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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の六十二 今日は地獄の運動会。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/05 22:30
俺と鬼と賽の河原と。



 地獄運営中枢にて、とある問題が物議を醸していた。


「李知の行方はまだ分からないのですか!?」


 コの字型の席の端、薬師がおばさんと呼んだ女性が立ち上がって捲し立てる。

 対して、閻魔は冷ややかだった。


「……見当は付いてますよ。そう焦らずとも」


 もう既にこの会議の方向は決まっている。

 まるで茶番だ、と閻魔は気づかれないよう溜息を一つ。


「今、彼女は信頼できる人の元に保護されているようですので」


 その言葉に、女性がガタリ、と椅子を揺らした。


「その信頼できる者というのは――!」


 女性は言おうとして、やめる。

 当然、薬師のことであった。

 しかし、この場で薬師のことを追及すると彼女の家の誇りに傷が付く。

 一人の男に警護を越えられ、あっさりと見合いを壊されてしまったのだ。

 ここでそれを追及するということは、それを認めることに他ならない。

 悔しげに顔をゆがめる女性に、閻魔は追撃を掛けた。


「どうやら、原因は台風だと言うじゃないですか」


 家の名誉のために、その件を女性は台風が原因だと提出していたのだ。


「天災なら仕方がありません。ええ。仕方がないことです」


 と、そこで席にいながら黙っていた玲衣子と目が合った。

 玲衣子は、ただ閻魔の顔を見て薄く笑みを浮かべる。

 閻魔も、同じように返した。


「ですが――!」


 それでもいい縋ろうとする女性に、閻魔はぴしゃりと言い放つ。


「鬼になったと思えば捨てて、政治に使えると知れば呼び戻す。彼女は今ここにいる玲衣子の娘ですが」


 その際、閻魔は苛立ちを隠そうとすらしなかった。

 女性は押し黙る。


「では、これからイベントがありますので」


 何か言わせるほどの間を置かず、閻魔はその場を後にした。






「まったく、困ったものです」


 閻魔は、廊下を歩きながら隣を歩く玲衣子に吐きだした。


「……そうですね」


 玲衣子は内心複雑か、冴えない表情ながらも、同意する。


「まあ、薬師さんがうまいこと立ち回ってくれたおかげで、こっちが強引に手出しする必要はなくてよかったんですが」

「数珠家への武力介入、ですか」


 閻魔は、俯くように肯いた。


「この状況は私の甘さと過ちが作ったものです。いい加減清算せねばなりません」


 数珠家。

 いわゆる、閻魔が作った人造人間の一族だ。

 そして、その一族は閻魔が地球で生きられる人間を直接作るのをあきらめて尚、人を造る行為をやめず。

 閻魔はそれを止められなかった。

 造った者としての負い目があったからだ。


「滅ぼすような真似だけは避けなければいけませんが、理想的な形にしないことには、どうしようもないでしょう」


 閻魔の言葉に、玲衣子は大きくうなずく。


「野心だけは大きい家ですから、放っておいても敵対してしまうのでしょうね」

「でも、今回のことでちょっとだけ時間が稼げました」

「怪我の功名、でしょうね」


 榊小太郎と結びつかなかったのも大きい。


「まあ、その話は今はやめましょう」


 そこで閻魔はいったん話を切り、ほほ笑んだ。


「今日は楽しい、イベントの日なんですから」





其の六十二 今日は地獄の運動会。






「それでは始まりました!! 第一七六二回、地獄大運動会を開催します!!」


 司会の言葉に答え、会場が熱気に包まれた。

 なんで俺、こんなところにいるんだろ……。

 と、いうわけで、俺はなぜか、無駄に広いグラウンドに立っているのだった。

 まあ、何故かと言われれば、李知さんの気分転換である。

 家に連れ帰ったはいいが、時折考え込む李知さんをどうしようかと思っているところに、閻魔が言ったのだ。


『だったら、体を動かしたらどうです?』


 今回の件を飯作りついでに報告に行った時の言葉である。


『明日、丁度秋の運動会があるんですよ』

『運動会?』

『ええ、古くは、競技会だったんですけどね。これでも千年以上続く伝統のある行事ですよ』


 どうやら、元々死者の鬱憤晴らしも含まれていて、なるほど、これなら李知さんの気晴らしにも十分だろう、となったのだ。


「では、閻魔様から開会の言葉です」


 その言葉に答えて、現れたのは閻魔。

 その姿に、グラウンドが今一度熱く沸きあがる。


「みなさんこんにちは」


 それは見事な盛り上がりっぷりだった。

 ふつうはしーんとするような開会の言葉でのこんにちはの台詞にも、地響きが鳴るほどの声量で答えるほど盛り上がっていた。


