなのだろう。 この製造コストの低下――廉価さとアブラメンコフ式非魔道型衝撃緩衝機構を武器に、アブラメンコフ工房はトールデェ王国に於ける馬車製造のイニシアティブを握りつつあった。 市場占有率は驚きの5割。 マニュファクチュアの持つ凄さかもしれない。 まっ、こんな社会で市場占有率もクソも無いものではあるが。 供給を握って、値段を吊り上げると旨みも出るだろうが、マニュファクチュアシステム自体は、他の工房でも取り入れつつあるので、余り意味のある事じゃない。 それに、そうなると宰相府か軍令府辺りが干渉してくるのが目に見えているってなモノである。 故に自己満足。 それも、俺だけの。 鉄叩いて物が作って売れて、後は酒が飲めればウマーウマーと叫んで、人生の8割方を満足しそうなドワーフ(推定+偏見)であるアビアルダは、その偏見通りに、酒の質が上がってウマーとか叫んでた。 うん。 何だね、ある意味で癒されるですね。 腹黒いのは面倒だ。 誰とは言わないけど、どっかの親馬鹿チックな海大伯とかねー もうねー 勘弁しろよ、本気で。 さてさて。 馬車の方は発注だけはかけておく。 高耐久性に振った、奴。 4輪式で、椅子はバケット式。 いや、コッチはアレだ。 レカロ・シートみたいなモノじゃぁない。 籐で編んだバケットを枠から革紐で吊るすように固定する事で振動を減らし、御者への負担を減らす工夫だ。 当然、俺の発案である。 最初は、詰め物を敷けばとか思ったのだけど、それだけだと痛かったのだ。 平成に生きて死んだ軟弱な日本人だった俺にとって、この時代の馬車は快適とは言い難かったので、ついカッとなって本気を出した訳だ。 ふははははっ、改良に掛ける日本人の情熱は、ガワが変わっても変わらなかった模様。 魂が、ニッポンに染まっているのかもしれぬ。 耐腐食の塗料も厚めに塗って、予備部品とかも積む。 実用最優先の幌馬車として良いものとなる――予定である。 まぁ予算は、支度金として、前金とは別途に金貨、これはルグランキグ金貨では無く、一般的に流通しているグラム金貨で20枚程。 ホント、オルディアレス伯。 金の使い処を誤らぬ御仁ではある。 んな訳で馬車製造の監督の、これまたドワーフの人に頭を下げて、それから剣の発注する為、馬車製造ラインの建物とは別館の、剣の工房へと向かう。 実に工業的な雰囲気がある馬車の製造ラインに比べて、武具の工房の方は、実に伝統的な雰囲気があった。 熱気ムンムンの中で男達が鎚を振るって、鉄を加工している。 正に武具の工房。 だがその工房に入る前に、アビアルダに迎えが来た。 何ぞ用事が発生したらしい。 昼間っから酒を飲んで、俺みたいな餓鬼を相手にしている御仁ではあるが、そこはそれ、この工房の主だ。 仕事は多いのだ。 多いはずなのだ。 うん、上司も働こうね、じゃないと部下が大変だから。「悪いが俺ぁココまでみたいだな、んじゃまたなビクター」 何かフラグを立てる様な事を言って頭を掻いたアビアルダに、俺は軽い調子で返す。「はい、面倒を掛けました」 本当は、迷惑を掛けましたと言うべきかもしれないが、そこはソレ、この身は下っ端とはいえ貴族の子供な訳で。 そんなのが職人に頭を下げた日には、面倒な事になるのが、このトールデェ王国なのだ。 とはいえ極端なまでに身分差がある訳でも無いし、そもそもとして他人の目の無い室内なら下げる俺だが、今、この場では出来なかった。 このアブラメンコフ工房が馬車製造で名を馳せて、外来のお客が多くなったからだ。 面倒くさい。 自業自得じゃないの、俺。 チョイと凹みそうになる。 子供の頃に休憩中の職人さん達と喋ったりとか、猥談を聞いたりとかが凄い楽しかったのに。 猥談を元にマーリンさんを襲って逆に喰われたりとか、風呂場で襲い掛かって喰われたりとか、調子に乗ったら朝まで喰われたりとか、何を仕出かしてかサッパリ判らぬが、気がついたら服着て喰われたりとかとかとかとか。 子供心の純粋な性への興味やん、でも、キッチリと搾り取られて負ける俺。 というか、まけっぱなしやん俺。 せめての勝率3割が欲しいものであるが、現実は非常である。 そんな凹んだ俺に、そっとエール酒のジョッキを差し出して慰めてくれた職人さん達。 まっ一口飲んだら、即、沈んだんですけどね。 そんな愉快な雰囲気に簡単に混じれないのは、残念だ。 本気で残念だ。 