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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/03 20:35
俺と鬼と賽の河原と。





 帰ってきたら――。

 玄関に何故かエプロンを着けた由比紀が立っていた。


「お帰りなさいアナタ、ご飯にする? お風呂にする? それともわ、た――」

「残業する」


 なんだ、この異常空間。

 誰か助けてくれ。

 ……。

 そうだ、河原に行こう。

 石を積もう。

 ――今なら、百八つだって積める気がする。






「…照れられたりしたら良かったけど、スルーされると恥ずかしいわね……」







其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。







 帰ってから一日。

 昨日は由比紀が玄関先に立っていたのをスルーして。

 李知さんに預けていた由美と由壱を引き取って、由比紀を外に放り出し。

 そんでちょっと事の顛末を話したあと、俺は寝た。

 それでいつも通りに石を積み。

 お仕事完了、買い物に行く。

 そうして俺は家路に着いたわけだが。

 そこで、意外な人を見つけることとなる。



 途中の空き地に猫の鳴き声。

 なんとなくそちらを見ると。


「おーい、李知さ……」


 そこには、しゃがみこみ、猫の両脇を手でつかんで、その猫と見つめあってる李知さんがいた。

 余談だが、猫が嫌そうな顔をしているのは、言わずに胸の中にしまっておこう。

 思わず掛けようとした声が途切れた。

 そして。


「にゃ、にゃー……」


 戸惑いながらも猫に応えるように李知さんが鳴いた。

 鳴いた。

 それを見た俺は声をかけるのをやめ、にやにや状態に移行。

 無論レコーダーの感度は今日も抜群だ。

 そして、再び猫が鳴き、

 李知さんも。


「…にゃー……」


 なんだこれ。

 見てる俺がすごく微笑ましい気分になってきた。

 うん、いいもの見た。

 レコーダーにもばっちり録音済み。

 さて、帰ろうか。

 明日にでもからかいに行こう。

 そう思って踵を返そうとして――。

 からん、と捨てられた空き缶が転がる音。


「ん?」


 それに気づいて振り向く李知さん。

 それだけならまだいいが。

 当然、振り向いた先には俺がいるわけである。


「あ…、ああ、あ、あ……!」


 猫を放り、横から金棒を横薙ぎに振るう李知さん。

 俺は背をそらし、回避。


「ど、ど、ど、どこから見てたッ!?」


 俺は答える。


「にゃ、にゃー……、の辺りから」


 更に金棒が振られる。

 右へ、左へ、縦に、斜めに。


「わ、忘れろ! 忘れろ……!!」

「忘れない、忘れない。忘れたとしてもこのレコーダーがある限り何度でも思い出すさ……!」


 更に激しくなる金棒を回避しながら、言う。

 そんな中、放り出された猫が仕返しとばかりに、背中を駆けあがり、李知さんの頭に飛び乗った。


「あっ」


 思わず前のめりになる李知さん。

 そしてそれを俺は思わず受け止める。

 そんな中、素知らぬ顔で、猫は俺の頭に落ち着いた。


「おいおい、大丈夫か?」

「あ、ああ……」


 俺の腕を掴み、なんとか持ち直す李知さんは、俺の頭の上の猫を見て言う。


「ずるい」

「あ?」


 思わず聞き返した俺に、李知さんは唇を尖らせた。


「懐かれている」


 羨ましそうに俺の頭上を見つめる李知さん。

 その頭上の猫は、まるで定位置でも主張するかのように、べったりと張り付いている。


「お前さんは懐かれてないのか?」


 何も言わなかったが、目をそらすその姿が、事実を如実に表していた。

 そんな彼女に、俺は言う。


「ま、天狗は鬼より自然に近い存在だからな。こういうのに懐かれ易いんだよ」


