俺と鬼と賽の河原と。
牌が卓を打つ音が響く。
そして、俺の巡。
その時俺に衝撃走るっ……。
「……っ」
俺の待ち牌っ……。
だが、これでツモってしまったら未成年どころか大人にも見せられやしない映像が三つも誕生するっ……。
駄目ッ。
和了れないっ……!!
しかし、俺はリーチ済み……、手牌を変えることは不可能。
そして、更に。
「くっ……」
俺は隣で酒を飲む馬鹿の手牌を見やる。
オープン……っ、リーチっ……!
酒呑童子の後先考えずに公開された牌、その待ち牌は、奇しくも俺の手に握られている牌に、相違なかった。
この手に持つ牌を自分の元に差し入れた瞬間、俺は倫理協会が二十一歳以上推奨の画を見せられる。
そしてっ……、この牌を目の前に流れる死の川に放れば……。
酒呑童子の役満が、俺を丸裸にするっ……!!
「ツモ……。九連、宝燈っ……、役、満……!」
他の面々が、顔を驚愕に染める。
状況は、既に詰んでいた。
ちなみに本編とは全く絡まない。
其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。
とある日の朝、昔の知り合いも、メイド服の閻魔もいない久しぶりに平和な河原。
俺はぼんやりと石を積んでいたが、どうやらこの話は暁御が主役を張るらしい。
ある少女は焦っていた。
とてつもなく――、焦っていた。
自らの出番が、少ないことに。
「そりゃまぁ……、私は出番が少ないし、影薄いし影薄いし影が薄くて影が薄いうえ影が薄いですけど……」
そう、彼女の出番は圧倒的に少ない。
メインを張る確率、約、5%。
実に、実に他の半分以下……!
酒呑……、鬼兵衛並であるっ!
サブレギュラー並……!!
これでは少女が焦るのも無理はない。
そして、これには理由があった。
彼女がメインを張れそうな登場回。
その時確実にメインを掻っ攫って行く男がいる。
名を――、飯塚…、じゃら男。
そう、事あるごとに彼が、暁御のチャンスを奪っていくっ!!
この話は、暁御が、一人の男を謀略の果てに削除するお話である。
「そう、少しでも前に進まなきゃっ……」
訳がない。
さて、少女暁御、何かしようと思い立ってみたが、そう簡単には何も出てこない。
「……どうしましょう」
親指の爪を噛んで思考に心沈ませるが、幾多の物語を読もうとも生前恋なぞしたことない少女には酷というもの。
初恋は実らないというがその通りである。
初めてであるが故に高望をしてしまったり、現実にはありえない恋をするだけでなく。
セオリーも、ノウハウもわからない、そのような手探りの状況では恋を実らせるなど到底不可能というもの。
ここで、相談できる人生経験豊富なお姉さまでもいれば話は違ったが、そこは暁御、寂しい少女である。
もしくは、唯一の友人と言える鬼っ娘達が恋愛経験が全くない生娘のようなお姉さまだったのが悪いのか。
さてさて、ともあれ河原にて、考え事をしたまま好きな人の前に立ってしまった暁御。
そう、作戦を考えながら彼女は河原を歩いていたのである、半ば薬師を追い求めながら。
いわゆるタイムリミットであった。
警報が暁御をがなりたてる。
接敵、作戦立案は十分か!? さあ、作戦を開始しろ、と。
だがしかし、考えなしに好きな人の前に立ってしまった暁御。
上の言葉の通り、作戦、もとい考えなど全く纏まっていなかった。
そもそも、ここに立ってしまっていること自体が偶然。
歩きながら考え事をしていたら想い人の前に立ってしまっただけなのだ。
「んー? どうした暁御、んなとこに突っ立って」
地面に座る如意ヶ嶽薬師が怪訝そうに言う。
暁御の中に響く警報がレベルを上げた。
コンディションレッド、コンディションレッド、敵が警戒している! 至急作戦を開始せよ!! どうした、本部、応答しろ!!
「すっ」
「す?」
薬師がオウム返しに聞いた。
そして、暁御がついに動く。
「好きですっ!!」
暁御、それは自爆スイッチだ。
完。
となるかに見えたが。
そこに救世主現る。
自爆した暁御を救ったのは他でもない。
そう、我等が主人公如意ヶ嶽薬師、その人だった。
難攻不落、突破不可能、絶対不沈神話で知られる如意ヶ嶽薬師が、暁御の自爆位でダメージを負うはずがない。
「好きって、何がだ?」
流石は風を操る天狗と言ったところか。
彼は見事に、爆発した空間の空気を遮断することにより爆発を最小限に押しとどめたのである!
