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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の三十二 俺と山と天狗と。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/27 19:18
俺と鬼と賽の河原と。




 その日は妙であった。

 その日、なぜか、前さんは河原に現れず。

 俺は待ちぼうけを食らう。

 そして、半刻ほど経ったか否か。

 前さんは、閻魔と共にやってきた。


「んー? どうした?」


 珍しい光景に俺が聞くと、閻魔はいきなりこう言った。


「あなたには、一度現世に行ってもらいます」

「なにゆえに」


 こんな一幕から今回の話は始まる。



 どうやら今日の俺は、石を積めないらしい。






其の三十二 俺と山と天狗と。











 その日は妙であった。

 その日、なぜか、前さんは河原に現れず。

 俺は待ちぼうけを食らう。

 そして、半刻ほど経ったか否か。

 前さんは、閻魔と共にやってきた。


「んー? どうした?」


 珍しい光景に俺が聞くと、閻魔はいきなりこう言った。


「あなたには、一度現世に行ってもらいます」

「なにゆえに」


 こんな一幕から今回の話は始まる。








「これも仕事です。本来は死神が行くべき仕事なのですが、今回ばかりは貴方が適任かと」

「おいおい、こんな一般人に何をさせるんだよ、美沙希ちゃんは」


 無論美沙希ちゃんを強調する俺。

 すると、途端に面白いくらいに表情が変わる。


「なっ!! ど、どどど、どこでそれを……!?」

「妹」

「会ったんですか!?」

「おう」


 よし、このまま誤魔化そう。


「って! それはともかく、貴方が一般人だなどとどの口がほざくんですか?」


 ……、誤魔化しきれなかったか。

 そして、更に、昔の自分の行動が悔やまれる。

 そーですねー。

 明らか様なんて造語が出るくらい一般人には程遠いですねー。

 さよなら俺の平穏。

 こんにちは閻魔に顎で使われる毎日。


「で?」


 すると閻魔は咳払い一つ。


「貴方には前と一緒にとある場所に行ってもらいます。詳しくは先に聞いてトラブルを解決してください」


 あっはっは、どう考えても死神の仕事じゃないか。

 ちなみに、死神の仕事って言うのは、別に人の魂を奪って行ったり、黒装束で悪霊を倒すようなものではない。

 魂の循環を円滑に、が死神の仕事である。

 魂集めて何かしようとする輩を倒しに行ってみたり。

 戦争に多少の介入をしてみたり。

 悪い妖怪を懲らしめたり。

 ともあれ、人が死に過ぎないようにするのが死神である。

 なんせ、人が死に過ぎたら地獄に力が溢れて世界がぱーん。

 まあ、死神の仕事なんてそうそうないわけだが。

 通称税金泥棒。


「で、出発は」


 聞くと、いい笑顔で閻魔が答えた。


「今すぐです」

「待てい。ハンバーグ作ってやるから待て。準備の一つもさせろ」


 すると、閻魔は明らかに同様したようだが、誘惑に打ち勝って見せた。


「ぐっ、いえ、これは仕方のない事なのです」


 だが、引き下がれん。


「シチューも付けてやるから落ちつけ」


 俺がそう言うと、一瞬の間が空いて。


「……三十分だけですよ?」


 俺は三十分の猶予を勝ち取った。














 それから、一時間の時がたち。

 俺は今、現世に帰っていたりする。


「それはいい、それはいいんだがな?」


 生い茂る植物たち。

 綺麗な空気。

 馴染みのある、山。


「はめられた、としか言いようがない」


 俺がいたのは、京都府、如意ヶ岳である。

