割と機嫌(?)の直ったノウラと、車酔いで気分不良のままの妹。 そしてワクテカしてるっとしか言いようの無い、大人3人を乗せた馬車。 基本的には安全な旅路でした。 まぁ馬車の乗り心地はマズーではあったが、野営時の料理などは野趣あふれていてとても美味しかった。 が、肉気が余り無かったのが残念。 この面子だから猟をして新鮮な――とかを期待していたのだが、この辺りには野生の動物とか居ないんだそーな。 <黒>の連中が来た時、見境無く狩っていくからだそうな。 おのれーっである。 もし<黒>の連中とあった時は、容赦してやらん。 食い物の恨みは恐ろしいのだ。 後は見守りを立てての野宿。 幹線街道には宿場町が用意されているのだが、流石に寒村とか、そゆう人も疎らで、軍事的重要性も乏しい場所へ向かう街道には、整備されていなかった。 だから野営なのだ。 馬車の脇で焚き火をし、テントを立てる。 お子様娘2人はそのまま眠らせ、俺も含めて4人で交互に寝るのだ。 うん。 こゆうのは、大人扱いされていて、素直に嬉しい。 まぁ周辺警戒とは言っても、ここら辺は王都近郊。 定期的に王都守護騎士団が巡回しているので、山賊の類は先ず出ない安全な場所である。 野獣警戒用としての火を絶やさぬ事が、一番の任務。そんな場所なのだ。 故に、何処かノンビリとしたアウトドア体験。 その雰囲気が変わったのは、マバワン村への最後の峠を越えた時だった。「あっ」 周りの森を警戒――山賊の類が出てくるなよってな気分で見ていた時、前を見ていたノウラが声を上げたのだ。 見る。 空へと黒煙が上がっている。 ノウラの表情が凍り付いていた。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント0-10わるきゅーれs' 黒煙が意味するモノは1つ。 マバワン村は、既に襲撃を受けていた。 否。 受けていると云う事。 村の状況は、想定以上に悪かった。 母親様とマーリンさんが偵察に行った。 馬車はそのままの場所で待つ。 マルティナは、馬車の屋根に登って厳しい顔で全周警戒をしている。 対して妹とノウラは、不安げな顔をしている身を寄せ合っている。 暇なのが悪いのだろう。 人間、暇になれば悪い事を考える。「マルティナさん」「何?」「あの2人をここに上げて、見張りをさせたいんだけど………」「何でまた」 返事の言葉が短いのは、集中しているからだろう。 そんな、真剣に周囲に警戒しているのを邪魔するのは悪いが、まぁ仕方が無い。「仕事があれば、あの2人も気が紛れると思うから」「………」 視線を一瞬だけ、俺に向ける。 目があった。 そこには、苦笑に似た色が浮かんでいる。 更に俺は、自分も仕事をしたい旨を言う。 苦笑が益々大きくなる。 マルティナは俺が何でこんな事を言ったかも理解しているのだろう。 そう、コレは進言なのだ。 この場の責任者であるマルティナへの。 手順を踏み、そして人の顔も立てるってのが俺の流儀。 子供らしくないとは言われるが、子供っぽくして物事を混乱させるのは趣味じゃないのだ。「ビクター坊、よく気を回すね」 言葉だけを見れば、嫌味っぽくもある科白。 だが其処に、少しだけ褒める風があったので、調子に乗った言葉を返した。「早く大人になりたいだけです」「なら頑張りな」 その1言が許可だった。 と云う事で俺は、下で馬車周りを確認する作業に移る。 逃げ出すと決まった時に、馬車をUターンさせる為の下準備だ。 ここら辺、街道の名を持ってはいるが、そう広くは無い。 否、問題は広さだけではない。 地盤も問題なのだ。 荷が満載され、重装甲化された馬車は非常に重たい。 下手な場所で動かすと、スタックしたり、或いは最悪、ひっくり返る危険があるのだ。 と云う事で、下準備は重要なのだ。 地味だけど。 馬車から約3メートルの棒――所謂10フィート棒を持ってきて、下草の辺りも確認。 ナンツーか、懐かしいと云うかナンと言うか。 探す事しばし。 使い勝手の良さそうな広場みたいなものを発見。 下草がやや長めだが、地盤に問題はなさげだ。 後、広場の周囲に崖も無いから、落下の心配も無い。 後は荷物の中からロープを出しておくのも忘れないようにしておかないと、と考えたとき、馬の足音を聞いた。 耳をすます。 数は2つだ。 恐らくは偵察の2人だろう。 が、万が一もある。 俺は棒を地面に突き立てると、急いで馬車に戻った。 馬は、当然ながらも母親様とマーリンさんだった。 馬から下りた母親様は、険しい顔をしたまま言葉を紡ぐ。「村は、既に門が破られている」 黒煙は、家屋が上げていると云う。 <黒>との戦いが多いトールデェ王国に於いて、どんなに小さな村でも堀と壁が築かれ、城砦化されている。 そんな城砦を攻撃する際、<黒>の連中は、火矢などを使う言は無い。 無論、火を使えないからでは無い。 <黒>は、略奪を目的としているのだ。 略奪する宝を、自ら減らす事をする筈が無い。 なのに火が点いている。 それは、<黒>の軍勢が既に村に侵入している事を意味する。「規模はどれ程で?」 