空気は凍りついたが。
見事なにぶちんを披露してくれた彼に最大限の最大限の賛辞を送りたい。
この朴念仁め、と。
そして、暁御は爆発は押しとどめられたものの、その後の小爆風をどこかに流さねばならなかった。
要するに、
「いえ、あの、えと、お祭りが」
ごまかすわけである。
ちなみにお祭り、というのはどもっている間に偶然目に入った張り紙に書かれた一文である。
『お祭りに行こう! 七月二八日から八月一日まで!!』
名もしれぬ中年の張ったビラが、見事暁御を救ったのだ。
これは暁御は名もしれぬ中年に永劫感謝せねばならないであろう。
だが、しかし、不可解な繋がりである。
好きです、お祭り。
英語文法的な倒置法を使用するような外国かぶれでもない暁御である故にその不自然さはぬぐいようのないものであった。
しかし、しかしである。。
そこはそれ、我らが如意ヶ嶽薬師がその程度を気にするほど狭量な人物であったか。
如意ヶ嶽薬師が、そんなに鋭い人物であったろうか。
否。
誠に遺憾ながら否である。
きっとそれだけの鋭さがあれば現世で今頃メイドと結婚して反吐、いや砂糖を吐き出さざるを得ない生活を送っているだろう。
故に、生まれついての朴念仁たる彼は、まったく何も気にせずに、しかも気分は父として、言葉の意味を曲解した。
「そうか……、もうそんな時期だったな。んで、行きたいのか? 祭り」
確かに、突如として好きです、お祭りなんて言われたらそれを疑うだろう。
そもそもの不自然さに目を瞑れば、だが。
そして、暁御はと言えば。
羞恥に頬を染めながらも、気が付いた時にはすでに肯いていた。
幸か不幸か、奇しくもこの会話の流れから、少女、要暁御は想い人と祭りに行くこととなったのである。
さて、祭りの内容に関してだが。
特に特筆すべきことはない。
先ほどの特に特筆の部分の意味が重複するほど書くことはない。
「そんなっ! あります! ちゃんと薬師さんはエスコートしてくれましたし――」
などと抗議の声が届いているが、その通りである。
そこはそれ、天然ジゴロ如意ヶ嶽薬師である。
突発的な事態であってもへまを踏むはずがない。
どんな絶望的な状況下でも冷徹にフラグを引き寄せる彼が、このようなところで失敗するはずがなかろう。
故にこそ、描写の必要は全く感じられないわけだ。
薬師なんてどうせまたフラグ補強作業して戻ったんだろ? けっ、という事だ。
まったくもってその通りなのでやはり省く。
だがしかし、このままでは話が終わらない。
という事でオチとなる一場面、それがここで必要であろう。
それは、祭りも終盤、最高に盛り上がる花火の場面で。
「おお、そう言えば穴場がある事を今この瞬間思い出した」
何か含むところのありそうな言葉であったが、この天狗、本当に今思い出したのである。
そして、ジゴロ薬師は何の恥ずかしげもなく暁御を抱えあげると、大空へ舞い上がり、近くの神社とは名ばかりの神殿へと降り立った。
ちなみに、神社とは名ばかりの神殿とは、神社にはよく似ているものの、薬師や暁御の知る現代世界とはまったく別世の人間が立てたものである。
ともあれ、こう言った花火的な物の穴場のお約束と言えば高台の神社であり、神社と言えば花火なのだ。
本来は正直階段を上るのが辛いため、花火の鑑賞には使われないそこに、悠々とこの天狗は降り立ったのである。
しかもこの天狗、せっかく最初は隠していたのに、天狗バレしてからもう開き直った模様。
ぶっちゃけ隠しごとに秘密、それによる束縛は俺にはやってられん、とは彼の言である。
そして、花火が大空へと打ち上がった。
「おおー、やっぱ綺麗だな」
去年は見てなかったが、と付け加え、手を額に当てながら次々と打ち上げなられる花火を見渡していた。
「好きなんですか? 花火」
そう、暁御は素朴な疑問を口にする。
当然と言えば当然の疑問だ。
酒が飲めるから桜が好きと宣言する彼にこう言った風情が理解できようと言うのか。
はっ、テメーみてぇな桜も楽しめねえ輩が、花火の良さを分かるとでも?
