俺と鬼と賽の河原と。
早朝四時。
「ん……、今ぁ……、何時だぁ……?」
その日、じゃら男は偶然目を覚ました。
「まだまだ……、早いじゃねえかよ、……あん?」
じゃら男は枕元にある時計に手を伸ばし、時間を確認して再び眠りに落ちようとしたのだが――。
違和感。
「……またかよ」
布団の中に、誰かいる。
とはいっても。
そんなの一人しかいないわけだが。
其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。
「鈴、わざわざベッド貸してやってんだからよぉ、俺の布団に潜り込むのやめろよな……」
『なんで?』
突っ返された紙に、じゃら男はテーブルに突っ伏した。
もう何度目になるか分からない、見慣れた朝食の光景である。
「なんでってぇ……、そりゃあ、お前はまだガキだけどよ、女だし、一緒に寝るのは駄目じゃねえの?」
『じゃら男は、ねてるわたしにヘンなコト、するの?』
「しねえよっ! 誓ってもいい、なんせ絶賛片思い中だからな!」
そう言ったじゃら男の背中は、煤けていた。
だが、現実は思う通りにはいかないものである。
『じゃあ、だいじょうぶ』
「いやそうじゃなくてだなぁ……」
『おそうの?』
「だから――っ……、はあ……。ともかく、次は入ってくんなよ? 常識的な問題だからな?」
『がんばります』
その一言に、じゃら男は溜息を一つ。
「頼むぜ、おい……」
こうして、じゃら男の一日は始まったのだった。
「ってなことがあってだなぁ……」
「ふむふむ、このロリコンめっ」
「センセイにだけは言われたくねえよ」
河原に、男二人。
「俺はロリコンじゃない」
「じゃあなんでセンセイの周りにんなにロリが集まってんだよ」
「人徳?」
「……」
呆れた顔で息を吐くじゃら男に、薬師は苦笑を返した。
「別になんかしたわけでもないんだけどなぁ……」
「これだからセンセイは鈍感だって言われるんだぜ?」
「んー、って、俺よか、お前さんちの幼妻だろ? 今の問題は」
今度は先ほどと打って変わってにやりといやな笑みを浮かべる薬師に、じゃら男は背筋を凍らせつつ、言う。
「幼妻って……、なぁ……」
「家事、させてるんだろ? ほれ、そこにあるお前さんの弁当を作ったのは誰だ?」
「そ、そりゃあ鈴だけどよぉ、先生だって、あれじゃねーか! メイド服の、なんつったっけ……」
「あれは娘で、秘書かつメイドだから問題ない」
「……」
じゃら男は絶句。
そこに薬師は言葉をはさむ。
「で、だ。お前さんは鈴をどうしたい訳だ?」
じゃら男は考える。
確かに家に入れた。では、これからどうするのか。
自立を促して、独り立ちするのを待つのか。
それとも家族として今後十年単位で付き合っていくのか。
「……いや、どうしたいっつってもよぉ……」
言い淀むじゃら男に、薬師は言った。
「ま、即答するよかそっちのがいいとは思うがね」
「は?」
「精々悩め若人ってことだよ」
「ううむ……」
「だが、あれさね。手え出したのはお前さんなんだから、掴まれた手はしっかり握っててやれよ?」
責任とってやれ、と薬師は言う。
じゃら男は何も言い返せなかった。
「お前さんもわかってんだろ? 底辺に沈んでる人間に手を差し伸べるってことがどういうことか」
「……そうだな」
その言葉に、じゃら男は頷く。
分かっていたことだ。
手を出した時点で半端にはできない。
自分がそうだったように、手を差し出してくれた人間というのは、本人が思う以上に特別な意味がある。
「つーこって、それなりに甘えさせてやれよ。ま、それで間違いが起きたなら起きたで、お幸せにってやつだ」
「間違いってなぁ……」
「お前さんが起こさない自信あるならいいだろう? うん」
「……ま、いいか。頑張ってみるか」
「おう、頑張れ。まずは感謝の気持ちを表すことから始めるこったな。居候の負い目があるから距離を測りかねてるんだろ。安心させてやれば、落ち着くさ」
薬師の言葉に頷いて、じゃら男は立ち上がる。
「おう、男猛、いっちょやってくるぜ!」
