俺と鬼と賽の河原と。
「一つ積んでは母のため」
そう言って俺は積み上げている。
「二つ積んでは父のため」
何を?
「三つ積んでは――」
ゴミ袋を。
「うふふふふー? 俺の仕事は石積みなんだけどなー?」
其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。
さて、どうしたのか。
俺は今、二丁目の閻魔宅を目指している。
ここまで言えば分ってもらえるだろうが、俺の背中には閻魔がすやすやと眠っている。
ちなみに、上に俺の上着を羽織らせた。
でないと、丈の短いスカートだから、大変なことになるのだ。
俺が送るにあたって、色々と意見も出たが、前さんはぐでんぐでんだったし、李知さんはぐでんぐでんだったし、ぐでんぐでんな奴しかいなかったのかよ。
ともかく俺しかいなかったわけで。
その辺にいた鬼兵衛に、由壱と由美を任せ、俺はここにいるわけだ。
鬼兵衛は、自分が行くと言っていたが、俺なら帰りびゅーんと飛んで一発だからな、という事で押し切った。
実際の理由は、鬼兵衛が見た目少女背負ってたらどう考えても犯罪です、と思ったからだが。
あと、見た人にトラウマが残るでしょう。
そう考えた俺は、強引に閻魔を背負って送りに行ったわけだ。
ともあれ、俺は何の問題もなく、閻魔の住むマンションに着いた。
が、俺は開かない自動ドアの前に手俺は棒立ちしている。
「と、言う訳で、鍵はどうなってんだか。……ポケットとか、漁らなきゃだめか?」
なんとなく、勝手にポケットとかに手を突っ込むのは、抵抗があるな。
と思ったら、建物に何故かインターフォンがあるので押す。
すると、すぐに応答が来た。
「はい、どちら様で?」
「あー、閻魔の友人の薬師、ってんだが、酔ったら寝ちまって、送りに来たんだが……」
「わかりました、入ってください、502号室です」
すると、自動ドアが本来の役目を思い出したように開く。
俺は閻魔を背負ったまま、エントランスを抜け、エレベーターへ。
五階か……、偉い人間と言ったらお約束といってもいい高いところか。
チーンと、気の抜けた音が響き、エレベーターが五階に到達。
そして、また部屋の前で棒立ち。
……鍵穴がない。
鍵は、掛かっているようだ。
ノブを下げてもびくともしない。
と、そこで、インターフォンのすぐ下に、なんだか黒いパネルを発見。
「指紋認証か?」
俺は、俺の肩から下がっている閻魔の手を掴んで、パネルに指を押し付ける。
「う……、うぅん……」
その動作に、意識を浮上させられたのか、閻魔が呻くが、結局起きない。
起きなかったが、どうやら鍵が開いたようだ。
がちゃり、と、金属が動く音が聞こえる。
「ふう……、便利な世の中になったもんだ」
いいながら、ノブを下げ、引っ張って。
そう言えば、ほとんど女の部屋になど入ったことがないことを思い出した。
余り長くいても失礼になるから、とっととベッドに突っ込んだら帰ろう。
そう決意して、俺はドアを開いて、
閉めた。
後悔、悲哀の情念が俺を支配する。
迷惑とは知りつつも叫ばずにはいられなかった。
そこには、混沌があった。
「なんだこれ! なんだこれ!! 腐敗聖域か!?」
何が言いたいのか。
わかりやすく言うならば、
玄関にすぐに積み上げられたゴミ袋たち。
漏れ出す異臭。
俺が見たどの戦場より、凄惨だった。
こいつは……、
どうしよう、そう思った矢先、大声を出したせいか、閻魔が起きてしまう。
「……あれ…? 私の…、へや? ゃ……くしさん……?」
途中まで寝ぼけた様子だった彼女は、突如、俺の背で飛び上がった。
