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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/01 21:22
俺と鬼と賽の河原と。









 ここは河原。



「一つ積んでは叔父のため」




 そこで、人は石を積む。




「二つ積んでは叔父の嫁のため」




 それが供養と言われつつ。




「三つ積んでは叔父の嫁の妹の夫の同僚の友人の甥の母親の茶飲み友達の息子の友人の父親の――」




 それが、賽の河原。




「もう完全に他人だからっ!!」

「いや、それが茶飲み友達の息子の友人が俺の弟でその父親とは俺の父、ということに」

「知るか!!」






其の六 俺とあの子と一昨日の人と。





 ある晴れた日のこと。

「で、本当に昨日は何もなかった?」

「ああ、はいはい。なにもやってない」

 いつも通り俺は石を積んでいた。

「本当に?」

 いつもと違うのは――、前さん微妙に不機嫌。

 昨日から引き続いてなんとなく気が重い。

「いや、本当に。手を出すどころか手を繋ぎすらしなかった、という、男としては微妙な事実を公開しようか」

「……」

 あ、若干惹かれ気味?

 そんな驚いたっ、という顔をされても正直困る。

「だから言ったろうに、手ぇ出す気はないって。そもそもの問題、昨日が初対面だからな」

 と、そこで、前さんが両手を叩いた。

「そう、それだ! その、せ、性欲がないって、ほんと?」

 そう来たか。

「いや、ぶっちゃけると本気」

「なんで?」

「昔、ちょっと色々あったんだよ」

「どんな?」

 む、意外と食い下がる。

「いや、隠すことでもないんだろうけどな。愉快な話題でもねぇわけで。その内気分が乗ったらってことで」

 正直言って、これを言ったら俺の隠しごとが芋づる式に出放題だしな。

「むぅ……、まあいいや。おいそれと軽い気持ちで手を出してないならそれでいいかな」

 それを聞いて、俺は止まっていた手を再び動かす。

 すると、何の気無しに辺りを見渡していた様子の前さんが思い出したように声を上げた。

「そう言えば、暁御ちゃんってどうやって知り合ったの?」

 普通に説明するのはめんどくさいな。

 ここは高濃度の情報を圧縮した特殊言語を使うか。

「かくかくしかじかで」

「かくかくしかじかじゃわからない」

 ……。

 無理か。

「簡単に言うと、殴ったら知り合った」

「簡単すぎ。正直それだけ聞くと最悪な人に聞こえるけど?」

「じゃあ、事細かに説明すると――、それは、前さんを見送って、俺がぼんやりと辺りを眺めている時だった。きゃっ! 俺は、乱暴に石が崩される音と悲鳴に振り向いた。いい気味じゃねぇか……、そこには、地に座りうなだれる何かの制服を着た中学生か高校生くらいの少女と、そして――、昨日の人!? あっ、てめぇは!! 詳しく言うなら、てめぇ、覚――、って言って金棒食らった人! そ、そういうテメェは昨日の――」

「もっと簡単に」

「注文が多いな」

「あんたが悪い」

「まあいいや。とりあえず、もめてるとこを助けたら、飯食おうぜ、って言われて、断る理由もねぇさな、という訳だ」

「そうだったんだ……」

「そういうこった」

 前さんはやっと納得してくれたらしい。

 俺がほっと一息つくと、そこで一言。

「今日は薬師そろそろ上がりだよね」

 今日は、確か午後から現場の石の整理があったはず。

 一定期間ごとにやらないと、石が固まってなんか砂の部分が見えてきたり、景観に悪いとか。

 既にぞろぞろと石を積んでる時点で景観に悪い気もするが、地面を慣らしておかないと、でこぼこで危険にもなる、とのこと。

 で、その影響で俺は昼で終了。

「その予定だが?」

 言うと、前さんは一つ肯いた。

「よし、じゃあ、あたしと昼飯食べに行こう」

「はい?」

「あたしが奢ってあげるからさ!」

 と、まあ、ここまで言われれば断る理由もない以上肯くしかない意志の弱い俺。

「いや、それは構わないが……?」

「それじゃ、決まりってことで、寮に帰って準備しといで?」

「りょーかい」

 担当からの許しが出たので、俺は寮へと向かうことにした。











「あ、とは…、まあいいか、行くか」

 俺は基本的に寮と河原の往復なので置いていってる財布をスーツのポケットにねじこむと、扉を開いた。

 ちなみに、スーツは今着替えた。

 流石に砂だらけの作務衣で女性との待ち合わせに行く気は起らない。

 ので、とりあえず手近にあった一式適当に着替えてみたわけだ。

「おっと、上着を忘れてくとこだった……、っと、お?」

 俺は、ちゃぶ台の上の上着をを抱え、外に出ようとした瞬間、気づいた。

 何か、かわいらしいピンクの便箋が廊下に落ちている。

「俺の部屋の扉に挟まってた、のか?」

 それに気づかなかった俺も俺だが。

 とりあえず、拾って見た。

「差出人は――」

 書いてない。

「宛名は――、如意ヶ嶽薬師、やっぱ俺か」

 それを確認して、ハートのシールの封を切る。

 中には――、

 一枚の手紙と、数個の爪の丁度白い所。

「はぁ?」

 なぜに爪切った残骸のようなものが……?

