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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/04 01:07

「一つ積んでは母のため」

「二つ積んでは父のため」


 その日は、いつもと違った。

 薬師が、意志を高く高く積み上げていた。






 ―――







「八十積んでは父のため」

「……薬師が八十!? どんな手品を……!」

「ふん! 天狗にかかれば全体から風を均等に吹きつけさせてバランスを保つなど容易い!」

「だからそれ反則!!」







其の二十三 俺と閻魔とパーティと。






 こんばんは。

 吐きそうです。

 薬師です。


「……」


 こういった状況でお約束とも言えるテラスに、俺は

 いない。

 残念ながらテラスは開放されていなかった。

 故に俺は普通に外に出ているわけである。

 そんな俺に、話しかける人物がいた。


「こんな所に居たのですか?」

「む、閻魔か」


 振り向いた先には、白いブラウスにミニスカート、という基本的な格好に、リボンとブレザーを着用した閻魔がいる。


「面白くありませんでしたか?」


 その言葉に、俺は苦笑いを返した。


「肌に合わないだけだ。俺はパーティより、宴会の方が好きだ、っていうか……」


 言葉の途中で俺は顔色を悪くし、言葉を止めた。

 そして、口に手を当て、


「格好付けないで言うなら……、うぇ、香水臭ぇ……、気持ち悪い……」


 そんな俺に、閻魔は苦笑して俺の背をさする。


「いや、わざわざ背伸びしてまで擦ってもらわんでも大丈夫だ」

「そうですか? まあ、休憩もいいですけど、前と李知に顔を出しておかないと、怒られますよ?」

「いや、無理。どのくらい無理かと聞かれると十割三分無理」

「すごい割合ですね」


 既に限界突破終了してる訳で。

 よく弟たちはあんな戦場を駆け抜ける気になったもんだ。

 俺にゃ、無理だ。


「俺のような老いぼれには無理」

「……私は貴方より年上です」

「失礼しました」


 そうだな。

 俺が老いぼれだったら彼女は古代生物だね。

 いや、実際変わらない気もするが。


「何か不埒なことを考えてません?」

「いや全然」

「本当に?」

「本当に」


 そんなことを言うと、突如、閻魔が顔を近づけてきた。

 そしてジト目でこちらを見たかと思うと、すぐに離れる。


「何を?」

「いえ、嘘かどうか確かめようとしましたが。馬鹿らしくなってやめました」

「さいですか、ってか見えるのか?」

「浄玻璃の鏡ですよ」


 だが、それと顔を近づけることに何の関係があるのか。

 その答えは本人が語ってくれた。


「私の眼は私の目を見たものに自らの記憶を見せます。そして、私の目を見た者の目に映る私を見ることで、私はその者の人生を見ることができるのです」

「ほお……、至近距離で目を合わせただけで走馬灯が見る女……、強そうだな、世紀末的に考えて」

「……」


 遠い目をする閻魔を後目に、俺は時計を見る。

 会場の建物の壁に取り付けられた時計は、そろそろ七時を過ぎることを示していた。

 俺は溜息を一つ吐く。

 パーティはまだまだこれからだ。

 帰ったら駄目か……?。

 ううむ、これで帰ったら由美と由壱がなぁ……。

 こうなったらここで時間を潰すしかないわけか。

 そう思って、俺は会話を続けることにした。


「それにしても、お前さんの夫になる奴は嘘吐けないってのは大変だな」

「私、大幅に婚期を逃している気がしません?」


 俺は首を横に振った。


「そうでもない?」

「なぜ疑問形なんですか」

「引く手数多?」

「なぜ疑問形なんですか」

「きっといい人が見つかる、よな?」

「なぜ……、はあ…。疲れました」


 そんなお疲れの様子の閻魔は、予想外の切り口で反撃してくる。


「…貴方が何故、ここにいるのか不思議になります」


 俺は即答。


「そりゃ死んだからだろ」

「はあ……、そうですね」


 閻魔は、俺の言葉に諦めたように溜息を吐いた。

 そんな彼女に俺は言う。


「幸せが逃げるぞ?」

「幸せは内に貯めて置くものではありません。周囲に与えるものです」

「なるほど、溜息に当たれば幸せが手に入るんですねわかります」


 すると閻魔はあろうことか再び溜息。


「おう? そんなに溜息をつかれるとキャッチに向かうぞ?」

「やめてください」


 そう言って呆れた顔をする閻魔。

 まあ、俺と彼女じゃそりが合わないのかも知れんが。

 俺は法よりも自分の享楽思考だし。

 彼女は法を守る裁判長だし。

 そんなことを考えて、俺は暗い夜に白く浮かぶ、閻魔の顔を見た。


「俺に呆れるほどなら、パーティに戻った方がいいんでないか?」


 俺が今回の件の功労者だから社交辞令として来たならば、そういったことは気にしないから戻ればいいと思ったのだが、どうも違う様子で、閻魔は困ったように笑った。


「違いますよ」

「じゃあ、何に呆れてるんだ?」


 問うと、閻魔は苦笑のまま答えてくれた。


「…貴方との会話が楽しい自分にです」

「ほお」


 これまた、なぜ。


「そもそも、思い返してみると、私には友人が居たためしがありません」


 寂しい人宣言来た!