「だめです!! そこは開いてはなりません!」
その声に、俺は白々しく返した。
「えー、なにゆえ」
「じょ、女性の部屋ですから……、わた、しにも、プライバシーが、あります」
詰まりながら、嘘くさく言う閻魔に、俺は現実を叩きつけるしか、なかった。
ここで、嘘を吐くという手もあったかもしれない。
だが、このままでは、俺と彼女の関係はよそよそしいものになる。
そうなるくらいなら、死なばもろとも。
「……すまん」
俺は、精神誠意謝った。
「なにを謝って…」
「見た」
「なにを?」
そして、告白する。
「腐敗聖域」
「……」
「カオス・サンクチュアリ」
混沌と腐敗の聖域。
これほど閻魔に相応しい部屋はない、とか言ったら響きはいいかも知れんが、所謂一つの汚れた部屋だ。
気まずい沈黙が辺りを支配する。
俺には掛ける言葉はなく、ただ、停止するしかなかった。
そんな中。
閻魔は。
「うぅ……、ひっく」
マジ泣きした。
「ど、ええええ?」
慌てまくる俺に構わず、閻魔は泣いた。
マジで泣いた。
「……ぇえっ…、えぇぇえええ……っ」
ひたすら慌てまくった俺は、とりあえずここにいてはまずいと部屋に突撃することにする。
扉を開けて、靴を脱ぎ、意を決して突入。
俺の脚が、ゴミ袋を踏みつける。
ぐちゅり、ぶちゃっ……。
怖っ!
それでも突撃。
すると、短い廊下の終わりが見え、俺は必死でドアノブを開き、そこに転がり込んだ。
だが、そこすらも腐敗領域に変わりはない。
ただ、ギリギリの道のみが形成され、なんとか通れる程度。
それを俺は駆け抜けた。
今まで長く生きてきたが……、
こんなに必死で走ったのは初めてだった。
そして俺は、つんと鼻をさす異臭を黙殺し、火事で避難し遅れた要救助者を探す消防士の気分で、扉を開き、ついに寝室を見つける。
寝室すらもうだめだったが、幸いベッドのみは確保されていた。
そこに、俺は閻魔を座らせる。
「ひっくっ……、ひっ……」
とりあえず、俺は閻魔を座らせたことに安堵し、深呼吸……。
おぇっ、喉が痛い。
呼吸を浅くしつつ、俺は平静を取り戻す。
「あー、あれだ。とりあえず落ち着けって、な?」
「うう……」
嗚咽は未だ止まらないが、これでも努力はしているらしい。
そんな彼女を俺は諭すように言う。
「大丈夫だっての。秘密にする」
「っく…、駄目な……っ、女だと…っ、思ったでしょう……?」
うっ、それは否定できん。
きっとこいつ、仕事しかできねえタイプだ。
そうに違いない。
「わた……、私っ、だから…、ずっと内緒にして……っ! なのに……」
きっと、長い間せき止めていたものが一気にあふれだしたのだろう。
俺としては喉からいろんなものが一気にあふれだしそうだが。
「いやいや、そんなことはないって、駄目なんてことはないさ、どこが駄目じゃないかと言われると――、そこは自分の胸に聞いてくれ」
と俺はフォローにならないフォローを返す。
だが、閻魔の機嫌は直ろうとはしない。
「ひっくっ……、やっぱりだめなんじゃないですかぁ……」
そんな彼女に。
俺は、
「そこは黙って駄目で悪いかとか言っておけ!」
「ふぇ?」
「いやもう今さらだからな? ダークマター製造の時点で予測はついていたからな? だから俺の覚悟が足りてなかっただけだ、以上」
その時、俺は眩暈が治まらなかった。
鼻から脳に駆けあがる頭痛眩暈、動悸息切れが、俺の思考を徐々に緩慢にしていく。
要するに、俺は意味のわからんことを言い始めていた。
「別に気にすんなよ、……、なんかハイになってきた」
これはやばいんじゃないのか?
ゴミ袋から有害物質とか出てないか?
