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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の七十九 俺と現世で世界危機。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/11 22:39
俺と鬼と賽の河原と。



「驚きました。……私から行こうとしていたところです」


 俺が現世に行かせてくれ、と口にした時、閻魔は目を丸くしてそう言った。


「なら、好都合だ。とっとと行くから許可出してくれ」


 だが、彼女は苦しそうな顔をする。

 なぜだ? 思うと同時に答えは返ってきた。


「ごめんなさい……、我々が解決するべきことを押しつけてしまって」


 そうやって頭を下げる閻魔に、俺は苦笑を返す。


「今更だろ」

「それでもです。今回ばかりは……」

「世界規模の危機だからってか? 知ったこっちゃねーや。俺が行きたいんだ、気にすんなよ」

「薬師さん……」


 俺は笑った。


「良いんだよ。組織の長としても正しい選択だ。それで本人が行きたいってんだから、望むべくもねーだろ」


 本当に今更だ。


「だから、行ってくる」


 そして、やっと、閻魔も微笑んだ。


「――行ってらっしゃい。早く帰ってきて、くださいね?」


「おうとも」






其の七十九 俺と現世で世界危機。








 と、送り出された薬師だったが。

 あれから二日。


「……おはようございます」


 ベッドの上、薬師の目線のすぐ先に、藍音の顔があった。


「……顔が近い。何のつもりだ」

「……おはようのキスを」

「いらん。英語で言うならノーセンキューだ」


 あれから二日で、藍音のスキンシップはとどまることを知らない。


「そうですか」


 そう言って藍音は立ち上がる。

 そう、あれから二日たったが薬師と藍音は同じベッドに寝ていた。

 ちなみに事件に進展はない。


「よっと、おはようさん」


 薬師も続いて立ち上がり、やっと挨拶に至る。

 薬師が今いるのは、前も使ったアパート。

 決して広くはないその部屋の扉を一枚開けば、板張りの床の今が現れる。


「朝食の準備はできています」


 と、いうことは一度起きてから俺が起きる寸前に再び布団に潜り込んだのか。

 などとそんなどうでもいいことを考えながら薬師は椅子に座った。


「今日はどうするおつもりですか?」


 薬師の前に座った藍音が聞く。

 薬師は昨日一昨日と歩いて調べるだけだったな、と思い、今日の予定を考える。


「仙拓んとこ行ってみるか」


 仙拓であれば詳しいだろうし、金を出せば如意ヶ岳の天狗も動かせる。

 そういった考えで、薬師は呟いた。


「わかりました。では、私の方も独自に調査を進めたいと思います」


 藍音もそう言って、箸を進める。


「おう。頼む」


 薬師は相も変わらず見事に好みを当ててくる料理を口に運び、そんな中藍音はぽつりと呟いた。


「ところで」

「ん?」

「……寝巻きは何が好みでしょうか。パジャマ、ネグリジェ、着流し、それとも全裸で?」

「何か着てくれればそれでいい」


 薬師は即答。

 しかし、藍音にダメージはない。


「じゃあ、シースルーでいきましょう」

「透けてないパジャマで頼む」

「……わかりました」


 すこし残念そうに藍音はぼやいた。

 そんな藍音に、薬師は半眼で彼女を見つめ、呟く。


「そういえば……、一緒のベッドで寝ないという選択肢は?」

「ないです」

「……さいですか」


 取り付く島もなし。








「さて、じゃあ、行ってくるとすっかね。まて、なんで顔を近づける」

「いってらっしゃいのキスを」

「いらん」


 玄関にて、薬師は後ろ手に扉に手を掛けながら、必要以上に近い藍音の顔に断りを入れた。


「減るものでもありませんし、ここは一つ」


 それでも食い下がる藍音。

 薬師はげんなりと返す。


「すり減るんだよ。精神が」

「……それは残念です。寝ているときにしましょう」

「おい」

「寝ている時なら精神はすり減らないでしょう」


 そんな言葉に薬師は溜息を一つ。


「女がそう簡単に唇許すんじゃねーよ」

