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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/21 08:45
俺と鬼と賽の河原と。



「一つ積んでは母のため」

「二つ積んでは父のため」


「薬師様」


「三つ積んでは――、ん?」

「満足しましたか」

「おう」







其の三十九 俺とその他と賽の河原と。







 さて、今日もいい朝だ。

 飯を準備して支度を終わらせて今日も仕事に行こう。




「おはようございます、薬師様、朝食の用意ができましたので、こちらへ」


 そんな朝。


「藍音、お前さんが何故ここにいる」

「私は貴方の秘書ですから」


 何故か家に藍音が上がり込んでいた。

 鍵は、と聞いたら開いていた、と返された。

 我ながら不用心である。


「そいつは説明になってない、というよか、もうお前さん秘書じゃなかろうに」


 俺ももう大天狗ではない。

 俺はそう言ったが、藍音は首を横に振った。


「例え貴方が大天狗でなかろうとも、……私は如意ヶ嶽薬師の秘書ですから」


 その言葉がこそばゆくて、俺は少し黙りこんだ。


「それに、貴方が大天狗ではないというのは嘘です」


 その言葉に、仕方ないとばかりに俺は肯いた。

 まったくもってその通り。

 仙拓に山の長としての大天狗はくれてやったが、力の象徴としての大天狗はいまだ俺のままである。

 要するに、仙拓は山の長であるが大天狗ではないのである。

 ぶっちゃけると山を治めるのが大天狗、ではなく大天狗が山を治めてたから長が大天狗と呼ばれてるだけだしな。


「貴方は、貴方の師のようにならない限り、大天狗如意ヶ嶽薬師です。そしてそれ故私は貴方の秘書です」


 そんな彼女に俺は一瞬呆気に取られ、


「それはあれか。俺が消滅しない限り付きまとうストーカー宣言か」

「そうとも取れます。ですが、せっかくいい話で決着を付けようとしてるのに台無しにしないでください」

「断る。いつの間にかこんな話になってるがどう考えても話題のすり替えだ。不法侵入の理由にはならん」

「いいえ、ですから秘書ですので」

「そも、秘書であることをまだ俺は認めていない」

「ダメでしょうか」

「そうとも言っていない」

「では問題ありません」

「だがそうは問屋が卸さない」

「では何が気に入らないので?」

「秘書させるほどの仕事がない」

「いいえ、身の回りのお世話くらいならできるはずです」

「うん、それをやってもらっていいのは身の回りに手が届かない忙しい人だけだからな」

「特権という奴ですか」

「そうだ。今の俺がやってもらうとダメ人間確定だっつの」


 いやはやそれはいかん。

 不真面目に石積んで帰ってきたら後は至れり尽くせりとかいかんだろ。


「では、どうすれば?」


 ふむ、思うに、この頑なに仕事を求める姿勢。

 俺の観察眼が告げている。

 きっと藍音は、生きがいを求めているのだ、と。

 どうだこの観察眼。

 地獄に来た者は何もかも失う事になる。

 すると、生きるための指標を失う事になるのだ。

 そんなものなくとも、地獄で生きることは不可能ではない、が。

 藍音は生前の上司たる俺に会ってしまった、と。

 そこに、今生きがいを見出そうとしている。

 だがしかし、その先は依存だ。

 こいつはいかん。

 けれど、ここで拒絶しては無気力に生きることとなってしまう。


「薬師さま……、薬師様」


 ふむ、では今のところは許可を出してそれからゆっくりと生きがいという奴を探していけばいい。


「薬師様が何を考えているか大体わかりますが。多分、見当外れで空回りかと」


 まずは色々な所に連れ出して、色々な仕事を体験させてみるのも……、ん?