俺の精神状態は、突如として躁に浮上していた。
だが、閻魔は全く気にした様子もなく、ただベッドから俺を見上げている。
そして、泣きはらした目で俺を見て、言う。
「軽蔑……、しない?」
「しないしない」
「本当?」
その時、俺の体調が不意に通常レベルまで引き下げられた。
だが、治った訳でも、慣れた訳でもないようだ。
只管に、違和感を感じる。
「しないしない」
潤んだ瞳で俺を見上げる閻魔が妙に愛らしく映る。
その鈴の音のような言葉を紡ぐ唇が、妙に扇情的に感じる。
おかしい……、性欲がないはずなのにこれは……。
これが…、腐敗聖域の力……!?
有害物質やら何やらが混じり合ってそういった効果を生みだしている、だと?
俺はぶんぶんと首を振り、窓を開けようとして、思いとどまる。
これは公害だ。
小分けにして排出しないと近隣住民に被害が出る。
かといってこのままでは、俺は死ぬだろう。
徐々に慣れて行った閻魔と違い、ここは俺には生きられない空間だ。
そうだ、換気扇……!
換気扇ならまだいきなり解放するよりは優しいはず。
俺は換気扇の紐を引く。
そして換気扇が徐々に回りだし……、
バギンッ!
ばぎん?
見ると、換気扇のプロペラが、折れていた。
閻魔、恐るべし……。
こうなったら手段はこれしかない。
俺は、最後の手段を選ぶこととなった。
不意に、俺の背に翼が生える。
そして、高下駄が現れ、最後に、懐から羽団扇。
俺は、窓を全開にし、羽団扇を、振り抜いた。
高下駄で拍子を刻み。
風が声を上げ。
羽団扇で音を掻き鳴らし、
ここ数年の中で最も本気で、風を起こす。
「おおおおおおっ!!」
巨大な風が巻き起こり、部屋の淀んだ空気を、
浄化して行った。
……、ふう。
俺は安心してやっと一息ついた。
そして、深呼吸。
腐敗聖域カオスサンクチュアリは、今や腐界程度に脅威を落としている。
「これで、しばらくは持つだろう…、閻魔、おーい?」
閻魔からの返事がないことが気になって、振り向くと、泣き疲れたのか閻魔は寝ていた。
「……子供か」
なんとなく聞いてみたが、その言葉は虚空に消えた。
……だが、このままじっとしていてもどうしようもない。
そう考えて俺は、携帯を取り出した。
ちなみこれは、河原のバイター全員に連絡用として与えられるものだ。
余り私用では使ってはいけないが、閻魔絡みだから私用じゃない、はず。
ともあれ、俺は家に電話を掛ける。
『もしもし?』
出たのは由壱だった。
「由壱か」
『兄さん?』
「悪いが、今日は帰れん」
『それって、もしかして……』
どう考えてもその台詞は深読みすぎる。
俺はあっさり否定した。
「残念だが、今お前が想像しているような展開にはならん」
この部屋でそんな色っぽい展開は拝めん。
「要するに、閻魔の具合が酷いので、どうにかして行く、という訳だ」
要するに、閻魔の部屋の具合が酷いので、どうにかして行く、という訳だ。
『大変だね、大丈夫なの?』
その声に、俺は適当に返した。
「ま、大丈夫だろ。じゃ、また明日な」
『うん、それじゃ』
俺は電話を切ると、同時、覚悟を決める。
さあ、片づけを始めよう。
そして話は冒頭に繋がる。
簡単に言うなら、俺は獅子奮迅の勢いで、部屋の片づけをしましたとさ。
差し込む朝日、小鳥のさえずりを聞いて、俺は目を覚ます。
うん?
いつもと違う柔らかいベッドの感触に俺は違和感を覚えた。
更に、服装が寝まきの類ではない。
上半身は何も着ていないし、ズボンは何故だかスラックス。
とりあえず身を起こそうと、ベッドに手をつこうとして、ベッドに触れる前に何かを掴んだ。
……肩?