「貴方意外には許しません。絶対に」


 きっぱりと藍音は言った。

 こうなっては薬師はもう一度溜息を吐くほか無かった。


「俺のことになるとお前さんの考えてることは今一わからん……」

「そこは察していただきたいのですが……、ですが、これはこれでいいのかもしれません」

「わからん。ますますわからん」

「わからなくていいのです」


 そんな言葉に、何か釈然としないものを感じるが、薬師はすぐに諦め、頭を振る。


「考えてもしゃーねーな。行ってくる」

「お気をつけて」


 薬師は扉に向き直ると、勢いなく外に出た。

 熱くも、寒くもない。

 雪はほとんど降っていないそうだ。

 京都にしては、珍しい。


「さて、如意ヶ岳も、久々だな」


 呟き、飛翔。

 数分飛んで、あっさりと薬師は如意ヶ岳の天狗の里に辿り着く。

 目的の建物は、山中にはやたら目立って屹立していた。


「仙拓ー、いるかー?」


 薬師は無遠慮に執務室の扉を開ける。

 そこにいるのは相変わらずの黒髪短髪の若造。


「え、面会の予定は――」


 机の向こうに座る仙拓は、薬師を見て目を丸くし、薬師はそんな選択に軽く手を上げて見せる。


「よお。また化けて出たぜ?」

「や、薬師様っ!? なななな何故ここにっ!」


 驚愕し、慌てる仙拓を見て薬師は一通り楽しむと、にやけたまま軽い声を発した。


「まあ、落ち着け。話に来ただけだから」

「……は? 話?」


 今一つ理解の及んでいない仙拓に、薬師は苦笑で返す。


「不穏な動きくらい、知ってんだろ?」

「あ、ああ! なるほど。また面倒事なんですね?」


 得心がいった顔で仙拓は肯いた。


「……お前が俺をどう思ってるかよーくわかった」


 どうにも薬師は仙拓にとって便利屋か何かだと思われているらしい。


「まあ、それはいい。で、なんか情報はないのかね」


 気を取り直して聞く薬師。

 しかし、仙拓の表情は優れていなかった。


「とある、鬼の方からお話は伺いましたが――。残念ながらこちらの情報網には何も掛かっておりません」

「そうか……。まあ、それはいいか。そこまで期待していなかったしな。それよりもお仕事の方を頼みたいんだが」


 もとより、そう簡単に事態が動くなら、苦労はしていない。


「仕事?」


 そう言って聞き返す仙拓に、薬師はこう持ちかけた。


「報酬出してやるからちょっと、総動員で調査して欲しいんだがね。如何か?」


 ちなみに報酬に関しては地獄がどうにかしてくれるだろうという決めつけである。

 それで危機が去るなら安いものだろう、とも。

 まあ、最悪の場合でも、直接閻魔に掛けあえばどうにかなるか、など薬師は考えていた。

 しかし、そのあたりは全くの杞憂であった。


「今回は無料でいいですよ」

「ほう?」

「こっちにも無関係ではないようですし、内乱の鎮圧も手伝ってもらいましたからね。貴方には」


 その言葉の後に仙拓はただし、と付け加えた。


「これからも地獄とはいい関係を保っていきたいと思っておりますので」


 そんな言いように、薬師はにやりと笑って返す。


「閻魔に口聞いといてやるよ。組織の長としちゃ、いい心掛けだ」


 今回はサービスする代わりに、次からも何かあれば如意ヶ岳を利用してくれ、と仙拓は表現した。


「で、おもに何を調査すれば?」

「あー、っと、多分京都から東京に繋がる縁があると思うんだが、裏を取ってくれないか?」

「なるほど、霊的ラインがあるか確かめて来い、と?」

「ああ、頼む」


 あの若造が随分と長らしくなったものだ、と半ば薬師は感心しながら頷いて見せる。


「確かに承りました。これから薬師様はどうするので?」


 話が終わり、立ち上がった薬師に仙拓は聞いた。


「あー、鞍馬んとこにでも顔出してみる。そいつが終わったら比叡山だな」


 薬師は鞍馬山僧正坊と、比叡山法性坊には比較的深い付き合いがある。


「話でも聞いてみるさ。奴らが犯人の可能性もあるんだけどな。……そうだ、犯人お前じゃねーよな?」


 仙拓は、苦笑いで返した。


「滅相もない」









 鞍馬山の一角にて。


「よう、久しぶり。化けて出たぜー」


 そう言って現れた薬師に、茶髪のボブカットで一見女子高生に見えなくもないおっとりとした女性。