 真顔で言うと悲しくないのだろうか。

 でも、確かに友人はいなさそうだ。


「部下は沢山、でもお友達はいない、ってか?」

「うっ、まあ、そうです。皆、気を使って話しかけてきますから」


 気を使わない俺。

 というのはいいことなのか悪いことなのか。

 どうなのかと聞いてみたら、


「まあ、こういう関係の者が一人くらい居た方がいいでしょう」


 と返された。


「本当は嬉しいんじゃないのか? このツンデレさんめ」


 不意に、閻魔の顔が赤く染まる。


「そ、そのようなことは……!」

「おお、酷い。この哀れな男のことなど路傍の石ころ扱いですか」

「あ、あります……」


 思わず俺は噴き出した。

 流石李知さんの源流。

 そんな彼女は、不満そうにこちらを見上げていた。

 そして、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「あまりからかわないでください!」


 俺は即答。


「嫌だ」


 閻魔は無言。


「……」


 また溜息。

 おっと、当たりに行き損ねた。


「李知の言ってることがわかった気がします」

「今日確信した。お前さんと李知さんは家系だよ。遺伝的にいじられ体質なんだ」

「生物としての基本骨子においていじられることを確定されたくないのですが」

「だったら……、からかわれる前にからかえ?」

「……それができたら苦労はしません」


 そして溜息。

 今だ!