「読みゃわかるか」

 と、ここで手紙の中身を特別に公開しようか。

『拝啓

  春色の和やかな季節、如意ヶ嶽薬師においては、ますますご清栄のことお喜び申し上げます。

  まず最初に、このような形で手紙を出すのは初めてなので、何か粗相があるかもしれないことをご了承ください。

  さて、先日は、よくも殴ってくれやがりましたね、それに、暁御という女もだ、です。

  なので俺は、この恨みを晴らすため、呼び出して、ぼこぼこにしてやることといたしました。

  夜、七時に、河原にきやがってください。

  尚、要暁御はあずかってやがりますので、来なかった場合、または人を呼んだ場合はどうなるかわかってるんだろうなぁ、でございます。

  という訳でもう一度、夜、七時に河原に一人できやがってください。

  守られなかった場合は要暁御はどうなるかわからねぇでございます。

  飯塚猛

 かしこ』

 怖気がした。

 突っ込みたいことは色々あった。

 かしこは女性しか使っちゃいけないとか。

 かしこの場所間違ってるとか。

 かしこじゃなくて敬具じゃねぇの、とか。

 敬語無理ならやめとけよ、とか。

 飯塚猛っていうんだ、とか。

 便箋可愛くね? とか。

 そもそも果たし状というかそういうものに丁寧さと形式を求めるなよ、とか。

 だが、何よりも突っ込みたいのは。

「爪送られても誰のかわからねえええええええええええぇぇっ!!」

 いや、だってさ、指とかそういうの遅れとは言わないし爪程度でよかったとも思うがね?

 せめて指輪とかアクセサリーの類とか。

 DNAでも鑑定しろってか。

 あ、でも肉体死んでるのにDNA鑑定利くのか?

 ともかく。

「飯でも食いながら対策考えるか――」

 そうして、俺は寮を後にした。




「じゃあ、俺は日替わり和定食で」

 和定食とは、味噌汁、焼き魚、白飯、漬け物を基本とし、日替わりでもう一品でてくるメニュー。

「すいませーん。えと、おむらいすと、日替わり和定食おねがいしまーす」

 前さんの言葉を聞いて、給仕が愛想よく返事した。

 ここは、行きつけの食事処。

 仕切られてはいないが、畳の上に座る、居酒屋のような感じの店だ。

 と、それはともかくとして。

 どう、動くかな。

 あの気持ち悪い手紙には一人でこいとあった。

 そして人質がいるとも。

 だが、多分、仲間とか色々つれてきてるんだろうなぁ……。

 無意識に溜息が洩れる。

 面倒なことになった。

 そんなことを考えていたら、不意に、前さんに話しかけられた。

「ねえ、薬師。あたしと一緒にいるの、つまんない?」

 その言葉に、はっと顔を上げるとそこには不安そうに俺を覗きこむ前さんの姿が。

 それを見て、俺は一つ息を吐くと、不器用ながらも笑って見せた。

「誰がつまらん相手と飲みに行くか」

 だが、信用できないのか前さんは眉間にしわを寄せてこちらを見てくる。

「でも、今すごくめんどくせぇって顔してる」

 顔に出てたのか?