 要するに俺も、猫の転がる石塀もあまり変わりないということだ。

 そんな中、李知さんが猫に人差し指を伸ばす。

 猫は、それに対し、爪を出して応戦。

 ひょいひょいとじゃれつきながら、李知さんの指に小さな傷を作る。


「ふむ、ある意味懐かれてんじゃねーの?」


 猫じゃらし的な方向で。

 というか、猫にもいじられるのか。

 そう思うと納得した。


「今失礼なことを考えてなかったか?」

「いや全然」


 そう言って俺は目を逸らす。

 李知さんがジト目でこちらを見たが、黙殺した。


「それより、お前さん、よくここ来るのか?」

「ん? ああ。一応毎日来るぞ? こいつに会ったのは先々週だがな」


 と、その言葉を聞いて、俺は思わず言う。


「毎日ここにきてにゃーにゃー鳴いてたのか李知さんは」

「ーーっ!! 忘れろ!!」


 目前に振り下ろされる金棒をカカッと後ろに飛んで回避。

 しがみつく猫が爪を立てそうになるのを感じて、手で押さえてやる。

 ところで、それは語るに落ちている、という奴だと思うのだがそこはどうなのだろう。

 まあ、そこは聞かずに、なんとなく、思ったことを言ってみる。


「可愛いな、いや、可愛いな」


 言ってみたものの、また攻撃が激しくなるだろうことを予測していた俺は、次の金棒が来ないことに軽い驚愕を覚えた。


「李知さん?」


 そこには、顔を真っ赤にしてこちらを見る李知さんがいた。


「み、見るな! そんな目で見るなぁ……!!」


 妙に照れてらっしゃる。


「いや、うん、じゃあ眺める」

「かわってない!!」


 そりゃ見るなと言われたら見るさ。

 と、まあ、それから数十秒ほど。

 李知さんが落ち着くのを待って、俺は言った。


「ところで、この猫、どうしたらいいと思う?」


 俺の頭から一向に離れようとしない猫を指差してみるが、やはり猫は動かない。

 それに対し、李知さんは口元に手をやって、何事かを考えるかのようなそぶりを見せた。


「実は……、家に連れて帰ろうと思ったんだが…」


 李知さんの言葉に、俺は疑問を覚える。


「あれ、寮なんじゃねーの?」


 すると、李知さんは手を振って否定した。


「いや、実家は一軒家で、猫が好きなんだ」


 今までも結構拾っているしな、という言葉を聞いて俺は納得する。


「そういうことか、じゃあほれ」


 俺は頭の上の猫を掴んで李知さんに渡す。

 李知さんは、片腕で猫を抱いた。


「それじゃ、俺は帰るとすっかな」


 そう言って踵を返す俺。

 だが、上手く進めなかった。

 そんな中、李知さんが俺のスーツの裾を掴んだことに気付く。


「どうした?」


 猫を抱きながら、李知さんは言った。


「そ、その。明日、私の実家まで、ついてきてくれないか……!?」


 ……。

 何故に。










 そして、俺が不幸だったのは、先日のお仕事のおかげで、明日閻魔から直々にお休みをもらったことだろう。









「あらあら、こんにちは」


 その結果、俺は今。

 和風庭園付きの武家屋敷にお邪魔している。

 和室で、長い机、奥には屏風やら掛軸があり、まさに古風。


「どうもどうも」

「いやしかし、家の李知が男を連れ込むなんて思いませんでしたわうふふ」


 目の前の和服の女性は、李知さんの母。

 ちなみに李知さんを垂れ目にしたようなのほほんとした美人である。

 そんな彼女と、俺はうふふうふふと笑い合い、そんな中、李知さんだけが肩を怒らせる。


「わ、私と薬師はそんなんじゃ――!!」

「でしょうね」

「で、でしょうね、って」

「あなた、普通に恋愛できるほど器用じゃないじゃない」

「ぐ、ぎぎぎ」


 こっちでもからかわれてるのか。

 どうやら、閻魔の一族は、完全に美沙希と由比紀の型に分かれるようだ。

 うむ、ただ、からかわれるから実家が苦手なのはわかったが。

 俺を連れて来ても逆効果だぞ?