俺は――、
眠る閻魔の肩を掴んでいた。
その先には、驚愕の瞳で俺を見つめる閻魔。
「ーーーーーっ!!」
「ぐッ、っがあああ!」
その瞬間、俺がよくわからない力で、宙に舞っていたのは理不尽だと思うのだが、どうなのだろう。
ともあれ、綺麗になったフローリングに叩きつけられたショックで急激に意識は冴え、俺はすべて思い出した。
「せ、せせせせせ、説明を!!」
俺は、ぶつけた腰をさすりつつ、説明を開始した。
「泣き疲れた閻魔が眠る。俺はこの惨状をどうにかしようとする。どうにかした。疲れる、眠ろうとする。が、着替えがない。しゃあない、シャツに皺付くし、脱ぐか、疲労の余り思わずベッドに倒れこむ、以上」
説明の途中、本当だ、と呟いて綺麗になった部屋を眺める閻魔。
そんな彼女に、俺は突っ込みを入れる。
「……、というか、何をしたらこんなんなるんだか」
すると、閻魔は照れたようにこちらを見て、
「半年前までは……、綺麗にしてくれる人がいたのですが、今はちょっと出てしまっていて……」
思わず叫んだ。
「このダメ人間! 駄目閻魔! 駄目ンマ!」
今日から君のことをダメンマと呼ぶよ。
「そ、そんなに言うことないじゃないですか!」
そんな彼女に更なる突っ込みを入れようとして、気付く。
「いやだって――、って片付けてくれる人?」
家政婦でも雇っていたのだろうか。
だったら、雇い直せば――、
そういう前に、閻魔が言った。
「妹です」
「妹? 初耳だが?」
おかしくないか?
「お前さん、最初に死んだ人間で、閻魔なんじゃないのか?」
すると、閻魔は首を横に振る。
「そうですね、一番解りやすい例えとしては――、アダムとイブはわかりますか?」
俺は肯いた。
いわゆる、神様が作った、最初の人間の雌雄。
「ですが、何の間違いか、私と妹は。イブとイブだったのです」
な、なんだってー?
まさかの発言に、大声どころか逆に平坦な声が出た。
「なにゆえ」
初耳どころかすごいことを聞いた気がする。
って、それでは人類は存在し得ないのでは?
聞くと閻魔は少し悩んだ様子だったが、纏まったのか次第に口を開いた。
「私は、この姿で発生し、この姿で死にました。どういうことか、それは、進化したから人類があるのではなく、人類が先にあることを前提として生物が進化したからです」
「ふむ」
難しい話になる予感だが、仕方ない、付き合おう。
自分で聞いたわけだが。
「人類最初の死因は、なんだか知ってますか?」
「いいや?」
創作なら自殺か?
本来は寿命か?
だが、そのどちらでもなかった。
「窒息死です」
「夢のない」
これまたすごい死因が来たものだ。
「しかも、生まれて数十秒で」
「何故に」
「生まれた、というより発生した、のが正しいのでしょうが、要は空気のない地球に放り出されたのです」
発生、死亡。
なんというか、足場のない位置にスタートした赤い配管工みたいだな。
そんなことを思っていたら、いつの間にか話は続いていた。
「それで、死にました。気が付けば、妹と共にここです」
と、そこでふと疑問に思う。
「そも、何でお前さんらは発生した?」
本来はもっと下等からスタートじゃないのか。
何故いきなり人間?
