俺と鬼と賽の河原と。
あゝ無情。
レ・ミゼラブルである。
今回の話の主人公は暁御という名の少女。
「薬師さんっ、貴方が好きですっ!!」
ああ無情。
「……? すまん、聞いてなかった」
まさにそんな話である。
「……なんでもないです」
其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。
ただ、無情に川のせせらぎだけが響き渡っていた。
なるほど見事な一念発起だったと言えよう。
相手が――、超弩級要塞如意ヶ嶽薬師でなければ。
超弩級要塞を一度の行軍で落とそうなどというのは下策も下策、無謀で蛮勇もいいところである。
「んー、そうか」
そして、この弩級要塞、追撃を仕掛けない。
見事である。
無駄に追手を出して戦力を減らすような真似は絶対しない。
おかげ様で、見事暁御は返り討ちにされただけで終わったわけだ。
ここで、もう少し薬師が気になるとか言っておけば、話は変わったのだろうが。
しかし、男暁御、ではなく、女子、暁御、これまで幾度となく弩級要塞に殲滅されてきた少女である。
この程度で潰れるようなバイタリティは持っていない。
「あ、そうだ、一緒にお昼ご飯食べませんか?」
暁御再起動。
「あ、悪い、先約入ってんだけど」
暁御、沈黙。
「……」
再起動。
「じゃあ、夕飯は――」
敵要塞の砲撃、退避、退避ー!!
「ああ、本当悪いんだが予定が入っててな。ちょいと夕飯作りに行かないといけねーんだ」
沈黙、応答ありません!
おお、なんということだろう、薬師には一分の隙もないと言うのか。
勝率はゼロなのか。
しかし、暁御は諦めない。
勝率が果てなくゼロに近かろうと、それはゼロではない。
薬師を相手にした場合、それはコンマから先のゼロが天文学的数字になっているだろうが――。
まかり間違うことも有り得るかもしれない。
まるで地球でツチノコを探すかのように困難な有り様。
だがそれでも人は夢を追い続けるのだ。
そう、たとえ幻でも、男たちはロマンを、夢を追い求め続けるのだ!!
じゃ、なくて。
そう、アレである。
うん、今回の話は暁御の話である。
決して男たちがツチノコを探すスペクタクルではないのであしからず。
では、テイクツー。
そう、たとえ幻でも、暁御は決してあきらめたりしないのだ。
「で、では、隣で石積みしても――」
苦し紛れの悪あがき。
必死で己を主張する。
対して薬師は――。
「薬師様、少々よろしいでしょうか。明日の夕飯の材料を買いに行きたいと思っているのですが、なにか希望は」
「んー、なんでもいいけどな」
「そういう返答が一番困るのです」
「そーさなぁ、春巻き食いたい」
藍音と話していて、この男聞いちゃいねえ。
「……くすん」
ああ無情。
しかし、ここで留まってなどいられない。
ライバルは星の数ほど、というか今だ増え続けている。
後手に回っては、先を越される。
そう考えて暁御は、覚悟を決め、女の戦いを始めるのだった。
しかし。
それから先、暁御は悉く作戦を潰された。
何といってもこの機動要塞薬師、いつもは予定なんてあったもんじゃないだらだら生活のくせに、まるで今日という日を見透かしたかのごとく予定を詰めまくっていたのだ。
なんという神算鬼謀、薬師恐るべし。
あらゆる策は薬師に届かず。
すべての兵器は効かず。
すでに今日という日は終わりを告げ掛けていた。
暗い夜道を一人歩き、思う。
自分ごときでは彼に相応しくないのではないか。
もっと素敵な人がたくさんいるはずだ、と。
だが。
退く訳にはいかない。
『これはっ!! 影の薄さの勝利! 接近に誰も気づかなかったっ!! お見事です! 見事なステルスです!! 影の薄さは伊達じゃないッ!!』
もう、後はない。
『酷くないですかっ!?』
前に進むしかない。
果てに――、
ついに暁御は最後の反攻作戦に出た。
これは――、誰も語らぬ、誰にも語られぬ戦いの記録である。
「此方、暁御、目標の前に来ています」
暁御もなかなかなノリである。
と、いうわけで暁御は薬師宅の前に立っていた。
「じゃ、じゃじゃ、じゃあ……、今から――」
今回の大反攻作戦。
「よ、夜這いに……」
“オペレーション、夜這い”である。
「あの、そのまんますぎません?」
じゃあ、オペレーション、真夜中に貴方の元へ向かう私の――、
「いいです、夜這いで」
と、いうわけで、暁御のオペレーション夜這いが発動したのであった。
乙女の心情としては、夜這いとは如何なものか、と、こういうのは男性の方から、などと考えていたが、もう遅い。
それが通じる相手ではない、暁御はそれがわかっていた。
「では……」
まずは一手目。
暁御は薬師宅のドアノブに手を掛ける――!!