「堅苦しい言葉は無しにしたいと思います。正々堂々、楽しみましょう!!」


 閻魔のブルマに。









 なるほど、地獄ではブルマがデフォルト、というやつらしい。

 ちらほらとジャージが見えるが、あっちもブルマ、こっちもブルマ。

 そんななか、俺は深緑のジャージだ。

 浮いてる。

 まあ、俺が浮いてるのはともかくとして。


「藍音さんよ。体操服ブルマなのに、頭のそれは外さないのか」


 となりに立つ藍音に俺は聞いた訳だが。


「メイドですから」


 にべもなく。

 そうか、メイドだからか。


「ところで李知さんよ」


 次は、李知さんに聞く。


「ブルマなんてどこに隠し持ってたんだ?」


 そう、李知さんを攫ってきたのは一昨日。

 そして、いまだ家に帰っておらず、俺の家では藍音のメイド服だったのだ。

 果たして、そのブルマはどこから来たのか。

 それに対し、李知さんは顔を真っ赤に、肩をいからせた。


「かっ、貸出していたのがこれだけだったんだっ!!」


 との言葉だが、どうにもそうでもなかったらしく。


「えっ? ジャージも……、貸してましたよね?」


 とは由美の言葉だ。

 当然のようにブルマで。


「なっ、そんなわけは――」


 たじろぐ李知さんに、俺は聞いた。


「それを渡したのは誰だ? もしくはブルマが貸してもらえると言ったのは」

「え? 母様だが?」

「騙されたんだ……」


 俺はぽんと李知さんの肩に手を置いた。


「う、うぅ……」


 結果、李知さんは恥ずかしげにブルマの裾を握って下に引っ張るようにしながら、唸るしかないのだった。












「では、徒競争を開始します。参加の方は位置について――」


 その言葉に従い、俺はグラウンドに立つ。


「よぉーい」


 羽を出す。

 黒い翼が、風にはためく。

 そして――、乾いた銃声。

 俺はその瞬間、空に舞い上がったのだった。


「反則ーーーっ!!」


 閻魔に叩き落とされたが。


「何をするんだ」

「反則です」

「馬鹿な、己の技を競う場所だろ? ここで天狗の技能を使わずして――」

「走ってください!!」

「走ればいいのか?」

「はい、徒競走ですから」

「おーけー、把握した」


 俺はもう一度位置に着く。

 そして、高下駄を装備。


「位置について、よぉーい」


 銃声。


「せぇいっ!!」


 今だっ。

 俺は高下駄の長さを一気に伸ばす。

 それはもう天高く。

 そして――、一歩。


「これで、ゴールだな」


 見事一着である。


「反則ーーっ!!」


 閻魔に横からよくわからない力ではっ倒されたが。


「何をするんだ」

「反則です」

「走っただろ?」

「でも反則です」

「我儘だな美沙希ちゃんは」

「真面目にやってくださいっ!!」

「真面目にやったら鬼の人に勝てるわきゃないだろ?」


 ちなみに、競技自体は人外と常識的な人間の範疇の二つに分けられている。

 常識的な人間の範疇、というのはどう考えてもブライアンあたりがアレである。


「むっ、それはそうですが……」


 まあ、なりたて相手に身体能力で負ける気はしないが。


「ほら、ぶっちゃけアレだろ? ここで思いっきり体を動かせってんだろ? だったら、羽出したっていいんじゃね?」

「それは……、そうなのかもしれ、ませんね」


 納得した、納得してしまったよこの閻魔。


「ええ、勝ち負けなどにこだわらず、全力で体を動かすのが肝心なのかもしれませんね、ええ」


 結果として、妖怪の全力運動会が幕を開けてしまったり。










 それから色々あった。

 容赦のない大玉吹き飛ばしとか。

 すべてを薙ぎ払う障害にならない障害物競争とか。

 飛ぶわ潜るわ次元跳躍するわのリレーとか。

 ブルマで玲衣子がやってきて、その年でブルマはどうかとか、前さんはハマりすぎだろとかで乱闘にもなったりした。

 閻魔が弁当を持ってきたことに関しては、コメントを控えさせてほしい。

 紆余曲折、うにゃらへにゃらあって、宴もたけなわ、最後の競技、棒倒しになったわけだ。








「ふふっ、今日は貴方に勝利をプレゼントするわ」

「閻魔妹か……、いや、今日はあえてブルータスと呼ばせてもらおう」

「それは……、どういう意味かしら」

「お前もかって意味だよ」


 軽口を叩いて前を見る。

 今回の件で閻魔が決めた規則は一つ。

 粋を重んじよ、無粋は反則。

 要するに、大会を面白くできたり、許容できる範囲ならなんでもありというわけだ。

 ただし、怪我人を出すようなのは御法度、と。

 故に、この状況、一分の油断も許されない。

 相手に百戦錬磨は少なくない。

 そして、開始のゴングが鳴らされる。


「さって、じゃあ、行きますかっ」


 走り出す俺。

 飛び交う弾丸やら衝撃波やら念力から火炎放射を避けて、俺は敵陣に接触する。

 このまま奥へ……!