「いやあ、今回は他でもない、お宅の娘さんが見つめあってにゃーにゃー鳴いてたその片割れを預かっていただきたく」

 その言葉に、李知さんの母親は笑みを深めた。


「あら」

「あ、証拠品があるんだが聞くかい?」


 すると母親はにこにこと笑いながら一言。


「はい」

「って聞かせるなー!!」


 レコーダーを取り出しかけた俺に、やはり金棒を当てようとする李知さん。


「では、後でお聞かせ願えますか?」

「当然」

「だから聞かせるなー!!」


 金棒を避けながら、俺は李知さんに言う。


「無理だ、到底な。今の俺は止められんよ」


 何時になく本気な俺に、李知さんは戸惑いを見せた。


「な、なんだ?」

「ぶっちゃけると、お前さんのお母様と、すごく気が合いそうなんだ」

「帰るぞッ!!」


 どうやら身の危険を感じたらしい。


「あら、その猫ちゃんはどうするのかしら?」

「む」


 しかし、それは李知さんの母親――、というか。


「お名前は?」

「あら、自己紹介が遅れましたね。私はそこの李知の母親の玲衣子と申します」


 玲衣子、レイコね、由比紀に似た名前なのは関係があるのか。


「俺は如意ヶ嶽薬師。そこの李知さんの友人だ」

「いつも娘がお世話になってます」

「いえいえ、娘さんにはいつも助けられてばかりで」


 と、まあ俺達は李知さんを余所に、社交辞令、もしくはお約束を繰り広げる。

 ともあれ、李知さんの脱走は未然に防がれた訳だが。


「李知さん、なんだ?」


 なぜか李知さんこちらを睨み据えているのに気付く。


「なんでもない」


 取りつく島もなく返されたが、その答えは玲衣子の元から返ってきた。


「疎外感を感じているのですよ」


 ほほう、なるほど。


「ほうほう、寂しかったのか。これはすまなかった李知さんよ」


 俺の胸に飛び込んでおいで、と言った瞬間に金棒が飛び込んできたので回避。

 突きだされた金棒が鼻先を突き抜けて行く。


「で、引き取ってもらえるのかい?」


 表情を変えず、のけぞったまま、聞く。

 すると、玲衣子は肯いてくれたが――。


「はい。ですが――」


 ですが、と不穏な言葉を続けた。

 ぴたり、と李知さんの動きが止まる。

 何らかの問題があると思ったのだろう。


「お母様、何か家に問題が……?」


 あと李知さん、いい加減突き出された金棒を引っ込めてくれないか?