「……あ、鍵、閉まってる……」
頓挫ぁあああああッ!!
一手目から既に頓挫っ!!
当然と言えば当然だが、天、いわゆるご都合主義ですら彼女に味方しなかったっ!
この物語のヒロインであったなら、偶然扉が開いている可能性、不思議パワーでワープ侵入、蹴破るの三択で家に入れるはずなのだ。
もう既にヒロインかどうかも怪しい領域である。
彼女にイベントなど用意されていないのか――。
彼女はドアノブを掴んだまま、項垂れた。
「ふ、ふふ、いいんです、いいんです、私なんて」
湿度上昇、危険域を突破。
暁御の周りにどんよりオーラが現れる。
きっと今の彼女を見た人間がいたらこう言うだろう。
『キノコが生えていた』
と。
まあ、人が通りかかっても誰も気づかないのだが。
しかし、それにしても。
このまま暁御の戦いは幕を閉じてしまうのか!?
このまま家に帰って、負け犬となるか?
退きたくない、しかし現実は厳しい。
だが、その時――、
「私なんて――、え?」
――奇跡は起こる。
暁御の手が、ドアノブをすり抜けた。
「え?」
驚き、確かめるようにドアノブを掴もうとして、
またすり抜ける。
「もしかして……」
暁御は、意を決したように、大きく一歩踏み出した――!
「……通れた」
衝撃は、ない。
「うそ、でも……、なんで」
暁御は今、確実に扉をすり抜けていた。
……そう!
暁御は影の薄さの値、Shadow Density Numerical、略してSDNが限界値に達した時、物にすら存在を感知されなくなるのだっ!!
六十話近い話数、キロバイト数にして800近いそれに鍛えられた影の薄さは伊達ではない。
「でも、今なら……」
ちなみに床には無視されないなど随分都合のいい能力である。
結果的に。
暁御は誰ひとりに気付かれることなく、薬師の部屋に到着した。
見事なステルス暁御だった。
そんな暁御は、ベッドの前に立ち、そこに眠る薬師を見る。
「薬師、さん……」
薬師は安らかに、無防備に眠っている。
いい御身分である。
そんな中、暁御は万感の思いを吐き出すように、呟いた。
「薬師さん……!」
焦りがあった。
苛立ちがあった。
ここに至るまでたくさん悩んだ。
「薬師さん……っ」
もう一度男の名を呼ぶ。
息が荒い。
今までずっと耐えてきた。
もう、我慢など出来はしなかった。
座った目つきで暁御は薬師に馬乗りになる。
「はぁ……っ、はぁっ……」
顔は赤く、頭は緊張で痺れていた。
見事な、暴走だった。
大人しい者ほどキレると怖いというが、これもそうなのだろうか。
だが、少なくとも暁御はここに至って今までの鬱憤を晴らすかの如く、熱に浮かされたような顔で薬師の体をまさぐった。
「んっ……、……薬師さん」
ここまで来てはもう止まりはしない。
その手は徐々に下腹部へと迫り――。
「うん……? 誰か、いるのか?」
薬師の眼が、開く。
「っ――」
暁御に緊張が走る。
やってしまった、という思いと、もう戻れないという思いがない交ぜに彼女を責める。
もう言い訳はできない。
冷静さを欠いたことで、逃げ道は失われていた。
だが、しかし、もとより退くなど、暁御は考えていない。
進むためにここまで来た。
このままじゃいけないと現状を打破しにここまでやってきたのだ。
だから、もうやるしかない。
暁御は、大きく息を吸い。
言った。
「……薬師さん。貴方の事が――」
遂に、言ってしまった。
「好きですっ!!」
伝わるように、届くように、祈るように。
その言葉は――。
「俺の上に誰か乗ってる気がしたが――、別にそんなことはなかったぜ」
ああ無情。
今回の話は正に――、
そんな話である。
暁御の、SDNは未だ限界値だったのだ。
結局。
先日は、悲しい気分のまま暁御は薬師宅を後にしたのだった。
「……あ、おはようございます、薬師さん」
「おう、おはようさん、昨日は悪かったな、今日は一緒に昼飯食おーぜ」
「! はい!!」
暁御の戦いは、続く。
―――
其の六十三、お久しぶりです暁御さん。
変なテンションでしたね相変わらず。
色気がないというかなんというか。
ヒロインのイベントじゃないというか。
まあ、霊ですからね、扉くらいすり抜けるでしょう、と。
では返信。
春都様
暁御が二話連続で出て、片方はメインですよ。快挙ですね。
まあ、シリアスなんて続けたって肩こるだけですよ。
別にシリアス苦手なわけじゃありませんよ? ええ、はい、きっと。
藍音さんは何をしても藍音さんだからで済みそうな風潮になってきましたね。これが彼女の策ですか……。
通りがかり様
コメントありがとうございます。
今回で物理法則を超えましたね、ステルス。
まあ、霊ですから。
冒頭の石積みはなかなかいいネタが思いつかんのですね、思いついたらやりたいと思ってますが。
シン様
感想感謝です。
実は、脱げるというイベント案もあったのですね。
今一前後の繋がりが取れなかったのでなかったことになりましたが。
ブルマを引っ張ってるのはその名残ですね、ええ、今になって惜しいことをしたと思います。
SEVEN様
なるほど、そういうことだったのかっ!