すると、閻魔は言う。
「世界の意志、とでもいいましょうか」
「なんだそりゃ」
意味が解らん。
すると、閻魔もまた悩みだした、できるだけ噛み砕いて教えようとしているらしい。
「そう、ですね、世界が一つの生き物だとします」
「ふむ」
「それで、世界は地獄から始まり、宇宙を生みだしました。ところが、問題が一つあったのです。それは、地獄にある、原初たる混沌」
要するに、魂を作ってる魄の部分だ。
「あれが、すごいエネルギーを持つのはわかっていますね?」
確かに、前回の事件でも確認された。
怨念やらなんやらの塊は千人分で、簡単に国一つなら消滅させられる、と聞いたことがある。
「それが、ヒトのいない時代は完全に地獄に収められていて、さらに湧きあがっていたのです」
それを聞いて、納得した。
「やっべ、これじゃ内側から破裂しちまうぜ、ってことで発散先に人を選んだのか?」
「そうです」
だが、それなら。
「別に人じゃなくても、もっと強めの動物でよかったんじゃねえの?」
だが、閻魔はそれを否定した。
「逆に、全ての魂が本能で一つのまとまりを持ち、それが指向性を手に入れると、逆に力が発生し、大規模な空間断裂のような事態が起こります」
理解した。
確かに人間なら精神に多様性がある。
「なるほど。だから、世界は弱く、弱い故に工夫し、多彩な考えに至る人間を作りたかったわけか、どうしても」
だが、世界のうっかりさんは、環境のことをすっかり失念し、そのまま宇宙に閻魔とその妹を放りだした訳で。
「大体そのような感じです。で、死して地獄に戻った私達は一応の精神という、不純物を持っていたため、原初に還らず、地獄で対策を練りました」
ああ、なるほど。
すると、
「今度はお前さんらが人間を作ることにしたわけだ」
なんとなく部品がはまった。
「はい」
やっぱり。
「それで、その試作が李知さんの母親たち、ってことになるわけだ」
「鋭いですね」
前、李知さんは自分の孫に当たるようなことは言っていたが、自分の腹を痛めたわけではない、と言っていた。
という事は、世界の代わりに作りだしたわけだ、自らを参考に、人というものを。
だが、全部合っていたわけでもないらしい。
閻魔が俺の間違いを捕捉する。
「まあ、大体あってますが、人を生み出すのは予想以上に難航しまして。残念ながら私達の作った人は、というか魂を捏ね、容を与えたものは、地球に適合できませんでした」
確かに地球に酸素がない時代に何人送りだしても変わるまい。
「なので、方法を変えました。まずは外堀を埋めることにしたのです」
あれ、それじゃまさに閻魔創造神じゃね?
「まずはプランクトンから、さらに植物に働きかけて。酸素を作りだし、後は、現代の理科の教科書と同じです」
確かに、地球に人間が存在することは、奇跡に等しいが、最初に閻魔が存在するとは――。
「ゆっくり進化して、やっと、人は地球に適合しました」
「じゃあ、李知さんは?」
「私達が作って殺してしまった人が地獄に戻り、その人間が更に人を作ろうとし、それを繰り返し、その結果、最後に人として地球に適合したのが、李知です」
なるほど、李知、とは、地獄における、人間第一号の意味もあるのか。
それで、結果循環する魂のエネルギーを管理するのが閻魔となったわけか。
そんな話を、俺なりに纏めてみた。
「要約すると、こうだな? 世界は、力のたまり過ぎで爆発を防ぐために、人間を作りだして発散しようとしたが、うっかりさんのせいで人間は二人とも女。挙句即死。困った二人は人間を作って再び発散を助けようとするが、中々うまくいかない。で、それを環境のせいとし、まずはもっと下等なとこからゆっくり育てていこうか、となったのが、人類の起源である、と」
閻魔は肯いた。
「はい、そうです」
ただ、もう一つ気になることと言えば、
「死んでいった李知さんの母親たちはどうなった?」
「環境が整った後、人生を謳歌してもらいました。一部は今も輪廻転生を繰り返しています」
それなら、良かったのか?