「どうした?」

「いえ、こういうときの貴方の思考は見当外れに終わりますから」

「何でそう言いきれる?」


 すると、いきなり藍音が遠い目をし始める。


「自分に熱い視線を向ける女性に対し、闇討ちを警戒し。二月十四日を聖人が処刑された日と記憶し。好きですと言われれば何が? と答える貴方に何を言っても無駄です」


 記憶にある内容だが、どこか不自然だったのだろうか。


「で。それでどうなるんだ?」

「そちらの方面を期待しても無駄だと」

「どっちの方面だよ」


 すると、ついに藍音は焦れて来たのか、ぶっきらぼう、気味に言う。


「色事です」

「なるほど」

「納得しないでください」


 とは言われたものの納得である。

 だがそれとこれとは何が関係あるのか。


「俺が蚊帳の外以外の恋路に全く疎いとは友の言だが、この件とは何の関係が?」


 完全蚊帳の外から見る色事に関してならある程度腕に覚えがあるんだが。

 どんな腕に覚えがあるんだよ、という突っ込みはするな。


「私が貴方の周囲にいようとすることに、貴方への色事が関係しているので、貴方の考察は全くの無意味であると」


 なるほど。

 俺に対する色事、か。

 だと、すると。

 例えば俺のことをどこかで大天狗と聞き付けた誰かが、俺を狙って籠絡しにくる、とかか。

 そしてそれを知った藍音が護衛に。


「見当外れです」


 心を読んでんのかよ。


「そこでこいつ、俺のこと好きなんじゃね、と思えない時点でどうしようもありません」


 なんと。

 そんな自意識過剰な思考でないと答えに辿り着けないのか。


「で、お前さんが俺のことを好きだと考えた場合、どうなるんだ?」


 そう言うと、今度こそ処置なし、というように藍音が溜息を吐いた。


「もうどうしようもありませんね」

「そんなにか」

「それはもう、異常です。異常に気付けないことが更に、異常です」

「ん? 異常なのは自分でも知ってるつもりだがな」


 無論この身に性欲がなく、恋愛ごとに適性がないのも理解している。

 もしくは、させられた。鞍馬に。


「ですが、貴方は――」


 いい言葉が思いつかなかったのか、一端切ってから考えなおし、藍音は告げた。


「そうですね、クーラーが」

「クーラー……?」

「……。扇風機が壊れているとして」

「今の間はなんだ。小馬鹿にしてないか」


 そんな俺の言葉を無視して藍音は続ける。


「壊れているのは知っているが、部屋が暑くなることに考えが及んでない。もしくは、聞いてはいてもまた聞きで、実感が伴わない」

「で、俺が扇風機、か。だが、欠陥の直しようもないんだなこれが」


 と、するならば、気付いていようがいまいが、あまり関係ない。

 どうしようもない、と言ってもいい。

 それに対し、藍音は、優しげに微笑んで見せた。


「別に構いません。直すとしたら、私の役目です。それに、壊れたままなのも、それはそれで、安心します」

「そうかい」


 と、その時である。


「え、ちょっと待って兄さん……。その人、お隣さんだよね? そ、そそんな趣味が。メイドを侍らせるなんて……! これは今起こったことをありのままに話さないといけないのか俺!?」