カエサル暗殺容疑で拘留中の彫刻のような男のブルートゥスさんがブルマをはいてるところを思い浮かべて吐き気を催しました。
スク水にブルマときたら――。
裸エプロン……?
奇々怪々様
遂にブルマですよ、ええ。私の小説史上初めてのブルマだったり。
そして、薬師ブルマ以前に野郎に深緑のブルマはどうかと……。
ちなみに李知さんのブルマは責任を持って玲衣子さんが保管しております。
暁御、新キャラですねわかります。
ヤーサー様
主だって敵対してるのは、大体数珠家と一分テロ組織位ですね。
まあ、いつの世にも自分の方が上手くやれるって思ってる人は居る者です。
ええ、お色気担当も出そうかと悩んだのですが、時間の都合でカットされました。
ちなみに、李知さんがブルマの裾を引っ張るのは、太腿を隠したいからだと。
あも様
数珠家には九つの十二神将がいてですね、その下に各々百八人衆が存在し、その百八人衆の一人一人に百八人からなる親衛隊が――、
嘘です、すいません。薬師さん九割位吹き飛ばしてください。
そしてよく考えるとトラの腰巻って結構それ以上に大胆装備ですよね。
さらに余談になりますが、藍音さんと暁御、大胆さはいい勝負なのにこの差は、やはり年季なのでしょうか。
ミャーファ様
今は失われしオーパーツ、ブルマでした。
ですが、ここは地獄ですからね、Out Of Place Artifactsの一つや二つあるものです。
藍音さんは相変わらずでした、要塞も多少の被害は被ったようです。
暁御は――、ノーコメントで。
社怪人様
夜行性じゃありませんけどね。
まったく……、健康的なお化けどもです。
どうでもいいことですが、この間水木しげる画の妖怪辞典を古本屋で見かけました。
とても欲しかったです。
f_s様
ずっとやりたいと思っていた……。
だけど機会がなかった。
というわけで秋ですからね。運動の。
ここぞとばかりにブルマですよ。
マイマイ様
まあ、本人的には大したことじゃないのでしょうが。
どちらかというと、薬師は俗人と聖人の間を行ったり来たりしてるというか。
神と人間の間をふらふらしてる感じですね。別に女性を空気とみなしてる訳でもないですし。
ただ、一番不幸なのはそんな朴念仁を好きになった人でしょうな。
通りすがり六世様
ブルマです、ええ、ブルマなんです。
秋ですのでここぞとブルマです。
実はこっち北海道はブルマなんぞ穿いたら寒すぎるほどの気温ですが。
というか、半袖どころか長袖に上着着ないといけないくらい冷え込むほどですが。
Eddie様
地獄にロリコンが多いのは仕方のないことです。
どうしようもないんです。
合法ロリが結構いるおかげで今までの倫理観のリミッターが外れてしまうんです。
藍音さんは常にリミッター外れてますけど。
光龍様
性欲がなくても、あの状況なら鼻血出るんじゃないかと。
後頭部打ったり、窒息寸前だったり。
地獄と天国が同時に味わえる拷問ですな。
薬師にとっては災難でしたが。
春日井様
古き良き時代の遺失物、ブルマ。
今はもうないそれが、地獄の奥地で甦る――!
すいません、ちょっと幽体離脱してきます。
臨死体験すればきっと逝けると思います。
黒茶色様
ブルマにノーブラ、運動のための服なのに、運動には不向きなノーブラ。
この相反する状態が――。
正直どうでもいいですね。はい。
ええ、私も天狗になりたいです。そうだ。山籠りしよう。
最後に。
こんなに短期間にブルマブルマと連続でブルマって打ったの初めてです。
皆さんも好きですね。