「猛……? あ、あーあーあー! 猛な? おう、頑張れよ猛」
「一瞬猛って誰かわかんなかっただろ、おい」
「カレーにつけて食べることで有名な小麦粉を平たく焼いたナンのことかな?」
「……誤魔化したな」
「ちなみにインドじゃナンよりチャパティの方が一般的らしいぞ?」
「なぁ……」
じゃら男は夕食を囲みながら、言おうとして、やめる。
感謝の気持ちを表すとか、甘えさせてやるとか言ってみたものの、上手い言葉が見つからない。
『?』
「いや、えーと、よ……」
元々、じゃら男は器用な人間ではない訳で。
そもそも器用だったなら、不良なんてやってないし、もっとうまく立ち回れただろう。
言い淀むじゃら男に、鈴はメモ帳を突き付ける。
『めいわく?』
「迷惑って……、何がだよ」
意味が分からず聞き返すじゃら男に、今一度メモ帳が返ってきた。
『いいにくそうだから。わたし、めいわくなおんなかな?』
「ちげぇよ! その、あれだよ! 察しろよ、察してくれよ…!」
思わず捲し立てるようにじゃら男はそれを否定する。
「俺ぁ学がねえからなんも出てこねえんだよ。別に迷惑なんて言ってねえ。迷惑だったら蹴りだしてるっつの」
じゃら男の言葉に、鈴は苦笑した。
『猛は、お人よしだから』
「はあっ?」
自分とは無縁な言葉に、じゃら男は素っ頓狂な声を上げる。
「俺がお人好しなわけねえだろ。あれだっつの、確かに、困ることはあるけどな、迷惑じゃねえんだよ」
やっと言いたいことがまとまって、喉に引っ掛かっている。
そう感じたじゃら男は、そのまま畳みかけた。
「あれだあれ、ニアンス、じゃなくてニュアンスだよ。困ると迷惑、のニュアンスの違いだよ」
必死に頭の中から言葉を攫って、吐き出していく。
「つかな、困る以上に助かってるんだよ。洗濯とかな。俺はもう、お前無しじゃ生きらんねえ、っつの」
洗濯ものの山はもうないし、レトルトばかりだった冷蔵庫は今では、野菜が詰まっている。
既にじゃら男にとって鈴は、なくてはならないレベルで、生活に溶け込んでいる。
「それに……、いなくなったら……、多少なりとも寂しいだろうしよ」
小声で呟いた言葉。
それに鈴は、困ったように、嬉しそうに、微笑んだ。
『おんなったらしだね』
「……はぁ? 女たらしなんぞセンセイで十分だよ」
『うん、だからおんなたらしなんだよ』
「……意味わかんねえ」
そう言って諦めたように肩をすくめるじゃら男。
対して鈴は、大層楽しそうに、微笑んだ。
『うん、わかった』
「何がだよ」
じゃら男の問いに答えて、鈴はペンを走らせる。
そうして突き出されたそれには、こう書いてあった。
『責任、とるね?』
じゃら男は、苦笑を返した。
「百年早えよ」
ある日、少女は家事をしながら、気づく。
自分のメモに自分のものではない言葉が書いてあることに。
そこには、こう書かれているのだ。
『いつも、ありがとよ』
少女はそれを見て、不器用な同居人を思い浮かべ、微笑むのだった。
――
ほのぼのです。
幼妻を獲得したじゃら男の話でした。
うん、もう人生の墓場だね。
幼女とお幸せに。
まあ、ツンデレなじゃら男を書きたかっただけなんですけど。
ちなみに、雑記の方にも書きましたが、これ、一回消えてるんですよね。
同じ話を書きなおすのは辛かったっす。
しかも書いて出来立てほやほやをあげてますから、ちょっとおかしいとこあるかも。
あと、近況報告となってしまい心苦しいのですが、雑記にも書いたとおり、水曜日から宿泊研修に行ってきます。
木曜には帰ってくるので大幅にとはいきませんが一日二日更新が遅れるかもしれません。
次はどうしようか。
シリアスか、李知さんか、玲衣子さんか、閻魔か、妹か。
では返信。
春都様
暁御、おいしいんだか悲しいんだかわからない子です。
ラブコメ的には、悲しいんでしょうな……。
これで覗き放題ですよ、薬師の風呂を。
SDNが常人の数百倍を示してますから。
ミャーファ様
SDNの他にD(どう考えても)M(メイン)H(ヒロイン)値が……、嘘です。