 仰け反るのも疲れてきたんだが。

 と、そんな俺達を見ても顔色一つ変えず、玲衣子は言った。


「実は、家の子が家を荒らしちゃって、先にお片付けしてくれるかしら?」


 李知さんが前のめりに倒れる。

 その際に落ちてきた金棒を俺は手で受け止めたが、

 棘が刺さった。


「いてっ」


 鬼の金棒と言えば、悪用を防ぐために重量が一トンを超えるほどだ。

 そんな危険物を適当に放って置きながら、李知さんは己が母親と会話を繰り広げる。


「お母様! ひやひやさせないでください!!」

「うふふ、ごめんねぇ」

「というか、掃除くらいご自分で!!」


 て、ちょっと待て。


「私が家事全般できないのはしってるでしょう?」

「た、確かにそうですけど――」


 痛い痛い、これちょっと棘が手の甲貫通してるってマジで。


「うん、だから、片付けて?」

「そんな可愛らしく言われても……」


 しかも抜こうにも両手が棘で固定されてるから抜けないし。

 支えている腕を思い切り上に振り上げたら抜けるが、それをやったら天井を金棒が突き抜け、落ちてきた際に床を粉砕するだろう。

 挙句李知さんは会話に夢中で気付いてないし。


「お客さんが来るって言うから、居間はどうにかしたのだけど」

「居間はどうにかできたなら他もどうにかしてください!!」


 軽く腕を上下に振ってみるが、がっちりかみ合って取れる様子はない。


「あら、どうにかしたと言ってもあった物を全て隣に放り込んだだけよ?」

「……」

「ちょっと見てくれるかしら?」


 そう言って玲衣子が立ち上がり、俺達もそれに習う。

 そして、玲衣子が隣の部屋の襖を開き、


「うわぁ……」


 劣化聖域が拝めた。

 閻魔宅のような臭いの類はないが、紙束がすごい散乱の仕方をしている。

 閻魔宅と比べるなら、こっちの方が綺麗だが、秩序なく、嵐の後をなんとなく連想させた。


「これは、時間がかかりそうだな……。薬師、悪いが手伝って……? ――!?」


 そんな中、振り向いた李知さんが、やっと俺の惨状に気づく。

 よく考えると、この状況はすごくシュールだよな。


「いやぁ、やっと気付いてくれたか。このままじゃ、片膝立てて李知さんに金棒を捧げる人に落ち着くのかと思ったよ」

 そんな風に言った俺に、李知さんは血相を変えて対応した。


「い、いや、そんなことより、貫通してるぞ? しかも血がだくだくって……。え、あ、あ」


 慌て戸惑う李知さんに、玲衣子が言う。


「これは酷いわ。貴方が舐めてあげないと」

「え……? あ、そ、そうだな!」

「いや、そんな展開要らないから」


 今の李知さんなら多分何でも聞くのを判っててすかさず言う玲衣子も玲衣子であるが。

 まったくテンパった人にそういう事を吹きこむとは中々鬼畜だな。


「というか、いい加減抜いてくれまいか」

「えっ? あ、すぐ抜く!」


 慌てた李知さんが力いっぱい金棒を持ち上げた。

 凄まじく、すこぶる痛いのは言わなくてもわかると思うが。


「あー、これから一生金棒と付き合って生きていくのかと思ったぜ」


 いやしかし畳を汚してしまって申し訳ないね。


「す、すまない……」

「気にすんな。まあ、これ以上血垂らすのもあれだから、包帯の一つでも持ってきてくれるといいが」


 傷自体はすぐに塞がるだろう。

 だが、それまで血を垂らし続けるのも気が引けた。


「すぐ持ってくる!」


 そう言って走って行く李知さん。

 そして、そう経たずに救急箱を抱え、戻ってくる。


「そこに座れ!」

「へいへい」


 机の場所まで戻り、座布団の上に胡坐をかく。

 続いて李知さんが座り、消毒液に浸した綿を手の甲と平にあてる。


「あー、消毒は要らんぞ? 傷よりもぼったぼた流れる血の方が気になる」

「それでも、やっておくべきだろう? すぐ終わる、大人しくしろ」


 仕方ないので俺は黙って待つことに。

 すると、手の両側に、ガーゼが当てられ、包帯が巻かれていく。


「よし、これでいい」

「下手な巻き方だな。この不器用さんめ」

「わ、悪い」

「いや、そこで謝られても」


 どちらかというと、わ、悪かったな! という台詞を予想していたため少々意外だ。

 微妙に責任を感じられているようで、李知さんは肩を落とし、俯く。


「気にすんなっての。ほれほれ、見た目悪くても取れなきゃ問題ねーよ」


 そのように言いながら、包帯をされた手で、ぺしぺしと李知さんの頬を叩く。

 すると、李知さんが顔を上げ、こちらを見る。

 そんな李知さんの頭を小突いて、俺は立ち上がった。


「掃除、するんだろう?」
















「あー……。疲れた」


 掃除を終わらせ、とりあえずという事でゴミ袋を納屋に運んだ俺は、居間に続く、襖を開く。

 中には――、


「おい? 李知さん?」


 壁に寄り掛かるようにして眠っている李知さんがいた。

 疲れて待っているうちに眠ってしまったのだろう。

 だがしかし、


「どうしような、これ」










 それから、三十分ほどが経過した。

 後で、襖が開く気配。


「お茶ができましたよ……? あら? あらあら? 邪魔しちゃったかしら?」


 何を勘違いしたか、俺と李知さんの様子に、玲衣子はにやにやしながら湯呑を置いた。


「お茶は頂こう」


 李知さんは、縁側で胡坐をかいた俺の膝に頭を乗せて、寝ている。

 とりあえずもう少し寝やすくしてやろうと思って壁に寄り掛かった状態から床に転がしたまではいいが。

 見ていて少し仏心、という奴を出した結果がこれだ。

 どうやら、現世で大天狗やってた頃からずっと、父親癖が抜けないらしいな。


「しかし、普通に猫屋敷だな」


 そのように呟いた俺の視線の先には仰向けで寝る李知さんの上で眠る猫がいる。

 更に、俺達に寄り添うように数匹の猫が、日に当たりながら寝ていた。

 そして、今日預けに来た猫は、まさに俺の頭の上で寝ている。

 ううむ、懐かれてないと言っていたが――、どう考えても仲良しです本当にありがとうございました。

 同じか下に見られてる風ではあるが。


「うふふ、可愛いでしょう?」

「うふふ、そうだな」


 すると、意地の悪い笑みを浮かべて玲衣子は言った。


「どっちが?」


 どっちが。

 李知さんと、猫?