 そう思った俺の前に立ちふさがったのは、少々意外な人物だった。


「藍……、音?」

「はい、なんでしょう」


 まるで自然体で俺の目の前に立っているのはそう、藍音だった。

 なるほど、確かに彼女のハチマキは、赤かった。

 俺の白とは――、違う。


「藍音……おんどぅるるらぎっ、いや、やめておこう」


 一回行ってみたかった台詞だが、些か、古い。


「いいのですか?」

「うん」

「では」


 その言葉と共に、藍音が一足にして俺の元へ飛び込んでくる。

 そしてそのまま、体当たり。

 俺は横に体を逸らして避けた。


「ふーむ、そういや、お前さんとやりあうのは、久しぶり、だよな?」

「ええ」

「あれなん? お前さんも師匠越えとかしたい年頃なん?」


 言ってる間にも、藍音は方向転換し、迫ってくる。


「……いえ。ある種の年頃ではありますが。今回は一緒のチームより相手に回った方が、よく見てもらえるのではないかと」

「何を?」

「……無論、揺れですが」

「何の?」

「それをここで言わせる気なのですか? いえ、薬師様が望むならそのように」


 なんとなく俺を怖気が襲う。


「いや、いいわ」

「そうですか。残念です」


 と、ここまで俺は藍音の速度重視の攻撃を避け続けてるのだが――。

 俺に藍音は殴れない。

 そりゃ、敵としてやりあうなら腕の一本くらい了承済みだろ? って話なのだが。

 わざわざこういった遊びに本気を出して藍音を怪我させるのは、なんか違う、というか。

 これが相手が並みの妖怪なら、それなりにひょいひょい避けて優しく投げたり、あしらえるんだが、藍音ではそうもいかない。

 しかも、藍音は本気である。

 そして、こっちは防戦一方。

 更に、こっちの攻撃手段、優しい攻撃では確実に藍音は倒せない。

 となると、手詰まりである。

 そも、足を引っ掛けるとか、投げるとか、羽交い絞めとか、効くような相手じゃないのだ。

 止めるなら、容赦なく下顎に鉄拳制裁とか、腹に鉄拳制裁とか、後頭部に鉄拳制裁しかないわけで。

 何が言いたいかというと、俺に勝機などなかったわけだ。

 俺が闘牛士気分に飽きてきたその瞬間。

 藍音が今までの速度からもう一段上げて迫ってきた。


「ぬおうっ!!」


 なるほど、見事な緩急だった。

 避けれない。

 ああ、こりゃ当たるな。

 と、俺は藍音の肩を食らう覚悟を決める。

 決めたのだが――。

 ふにょん。


「なんぞそれ」


 衝撃が来る前に、俺の胸の下あたりに柔らかい感触。

 そして、藍音が両腕を広げ、俺を抱きしめるように――。

 俺ごと倒れこんだ。


「後頭部が痛いっ!」

「ふふ……、私の勝ちですね」

「もがっ」


 勝利宣言の直ぐ後、俺は藍音に顔を覆われて、呻き声を上げた。


「お前っ、そこ胸」


 とても息が苦しい。


「わかってます。ちなみですが、着けてません。よく揺れるように」


 ああ、はい、そうですか。


「そいつはっ……、はしたないぞ……」

