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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/07 00:05
俺と鬼と賽の河原と。



「一つ積んでは由美のため」


「二つ積んでは由美のため」


「三つ積んでは――」




「あの……、お父様、重いです」



 由美の額には、濡れた手拭が何重にも乗っかっていた。







其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。









 由美が、風邪をひいた。


「ご、ごめんなさい……」


 残念ながら、霊体になって尚、人類は風邪から逃れられないらしい。


「気にすんなっての。ほらほら、ゆっくり寝てろ」


 実質、地獄において病が流行することは、殆ど無い。

 そも、病原菌の絶対数が、圧倒的に少ないからだ。

 何故、と問われれば、病原菌が死んで、地獄に来た時、それは病原菌などよりも、別の前世の姿を取るのだ。

 当然である、特別な思いがあれば、死した時に前世の魂が表面化する、という話があるが、死んだときの魂が何かを考えることもない程の単細胞生物などであれば、至極簡単に、その精神は奥底へと追いやられるわけだ。

 だが、しかし。

 いないわけでもない。

 まあ、本来なら全く問題ないほどの量なのだが、今回は時期が悪かった。

 人から餓鬼となり、そして、その治療中。

 まだなりたてとも言える由美の体は、免疫が落ちているのだ。

 故に、運悪く感染してしまった、と。


「一応体温計で熱測っとけ」


 ベッドの上に横たわる由美に、体温計を渡す。

 上気した頬と、荒い息が痛ましい。

 そんな俺は、ベッドの横に座りこむようにして、体温計がなるのを待つ。

 由壱は仕事に出向き、只管に部屋は静かだった。

 そんな中、空気を読まない体温計の音が鳴り響く。

 由美が脇から取り出したそれを、俺は受け取り、言った。


「三十八度二分、辛いだろ? 今日はゆっくり休め」


 そう言った俺に、由美は申し訳なさそうにする。


「ごめんなさい……、私がしっかりしてないから……」


 二度目の謝罪。

 それを俺は首を横に振って否定した。


「だからいいっつの。俺としちゃ、完璧超人であってくれる方が困るね。俺の存在意義がない」


 いじれないしな。

 熱気を放つ額に俺は優しく触れ、言う。


「ともかく、治すことに専念だ。今日くらいなら、べったり甘えてくれても歓迎するぞ?」

「あ……、はい」

「いい子だ。さて、と。でこに貼る類の物でも買ってくるか――」


 正直に言って、風邪を引くことなど通常ではありえないため、風邪対策の物はほとんどないと言っていい。

 額に貼るようなのが売ってるとしたら、下詰神聖店くらいか。

 そう思って立ち上がったら、着流しの裾を、掴まれていた。


「あ……」


 それに今気づいたかのように、ぱ、と由美が指を拡げた。

 俺は思わず、苦笑いする。


「言ったよな? 今日はべったり甘えてくれても歓迎する、って」


 俺の言葉に、由美の手が、宙を泳ぐ。


「だが、言ってくれなきゃわからん」


 すると、今度は口を開いて、何か言おうとして、閉じる。


「甘えるってのは、そうだな、自分が甘えに行くってことだろ? だから、まあ、要求がないなら、俺は行ってしまうが――」


 それでも、口を真一文字に引き締める由美を見て、俺は溜息一つ吐くと、どかり、とベッドの隣に胡坐をかいた。

 意外そうに見てくる由美に、俺は苦笑いを見せる。


「言ってくれなきゃわからん事もあるが、言わなくてもわかること、ってのもあるんだよ」



 すると、やはり申し訳なさそうな顔。


「ごめ、んなさい……」

「だから、謝らなくていいっつの。誰も迷惑なんて思ってねーよ、いっそこっちが悪いことしてる気分になる」