 鞍馬は見た目のままおっとりと返して見せた。


「お久しぶりー。遂に化けて出たのね」

「おうともさ。ところで、お前さん悪だくみとかしてねーの?」


 いきなりの核心。

 しかし、鞍馬は動じなかった。


「してなーい」


 しかし、薬師もまったく動じない。


「やっぱりかー。じゃあ何か情報とか掴んでねーの?」

「掴んでなーい」

「誰かがなんか怪しいとかはー?」

「法性坊が鬼気迫る感じー」


 二人は、まるで世間話でもしてるかのような気軽さだ。

 果たしてこの山は大丈夫なのだろうか。


「そういや牛若は元気か?」

「んー、相変わらずのメンヘラっぷりねー。貴方に会いたがってたよー?」

「こんにちは……、お元気ですか? 私は死にたいです」


 ふらり、と薬師の後ろに人影。

 色白にして小柄。まるでお姫様の様な風貌に、首の後ろで二つにまとめて流している暗緑色の長い髪。

 そしてまさかのゴスロリファッション。


「おおう、相変わらず驚きの登場だな」

「貴方に会いに行こうと思ったけど……、そっちから来たから死んでない」


 他でもない、源九郎義経。

 鞍馬天狗に教えを請うた、八艘にビートを刻む源氏の鬼才である。


「久しぶりだな、若」

「お久しぶり。帰るときには僕も連れてって……」

「すまん、御免こうむる」

「……鬱だ。前回京都に来た時も会いに来てくれなかったし生きてる価値ないんですねわかります」

「いや、それは、ええと、うん」

「言いにくそう。凄く言いにくそうだね……。私なんかの分際で困らせてしまうなんて万死に値しますねごめんなさい死んで詫びます、でも死ぬ価値すらないんですね……、貴方の表情を見るに」


 余談だが、彼女は人間ではない。

 当然現在まで生きている時点で明らかに常人ではないのだが、兄に裏切られたショックで人間をやめてしまったのだ。


「あー、それは置いといて最近どうなんよ」

「こないだ僕リストカットしようとして鉈で手首チョップオフ」


 そう言ってゴスロリ少女は包帯を巻いた左手首をぷらぷらと振って見せた。


「凄絶だな……」

「あ、とれた」


 ぼとり、と手首が綺麗な断面を露出。


「おおうっ、びっくりするから付けとけ付けとけ」

「今実は手を握られてるんだね……。どきどき」

「俺はぶっちゃけ嫌な汗を掻いてどきどきだよ」

「これは……、恋……。しかも両想い……。ここは一つ心・中しましょ?」

「俺もう死んでるから御免こうむる」

「死んでくれなきゃ僕が死ぬ……」

「なんだその脅迫。どっちにしても死ぬ方向で確定かよ」

「じゃあ、病んでる感じにべったりねっとり愛して……?」

「すまん、逃げる。何かわかったら教えてくれ」


 そう言って薬師は飛び立った。

 ――そんな薬師のスーツのポケットには、手首から先が、引っ掛かっていた。


「怖いわッ!!」


 そのまま薬師は上空から地面にその手を叩きつけたそうな。







 飛び立った薬師を見送った二人の内、こっそりと薬師のポケットに取れた手首の指を引っ掛けておいた方は、超速度で頭に直撃した手に、愛おしそうに頬ずりしていた。


「うふふふふ……、手、握られた……」

「相変わらずだったねー」


 とれた手首に頬ずりする少女に一切動じず、鞍馬はおっとりと呟いた。


「……そう、そうだね……。あの朴念仁のあの人に手首を切り落とされたい……」

「君も相変わらずだねー」

「でも今日はこれで満足……。幸せすぎる。ああ僕が幸せなんて生きててごめんなさい腸だしてお詫びします……」


 そう言って、腹に手を突きいれようとする義経を、鞍馬はやんわりと制止した。


「そんなにお詫びしたいなら無惨に犯されるといいよー。薬師に」

「それは魅力的な提案だね……。幸せでお詫びになるなんて素敵だよ……」


 躁鬱激しく、口調も安定しないまま恍惚に頬を染める少女。

 そんな彼女に初めて鞍馬は表情を変えた。


「楽しそうだったね。薬師は」

「生前と違って……、かい?」

「うん」


 それは苦笑。

 喜ぶような悲しむような、そんな表情。


「僕たちじゃできなかったことだね……。ああやっぱり生きてる価値なんてないんだごめんなさい死にますでも僕が死んだら地獄の皆さんが迷惑ですねごめんなさいこのまま消滅します」

