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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/13 20:32
俺と鬼と賽の河原と。









 事の起こりは、河原での前さんの一言であった。


「ねえ、ちょっと李知の様子見に行ってくれないかな?」


 このことに関して事情を問うてみれば、李知さんが無断欠勤したのだという。

 はて。

 俺は無断欠勤という所に引っ掛かりを覚えた。


「無断欠勤ぐらい、たまにはあるだろ。確かに月一とかでやられたらどうかと思うが、年に一回くらい」


 病欠なら見舞いに行く必要があるが、人には感傷的になる時期とか色々ある訳である。

 そこにずけずけと入り込むほどの無神経は持ち合わせていない。

 のだが、そうではないらしい。


「実は、李知はここ十年、皆勤賞なんだよ?」


 前さんが言うには、どんな事情があっても仕事には出てきていたのだそうだ。

 なるほど、確かに李知さんのことだ、私情より仕事、確実にそうであることは間違いない。

 で、そこから何が導き出されるのか、と言われれば、こうだ。


「何らかの一大事が起きているかも、ってか?」


 俺の言葉に前さんが肯いた。

 なるほど、と俺も頷き返す。

 要するに、李知さんが無断欠勤をせざるを得ない状況に追い込まれたこととなる。

 果たして、どんな事情になっているのかは俺には想像がつかないが、無断欠勤という事は病欠ではない。

 病欠なら大手を振って連絡すればいい。

 と、なると公にできないような病気であったか、それとも何らかの事件に巻き込まれたのか。


「委細承知。今日は昼までだからな、終わったら行ってくる」

「うん。あたしじゃ実家の方はわかんないから。お願いね」


 俺は、その言葉に、李知さんが寮にいないことに気付く。

 なるほどここまで不審であれば前さんが不安になるのも納得できるというもの。

 と、言う訳で。

 俺はこのようにして李知さんの実家へ向かう事になった。









其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?











「よ、李知さんはいるかい?」


 李知さんの実家に、俺は来ていた。


「ええ」


 俺の問いに、玲衣子はいつも通りの笑みを湛えて答える。

 その笑みに、危険な大事にはなるまいと安堵し、俺は尋ねた。


「李知さんのおやすみについて理由を聞いてもいいか?」


 すると、玲衣子は顎に指を立てて、考え込むそぶりを見せる。


「そうねぇ……、一応、病欠なのかしら」

「病欠? なのに連絡してないのか?」


 はて、という事は李知さんの連絡し忘れなのか。

 疑問に思い、口に出す前に答えは玲衣子の口から吐き出された。


「うーん、でもねぇ、連絡する訳にもいきませんし。流石に、あれでお休みします、なんて言えないの」


 適当に嘘を吐けばよかったんだけど、と玲衣子は溜息をついた。

 多分、嘘は李知さんが許せなかったのだろう。

 彼女はそういう性質なのだ。


「だが、そんなにあれな病気なのか?」


 そのままの理由では休めない、もしくは休みにくいと来たら、やたらけったいな病気なのか、本当に重い病気なのか。

 だが、玲衣子はその答えを教えてくれず、その代りに、別の答えをくれた。


「見に行けば早いと思いますよ、追い返されるかもしれませんが、諦めなければ入れてくれるでしょう」


 まったくもってその通り。

 百聞は一見未満、ということだ。

 聞くより見た方が早い、その言葉に従って、俺は木製の階段を軋ませた。









 二階奥の部屋。

 それが李知さんの部屋だという。

 俺はその部屋の戸を叩いた。


「おーい、李知さん、いるか?」


 もしかすると寝ているかな?

 などと懸念したものの、あっさりと答えは返ってきた。


「薬師か」


 微妙に棘のある声。

 俺に対して、というよりは現状に対する疲れが見え隠れしていた。

 それを悟って、ここで足踏みしている場合ではない、と俺は戸に手を掛ける。


「入っていいか?」


 だが、返って来たのは拒絶だった。


「だ、駄目だ! お前だけは駄目だ!!」

「……俺だけは、ってのはいかがなものか」


 微妙に傷つくが、ここですごすごと帰る訳にはいかん。

 俺は扉の前で次の言葉を待った。


「と、とにかく、お前にだけは見せられない!」


 見せられない?

 その言葉に疑問を覚える。

 外見に出る病気なのか?

