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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/10 21:30
俺と鬼と賽の河原と。








 ある日。

 石の代わりにトランプを並べて遊んでいたら――。


「おはようございます薬師様」

「何事だ」


 藍音が、猫耳だった。




 いつまで、このネタを引っ張る気なんだ。




其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。






「藍音、藍音」

「なんでしょう」


 そう言ってこちらを見る藍音は普通だ。

 気がふれた訳でもないように見受けられる。

 ちなみにだが、尻尾も生えていた。


「なんで、猫耳なんだ?」


 すると、藍音は別に特別なことはない、とでも言うかの如く俺に返した。


「好きだと思いまして」

「誰が」

「貴方が」

「そうなのか」

「しかも直生じゃないと萌えないというものですから、直に生えてます」

「どうやって」

「とある薬で一日猫耳が生えます」

「どこで買った」

「下詰神聖店以外にないと思いますが」


 下詰神聖店、地獄用に霊変換したものを売る店だ。

 確かに、あそこなら売ってるだろうが……。


「情報源はもしや下詰か」

「答えはイエスです」

「で、どうしろと」

「もふもふしてください」


 そう言って頭を差し出す藍音。

 ふう……、そんなんで俺がもふもふなぞするはずが――。

 もさもさもさもさ。


「どうやら、体は正直だったらしい」

「?」


 猫耳は、もさもさもふもふせねばならぬ。

 俺の手はとうの昔に藍音の頭に伸びていた。


「悔しくなんかないんだからね?」

「なんですか」

「いや、何でもない」

「それで」

「それで?」

「いかがでしょう」

「いい猫耳」


 うほっ、いい猫耳である。

 未だに耳を触り続ける俺に、藍音は目をつむり、少しくすぐったそうにしながらも身を委ねていた。

 俺は、一通り感触を楽しみ、手を離す。


「満足した」

「それは重畳です」

「ところで」

「なんでしょう」

「今日、猫耳生やすような日だったか?」

「今日は何の日だったか――、貴方は覚えていないでしょう」


 そう言って藍音は悲しげに微笑んだ。

 なんとなく――、

 気に食わない。

 だが、猫耳生やさなきゃいけないような日って、なんだ?