 だが、まあ。

「しゃあねぇ。今くらい肩の力を抜くかぁ……」

 これが終われば、苦労することになるからな。

 今癒やされておかないと後はもう明日まで休まらないか。

「……何か、あったの?」

 不安そうに覗きこむ前さんに今度こそ笑ってみせる。

「ま、ちょっとな」

「あたしには言えないこと?」

「どう、だろうな。まあ、後で相談するやもしれんが」

「そう、じゃあ、あたしに協力できることがあるなら何でも言って」

 前さんが真面目な顔で言ってくる。

 それに俺は肯いて見せた。

「いまさら、一人で気張る気はさらさらねえさな。だから、安心しろ、助けが欲しい時は呼ぶし、これから考えることに必要なら間違いなく相談するさ」

 すると、前さんも肯く。

「うん」













 そして日も暮れて。









 前さんとの昼食から数時間後。

 俺は、賽の河原に立っていた。

「よく来たなぁ?」

「そうだな、一昨日の人」

「猛だよ!」

「そうだな、一昨日の人」

 前方十メートルほどに、じゃらじゃら男は居た。

「相変わらず、じゃらじゃらしゅうございますね」

「じゃらじゃらしゅうってなんだ」

「そうだな、一昨日の人」

 言いながら、俺は辺りを確認する。

 じゃらじゃらしゅうあられる男の横に暁御。

 彼女は、じゃら男の隣にいる男に支えられている。

 どうやら、寝ているらしい。

「なあ、彼女は危険なクロロホルム的なもので眠らせたのか?」

「いや、疲れたらしいから寝かしてやってる」

「優しいな」

 その周りにどっと仲間たち。

「てか、お前約束の五分前だぞ? 五分前行動、するのか?」

「遅れたら大変だろっ!? 帰っちまうかもしんねーし!」

 ああ、馬鹿だ。

 と、そこで気がついた。

 俺の視力が、暁御の手を、その爪を捉えた。

 確か、封筒に入っていた爪の数は六。

 どう考えても爪が不揃いなはず。

 だが……、どう考えても爪を切った後には見えない。

 短くはあるが、ちゃんと綺麗な爪がそこにあった。

 どういうことだ?

 思って、視線を横にずらす。

 そのじゃら男の手の爪は――、まるで今朝切ったような雰囲気で、不ぞろいだった。

「送って来たのお前の爪かよ!!」

「うるせぇ! こいつちゃんと爪切ってて切れなかったんだよ!」

「それDNA鑑定したら別人と断定されてなかったことにされるじゃねぇか!!」

「深爪したら痛いじゃねぇか!」

「一体お前は何なんだ!!」

 ワルじゃないのか。

 気まずい沈黙が辺りを包みこむ。

 そして、たっぷり十秒間を置いて、

「まあ、いい。とりあえず、一人で来たことは褒めてやるよ」

 その言葉に、俺は顔の近くで手を振って否定を示した。

 にこやかに。

「いや、褒められるようなことはしてないさ」

「あ?」

 思い切り男の近くにいる仲間がメンチをきる。

 それを、俺は流しながら、言う。

「それがな? 一人じゃないんだわ」

 ざっ、と砂のすれる音がした。

 そして、俺の背の影から現れる前さん。

「げぇっ、幼女っ!?」

 関羽じゃないのかそこは。

「幼女……? あたし今すごく機嫌悪いんだよね」

 ああ、幼女に前さんが反応した

 ともかく。

「お前ぇ、一人で来いっつったよなぁ?」

 今更悪役っぽくしてもどうしようもないが。

「ああ、一人じゃまあ、どうしようもないと思ったからな」

「だから、そこの幼女連れてきたってかぁ? 人質がどうなってもいいのかよ。今までは大切な人質だったけどなぁ、こうなった以上どうでもいいのよ」

 そう言って、その他の人々が下卑た笑みを見せる。

 俺は首を横に振って応えた。

「それもわかってる。だから交換条件をな?」

「んだよ」

 それに、俺は胸を張って宣言した。

「俺が払えるのは、お前らの無罪」

「はぁ?」

 馬鹿にしたような顔を覗かせるじゃら男。

「暁御を離して俺等を返してくれるなら、このことは問題にしない。そういうこった」

 だが、それをじゃら男は真っ赤になって否定した。

「てめぇ! 舐めんのもいい加減にしろよ!? ここには三十人いるんだぜ!! 二人で何ができるって!? お前らは大人しくぶっ殺されとけ!」

 その言葉に、俺は肯く。

「そうだな。二人じゃ何もできないな。だが――」

 俺は、右手をやる気なく、頭の横くらいまで上げて、宣言した。

「すまんね、これが、二人じゃないんだわ」

 ざっ、と砂のすれる音がした。

 そして――、闇の中から現れるは――。

「二人じゃ無理なので――、できるだけ大事にしてみた」

 じゃら男の顔が、一気に青ざめる。

「総勢百八十人の鬼がいるんだぜ? 三十人で何ができるって? お前らは大人しく捕まっとけ」

 俺は――、高らかに宣言して見せた。

 その瞬間、鬼の一人が動きを見せる。

 青い体表に剛健な巨躯。

 そして、虎のパンツに角に金棒。

 まさに鬼。

 本人は、暁御の担当だと言っていた。

 その鬼が、唖然としていた男の隙をついて、一瞬にして暁御を回収して見せた。

 彼は、俺に眼で合図した。

 もう大丈夫だ、好きにしろ。

 わかってる。

「さて、やるか。ここまで集めたんだ、派手にやらなきゃ損だろう」

 存分に、好きにさせてもらおうかっ!!