 ちなみに、大文字山と如意ヶ岳は別の山であるとか言うお話が色々あるが、天狗の戦争云々のせいだ。

 昔々色々争って領地が云々増えたり減ったり。すったもんだの挙句に、今は一応如意ヶ嶽領土である。

 ところがどっこい、ここは如意ヶ嶽だ、と決まった時には時すでに遅し。

 人間は妖怪を信じない時代になったので、その前に決まっていた通りの地名となる訳だ。

 ちなみに、如意ヶ嶽と大文字山が全く別のピークだと主張している三角点マニアに、相手側の天狗がいるのは秘密だ。


「で……、今回の問題ってのは天狗絡みかよ」


 しかも、俺の元身内。

 そりゃ、まあ、俺を行かせるのも理解できる。


「問題ってのはなんだ?」


 はてさて、また鞍馬の野郎が襲いにでも来たのか。

 それとも、内部分裂でも起きたか。

 俺が前さんに聞くと、答えは後者だった。


「旧大天狗派と、新民主派が戦ってるんだって」


 微妙に不機嫌な様子で言う前さん。

 何があるのやら。

 そうかそうか。


「ふーん」

「いや、ふーんって……」


 そう言ってこちらを見る前さんに俺は気のない返事を返す。


「つか、ほら。俺その新民主派に殺された訳じゃないか。その時に全問題押しつける代わりに死んだわけだよ俺は」


 死んでも現世のしがらみが消えんとは恐るべし、天狗の業。


「だが、ぶっちゃけるとしがないバイターな俺は上からの命令には逆らえないんですねわかります」


 あはは、と笑う前さんと共に、山を進む。

 とりあえず、山にいる天狗を探して話でも聞かねばらならない。

 と思ったのだが。


「……里の位置はどこだったか…」

「え?」


 俺の脳の記憶領域に全く記録されていない。

 俺の記憶の適当さに絶望した。


「えー…、と。右?」

「いや、右って…」


 前さんの突っ込みは放置。

 適当に歩けばきっと見つかる。

 気がする。

 天狗の里とは、当然山の中にある訳だが、空気の流れ等など使える技術の限りを尽くして人が寄らないようにしている。

 だから、きっと歩いてたら俺には不自然な空気が目につくさ。

 きっと。

 などと歩いて三十分。

 ついに、

 俺は、見知った顔と出会う。


「お、久しぶり。調子はどうだ?」


 そこにいたのは天狗の男。

 鳩棟 仙拓。

 最後に会ったときと変わらぬ、黒髪短髪の若造。


「あ、は……、い? え?」


 俺を後ろから刺した男である。


「うわあああああッ!! ごめんなさいごめんなさい! 化けて出ないで!!」


 地に手を付き頭を下げる仙拓。

 相変わらず小心な男だ。


「落ちつけ」

「ぷげっ」


 俺はそんな仙拓の顎を蹴り上げた。


「いや、化けて出たのはマジだけど。別に呪い殺しに来たわけじゃねーから」

「へ?」


 意味が解らない、というようにこちらを見上げる仙拓。


「なんか問題が起こってるらしいじゃねーか。俺達は、そいつを解決して来いって言われて来てんだ。とっととゆっくり話せるとこまで案内しろ」


 俺は、仙拓との会話に、懐かしさを感じていた。

 ああ、今こいつらが何をやっているのか。

 わくわくする。







「で、今はお前ら何やってんだ?」


 所変わって里の執務室。

 俺達はそこにある机を挟み、お話している。

 ここに来る途中、ぎょっとされたり拝まれたり悪霊退散されたり色々あったが変わりない。


「何、ですか?」


 聞き返す選択に俺は肯いた。


「俺がいなくなってからこの里はどうなった?」


 俺は、自分を殺して歩んでいくこの山の姿が、楽しみで楽しみで、仕方がなかった。

 すると、少々気まずそうにしながらも、極めて明るく、仙拓は言う。


「今我々は、人間との共存を目指し、如意ヶ嶽運送を経営しています!!」

「ほぉ、って、お前らそんなことやってんの!?」

「はい!!」


