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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/01 23:35
俺と鬼と賽の河原と。




「ふふふ、ここで待ってれば、薬師がやってきて――」


 河原へと続く道。

 そこに由比紀は立っていた。


「ようやく、私の出番、なのね」


 だがしかし。





「えっ!? 今日は休み!?」





 今回の話は、予想を裏切って、全く由比紀が絡まぬ話である。






其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。





 そう、それは手紙だった。

 どこからどう見ても手紙だった。

 果てしなく、手紙だった。

 どれほど手紙なのかというと、完璧に手紙であった。

 四角い角。長方形の封筒。

 涼やかな便箋、ペンで書かれた優しげな文字。

 非の打ちどころのない、手紙。

 いや、しつこいよな。

 まあ、要するに、手紙が挟まってたわけだ。

 郵便受けに。

 そして、その中身には、こう書かれていた。


『来い


          玲衣子』


 いや、ないな。

 流石にあれだな。

 ここまで色眼鏡の司令っぽい手紙ではなかったが。

 要するに、こういうことだ。

 もう少し詳しく言うなら、遊びに来ませんか? お茶菓子を用意してお待ちしております。

 という事である。

 時候の挨拶から始まり、近況報告含め、結構な分量であったが、まとめるなら、家に来ないか、と聞かれている訳だ。

 で、おあつらえ向きに俺は今日は休み。

 丁度暇しているところであった。


「行ってくっかなー……」


 誰もいない空間に、呟く。

 答えは返ってこなかった。

 当然である。

 しかし、誰に言われずとも、答えは決まっていた。

 暇なのは好かん。

 そう言うことである。














「あら。来てくださったんですね」

「おう、邪魔する」

「邪魔するならお引き取りください」

「了解した」


 ……。


「気が合いそうだな」

「うふふ、そうですね」


 俺の周りには何故か冗談が通じない奴、というよりは突っ込み気質が多い。

 このように、軽いノリで話せる相手は貴重である。


「では、上がってください」


 今度は言われるがままに敷居を跨ぐ。

 そしてそのまま奥に案内され、俺は長机の前に座った。


「それでは、お茶を注いできますね」


 そう言って歩いて行く彼女を俺は視線で見送った。

 それにしても、落ち着く屋敷である。

 畳を作る藺草の香りが、俺を安心させてくれた。

 そんな風にまったりくつろいでいると、やがて玲衣子が戻ってくる。


「どうぞ」


 盆に乗った湯のみが差し出された。


「すまんね」


 言って、俺はそれを受け取る。

 その後、玲衣子も席に着いた。

 それを確認して俺は、疑問に思っていたことを率直に聞いてみることにする。


「そういや、いきなりなんだ?」


 玲衣子は、意味が解らなかったのか、聞き返してきた。


「いきなり、とはなんでしょう?」

「唐突に手紙が送られてきて、唐突に遊びに来ませんか? と来たら、これをいきなりと言わずして、なんと言う?」


 茶飲み友達としては中々の逸材であるが、残念ながらそれにしたって俺達が知り合ったのはついこないだである。

 今日が二度目の邂逅。

 要するに、俺は何らかの目的があると踏んだ訳だ。

 いや、理由と言い換えてもいいが。

 すると、玲衣子はあけすけに言った。


「興味がある、と言うのはどうかしら?」

「興味がある、ねえ?」


 そんなに俺が秘密主義であるとは思えんが……。


「例えば、貴方は何で地獄にいるのでしょう」

「いや、死んだからだろ」


 と、まあ、どうしようもないことを言ってみたが、そうではないらしい。

 ああ、大体言いたいことはわかった。


「大天狗が死ぬ。というのはとても不思議な事」


 微笑んで言う玲衣子。

 どうやら、本当にただの興味、というか陥れる類の打算ではないらしい。


「まあ、確かに不思議な話ではある」


 俺は一つ肯いた。

 別に、これは俺が死んだときの状況を言っているのではない。

 例え大天狗とて、不意を衝かれりゃざっくりだし、斬られりゃ血が出る。

 が。

 ぶっちゃけよう。

 大天狗は死なない。

 というか、一定以上の力を持つ妖怪なら全てに適用される一言だ。

 死なず。


「私はもう、それが気になって気になって」


 例えば、天狗になる、という事は本質的には風になる、ということだ。

 まあ、不純物その他のせいで個体としての形をとるが。