 しかし、藍音が猫耳だからと言って、何が変わるという事もない。

 ソファに寝転がる俺を余所に、藍音は部屋の、そう、モップ掛け。


「なあ……。なんで――」


 俺はソファの上から、途切れるような問いを発した。


「お前さんは一人で家事を担ってたんだ?」

「……は」


 ずっと、疑問だったのだ。

 彼女は気が付けば俺の身の回りの世話を担っていた。

 食事に掃除、秘書までだ。

 しかし、よく考えてみると、別に山には俺と藍音しかいない訳ではない。

 藍音がわざわざ全ての家事を担わずとも、他を連れてくることもできた。

 その疑問に、藍音は溜息を吐くように返す。


「……必死だったのでしょう」

「何に」


 その答えは、俺にとって意外なものだった。


「捨てられないよう。奪われないよう、必死だったのです」


 抑揚なくいう姿は、儚くて。

 やはり、気に食わない。


「私と貴方の間に誰も入ってこれないようにしていたのでしょう」


 気づけなかった俺は、やはり鈍感と言われて仕方ないのかもしれないが。


「捨てねーよ。捨てないし、むしろこっちが捨てられないかってな」


 まったくもって駄目な上司な挙句、ここにいたって上司ですらない。


「お前さんといるのはやっぱ落ち着くんだよ。よく考えてみると、四六時中一緒だったしな」


 すると、藍音は珍しくも目を丸くしていた。

 そして。


「それは――、わかってますよ。でも、急にふらっといなくなる」


 痛いところを突かれたな、と思うその瞬間。

 彼女は微笑んで、俺に言った。


「だから、私が追いかけないといけないのです。そうでしょう?」


 そうやって微笑む彼女は、とても綺麗だと、素直にそう思う。


「やっぱ、可愛いな」

「……! ……、いきなり、何を言うのです」

「素直な感想だが?」

「……」

「照れるなよ」

「照れてません」

「その反応が照れてる」

「どうしろというのです」

「さてな?」


 こうして、太陽は沈んで行った。












 夜。

 子供達が寝静まった現在でも、俺と藍音は起きている。

 俺は、窓から……、ベランダに出て、空を見上げていた。

 そんな俺を、部屋から藍音がモップを握ったまま見つめていた。

 その猫耳は、今だ消えず。


「どした?」


 俺が聞くと、すぐに藍音は視線を外す。


「……いえ。では、私は仕事に――」


 そう言って、掃除に戻ろうとする藍音を俺は声を掛けて止めた。


「藍音」

「……はい」

「そんなん置いて、こっち来いよ。昼も、やってたろう?」


 返事はない。

 しかし、一旦おいてモップの柄を置く音が響き渡った。


「何か、ご用ですか」


 そう言って隣に来た藍音に、俺は苦笑する。


「用がなきゃ、呼んじゃいけねーのか?」

「……そう言う訳では」

「だったら、いいだろ? ほら、見てみろよ、月が綺麗だぜ?」


 そう言って俺は顎で上を示した。

 その向こうには、丸く輝く月の姿があった。


「お前さんと初めて会ったときもそうだったな」


 地獄に浮かぶ月は、俺の生前の月よりも、少し、大きい。


「覚えていたのですか?」

「妙に印象的だったんでな」


 俺と藍音が出会ったのは、奇しくも同じ満月の今日だった。

 それから、しばらくというものの、俺と藍音は黙って月見に興じていたが、ぽつりと、藍音が言葉を漏らす。


「……今日は、私の誕生日なのです」

「そうだったのか?」


 初耳である。


「私が言っていないのだから、当然でしょう」

「言ってくれりゃ、祝ってやるものを」


 俺の言葉に、藍音は首を横に振った。


「誕生日、といっても私が勝手に決めただけですので。実際の生まれた日など、わかりません」

「だから、俺と会った日を、ってか?」

「はい」

「そうか、おめでとさん」

「ありがとうございます」


 余りにいつも通りな答えに、俺は苦笑するしかなかった。


「来年は――、祝ってやるよ。盛大に、な」

「程々にお願いします」


 そう言った藍音は少し嬉しそうで。

 俺は満足すると同時、ふと疑問を思い出した。


「そういや、何でお前さんの誕生日だと猫耳なんだ?」

「貴方が喜んでくれるなら、私は幸せです」

「……育て方、間違えたかな……」

「では、責任を取っていただけますか?」


 その問いに、俺は溜息一つ。


「責任でも何でも、取ってやるさ」


 俺の言葉に、彼女はいつも通りに。

 だけどいつもと違って微笑んで。


「そうですか」




 今日の地獄も平和である。




おまけ



 その次の朝、

 俺に――、猫耳が生えていた。


「……なんで俺に猫耳?」

「よく考えてみると、私より貴方の方が猫みたいだと思いまして。昨日の食事に」

「……」

「大丈夫です。私がお世話しますから」

「そうかい。じゃ、藍音さんや、飯はまだかにゃ」

「それでは、行きましょう」





おまけ弐式




 雑多に物が置かれた雑貨店。

 神剣と呼ばれるものから、ガラクタまで揃ったそこに、俺は居た。


「藍音に色々吹きこんだのは、下詰――、お前だな?」


 俺の問いに応えたのは、勘定台の向こうにいる、店主。


「答えは、イエスだ」


 俺は、適当に品物を眺めながら、さらに問う。


「何を言った?」

「別に大したことではないと言っておく。ただ――、お前がうちの商品の猫耳を見つめていたことを伝えただけだ」

「……それだけか?」

「そうだな、後は、直生じゃないとなぁ、と呟いていた、とだけ」

「そうかい」

「ところで――、頼まれていた物が近いうちに完成しそうだ」

「……! 流石の仕事の速さだな……。見事だな、店主」

「当然だ。……そう言えば箱の調子はどうだ?」

「……中々」

「そいつは良かった。じゃあ……、参式は?」

「あれは上出来だが、本質を見落としてる気がする、ってのはお前に言ってもしゃあねーか」

「ふむ、そうか。俺も変換した甲斐があったというものだ」

「これからもよろしく頼むぜ?」

「無論。顧客の要望を超えるモノを渡すのが、俺の仕事であると」

「ああ。じゃ、行くとしよう」


 ちなみに、途中から要するにゲーム機の話題である。


「では、またのご来店を」




――
前回の。
>今、友人の勉強を見ていたりするのですが、一定の成果が出るごとに、友人に萌絵が一枚支給されるという体制が取られていて、猫耳メイドをリクエストされたから藍音さんを提出しておきました。

から発展したネタ。
というか、描いてたらどうしても書きたくなったために、急遽挟まれました。

次回、ついにあの姉妹が動き出す……!?