 と、その時、俺の頭に少々閃いた。


「そうだな、次謝ったら、罰ゲームな」

「えっ?」


 驚いた表情の由美に、俺はいたずらっぽく笑いかけた。


「おっと、無理すんな」


 すると、すぐはっとしたような表情になって、


「あ、ごめ……」


 謝りそうになって、言葉を飲み込む。


「おっと、危ないぞ? 大丈夫か? 罰ゲームになったらあれやこれやするからな、覚悟しろよ?」


 笑って言う俺に対し、由美はその光景を想像したのか、ただでさえ赤い顔を更に赤くする。


「おいおい、無理すんなよ?」


 俺はもう一度、その玉のような汗の浮かぶ額に優しく触れて、言った。


「とっとと寝ちまえ。寝付くまではずっとここにいるから」


 由美はこくんと、肯き。

 ほどなくして、眠りに落ちた。


「さて、まずは……、桶と手拭だな」


 そう一人呟いて、風呂場から桶を取り、水を入れる。

 その中に、手拭を放り込み、絞る。

 そして、由美の許まで歩いて行き、額に乗せる。


「さて、と。次は、昼飯か……、粥だな」


 昼まではしばらくある。

 俺は、苦しそうな由美の手を握り、目を閉じた。







「さて、丁度いいか?」


 鍋の中で煮られる白い粒を、少々掬って、口に含む


「おっし、いけるな」


 中身を容器に入れる。

 これで粥が完成。

 台所から出て、由美の元へ。

 すると、はっとしたように跳び起きて、不安げに辺りを見回す由美を俺は目撃する。


「俺はここだっての。どこにもいかねーよ」


 俺は苦笑一つ。

 すると、俺を見つけた由美は、すぐに満面の笑みを見せ。


「やけに嬉しそうだな」


 俺の言葉に、それをすぐに引っ込めた。

 俺はにやりと笑う。


「もう笑うのやめるのか? 折角可愛いかったのに?」


 ぼんっ、という擬音がしてもおかしくない程に顔を赤くする由美。

 照れてる照れてる。

 そんな由美に、俺は今度は普通に笑いかけ、粥の入ったお椀かられんげで一口分を掬い、息を吹きかけ冷ます。


「ほら、口ぃ、開けろ」

「え? あ……、はい」


 戸惑いながらも口を開いた由美の元に、れんげを運ぶ。


「美味いか?」


 聞くと、由美は肯き、その後、おずおずと告げた。


「あの、自分で……、食べれます」

「そうかぁ、そうだなあ。由美も自分で食べれるなぁ」

「はい、だから……」

「だが断る」


 俺の言葉に、目を丸くする由美。


「言ったよな? 甘えてもいいって。だから甘えとけ。ほれほれ、第二波行くぞ?」

「うぅ……」


 そのように、俺は再び由美の口に、粥を運んで行く。

 それ以上、由美は抵抗しなかった。

 ただ、恥ずかしそうにしながらも、俺の行為を受け入れる由美と、無心に由美の口に粥を運ぶ俺。

 由美の粥を咀嚼する音だけが、部屋に響いていた。













 そして、由美の食事も終わり、俺は額に乗せていた手拭がもうその役目を果たせていないことに気付く。

 手拭を拾って、桶の中に入れてみるが、桶の中の水も既に温く。


「面倒くせえな。しゃーねー、やるか」


 由美が表情に疑問を浮かべる中、俺は迷いなく気流を操った。

 冷たい空気が駆け抜け、冷えた手拭が出来上がる。


「いま、何を……?」

「冷気を集めただけだな」


 主に冷蔵庫やらの空気を適当に吹かせただけだ。

 扇風機要らずである。


「ほれ」


 言いながら、俺は由美の額に手拭を張り付ける。


「さて……。夕飯の材料がねーなー。……買ってくるか」


 独りごちて、立ち上がる。

 今回は、裾を掴まれることはなく。

 俺はちらと由美を見る。

 その瞳が、何かを語っていた。

 だが。


「あの……、お父様」


 その思いは、ちゃんと口から紡がれた。


「行かないで……、ください」


 俺は思わず、口の端が吊り上るのを止められなかった。


「よくできました」