畜生。 そんな気持ちを込めて、扉を開く。「お邪魔します!」 さてさて。 武具の工房で作るのは、当然ながらもショートソードだ。 一般的なショートソードと異なり両刃。 刺突武器なのだ、本来のショートソードは。 それを斬る事に使う俺は異端派だが、何と言うか俺の剣闘術の根っこにパチ自顕流があるので、やっぱり、斬る武器の方がありがたいのだ。 まぁ、本物の薬丸な自顕流とかだと、刃のないショートソードでも相手を叩き斬ってそうだが。 だって、連中、薩摩だから。 殺人マッスーンの島津だから。 一度は、まぁチートボディだから試しにと普通のショートソードを立ち木にぶち込んでみたが、やっぱりざっくりと喰い込んでも真っ二つには出来なかった。 手も痛いし。 残念だ。 まっそんな訳で。、人外じゃない俺としては刃の付いたショートソードを必要とする訳で。 で、売ってないから作る訳である。 見事な三段論法である。「おう坊主、またショートソードでか?」 面倒くさそうに言うのは、武具工房長をしているトービー・フェアファクスだ。 ドワーフにも負けない、荒削りの巌の如き顔をした男だった。 壮年というよりも、やや年が行っているが、まだまだその肉体は頑健そのものである。 鉄と共に生きてきた、そんな年輪を顔に刻んでいるが、面白い事にこの男、貴族の端っこに居るのだ。 鉄伯と称される五大の一角、フェアファクス伯爵家に連なる家に生まれ、末も末ではあっても爵位継承権を有しているのだから面白い。 何でも、2代前の当主の庶子が父親だったとの事である。 お陰で慶賀時には、本家にも顔を出す、出さなければならないと愚痴っていた。 というか、愚痴っぽいのは性格かもしれない。 鎚を持てば並み居るドワーフを押し退けて工房長に選ばれる程の男であったが、それ以外はからっきし。 ある意味で愛すべき、職人馬鹿である。「腕になじんでいるんですから」「なむじにしたってなぁ、お前。タッパも伸びたんだ、いい加減にサーベルとかに切り替えるのも悪くないぞ?」 タバコの煙を吐き上げながら、気だるげに続けるトービー。 まぁ確かに、身長が170台も半分を超えそうな按配なのだ、似合うサイズと言えば直剣諸刃のブロードソードか、曲剣片刃のサーベルではある。 膂力的にも問題は無い。 ガッチリと握りこめば、別段の問題も無く扱える。 剣が大型化する事で、射程が延び、威力も増える。 いい事尽くめであり、善意で薦めてくれているのも判る。 だが、断る。「サーベルだって使えない訳じゃないですけど、何か違うんですよ」 身に着けた間合いってものがある。 攻防に用いる領域と言っても良い。 俺のそれは、餓鬼の頃からショートソードで培われていた。 だからってだけじゃないかもしれないが、それでも両手にそれぞれブロードソードだのサーベルだのを持つってのは苦手なのだ。 使うだけならばそりゃぁもう、マーリンさんと母親様の2人掛で血反吐を吐くまで仕込まれて、幾つ豆を潰したか判らぬ位に振るっているのだ。 問題なく扱える。 それこそ盾を持ってとかになれば、全く別物として扱えるのだ。 だがしかし両手に持ってと、今の戦闘様式(スタイル)を取ろうとすると、それは無理ってなものな訳で。 違和感しか感じないのだ。「まぁお前の場合、他のも並以上に使えるんだからか。似合うとは思うんだがなぁ」 工房長として剣を振るう人を見てきたし、剣を誂える為の目利きもしてきたトービーだ。 その眼力にとって、俺がショートソードを振るうのは似合わないのだろう。 だがコレは趣味だし、感性での問題でもある。 どうにも成らん。 トービーも良い人間だが、こゆう部分がチョイと困る。 だから、言葉をチョイスする。「合理性だけで選べませんよ。感性ってか、感情的な部分もありますから」 言外に、本家を苦手にするのも感性でしょうにってな意味を含めると、トービーは苦笑いを浮かべた。 それから煙草を吸い、紫煙をゆっくりと吐き出す。「だな」 トービーは、切れのある仕草で煙草の種火を煙草盆に捨てた。 剣を持ってもそれなりってのが良く判る仕草だと思えた。 さてさて、無駄話はその程度に。 後は、ショートソードの発注を行う。 とは云え、別段に特殊ってな訳ではない。 諸刃のショートソード。 素材は厳選された鋼。 形体維持の魔法付与と、切れ味の強化の魔法。 2つも魔法を組み込むと、値段が跳ね上がるが気にしない。 