 言うなれば、天狗は風であり、風は天狗なのだ。

 鬼もそうだ。

 人らしさを捨てたために、地獄の霊体たる本質に近づいた姿。

 そして、同じように、鬼の最高位に立つ酒呑は、例え脳を潰されても、死なない。

 別に、その場で再生するという訳でもないが。


「それで、なぜ俺がここにいるかだが――」


 要するに、天狗と風の関係は相互を補完する形である。

 天狗とは風であり、何らかの方法で風が全て破壊、ないし消失しても、天狗がいる限り風が吹く。

 そして、大天狗が死んだ際には、風が吹く限り、大天狗は再びこの世に生まれ落ちる。

 両方同時に殺さねば殺せぬ、というのがこの関係であり、蜥蜴の尻尾切りでありながら、尻尾も再生する。

 そう言う安全機構、というか、世界の法則を守るための防衛手段である。

 そして、その法則に俺を当てはめるなら、即復活、とは言わないが、長ければ百年ほどの時を掛けて俺は再生されるはずだった。

 が、むざむざ再生させる気もなかったので、風へと還り、魂は溶けて消えるはずであった。

 どちらにせよ、地獄にはいられん。

 では、なぜ俺はここにいるのか。

 それは――。


「俺にもわからん」


 流石に玲衣子も驚いたか、目を瞬かせている。


「いやはや、我ながらオカルトだな。もしかすると大天狗扱いされてないのやもしれんが」


 大天狗は死なない。

 これはある種常識である。

 知っているのは、大天狗やら、かなり高い位の妖怪だが。

 ぶっちゃけると、その常識があるから、大天狗如意ヶ嶽薬師坊の地獄での発見が遅れたのだ。

 普通なら、偽名ですらない名前で地獄に来た時点でばれている。

 それが、最近までばれなかったのは、やはりこの常識のおかげ。

 俺は続けた。


「確かにおかしい。どれほどおかしいかと言われると、あんぱんの中身がこしあんでなくて、つぶあんである並におかしい」


 玲衣子が肯いた。

 彼女もこしあん派なのかも知れない。


「しかし、俺はつぶあんも好きなのでどうでもいい」


 玲衣子は、少々の間目を瞬かせたままだったが、すぐにいつもの笑みを取り戻した。


「うふふ、確かに、そうかも知れませんね。貴方は確かにここにいる」


 うんうん。

 納得してくれたらしい。

 他の人間なら突っ込まれていたが。


「さて、納得していただけたところで――。次はお前さんがお話ししようか」


 俺が言うと、今度こそ彼女は目を丸くした。


「は、私……?」

「俺が応えたのだから次はお前さんだ。さあ、自己紹介でも、人生の概要でも辛い過去でも恥ずかしい歴史でも身長体重年齢でも可だ」


 俺と言う生き物は、あまり一方的に何かされることを好かない。

 いわゆる、やられたらやり返せ。こっちが語ったのならそちらも語りやしょうぜ。

 すると、玲衣子は心底無邪気かつ不思議そうに聞いた。


「何故?」


 その言葉に、俺は思うままに告げた。


「お前さんは俺に興味があると言ったが、俺はお前さんに興味がないとは言っていない」

「……あらあら」

「貴方に興味があるのであるよ、玲衣子さん」


 俺の言葉に、玲衣子はというと、一瞬固まった。

 果たして、何故であるかは俺にもわからん。


「っ、うふふ、困っちゃうわ」


 しかし、笑顔を取り戻した玲衣子は、それをごまかすかのように、色々なことを語り、俺はその違和感を忘れた。

 結局、俺のことを語り、玲衣子のことを聞く、を俺は長いこと繰り返したのである。




 ちなみにだが、どうやら彼女は俺より年上らしい。

 胸囲まで教えてくれたのだが、初めて来た時と変わらず、考えの読めない人間である。





 なるほど今日も、平和である。


















 今日彼を呼んだのは、半分が興味本位である。

 あの堅物、李知が惚れた男性。

 興味がない訳がなかった。

 うふふ、これをネタにいじらないでいい道理がありません。

 そして、もう半分。

 彼は李知に相応しいか。

 もしくは、彼はいい人間であるか。

 結果は、芳しくはない、と言えよう。

 なるほど、いい人間、いや、天狗である。

 それは、話を聞いただけで分かっていたこと。

 美沙希ちゃんだけでなく、由比紀も、恋とまではいかずともなんとなく気に入っているだけはある。

 だがしかし。

 いい人間であることと、女性を幸せにできるかは、違う。

 女性を幸せにできる安全牌、と言えば、鬼兵衛さんであろう。

 基本人を想うことを芯におき、家族のためなら信念を曲げられるタイプだ。

 別に、薬師さんとて、人として鬼兵衛さんに劣る訳では、ない。

 身の周りが平和であることを是とし、人を想うことができる。

 だが。

 己の在り方を曲げない。

 これである。

 しかも、悪い方向で、だ。

 彼は、自分を勘定に入れない類。