「うーむ……、ちょっとお邪魔するぞ?」

「え? あ、あの?」


 俺は、普通に由美の眠るベッドに入り込んだ。


「む、暑苦しいなら退散するが。暇なんで、俺も寝かしてくれると助かる?」

「いえ、あの、その、……嬉しいです」

「そいつは重畳」


 そして、ベッドに入ってしばらく。

 不意に由美が言った。


「あの……」

「なんだ?」


 由美は、申し訳なさそうに言う。


「今日は、仕事まで休ませて……、ごめんなさい」


 その言葉に、俺は――。


「お前さん、罰ゲーム」


 今、禁句を言った事に気づいたらしく、由美は口を丸くして驚きを表現する。


「あ……」


 そんな彼女に、俺は苦笑一つ、そして言う。


「お前さんな、ごめんなさいじゃなくて他にも色々言う事があるだろうに」


 すると、彼女は首を傾げた。

 仕方がないので、俺は答えを言ってやることにする。


「こういうときは、ありがとう、でいいんだよ」


 罰ゲーム、覚悟しろよ? と最後に付け足して、俺は締めくくった。


「はい……、ありがとうございます……!」


 ただ、その言葉に満足したように頷いて、俺は眠りについた。







 今日も、俺の周囲はいつもと変わらない平和の様相を呈している。












「ただいまー!! 夕飯の材料も買ってきたよー!!」


 返事はない。


「あれ? 寝てる……。仲いいな、兄さんと由美は」


 兄は、風邪がうつったら、どうするつもりなのだろう。


 そんなことを考えながら、少女の兄は、微笑ましい気分で由美の部屋を後にした。












――


其の三十五です。
今回は、由美でした。
次は――、誰にしよう。

そして最近、調子がいい気がする。
速度につながらないのが困りものですが。



では返信。


シヴァやん様

誤字報告どうもです。
何故か前さんと李知さんを間違える癖があるようで……。名前の感覚が似てるのか、さん付けが悪いのか。
ともあれ、実に、猫が鬼になった際に、前世に人間が混ざっていた場合、猫耳っ娘が誕生する可能性も……。
ちなみに、猫らしくないという行為とは、人に忠誠を抱く、などでしょうね。そして鬼に、そして猫耳が誕生! となる訳です。




春都様

感想ありがとうございます。
スケールが壮大でも、一応ほのぼのラブコメですからね。
どこまで行っても薬師の日常、が基本であります。
これからも精進していきますので、お付き合いください。




奇々怪々様

人妻フラグなんですが――、参ったことにネタがふと思いついてしまって持て余す状況に。
どうしよう……、ただ、これ以上予定にない人を増やすと修正がががががが。
猫耳李知さんは、今後登場する可能性は……、大…?
それと、薬師は色々なところが鈍いんです、きっと。




ねこ様

私も猫の飼える家に住みたいです。
昔は居たのですが、今は借り家暮らしでして。
というのは置いておいて、猫フラグは、あるかもしれないです。あってももっと後になるでしょうが。
そして、猫に膝を占領されるとは羨ましいっ、ちょっと猫探してきます。




悠真様

もしも、薬師と閻魔が結婚したら、妹と薬師でいじり倒され。
もしも、李知さんと薬師が結婚したら、薬師と母でいじり倒され。
結局、ハイパーいじられタイムが発動するいじられサイド。
でも、結局妹も薬師にいじられるんですよね、ぶっちゃけ。




jannqu様

感想どうもです。
望まぬ選択肢しかないならば、新たに作り出すんだ!
「残業する」という。と、まあ、それはいいとして。
シュレディンガー。まあぶっちゃけるとなんにせよ猫に付ける名前ではないですね、はい。
それでは、これからも気合入れて頑張っていきますので、受験準備頑張ってください。



最後に。


薬師って……、何気にヒロインポジだよね。


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