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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/07 20:09
俺と鬼と賽の河原と。



 果たして、担当は仲直りしたのか――。

 まだ寒いが、それでも少しだけ温かくなった道を、俺は行く。

 別に町に用がある訳でもなし。

 ただ、ちょっとばかし探し物が、あった。

 だから町を行ったり来たり。

 風も使わずふらふらと。

 そしてそれは、意外と簡単に見つかった。


「今、今横目でちらっと見た。気づいてるのに無視しない」


 今日も彼女は、路地に敷いた敷物の上に、たくさん銀を積み上げていた。


「よぉ」





其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。





「いや気付かなかった、悪い悪い」

「流石の鬼畜っぷり」


 そう言って少女はいつものように俺を見上げた。


「で。今日は何の用かな、かな?」

「何だその口調……」

「本気で引かれると傷つく……」

「いや、まあ。つか、偶然だよ」

「またまた、ツンデレ乙」

「まあ、実際探して来た訳だが」

「デレ期来た、これで勝利確定っ……?」

「まあ、本気で探してた訳でもないがね。なんとなく、あえりゃいいなと思って町歩いてただけだ」

「やっぱりツンデレ。で、何か用でもあったの?」

「んー、いや?」


 俺は考えて、特に何もないことを改めて再確認する。

 理由は何かと聞かれれば、暇だったからの一言である。


「まさか……、会わない間に私への恋心を自覚して――」

「知ってるか? 人に夢と書いて儚いと読むんだ」


 俺は間髪いれずに呟いて、即座に少女は悲鳴を上げた。


「暗に否定されてるっ!?」

「つか、今更俺が恋とか、あいたたた、だろ」


 そりゃ痛い。四十のいいおっさんが初恋並みに痛い。

 対して少女は両手を広げて微笑んだ。


「そんなことはない。受け入れる。私相手なら。他ならそんな年になって恋とかいたたたたと後ろ指さす」

「もう俺に選択肢ねーだろそれ」

「じゃあ、三択。私と結婚する、私をお嫁さんにする、貴方が私のところに婿入りする」

「一緒じゃねーか。いや、家なき子に婿入りはしたくねーな……」

「じゃあ結婚」

「気が速い。高速過ぎる。光の速さだ」

「流行りに乗ってスピード結婚。結婚指輪ならほら、ここにたくさん」

「すげーな。果てしなく適当だ。って暗になんか買わせようとしてないか?」

「そそそそんなことはない」

「わざとらしくも白々しい」

「じゃあ正直に。私をお買い上げしてください」

「断る」

「ツン期到来」

「デレ期の到来は来年度になるでしょう」

「遠い。災害レベル。干上がってしまう」


 何ゆえか、露店少女は俺に結婚を勧めてくるのだが、あれか?

