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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の七十 俺と娘と寒い日と。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/04 22:08
俺と鬼と賽の河原と。




「……お父様」

「んー?」

「私の胸って……、小さいでしょうか」

「まあ、年相応にツルペタだな」

「……どうすれば、大きくなるでしょう?」

「牛乳飲めば、っつー話を聞いたことはあるが、詳しくは知らねーや。藍音に聞いた方がいいんじゃねーの?」

「そうですね、ちょっと行ってきますっ」

「……、いやぁ……、由美も活発になったもんだ。お父さん安心したよ。でもなんで胸?」




 数分後。




「お父様ーっ!」

「おう、どしたー?」

「胸、揉んでくださいっ!」



「落ち着け、素数を数えてくれ」



 今回はそんな話である。









其の七十 俺と娘と寒い日と。






 何故俺なのか――。

 んなことはどうでもいい。

 流石に娘の胸を揉むような変態にはなれなかった。

 不満げにぶーたれる由美を藍音に押しつけて、俺は外に出る。

 そこでふと気付いたことがあった訳だ。


「あれ……? 藍音に預けといたらもっと悪いんじゃね?」


 即座に家に戻っていた。

 藍音の教育はいかん。

 現代の若者の内では大したことはなくて、ただ俺が年寄りなだけかも知れんが、いかん。

 一応、節度は保ってはいる。

 いるが――、その節度はどう考えてもギリギリ限界値なのだ。

 限界も限界、それはもう、叩きつけるとかいう問題ではない。

 なんというか、警察に捕まらなければいいかな、という程度なのだ。

 良くも悪くもあけすけな訳だ。

 まあ、真綿にくるむかの如く育てて温室育ちの何もできない子育つのには同意できんから、俺の望む教育方針でもあるが、まずは常識から入ろうか藍音さんや、というこの状況。

 とりあえず、焦って速攻居間の扉を開く訳だが――。


「あっ、お父様……」

「薬師様、混ざりたいなら――」


 見事な失策だった。

 よく考えてもみればいい。

 胸を揉めと言われる、藍音に押しつける。

 となれば、居間で百合の花咲き乱れそうな光景が広がっていても、ある種、仕方がない。

 いやそりゃ居間でやるなよとか、すぐかよ、とか、そもそも本当にやるのかよ、とか言いたかったが、藍音に押しつけたのは俺。

 言い訳はできない。


「薬師様も揉みたいなら恥ずかしがらずに」

「邪魔したな」


 藍音の非常に不穏当な言葉を聞くことなく、俺は居間の扉を閉めた。


「終わったら呼んでくれ」


 そう言って、俺は玄関で待つことにする。

 まあ、速攻後悔したが。

 俺は今、玄関に腰を降ろし、手を組んでそれを支えに顔を伏せている。

 いわゆる沈んだ体勢な訳だが。

 何故、俺は娘の嬌声を玄関先で聞いているのであろうか……。

 ……気分が真っ青を通り越してどす黒い。

 とても、残念な気分だった。

 というか藍音は何をやっているんだ。

 いや、何も言うまい。

 なんとなく、疎外される父親の気分を暗い玄関で感じていようと。

 例え、一抹の寂しさを感じようとも。

 この事態の半分の責任は俺にある。

 藍音に任せた俺が馬鹿だったのだ。

 これはその罰だ、と俺は言い聞かせた。

 と、そうしていかほど経ったのか。

 この世の虚しさに、俺が悟りを開きかけたころ、藍音から俺に、声がかかった。


「終わりました」

「やっとか」


 俺は立ち上がり、居間に入る。

 由美の頬は少しだけ、上気していた。

 が、気にしないことにする。


「お父様、出かけるんじゃなかったんですか?」

「おー、そうさな。一人でどっか行ってもしゃーねーよ」


 そう言って、俺は歩いていく。

 実は最近、家にコタツが導入された。

 地獄では困るほど雪は降らさないが、十一月になると寒くなってくるものだ。

 と、いうわけで、俺は徐にコタツに足を突っ込むと電源を入れた。

 しかし、だからと言ってなにかある訳でなく。

 結果的に暇な俺は、テレビを点けることとなった。

 コタツの上に顎を乗せて、ぼんやりと見るテレビ。

 見ているようで見れていない、記号の羅列と大差ない。

 面白いか、と聞かれればそうでもなかった。

 まあ、そんなもんだ、と納得し、俺はテレビから一瞬目を離す。