「貴方が相手ならいいんです」

「……そうですかい」


 ああ、はい、そうですか」


「つかっ、がちで苦し……」


 その瞬間、胸が離れ。

 俺が大きく息を吸うと、また戻ってきた。


「……拷問ですかそうですか」

「時間一杯、私は薬師様を抑えることに専念したいと思います」

「さいですか……」


 ううむ、こうなるとどうしようもない。

 全力を出せばこの状況も脱せるかもしれないが、些か、大人げないだろう。

 となると、俺は押し付けられる胸を受け入れねばならないのか……。

 俺は諦めたように目を閉じ、覚悟を決めた。

 そんな時だ。

 響き渡るアナウンス。


「紅組の棒っ!! 倒れたぁあああああっ!! 白組大勝利です!!」


 救世主、現る。

 果たして何が起こってるのだろうか、と俺は周りを見渡そうとするが――。


「あの、藍音さん? 藍音さーん?」

「もう少しお願いします」

「……さいですか」


 俺がもう一度諦めて、次の放送がかかる。


「倒したのは何と……、おおっと! 白組の、暁御ちゃんだぁあああああっ!!」


 いたのか。

 というかなんで妖怪の方の競技に参加してるんだ。


「これはっ!! 影の薄さの勝利! 接近に誰も気づかなかったっ!! お見事です! 見事なステルスです!! 影の薄さは伊達じゃないッ!!」

「酷くないですかっ!?」


 暁御の悲痛な叫びが俺の耳に届く。

 すまん……、否定出来ん。

 つか、なんで司会はそんな情報まで握ってるんだ。


「で、どいてくれるかね」

「名残惜しいですが」


 そう言って藍音が俺の上から立ち上がり、やっと俺は、息苦しさから解放されたのだった。












「では、これにて、第一七六二回、地獄大運動会を閉会します」


 程々に赤く染まった夕暮れ時、人々が思い思いに帰っていく。


「やーくしっ、今日、どうだった?」


 俺に声を掛けたのは、前さんだ。

 隣に顔を出した前さんを見て、俺は笑って答えた。


「そいつはもう。そっちは?」

「うん、楽しかったよ」

「そいつは重畳」


 歩いて行く向こうに、手を降る弟と娘たちが見える。

 李知さんも、今は待っていてくれる。


「家庭ってのも、悪くねーかな……」

「どうしたのさ、いきなり」

「いや、なんとなくな。丸くなったな、つーか、俺が父親だなとしみじみ思ったわけだよ」

「父って……、まあ、いいんだけどさ」

「あー、いいんだろ。俺がこの位置取りを気に入ってんだ。問題ねーよ」

「そう、じゃ、帰ろっか」

「おうよ。腹が減ったぜ。おーい、藍音さんや、今日の夕飯は何かねー?」


 言いながら、俺は前さんと一緒に家族の元へと走り出したのだった。









―――

其の六十二です。
今回は藍音さんが贔屓気味だった気がする。
動かしやすいのが悪いと思うんだ。
あと、オールキャラは無理っした。申し訳ないです。
ほんとならじゃら男と幼妻の運動会もやりたかったんですが。
ううむ、番外、書く時間あるかな……。
暁御は――、ドンマイ。