普通に並んでいるショートソードの2桁上の値段に成るが、その程度のモノを自在に買える程度の稼ぎは得ているのだ。 であれば、命を懸ける相棒に金は惜しみたく無い。 金を惜しんで命を喪うってな具合になったら、只の阿呆だからだ。 ホントを言うと、母親様に最初に貰ったショートソード級のが欲しいのだが、アレには3つも魔法が付与されている逸品なのだ。 形体維持に切れ味強化、それに命中修正だ。 命中修正なんてオカルト染みているって最初は思ったが、そもそもオカルトってのは魔法とかの総称なので、そんなものかと今では納得してはいる。 で、何故に掛けないのかと言えば、更に一桁値段が上がるのだ。 んな代物、俺の小遣い程度では買えやしない。 いや違うな。 今ならその上だって買えるが、その場合は1本のみとなるだろう。 それでは意味が無いのだ。 一枚看板で旅に出るなんて、何たる無謀って感じである。 まぁ3つも4つも魔法を掛けた武器が簡単に壊れる様なモノじゃないと、判っちゃいるが、それでも怖いのだ。 故に、数を揃える。「で、何本打てば良い?」「2本程、ですかね」 今、持っているのが3本。 コレに合わせて事2本で、まぁ余程のアクシデントでも無い限りは、帰ってこれるだろう。「何だとっ!? 半年前に打ったばかりのが折れたのか? <剣嵐>とでもやりあったのか!!」 <剣嵐> 字名を預かっているのはあの(・・)パークスだ。 パークス・アレイノートだ。 武闘大会で披露した、嵐の如き剣舞を指して付けられたのだ。 武の名家、リード公爵家が当主フォイク・アルレイドが戦地にて見出したと云う、王立大学院歴代最強の呼び声すらもある化け物、それがパークスだ。 その、身の丈もあるグレートソードとガチンコした時のショートソードは、刃はボロボロで、芯にもダメージが届いていて、修復不能と云う有様だったのだ。 降ろしたての新品だったにも関わらず、だ。 後で聞いた話だがあのグレートソード、神族が作った神造剣の一本らしいので、ある意味で当然の結果かもしれない。 この世に100本と残されていない、草薙だのエクスカリバーだのの親戚なのだ。 如何に俺の手持ちが高精度で魔力付与された逸品とは云え、その本質は極普通の量産型ショート-ソードだ。 10合も経ずして叩き折られなかっただけ有り難いと考えるべきかもしれない。 うん、2本も魔力付与型のショートソードを購入するコストを考えなければ。 おのれー である。「チョイとばかり遠くへ行く事となりましたんで、まぁ予備を持っておこうかとって話ですよ」「あん、中央の方にでも行くのか」「まぁ、そんな感じですよ」 一般に、中央とは<白>の主要国家群のある、ゴーコスト海沿岸を指している。 神族の時代に建国されると云う、長大な歴史を持った人類最初の国家ギアパネス白国や、或いは神族を信奉する集団が纏め上げた奉神庁を首都とする宗教国家である奉神庁領が存在している。 又、神族文明時代の遺産を数多く残している西方エルフのビプム王国も、ここに含まれている。 故に、誰しもが憧れる場所であるのだ。 まぁ俺が目指さなければならないのはその北方、<常冬ノ邦>の手前であるので、若干違うが、まぁ誤差みたいなものである。「ほぉ~ じゃぁ他にも要るか」 鍛冶屋の顔でニヤリと笑うトービー。 それを俺は肯定する。「投擲用のナイフを20本程、後は弓を用意する予定です」「狩猟用だな? よし、俺が作ってやろう」 戦闘用のモノは以前に誂えていた。 魔道巻上げ支援装置付きのボウガンだ。 コンパクトではあるし、魔道巻き上げ支援装置のお陰で速射性も良好。 だが重いのだ、かなり。 これを持って狩猟をするとか、冗談の範疇に入りそうな代物なのだ。 だから、短弓を用意するのだ。 金属加工の武具工房ではあるが、このアブラメンコフ工房でも弓なども扱っているのだ。 弓だって、木材や骨だけで作られている訳では無いのだから。「良いんですか、弓は気に入らないって言ってませんでした?」「馬鹿が、毛の生え揃わん内にウチに遊びに来てた餓鬼が旅立つんだ、その程度の餞別位は用意してやろうってもんだ。いらんか?」「まさか、有り難いです」 素直に頭を下げる。 自分の筋を曲げてでも、そんな心意気に感謝しない奴は馬鹿だからだ。 夕方。 旅の支度、その大物系を済ませた俺は、実家への路を歩いていた。 