覚えているのは、視野一杯に広がったトラックのフロント。 衝撃。 それが「 」として覚えている最後の光景だった。 光が広がって、視野がぼやける。 ああ死んだなと思った。 螺子の飛んでる系なバイク乗りの常として、良く事故はしていたが今回の衝撃は、経験をした事の無い大きさだったからだ。 車同士の正面衝突――シートベルトをしてなかった為にフロントガラスを頭突きで割った時とか、調子に乗ったせいでコンクリートの階段を頭っから真っ逆さまに墜ちた時とか………うん。 事故系のダメージでは単車以外の方が大きいのか、俺。 まぁそれはさておき、そんな今までの経験に無いショックに、体の頑丈さにおいて自信と定評のあった俺も、流石に年貢の納め時と思っていた訳です。 不孝を親に詫び、不義理を職場へ詫び、でもまぁ、過ぎた事は仕方が無いと受け入れた俺。 無神論者らしく死は停止であり消滅までカウントダウンかと思っていた訳ですが、現実は斜め上でした。 何も見えない何も判らない場所で、何時、思考が止まるのかと呆っとしていたら、世界が変わったのだ。 瞬きをしたら別の場所に、そんな感じだった。 右を見た。 左を見た。 どこかの部屋だった。 温もりは感じられるが、工業製品じゃ無いよねって判る装飾が施されている部屋。 そこまでエレガンテな知識は無いので、割と高そうで和風っつか日本じゃ無いっぽいとしか判らない。 何故? 走馬灯なら俺の記憶からだし、だとしたら日本じゃ無いのは在りえない。 そう思って手で口元を押えようとした時に気が付いた。 手が細くなっている事に。 てゆーか、小さい。 そもそもとして、幼いと呼ぶべき手だろう。「なっ、ナンじゃこりゃー!?」 始まりの一言は、んな感じで。 夢とか白昼夢とか、そんなチャチなものでは無かった。 異世界召喚とか憑依とか、そーゆー楽しそうだが苦労も背負い込みそうなネタでも無かった。 いや、最初は憑依とかも疑ったんですが、子供の頃っつうか自我が固まる前みたいな頃の記憶が在ったんで判りました。 転生です。 気が付いたときには異世界デビュー。 良くある話と細かい筋は違っているが、基本、そんな感じ。 それが、今の俺の始まりでした。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント0-01輪廻転生に異世界って含まれると初めて知った今日この頃 まぁ死んで生きて、転生してっと人生はビックリの連続だ。 ただまぁ、こゆう吃驚はうれしくない訳で。 が、吃驚としているだけでは生活出来まっせん。 と云う訳で情報収集をする。 ぶっちゃけると、記憶を思い出すだけではあるが。 親の顔とか名前とか。 或いは、言葉とか。 考えれば、即、浮かんでくる。 自分の名前も。 それを口に出すよりも先に激しい足音がし、そしてかなり勢い良く部屋の入り口が開いた。「どうしたのビクター!?」 声の主は、華美さの無い実用本位のワンピースを着た妙齢の女性。 母親である事は考えるまでも無く判る。 アデラ・ヒースクリフ。 只1個人の鑓働きで傭兵から男爵へと成り上がった、立志伝を書かれそうな女傑だ。 常には余裕ある表情をしているのが、今、その秀麗と言うには些か鋭すぎる顔を険しくしている。 まぁ息子が叫び声を上げているのだから、母親が血相を変えるのも当然だろう。 それは判る。 判るのだが問題は、手に持った剣だ。 一応は鞘から抜いてはいないが、余り部屋の中で見たいものでは無い。 まぁこの母親殿、<戦鑓の貴婦人>なんて些か物騒な字名を持った女性だから当然かもしれない。 てゆーか、ワンピースの女性が剣を持っているだけなのに、何でこんなに物騒に見えるんでしょうか。 正直、素で引きそうになる。 が、それと同時に安堵する自分が居る。 子供として、絶対の相手を見つけた時の安心感だ。 ああ、俺はこの人の息子でもあるんだな。 自分の感情が、それを素直に受け入れていた。 尤も、俺が納得しても納得しないものもある。 