 例えば、斑点が出たり、ミミズが這ったような跡ができる、とか、他にも麻疹がでる、とか。

 いわゆるおたふく風邪のような症状が出ているのか、と俺は予想した。

 そして、憶測だがこの様子では命にまでは関わらないようでもある。

 危険なら玲衣子があんな風にのほほんとしてはいないだろうし、その理由で休むのは、と言ったこともわからない。

 うーむ、だが、やはり憶測を飛び交わせるより、見た方が早いだろう。

 俺はそう断じ、精一杯優しげな声を出して、李知さんを安心させることにした。


「大丈夫だ、例え戸を挟んだ向こうのお前さんの姿がどうなっていようと、俺は笑わない、失礼なことを思ったりしない」


 そしてからかわない、と扉の向こうに宣言する。

 答えは、しばらく帰ってこなかった。

 これはもう強行突破しかないか? そう考えたところでやっと声が聞こえてきた。


「本当か……?」


 予想以上にか細い声。

 結構参っているらしい。

 どうせ見えはしないのだろうが、俺は肯いて見せた。


「ああ、例えどれだけ顔を腫らしていようが、決して馬鹿にしたりしない。心配で来たんだ、当然だ」


 そして、またしばらくの間が空いた。

 ゆっくりと数十秒待って、李知さんから答えが来た。


「……入ってくれ」

「わかった、入る」


 そう断って、俺は戸を引いた。

 そして、目の前に李知さんが立っていて。

 俺は思わず呟く。


「にゃんと」


 

 そこにはいつもの角の生えた李知さんはなく。




 ただそこには、猫耳の李知さんが立っていた。





「うっ、うー……」


 唸る李知さん。

 そして俺はと言えば、気が付いた時にはもう、彼女の耳を一心にもさもさしていましたとさ。


「ちょっと待て、なにを――」


 もさもさもさもさ。


「おい薬師」


 もさもさもさもさ。


「聞いてるのか?」


 もさもさもさもさ。


「そのっ……、本当は、こちょばしいんだぞ?」


 もさもさもさもさ。


「いい加減にしろっ!」


 と、いきなり右から拳が飛んできたので避ける。

 いわゆる猫ぱんちである。

 って、


「いつもの金棒はどうした?」

「出せない」


 むすっとした表情で彼女は言う。

 思わず俺は聞き返した。


「は?」

「出せないんだ!」


 鬼の必須武器金棒が出せない?

 鬼であれば誰でも出せるあれが?

