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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/27 22:00
俺と鬼と賽の河原と。





 とある朝の一幕。


「薬師様、何故か運営に呼び出されておりまして、帰りは明日になるようです」

「おー……、了解」


 ほー、今日は由壱達の飯作らんとなぁー、と思っていたら。


「兄さん兄さん」

「んー?」

「今日李知さんの実家の方に泊らないかって誘われてるんだけどさ」

「おお、ってか意外と仲いいんだなお前さんら」

「まあね……、将を射るならって話なんだけどね」

「なんじゃそりゃ」

「外堀の話だよ。で、いいかな?」

「ああ、ま、楽しんで来い」

「うん」

「ああ、ってことは――」


 久しぶりに一人なんだな――。





其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。





 いつもの河原で石を積みつつ、ふと思う。

 夜、一人でいるのは本当に久しぶりだな。

 由壱と由美が来て以来、初めてのことのはずだ。

 ああ、でもよく考えてみると、地獄に来てから、ここ最近特に一人だった時の方が少ない気がする。


「生前とは大違いだな」


 思わず苦笑が漏れる。

 生前、基本的に俺の近くにいたのは藍音だけだった。

 なんとなく、変わったもんだと嘆息する。

 なるほど、悪くない状況だ。


「薬師、どうしたの?」


 と、そこで上から声が掛かる。

 前さんだ。


「ん、いや。考え事をちょいとな」


 どうやら、ぼんやりと物を考えていて気付かなかったらしい。


「ふーん、珍しいね?」


 そう言った前さんの表情には全く不自然なものはなく。

 素で心の底から俺は何も考えてない人だと思われてるのか。

 と、それはともかく。


「かくかくしかじかなんだよ」

「だからわからないって」


 とりあえず、なんとなく俺は説明してみることにした。




「と、まあ、今日は何故か一人で不思議だなぁ、と」

「へえ、そうなんだ」


 説明を終えた俺に前さんはそう返して、数秒。

 今一度、口を開く。

 悪戯っ子のように笑って彼女は言った。


「ねえ、寂しい? って、そんなわけ――」

「あるかもな」

「えっ!?」


 無駄に驚いた顔をする前さん。

 ちょっと心外である。


「俺だってたまには一肌恋しい日も――、あるんじゃね?」

「何で聞くの」

「きっとある。多分」


 あると言ったらあるのである。

 ああ、どちらかというと寂しいというよりも、落ち付かないのか。

 まあ、どっちでもいいし、どちらもかもしれないのでどうでもいいが。

 ともあれ、言うこと言ったし、仕事に戻ろうと俺はしたのだが。

 その動きはあっさりと。


「……ねえ、あ、あたしが――」


 簡単に。


「――泊りに行こっか?」


 予想外の台詞によってせきとめられたのだった。


「本気ですか」


 思わず妙な口調になった俺に前さんは頬を赤らめ肯いた。


「……本気です」


 こうして、前さんのお泊まりが確定したのだった。









「お邪魔しまーす」


 何やら照れた様子で俺の家に踏み込む前さんを見て、俺は笑みが漏れる。


「別にわざわざんなことせんでも」


 前さんもわかっていたらしく、俺に苦笑が返ってきた。


「まあ、そうなんだけど、なんとなくね」

「そうかい」


 俺は居間へと赴いて時計を見る。


「六時か、飯時だな」


 丁度腹も減ってきていたし、何か作るか。

 そう思って台所へ向かおうとしたら、前さんが声を上げた。


「あたしが、何か作るよ」

「前さんって料理できんの?」


 俺は思わず聞く。

 最近料理と言えば、否。

 料理を作ると聞いて毒殺兵器が出てきた試ししかないのだ。

 聞いてしまうのも、詮無き事。

 しかし、前さんはちょっと怒りながらもそれを否定してくれた。


「あたしをなんだと思ってんのさ! これでも一人暮らしだよ?」

「なら良かった、まあ、冷蔵庫の中のもんは好きに使ってくれ」