 そんな時だ。

 ふと、由美が目に入った。

 彼女は、こちらを見ている。

 なにか、物欲しげに。

 はて、なんだろう。

 考える前に、ふと、思い付いた。


「由美」


 俺の言葉に、由美は方をびくりと震わせる。

 そんな彼女を安心させるように、俺は苦笑しながら、こたつ布団の端を持ち上げた。


「入れよ」


 なんとなく、手持無沙汰というか、所在無げに見えたのだ。


「あっ、じゃあ……」


 そんな風に俺の横を通り過ぎて、俺の左の面に座ろうとする由美を、俺は捕まえる。


「あの、お父様……?」

「こうした方があったかい」


 俺は言って、有無を言わせず由美を膝の上に乗せた。

 小さい由美はすっぽりと収まって、丁度後頭部を俺の胸に預ける形になる。

 うん、これでいい。


「何がですか?」


 何がいいのか、わざわざこっちを見上げて聞かれても困る。

 言うなれば、なんとなくだ。

 こうあった方が落ち着く、的な。


「そうですか……」


 そんな説明で納得したのか、それっきり、由美は何も言わなかった。

 俺も、特に言うことはなかったから、軽く由美の頭に顎を乗せて、二人、テレビを見ていた。

 相も変わらず、面白くも、つまらなくもない。

 だが、まあいいか。

 テレビはただのBGM。

 目立っても、無くてもいけない。

 そんなもんだろう。

 いつしか、俺はテレビを見るのをやめた。

 ぼんやりと、娘の顔を見る。

 ほんのりと朱の乗った顔に、なんとも言えない穏やかさを覚えた。

 生前はこんな穏やかな日々が送れるとは思ってなかっただけに、なんとも言えない気持ちになる。

 俺の家族も増えたもんだ。


「? 私の顔に何かついてますか?」


 なんて思っていたら、どうやら顔を見ていたことに気付かれてしまったらしい。


「いや……」


 俺は少しだけ返答に詰まる。


「由美は可愛いなと思っただけだ」


 真っ赤になった。

 可愛いな。


「そう……、ですか?」


 頬に軽く指を当てて、照れたように聞く由美に、俺は大きく頷いた。


「おうともさ。可愛い俺の家族だとも」


 言いながら、俺はコタツの上、籠の中に入ったみかんを取る。

 皮を剥いて、中身を出してから、更に薄皮も剥く。

 そして。


「食うか?」

「あ、はい」


 肯いた由美の口元に、俺はみかんを運んでやる。

 ついでに俺も一つ、みかんを口に運んだ。

 まるで、小動物が如くみかんを咀嚼する由美を見て、萌えというものを理解しそうな気になったが、とりあえずみかんを食べ終えて。

 むー、手がべたつくな。

 だがこたつ出んのたりぃー。


「あっ……」

「どした?」


 仕方ないので手のみかんの汁を舐めて見た訳だが、なんか由美は変な表情をしてらっしゃる。

 聞いてみれば何でもない、というのでそういうことにしておくが。

 そんな時だ。

 すっと、自然に俺の隣に藍音が入ってきた。

 二人で同じ面に入るようなこたつではないのだが、藍音が細いため、さほど気にならない。


「どうしたよ」


 いつも藍音の行動は唐突だ。

 今更、驚くも何もあったもんではないが。


「……私も、貴方の可愛い家族ですか?」


 聞いてたのか。

 そして、そんなつまらんことを聞きに来たのか。


「私にはつまらないことではないと思いますが」


 そこまで言うのであれば、仕方ない。


「何を今更。俺とお前さんは千年近くも家族じゃねーか」


 言ってて随分長いと今更ながらに実感した。

 死んでも続いた縁。

 腐れた所か発酵してることだろう。

 そんな風に考える俺の肩に、藍音は頭を預けてきた。


「貴方はたまに……、ずるいです」


 俺は適当に返す。


「そうかい」










 頭が痛い。

 いや、頭痛的な意味ではなくて。

 どうやら、頬杖ついて船を漕いでいて、不意に頭からこたつに落下したらしい。

 ぼやけた意識が少しずつはっきりしている。

 むう、一時間ほど寝てたのか。

 時計を見て時間の経過を確認。

 そして、腹の上と、肩に未だ感触があることを感じて、二人も寝ていることに気付く。

 体に悪いんだがな。コタツで寝るのは。

 まあいいか。

 そんなことを思いながら、ふと、視線を水平に戻すと。

 横の面に座る由壱と眼があった。


「帰ってきてたのか」

「うん、まあね。それにしても、モテモテだね。兄さんは」


 そう言ってにやにやする由壱に、俺は苦笑いした。


「両手に花だ」


 うらやましいだろう?


