<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

オリジナルSS投稿掲示板


[広告]


No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7573] 其の八十二 明けましておめでとう俺。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/02 21:59
俺と鬼と賽の河原と。





「うだー……、これで今年も終わりかー……」


 コタツに上半身を預けて俺はぐったりと呟いた。


「色々あったなぁ……」


 地獄で年を越すのは今や一度や二度ではない。

 しかし、そんな今までに比べて、やはり今回は、怒濤だった。


「じゃら男殴ったり、由美由壱拾ったり、ブライアン殴ったり、お見合い乱入したり、法性坊殴ったり、か……」


 それだけではない。

 基本的にこの間まで前さん位しか親しい知り合いなどいなかったのに、今年はやたらに出会いが多い。

 そんなことを考えて、俺は思わず笑いながらため息を吐いた。


「ろくなもんじゃねーな……」


 それが悪くないと思っている自分が、一番碌なもんじゃない。

 厄介事、面倒事は嫌いだったはずなんだが。

 そんなこと言いながら、結局厄介事を楽しんでるから手に負えない。


「いつ俺は事件収集体質になったんだか……?」


 集めて歩いた覚えもないのだが。

 更に収拾もしないといけないというのがこれまた残念な点だ。

 できることなら収拾役は押し付けたいのだが、鬼兵衛あたりに。


「ふー……、来年は平穏無事に過ごせる……」


 それもまた夢のまた夢。


「訳ねーんだろうなぁ……」


 そんなこんなで。




 年が明けました。






其の八十二 明けましておめでとう俺。






 初夢は、鬼兵衛と酒呑とブライアンで野球拳をした後に罰ゲームとして閻魔の料理を食べさせられ、藍音の胸で窒息する夢でした。


「……おはよう」


 酷い夢を振り払うかのように、俺は誰もいない空間に一人呟いた。

 そう、一人呟いたはずなのだ。

 なのに、答えは返ってきた。


「おはようございます」


 ……俺を窒息死させてくれた藍音さんじゃねーですかい。

 今にして思えば、去年の後半は藍音に随分手を焼かす羽目になった気がする。

 今年は玩ばれないように気を……、

 付けても無駄なんだろうな……。

 いつになっても、何を言っても藍音には、勝てる気がしない。


「まったく、いつの間に……」

「無論貴方が気付かぬうちに、ですが」


 まったく、敵わない。


「勝手に布団に入ってくるのは――」

「そう言うと思って、貴方を私のベッドに連れて来た訳ですが」



 隙もない。


「……て、なんでやねん」

「さあ、何でしょう」


 突っ込みに、藍音は惚けて返した。

 対して俺は、諦めたように乱暴に枕に頭を沈めた。

 ぼすん、と羽毛の枕を叩いた音が響く。


「……乱暴するならこの私に」

「そんな子に育てた覚えはありません」

「ああ、私は枕になりたい」

「もうちょっと夢のある将来をだな」

「じゃあ、薬師様のお嫁様になりたいです」

「……夢いっぱいだな」

「……いっぱいです」


 そう呟いた藍音は少し恥ずかしげだった。

 そんな藍音に俺は苦笑して、声を掛けようとして――。


「まったく、恥ずかしがるなら……、ぐむっ!?」


 頭を掴まれ、気が付けば俺は、藍音の胸に顔を埋めていた。


「……なりました。枕に」


 そんなことを言って、照れ隠しなのだろうが、俺としては苦しい。

 というか実に今日の夢を思い出す。


「むぐぐぐ……」


 苦しいが、俺の頭を掴む手は離れない。

 その内、意識が遠のいてきて――。

 最期に俺はこう思った。



 ――正夢か。















「おお、李知さん、由美、おはようさん」