 そう言えば、先ほどの拳もいつものような切れのある動きではなかった。

 むしろ、普通の成人女性ほどの速度しか出ていなかっただろう。

 そこから、俺は一つの結論に達した。


「もしかして、鬼の特徴、全部消えてんのか?」

「……」


 李知さんは言葉の代わりに肯いて語った。

 確かに、見てみると手は猫っぽい手になってるし、尻尾も、って。

 そこで俺はあることに気付く。

 李知さんの、腰から下だ。


「大変言いにくいのだが……、下の履物はどうした」


 なるほど、上はほとんどいつもの李知さんだ。

 びしっとスーツを着こなしている。

 だが、下はどうだ。

 と、ここまで言えばいいだろう。

 肌色と白しかないある種眼福とも言える様を李知さんは晒しているのである。

 要するに。

 彼女は、足回り、下着一枚しかつけてないのだ。


「み、見るなっ!!」


 自分で晒しておいて何を言うか。

 とは思うものの、口には出さず。

 仕方がないので俺は、新幹線から自転車ほどにまで落ち込んだ、いつもと比べればへろへろと言っても過言ではない拳を甘んじて受けた。

 ぽかぽか、そのような擬音が似合うような威力の拳が、俺の胸を叩く。

 だがしかし、俺には怪我どころか痛みすらほとんどない。

 これはある意味重傷かもしれない、と俺は極力李知さんを見ないよう努めながら、言った。


「とりあえず何か穿いてくれないかね」


 だが、そうは問屋が卸さないらしい。

 疲れて来たのか、遂に手を止めた李知さんは首を横に振って否定を示すのであった。


「穿けないんだ」

「穿けないんだ?」


 思わずオウム返しに聞いた俺に李知さんは困った事実を提示した。


「尻尾が痛くて、ズボンが穿けないんだ」


 わーお。

 そりゃ休みもするさ。

 そう言えば李知さんがスカートを穿いているところを見たことがないし、腰元を圧迫するようなものが多いのだろう。

 ではどうする。

 すぐ治るならそれでもいいが、時間がかかるなら何か考えないと目に悪い李知さんが誕生する。

 男としてそれは歓迎するべきなのかも知れないが、生憎俺は男に対して熊と熊猫位違うのだ。

 とりあえず、出した結論と言えば。


「服、買ってくるわ」










「折角だから、俺はあえて桃色ふりふりふわふわを選ぶぜ!!」











 ふはは、俺は早まったのかもしれない。

 だが、だがしかし。

 俺は間違っていない間違っていないはずだ。

 ほとんど勢いで桃色ふりふりワンピースを買ってしまったのは、若さゆえの過ちと信じたい。

 ……そう言えば俺若くないな。

 若さゆえの過ちならまだしも、年とって今だに過ち犯してたら救えないじゃねーか。

 うん、俺は間違ってない、過ってない。

 大丈夫。

 目の前にふりふり桃色の猫耳長身女性を前にしたって間違ってないと言い切れる。

 言い切れる。

 例え目の前の李知さんが拳を握りしめ震えていようと。


「ははは、李知さんよ、感激に打ち震えてどうしたんだい?」


 無論、答えは拳である。

 が、やはりへろへろ。

 俺は李知さんの両手首を掴んで阻止。


「お前はっ……! お前はぁ……!!」


 李知さん既に涙目である。

 ああ、神よ、俺はどうやら間違っていなかったらしい。

 なんかこう、これはこれで。


「満足だ」


 そう、この反応こそ俺が心の奥底で望んでいたものだ。

 ほとんどノリと勢いだったがこれはこれでいいものです。

 そのようにして、嗜虐心満たされた俺は、李知さんの両手首を掴んだまま、上から下まで李知さんを見つめ直した。

 それで気付いたのだが、


「意外と似合ってるんじゃねーか」

「え?」


 今、肩の向こうに見える尻尾が、ぴくりと動いた。


「いや、本気本気。正直可愛いんじゃないか?」


 もう一度、尻尾が動く。

 だが、垂れていた尻尾が立つにつれスカートが上にあがっていく現象はどうかと思うが。


「そ、そんな訳は――」


 だがしかし、その尻尾は妙に嬉しそうに立っているのだ。

 面白いな。

 そして、後ひと押しってとこか。


「本当に可愛い」


 そのでかいくせに妙に小動物的な動きとか。

 いつもと違って力の入って無い攻撃とか。

 心と裏腹に動く尻尾とか。


「自信を持っていい」


 俺がそう言った時には、李知さんの尻尾はぴんと天を衝いていた。

 そして、これは本当に大丈夫なのか?

 よく見ると、尻尾を出すために、下着の穿き方が半分ずり落ちてる感じなのだが。

 これは尻尾を出す穴を作るべきか、などと考えていると、李知さんは李知さんと思えないほどのか細い声を出した。


「……そうか……?」

「おう」


 俺は肯く。


「そ、そうか……!」


 俺の言葉に、ちょっとうれしそうに頬を染める李知さん。

 可愛いと言われて悪い気のする女性などそういないということか。

 だが、これから現実的な案を考える必要もある訳で。


「ところで、どうしてそうなったんだ?」


 そうだ、一応様子見に来たのだ。

 李知さんに桃色ワンピースを着せるために来たのではない。

 解決策も考えねばなるまい。

 だが。

 俺には気がついたら猫耳が生えているような現象が思いつかないのだが。

 しかし、それは李知さんも同じだったらしい。


「私も、朝起きたらこうなってて……」


 なるほどなるほど。


「ふむ、という事は……あそこがああなってここがこうで、あれがああなるから――」


 わからん!

 耳や腰回りに淀んだ感覚もない。

 本人が気付いたこともない。

 犯人がいるかもわからない。

 ないない尽くしで俺は――。


「まあ待て。ここは落ち着いて縁側で寝よう」


 思考を放棄することにした。










 俺がしたことと言えば、李知さんにふりふりふわふわ桃色ワンピースを着せただけである。

 だが、それがどうした。

 俺が縁側で茶をすするのは誰にも止められねぇ。


「や、薬師! どうするんだこれ! 一緒に対策を考えてくれるんじゃないのか!?」

「いや、俺は服を買って来てやっただろう? 俺医者じゃねーし。きっと寝ときゃ治るって」

「治らなかったらどうする!?」

「うちで飼う」

「か、かっ!?」

「あーでもうち寮だったなー、ペットいけんのかな。首輪付けたら通らねーかな?」

「く、首輪……って、ペット扱いか!!」


 頭をはたかれた。

 痛い、が、そこまで痛くない。

 うーむ、この生き物。

 本気で飼いたくなってきたぞ?