暁御はこう言いたいのだ。
と、その問いに、薬師は肯くことはしなかった。
だが、それを肯定する。
「いや、あれだぞ? 職人がすげー気合入れて作るんだ、あれ。それが一瞬にして花咲かして消えるのは、一種の感動を覚えるね」
はたして、それが千年以上を生きる天狗だから出た言葉なのかは、判らない。
が、そこに暁御は死に花咲かす尊さを感じたらしい。
それもそのはず。
今となっては老いることを知らぬ幽霊になった暁御であったが、蕾として胸に存在する恋心はいつしか枯れてしまうやもしれない。
それこそ、花咲かすことなく、枯れてしまうかもしれない。
はたして、いかほど花を咲かしていれるかわからない、実を付けて次代に何かを残せるのかわからない。
「あ、あの、薬師さん」
だがしかし、咲くことすらなく枯れてしまうよりは、と。
一瞬で構わないから、咲こう。
「ん?」
そう決意して。
暁御は二度目を口にした。
「好きです」
そして。
これで終われば良かったのだが。
やはり薬師も二度目を口にするのであった。
「何が?」
誰か、こいつを早くなんとかしてくれ。
この最低朴念仁を、いや、ある種鬼畜と呼ぼうか、鬼畜大天狗如意ヶ嶽薬師を、誰か人並みの感性に戻してくれ。
結局、少女は報われず。
仕方なく、暁御は次の言葉を口にした。
「……壺八」
「懐かしいネタだな」
暁御が真に告白できる日は、遠い。
その日まで、平和は続くのである。
―――
さて、今回の四十二話、いつもとは違う雰囲気で進めてみました。
壺八、所謂あれです、とある居酒屋です。わかるよね? 超地方ローカルネタじゃないよね?
そしておめでとう、暁御、メイン張れたね。まったく甘くないね。ギャグメインだね、残念だね。
薬師、すごい言われようだね。
さて、返信。
丗様
いやはや、全キャラを立ててやりたいものの、そこに至るには私の精進も、話数も足りていないようで。
あれ? 自分の至らなさが全部原因じゃん。
まあ、ともあれ、ゆっくり頑張っていくので、これからも楽しんでくれると幸いであります。
とりあえず、今回は暁御必死だなwwwと、笑ってくだされば。
シヴァやん様
きっと鈴は声が出せるようになるでしょう。
そして、その時はじゃら男に告白した時だっ!
その時は、じゃら男が暁御に完膚なきまでに振られた時なんですねわかります。
お言葉の通り、薬師にはメイドがひっついてますが、それでも、それでも前さんなら力押しでやってくれる……!!
奇々怪々様
じゃら男、フラグ数、一。
これはフラグ神薬師の教えのおかげですね、というのはともかく。
現世ではきっと彼も主人公の一人だったのです。
ぶっきらぼうな不良系ハーレム主人公だったに違いなし。
悠真様
戦時中で育った上、合法ロリという結構な御年、と言っても二十歳ほどですが。
そして路上で生活した日々、これが彼女が悟りを開くに至った原因でしょう。
きっとこれから先、じゃら男を教え導いてくださるに違いない、もう結婚しちまえよ。
いやはやそれにしてもあれですからね。このままでは鬼っ娘勢も負けていられませんね。
スマイル殲滅様
じゃら男が幸せいっぱいです。彼の鋭さは、多分薬師以上でしょう、というか、薬師と比べたら可哀想です。
薬師は自らの恋愛に関するセンサーが死滅してますから。あー、でもやっぱりじゃら男も自分への好意に気付かない鈍さを誇ってるなぁ。
そして、最近メイド人気がすごいです。猛攻が続いております。
近いうちに考えてる一発事件のお供に当初の予定を外れメイドが付いて行きそうな勢いで攻撃してきます。
ヤーサー様
じゃら男は何が気に入らないのか、じゃら男は鈴が気に入らないんじゃない、アホなんだ!!
やっぱりまともな幼少を送ってないために自分への好意に懐疑的なんだよ、きっと!
そして、鬼兵衛は薬師との交際は認めても、「君を息子と呼ぶのは――、キツイものがあるね……」「俺とてこんな青い父は困る」
とか言う会話が生まれそうですね。
ねこ様
合法ロリは流石合法、と言うべきか……。
変な常識と偏った知識と半端な大人具合が混ざりあってXXX板にっ……。
流石ロリワイフは格が違った。
そして猫耳メイド閻魔……、彼女はどこに行こうとしているのでしょうか。
SEVEN様
まったく、馬鹿を言っちゃいけない。
真の男なら、合法ロリに白ストッキングを穿かせるべき。
男のロマンに妥協はない。
……いえ、何でもありません。
うつろうさぎ様
感想どうもっす。
最近藍音人気がすごい今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
そして思えば、藍音だけうっかり設定画のようなものが公開されたことがあるという始末(今は流れて消えてますが)。
天は彼女に味方しているのか!!
春都様
藍音はパーフェクトで瀟洒なメイドですからね。
従者としても女性としても、いつの日かその働きが報われることがきっと多分もしかしたらくるかもしれないという気もしなくもないかなあ。
そして既にじゃら男のところのカップルが成立しかけている件について。
このままなし崩しで勝てるんじゃないか? お鈴さんは。
さて、最後に。
えー、前回のいつまで出張るんだ発言に藍音さんから返答のお手紙をいただきました。
薬師様が振り向いてくれるまでです。
それは永遠に出張ると。