 自分の命一つで人が救えるなら安い、そう考えている類だ。

 そのあり方は尊いが、到底女を幸せにできはしない。

 判る。

 判ってしまう。

 何故なら、私がそうであったから。

 彼は、私がそうなったように、一度危機が訪れれば、自らを砕いて家族を守るだろう。

 女に、私にしてみれば、全て捨てて私と逃げて欲しかった。

 ああ、親子とはよく言ったものだろう。

 李知が私と同じタイプを好きになるとは。

 彼は、本当にあの人に似ている。

 飄々とした態度。

 それが時に艱難辛苦を吹き飛ばす烈風になることを私は知っている。

 優しいそよ風のようなあり方。

 それが時に、人を守るため嵐となることを私は知っている。

 子供のように、少年のように己を語った、奔放な風のようなあり方。

 それが時に、老成した、喜びを運ぶ風となることを、私は、知っている。

 本当に、似ている。

 あの人の姿が、一瞬彼に重なるほどに。


『貴方に、興味があるのですよ、玲衣子さん』
「貴方に興味があるのであるよ、玲衣子さん」


 思わず、息が詰まりそうになった。

 そして、彼が帰り際に残した台詞。


『また、来てもいいですかね』
「また、来てもいいかね」

「……え?」

『駄目、ですか?』
「いかんのか?」

「……いいえ、歓迎します」


 似ているが故に、気を付けねばならない。

 李知を、私と同じには、できない。

 幸い、彼はこれからもたまに来てくれるようだ。

 ……教育しようかしら。

 まずは――、性教育……?





―――

皆さんの期待を裏切る兄二です。
己の予想さえ裏切って人妻編、ってか未亡人編。
フラグのレベル1が立ったようです。
そして、性教育フラグががががが。
更に、大天狗は死なないとか、伏線と見せかけてそうでもない設定までオープン。
ぶっちゃけ、如意ヶ嶽薬師なんて名前で地獄にきたら一瞬でばれるよね、という話。
それと、先代大天狗の話に繋がらなくもないかな。


では返信。


へたれ様

え……、暁御……、誰……、あーあーあーあー!
暁御ですね、いえ、忘れてませんよ。
覚えてましたとも。ヒロイン内に入ってなかったのは、わざとで――。
余計に悪い気が。


春都様

今回は、悪い意味で、思い出ができました。
ちなみに、思い出のルビ、もしくは副音声はトラウマで確定。
事あるごとに、局部を露出しようとするあれは、どうにかならないでしょうか。
きっと捕まっても権力ですぐ出てきてしまうのでしょうが。


SEVEN様

大丈夫です。
大丈夫なんですっ、今回は何もありませんでしたはい。
つつがなく海の行事は終了し、一同平和に帰りました。
これが真実です……!!


Eddie様

筋☆肉☆専☆門のクラーケン。
これが鬼兵衛最大のモテ期である。
いやはや、藍音さんと閻魔が人気ですね。
このままではツートップが。


シヴァやん様

それは、あれですか。
暁御ですか、それともお色気担当ですか。
あのお色気担当は一切自重する気がないようです。
少年漫画誌におけるラブコメのパンチラ率並にポロリしていくらしいです。……屍姫でいいよ……。


ねこ様

鬼嫁は、番外でしょうね。
流石にあの状況で出したら更に収集がつかなく。
とりあえず、鬼と天狗でビーチバレーをすればそれは普通じゃないことに。
ですが――、何より私はボールに敬意を送りたい。色んな意味で。


ヤーサー様

作者にもダメージが大きかったです。
きっと、リアルでツートップお色気ゾーンに入り込んだら悶絶死でしょう。
そして、今回は玲衣子さんを落としにかかっております。玲衣子さんには母性本能をくすぐりに行けば――、いらぬ心配ですな。
閻魔妹は、いつの日か名前を呼ばれることを夢見てます。心の中ではちゃんと名前呼びなのになぁ。


スマイル殲滅様

これが、現実の壁……。
駄目だ、直視できそうにありません。
現実逃避を続けます。
それと、藍音さんならすかさず前に飛び出て、スカートが捲れる、とかやってくれそうです。


ロコリン様

コメ、どうもです。
いやはや、まあ、海編の前編で皆さん一抹の不安を覚えていたようなのですが。
期待を裏切ったのだか期待通りなのかわからない兄二です。
でも大丈夫、この世界に触手など珍しくない!! まだ触手は終わっちゃいない!!


悠真様

あのイカタコに性別があるのかわかりませんが――。
きっとがちむちやらないか。
と、どうでもいいことは置いておいて。ポイ捨てはいけませんね。海は綺麗に。公害を放置してしまったようです。
ちなみに、麗華さんの出演予定は未定です。ぶっちゃけるとやることが多すぎて首がががががが。どうせやることなんてフラグ立てなんですけどね。




最後に。

由比紀と、暁御で同盟が組めそうだ。


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