「いや、俺は遠慮したいかな。うん、それは女難の領域だよね」

「ひでーな」

「俺は見てるだけで十分だよ」

「女っ気ねーなお前。俺の言えた義理じゃねーが」

「いや、兄さんは、ってのはともかく。それこそ、余計な御世話だよ。今は女の子より、強くなりたいかな」


 我が弟ながらなかなかいい心がけではないか。

 それこそ照れもなく強くなりたいと語れるのは、あまりできることではない。


「ふーん?」


 由壱は頷いた。


「うん。今の俺じゃ、好きな子一人守れそうにないからね」


 そう言って笑う由壱。

 かっこいいな。将来モテるぞ。


「はは、兄さんに言われると本当臭くてやだなぁ。というか、成長できるのかな?」


 む?


「外見的な成長なら、ある程度操作できるって聞いたことあるぞ? つか進化?」

「進化って……」

「こう、精神的にどばーんと変わった時、とか。要するに自身がパラダイムシフトを迎えたら、だな。たまに外見が変わることがあるらしいぞ?」


 いわゆる、妖怪になるのと同じ構造だ。

 精神的な変化を受けて、体を最適化する。

 子供に多いらしい。

 ちなみに由美は鬼だから難しいだろう。

 まあ、頑張れば胸くらいはなんとかなるかもしれないが。


「パラダイムシフト、ねえ……? 兄さんはそういう言葉は知ってるんだ」

「おうとも、にーさんは博識だぞ? まあ、成長なんぞ出来んのはほんの一握り、だそうだが」


 へえ、と弟は感嘆の声を上げた。


「じゃあ、もしも俺が成長して、強くなったら、兄さんの相棒になれるかな」

「……相棒?」


 いきなり飛び出した言葉。

 由壱は肯いて見せた。


「今回の仕事も。前の仕事も。現世に行くのは危ない仕事ばかりだよね」

「気づいてたんか」

「そりゃ。藍音さんもわかってるみたいだったけどね。例えば、スーツが破れてたりしたら、何かが掠めたんじゃないかと思うのは、不思議じゃないと思うけど」


 まあ、その通りだ。

 別段隠そうとしている訳でも、聞かれた訳でもないから言ってないだけだ。


「まあ、俺も兄さんが負けて死ぬなんて思ってないよ。あと、死んでも地獄行きだし」


 その意味ではほとんど危険がない訳で、心配など無用な話なのだがね?


「そういう心配じゃないよ。兄さんは誰かが見てないと、あっちへふらふらこっちへふらふら、気が付けばふっといなくなりそうだからね」


 誰かと結婚してしまえばいいんだろうけどね、と付け足す由壱に、ぐうの音も出なかった。


「でも、手綱取ってくれるような、っていうか。兄さんみたいな扱いにくい暴れ馬の手綱を取れるような女性はしばらく現れそうにないし」


 だから、お前さんが俺を見ている、と?


「そうだね。まあ、それすらすぐの話じゃないけど。でも、きっと兄さんが結婚するより早いよ」

「自信家だな」

「と、いうか、兄さんを分析したらおのずとこうなるよ」


 確かに、俺が結婚する確率は限りなく低いな。

 生まれて千年はしなかった訳だし。

 そりゃ千年あれば妖怪は大妖になるし、人は仙人として大成できるだろう。

 強くなるだけなら百年要らないし、手段を選ばなきゃ、十年いらない。


「そりゃそーだな。圧倒的にお前さんが強くなる方がはえーわ」


 そう言って、笑った。

 笑いながら言った。


「だが、俺の相棒は難しいぜ? なんてったってとびきり優秀だからな」


 言いながら、頭を肩に乗せた相棒を見やる。

 由壱も皮肉気に笑っていた。


「そうだね。何年経っても相棒は譲ってもらえなさそうだ。でも、仲間くらいにはなれるよね」

「そうだな。どんだけ強くなっても相棒は譲らんだろうな。だが、仲間くらいにはなれるだろ」


 結局、由壱も男だった、ということか。

 俺はうんうんと頷いた。

 男も大きくなれば庇護下にあることを嫌うもんだ。

 できることなら庇護したい、とも。

 そんな男の子の願いを少し、応援したくなった。


「ま、頑張れ」

「頑張るよ」


 それっきり、何も語ることはなかった。

 気まずいなんてこともなくて、穏やかに。

 いつの間にか、テレビは消えていた。

 なるほど、これが一家団欒か。

 大黒柱、くらいには自惚れさせてもらってもいいだろう俺と。

 家事を担う長女と。

 お節介焼きな長男と、その全員から愛されてる妹、か。

 ううむ、母親でも探すべきかね?

