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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/17 00:02
俺と鬼と賽の河原と。







 石を積みながらふと思う。

 あー、盆だなぁ……。




 だがしかし、実は俺が迎えられる側だったことに気付いたのは――





 ナスに箸を刺した後だった。




「去年も、やったような……」







其の五十 俺と盆と賽の河原と。








 仕事を終え、帰ってきた俺が見たのは――


「ブルータス、お前もか」


 胡瓜に箸を刺す藍音の姿だった。


「……なんでしょう?」


 何を言ってるんだこいつ、と言ったような雰囲気で藍音が聞く。

 俺は素直に、無駄な努力だと教えてやることにした。


「俺達。死んでる」

「あ、……そうでした。今更貴方に帰られては困るので、おいしく頂くことにします」


 うん、その方が胡瓜にとっても幸せだろうよ。










 そのようにして俺の盆は始まった訳だが。




「お父様。おかえりなさい」

「おお、ただいま」


 とりあえず藍音のいた玄関を通り抜け、居間に。

 そこにいたのは由美だった。

 そして、その由美は、俺の想像に反して、謎の心意気を見せていた。


「私、今日頑張りますから!!」

「は……、はあ」


 思わず、返事が鈍くなってしまう。

 はたして何を頑張るというのか。

 だがしかし、頑張るって、何を? なんて聞いてしまえばせっかくやる気になっている由美の勢いをそぐことになりかねん。

 何か重大決心をして前進しようとしたところに水を差すなど親としてやってはいけないことだ、と俺は適当に話を合わせることにした。


「まあ、頑張ってくれ。期待してる」


 と、まあ。

 俺は、こう言ってしまったのだ。

 最初は、小さな疑念。

 あの時は、まさかこんなことになろうとは思わなかったのだ。







 さて、頑張る由美の猛攻がどこから始まったのか、と言うと。

 それは按摩からである。


「どう、でしょう……?」


 由美が精いっぱいに俺の背を指で押す姿はどうにも愛嬌があるのだが、正直に言うと物足りない。

 と言うか痒い。

 天狗になった時点で基本耐久力が上がったのに加え、少女の握力では限界がある。

 よっていっそ痒い。

 しかし、正直に言えるわけがない。

 実際、してくれる心意気は嬉しいのだ。

 だが、痒い。

 嬉しい、嬉しいが痒いのだ。

 はたして俺はいつまで耐えられるのだろうか。

 うっかりかゆ、うま、と言い残して死んでしまわぬだろうか。


「じゃあ、次は腰の方……」


 無理か。



 ……お粥……、美味いです……。











 第一陣按摩地獄を通り抜けた次の試練は、……。

 どうやら、

 どうやら由美が夕飯を作ってくれるらしい。

 ただし――


「由美よ。何故服を着ていない」


 裸に前掛けで。

 状況の不透明さに眩暈がする。


「え? あ……、でも、これが作法だって」


 作法、何の作法なんだい君。

 台所は神聖な場所だから、前掛け以外を着て入ってはいけないなんて風習、あったか?

 いや、ない。

 思わず反語表現、と言うのを使ってしまうくらいない。

 とりあえず俺は、何も見なかったことにして居間で一人、夕飯を待つことにした。


「裸エプロン……、先を越されてしまいましたね」

「うおっと、藍音か」


 一人居間の椅子に座ってぼんやりする俺の背後、ぬっ、と言った感じの動きで出てきたのは藍音であった。

 そしてその藍音は自分の服の首元に手を掛け――


「……ですが、今からでも遅くはないはずです」


 徐に服を脱ぎ始め――


「って、脱がんでいい」

「……っ、着エロの方が好きと……」

「エロなしが好み」

「……純愛ですか。プラトニックラブ……、貴方が望むなら」


 どうしたんだこいつは。

 余りの由美のおかしさに、さらなる疑念を覚えたのがこの時。










 次の問題は、食事中である。

 俺の右手は空。

 そう、目前に豪華な食事があるにもかかわらず俺の右手には箸が装備されていないのだ。

 これは……、インド式……だと?

 嘘をつかない人たちのようにこの熱々できたてねっちょねちょの麻婆豆腐を食えというか。

 よし、やってやる、やってやるさ。

 やってやるぜ!!

 ――無理だろ。

 二秒で冷静になりました。

 インドの人たちでも普通にレンゲやスプーンを使うだろ。

 麻婆豆腐を手で食う国がこの世のどこにあるだろうか。

 いや、ない。

 多分。

 と、言う事はこれは謎かけか?

 ここはかの有名な慌てない一休さんのようなとんちを効かせて一本取ったら素直に食わしてくれるのか。

 箸……、箸……。

 いや、レンゲか……、それとも食事の内容に何か秘密が……。

 麻婆……、神父。

 と、このように頭を悩ませていると、不意に俺の耳に声が届いた。


「お父様。お父様?」

「え、あ。おう」

「は、はい、あーん」


 おお、なんということだろう。

 あろうことか由美がこちらにれんげを突き出してきているではないか。

 しかもあーん、あーんとは!