その母親、アデラだ。 周囲を見回し、子が大声を上げた理由を探す。 それはさながら、虎が巣穴の周囲を警戒するが如き仕草だ。 BBC辺りなら、皮肉をたっぷり効かせたナレーションの1つでも付けそうだ。 ま、これはTVなんぞでは無いが。 さておき、アデラの母親様。 大人気ないと言うか、自宅でする仕草じゃ無いと言うか。 でも、親ってのはそういうものかもしれない。 だから、安心させるように抱きつく。「マーマ」 コレが自分の声かと、己が喉を振るわせた音に驚く俺。 間抜けな話だった。 さてさて。 喉や舌などの機能が未発達故にか、自然と舌足らずとなっていた口調でアデラ母さんへ怖い夢を見たと説明した所、仕方が無い子と言わんばかりに優しく抱きしめられ、額にキスをされた。 そして部屋から出てった。 額に残った柔らかな感覚に、少しだけ呆っとしたが、頭を振って気分を入れ替える。 子供部屋に1人。 だからこそ、冷静に自分を見つめるってモノだからだ。 先ずは名前。 ビクターってのはエゲレスっぽい感じである。 ついでに言うと確か君主は女王っぽいんで、アレだ島国だHMSってな感じだ。 割と萌え? かもしれない。 エカチェリーナとかエリザベスとかねー 期待に胸が膨らむ。 が、西太后とかは勘弁であるが。 家はヒースクリフ。 なんぞ貴族っぽい、VONは無いのかフォンは! と言いたいがまぁ良い。 それよりも大事なのは貴族だって事。 中世っぽい世界で貴族です、貴族。 大事な事なので2度言いました。 人生勝ち組、銀のスプーンを咥えちゃってますよ、俺。 いやもう、コレはアレだ俺様状態ってモンです。 将来は領地経営で、日本知識でチートだ天才だ。 後は美人な嫁さんもらってウハウハとか、美人のメイドさんを揃えて辛抱溜まらんとか。 そんな風に考えていた頃がありました。 武装メイドさん(;´Д`)ハァハァ とか、俺の魔法はテラチート! Tueeeeeeee!! 弱いと云うのは罪だなって冥王さまで(;`Д´)ゲハァハァとか。 ええ。 そんなそんな風に考えていた頃が。 現実って甘くないんです。 例えそれが異世界でも。 先ずは領地、無い。 一坪も無い。 大麦小麦にクローバー、後はナンだっけかと必死こいてノーフォーク農法を思い出したのに、実践する場は無い訳で。 ヒースクリフ家は男爵家だったんですが、それは戦功によって爵位を与えられた宮廷爵であり、家禄は与えられているが、領地なんぞまっっったく無いのです。 家もお屋敷なんぞでは無く、庭付きの3階建てアパートみたいなモノです。 装飾や作りこそ立派ではあるが、それでも何ていうか、貴族ってな言葉の響きに対する幻想が雲散霧消って訳で。 と言うか、そもそも宮廷爵って何ぞや、でありますやね。 選択科目で世界史やってた頃の記憶だと、宮廷爵ゆーのは無かったと思うんだが、まぁ異世界だ。 同じように見えて、違うって事っしょ。 畜生。 続いて嫁。 まぁ、ここら辺は今後なんで、まぁ暫定とゆーか、放置。 首輪とか墓地とか、そゆうエライ事を連想したりするんで、まぁ安堵感半分ではある。 3つ目はメイドさん。 女中なんて色気も無い和訳もされたりする、メイドさんだ。 時代的ってか、そゆうのからビクトリア朝ちっくな、未婚の若い子がとか夢を見ていた。 夢を。 南米のどっかの若様っぽくスカートめくったりとか、色々と夢を見てたんだよ、夢を。 だが現実は、一味違った。 角度的には斜め45度以上。 ヒースクリフ家で雇っているメイドさんは雑役女中の人が1人だけだった。 名前はマルティナ。 たった1人で3階建てのヒースクリフ男爵宅なアパートを掃除したり、食事の用意をしたりしてくれる家事万能の人だ。 そこに文句は無い。 文句は無いのだが、その家事万能には当然代償と言うか理由がありまして。 ええ。 人生経験。 それが悪いとは言わない。 絶対に言わない。 だって料理はメッチャ上手いんんですから。 