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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の九十四 俺とアホの子。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/09 22:27
俺と鬼と賽の河原と。



「良く来れたな」

「うんえいに案内してもらった!」


 予想外に早いアホの子との再会。


「良く呼び鈴に手が届いたな」

「案内してくれた人に押してもらった!」


 予想外にも程がある。


「良く、来たな」

「おうっ!!」


 元気よく肯いた春奈に、俺は呆れ半分、藍音にもらった飴を差し出した。


「じゃあ、ご褒美に約束の飴ちゃんをやらんこともない」







其の九十四 俺とアホの子。






「いや、それにしても」


 アホの子を居間に通して、俺はソファに座った。

 今日のアホの子、もとい春奈は今日は黄色いワンピース、というものを着て俺の前に立っていた。

 ぱっと見は、良家のお嬢様って奴なんだが、しかし、その本人と言えば。

 きょとん、とばかりに不思議そうに俺を見ている。


「なにさ」

「よく、呼び鈴が押せたなー、と」

「だから、案内の人に押してもらったっていったもん。耄碌したの!?」


 いや、まだ耄碌には至ってない。

 至ってないよな。多分。


「ともかく、そうじゃなくて、よく扉をぶち破ってこなかったって話だよ」


 すると、少しの間が空いて、アホの子はアホの様に口をまるくする。

 この反応……。最初はぶち破ろうと思ったのか……。

 しかし、春奈は、取り繕うようすぐに手を腰に当てると自信満々胸を張った。


「そ、そんなのわたしみたいな、ひゃ、ひゃくしきな天才少女に掛かればちょちょいのちょいよ!」

「ひゃくしきじゃなくて博識な? どこの金ぴかだよ」


 それと、天才少女ではなく、天災少女が正しいと思うが、黙っておくのは俺の優しさだ。

 ともあれ……、

 嘘だな。

 明らかに嘘だ。


「じつはぶち破ろうとして案内係に慌てて止められたんじゃないかね?」


 よく考えてみれば監禁幼女である。

 人ん家の呼び鈴を鳴らす経験がある訳もない。


「ぎっくぅ!!」

「はい、分かりやすい反応ありがとうございましたー」


 言いながら、俺は案内の人に感謝した。

 いや助かったよ案内の人。

 抑えるのも大変だったろうによく頑張った。

 貴方のおかげで家の玄関の扉は救われた。貴方は救世主だ。

 と、まあ、そんなことを考えていると、春奈から抗議の声が上がっていた。


「な、なによー! 本当なんだから!」

「はいはい、本当本当」

「本当だってばっ!」

「いや、だから本当だって肯いてるだろ?」

「ぜったいばかにしてる!」


 馬鹿にはしていない。これ以上追及するのも可哀相だと思ったからとりあえず納得しているのだ。

 アホの子だとは思っているが。

 しかし、そんな思いは伝わらないらしい。

 肩を怒らせ、力説するアホの……、春奈は捲し立てる言葉を止めようとしない。

 これ以上は手が出てきそうだ。

 そう思った俺は、とりあえず落ち着かせようと口を開いた。


「まあ、落ち着いて座れよ」


 すると、俺の予想に反し、ああ、もっとごねると思っていたのだが、意外にも春奈の言葉は途中で止まり、再びきょとんと呆けた顔を見せる。


「いいの?」


 ぽろっと出た言葉に、俺は軽く返した。


「なにが悪いんだよ」


 少女は破顔し、思い切りよく、尻からソファに飛び込んだ。


「どっかーん!!」


 どすん、と音を立てて、春奈は一度反動で跳ねた後、落ち着いた。


「楽しいか?」

「楽しい!」


 おうおうそれはよかったな。

 それにしても、こんなことで喜ぶというのは、何でも楽しい年頃であると同時、余程息の詰まる生活をして来たのであろう。