 生き生きと語る仙拓に、俺は笑いを堪え切れなかった。

 ぎょっとなってこちらを見る仙拓と前さんを余所に俺は笑い続けた。


「っぷ、ははははは! 運送業ね!? なるほどこれほど天狗に合った職業もない」


 しかし、人間社会という奴の懐も存外広い。

 もしくは、目の前の若造がそれを広げて見せたのか。


「いやはや、応援したくなった。いや、本気で」


 などと笑いながら言ったが、やはり仙拓は気まずそうにしていた。


「なんだ? 何がそんなに不服なのやら」


 怪訝に思った俺がそう聞くと、ぽつりと、仙拓は言う。


「……貴方は、貴方を殺した私を、恨んでいないのですか?」


 ……。

 今度こそ俺は、吹き出し、大笑いした。


「今更、何を、言っているんだ……。く、くく、腹が痛い。いや、馬鹿じゃねーの? 馬鹿じゃねえの?」


 いや、白い目で見ないでくれ前さんよ。


「いや、そんな、二度も馬鹿は酷いでしょう」


 そこは突っ込みどころじゃなかろうに仙拓。


「いや、もうな? 何一人で緊迫した真面目な空気作ってんだよお前は」

「いや、真面目、じゃないので?」

「当然」


 俺は自信満々に肯いた。


「お前、いきなり地獄から復活して問題解決なんてどう考えたってネタだろ」


 周りが絶句していた。

 あれ、空気が痛いよ前さん。

 うん、というか本気で恨んじゃいねえんだよ。


「むしろ、お前が俺を刺しに来て、俺としては嬉しかったからな」


 すると、いきなり前さんと仙拓が俺から遠ざかる。

 そして、ひそひそと。


「どM……?」

「そう言う趣味が…」

「ねーよ」


 その上、仙拓は俺の死ぬ間際にいたじゃねえか。

 ついでに、どちらかというとSだよ。


「いえ、あの時の事は貴方が余りに凄絶すぎて、もう、思い出したくな……」


 ひゃっほう、俺はどうやらこいつにトラウマを作って死んだらしい。

 死ぬときに俺、そんなすごい顔、してたろうか。


「いえ、すごく大笑いしてました。歯をむき出しにして、血を吐きつつ」

「怖っ」


 仙拓の言葉に前さんが身震いした。

 そうだね、話を聞いたら俺も恐ろしいと思ったよ。


「そんなに俺すごい感じで逝ったのか?」


 仙拓は肯く。


「それはもう。なんかようやく望みが叶ったようなニュアンスの言葉を残して。…あの後、何が起こるかと恐々としてました」


 あー。

 なるほど、主観的に見たらそうでもないんだけど、どう考えても客観的に見ればホラーだな。

 俺の死にざま。


「どんな死に様だったのさ」


 そう言って聞いてくる前さんに、俺は笑いながら説明することにした。
















「と、まあ、こんな感じだが、今思ってみると俺の最期ってラスボス臭いな」


 決死の覚悟で殺したら大笑いされたら流石に、トラウマにもなるか。

 二人とも苦笑いだ。


「あ、そう言えば、藍音はどうしたよ」


 俺の秘書を務めた女天狗の名。

 懐かしくもあり会ってみたい。

 すると、仙拓は非常に言い難そうにしながら、それでも言って見せる。


「……死に、ました。貴方の死後、まるで死に場所を探すように前線に出続けて…」

「そうか」


 俺はそれだけ言う。

 藍音は今頃地獄か、転生したのか。


「ま、昔話はもういいか。俺が復活しそうなラスボスだという事がわかっただけだし、次は本題だ」


 すると、あれこれと書類を出しながら、仙拓は語りだした。


「実は、今精力的に働いてる派閥と、昔のように戦い続けるべきだ、という派閥に分かれてまして――」

「いま、鞍馬とは?」

「戦争を抜ける旨を話したら喜んで了承してくれました」


 なるほど、では今は内敵だけか。


「んで?」

「それで、古参メンバーの幹部を中心に、今は亡き貴方の名前を祭り上げて、こちらと戦争しようとしてます」


 へー。

 で、それを俺に止めろと?