だけどね、だけどね、メイドさんゆーたら英国のアレやコレでさって思うじゃない。 それが恰幅の良い、豪快肌のオバちゃんだ。 全俺が泣いた。 泣いたって良いじゃないか。 ああ、ヴァッフェン・メイドに関してだけは実現しちゃったりしている。 マルティナだ。 この女豪の持っているモップ、屋敷掃除に縦横無尽に活躍しているが、その実態は武器だった。 鉄芯仕込み。 一度、持とうとして、その外見との落差に驚きました。 そう言えば、足取りってか身のこなしが軽すぎます。 武道の有段者並みな迫力もあります。 ………こっちが実現するよりも、若くて美人なメイドが実現してくれてた方が良かった。 現実は、こんな筈じゃなかったって事ばかりだ。 ああ、そう言えば魔法にも期待を抱いてました。 やっぱり夢ですよね、天才魔法使いってか天災? みたいな人と隔絶するってのは。 エターナルなんとかーって叫んで、周りを即死させたり、何とかの白い悪魔みたいに畏怖されるってのも。 ですが現実は厳しいです。 この世界、魔法に関しては割と楽です。 引かぬ媚びぬ省みぬな貴族の血筋だけが使えるって訳では無く、訓練次第で誰でもが使えるのですから。 但し、使えるだけ。 才能が無ければ、実戦で使う事は出来ません。 才能を持っている人間なら短縮呪文を詠唱するだけで実現出来る事も、非才の人間では魔方陣を作り精神力を集中しての永い正規呪文を詠唱しなければならんのです。 しかも、魔法の代償も洒落にならない。 酷い話です。 格差社会です。 そして私は格差される側でした。 否。 そもそも才能が云々と言うよりもその修行が問題だったんじゃないかと思ったり。 頭の中で卵を作ってネ☆ んで作ったら壊せ? 限りなくリアルにネ☆ とか、なんとか言われて、それを実現するのが修行でした。 魔法をイメージする為って奴でしたが、まぁ頭と言うか魂の方が拒否するってモンです。 リリカルマジカルって呪文を唱えて、後はビームな魔砲がDQNと直撃とか、破廉恥スタイルで高速大鎌アタック――は、流石に凸付きとしては勘弁したいが、まぁそゆう夢は敗れました。 一応、努力はしましたが、魂が拒否ってる事をしようとしても、体はついて来ないのです。 魔力ってか、魔法を付与されている魔道具(エンチャント)は問題なく使えますが、使えるってか高度な魔法が封入されているのは、呆れる程に高価です。 ぶっちゃけ、買えません。 一般に流通している最上位品なんぞを買った日には、ヒースクリフ家が傾きます。 だから無理。 おのれぇ。 さて夢も希望も無いっぽく見えますが、1つだけ俺Tueeeee!!!!1!!111!o( ̄皿 ̄)oが在りました。 身体能力です。 普通に中肉中背なんですが、並みの大人どころかオリンピック選手級の筋力や反射神経があります。 子供の手なのにリンゴ潰せたりします。 ジャンプしたら派手にスラムダンク決められそうです。 凄いと言うよりも、怖いってレベルで身体能力が高いです。 うはっ、俺様超人!? ってな感じです。 尤も、この世界、その程度の人間はゴロゴロしてるんですけどね。 例えばマルティナさんは素手でカボチャを割れます(包丁を使わないのは雑味を加えない為だそうな。あり得ん)し、アデラ母さんに到っては一度剣を折ってた。 剣の刃を見ていた時にクシャミをして、その拍子にポッキリと、である。 後、拳骨一発で人を飛ばした事もある。 ありえん。 ファンタジーだ、ファンタジー。 てゆうか、素で十傑集とか九大天に近い感じがする。 バケモノ共め。 俺の高性能なボディも、まぁ普通じゃないけど飛び抜けてじゃないっぽいです。 まぁそれでも、在りがたいと思ってました。 ご近所の子供に混じって遊んで、んで、テキトーにエレガンテな人生でも送ろうかなって思ってました。 今生では真面目に勉強して、官僚でもなろうかなって思ってました。 文官だけど、私剣を持ってもスゴイんですよってな感じで。 そんな、夢を見ていた頃がありました。