 憐みとは無縁の俺だから考えなかったが、世間一般では可哀相な子なのだ、今更ながら気付く。

 だからと言ってなにがある訳でもないが。


「なあ、お前さん、これからどうする気なんだ?」


 ふと気になって、そのまま口に出した。

 このまま地獄預かり、って訳にも行くまい。

 少なくとも、野良猫が拾われたような現状では居られないはずだ。

 選択肢としては、このまま全部、記憶と魂洗浄されて転生するか、こっち側の三丁目で働くか、だ。

 そんな行く末を見つめた現実的な大人の話だったのだが。

 しかし。


「ふぇっ? 遊ぶよ?」


 ……意味が伝わっていなかった。


「あー……」


 が、まあいいか、と俺は納得することにする。

 多分なにも考えてないだろう。そして、なるようになるはずだ。


「おう、そうかい」


 肯いた俺に、春奈は聞いた。


「遊んでくれるんでしょ?」


 ふと、俺を見る春奈の眼が不安に揺れる。

 ここでいやだと言ったら、不安定になって暴れるんだろうなぁ。


「ああ、暇がある限りな」

「じゃあ行くよ?」


 ブォン、と、風切り音。


「え」


 訂正。応と言っても暴れます。

 春奈の拳が大きく仰け反った俺の鼻先を掠めていく。

 思わず口を開いた。


「なにすんじゃいっ」


 すると、なにゆえか分らんが、春奈は眼を丸くし、酷く不思議そうにこちらを見る。


「ほえ? 遊んでるんじゃん」


 もう一発、掠めていく拳。

 ああ、なるほど。遊びと殴り合いが完全に結びついている訳か。

 そんなことを考えながら、迫る拳をかわす。

 しかし。

 残念だが、ソファに座ったままでは回避にも限界がある訳で。

 後もう少しもすれば直撃を貰う。

 仕方がないので、俺は伸ばされた春奈の腕を掴むと、一気に持ち上げ、後ろから羽交い絞めする状況に持っていく。


「おおうっ、はーなーせー!」


 じたばたと暴れる春奈に、俺は彼女の言葉を真似するように返す。


「いーやーだー。つーか、もっと別の遊びを知らんのか」


 すると、再び不思議そうに、春奈は停止した。


「へ? なにそれ」

「いや、世の中に存在する遊びというものはな? 別に殴り合いだけじゃなくてだ。色々とあるもんなんだよ」

「そなの?」


 この間、ずっと春奈は不思議そうにしていた。


「そうなんだ」

 しかし。

 俺がそう言った瞬間、にこりと春奈の顔が輝いた。


「教えてっ!」


 春奈が身を乗り出す。俺は仰け反る。


「おおうっ、ちょっと待て」


 俺はこれほど食い付きがいいとは思わず、考え込んでしまう。


「早く早くー!」


 まあ、なんていうか、言ってはみたのだが、よく考えてみれば、子供の遊びって、なんだ。

 ぶっちゃけるとそちら方面に造形は深くないのだ。

 そして、浅い知識にしたって、鬼ごっことか、かくれんぼとか、有名なのは確実に二人で遊ぶものではない。

 じゃあ、二人でできると言えばなんだ、という話だが、しりとりが真っ先に思い浮かんだが、アホの子には向かん。

 麻雀は大人の遊び過ぎる。

 かといって、いきなりテレビゲームを教えてしまうのも気が引ける。

 盤上モノはそれそのものが無い。

 では何か。


「早く教えてよ!」

「ううむ、ちょっと待て、そうだな……」


 せかされ、思い付かず、焦って助けを求めるように辺りを見回す俺。

 すると俺は、机の上、そこにとあるものを見つけた。


「あ」


 一から十三、四つの印の札。

 いわゆる、トランプと呼ばれる存在が、これ見よがしに置いてあった。

 ああ、きっと藍音の仕業だ。


「まったくやってくれるメイドだぜ……」




 でも俺二人でやって楽しいトランプ遊びを知らないのだが。












 藍音の気遣いによって、トランプという武器を得た俺は。


「悔しいっ! なんでそんなに強いのよー!」