もしかしたら次々回になるかもしれませんが、そろそろシリアス編も始めなきゃいけないのでこの辺で幕間を。



ちなみに、件の絵がここに。

http://anihuta.hanamizake.com/

もしかしたらここでつらつら近況を載せてくかもしれません。

ちなみに上のHOMEからでも可。


では返信。

シヴァやん様

女性の場合はどうなるのでしょうね、同棲……?
リーマンはどうやら借金の保証人にされてしまった模様です。
まったく、女の子に囲まれて日々ぼんやり過ごす男もいるというのに。
メイドを囲って毎日エンジョイしてるっていうのに……!


通りすがり六世様

店主の渋さのあまり、吐血しそうです。
実際あんな台詞吐かれたら目から汗がナイアガラですよ。
果たして、再登場するのでしょうかあのリーマン。
そして、よく考えてみると六話だかそのくらいから出てるのですね。店主。


奇々怪々様

じゃらは千年、薬師は万年。万年で済めばいいと周りは思っていることでしょう。
希少価値とか、あれだと思うんです、半端なのが一番いけないと思うのです。
何事も突出すれば誇れるものなのです。だから暁御の出番は極限まで削……、嘘ですよ?
おっちゃんの正体というか、過去編もおいおいやれたらな、と思います。


ヤーサー様

いやはや、じゃら男も幸せボーイですからね。嫉妬の視線を浴びて服に穴があけばいいのです。
そして鬼兵衛編もいつの日か始まるかも。
暁御に関しては……。合掌。
色々と考えたのですが、一回ヒロインに関しては今回は尺の問題で見送られました。


SEVEN様

腐敗聖域は毒物です。劇薬と呼ばれる類の。毒をもって毒を制すしかないのかもしれませんが。
里見コンビの方はある種私のミスでもあるのですね、申し訳ないことに。
番外三でその辺の突っ込みを全く入れてないという……。申し訳ないです。
そして、大丈夫、勉強は学校でするものです。現状問題のある教科はないので。と強がってみます。


ミャーファ様

余りに残酷な事実。
でも口に出さずにはいられなかった。
酷い話です。そして、猫耳メイド晒しました。
絵は全くもって副業で上手い訳でもないのですが。


悠真様

私はラーメンが食べたくなりました。
朴念仁に効く薬……。朴念仁は病気です、医師に相談しましょう、とか思いつきました。
きっとよっぽど凝縮した濃度じゃないと効かないのでしょうね。
あの不治の病は。


見てた人様

お帰りなさい。
ルパンダイブ……、よく考えてみると凄まじい技ですよね。
渋強いハードボイルドの香りがおっちゃんから漂ってます。
若いころはやっぱり凄かったのでしょうか。


キヨイ様

私も読みたいです。過去編。
……石は投げないでください。その内、書きたいなと思っております。
色々と今回横道に逸れまくったのでそろそろ先代編もやらないといけないのですが。
とか言っていきなり挟まれる可能性もあるのですけどね。


あも様

野菜ラーメンは屋台七不思議の一つです。
店主の渋さも七不思議のひとつです。
それにしても彼女が鋼のだとすると、この小説の場合。
鎧の妹が出てくるのですねわかります。


Eddie様

地獄だって気合いを入れれば貧窮することだってあるはず……?
よっぽど不運だったんでしょうね。
まあ、その内ラーメン屋に顔を出すでしょう。
……おっちゃんの呟きが暁御に聞こえなかったことだけが救いです。


春都様

おっちゃんと里見さんのコンビも好きです。
コンビだとホームドラマ、一人だとハードボイルドの模様。
そして、おっちゃんは何で薬師の事情に詳しいのか……。
閻魔も、来店してるのだろうか。


f_s様

私は伸びたラーメンも嫌いじゃない希少な派閥です。
しかしラーメンが食べたいです。
これはもう地獄に向かうしか……。
本日でテスト全終了です。頑張りました。








最後に。

暁御に励ましのお便りを送ろう!! 地獄三丁目○番○号 出番のない人に救いを係まで。




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