「ん、おっけー」


 そう言って前さんは台所へ向かっていく。

 俺は暇なので、ソファの上で雑誌を見ることにした。

 それで、何分経ったのか。

 雑誌を読んでいるようで読んでいない流し読み状態の俺の耳に、前さんの声が届いた。


「できたけどー?」

「おー」


 俺は雑誌を放りだし、食卓へ。


「おお、料理だ料理」


 今までの非日常な経験から本当に感心していたのだが、前さんには怒られてしまった。


「だから、人をなんだと思ってるのさ!」

「いやはや、悪い悪い」


 謝りながら、席に着く。

 うん、普通に肉じゃがと焼き魚に味噌汁だ。


「うっし、いただきます」


 呟いて、箸をつける。


「どうかな」

「うーん……、オフクロの味?」

「それってどっちなのさ」

「美味いが?」


 うん、確かに美味いが、


「前さんが食べさせてくれたらもっと美味いかな」


 何か物足りない。

 ってことで前さんを肴にして楽しもうと思ったのだが。


「えっ? あ、えと……。はい」


 つくづく今日の前さんは俺の予想を裏切ってくれる。

 真っ赤になるならやらなきゃいいのに。

 だがしかし、据膳食わぬは、という奴だ。

 俺は差し出された箸に食いついた。

 まあ、予想とは違う結果に終わったが、それなりに満足した。

 のだが。

 もしかして、俺は、夕飯全てを前さんの手ずから食べる羽目になるのだろうか。

 これは、自爆したのかもな……。









 前さんに夕飯を食べさせてもらったあと、俺はソファに座ってテレビを見ていた。

 そんなとき、食器を洗い終えた前さんが、俺の元へやってくる。


「隣いい?」

「やだ」

「へ?」


 俺は、驚いた顔の前さんを、有無を言わせず膝に乗せた。


「え、ちょっと、な、な、な、なんなのさ!」

「言っただろ? 今日は人肌恋しいって」


 そう、俺は決めたのだ。

 今日は前さんと遊ぶ、もとい前さんで遊ぶ、と!!

 で、そんな前さんはというと。


「え、あ……、うん」


 あっさりと抵抗をやめてしまった。

 むう、つまらん。

 だが、まあいいか。

 とりあえず、ぼんやりテレビを見ることにする。

 それで、しばらく無言のままテレビを見ていた俺たちだったが、不意に、前さんが声を上げた。


「ねえ」

「んー?」

「……今日、何かあったの?」

「んー、別に?」

「そうなの?」

「ああ。それがどうかしたんかね?」

「いや、うん。だったらいいんだ」

「ほー?」

「うん」


 変な前さんだ。


「むしろ、前さんこそなんかあったのか?」

「どうして?」

「いきなり俺の家に泊まるとか」


 すると、前さんは困ったような、呆れたような表情になって。


「……なんで伝わらないかなぁ……?」


 その言葉に俺は苦笑を返すしかない。


「俺は鈍いことで有名らしいぞ?」


 呆れたように前さんも、俺の言葉に苦笑を見せた。


「そうだね」

「努力はしてるんだけどな」

「うん。でも、いいんじゃないかな」

「どういうことだ?」


 俺の問いに前さんがこちらを向く。

 前さんの顔を覗き込むようにしていた俺との距離は、箸の一本分すらなく。

 前さんは、俺に笑いかけた。


「――あたしゃ、鈍感な薬師が好きなんだよ。その鈍感さがすごく、落ち着く。だから、いいんじゃない?」



「そうかい」

「ほら、鈍感」

「……そうかい。ま、この性分は治らんのだろうな。いまいち自覚できないし」

「それでいいと思うけど? あたしは」

「じゃ、努力すんのやめるわ」

「それはどうかと思う」

「我侭だな、前さんは」

「薬師が悪い」

「そうかい」










「ふう……、いい湯だった」


 あれから、風呂を沸かし、先に前さんが入った。

 駄洒落ではない。

 ともあれ、風呂から上がった俺は前さんの待つ居間へと向かったのだが。


「し、死んでるっ……」


 という冗談は置いておいて。

 うちのテーブルに上半身を預け、前さんは気持ちよさそうに眠っていた。

 その前さんが、もぞり、と音を立てた。


「うぅん……、薬師の……」


 なんだ、寝言で悪口か?