 婆抜き目下十五連勝中。

 コタツを挟んで向き合う俺と春奈。

 勝ち星は完全に俺のものだった。


「いや、ええと、うん……」


 それは貴方がアホの子だからです。


「もう一回! もういっかい!!」

「いや、いいけどな?」


 お約束もお約束、顔に出過ぎである。

 しかし、まあ。

 婆抜きを二人でやってもしゃあないと思うのだが、しかし、春奈が楽しそうだから良いとしよう。

 詰まらないとごねる訳でもなく、未だもう一回とせがんでいるのだから。


「最後に勝てば前部長消しなんだから!」

「まあ、いいけどな?」


 そう言って勝負は再び。

 しかし。

 ……まあ、結果は言わずもがなであった。


「うう……、ひきょうだ……。げれつでさいていだ……」


 結局何戦したのか。

 三十を越えたあたりから数えていない。

 ただ、俺も春奈もいい加減疲れた。

 腰も痛くなってきたので、一度中断する。

 コタツを抜けて、俺はソファに座り、そしてその前に春奈が立った。

 そうすると、丁度俺の少し上くらいに春奈の目線があって、丁度いい。


「俺は正々堂々頑張りました」


 二十あたりから勝たせてやろうかな、と思い始めたのだが、このアホの子アホな深読みをしてアホに婆を引いていくのだ。

 そう、頑張ったのだ。勝たせてやろうと。


「このわたしが……、しじょー最強超びれい天才美少女の私が。こんな冴えないやくしお兄さんに負けるなんて……」


 その言葉に、俺はふと空恐ろしいものを感じた。

 確かにこの間春奈にお兄さんと呼べとは言ったのだが、あれは言葉のあやのつもりだったのだ。


「冴えないのはともかく。自分で言っといてあれだが、お兄さんはやめろ。なんか残念な空気になる」


 流石に少女性愛者に間違われたくはない。

 閻魔辺りに殺されたくはないのだ。


「えー……? じゃあなんて呼べばいいのよ?」


 不満そうに声を上げた春奈に、俺はぞんざいに返した。


「薬師でいいっての」

「いいの?」


 何でもよく確認する子だな。

 思いながらも俺は肯いた。


「わざわざ本人が言ってるんだから聞くまでもないと思うがね?」


 そうすると、春奈は少し戸惑って、俺の名前を呼んだ。


「やくし?」

「なにかね?」

「やくしー?」


 確かめるように、もう一度春奈は俺の名前を呼ぶ。


「なんじゃい」


 そして最後に、思い切り笑って、俺の名前を呼んだ。


「やくしー!」

「おお、ちゃんと発音できたな。偉い偉い」

「やったー! ……って、わたしに掛かれば当然なの! 子供扱いするなー!!」

「さいですかい」


 それにしても、懐かれたもんだ。

 俺のなにが気に入ったのか。

 いや、まともに相手するのが俺しかいないだけか。

 まあ、それでもいいだろう。


「ねえ」


 友人ができてそっちと遊ぶようになるまで、付き合ってやろう。

 今更アホの子一人増えた位じゃ変わらねーだろ。


「ん?」

「わたしも座っていい?」

「わざわざ聞かんでも」


 そう言って、俺は座るために後ろを向いた春奈の背を俺は見つめる。


「どっかーん!」


 そう言って彼女が座ったのはソファではなかった。


「ぬお?」


 ソファの上で胡坐をかくその俺のまた上。

 春奈はそこに、ちょこんと座っていた。

 俺のちょっとした驚きの声に、彼女が振り向く。

 その表情は恐る恐ると言った風情。


「……ダメ?」


 当然、駄目などと言えるわけがない。


「幾らでも付き合ってやんよ」


 すると、春奈は幸せそうに笑って肯いた。


「えへへ……、うん!」




 まあ、こんなのも悪くねーだろう。














「しかし、俺気に入られてんなー」

「あったりまえじゃない!」

「なんでさ」

「だって、やくしはわたしの初めての男だもん!」


 それは初めての男の知り合い的な意味で? 初めて遊んでくれた的な意味で?