「どちらにしたって死ねないのにねー。私もだけど」

「だからせめて、私で僕は、あの人の役に立とうと思うんだ……」

「そう……。私はそうはいかないけど、頑張ってねー」










「懐かしい風を感じたと思えば。薬師か。遂に化けて出たのか」


 紅蓮の長髪の偉丈夫。

 比叡山法性坊。


「よ、元気か?」

「愚問、愚問だな。我々にそれを問うか?」

「元気じゃない訳ないな。ってことで本題だが、お前さん悪いこと企んでるか?」


 薬師は無意味な質問をする。

 当然法性坊も横に首を振った。


「十年ぶりに現れたと思えば間抜けな質問だな。そこで頷くのは大それたことを考えていない奴か、よほど肝が据わった奴だ」

「その通り。ってか、お前さん奥さんはどうしたんだ?」


 薬師の記憶では、この男には山で拾った二十年以上連れ添った人間の妻が居るはずだ。

 生前最後に見たのは十年前、甲斐甲斐しく世話を焼く女性の姿だ。

 しかし、彼の返答は予想外のものだった。


「死んだよ。交通事故だ」

「……そいつは。いつだ?」

「七年前だ。おかげで仕事しかやることがない」


 そう言って法性坊は巨体の肩をすくめて見せた。


「そうだ、お前は地獄に居るんだったな。妻の姿は見てないか?」


 冗談めかして言う法性坊に、薬師も茶化すように返した。


「地獄は広いぜ? 帰ったら探してやるよ」

「ふ、そうか。まあいい。お前は現在起こっている事件の解決に来たんだったな?」

「そうだが?」

「比叡山は協力を誓おう。どうやら無関係でもいられんらしいしな」


 そうか、と薬師は旧友に笑って返した。


「じゃあ、俺は帰るとするよ」

「ああ、じゃあな」


 薬師が飛び立つのを見た法性坊は、一人呟いた。


「……水を得た魚の如し、か。地獄で何があったのか知らないが、想像を絶することがあったようだ」










 夕方、家に帰り着いた薬師は、扉に鍵がかかっていないことに気が付いた。


「む、藍音が先に帰ってるのか? おーい、藍音?」


 鍵を掛け忘れた可能性もあるが、あの従者に限ってそれはない。

 そう思って居間に出るとそこには――。


「お邪魔しているよ」


 藍はあおでも、青鬼が居た。


「久しぶりだな、鬼兵衛さんよ。って俺今日何回久しぶりって言ったよ」

「知らないよそんなこと。それより、今回の件について報告をしろって言われたんだけど」


 どうやら鬼兵衛は今回の件について説明しに来たらしい。


「全部話すのは長いから君が知らない場所を語っていくよ」


 以下、鬼兵衛の話をまとめるならこうだ。

 京都天狗内乱は、敵が関わっているかどうかは別として、目暗ましとして利用された。

 東京都龍事件は、京都府の山から誰かの力を借りて降りてきた。

 岐阜竹取翁事件も、誰かが抜いた形跡がある。

 ここまでが確証のとれた部分。

 ここからは推測が交じってくる。

 相手は大妖怪。しかも場所柄、大天狗の可能性が高い。

 そして、世界の意思が、薬師を呼びたがっているかのようだ。

 この二つは完全に結びつく。

 薬師は大天狗を殺すことができ、大天狗を殺すことができるのは薬師だけだ。

 そして最後に、犯人は、東京から京都に霊的ラインを結び、何らかの結果をもたらそうとしている。

 しかも、それが次元規模の危機の可能性が、高い。


「なるほどなー……。確かに俺は大天狗を殺したことがあるからな」

「その為に、前回、前々回の事件を世界が利用した可能性がある」

「相手の事件を利用する、ねえ? 効率いいっちゃいいが……」


 地獄の人間を呼び寄せれて、直接事件に関わらせることを思えば実に合理的だ。


「しっかし、何をしようってのかさっぱりだ」

「そうだね……。それと僕は一回東京に戻ることにするよ」

「そうなのか?」

「ああ、うん。向こうの方も一度詳しく調べておきたいんだ」


 そう言って鬼兵衛は立ち上がった。


「ほいほい、じゃ、健闘を祈るぜ」

「うん、そっちもよろしく頼むよ」


 去っていく鬼兵衛を薬師は見送る。

 それから、事件に関して考えること数分。

 入れ違いに藍音が帰ってくる。


「ただいま帰りました」

「お帰り。どうだった?」


 薬師が聞くが、結果は芳しくないようだった。


「今一つです。あれこれ調べてきましたが、怪しいところは見当たりませんし、大天狗以外の大妖怪は皆眠っていたり、封印されていたりと、シロになりそうです」


 怪しいところ、いわゆる儀式場や結界、何らかの呪が刻まれた場所があれば、藍音ならわかるはず。

 しかし、その彼女がわからないということは、ない、もしくはかなり本気で隠蔽していることになる。


「今日も空振り、か。まあ、進展がない訳じゃないしな」


 薬師は呟いた。