 憐れまれてるのか。

 そんな中、肌寒い風が一つ。

 少女は身を縮ませた。


「最近寒いな」

「露天商には辛い季節」

「ところで、売れてるんか?」

「超ウルトラスーパーマーベラスギガンティック商売繁盛」

「はいはい、売れてないと」

「超ウルトラスーパーマーベラスギガンティック商売繁盛」

「わかったから。売れてないのは」

「超ウルトラスーパーマーベ――……」

「もういいっつの」

「売れてるもん」

「頬を膨らますな。可愛いから」

「デレ期」

「必死で永遠に進むことのない回廊を走り続ける鼠型愛玩動物の如しだな」

「そこはハムスターと言うべき」

「わかった、ハムスター殿」

「私のことじゃなくて」

「つか、俺、知らない、名前。お前の」

「なんでカタコト? うん、でも。言ってない、私、貴方に」


 考えてみると、本当に少女の名前を知らない。

 私とあなた、俺とお前で、意外と世界は回るもんだ、と納得させられる事実だ。

 なんとなく感慨にふけっていると、少女は言った。


「人に名前を聞くときは」


 しれっと言ってくる彼女は本当にノリがいいと言うか。

 そんな彼女に俺はわざとらしく肩をすくめて苦笑した。


「まずは自分からってか? 言ってなかったっけ?」

「聞いてない、かも。もしくは忘れた?」

「そうかい。じゃ、如意ヶ嶽薬師。天狗さんだ」

「初耳」

「そうかい、そっちは?」


 ポンポンと進む会話を、俺は好ましく思う。

 そして、好ましく思うから、また俺は彼女の前に足を運ぶのだ。


「ヒント。パで始まってスで終わる有名人」

「パラス」

「私はパラセクトに進化しない」

「通じるのかよ。って、お前さんこっちのネタ通じない人じゃなかったんかい」


 こないだネコ型ロボネタ通じなくて恥ずかしい思いしただろに。

 すると、彼女はわざとらしく目をそらす。


「……大人を傷つけるのはいつだって――、子供の純真な瞳」

「なるほど、知らない振りで俺で遊んでいたと。俺とのことは遊びだったのか……」

「そんなことはない」


 そこでいったん止まり、少女は赤くなって、続けた。


「今は、本気」


 恥ずかしくなるならそういうネタ言わなけりゃいいのに。


「で、名前だ名前」

「酷い」

「なにが」

「一世一代の告白をスルーか、この鬼畜様」

「で、名前だ名前」

「そんな鬼畜様に新しいヒント。六文字」

「パラドックス」

「そんな名前を付ける親の頭がパラドックス」

「わかんねー」

「諦め早い」

「俺の諦めの速度は光を悠に超えている」

「頑張って、諦めないで」

「わかんねー」

「追加ヒント、パで始まって間にらけるすが入ってスで終わる」

「答えじゃねーか」

「さあ、答えをどうぞ」

「パスケラルス」

「もう答える気がないよね」

「パスケラルス。1567から1621まで。熱心な宗教家だったが、同時に数学者でもあり、パスケラルスの定理を発見する」

「捏造乙」

「いや、うん、なんつーかマジ?」


 本気であの人なんですかー? という質問に、その自称錬金術師殿はあっさりと頷いた。


「イエス。私パラケルスス」

「わー、すっごーい」

「信じてない」

「いや、なんつーか」


 おかげで、銀細工の材料をどこから手に入れてきたのかは納得したが。


「証拠として、ここにその辺で拾ってきたものから作った怪しい液体を、この石ころに掛けると――」


 いきなり、勝手に石ころと怪しげな液体の入った試験管を取り出し、おもむろに掛ける。


「うわ、錬金術師すごいですね」


 石ころは、輝く金属に変わっていた。

 いや、これ使えば一気に金持ちじゃね? いや、アシがつくと面倒か。


「それほどでもない」

「謙虚だな」

「信じた?」

「一応」


 しかし、パラケルススが女だったとは、とても予想外だった。

 こんなこともあるのだなーとしきりに感心していたのだが――。


「実は私本物じゃなかったり」

「騙された。じゃあなんだよ」

「ホムンクルス。自称ケルスス以上ですを名乗る自意識過剰な人の作った」


 ホムンクルス。漢字で表記するなら人工人型生物とか、人造人間とかそんなもんだろうか。

 パラケルススと言えば、ホムンクルス、賢者の石、大体この二つに突き当たる。

 って、頭がこんがらがってきたぞ? 結局お前はなんなんだ。


「実は、ホーエンハイムはデッサン人形が欲しかった」


 気が付くと、良く分からない語りが始まっていた。

 ……重い話だろうか、聞くのめんどくせーな。


「あれは形から入る人だから、下手の横好きでまともに描けないのに精巧なデッサン人形を欲しがってた」


 つか、なんか変だ。

 うん。

 なんでデッサン人形?


「デッサン人形っていうか、人形の球体関節じゃ、人間の動きは真似しきれない」


 それはわかる。骨格で自立し、筋肉で支える生き物を、そう簡単に再現できるわけがないと思う。


「だから、ちょっとミニチュアな人間が欲しかった」

「それがお前だ、と? まあ、確かに人間の体を描く参考にするなら、人間が一番だろうな」


 彼女は頷いた。

 そして、俺は衝撃の事実を知ることになる。


「実は、パラケルススは錬金術師じゃなかったり」


 な、なんだってー!?