 まあどちらにせよ。


「――誤解を呼ぶからやめてくれまいか」







―――
アホの子、参上。
お馬鹿さん程可愛いと思います。


今回暁御タイムは時間が足らず、写真すら取れませんでした……。
風邪を引いて休んでたから皺寄せがやばいです。


返信。

奇々怪々様

藍音さんはなにかあると薬師に襲いかかろうとしますね。
まあ、置いていかれるのはある種トラウマですからね。呼ばれなかったから自重して行かなかったたけど納得はできない的な。
藍音さんは多分薬師に関するものならなんでもいけると思います。匂いとか、味とか。
暁御はなんというか……。倍プッシュだ……。


春都様

薬師無双が終わったと思ったら藍音無双。
もうお腹いっぱいです。ただ、幼女がチャイムを鳴らさなかったとしても――。
薬師のアレが使い物になるかどうか……。
それと、幼女は完全にアホのオーラがMAXですから。


HOAHO様

流石にこれ以上増えると薬師御殿が完成してしまうので。
まあ、お持ち帰り案もあったんですが。
ただ、人口密度濃すぎだろjkってことで預かりになりました。
まあ、その内住み着かないとも限りませんが。


トケー様

大丈夫、疼くかどうか藍音さんは明言はしておりません。答えは皆様の心の中です。
薬師の加齢臭については、もういい歳どころかそろそろ化石になってもいい歳ですからね。
もっと何か別のものが出ないか心配です。発酵したりとか。
おお、一話からの古参のお方だったのですか。半年以上もお付き合いいただいてありがとうございます。これからも砂糖ぶっぱしたいと思います。


SEVEN様

予想を裏切るというか、好き放題やった結果がこれだよ!
まあ、メイン回は意外と少ないけどやはり存在感は上ですからね。
大丈夫、今回は流れに乗ってアホの子でした。いや、ちょっと先に未亡人にレッツゴーしようとか思ってないですよ?
アキミ・ザ・レジェンドは次回も出れないようです。


マリンド・アニム様

メイド……、メイドですか。まあ、メイドの色香に惑わされるのは仕方のないことだと宇宙の法則が仰ってますから。
それにしても、藍音さんはもう核爆弾レベルの爆撃を連発しますね。
問題は機動要塞の強度が核シェルターすぎることでしょうか。
裸でマッサージは、友人は信じました。訂正してません。


光龍様

藍音さんのターンが終わらない。
というか今回もちょろっと存在感を現していく藍音さんが怖い。
大好きというか、愛されまくって薬師が死にそうというか。もう結婚しろというか。
ともあれ、いつになったらあれは人の好意に気付くのやら。


nayuki様

アホの子お届け、頼んでないのにやってきます。
というか、案内の人が居たということは完全に配達ですね。
多分配達した人は、藍音が出た後ダッシュで逃げたんだと思います。
きっと面倒事をきれいさっぱり押しつけたかったのだと。


通りすがり六世様

いや懐かしい、自慢の拳が。
藍音さんは全力全開過ぎて泣けてきます。一回置いてかれた経験もあるからして、とてもとても健気で泣かせてくれます。
なんというか、藍音さんは素直なんだか素直じゃないんだか。
とりあえず薬師は藍音さんの胸に顔を埋めて死ねばいいと思います。


あも様

最後の一押し、失敗して良かったのか悪かったのか。
女の子と無骨武装はロマンですよね。
鉄塊を振りまわすたびに藍音の胸が揺れるんですねわかります。
巨大ロボはAI萌えも行けると思います。ADAは我々に新しい道を示してくれた……。


春日井様

やっぱり無かったらしいです。インターフォンの概念。
薬師のフラグ立てはプロの仕事過ぎて殺意が芽生えます。
本人にはなりたいと思えないほどのおしごとです。
でも周りで見ててもやっぱり殺意が芽生えるんだと思います。


Eddie様

藍音さんの直球っぷりは異常です。
全力全開で薬師大好きっぷりを披露していますが、効果はいかほどのものか。
アホの子はきっと日常的に配達されてくるのでしょうね。
きっと今回で味をしめたことでしょう。






最後に。

その頃藍音はどうしていたんだろう……。

あと、ただでさえ出ないのに回数を減らしてしまったらっ……、うっ……、暁御は……!


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