いや、まあ、結局、地獄にいても変わらなく生活はするのだけど。
「まあいいか。だが、何で俺にそれを話したのやら。いや、聞いたのは俺だがな? ただ、洗いざらいすぎんだろ」
すると、閻魔は照れたように笑った。
「あなたが、私の妹に、似ているからです」
「俺が?」
「はい」
閻魔は、俺の問いに、笑って肯いた。
ほおー。
だが、これでつながった。
「お前さん、妹にもいじられてたんだろう! だから未だいじられ体質なんだ!」
「……」
あ、目えそらした。
ふふふ、妹さんとはいい酒が飲めそうだ。
だが、それにしても俺が妹さんに似てる、ねえ?
「と、すると妹さんは性格的にお前さんには似てないのか?」
すると、彼女は悔しげに肯く。
「はい。妹の方が、超然としてて、奔放です」
「なんか、そっちの方が年長、っぽいな」
「う……、確かにそういうのは妹の方がずっと似合っていますよ!」
俺の言葉に、閻魔がキレた。
「ですが、あれなのです。威厳は妹の方があるくせに、あれはいつもさぼってばかりで! しかもちょっと出てくるって言ったきり帰ってこないし!」
まあ……、俺に似てるならな。
真面目に仕事とか向いてないんだろう。
次第に、閻魔は消沈し、地面に体育座をしながらのの字を書き始めた。
「どうせ私なんて……、街を歩けばお嬢ちゃんとか言われるし…。胸もないし……、背も小さいし、頭撫でられるし」
落ち込んでらっしゃるー!
このままじゃいかん。
急いで俺は閻魔を持ち上げることにする。
「だ、大丈夫だ。きっと、仕事はできるし、胸も無くて背も高くなくたって需要はある」
む? あんまり持ち上がってないぞ?
案の定閻魔の気分が上昇することはなかった。
ただ一言、
「そんな需要があったって嬉しくありません……」
いや、もう無理。
ピー年生きてそれならそれ以上成長できないし。
いや、だが、自分の身体の操作ならできるんじゃないか?
知らんが。
ともかく、俺は、言葉ではどうしようもならないと判断。
よし、飯を作ろう。
そう思い立って台所へ向かう。
先日までぬちゃりぬちゃりとしていたフライパンを拾い上げ、次に、紫色をしていた炊飯器を覗きこむ。
よし、ちゃんと炊けてる。
無事な米があってよかった。
俺は、昨日の内に見つけたチャーハンの素を取り出すと、準備を始めた。
手の込んだ料理?
俺には無理だね。
ぎりぎり自炊レベルが限界。
なので、今日はチャーハンです。
俺はフライパンを温め、油をしき、ご飯を投入。
そして丁度いい感じで素を突っ込み、豪快にひっくり返しながら、
完成。
先日磨いた皿に盛って、テーブルに乗せる。
そして沈んでいた閻魔に向かって声を掛ける。
「ほれ、朝飯」
「あ……、すいません。何から何まで」
「いいからとっとと食え」
すると、とことこと、閻魔は席に付き、行儀よくいただきますを言うと、チャーハンを口に運んだ。
「あ、おいしい」
この一言で、碌な食生活をしてないことが知れる。
俺の作ったチャーハンが美味いとか、コンビニ弁当に溢れた生活をしていたのだろう、っていうか昨日片づけた弁当の空的に考えてそれなりにアレな生活だったようだ。
まあ、そんな彼女はまるで餌にがっつくハムスターの如くチャーハンを食べている。
このまま行けば餌付けできそうだな、と考えつつ眺めていると、不意に閻魔が質問を飛ばした。
「そう言えば、私の部屋のゴミ袋は、どうしたのですか?」
確かに、多彩なごみだったから、一緒くたに捨てるわけにはいかなかった。
「余りに酷いもんだから、風で刻んで雷で灰にした」
「お手数をおかけしました……」
すまなさそうにする閻魔に、俺は苦笑を返した。
「気にすんな、昨日あんな大泣きした時点で何も気にすることないっての」
「っ!!」
その瞬間、閻魔の顔が真っ赤に染まる。