 俺は心中で驚いてみる。


「いや、意味わかんねーよ。だったらなんでお前が生まれてんだよ、結論からお話ししよーぜ?」


 ホムンクルスは錬金術の産物。パラさんが錬金術師じゃなかったら端から生まれない。


「うん、私が生まれたのは全く偶然。と言うかネタ。パラケルスス、ていうかホーエンハイムがちっちゃい人間ほしーとか言ってノリと勢いでフラスコに血とか精液とかそれっぽいの入れたらうっかりできちゃった子」


 思わず、顎が落ちた。

 それでいいのかホムンクルス。

 つか、普通の錬金術師の立つ瀬がねえ。


「ノリは掲示板に【俺は】蒸留機に血とか精液とかぶっこんでみた【錬金術師】ってレベル。実は作った本人が一番驚いてた」

「そりゃまた二番もびっくりだな」


 まことに驚きの新事実発覚だった。

 作っちゃった本人もさぞかしびっくりしただろう。

 だが、


「でだ」


 それだと、一つ疑問が残る。


「何故お前さんがパラケルススを名乗るんだい?」


 すると、その自称パラさんは気負いもなく続けた。


「実はホーエンハイムの思惑から外れて、私はこんな美少女に大きく育ったわけだけど」

「胸以外はな」

「そこは言わない。で、多分に洩れず私も生まれてすぐ博識だった。生まれてすぐコナミコマンドがわかるくらい」

「ねーよ」

「で、知識を生かしてごく潰しを養うために医者やってました。副業で錬金術師も」


 ごく潰し、いわゆる本当の、彼女の父親の方のホーエンハイムさんのことだろう。


「それで?」

「ホーエンハイムさんちの医者は腕がいいから始まって、ホーエンハイムの医者は腕がいい、ホーエンハイムは腕がいい」


 なんだか、読めてきた気がする今日この頃。

 そんな伝言ゲームみたいなオチがあっていいのだろうか。


「いつの間にか私イコールホーエンハイム。そして、ホーエンハイムはケルススをもう越えてるねって言われてパラケルススになってた」


 本当のホーエンハイムさんがかわいそうじゃないか。


「私が出てくると、皆がパラケルススだ、ホーエンハイムだ、って言われて」

「本物の方は?」

「下男って呼ばれてた」

「哀れだな」


 テオフラストゥス中略ホーエンハイムさん本当に哀れですね。


「ちなみに本物の職業は?」

「自称絵描き」

「うん」

「今風に言うと、ニート」


 ニートかよ。

 だが、まあなんとなく理解した。

 ホムンクルスがうっかりで生まれてくることを。


「反応薄ーい」


 そんな俺に、彼女は不満を漏らした。


「んなこと言ったってなー。じゃー俺に賢者の石くれよー」

「あげるー」

「くれんのかよっ!」


 あっさり投げ渡された真っ赤な石。

 本物かよ。


「これで混ぜたら何でも金?」


 あっさりと頷かれる。


「でも、それ作るのに、金うん十トン分のお金がいる」

「使えねーな」


 効率悪過ぎだろ。

 眉をひそめながら、賢者の石を投げ返す。


「で、だ。ぶっちゃけパラケルススって長いと思う」


 俺は、うっかり受け取れず、賢者の石を取ることとなった眉間さする少女に言った。


「あだ名をつけよう」

「可愛いの希望」

「銀子」


 髪の色からである。


「センスない」


 一刀両断。


「パラ美」

「無理して日本名にしない」


 更に両断。


「パルス」

「どっかの空中要塞の王の眼に酷いことしそうな字面だと思う」

「大丈夫だ、半濁音だから」

「でも活字にするとパとバって単品だと間違えやすい」

「もう銀子でいいじゃねーかよ」

「もうそれでいい」

「へいへい銀子さん」

「なに?」




「家こねー?」


 うん、長らく回り道をした。

 どれだけ無駄な会話をはさんだか分らない。

 が、果たしてここに何をしに来たかと言われれば。


「寒いだろ? 家今あれこれたくさん人いるから困らねーし」


 確かに、多少の相部屋になってしまうが、最悪俺の部屋につっこんどきゃ良い。

 次の春くらいまでならいいだろう。


「……なんで?」


 短く告げて、彼女は、首を傾げた。

 俺はそっぽを向いて、言い返す。


「お節介だよ」


 結果は?