 そこで、藍音が目をぱちくりとさせていた。


「貴方はそばを届けに行った時の……、弟さん、でしたか」

「……ああ……、俺の……、自慢の……、……弟だ……」

「なんでそんなに自信なさそうなの!?」

「ああおれのじまんのおとうとだ」

「俺の目を見て言ってよ!」

「初めまして由壱様。私は藍音、と申します、とは初対面の時言いましたね。姓は一応如意ヶ岳です、薬師様のとは違って、丘に山ですのでお間違いなく」


 ちなみに如意ヶ岳の名字は山では珍しくなかったりする。


「ああ、安岐坂由壱です、今は如意ヶ嶽ですが、って藍音さん、すごいスルースキルだね」

「薬師様の言葉に付き合っていては発狂します」

「そいつは酷いな」


 とまあ、このように騒いでいたら、当然由美も起きだして来る訳で。


「おはようございますお父様……。……、この人は?」


 目をこすりながら聞いてくる由美に、俺は顎に手を当て考える。

 元秘書、じゃねえしな……。


「んー、元秘書、いや、現秘書仮、の藍音だ」


 と、同時、藍音が頭を下げた。


「由美様ですね。よろしくお願いします」


 すると、由美もぺこり、と可愛らしく頭を下げた。


「あ、これはご丁寧に。よろしくお願いします」


 そして、藍音が頭を上げると同時、彼女はこちらを向く。


「薬師様」

「なんだ?」

「仕事がない、と貴方は言いましたが」


 俺は肯く。


「そうだな」


 俺の反応を見て、藍音はこう言った。


「この二人に関してなら、お手伝い、できるかと」

「おお」


 それは盲点だった。

 いくら経験からある程度大人の考え方ができる、といってもまだ子供。

 男手一つ、というのも難しい話ではあった。


「俺が留守の時も安心できるな」

「はい。ですので、仕事がない、という件についてはご安心を」

「ただ、これじゃあれだな。秘書って言うより――」


 その瞬間、藍音の顔が真っ赤に染まり、俺の言葉は思わず止まってしまった。


「いや、姉だな、って言おうとしたんだが――」

「そんな母だ何て、いえ、当然満更ではないというより歓迎すべき事態でして、このまま名実ともに、内外にも――、姉?」

「ああ。近所に住むお姉さん」


 すると、やはり傍目には判らない位で肩を落とす藍音。


「そうですね、姉です」


 どうしたのか、と聞いてみようと思ったが、ふと俺は仕事があることを思い出した。


「そうだ、飯できてるんだったな?」

「はい」

「じゃ、飯食って出勤と行こーか」











「おはよう、薬師、由壱、由美――、あれ?」


 その後、出勤時に前さんに勘違いされ。


「病院、いこっか」

「何故」

「大丈夫? 悩んでない? 自分の欲望を他人に押し付けちゃダメだよ?」

「何を勘違いしているんだ」







「なあ薬師……、眼科を紹介してくれないか」


 李知さんは自失し。


「どうしたんだ?」

「お前の隣に……、メイドが見えるんだ、いや、何を言ってるんだろうな私は」

「安心しろ、メイドは幻想生物じゃないらしい」






「その。説明していただけますか? していただけますよね」


 若干怖い感じで暁御に迫られ。


「いや、元部下だよ」

「も、元部下……? それはあれですか。身分違いの恋で一度諦めたものの、地獄に来た今となっては二人の差には身分差など関係なくめくるめく一晩のアバンチュールを……」

「すまん、お兄さん古い人間だから暁御が何を言ってるかわからん」




「メイドかぁ……、流石パねえな、センセイ」


 じゃら男に間違った解釈をされ。


「何か間違えてないか?」

「いやいや、何も言わなくてもわかるぜ先生。ロマンだろ?」







「ほ、本物だ。ちょっと写真撮っていいかい?」


 鬼兵衛の意外な趣味が発覚し。


「メイド萌えか」

「そ、そそそ、そんなことは……、妻には内緒でお願いするよ?」

「……そうか……、浪漫なのか」








「ふん、やはり心配の必要すらなかったようだな」


 ブライアンは余裕の表情で出迎え。


「お前はメイドについて突っ込まないんだな」

「私の家にもいたからな」

「やっぱり、浪漫か。うーむ、確かに、浪漫ではあるよな」

「い、いや、何を言ってるんだ。私は特にメイドに手を出したりは――」







 このように、以外にもあっさりと、藍音は河原に受け入れられた。



 ……受け入れられてんのか?







 今日の河原も平和である。







 家にて。

 俺は料理を作る藍音の後ろ姿を、じっと見つめる由壱に気づいた。

 そんな由壱に、俺はわざとらしく言う。


「そうかー、やっぱり浪漫か」


 すると、由壱は目に見えるほど面白く動揺した。


「え、ええ!? いやいやいや、そりゃまあ、あの服は魅力的だなーと、思うけど……」


 そんな風に言った由壱と、俺は肩を組み、至近距離で会話する。


「そんなこと言って。本当はあれだろ? 腰で揺れてる前掛けのリボンとか、頭のホワイト、そうだホワイトブリムとか、気になるんだろ?」

「う、い、いや、そんなことは」

「素直じゃないな。気になるんだろう? スカートの中のガーター、とかな」


 すると、由壱は。


「……うん」


 こいつ、肯きやがった。


「やっぱり白のストッキングだと思うんだ」



 ……そうか、やっぱり、ロマンなのかぁ……


 俺は一人、遠い目をした。




―――



三十九です。
これでやっと藍音編ひと段落。
次はどれを書こうか。




さて、返信。



春都様

ペン回しとか、そんな感じで、やってないと落ち着かない、という。
何を変な癖を付けているんだ薬師。
やはり、藍音さんはお隣さんで落ち着く様子。
お隣さんですからね。すぐ行き来できますから。