いや、でもありそうです。正確にはMulti Directional Main Hiroin、MDMHですね。意味は多角的に見てメインヒロインってことで。
李知さんとか最近MAXだったりしそうです。
救われない暁御に運命の女神はほほ笑むのでしょうか。
あも様
S(sugu)D(deban)N(nakunaru)というより――。
S(sudeni)D(debann)N(nai)な気もします。
404Not person その人物は存在しません。
きっと藍音との違いはあれですね、余裕の有無でしょう。破れかぶれでは薬師には通用しないと。
奇々怪々様
生きたステルス迷彩、それがソリッド暁ー御ですね。
段ボール要らずです。
まあ、床とかをすり抜けない点に関しては、暁御の都合のいい方に能力が働くみたいですね。
果たして、思い通りかどうかはわかりませんが。
ヤーサー様
そう、大体二番目位のキャラなのに、一番影が薄いのですね。
暁御ステルスを習得するほどに。きっと、薬師が全開でサーチしてもいることしかつかめないでしょう。
きっと、薬師独り暮らしならたまに不用心にも鍵を開けてるのでしょうが、藍音がいますからね。
次の出番、いつでしょうね。
マイマイ様
よくも悪くも、性欲は人間の有する欲求の中で大きな物ですからね。
いわゆる、仏の悟りの精神には近づけると思います。その他色々の欲は付いて回りますが。
現状の暁御は限りなく妖怪に近い人間です。ええ、きっと。まだ、はい。
人間のスキルじゃないけど、きっと、多分、幽霊ならそう、おかしいことではない、はず……? 多分。
悠真様
まだ、ギリ異能者レベル、でしょうか。
いや、でも、そう言えば神の声と会話を果たしてましたね。
超高性能ステルス、これは便利でしょうね。スパイに偵察なんでもござれ。
でも――、誰もそんな技能持ちいることに気付かない。
ガリガリ二世様
これはお赤飯ですね。
暁御が二話連続で出るなんてここ最近類を見ませんよ。
ああおめでたい。
まさか暁御さんを二話連続で見ることができるなんて縁起がいいです。
SEVEN様
確かに、闇討ち暗殺に向いたスキルですね。
このまま上手く育てば……。
我らが怨敵を……。
でもきっとその前に上手くフラグ編集して止めるんでしょうね、あの天狗は。
通りすがり六世様
いつになれば彼女のまともなイベントが来るのでしょうか。ちなみ私の記憶ではあきみだったはずですが、……そうですよね?
ちなみに、エンド内容には、個別エンドから、オールハーレム、閻魔一族エンドなどグループエンド、誰ともくっつかずうやむやエンドなど、果ては鬼兵衛や酒呑とトリオエンドまで。
色々考えてはいますが、多分その時一番しっくり来そうなエンドがそうなるのでしょう。
まあ、終わるまで結構な間がありますし、もしかすると全部書く可能性もあったり。
f_s様
一番盗みたいはずの薬師のハートに関しては何の効果も持ちませんが。
まあ、幽霊という割に生き生きしてますからね。
飯も食えば、擬似的ながら怪我もする、私もすっかり忘れかけてたり。
SDN値は一体何ケタに達するのでしょうね。
Eddie様
ハアハアする暁御萌えだったはずなんですけどね。
オチが付くオチ体質なのですね、暁御は。
声も、気のせいか、的な。もしくはただの雑音としか聞き取れなくなるとか。
さあ、奇跡は起こるのでしょうか。
笹様
一瞬009に見えた私はちょっと寝不足なのでしょう。
決して落とせぬ、被撃墜率0,000000009%の要塞に立ち向かう戦乙女たち――!
と、書くと何となく戦記物に見えますね。
かくれんぼで遊んでる途中でうとうとしててはっと目覚めると皆帰っていたのもいい思ひ出です。
らいむ様
きっと反則を繰り返せば個室で個別指導が……っ。
閻魔の手料理は千年物の大天狗が死にかけるレベルですからね。
異能の一つ二つ手に入れてこないと……。
もしくはやはり人間やめるしか。そちらに特化した方向に。
では、最後に。
式は――、いつですか?