 仙拓、法性坊の協力は取り付けた。

 鞍馬は考えが読めないが、何かあれば言ってくるだろう。


「飯食って、風呂入って寝るかー!」


 下手の考え休むに似たり。

 一度すっきりしてからの方が効率もいいだろう、と薬師は思考を振りはらった。








「しかし……、今回の事件は怪しいとこが多すぎんなぁ……」


 夜もまわり、薬師は浴槽の中で呟いた。

 果たして、今回の事件の課題はなんであるか。


「まず、大きな目標として何らかの災害を止めないといけない訳だが……」


 その為に、どんな災害が起きるのか調べる必要がある。


「犯人に辿り着くにしたって、目的が何か分からないし、手段もわからん……。どれか一つわからないと何もわからん、か」


 現状の課題はとしては。

 犯人の正体。

 犯人の目的。

 犯人が目的に至る手段。

 このどれかを知ることができれば、そこから正解に近付けるだろう。

 そう考えて、薬師は心を入れ替えるようにお湯を掬って顔に掛けた。


「一つ一つやるしかねーな……。時間があるかは疑問だが、そっちの方が確実に早い」


 決意。

 決して好きにはさせやしない。

 そう呟いた、その時。

 がらり。


「……お背中お流しします」

「……御免被る」


 この後、薬師は散々だった、とだけ言い残している。















―――
色々変な人とかが出てきましたね。
これで導入が終了です。
多分三話編成ですね。
ちなみに次回は過去編で、少しずつ先生暴走の謎に迫ります。
なので、次次回でこれの続きです。
できればペースアップしたいとは考えてますが、ゆっくり待ってもらえると幸いです。

それと、人気投票終了しました。
結果発表はホームページの人気投票から。
特別編は現在執筆中です。




では返信。

奇々怪々様

確実にアッーーーー!ですね。ええ。
意外と先生はアバウトな方でした。
先生は多分クーデレでいいと思います。もしかしたらデレデレかもしれませんが。濃度的に。
薬師はたまにデレますから、きっと……。大体16:1の割合で。


眼隠し様

感想どうもです。
どうやら薬師は上司にセクハラを受けているようです。
パワハラかもしれません。
そして先生の弟子になるにはががっとかずばーんとかから何かを読み取らないと行けないようです。


リトル様

薬師のフラグ立て能力は先天的なものと、十全な環境によるものです。
おかげ様で彼方此方構わずフラグを立ててますね。
ええ、どうやら義経さんともフラグを立てていたようで。
多分、馬乗りにされた後、首筋にキス位は余裕でやられてるでしょう。


光龍様

年上の威厳を保つために表情を見せないようにしたりする涙ぐましい努力があるのですね。
まあ、先生も薬師も似た者同士と言いますか、寂しがりなんですね。
薬師のせいで先生の思考はぶっ飛んだのか、それとも薬師のおかげで延命されたのかは微妙なラインだったり。
そして、薬師はこの時点で娘に甘い父親の素質を持っていたようで。


f_s様

いいじゃないですかフルオープン戦法。
シリアス書き続けると疲れるんですね。だから思わず茶目っ気が。
まあ、でも今回冒頭で美沙希ちゃんといい雰囲気でしたしね。
現世から帰ってきたら何かあるやもしれませぬ。


ヤーサー様

このころはツンデレだったんですね。
今ではダルダルの様ですが。まあ、一応先生は有能な方ではあるようですよ?
しかし、表現できないことになると完全に諦めたかの如し擬音が。
どちらにせよ物わかりが良かった薬師位しか教えられない訳ですが。ちなみにフルボッコにするのはAB二人いたりします。


通りすがり六世様

むしろ、順調すぎたから行けなかったのかもしれません。
過去編も次回から先生の死の真相に近づいたりします。
結局根っこの部分は似た者同士ですし。
お似合いのカップルなのは確かなんですけどね。


春都様

フルオープン戦法です。
多分先生も無自覚にフラグは立てていたんじゃないかと。
姉御的カリスマはありそうですし。
さて、次回また過去編です。ちょっとあれな兆しが見えたり見えなかったり。


トケー様

薬師が押しに弱いのは、現在の父性に繋がっているようです。
娘の我儘に付き合う父親の心情に進化しました。
しかし過去編の薬師はほんとにデレッデレですね。
それと、うちの女性陣が皆好みということは、私と酒が飲めるということです。自分お酒呑めませんが。


Eddie様

もう見事にベタ惚れですね。
完璧に両想いですよ。
これで万事上手くいってれば今頃二人で夫婦やってたんでしょうね。
どう考えても内助の功な嫁は薬師の方ですが。




最後に。

とあるゲームで、八艘ビートにはお世話になりました。


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