 そんなことを考えているうちに、再び俺の意識は遠のいたのだった。








 目覚めると右隣に藍音が居たのは良い訳だが、左に李知さんが増えていたのは何故だろう。







―――
由美メインと見せかけて藍音が来たと思ったらトリは由壱、この三弾重ねが真のトラップです。
というのは置いておいて。
今回は家族メインってことで。
一応由美分を強めにしてありますが。
さて、これで七十話。
三月の終わりから始めたこの小説も半年過ぎて七十話です。
良いペースかどうかは悩みますし、上手くなったかどうかも微妙ですが。
つか、七十話過ぎたのに、薬師の鈍感っぷりは磨きがかかるだけですね。
凄まじい。


ちなみに北海道は雪降ってたりします。



では返信。

ヤーサー様

あんまりセーブしてないけど、一応気は遣ってるみたいです。
そして、李知さんは藍音さんに中てられてしまったようです。
ええ、あそこの家族に入るともうべったべたですよ。
もう、靴に付けたガムの如く。風邪は大丈夫でした。一日熱上がりましたけど夜寝たら復活です。


奇々怪々様

指ちゅぱです、ええ。
今度は女の子にみかんを食わせて見ましたが。
大丈夫、風邪なんて無くてもタガは外れるものですから。
まあ、おかげ様で熱もとっとと引きました。指ちゅぱの御利益ですね。


悠真様

危ない従者。常にレッドゾーンですね。
彼女はレッドゾーン内で手加減してるので今一加減の具合が分かりません。
李知さんはきっかけがないと大胆になれませんからね。
ある種藍音の行動は渡りに船だった訳ですが。


ミャーファ様

彼女の脳内で何があったのかは不明ですが。
ただ、まあ、乙女脳的が暴走した結果ですからね。
藍音さんは自重できません、マグロの如く。
速度は上がるでしょうが、きっとブレーキは付いてないでしょう。


ヤモリ様

感想どうもです。
一回死んでもう会えないとまで思ってますからね。ちょっとした暴走位なら許容範囲でしょう、薬師も。ちょっとしたかどうかは分かりませんが。
ちなみに、妖怪化に可逆性はないので、色欲が戻る、というよりは上書きされるだけになります。
翁は、まあ。圧倒的にほのぼのしてませんが、今頃は薬師宅できっとほのぼのしてるでしょう。悪代官をすっぱ抜いたりはしてない、はずです。


山椒魚様

お久しぶりです。
無理をしてまで感想を書いてくださらずとも良いのですが、こうしてたまに顔を出していただけるとやはりうれしいものです。
相変わらず薬師は鈍感です。これは宇宙の法則ですね。アレに関しては、やはりネタが思いつかないのと、本編に上手くつなげられないから幅を利かせてしまうんですね、ええ。
皆が忘れたころにまたやりたいなとは思いますが。


光龍様

薬師の一挙一刀足は皆のSAN値をガリガリと削っていきますね。
狙い澄ましたクリティカルヒットを打ってくるから性質が悪いです。
ある種、自分を窮地に追い込んでる気もしますが。
果たして藍音さんがリミットブレイクするのはいつでしょう。


あも様

所詮機関車の類はレールの上しか走れないのですね、わかります。
果たしていつになれば薬師の元へ直行するレールへシフトできるのか。
あのドSの薬師の元に続く切り替え機などあるのか。
大天狗時代の薬師はむしろ嫉妬の炎で焼き殺されそうな気もします。


通りすがり六世様

鳥だって、鷹とか鷲とかいますからね。
乙女は皆猛禽類ですよ。
自分で何言ってるのか分からなくなってきましたが、薬師の貞操は大丈夫でしょうか。
まあ、薬師の貞操を奪うなどミッションインポッシブルなのでしょうが。


Eddie様

あの後、二人にSOINEされて終了です。
きっと彼は相手が勝負下着でスケスケだったとしても、普通に寝るでしょう。
既にスッパで布団に入りこんだお師匠様が証明済みです。
薬師と間違いを起こすには本当に何かの間違いが起こらないと無理っすね、ええ。


悪党様

コメントどうもです。
アンリミテッドフラグワークスですか。
確かに乱立してますが。
ただ、旗の丘ってすごく歩きにくそうですね。


C.l.D様

コメントありがとうございます。
そりゃまあ、お見合いに乱入されるなんてイベントまで起こしましたからね。
気合が入るってものです。
入りすぎな件についてはスルーするのが紳士ってやつです。


SEVEN様

きつく圧迫してる分、圧壊したが最後です。
藍音さんは圧壊してなくても最後ですが。
ドキドキと顔を赤くしながらしながら性教育に加わる李知さんの姿が目に浮かびます。
今回は、由美とエロエロでしたね! ええ!! 薬師は直接関わってないのが遺憾です。


f_s様

ブレーキは壊れ、アクセルは全開。
これが藍音さんです。
そして、たまにいきなりブレーキが利かなくなるのが李知さんです。
何が言いたいって、ブレーキが利かなくなるとネコミミメイドもやってしまうでしょう、と。



最後に。

フラグ神の弟たる由壱はフラグを手に入れることができるのか――!!


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