 実は俺が起きたのは午前六時で、悪夢なんだかよくわからない夢で起きてしまった訳だが。

 由美と李知さんは今まさに起きたようで、二人、抱き合うように眠っていた所を上体を起こし、目を擦っている。

 ああ、微笑ましい。


「んん……、薬師……? おはよう・・・・・」

「お父様、おはようございます……」


 それがもしも。


「なんで二人とも俺の部屋で寝てるんだ」


 俺のベッドでないならば。


「ほれほれ、起きた起きた」


 実を言うと、俺は早く起きすぎたので寝直しに来たのだったりして。

 正直、正月と言えども、六時から起きたってどうしようもない。

 仕事も休みだし。

 まあ、そんなこんなで俺は二人をゆすっている訳だが。


「んぅ……」


 由美はそのまま二度寝に入ってしまった。

 李知さんもやたら眠そうだ。

 まあ、昨日は遅くまで起きていたのだから仕方ないといえば仕方ない、か。

 特に、李知さんなんて十時くらいには寝て、五時か六時には起きているのだから。

 まるで小学生の如し。

 しかしながら、まあ大晦日だし元旦だし、ということでその生活は臨時休業。

 こうして俺の目の前で眠そうにしている訳だ。


「で、何故二人して俺のベッドの上に寝てるんだ」


 そんな問いに、李知さんはたどたどしく答えた。


「……由美が部屋にお父様が居ないと言うから一緒に見に行って……、……寝た?」


 いやはや、珍しい。

 かなりレアだな。寝惚け李知さん。

 どうやら、俺が藍音の部屋に連れ去られたときに、俺の部屋を確認してそのまま眠気に身を任せた、と。


「まあ、そりゃいいんだが。二人にど真ん中で寝られると俺が寝れない訳だ」


 例えキングサイズと言えども、人物の位置取り次第で二人しか寝れない場合もある。

 今回は二人微妙に斜めで寝ているので俺の入る隙はない。

 しかし。


「……んー……」


 李知さんの反応は実に悪い。

 寝惚け眼が俺を完全に捉えているようには見えないし、ゆらゆらと揺れる体が覚醒していないことを如実に表現していた。

 俺は少し語気を強めて、よく聞こえるように言った。


「ほれ、ちょっと退いてくれっ」


 その言葉に、少しだけ、意識がはっきりしたらしい。

 言葉を発さなかった唇が、遂に人語を語る。


「……キス」

「……はい?」


 人語だが、文章ではなかった。

 単語である。

 そして、やっと出てきた会話文が。


「キスしろー……」


 キス。

 ははは、未だ寝惚けてるよこの人、とばかりに俺は視線を漂わせ、冷や汗を垂らしながら口を動かす。


「それは魚的な? それともあれだ。えー、マウストゥマウス的なー……」


 しかし、その言葉を、全て出し切ることはできなかった。


「むぐっ!」


 唇に柔らかい感触。

 後頭部に手の感触。

 泳いでいた視線をはっと戻すと、李知さんの顔が至近距離に。

 座っていた李知さんが不意に立ち膝になり、ベッド横に立っていた俺に、キスをしている。

 俺は、混乱した頭を少ない知識の関連付けで冷静な状態に戻そうとした。

 ……キス、接吻。何故? 否。欧米においては接吻は文化的挨拶。

 なるほど、挨拶か。

 中々激しい挨拶だが、挨拶なら仕方がない。

 しかし、李知さんが欧米文化を試みるとは何か心境の変化でもあったのだろうか、と考えた所で、遂に唇が離れた。

 解放された口で、言葉を発する。


「……っぷは。欧米の挨拶ってのは中々苦しいな……。ん? 李知さん?」


 その途中でふと違和感。

 立ち膝から戻って横座する李知さんの顔が、驚愕に染まっている。

 その目は見開かれ、口は開いた口がふさがらないといった風情。


「……李知さん?」


 俺の呟きに続いて、茫然と俺にではなく、空中に、確認するように李知さんは吐き出した。


「……夢じゃ、ない?」


 一応俺は肯く。


「夢じゃない」


 沈黙。


「……」

「……」




 その後?