 なんだか二人手を繋いで帰ってる訳だが、もう明白だろう。


「……やっぱりツンデレ」

「うるせー」


 店主と客だった俺と彼女は、やっと名前を聞いて、友人になった。







―――
今回は何と言うか、一話丸丸薬師のツンデレ話と言っても過言ではな――(なにか鋭利な刃物で切り裂かれている)
そして露店少女をお買い上げ。きっとフラグ神様にとっては今までの買い物も、ここで彼女をお買い上げするための布石だったんですね。
ちなみに彼女の出生のネタは、冴えない絵描きが偶然とうっかりで女の子のホムンクルスを作っちゃってそのまま同居というラブコメネタがあってもいいなと考えたけど、ラブコメは俺賽だけでお腹いっぱいです、ということで没になったネタだったり。
そして実はホムンクルスこそが優秀な錬金術師でパラケルススだったんだよ! というキバヤシ的発想。


さて、人気投票ですが、期間は残り一月も設定する必要なぞなかった気がするけど要するに私の準備期間と言うか猶予と言うか、というのは置いておいて。
言うことがあるとすれば、まあ。
流石メインヒロインですね、と。
まあ、今回は本当に純粋にアンケートに近い物があったりします。
二重投票禁止ですしね。多分次回の人気投票があったら、二重投票許可になると思いますよ。その時はガンガン組織票送ってください。


では返信。

とおりゃんせ様

のっけからあれですが、本当に申し訳ないっ!
修正しておきました。
これで問題なく行けるはずです。
しかし、毎回毎回手打ちなんて恐ろしいことせずに、ホームページから直接コピーペーストしてるのに間違ってると言う不思議ドジをしたものです。


紅様

じゃら男は立てないでいいと思います。
果たして、じゃら男を貶めないようにする意味の立てるのか。
それとも一人じゃ立てないレベルのじゃら男の脇腹を掴んで立たせてやるのか。
後者だったら誰得BLシーンです。


クロ様

なごんでいただけて幸いです。
なんてったってほのぼのラブコメですからね。
ほのぼの!
本当か怪しいけど自称ほのぼのですから。


奇々怪々様

鍋の白菜が食べたいです。
本日も薬師は女の子を一人拾ってご満悦です。
帰った後の反応がどうなることやら。
李知さんあたりに警察呼ばれても文句は言えんぞ薬師よ……。


ヤーサー様

確かに露天系の風呂に入るにはきっつい時期ですね。湯船から出れないという。
ええ、今回はモロに甘甘でした。
翁編の反動でしょうか……。
いやはや、流石メインヒロインです。


SEVEN様

薬師を相手にもっとも余裕のある対応をするのが前さんですね。
藍音さんは既に依存レベルですし。
前さんは良いお母さんになりそうです。
薬師なら、左右に女の子付けて、後ろにも前にも位やってのけそうですが。


ミャーファ様

やはりメインヒロインは伊達じゃなかったようです。
ええ、自分も被害者の一人ですからね、朴念仁の。
それはもう堅い信頼ですよ。
薬師が間違いを起こせること自体なにかの間違いでしょう、という。



ガリガリ二世様

まるっと十話ぶりですかね。
なんというか、翁編が三本もあったので仕方ないと言えば仕方ないのですが。
とりあえず、しばらくはぐるっとほのぼのですね。
久しぶりと言えば、人気投票に名前の出てないあの人はどうなっているのでしょうね。


Eddie様

私が死ぬとしたら、モニタの前で発狂しながら悶死だと思います。
薬師も前さんも天然すぎると思います。
藍音さんがやると、来た、まただ、藍音の襲来だっ! ってなるけど前さんだと砂糖吐くという、この違い。
果たしてどちらがいいのか分かりませんが。


通りすがり六世様

そう、お約束です。
でもそれを一番自然にやってくれるのは前さんなんですね。
それをあっさりこなしてく薬師が一番天然ですが。
ええ、フラグでした。お持ち帰りです、露店のあの子。



最後に。

会話文だけで、ガリガリとバイト数を削っていくこいつらはなんなんだ……。


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