「両方可愛いと思ってるよ」

「うふふ」


 その言葉に何を思ったのか、心の読めない笑みを返す玲衣子。


「なんだその笑い」

「いえ、そう……、うちの李知ちゃんはまだ猫と同列なのねぇ」


 道は長いわ、と嘆く玲衣子。

 意味が解らん。


「うふふ、気にしなくても構わないわ。それより、李知をよろしくね?」

「ま、言われずともよろしくさせていただくさ」

「よろしくするの?」

「ん? ああ」


 なんだその含み笑いは。

 そんなことを思いつつも、俺も眠くなってきた。

 猫をなでているつもりが李知さんの頭だったあたり、もう落ちかけているのだろう。



 俺は、そのまま眠りについた。


「あらあら、寝ちゃったのかしら。うふふ」





 今日も今日とて平和である。








おまけ


「ところで、こいつの名前は何にするよ」

「うーむ……、喜三郎!」

「ないな」

「シュレディンガーなんてどうかしら?」

「わかってて言ってんのか?」

「じゃあ、彰英!」

「そも、こいつ雌」

「そうねぇ……、ジョセフィーヌ?」

「どうかと思う」

「だったら、薬師はどんな名前を付けるんだ?」




「……えーと、タマ?」






おまけ2



「うふふ、李知ちゃん、ご機嫌ね。薬師さんに膝枕されたから?」

「な、なな、そんなことは――!!」

「やっぱり、好きなの?」

「そ、そんなことはない! 断じて!!」

「うふふ、じゃあ、お母さんが貰っても、いいわよね?」

「だ、ダメだッ!!」

「あら、好きじゃないんでしょう?」

「うぐ、そ、それでも」

「私がちゃんとアタックしてモノにしたなら、文句はないでしょう?」

「だ、ダメだ!! お母様でもそれは許しません!!」

「じゃあ、あなたがちゃんと落とすのよ?」

「っ!!」






「うふふ、これくらい発破掛けとけば大丈夫かしら?」



―――

今回のメインヒロインは、

    金 棒 。

嘘です。
すいません。
金棒擬人化九十九神とか一瞬でも頭をよぎって無いですすいません。
後一児の母にフラグとか、猫擬人化とか全然考えてないです本当です。


そう言えば、いつの間にか十万PVを超えてました。
書き始めた当初は、万でも超えればと思っていましたが、意外と長くなったものです。
これからも気合入れていきたいと思います。


では返信。


奇々怪々様

確かにそうですね。
笑いながら死ぬのと、睨み恨みながら逝く場合。
前者は得体のしれない恐怖、後者は罪悪感が手に入るのではないでしょうか。
どちらにせよ、トラウマ確定! でありますね。



ねこ様

秘書さんが薬師がいると確信したのは意外と最近です。
まあ、詳しくは本編三、四話後で語られる気が。
今頃、血眼で薬師を捜索中……?



シヴァやん様

秘書さんはもう少しあとになりそうです。
そして、前さんだけでなく李知さんも本気になったようで。
色々な人たちがマジになってきています。
このままでは、出遅れると勝ち目がががががが。



gohei様

感想どうもです。
まあ、生徒会は正規メンバーではなく、友人の手伝いなんですがね。
それと、一応ほのぼのラブコメなんで、薬師が格好良くなりすぎないように生きたいと思います、はい。
またゆるゆるに戻った薬師の日常を見て頂けると嬉しくて感動にむせび泣きます。



やっさん様

いやはや、色々と嵐の予感ですね。
問題は暁御の活躍の少なさ。
じゃら男との絡みがメインなので、じゃら男メインになるんですよね。
このままでは、暁御が本当にブラックストマックな人に……。
そうでもないと活躍できな……。



悠真様

感想感謝です。
いやはや、拙作を一気読みなさるとは、中々の猛者であられる様子。
これからは、更新して行く一話ずつ見て頂けると嬉しいです。
とりあえず、近いうちに駄目ンマ様も出したいと思っております、はい。








では最後に。

猫を相手にフラグが立つ体質なんて……、悔しいッ! 俺にも欲しい!


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