 李知さんは金棒を振りまわして逃げて行きましたとも。











 それからどれくらい経ったのか。

 一時間以上かもしれないし、五分だけかもしれない。

 ともあれ、二度寝に入った俺が再び目を開いたとき――。

 何故だか仰向けの俺に、由美が馬乗りになっていた。


「……なにされるんだ。俺」

「おはようございます、お父様」


 俺が起きたのに気付いた由美は、満面の笑み。

 本当にうれしそうに、彼女は俺の胸に頬ずりした。

 なんというか、実に――。


「……こそばゆい」


 虚空に呟いた俺の言葉に、はっと由美は顔を上げる。


「嫌だったでしょうか……、お父様……」


 不安そうなその瞳に、応と頷ける訳もなし。


「んなこたーねーよ、少しくすぐったいけどな」


 言うと、彼女は子供特有のにへらとした笑みを浮かべて、今度は俺の胸に顔を埋めた。

 俺にかかる体重は非常に軽く、どうにも庇護欲をくすぐってくれる。

 俺はぼんやりと天井を見つめて、ふと、由美の頭を撫でる。

 ふわふわの髪を手で梳くように。


「長閑だな……」


 怒濤の去年、というか年末が嘘のようだ。

 いつまでもこうしていたい気分になってくる。

 あー……、平和だ。もう、これを仕事にしたい、人の頭を撫でて金もらう仕事。ああでもおっさんの脂ぎった頭とか来たらやだなー……、つかやってることは河原で石積んでるのと余り変わんねーよ、でも野ざらしだからなぁ。冬は寒いし。一応雪も積もらねーようにしてるし、良心的な寒さに留めてくれてるけど結局寒さだからなぁ良心的でも良心的じゃなくても寒いことには変わりねー……。

