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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/05 22:12
俺と鬼と賽の河原と。



 ここは河原。



「な、なあ」

「へ、あ、なんでしょうか!?」





そこで、人は石を積む。





「いや、その、あれだ。今までの詫びによぉ、その、なんだ。飯、奢ってやるよ」





 それが供養と言われつつ。





「え? あ、あの、二人でですか?」

「い、い、いいいいいや、ち、ちげーよ。WAWAWA、詫びっつったろ? だから、センセ――、薬師も一緒だよ?」

「え? そうなんですか……。だったら行きます」




 それが、賽の河原。



「ってわけだ」

「よーし。歯を食いしばれぇー」




「バンコクキッ!!」





其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。





 何が万国旗だというのかこの男は。

 確かに、暁御としては気まずいだろうが、だからこそじゃら男が頑張ることで好感度が上がるのだ。

 元が最低なだけに、上がる時はウナギ登り。

 のはずが。


「何時の間に俺が一緒に行くことになったのかな?」

「つい先ほどです」


 ちなみに、じゃら男は河原に正座。


「いい加減にしろこのヘタレヤロウっ!!」

「ハクランカイっ!!」

「歯ぁ食いしばれ!!」

「いや、薬師もう殴ってるから」


 前さんからの鋭い突っ込みはスルーさせてもらう。

 半分は、勢いで殴ってるわけだけど。

 と、そこで、前さんが俺の肩を叩いた。


「ん?」

「それよりさ、薬師は行くの?」

「ん、あー……。そうだな……」


 思えば、俺が何か理由をつけて待機すれば二人きりにさせることは可能だな。

 だが――、


「俺も――、行くか」


 なんてーか。

 じゃら男が心配。


「センセイも来るのかよ……」

「薬師は行く必要ないと思うんだけどな」


 二人とも不満そうだが、

 俺が行く必要ないならば――、


「なあ、じゃら男。お前夕飯に何着て行く?」

「え? このままじゃ駄目なのか?」


 こんなことは言わない。


「冗談はいい加減にしないと、じゃら男からヘタレ男に降格するぞ」

「これは、仕方ないかな……」


 前さんも納得した。

 なんか眉間に手をあててこりゃだめだ、と。


「うん。確かにじゃら男が心配。行っといで」

「おう、了承した」

「いや、ちょっと待ってくれよ。何先生と姐さんで話進めてんだよ」


 そうのたまうじゃら男を俺はびしりと指差す。


「お前その格好で待ち合わせ場所に着たら――、俺だったら他人のフリするわ!!」


 じゃらじゃらとアクセサリー、穴空いたぶかぶかのズボンを腰パン。

 悪趣味Tシャツ。


「まずはなぁ、そのじゃらじゃらを外すとか、そのじゃらじゃらを外すとか、そのじゃらじゃらを外すとか、そのじゃらじゃらを外すとか、そのじゃらじゃらを外すとかなあ、
他にも、そのじゃらじゃらを外すとか、そのじゃらじゃらを外すとかあるだろう!?」