「俺に説得してね? ってか?」

「そう、ですね」


 へー。


「へー」

「へーって…、興味無さそうですね」

「ないぞ?」

「え」


 固まる仙拓を後目に俺は考える。

 どうしたものか。

 これ。

 ……、よし。


「じゃ、逃げるわ」

「へ?」

「あ」


 俺は前さんを小脇に抱え、窓から脱出。

 飛んで逃げることにした。









「ちょ、ちょっと薬師! いいの?」


 何もない山の中、俺に前さんは言った。

 そんな前さんの手を握り、俺は言う。


「前さん、結婚しよう!!」

「え? あ、え? け、結婚?」

「そう! 天狗も閻魔もいないところでめんどくさいから戦争とか放置でゆっくり寝よう!!」


 べ、別に面倒くさくなったとかそんなんじゃないんだからねっ。


「え、あ、うん。や、薬師がそれでいいなら――」

「という冗談は置いておいて……、うぉおう!?」


 鼻先をかすめる金棒。

 前さんが怒ってるよ。


「あっはははは、死ぬ。死ぬから金棒ぶん回すのはやめような?」

「うるさいっ、死ね!」

「いや、死ぬから」


 とりあえず後ろに回って抱きしめるように固定。


「あ、ちょ、…うー……」

「はいはいちょっと落ち着こう、な?」


 すると、前さんは俺の拘束から逃れると、こちらを指差して言った。


「こないだの罰ゲームもあるんだからねっ!? 覚悟してよ!?」

「っぐ、これは痛い!」


 すっかり俺が忘れていたというのに。

 というか何を怒っているんだ前さんは。


「で、どうするの?」


 やはり不機嫌。

 朝からだ。

 原因がわからない以上どうしようもないが。


「いつまでが、滞在期限だ?」

「二週間、だけど?」


 ううむ、できるだけ家族の元に早く帰りたいが――。


「確か、死神のセーフハウス、とやらが使えるんだったな?」

「うん」


 肯いた前さんを見て、俺は決めた。


「今回の件、俺はぎりぎりまで関わらん」


 べ、別に面倒くさいとか関わりたくないとそう言う話ではない。

 多分。

 あれらのためを思ってやっている、気がする。


「え?」


 聞き返す前さんに、俺は言う。


「風が不穏だ。多分、一週間もせず戦いが始まるだろ。だけど、俺はできるだけ手を出さん」

「それって…、いいの?」


 俺は肯いた。


「で、でも……」

「こいつぁ、ガキの喧嘩と大差ない。俺が出て行くのは子供たちじゃどうしようもなくなったとき、だ。ぶっちゃけぎりでも間に合うだろ」


 いやもうぶっちゃけるとね、仕事と言えどもちょっとばかし嫌な訳で。

 そう、巣立ちの時なんだよあいつらも。

 親が手出したら行けないさ!!


「しばらく、一緒に住むことになるのは悪いが、付き合ってほしい」


 俺は真っすぐ前さんを見つめながら、言葉を紡いだ。


「え? 同居…? う、うん!」


 肯いた前さんに俺は微笑む。




 決して、面倒だからではない。


 決して、絶対に。



 久々の京都漫遊がしたかったわけでは、ない。










――――――



三十二始まる天狗編。
謎に包まれた薬師の死に迫る!!
とか言うと格好よさげですが、残念、天狗編は次回で終了です。


というか、どちらかというと、薬師があそこまで父親の如し生暖かい目でいられる謎に迫っている気が。


そしてあまりシリアスは無い。
メインは前さんとの同居フラ――、何でもありません。


まあ、一応目的はあります。
ここで天狗編をやっておかないと一名永遠に出せないキャラがおりまして。


と、まあとりあえず返信と行きたいと思います。





ねこ様

薬師のキルマークは未だ増え続けるようです(?)
とりあえず、秘書の人は早いとこ出したいと思っていたり。
そして、罰ゲームを仄めかす言葉も。
そう遠くないうちに地獄で地獄を見る羽目になりましょう、薬師が。
そして、可愛いは正義、猫は可愛い、可愛い猫は正義。




ハクコウ様

一級フラグ建築士、薬師は未だにフラグを立てることをやめないようです。
そして、レコーダーは天狗七つ道具の一つ。
というか薬師のことだから修験の法螺をレコーダー再生しそうな予感が。
最後に。天狗をからかえるとしたら――、前さんが最も好機である、と。
要は勝負で負かして強引に扉を開こう!と。





ゼン様

指摘感謝です。
確認したところ、
文の前後から違和感がむんむんしておりましたので、修正ました。
ありがとうございました。




山椒魚様

そう遠くないうちに、閻魔はきっと涙目に。
そして、涙目な閻魔が好きな貴方はSなんですねわかります。
きっと薬師なら、貴方の期待に応えてくれましょう。
でも、その前に妹ともう一つフラグ立てなきゃいけないんですよね。




スマイル殲滅様

残念、私の上で野郎がゲーム。うふふうふふ、芽生える殺意。
美沙希ちゃんは今回はチョイ役。
最近の前さんは本気なようです。
帰ってきたら妹編が始まりますが。




妄想万歳様

いいじゃないですか。本名を呼ばれて照れる閻魔の姿が。
こう、嬉し恥ずかしイベントが待っているわけです。
だが、李知さんも書きたいし、兄妹もやりたい、暁御も書きたけりゃ、じゃら男も、とすごい状況に。
ゆっくり一個一個書いて行くしかないわけですが、短編方式のツケがここに。






さて最後に。

着実に閻魔が駄目な人になっている気がする今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。


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