 と、だんだん意識が血迷ってきた所で、俺は現実に回帰する。


「……ああ、後で初詣にでも行くか」

「お父様?」

「いや、ふとな。おみくじでも引こうかと」


 ちなみに、去年のおみくじは大凶だった。

 余りに衝撃的だったので、覚えている。


「楽しみですね……」

「おう。っと、そろそろ飯食いに行くか」


 俺はそのまま由美を抱え上げるようにして、食卓へと向かったのだった。













 食事も終わり、自分の部屋で着替えようかと思ったら。

 今度は不意に藍音の部屋の扉が開き、俺は強引に引きずり込まれた。

 まあ、藍音の部屋、と言っても真の藍音の部屋はお隣の藍音宅なので、寝泊まりしているだけだが。

 ちなみに、犯人は藍音ではない。

 俺は洗い物をしている藍音を確かに目撃している、ということは。

 犯人と言えば、藍音の箪笥を間借りしている――、

 銀子だろう。


「いきなり何を――。いや、服を着ろ」


 銀子は何故だか知らないが、上下下着一組しか身に着けていないのだ。


「そんな貴方にNOと言ってやりたい」

「着ろ」

「NOと言えない日本人。その悪癖を今ここで直すべき」

「お前は日本人じゃねーから」

「着ろと言われると着たくなくなるのが人の心の闇」

「じゃあその格好で初詣か」

「なんという鬼畜。羞恥プレー。ドS。変態。悔しいっ、でも感じちゃう。びくんびくん」

「むしろお前さんが変態。露出癖持ちじゃねーなら服を着ろ」

「露出癖持ちなら着るなと」

「どっちだね?」

「貴方次第」

「着ろ」


 そうして、やっと銀子は本題を切りだした。


「こういうとき、どんな服を着ていいか分からないの」

「とりあえず着ればいいと思うぞ」

「どんな服を着ればいいかと聞いている」

「着ないよりはどんな服でも着た方がマシだろ」

「じゃあ、ショッキングピンクの全身タイツ」

「着た方が――、いや、着ない方が……、つか持ってんのかよ」

「創る。錬金術で」

「才能の無駄遣いだな」


 否、今一つ切り出せてなかった。

 銀子と話すとやはり事が上手く進まない。

 まあ、別にそれほど急ぎたがりでもなく、せっかちとは逆な俺としては構いはしない訳だが。


「こういう時ってやっぱり着物?」


 なるほど、そう言った話がしたいのか。


「あんましそういうの気にする必要もねーはずだけどな。今時は」


 ちなみに藍音は和風給仕服になるそうだ。

 今日ばかりは。

 と、まあ、それはともかく。


「で、藍音が用意してくれたのだけど」

「あるのかよ」


 なら着ればいいじゃねーか、と言おうとした矢先に。


「着つけさっぱりっ!!」


 まるで語尾に星を幻視しそうな清々しさだった。

 そして、俺はと言えば。


「……ほれ、万歳しやがれ」


 気が付けば既に、先生を世話していた頃の、いわゆる昔取った杵柄という奴を最大限利用していたのだった。

 ある意味、条件反射とも言う。














 そんなこんなですったもんだありまして。









 前、祭のときにも来た神社の石畳を、今度は弟と一緒に歩いている。


「まったく、絵馬に何を祈るんだか」


 うちの女性陣は女の秘密とやらで、女性陣だけで絵馬を書きに行った。

 俺と由壱はと言えば、野郎二人、人波に揉まれている。


「兄さんも大変だね……」

「あー? ああ」

「これからも苦労は増えるんだろうけど」


 そう言って由壱は苦笑した。


「俺としちゃ、人生波乱万丈に出るのは御免なんだが」

「無理じゃないかな」


 苦笑しながら由壱は即答。

 少しへこむ。


「たしかに夢のまた夢なのは分かってるんだけどなぁ……、でも希望は捨てたくないっていうか」


 後半は自分に言い聞かせるような言葉。

 そんな俺に、由壱はさっぱり希望を絶ってくれた。


「まず現時点で、李知さんの問題とかあるよね? もう問題が出てきたのに平穏に過ごせるわけがないと思うよ」


 いやはや、まったくもってその通りである。

 現状こうして李知さんはうちに住んでいる訳だが、いつまでもそうしているわけにもいかないだろう。

 そして、李知さん一人で決着を着けるのが難しいならば、俺は出張る自信がある。

 李知さんの実家とひと悶着あるかも、って時点ですでに平穏には程遠い。


「まあ、いいさね」


 言いながら、俺は由壱を見下ろして笑った。

 平穏させてくれないなら蹴散らすまで。

 どんな問題や事件も、さくっと片付けて帰って寝ればいい。


「さて、おみくじでも引いていくか」





 その日のおみくじは――、大吉だった。
















おまけ。



 金運。

 女性に使う金は諦めなさい。いい女に金は必要経費です。

 仕事運。

 過労死に注意。もしくは延々生殺し。

 恋愛運。

 混迷を極める。いい加減落ち着きなさい。

 総合運。

 ぱっと見不幸ですがそんなこともない気がしないでもなく。要は気の持ちよう、貴方次第でしょう。


「……どういうことだ」


 なんとも釈然としない気持ちで俺は、木におみくじを括り付けるのだった。



―――
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。



ってことで今回は家族で元旦です。
メインヒロインの影も形も見えやしないとかはまあ、スルーで。
新年しばらくの目立つヒロインは李知さんか、という空気も漂う位ですし。
次のシリアスはご存じの通り李知さん編ですが、しばらく後になります。
かなり大きなシリアスも終わったばかりですし。
十本以上はほのぼの続けたいと。
少なくとも暁御が出るまではやらないと思います。



では返信。


あも様

はい、このまま行くと1になるようです。
まあ、どっちに転んでもなんとかなるような辻褄合わせがあるのでしばしお待ちを。
ちなみに妹分=義経です。
義経と藍音の姉妹アタックがいつか炸裂するのでしょうか。


リーク様

コメントありがとうございます。
やっぱりこのままにしておくには惜しい人ですかね。
憐子さんは。
確かに見事にかきまわしてくれそうな予感もしますよ。やっぱり。


スミス様

一応シリアス編はそういった方向なのですが、違和感を感じられたならそれはやはりこちらの技量不足です。
できるだけ違和感を感じないよう努力はしたいと思います。
ちなみに先生が復活すると、法性坊の方にもちょっとしたアクションが起こるので、多分大丈夫だと思います。
義経が可愛く見えてくるということはそれはドSへの目覚め――。


奇々怪々様

前回はちょっと藍音にデレてた気がしないでもなかったり。
女性天狗の場合は所か女性をあれな意味で殺すために生まれてきたような天狗の様です。
まあ、先生が人間に転生してるっていうのもあるにはあったんですが、その方向でいくと話が面倒になるのでやめました。
とりあえず復活で確定、みたいなようですが。


にゅー様

コメント感謝です。
前回のシリアスの半分は、愛でできています。
だが、愛が免罪符になると思って皆好き放題しすぎだと。
このまま先生が復活するとドロドロどころか固形化する様な気も。


蓬莱NEET様

感想ありがとうございます。
法性坊は何とも哀しいというか。ある意味計画失敗して良かった気もしますが。
うっかり復活させてから完全に別人という展開になったら首括りそうですし。
はい、1に一票ですね。承りました。


“忘却”のまーりゃん様

コメントどうもです。
どうしても義経を出した時点で書きたかったんです。弁慶。
弁慶→死んでる→幽霊→足ない→弱点無し。
というカオスな論理展開は我ながら意味不明ですが。