此方も硬い表情で尋ねるマルティナさん。 敵が居るかもから、敵が居るへと危険は跳ね上がったのだ。 緊張の色が増すのも当然だろう。「“隊”規模ね」 隊とは、<黒>の規模に於いて“班”、1番下から2番目の規模を指す。 ゴブリンを中心に、200を超える集団であり、更にはオークの様な大きな亜人まで含んでいる事を意味する。「厄介ね」 嘆息したマルティナさん。 全くだと思う。 ノウラは顔を真っ青にしている。 何度か唇を震わせて、言葉を紡ごうとしているが、出来ないで居る。 流石に放っておけないので、アメリカ人チックに肩を抱く。 そこでノウラが口元を手で押さえてっとかはならない。 ヤッパリ人間の行動ってアレだ、文化的素養とゆーか、訓練? 日ごろからの見聞きしたりする事が重要であるなと思う次第。 まぁ、そこ等辺はどうでも良いが。 抱いても震えが止まらない。 チョイと、力を入れて見るテスト。 コッチを見るノウラ。 不安げな顔、今にも泣きそうで泣きそうで。 鼻の頭あたりが真っ赤になってる。 そこで大人な俺、力強く頷いてやる。 抱きしめたりとかは流石に出来ませんがな。 と、ポロポロと泣き出した。 声を殺して、だ。 痛ましい。 多分、俺たちが村を見捨てざる得ないと思っているのだろう。 まぁ当然か。 敵は200を超えるのに、コッチは正面から戦えるのは3人しか居ないのだ。 そう考えるのも当然だ。 だがノウラは知らない。 我が母親様の根性ってか、胆の太さを。 そして類は友を呼ぶって事を。 或いは、朱に交われば赤くなるって事を。「でも、無茶ではあるまいさ」 それまで会話に参加していなかったマーリンさんが、口を挟む。 手早く着こんだブレストプレートの具合を確認する様に、両肩を動かす。 ミスリル製と云う魔法鎧は、陽光を反射して煌く。 それまで着込んでいた、深青色のコートを更にその上に羽織った。 ベルトを締める。 剣帯を肩から掛け、予備の剣を留める。 最後に、主兵装であるバルディッシュを取る。 なんてゆーか、名前からするとリリカルなアレのイメージが来るが、コレは違う。 東欧ってか、モスクワ辺りの国が使ってた長柄の戦斧なのだ。 それも、全長が2メートルと半分位なのに、刃渡りがその半分近いっていう凶器である。 うん。 子供な俺の身長よりも長い刃を持っているのだ。 しかも、先端部にはバヨネットみたいなのが付けられている。 重量的に見て突けるとは思えないのだが、突けるのだろう。 てゆーか、マーリンさんは楽々と扱っている。 うん、ブッチャケて言う。 狂ってる。 その狂ってる人は楽しそうに言う。「それより急がないと、救えないぞ」「あら大丈夫よ?」 笑って答える母親様。 そのまま、上着を脱いで鎧を着だす。 体の線が見事に出るソフトレザーの下鎧はマロイの一言だが、この身の半分の製造元かと思うと、萌えられん。 全く萌えられん。 無理だ。 マルティナさんの手伝いで着込んでいく此方は、バンデッドメイルだ。 鎖帷子を仕込んだ革の部分と、金属の細帯を幾重にも重ねた部分を持った複合鎧だ。 元々から腰から下の鎧の部品を着込んでいたので、着込むのは又、短時間だった。 襟元の具合を確認する。 此方も、マーリンの魔法鎧同様に、魔法が掛けられている。 何でも軽量化と矢避けだそうな。 手に持つのは、凶悪な装飾の施されたハルバード。 てゆーか、凶悪なのは装飾だけじゃない雰囲気も暴力的となってマス。 まぁブッチャケ、諸々と魔法が掛けられているのだ。 使用者の意思に応じて焔を噴き上げ、攻撃半径の拡大と同時に火属性の追加攻撃を与えると云う素敵仕様。 しかも攻撃した相手が絶命した場合、その生命力を吸収し、持ち手に還元する事も出来ると云う極悪仕様。 国宝級の価値があるっぽいこの兇器を母親様が持つ理由もフルッテル。 何でも、戦功によって国軍の大将軍から直々に与えられたと云う。 ナニソノ戦国バサラ。 違うかもしれんが、どうでも良い。 兎も角、凶悪凶暴な母親様のハルバード。 ああ、銘もあって、名は<テンペスト>だそーな。 なんか、色々と匙を投げたくなった俺の前で戦闘準備は完了する。 並び立つ女傑2名。 その様は、兵装の事もあって正に戦乙女の様である。「ノウラちゃん、待っててね。私とマーリンが一掃してくるから」 一掃、一掃と言いましたか母上様。 200を超える連中を、2人で潰すデスか。 マジパネェ。「昼前には帰ってこれるかな?」「流石にあの状況で、お昼ご飯をご厄介にはなれないわね」「仕方が無いさ」 笑いあう2人。 何ぞ寒気がするが、まぁ気にしない。「じゃ、行ってくるわ」 そんな言葉と共に、騎乗した2人は馬に鞭を入れた。 駆け出す2頭。 俺の頭には、ワルキューレの騎行が鳴り響いている。 幻聴だが、やけにリアルに聞こえた。「――が降るんだろうな、きっと」 何の脈絡も無く漏らした俺の一言に、ノウラが見上げてくる。 呆っとしている。 話の展開が速すぎて、処理できなかったのだろう。 その頭を撫でる。 ああ、こんな科白は子供に聞かせたくない。 血の雨がなんて、スプラッタな言葉は。