 わくわくしながらボイスレコーダーを構える俺。


「……レバニラ」

「なん……、だと……」


 レバニラってなんだ。

 悪口なのか?


「……クマムシ」


 あれですか、異常な気圧にも、放射能にも、真空状態にも耐えれる究極のクマムシさんのことですか。

 だが、レバニラにしても、クマムシにしても、ただ一つ言えることがあるとすれば。

 反応に困る。


「はあ……」


 なんとなく、溜息を一つ。

 なんだか、とても微笑ましい気分になった俺は、前さんを抱えてベッドに寝かせる。


「俺もさっさと寝るか」


 呟いて、俺は前さんを見る。


「おやすみ、前さん」


 とても安らかな寝顔だった。






 ちなみに、うっかり同じベッドに寝たせいでしこたま殴られたのは余談である。







 更にちなみに。返ってきた藍音に見つかって、ねちねちいびられたのも、余談だろう。






―――

という訳で前さん編。
次は李知さんが来ると思ふ。


では返信。

通りすがり六世様

そうすると、鬼兵衛の人生と言っていいかわかりませんが、長い魂の歴史もゴールですね。
修羅場的に考えて。
藍音と薬師だと熟年夫婦ですが、
薬師と玲衣子だと老夫婦のようだと思ったのは秘密です。


クロ様

感想ありがとうございます。
私は厨二病も患ってたりしまして、もう末期です。
私も色々ネタばかり溜まって行ったりと、大変ですね。
ええ、一日が二十七時間くらいあればいいと思います。


奇々怪々様

もう呆けてきてるんですよ、きっと。
千歳ですし。しかし、玲衣子さんみたいな人が赤面するのも可愛らしいですよね。
まあ、それは次の玲衣子さん編で。鈍感が薬師を表すというよりもう薬師が鈍感の代名詞な気もしますが。
寝てる間に、頭を撫でたり、あちこち触られたりはしてるんじゃないでしょうか。


あも様

猫耳、と言えばまだ猫又が出てませんね。
ヒロインかどうかは未定ですが、出ることは確定してるのに。
どうでもいいですが、藍音と玲衣子さんがきっと黒幕代表だと思う。
容赦なく、無慈悲においしいところを掻っ攫っていくこと間違いなしかと。


Eddie様

休みなのに学校に行っちゃうような子だったんですね、薬師。
猫耳薬師の写真を撮ったら、きっと売れるっ!!
閻魔様辺りに。
暁御の件についてはそもそも薬師は暁御がどうとかいう以前の問題だった模様です。


SEVEN様

確かに地獄で年齢気にしても仕方ない気もしますが、メンタル面は皆若いし。
薬師は性教育の前に情操教育を施すべきです。
情操教育にペットを飼いましょう→猫を飼おう→猫李知さんがやってくる、と。
しかし、酒呑が一番まともに見えるとは、世も末ですな。


ミャーファ様

きっと薬師は、呪いにも鈍感……。
いえ、何でもありません。
考えてみると、登場人物のほとんどがジジイババア通り越してますからね。既に化石、古代生物の香りが――。
はい、どなたでしょう。は、死神――?


ヤーサー様

いやはや、あのスキンシップを涼しい顔でスルーとは。もうすでにもげてるの領域ではない気もします。下半身が丸ごと消えてるとか。
薬師は変態的に鋭いですね、はい。恋愛方面だけ突き抜けて鈍いのだけども。
鬼兵衛に関しては、主人公張れる、というか既に主人公ですね、名探偵的に。
李知さんは次回満を持して登場します。ネタが二つあって書くだけなのですが、どっちを書こう……。



最後に。

前さん、薬師の鈍感を肯定しちゃらめえええええッ!!

これ以上鈍感になったらどうしてくれるんだ。


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