ReLix様

感想どうもであります。
確かに、今回は怒濤で終わってしまって、振り返ってみると結構反省点も残っております。
それでも、楽しんでいただけたならば、幸いですが。
いやはや、意外と先生復活の声は大きいものですね。我ながらびっくりです。


光龍様

まあ、薬師はいい役ではなかったけども、やりたいことをやったようですし。
天皇の娘に関しては、まあ、鬼兵衛メイン回があればもしかするかも……。
先生復活に関してですが、記憶喪失はないですが、完全体ではないかと。
まあ、その辺は出てきたらになりますが、いわゆる車椅子とか、そんな感じの奴を。


連星様

年末も過ぎて、正月に入った今、実はばっちり暇になりました。去年は余り風邪もひかなかったし、意外と元気です。
やっぱり先生の特徴と言えば、恥じらいが薄いから藍音さんとはまた違った激しい攻めができることなんでしょうね。
先生と藍音は手を組むか敵対かのどちらかでしょうね。まあ、先生のことをある程度知ってる藍音としては憎み難い所でしょうが。
復活したが最後、先生は薬師にべったりかも。


眼隠し様

いやはや、主人公最強と言いながら大して強そうじゃないというか、四天王二番目クラスだった薬師がやっとチートじみてきました。
あと、藍音さんとのコンビもやれましたし、出したかった人も出しました。
後はイケメン鬼兵衛とか。
まあ、ともあれ無事終わって肩の荷が下りましたし、ゆっくりほのぼのしたいと思います。


ヤーサー様

去年の終わりに合わせる、というかどうにか去年中に終わらせたいという考えもあったりしましたが、何とか終わりました。
いやはや、薬師が記憶に残してちょっと気にする位の人ですから、嫁さんは気さくないい方だったのでしょう。
藍音さんは、大天狗の相棒張ってますからね。補助付きながら、限定的に大天狗とも渡り合えるでしょう。
まあ、復活すると先生有利に見えますが、千年空いてますからね。


通りすがり六世様

結局、生きるために強くなって大天狗になっていたのに、大天狗になったら狂ってしまった、と。
妖怪は結局強くなるほど世界に縛り付けられて行ってしまうのですね。
今回はパートナーということでばっちりヒロインっぷりを見せていましたね、藍音さん。今年も攻めの姿勢の様で。
崇徳さんとの関係もゆっくり展開していきたいと思います。しかし6、ですか……、果たしてどんなことになっているのやら。


春都様

今回はいろんな事件をひとまとめにしたタイプですからね。
上手いと言ってくれるとやはりうれしいです。
今回でやたら張ってた伏線も一部回収できましたし。
憐子さん復活については、まあ、何とか納得のいく形に仕上げたいと思います。ってことでほのぼの新年でした。


ガトー様

やっぱり復活ですよねー。
まあ、いかに最愛の人とはいえ、千年の間に色々ありましたから。
いきなり結婚なんてことには……、ならないと……、思います……。
鬼兵衛に関してはやっぱりはぐれ青鬼純情派を……。


AAA様

コメントどうもであります。
まあ、ほのぼのですから。
ド派手な展開にはなりませんね、やっぱり。
予定ではふっと帰ってくるというか、スタンドというか……。何を言ってるのかさっぱりですね。


f_s様

憐子さんが出てきて前さんに回帰し、美沙希ちゃんが持っていったと思ったら。
藍音がかっさらって行って気が付けば未亡人の元へ出向き、そこで親子丼になりかけて。
こりごりだと思ったら娘にアタック掛けられて、露天商に結婚指輪を買わされかけて、いじけた閻魔妹を慰める。
結局そんな落ちだと。


ガリガリ2世様

流石にヤンデレ継続はあれなんで。
普通にラブコメすると思います。まあ、その辺も含めて、とりあえず本編をお待ちくだされとしか言いようがない気もしますが。
果たして憐子さんはハーレムを目にしたらどうなるのやら。
まあ、このままだと復活の様ですが、ご意見は参考になりますので、参考にしながら展開を考えたいと思います。


トケー様

久々に綺麗な薬師が飛び出したり。
ハードでボイルドな、堅焼き卵な青鬼が飛び出したり。
色々ありましたが、格好良く決まって良かったです。いろんな意味で。
まあ、あれですからね。無風だと思っても、次の日には風は吹きますからね。




最後に。

実は私初詣行ってない。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.053555011749268