「どこまでもじゃらじゃらにこだわるんだね。まあ、あたしもいい気はしないけどさ」

「うん」

「うん、って」

「で、ともかく。お前、そのほかの服もってるよな?」


 すると、決まり悪げにじゃら男が肯いた。


「あ、ああ。他にも同じ奴が何着か」

「疾く去ね」

「なんかひでぇ事言われた!!」

「うるせぇ。とりあえず終わったらうち来いや」

「いや、わかったけどよ」


 じゃら男が肯いたのを見て俺は座りなおすと、石積みを再開した。

 そのようにして仕事は終わり――、











「ほら、とっとと着替えろ」


 俺は自室でじゃら男にスーツを押しつけていた。


「いや、俺スーツなんて着たことねぇし」

「知るか。和服着るよかましだろうに」


 そういう俺の衣服こそ和服。

 灰色の着物である。

 現状このような格好であるのは、俺があまり気合い入れるより、じゃら男が頑張って俺が引き立てに回った方がいいであろうということである


「別にタイまできっちり閉めろとは言わんよ。だからとっとと着て、行くぞ? 待ち合わせに遅れたら最悪だろう」


 いいながら、俺はドアノブに手を掛けた。


「俺は先に外で待ってるからな。ちゃぶ台の上に鍵が乗ってるから終わったら閉めて出てこい」


 ちゃぶ台を指差し、そして廊下に出る。

 そのまま止まらずに寮の外へ。

 そして、


「来たか」

「あ、ああ。変じゃねぇかな」


 出て来たのは、ワイシャツの襟もとを開けて、裾を出した姿のじゃら男。

 随分な着崩しだが、ま、しゃあないか。


「まあまあ。見た感じ、三番手四番手のホストには見えるから安心しろ」


 言うと、三番手の所に反応して微妙に肩を落とすじゃら男。

 だが、彼は不意に顔を上げ、言葉を発した。


「そう言えば、ずっと疑問に思ってたんだけどよ」

「ん?」


 じゃら男は聞く。


「なんで、こんなに協力してくれるんだ?」


 俺は肩をすくめて見せた。


「まあ、俺もおせっかいだとは思ってるがね。迷惑か?」

「いや、迷惑じゃないっていうかありがてぇけどさ。なんでかなーと」


 珍しく、殊勝な態度をとるじゃら男に、俺はおどけて笑って見せる。


「大したことじゃねぇよ。ただまあ、お前の本当の腹底から出たものでなければ、人を心から動かすことは断じて出来ない。少なくともお前は俺を動かした。そういう事だ」


 誰も本気の恋心を、否定なんてしねえさ。


「そんなもんなのか?」


 俺は釈然としないじゃら男に首を縦に振って応えた。


「そんなもんだ。それとな、今お前さんが求めているもんは――、老いた時を豊かにする。だから、まあそれなりに頑張ってほしいわけだ」

「?」


 理解してないような顔のじゃら男の背を俺はぽんと叩くと、言ってやる。


「理解する必要はねぇさな。ただ、今現在追い求めているものは正しくあれば未来に悪影響は及ぼさないってことだけわかってりゃ、その内わかる」

「そんなもん、なのか?」

「ああ、そんなもんなんだ。さて、行くぞ? 人を待たせるのはよくない」


 待ち合わせ場所は河原だ。

 時間に余裕がないわけでもないが、ボーっとしてられる程でもない。







「あ、薬師さん。それと――、じゃら男、さん?」

「よ」

「え、あえ、いやじゃら男って、いやいいや」


 じゃら男は訂正しないのか。

 今はじゃらじゃらしてないのに。

 ともあれ。


「奢ってくれるんだろ? 早く行こうか」


 そう冗談めかして言ってみると、じゃら男がいきなり耳打ちしてきた。


「なあ、ちょっといいか?」

「どうした」

「なんか、いい店知らねえ?」


 心底、

 心底――、

 ついてきてよかった。


「あーっと、こないだ行ったレストランがある」


 これで暁御も利用するレストランという事で話のタネもできるだろう。

 まずはこういうことから始めていくのが大切。


「てことで、さりげなく付いて来い」

「お、おお」


 それにしてもじゃら男、がちがちである。


「?」


 一人状況が理解できてない秋御を置いて、話は進む。





 そして暫く。





「おい、じゃら男。いい加減何か喋れ」


 俺は、暁御が席を立った隙に、じゃら男を肘で小突いた。

 レストランについてから十分。

 じゃら男は暁御に話しかけられて、ああ、とかおおとかは言うものの、一切話しかけてはいない。


「あ、ああ」

「いい加減にしろ」


 今だ上の空のじゃら男に少し強めの肘。


「うおうってなにすんだよ」

「お前はいい加減に話しかけろ。何だっていい、じゃなきゃもうどうしようもない」

「え、でででも」

「女々しい。これで今回何も話しかけんで終わったらそれこそ無理だ、どうしようもない、支援は打ち切るからな」

「ま、マジかよ」

「本気も何も、その様でお前は本気なのか? 本気なら男気見せてみろってな」

「……。わかった。やってみる」


 と、じゃら男が肯いたところで、俺の携帯が鳴る。

 ちなみに、機械関係苦手な俺のために前さんが設定してくれたなんかの三味線の演奏が着信音。


「しかも、こっちの音楽は前さん本人か」


 通常とは違う個別設定された音楽を携帯がかき鳴らそうとして、俺はそれを開いて止める。

 着信、前さん。


上手くいってる?