 だが、藍音お母さんが許してくれるかどうか……。

 ……うーむ、どうやら猫耳の能力か魔力か知らないが、どうやら李知さんを猫と認識する力が働いてるらしい。

 一応その辺はあっさり聞くことはないので混ざってしまっているが、おかげで思考が変だ。


「ほれほれ、んなとこに立ってないで」


 ほら、こうやって俺は胡坐をかいた膝の上を叩いている。

 さて、彼女は李知さんか猫なのか。

 俺にとっては中間である。

 だが、よく考えてみると、どっちも好ましいのでどうでもいいか。


「な、なんだ?」


 李知さんが聞いてくる。

 俺は答えた。


「猫は人の膝の上で寝るべきだ」

「へっ?」


 はたして俺は李知という女性を膝に導いてるのか、猫に寝場所を示しているのか。

 わからん、判断はつかん。

 が、流されてみることとしよう。

 きっと一肌恋しい日もあるのだ。多分。


「ほれほれ」


 ぴくり、と李知さんの足が動いた。

 震えるように、足が前に出て行く。

 そして――。

 李知さんが俺の膝に納まった。


「うー……」


 どうやら、李知さんの方も猫のような行動原理になっているらしい。

 俺の膝の上の李知さんは、耳まで赤くなりながらも、動こうとはしない。

 今の彼女に猫じゃらしを振ってみたらどうなるのだろうか。

 真っ赤になりながらも、手を伸ばすのだろうか。


「いやはや、いいもんだ」

「そうか?」


 俺は大きく肯いた。


「いいもんだ」


 ゆっくりと緩やかに。


「……そう、かもな」


 平和な時間が流れて行った。











 ちなみに、昼寝して起きたら李知さんの猫耳は治っていた。

 もったいない。






―――

四十九。
李知さんがすごいことになりましたとさ。





では返信。

紅様

スライムザムライ・ザ・スピリチュアルと読むんですねわかります。
いや、これならスピリチュアル・ザ・スライムザムライの方が……。
あれ? スライム・ザ・スピリチュアルザムライ…?
もうどっちでもいいや。


シヴァやん様

ひ、ひひひひヒロインが幼児体型? そ、そそそそんな訳ががががが。
いいでしょう、認めましょう。
ええ、私は変態です、変態ですとも! 紳士とは名ばかりの変態ですとも。
はい、私はロリから妙齢まで行ける変態です。


Eddie様

鬼っ娘のターンはまだ終了してないぜっ!!
例えどんな苦境でも前さんなら、前さんならやってくれる。
積み上げられた薬師の鈍感を崩せるのは君しかいない。
と、まあ、これからもばしばしとまではいかずともはしはしと出てくるでしょう。


マイマイ様

……なん……だと……。
見抜かれている……!?
こうもざっくり突かれるとは思いませんでした。
ガングレイヴとかも好きですよ。


黒茶色様

可愛い女の子が売りですからね。
あと、薬師の鈍感さも売りですが。
純情な前さんの恋ですが前途多難のようです。
ウザスラは、皆さまが忘れかけたころに古傷を抉りに来るでしょう。


ねこ様

ウザスラはセメントに混ぜこんで固めて捨てましょう。
それが人類にとって最も良い方策。
そして、閻魔妹の活躍はいつになるのでしょうか。
こちらは薬師が猫李知さんと戯れてました。


ヤーサー様

スライムはきっと、今頃橋の下でしょう……、あれ?河原?
そして、スライムと言えば服が溶ける、でしょう。
誰に当たるかは保障できませんが。
前さんはきっと、アンテナに電波が来たのでしょう。閻魔とメイドが猛攻を掛けていると。


スマイル殲滅様

実はまだ前さんの持ち弾があるのですがここで出し惜しみッ!
いやはや、一番まともに動いてるはずなんですがねぇ。
上手く行かせないのが薬師。鬼畜である。
ちなみにですが、前さんの独白なら、五十一で入る気がします。


春都様

あれですね。
これからは、しばらく平和に行こうと思います。
きっと、暁御や閻魔妹のターンも、ある。
と信じます。どうせ前さんのが先に出てきそうですが。


奇々怪々様

前二話から、前回中盤までをなかったことにできたら、如何ほどの人が救われただろうか。
そして、その傷を癒やすために鬼っ娘たちがいるのです。
忘れましょう。それが完治への第一歩です。
そう言えば、二つ名が出せなかったなぁ。極光の液体 サライム、なんてどうでしょう。


通りすがり六世様

可愛い女の子、百万ドル。
薬師の鈍感さ、百五十万ドル。
酒呑みのお色気、一千万ドル。
スライムの痛さ、プライスレス。やっぱり、霊侍・ザ・スライムの方がいいですかね。


SEVEN様

安心してください。
薬師は、治 ら な い ことを前提に術を発動したのです。逆に発動したら困るという。
という事で薬師はロリコ(何か鋭いもので切り刻まれている)
大丈夫、スライムは私にも辛いのでしばらくは出ないでしょう。


キノッピ様

ご指摘どうもです。
一応わざとではあります。
薬師の中ではクロレキシ確定、という事で。
ですが、紛らわしかったのは私の力不足なので、次回からは気を付けて表現して行きたいと思います。


SY様

明後日の方向に前進するのが得意です。
まったく、どうして欲しいのか言ってごらん?
聞こえないなぁ、と同レベルのことをやっている気がする薬師。
無意識かつ悪気がないから手に負えないのですね。









最後に。

多分、李知さんはスカートが尻尾でめくれた状態で薬師の膝にすわっ―――(血に汚れて読めない)


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