「行くぜ猛、……馬鹿騒ぎだッ!!」

 俺は駆ける。

 猛のところまであと三歩。

 二、

 一。

 猛が、反射的に拳を放つ。

 だが。

「あめぇっ!!」

 苦し紛れの一発など避けれないはずがない。

 体勢を低く。

 そして――、

 足払い。

 更に、ここでっ!!




 バランスを崩して前に倒れかかった猛の頬に、俺の拳が突き刺さる。





「メタルスライムッ!!」





 そして、じゃらりと金属のぶつかる音だけが響き渡った。




「あーあ、終わった終わった」

 あの後、じゃら男が倒れた時点で勝敗は決していた。

 そりゃあまあ、勝てないとわかった上に、号令係が倒れてしまえば、気力尽き果てたも同然。

 彼は、そのままこってり絞られることとなるだろう。

 さらに、彼らは鬼全体からにらまれることになったため、しばらくは何もしないはず。

 一番危険な報復だが、河原では常に他の鬼達が気を配るようになるし、ここまで広まれば関係者を襲った時点で真っ先に疑われるのは彼らとなる。

 それがわからないわけでもあるまい。

 要するに、これからの陰湿ないじめも回避するために、できるだけ大事にして見たわけだ。

 そして、俺は事情聴取のようなものを終わらせ、やっと帰って寝る運びとなった。

 ざりざりと、音を立てて、地を踏みしめながら夜闇を歩いて行く。

「帰るの?」

 河原を歩いていると、突然、後ろから声を掛けられた。

 前さんだ。

「ああ」

 声に足を止めたが、それからしばらく前さんは何も言わなかった。

 そして、いい加減歩き出そうか、と思った時――、

「ねぇ」

 前さんの声。ただ、機嫌が好さそうではない。

「ん?」

 昨日感じた、わだかまりのような何かがまた蘇ってきた。

 そんな中、彼女は言う。

「あたしが同じ目にあっても、こうやって助けに来る?」

 そう言えば、前さんは、助けに行く、と言ってから治りかけていた機嫌が急下降だった気がする。

 それとこれがどう関係してるか深くはわからんが、答えは一つ。

「愚問だ。解りきったこと聞いてどうするのやら」

「助けに、来てくれるの?」

 その言葉に、俺は応える。

 自分に聞かせるように。高らかに宣言するように。

「当然。俺の担当は前さんしかありえない、ってな」

 言ったん止めて、にやりと笑って、続ける。

「前さんがいなくなったら、俺の作業効率は半分以下だぞ?」

 なんとなく、背の向こうで、前さんが笑った気がした。

「そりゃ大変だ」

 ああ。

「そうだ。大変だ」

 そう言って俺は軽く手を上げると寮へと歩き出した。

「帰って寝る。今日はしんどい」

 胸につかえていたわだかまりは、とうに消え去っていた。






 すったもんだもありまして、休まる日とてありゃしねぇ。

 現世を離れて地獄に来ても、悩みなんぞ消えやしない。

 それでも俺は石を積む。

 ここは地獄の三丁目。

 俺は今日も楽しく石を積んでいます。











―――


其の六、やっとラブコメっぽい不良との戦闘が拝めました。
問題点は、薬師、あくどい。
まさに、盛大な他力本願。
次は、再び川原でほんのり日常。
ほどほどに新キャラを加えてまったり進行。
次は暁御が出てきます。



さて、お約束の返信タイム。



ザクロ様


多分、素直じゃないけど、ツンデレほどじゃない程度に落ち着くかもしれません。
ただ、薬師次第かと。
ちなみに、性欲ない薬師君ですが、あんまり気にしてない模様。
慣れれば正直問題ないらしい。




ニッコウ様


精神年齢は、己が姿に左右される。
よって、その姿と精神年齢が大きくかけ離れることはないのである!!
要は、前さんだって外見の年相応なことするのさっ!
あと、絵の方ですがゆっくりで問題ないかと。
拙作の絵を書いてくださるだけで膝が折れそうなのにこれ以上は望むべくもないでごぜぇます。
ちなみに、目に関しては私の中ではツリ目が想像されておりますが。




妄想万歳様


毎度どうもです。
薬師は、格好悪好いという矛盾したような人、と考えていたり。
カウボーイビバップのスパイクとか、銀魂の銀さんとか。
そして愛くるしいのが前さん。
かわいらしいのが暁御。
最後に奇声担当のじゃらじゃら、というラインナップ。
とても偏っています、本当にありがとうございました。
次はきれいな人を出そう。


ちなみに、じゃらじゃらは前さんが微妙にトラウマになった模様。
いま彼が好きな人は――!?

次回に続く。



さて、最後に。

合言葉は、


鬼っ娘は人類が生み出した叡智の結晶。

そして、

薬師! 代わってくれ!!




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