ザクロ様

彼の通った後にはフラグしか残らない。
そんな伝説が残りそうな。
というのは置いておいて。
いや、あり得そうだから怖い。




シヴァやん様

薬師は基本常にだらけきったモードで過ごしてるため気付かず。
藍音は逆に気負いすぎて灯台もと暗し。
そしてやはり娘ポジション。
これは一緒にいた時間が長いこともあるのでしょう。恋愛対象の前に家族、という。





表様

コメント感謝です。
えー……、すいません、誤字です。自分で噴き出しました。
修正しました、が。
薬師が鳴けと言えば鳴きそうな……、げほんげほん。




スマイル殲滅様

家の外では主の外面を気にして行動にでないが、家に一度入れば主の思うがまま自分の思うままに甘えたり。
という、くそっ……、薬師め。
許さ(ry
そしてこのままでは、娘同盟が……。




光龍様

藍音普段は無表情ですが、わんこ並に感情表現豊かだったり。
ちなみに、前さんと比べると、
単純な力比べは前さん、技巧では藍音。胸では藍音の圧勝、ロリでは前さんに軍配。
見た目のインパクトは引き分け。




彩雲様

藍音は当の昔に落としたところをやっと飛び立とうとしたのを見計らい、ヘッドショッ!!
流石薬師。やることがえげつない。
現状では同居はしない模様。お泊まりは来るだろうけど。
閻魔の涙目は、近いうちに、とお約束しましょう。




悠真様

敏腕かつ優秀だけど、薬師のこととなると冷静さを失い気味、という。
御☆話については、無論、拳で。
そして、すごく用心深く、死ぬほど注意深く頑張るのに、うっかり一番大事なところで表札を見落とすのが藍音クオリティ。
推理ゲーで最後の一手が届かずバッドエンドになるタイプでしょう。




ヤーサー様

そしてその両親、祖父母のメンバーで脱衣麻雀がががががががが。
薬師は常にアンテナ畳んだ状態でだらけ切ってるためきっとステルス機能が付いてるんです。
一見ではただのダメリーマンかフリーターとしか思えない機能が働いてるんです。
ちなみにメイドさんの頭のひらひらはホワイトブリム、とか言うそうです。




奇々怪々様

割烹着、メイド服、エプロン。
家事をする姿というのは、古来からの女性らしさを思い起こさせるとともに、主従や妻である関係を表すことによる――。という語りは途中で止めるとして。
薬師を弄れる数少ない人間の一人ですね。
SでもMでもどちらでもいじり倒せますが、ニュートラルからの攻撃には少々隙ができるようです。




ねこ様

近所づきあいで由壱はその足元をなめ回すように見て(名誉のため削除)
むしろ藍音としてはきっと薬師のことを夫婦風味に薬師さんと呼びたいに違いない。でも、言えないので、薬師さ、まになるとか。
それと、ツンデレ喫茶なる外見ではなく内面を売りにしたものであるなら、所詮模倣で、不特定多数に配る量産マニュアル品。天然に比べれば劣化した品でありましょう。
それでもある程度のレベルに押し上げるのであれば、かなりのこだわりが必要なほか、店員の演技力が必要であるため……、バイター程度では不可能ですね、はい。
そしてヤンデレ喫茶はツンデレ以上に演技力が、というか半端な演技では成り立ちますまい。もしくはヤンデレではなく一般から見て少々度を超してる、という妥協で終わるのか。




楽天様

報告わざわざどうもです。
いやはや、全く、初歩的なミスであります。
申し開きのしようもなく。
すっかり忘れておりました、はい。




SEVEN様

うちの薬師は人の心の隙間に入り込む能力者ですから。
最低ですね。
と、言うのはともかく。
結局のところ、一挙一投足がフラグに繋がる薬師ですから同じ穴の狢ですね。







では、最後に。


 由壱……。


もしくは、

 由wwwwwwww壱wwww。


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