 答えにくい。


微妙。


 そう返したら、そう経たないでもう一通。


そうだよね。じゃあ、応援してるってじゃら男に伝えといて。


 そうだよねって。

 余りに、ひどい言い草だ、とは言えないのがまあなんというか。


「じゃら男。前さんが、頑張ってだそうだ」

「お? お、おう!」


 今だ落ち着きのないじゃら男を見ながら、大丈夫かと不安になっていると、暁御が戻ってきた。


「すいません、お待たせして」

「お、おお」

「いんや」


 ちなみに、席を立った理由に関しては詮索しないのが男の礼儀。

 化粧品の香りがするということはそういうことなのだろうが。


「ところで、薬師さん」

「ん?」

「ここ、こないだも一緒にきましたよね。覚えてますか?」

「ああ。そうだな、ここで、紅うどん、もといスパゲッティ食ったな」

「あ、覚えててくれたんですね」

「まあ、な。それがどうか?」

「ちょっと、うれしいです……」


 少し照れた表情をする秋御。

 ああ、じゃら男も惚れるさ。

 可愛いもんな、これ。

 とか思っていたら、質問は続いた。


「あの、お聞きしたいんですけど?」

「おう? 差しさわりなければ何でも答えるが」

「好きなタイプとかっています?」

「好きなタイプ、なあ? 和服美人」

「わ、和服ですか」

「おう」


 現代ではめっきり減ったが、地獄では結構いるのでちょっとうれしい。

 ってそんな場合じゃねえよ。

 おいじゃら男、とっとと話しかけろ。

 俺は眼で合図。

 行け、とっとと何でも話せ。


「な、なあ」


 よし言った。

 これから何を話すか知らんが、頑張れじゃら――。



「好きな人っとかって、いるのか?」



 いきなりきたこれ。

 まてい! それは上級過ぎる。

 いつかぶち当たる問題だがぶっちゃけそれはまずくねぇか。

 いや、暁御もそんな顔を真っ赤にして答えなくてもいいっつに。

 何をお前は冗談言ってるんだよって流してくれたらいいんだよ。

 ああそうだね、ここのメンバーは一切合切冗談が通じないんだな、ああ。





「その、あの。はい、います…」





 終わった。

 始まってもいないというに。


「え? え、え、え、どんな人?」


 驚きってか衝撃でしどろもどろに拍車を掛けるじゃら男。

 そんな中、もじもじしながら暁御は語る。


「その……、背が高くて、格好よくて、危ない時は助けてくれて――、マイペースで、でも、さりげなく気を利かせてくれたり」


 そして、こう締めくくる。


「とっても――、素敵な方です」


 こうまで秋御に好かれてるなんて憎いねこの、誰だか知らん人よ。

 だが、問題は――俺の隣の人である。

 それから先。

 じゃら男は一言も発することはなかった。








「おーい、いい加減になんかこう、反応返してくれると助かるかな?」


 俺は、道端で、じゃら男に向かって手を振っていた。

 ちなみに、食事は半端なところで切り上げた。

 じゃら男があまりにも反応を返さないので、こいつ具合悪いみたいで、とか言って逃げてきた。

 そんなじゃら男は、なんかぶつぶつと。

 きっと、当たって砕けてしまえばよかったのだろう。

 ただ、今回は当たる前に潰されてしまった。

 故に、手を振っても叩いても反応なし。


「なあ、お前さん、食事中途で切り上げたから腹減ってるだろう? ちょいと飯食っていくぞ」


 俺は、そう言って、じゃら男を強引にラーメン屋の屋台に連れ込んだ。


「親父さん。チャーシューの醤油をこいつに。俺は――、塩ラーメンで」


 とりあえず俺はあっさりした奴がいい。

 飯もう食ったから。


「へいかしこまりましたっ」


 そして、親父がラーメンを作り始めて――、


「そこの坊ちゃん、ずいぶん沈んでらっしゃいますね」


 俺は、その言葉に、苦笑を浮かべた。


「失恋さ。だから、失恋に効くような味のもん作ってくれ」