 と、妙に激しく反応してみたが、どういうことだ……。

 まったく読めない。

 突きだされた麻婆に食いつきながらも考える。

 今までされたこと……。

 按摩……、料理、そして料理を食べさせる……。

 これらに共通するのは……、いや、まだわからない。

 もう少し様子を見ることとしよう。


「どうですか?」

「ん、美味いぞ?」


 ああ、由壱、お前はどこに行ってしまったんだ。

 兄さんには、明日が見えないよ。

 と、俺は由美の手によって疑念を抱えたまま食事を済ませたのであった。













 そして、全ての疑念が確信に変わったのは、風呂での出来事だった。

 俺がいつも通りに風呂につかっていると、そこに現れたのは、やはり由美である。


「その……、あの……、お背中流します!!」


 まさかの乱入に面食らったが、このくらいの年なら父親と一緒に風呂に入ることもあるのかもしれない。

 そう思って、俺は大人しく背中を流されることにした。


「わ……、すごい」

「なにが?」


 思わず聞き返す。


「背中、おっきくて……」

「まあ、野郎の背中だしな」

「それに……」


 つつ、と由美の細い指が俺の背を滑る。


「古い傷がたくさん……」

「あー……、まあな。気持ち悪けりゃ気にしなくていいぞ?」


 言うと、由美は勢いよく首を横に振った。


「いえ! あの……、素敵です」

「へ……?」

「だって、この一つ一つにお父様の歴史があるんですよね?」


 由美の指が、俺の背を滑って行く。

 色々な意味でこそばゆい。

 そして、不意に由美の腕が前に回されて。

 気が付けば俺はぎゅっと抱きしめられていた。


「どうした」


 背中越しの俺の声に、ぽつり、と由美は返した。


「いやな……、夢をみました」


 それから、由美はぽつりぽつりと夢の内容を明らかにする。

 要するに、俺がいなくなる話だという。

 朝起きたら、俺がどこにもいない。

 そして、由壱も藍音も出て行ってしまう。

 その中で由美は一人暮らし続ける。


「安心しろっての、俺はどこにも――。いや、やっぱどこか行くかもな」


 行かない、そう言おうとして止めた。

 そんな安い言葉で人の不安を拭えるほど俺は口に自信がない。

 俺の言葉に、由美の腕に籠る力が、増す。


「まだ、色々とやりたいこともあるからな。その時は黙って応援してくれるんだろ?」


 俺はいつも通りの軽い口調で言った。

 さて、どう返ってくるか。

 その言葉にどう返そうか、と悩んでいた俺だったが。

 返ってきた言葉は、俺が思ってたよりもずっと早く。

 俺の望んだ答えであった。


「いか、ないでください……」


 俺の背に感じる雫は、きっと風呂場のお湯ではない。

 由美が我がままを言っている。

 それが、素直に嬉しかった。

 どうやら、思っていたより俺と由美は問題が、なかったらしい。


「いか……、ないで……!! お願いだから……! 一緒に、いてっ……」


 自然に、苦笑に似た笑みが零れた。

 そして、今度はいつもよりも棒読みに。

 安心させるように呟いた。


「そうかぁ。由美がそう言うなら仕方がない」

「え?」

「由美が我侭言うから俺はここを動くのを諦めるよ」


 家族になってからも、由美は我侭を言おうとはしない。

 見捨てられないよう、ひたすら相手に合わせる。

 そのようにして生きているのだ。

 だがしかし、それはどこまでいっても相手任せの生き方である。


「由美がどっか行けって言うまではどこにもいかない。ってことだな」


 それではいけない。

 自分から繋ぎとめる努力がなくては、人は離れる生き物なのだ。

 しかし、それにしても。

 出会った頃の由美だったなら、きっとここで応援する、と言ったことだろう。

 いやはや、成長したものだ。


「ひっく……、あ…、ああぁ……」


 結局、安心して泣き出した由美が落ち着くまで、のぼせるような時間が掛かってしまったが。







「どうですか?」

「んー、丁度いいけど」


 手拭が、俺の背を擦って行く。

 しかし、腹が痛い。

 実を言うと、由美に全力でさば折りにされていたわけである。

 本人は抱きついているつもりでも、鬼の腕力では全力で折りに来ているとしか。

 やせ我慢で耐え抜いてみたものの、やはり痛いものである。

 普段の腕力は少女並、というか本人に自覚がないのが問題だ。

 そこは自覚の違いというかなんというか。

 まあ、そのあたりは少しずつ制御できるようになってもらいたいが。


「そう言えば、今日のあれは、夢見が悪かったからなのか?」


 あの妙な波状攻撃は何故始まったのか。

 問うと、由美は違う、と言う。

 どういうことだろうか。

 夢が原因じゃないとしたらなんだ?

 俺は今日の出来事を思い浮かべた。

 按摩される……、料理を作ってもらう。

 料理を食べさせられる……、風呂場で背中を流される……。

 これに共通すること。

 そこで一つ閃いた。

 世話、だ。

 世話をされている。

 この言葉が呼び水となり、すべてはっきりした。

 俺は、たった一つの答えをはじき出したのだ。

 介護。







 ――俺、介護されてる……!?