では、返信を。

ミャーファ様

おかげで今回の薬師はへたれました。
藍音にいいようにフルボッコです。
そしてメインヒロインと同居イベント。
実家問題が片付くにはしばらくかかりそうですね。


笹様

感想どうもです。
どう考えてもメインヒロインなんですよね。これ。だけど家柄問題できるのは李知さんと由比紀位だったり。
災害なら仕方ない、と閻魔様も言ってますしね。
ええ、薬師の野郎はフラグを見事スルーしてくれましたよ。流石台風。


悠真様

前さんも、意外とメインヒロインとして動いてくれて、作者としては大助かりです。
むしろ、薬師が女の子のため意外に動いたことなど、由壱くらいじゃ……。
しかも由美とセットだし。
季節外れの台風でしたが、おかげさんで潤いが出たようです。家ふっ飛ばされたほうは溜まったもんじゃありませんが。


ヤーサー様

メイン……、メインってなんだか分からなくなってきましたよ。
そして格好いいくせにその気がないのだから救えません。
小太郎君は、もう一回くらい、登場するかもです。そしてブルマでした、ええ。
閻魔的には、政治問題が絡むため、下手には動けなかったようです。最悪全面戦争でしたが。


奇々怪々様

乱入誘拐器物破損……、どう考えても酌量の余地がありませんね……。
果たして、最後の家ふっ飛ばしはやる必要があったのか不明です。
ノリと勢いだけでやったんじゃないかと思われますが。
そして李知さんルート入ったように見えたけど別にそんなことはなかったぜっ!!


春都様

まるで薬師はパチスロのようです。
リーチはすれど当たらない。確変などもってのほか、ってやつですね。
まあ、これからもおかげで厄介事が舞い込むのでしょう。
これで平和だったら、怨念で薬師が殺せますよ。


SEVEN様

実は、前さんじゃなくてスライムが発破かけに来るという恐ろしい案が……。
やめましたが。ええ、やめましたとも。
そして、薬師の好みにどストライクでしたね、そういえば。
多分その好みは先代大天狗がそれだったんじゃないかと思いますが。


あも様

語感的には燕返しの剣士かもしれません。
そして、なんだか数珠一族との確執が表面化してきました。
玲衣子さんにも関わってきますからね、これは。
そして藍音はその遅れを取り戻すように、胸を押しつけて行きました。


光龍様

見事、李知さん同居中です。
で、前さんが住み着いて、そこから色々と増えた結果。
きっと地獄の空き地に如意ヶ嶽邸が建つのですね。
わかります。


Eddie様

これがメインヒロインの矜持ってやつですかね。
その話のメインは譲っても現れて薬師の背中を押すという。
実家編が始まった時には、きっと無双してくれることでしょう。戦闘力微妙みたいですし。
ちなみにですが、地獄で銃は造れなくもないし、現世から変換すれば使用可です。規制が厳しいですが。


通りすがり六世様

そりゃもう定番中の定番ですよ、でもやってみたかったんですよね。
丁度格好いい薬師も書きたかったところでしたしこれ幸いとばかりにやってみました。
そして、落ち着くまで薬師家にお世話になるようです。
閻魔様個人としては由比紀を送り込む位の準備はしていたようです。薬師のおかげで必要なくなりましたが。


f_s様

また日常に帰ってきました。
でもまた近くに先代編の布石に一話シリアスはさまないといけないのですね、これが。
シリアスばっかり書くと肩がこってしまってアレなのですが。
閻魔系列ですか……、目指せ二桁……? 冗談ですよ?



最後に。

藍音さんの体操服は――、
    汗で……
       血で汚れていて読めない。


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