「よし、幸せゲット」

「何をやっているのですか…?」


 閻魔の口数十センチに手を出した俺を、彼女はジト目で見る。


「うーん? 幸せを探しに行っただけだが?」

「自分が変態的行為をしている自覚は?」

「幸せのためならやむを得ない」


 その言葉に閻魔はまた溜息を吐こうかとしたところで、気が付き、止めた。


「……なあ。そういう馬鹿正直な反応がいじられる原因だと思うんだが?」


 そう言った俺に、閻魔は言葉を探すが、結局見つからなかったか、話題をすり替えた。


「……嘘つきよりはましです」

「じゃああれだ。お前さんは皆に幸せを振りまいてるってことでどうだ?」


 そう言った俺の顔を、怪訝そうに閻魔は覗きこむ。


「どういう、ことですか?」


 何言ってんだコイツ、な閻魔に、俺は説明した。


「閻魔様はいじられるているのではない、いじられることによって、幸せを振りまいているのだ、主に俺に」

「結局いじられてる上に、主に貴方にですか」


 嫌そうに、閻魔が俺に突っ込みを入れた。

 対して、俺は悲しそうな顔を作る。


「ほほう、その発言は貴様のような糞野郎に幸せをくれてやるなど虫唾がはしるッ……! と言っていると考えていいのですね?」


 そんな俺に、閻魔は慌てて手を振り否定した。


「い、いえ。そのようなことは決して!」

「じゃあ、俺にも幸せをくれるんだな?」

「はい!」


 よし、いい返事だ。


「じゃあ、いじってもいいんだな?」

「はい!!」


 俺は、その瞬間、不思議な感動を覚えた。

 あの時の記憶が、俺の脳裏に飛来する。


『ああ、わかってくれたならいい。だから、俺はお前さんをこれからも親愛を込めてからかいつづけるな!』

『ああ、これからも私をからかい続けてくれ!』


 こいつら……、本当に家系だ……。


「どうしました? そんな今にも泣きそうな顔をして」


 そして――、今回も例の物はある訳で。


『「じゃあ、いじってもいいんだな?」「はい!!」』

「な、なななななな、なんですかそれは?」


 俺が懐から取り出したのは――、


「ボイスレコーーーーーーーーダーーーー。」

「け、けし、けしなっさっ」


 どもりまくる閻魔に俺は優しげに話しかけた。


「まあ、落ち着いて。落ち着いて深呼吸、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸う」

「吸えません!!」


 むう、全然落ち着いてないな。


「ともかく! 消しなさい!!」

「断る」

「……」

「怒りますよ?」


 そんな閻魔に、俺は真面目な顔で聞いた。


「閻魔王よ、汝に問う」

「なんでしょう」


 急に真剣な顔になった俺に、多少戸惑いつつも、閻魔は問い返した。


「汝、口約束を、形無き物として、軽んずるか」


 俺の言葉に、血相を変えて閻魔は言う。


「そんなことはありません! たとえ口約束であっても、約束を違えるなどあってはならないことです――、あ」


 どうやらようやく気づいたようだが。

 手遅れだ。


「これで、レコーダーの中を消しても意味はなくなったな?」

「うぅ……」


 拳を前面に下ろし、拳をぎゅっと握る閻魔はついに、涙目に入っていた。

 よし、いい加減にしよう。

 これ以上は自重しよう。

 このままでは取り返しのつかないことになりそうだ。

 閻魔マジ泣きとか。

 うん、ほどほどにしないと報道者の飯の種になってしまうな。

 俺は幸せを受け取る側であって、報道者に幸せを与えるような殊勝な生き物ではないのだ。


「冗談だ冗談。ちゃんと中身は消しとくさ。それより、いい加減いい時間だし中入ろうぜ」

「…本当ですよ…?」


 そう言って涙目上目づかいで俺を見上げる閻魔。

 紳士に見せたら襲われる恐れがあるだろう威力をもったそれに、俺は笑って肯いて見せた。


「ああ、ちゃんと消す。だから、涙目になってないで行こうぜ」

「なってません!」


 そう言って否定する閻魔は涙目。

 ふと思う、涙目の閻魔と俺、このまま戻ったら前さんあたりに見つかったらやばくね?

 ふふふふ、俺涙目。


「どうしました? この世の終わりみたいな顔をして。早く行くのでは?」


 ふふふふ、逃げられない。

























 俺の予想に反し、というか閻魔の涙目が思ったよりも早く治ったため俺は一命を取り留めた。


「ふう……、今日の生に感謝します」

「何をいきなり言ってるのですか?」

「いや、私事だ」


 言って、俺は兄妹を探す。

 と、その時だった。


「少々、喉が渇きました」


 と言って、閻魔が自由に持って行っていい類のグラスに酒を入れ、グイッと煽る。

 酒を入れ、グイッと煽る。

 大事なことなので二回言ったが、ぐいっと煽るのは、正しいワインの飲み方ではない。

 ってか、酒って全体的に一気飲みはダメ、ゼッタイなのだが、ともあれ、要するにあれは、酒だと思わないで飲んだ類であろう。

 そして、今まで酒を全く飲んでない様子だったのは、よほど強いから話していてもそう感じなかったのか、弱いから全く飲んでいなかったかのどちらか。

 俺は、なんとなく閻魔の性格からして……、後者だと思う。

 何故……ッ! 止められなかった……?

 後悔するが遅い、いやそれほど本気で後悔はしてないが。

 だが、ここで酒乱誕生、泣き上戸笑い上戸に、絡み酒、なんてなったら、困る、俺が。

 状況的に俺が真っ先に絡まれる。

 そしてまさかの泣き上戸だった場合、閻魔様に何した貴様ァ、で、死亡が確定する。

 もう、駄目か……。

 俺は、辞世の句を呟いた。


「……地獄にて、二度目の死因は、閻魔様」


 しかし何も起きなかった。

 いや。


「きゅぅ……」


 ん?

 なんだきゅう、って。

 妙にかわいらしい声が聞こえて、どこか遠くを見つめていた視線を閻魔に向ける。

 すると、そこにはへたり込んで気絶する閻魔がいた。


「弱いって格じゃねえぞ……?」


 というか……、これ、どうしよう。









―――

本当は、これからもう少し続いて終わる予定が、長くなりすぎて二話に分けることにしました。
何勘違いしてやがる……、閻魔のターンはまだ終了していないぜ!!
ずっと閻魔のターン!!





さて、返信を。
ちなみに、前回の返信は番外二になっておりますので微妙にとんでませう。


なる様

感想ありがとうございます。
賽の河原、寮、三食付き。
さらに死んでいるのに保険にも入れてくれるいい職場具合。
頑張れば高給取れますしね。



ssstp様

コメント感謝です。
てっとり早くフラグ体質になるには、悟って尸解仙になるしか。
でも、仙人になった時点で欲が消えているという本末転倒具合。
これはもう人間を踏み越えるしかありませんね。


妄想万歳様

きっと、一万年と二千年貫けばにこぽなでぽも容易で、全ての女性とフラグを立てることができるはず。
というのは置いておいて、ギャップ萌、というか、ギャップ燃えな気もします。
ギャップ萌として、次、閻魔さまがすごいことになるので注意です。
待て次回!


bali様

コメントどうもです。
妖怪大好きです。
妖怪に独自の解釈を加え、っていうか俺設定満載のこのお話ですが、妖怪好きに楽しんでもらえたなら幸いです。
そして……、私も京都行きたい。
北海道民の学生なので、正直遠いです。
私の代わりに、モテ道を歩んでください。




では、最後に。


そも、薬師は彼女いない歴千年だが、
閻魔は彼氏いない歴……(検閲により削除されました)


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