 すると、同じく店主も苦笑を見せる。


「ま、女なんて星の数ほどいまさぁね」

「まあ、星には手が届かないわけだが」


 その言葉に少しだけじゃら男が反応を示した。

 店主は言う。


「ただ、それでもその中から一等輝く星を見つけられたのは――、人生に一度あるかないかの幸運だった、ってことでしょうね」

「なんか店主かっこいいな」


 じゃら男は無言。

 鍋の上げる蒸気が、場を支配する。

 そんな中、店主は続けた。


「そして、その幸運に出会って、お客さん、変わったんでしょう?」

「なん――」


 何で分かったのか、そう言おうとしたじゃら男を店主は遮って――、


「お客さんは変わった。だったら――、今度は惚れた女を変えて見せるのが、一流の男ってやつですぜ?」


 じゃら男がはっとしたように店主を見上げた。

 店主は、じゃら男を見て不敵に微笑んでいる。


「いや、本気でかっこいいな」


 それはともかく。


「ま、惚れた女が別の男に惚れてるってのぁ、きついだろうがな、それを味わえ。苦味も、苦しみも、過ぎちまえば甘くなる」


 そう言って俺もじゃら男の肩を叩く。

 見た感じ、もう心配ねぇだろ。

 まあ、あれだな。

 店主は妙なとこ突いてくるな。


「女がどこ向いてようと、自分に振り向かせればいいだけの話、か。で、どうすんだ、お前は」


 言いながら、じゃら男を見る。


「俺、は」


 じゃら男は、しかと肯いた。


「頑張ってみる」






「そうけ」





 その夜に食べたラーメンは、とうに伸びていた。






 迷走中の恋心。

 そうそう諦め付くならば、元から恋はしておるまい。

 そんな彼らを眺めつつ。

 俺は明日も楽しく石を積むのだろう。







設定な感じで。

質問があったので、金について詳しく。
物価は我々の方の現代とさほど変わらず。
地獄の金の種類は両、文、の江戸時代ぽい感じで。
ただし、物価の変動も結構あるので。


参考までに江戸時代っぽいものを。

一両・・・・・6万円以上
・一分・・・・1万5千円
・二朱・・・・7千5百円
・一貫文・・1万円
・一さし・・・千円
・四当銭・・・50円
・一文(一銭)・・・10円


だいたいこんな感じで。
ただし、地獄における会話とは、声を発するのではなく、相手に伝えようとしたことが相手のデフォの言語で伝わるので、本人たちはドル、円、ルピー、ユーロ、ギル、ゼニー、その他諸々と言っていたり。






では返信。


妄想万歳様


肩をたたいたら、きっと振り向いてもらえる。
だが、自分のことを見続けてもらうには飽きさせない何かが必要である。
とか深そうなことを言ってみたけども、そのネタいいなぁ。
薬師に言わせればよかったぜ。
とまあ、それは置いておいて。
薬師が同行し、なんかこんな感じに落ち着きました。
どうやら、アタックは続けるようです。



ザクロ様


質問の方は、上に微妙な感じの回答がなされております。
前回、ヤンデレフラグが、と思ったらどうやらじゃら男がいくじなしだっただけのようです。
どちらにせよ、薬師も、前さんも、暁御もじゃら男もどう考えたって恋愛向きじゃないので、ゆったり進むしかないようです。



ニッコウ様


じゃら男は失恋しましたが、強く生きていきます。
雑草のように。
ライバルは薬師だけど、所詮薬師なので大した脅威じゃないはずなのだけど、そもそもじゃら男が純情過ぎる模様。
彼の恋が実る日は来るのだろうか。





さて、では。



次回。

じゃら男は決意を改めて、薬師はそれを応援する。
そんなとき、なんかショタ、もとい、少年が現れて、川を渡るはずが金を落としたと言う。
薬師はそれに如何様に対応するのか。
次は短く一話短編、山も落ちもありやしない。

次回、俺と迷子と三途の河と!
じゃら男、頑張れっ!



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