いや、まあ、あれは恥ずかしいけどな。
「……、そ、その。あれは、なんというかその……」
言い募る閻魔を余所に、俺は再び寝室に戻った。
「あれ? 薬師さん、どこへ行くのですか?」
俺は、答えずにベッドの上に横になる。
そして、眠りの世界へ。
「薬師さん? あのー、それは困るんですけど、薬師さん!? 薬師さーん!!」
昨日俺は寝ていないから、眠いのだ。
今日の河原も、平和である。
おまけ
「薬師さん! 貴方のせいでエントランスの係員に、昨日はお楽しみでしたね、って言われたんですけど!」
「……、いや、俺にどうしろと」
「どうしてくれるんですか!」
「…いや、うん、じゃあ、帰るわ」
「だめです!」
「なんでやねん」
「今出て行ったら誰かに見つかってしまうかもしれません。なので、夜遅くに窓から出て行ってください」
「……」
「いいですか? くれぐれもそれまで帰っちゃいけませんからね!?」
「……」
「あ、後、昼食と夕食も作ってくれると嬉しいのですが……」
「……」
「だめ、ですよ、ね?」
「……」
「あの、薬師さん?」
「ちょっとメモ貸せ」
「え?」
「夕飯の材料」
「?」
「外に出れないから、買ってこい」
「あ。はい、ありがとうございます!」
閻魔宅も平和だったそうな。
―――
二十四です。
ある意味23ですが。
今回、感想を見て、もっと後に書くはずだった閻魔の過去、というか人類起源を繰り上げて書いてみたり。
本当は感想返信で書いても良かったのですが、ネタばれの上、作品内で表現すべきだろうかなー、と。
説明ばかりで少々不安ではありますが。
では返信を。
マイマイ様
感想ありがとうございます。
……、そこは突っ込んではなりません。
ただ、書いてしまった以上、後で気づいたって貫くしかないのです。
という訳で、これで通します、徹さざるを得ません。
山椒魚様
こんな感じで閻魔様のターンです。
カリスマがすごい勢いでブレイクしてます。
きっと、ストレス溜め込むタイプなんですね。
そして、そこに付け込む薬師……、抜け目のない男だ。
ねこ様
一応閻魔様はすごい人ではありますが、一つの問題として、
外見からかけ離れた性格にはなりえないのです。
と、言う俺理論に基づいて閻魔様はマジ泣きだってしちゃう女の子なのです。
ちなみに、じゃら男は生きてます。
次に現れる予定です。
喜多見様
感想どうもっす。
えー、一応閻魔様はこんな感じです。
なんか後付け臭いかもしれませんが、一応閻魔様出演決定時に作った設定どおりの話です。
ぶっちゃけると、なんか閻魔の妹フラグな気がしますが。
gohei様
コメント感謝です。
設定と妄想に日頃を費やしているのでそう言ってもらえると幸いです。
ちなみに、閻魔は、初期はそんな予定もなかったのに、気づいたら山田になっていたという手品。
だけどもう書いてしまったら貫徹するほかない訳で。
ともあれ、設定的には今回の話の通りです。
性格的には、超然とした妹にからかわれまくったおかげで、あんな感じになったようです。
ただ、きっと、あれでも仕事の時はすごい、はず……?
SML様
コメントどうもありがとうございます。
作品とは関係ないんですけど、実は私、DB読んだことないんですよ。
私としては、閻魔と言われると、メガテンシリーズのヤマを思い浮かべるのですが。
たまにそっちが思い浮かんでくるので、上目遣いのヤ――(続きは書かれていない)
妄想万歳様
閻魔様の本名は出ておりません。
その内公表されるのですが。
そして、ぶっちゃけると閻魔をお持ち帰りというかある意味薬師が閻魔にお持ち帰りされました。
というか、この作品で初めて薬師に性欲を感じさせたのは、閻魔。
……、性格には閻魔の部屋という悲しさ。
獣様
閻魔様は閻魔様なりに頑張っているようです。%0