今日は実家に戻れと教官長から言われて、だ。 まだまだ出発までは日があるが、先ずは話をしておきなさいと言われた。 至極ご尤もと、相部屋人に二~三日は帰らんかもしれん告げて、今ココ、である。 雑踏に漂う猥雑さは、は人々の営みを感じさせてくる。 この光景とも、暫しの別れかと思うと、チョイとセンチメンタルな気分で見てしまう。 まぁこの任務を受けなくても、仕事をしだせば離れるのだ。 考えるだけ、無意味かもしれない。 そんな事を考えながら歩いていると、気づけば商人街を抜けて大通りを経由し、下級貴族や富豪達の家々のある新興高級住宅街に入る。 この新興高級住宅地から王城王宮までの国家中枢には、堀の内なんて別称が付けられていた。 堀の内、即ち王都内に作られた内堀と城壁の中なのである。 王都トールデンは、王都外周内周へと二重に堀と城壁の施された要塞都市なのだ。 コレは、ダメージコントロール的な面から、王城のみならず各生活ブロック毎にも城塞化が為されている結果であった。 この堀の内で、新興高級住宅街のエリアに関しては1つの特徴があった。 それは、戦時に於いては一般的な市民の収容すらも前提として設計建築されていると云う事である。 基本的にアパートメント構造であり、その地下空間に平時は物置用の空間を用意しておき、非常時には避難民へと開放出来る様にしているのだ。 何と言うかトールデェ王国、軍事優先の軍事国家はかくあるべしってなレベルで頭のオカシイ国である。 まぁ有事に於いては、その避難民の身内が兵士として動員されるのだから、その身内に手厚くする事によって、心置きなく戦わせようと云う発想であろう。 悪く考えると、人質染みてはいるが。 物々しい城壁と、跳ね上げ橋。 入り口の、完全武装で立っている衛士に身分証を兼ねたタリスマンを見せる。 家紋と家名、そして持ち主の名前が掘り込まれている魔道身分証だ。 デザインは洒落たデザインのドックタグだが、コレが無いと夕方以降の出入りは出来ないと云う重要品である。 まぁ、ブッチャケて言って、昼間は所用さえあれば出入りは出来るし、夕方以降もそれは同じ。 んじゃなんで在るのかと言えば、アレだ、見栄の類だ。 新興とは云え高級住宅地に居るのだ――成功者の一族だと云う事を、アピールしたいのだ。 大学でも、これ見よがしに胸に下げている阿呆が居た位だ。 気持ちは判らんでも無いが、何と言うか、せせこましく思える訳だ、個人的には。 と云う訳で、控えめに見せるのが俺のジャスティス。 まぁ気分の問題であるし、そもそも男爵家の長男なので、卑屈にすると逆に怒られるんですけどね。 ああ、面倒くさい。 そのまま暫し歩く。 建物が密集しておらず、適度に隙間があって、公園などが整備されている。 実に快適設計ではあるが、まぁコレも非難民収容事の予備スペースであるので、殺伐とした話である。 まぁ、準備なしに戦争をするよりも、準備をしている方が安全ではあるのだけれども。 兎も角。 やや王宮中枢からみて、やや外部にある我が家。 その扉を見上げる。 どうにも気後れを感じる。 勝手にってか、相談なしにの長期出張だ、そらぁもう、家族に説明するのに躊躇するのも当然か。 あぁ、何かお土産を買ってくれば良かった。 鮨とか鮨とか鮨とか。 ねーっつぅの。 意を決して、扉を開けようとした瞬間、扉が襲ってきた。 開いた。「………」 そして痛かった。 前頭部痛打、マジ痛い。 それはもう悶絶級。 誰だ、乱暴者めと見上げれば、ノウラだ。 シックなビクトリア式メイド服をキッチリ着込んで、手にはバスケットを下げている。 ソバジューの入った赤毛を、後ろで結っている。 有無、可愛い。 マジ可愛い。 目の保養になるなる。 が、何かコッチを見る目が厳しい。 訓練所以外では何時も笑顔なのに、今日は笑顔のえの字も無い。 なので茶化し半分に様子を見てみる。「謝罪は? 同情は? 本気で痛いぞっ」「お帰りなさいませビクター様。私は急々の事で閉店前の店に走らねばなりませんので、後ほど」 でも、あっさりとスルーされた。 冷たい。 マジ、冷たい。 その気持ちが思わず口から漏れた。「冷たくない、ノウラ?」「私、怒ってるのです」 プイっと横を向いてバッサリだ。 つかバレテーラ。 どうやら、<北の聖地>行きは、既に家に連絡済みのご様子。 おーいぇー やっぱりご機嫌取り用のお菓子は必須だったか。