 まだ若いと思っていたのに……、介護。

 年寄り扱い、だと……?

 由美が意味もなくそんなことをするとは思えん。

 と言う事は、自分では気付かなかったが俺も年だった、と言うことか……?

 天狗だから、などと調子に乗っていたが、大丈夫だと思っていたのは自分だけで、周りから見れば危なっかしい元気な老人だったと。

 いや、待て。

 待つんだ。

 大丈夫、まだ大丈夫だ。

 そう、それはあれだ。

 別にまだ年なんじゃなくて、これから俺が介護されなければならなくなったときの為の予行演習なんだ。

 そうだそうに違いない。

 俺はまだ年じゃない。

 実年齢千……歳だけど。

 そうだ。

 年じゃないので由美には俺は要介護者にはならない、と教えてやらなければなるまい。


「いやーあれだぞー? 俺もう霊だし天狗だし。介護はこの先必要ないぞー?」

「違いますっ!!」


 すごい剣幕で怒られてしまった。











「まったく……、お父様ったら何を勘違いしてるんでしょうか……」

「いや、だってなぁ?」

「だっても明後日もありません! お父様は本当に女性の気持ちに鈍いんですから……」


 返す言葉もない。

 と、由美とそんな問答を繰り広げる俺は。

 いや、俺の頭は、由美の膝の上に乗っていたりする。

 耳に棒を突っ込まれながら。

 いや、別に拷問をされているわけではない。

 所謂一つの耳掃除、である。


「で、結局。なんでなんだ?」

「あ、動かないでください。うーんと、藍音さんにお盆について聞いたら、死んだ大切な人を敬う日だって」


 なるほど間違ってはいない。

 子供でも分かる簡単な説明だ。

 だが、場所が悪かった。

 それだと、地獄では大切な人に親切なことをする日、になってしまう。

 のだが。


「じゃあ、俺もお前さんにお返しをしなきゃいけないんだな」

「へっ?」


 それもそれでいいやもしれん。






 今日と言う日も平和である。







―――
鬼っ娘三連発。
一人猫が混ざってますが。
定期的に鬼っ娘補給しないとだめですね。
寝つきが悪いです。


……思ってみれば、五十話ですね。
随分と長くなりました。
ここいらで、人気投票みたいな特別企画とかやってみたいけど特に案がないし、もう、感想三百八十番の方にリクエストみたいな真似しかできない気も。
ただ、荒れたりする原因にもなるので迂闊な真似はできませんし。
と言うわけで特にやることありません。
あ、でも感想の最後に好きなキャラを書いてくれると参考にするかもしれません。
ただし、結局私の采配一つなので、確実に反映するかは五分ですので、話し半分、感想書いたついでに、とでもお願いします。



では返信。


ヤーサー様

いやはや、今回は会心の李知さんでした。
そりゃ私だって飼いたいですよ。ふさふさの耳をもさもさしたいです。
んー、確かに閻魔メイドとかありましたし美沙希ちゃんがその役回りになりそうなものですが。
やはりクールビューティにどうしても桃色ワンピースを着せたくて……。


奇々怪々様

どうにも、李知さんはこれから先も残念な目にあうようです。
ふふふ、イフルートですか……、残念ながらそれは……、っ!?
くそ、鎮まれ俺の右手ッ……、猫耳を書こうとするんじゃない!
と言う訳で暴走する可能性は高いかと。


SY様

今回の件には黒幕が……。
なんとGJな黒幕なのでしょう。
そしてあの天狗のことだから、ボイスレコーダーとカメラを実は容赦なく発動していたに違いない……。
いや、薬師がレコーダー、玲衣子がカメラか……。
李知さん未曾有の危機である。


春都様

燃え尽きました。
真っ白に。
しかし、私にはまだ燃やすものが残っている。
私の萌の炎を消すことは誰にも出来ないっぽいです。


黒茶色様

大分ずり下がったパンツ、それに気付かない李知さん……。
きっちりしてるくせにここぞで詰めが甘いのが李知さんクオリティ。
ガチムチスライムが生まれてしまったらもう、厨二に加えて破壊力が上がり過ぎかと。
モニタの前に死者が転がる。これがサイバーテロである。


SEVEN様

無意識で相手の弱点を無慈悲に貫く薬師の鷹の目が私にも欲しい。
無自覚だから更に手に負えない。
最低で鬼の鬼畜である。
よし、では私は山にこもって天狗になることにします。


通りすがり六世様

値段では測れない価値がある――。
中学二年生の思い出。
猫に対する悪戯と言えばあれでしょう。
またたび。きっと泥酔状態かえろえろな李知さんが……。


ねこ様

そう、猫なのです。
なんてったって猫なのです。
毛糸とかを見ると手を出してしまうのです。
そして絡まってしまう事でしょう。


Eddie様

猫に接近したらもふもふするのは義務である。
故に李知さんはもふもふされねばならず、薬師はもふもふしなければならない。
そして猫李知さん育成ゲームとか考え付いた私は負け組でしょう。
いや、ある種勝ったのかもしれない。





最後に。

薬師の鬼畜大魔王っぷりにはあきれを通り越して尊敬の念さえ覚える。


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