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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の二十 俺と彼女とデートと。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/24 01:16




俺と鬼と賽の河原と。







 ここは河原。



「一つ積んでは母のため」




 薬師は、勢いよく、石に石を、振り下ろす。




「二つ積んでは父のため」



 高い音が響き渡って、石の底面が砕けた。

 そして、底面が下の石の形に砕けた石は、いとも簡単に積み上げられる。



「三つ積んでは優しかったあの頃の父のため――」




 そして、一掴んで、振り下ろす。




「コロンブスの卵!」

「反則!!」








其の二十 俺と彼女とデートと。






 で、俺は今、前さんと呉服店に赴いているわけだが。


「どうかな?」

「似合ってると思うぞ?」


 代わる代わる、前さんは俺にその姿を見せては、意見を問うてくる。


「どう?」

「似合ってる似合ってる」


 こういうの、あまり得意な方ではないんだがなー……。

 現代のセンスはさっぱりだし。


「じゃあ、これは?」

「ああ、大丈夫、似合ってる」


 と、言う訳で、俺はもうワンパターンになる他ないのだが、前さんはお気に召さなかったらしい。


「むぅ……、真面目にやってる?」

「むう…、真面目にやってるつもりなんだが」


 これ以上俺に何を望むというのか。


「じゃあ、薬師の中で何が一番良かった?」


 それなら言えるが。


「あー、さっきの赤白横ラインの奴と、黒いミニスカート?」

「これ?」


 前さんが言った服を見せる。

 俺は肯いた。


「そう、それだ」


 言うと、ふたたび前さんは試着室に引っ込んで、また俺の待ち時間が始まる。


「うん。これ、買っていくね?」

「おう」


 一緒にカウンターまで向かい、代金を払う。

 さようなら。

 俺の財布はまた軽くなっていく。



 店から出て、俺と前さんは隣り合って道を歩いた。


「うふふふふ、次はどこに行こうかなぁ?」


 だが、こんなに楽しそうな前さんを見れるなら、悪くはないんじゃないか?






 それから、俺達は服飾関係の店を二人ではしごすることとなった。

 俺の財布はmgまで重さを減らされるらしい。

 ただ、上機嫌に前を歩く前さんを見てるとそれもいいか、と思う。

 と、いかんいかん。

 このままでは無一文だ。

 俺は表情を引き締めると、彼女の隣に追いつくよう、歩く速度を上げた。


「なあ、前さん」

「なあに?」

「いや、上機嫌だと思ってな」


 すると、にこにこと笑いながら前さんは言った。


「そりゃ、薬師と出かけてるんだもん、楽しくないわけがないけど?」

「俺と出かけるのが楽しいのか?」


 聞くと、急に前さんは唇を尖らせた。


「むぅ……、朴念仁」

「朴念仁? 俺が?」

「うん。どう考えたって」


 うーむ、判らん。

 大体十やそこらのあたりで全くその辺は鈍くなっているからな。

 と、そこで、前さんがふと気付く。


「あれ? ここって、遊園地だったっけ?」


 その視線を追うと、少し先に、遊園地の端が見える。

 奥には観覧車も。


「あー、あったな。行ったことはないが」


 俺の言葉を聞いているのかいないのか。

 ただぼんやりと遊園地を眺める前さんに、俺はもう一つ、言ってみた。


「行くか?」


 前さんは、肯いた。










 結果、やたらとファンシーな遊園地を俺は前さんと二人で歩いていた。

 財布は、微粒子並みに軽くなったが、後悔はない。

 とりあえず俺は、何をするか探してみる。

 そして、なんとなくジェットコースターが目にとまった。


「ジェットコースターでも、のっとくか」


 前さんは、少し戸惑っていたが、すぐに言う。


「ジェットコースター、かぁ、乗ったことないな」


 そんな前さんを見て、俺はふと気付く。


「もしかして前さん、遊園地初めてか?」


 いや、俺も遊園地有段者と呼べるほど来ているわけじゃ、ってか二、三度くらいか。


「実は、そうなんだよね」


 そう言って寂しげに笑う前さんを見て、俺はあえて茶化して見せた。


「そうでございますか。では、全力でエスコートさせてもらいますよ、御姫様」


 そしたら、変な顔された。

 まあ、それでもいつもの顔に戻ったからいいのだが。


「さて、行くか、まずはジェットコースター。あとは定石と言えば――、コーヒーカップもありか? ウォータースライダーも、あるのか」


 少ない知識から絞り出しながら、俺は前さんの手を引いて、ジェットコースターの下まで歩いて行った。

 そして、後悔する。





「……うぇ、気持ち悪い……」


 俺は、ベンチに座る前さんの背を一心にさすっていた。

 そう、前さんは全くこういう乗り物系がダメだったらしい。

 ジェットコースターでダメージを追った前さんのために次はコーヒーカップにしたのだがこれも駄目。

 結果、こうなると。


「ごめんね? その、迷惑かけて」


 バツが悪そうにする彼女に、俺は笑いかけた。


「それは言わない約束でしょおとっつぁん? いや、おとっつぁんっておい」

「…自分で突っ込んでる」

「いや、前さん突っ込むの辛そうだしな。セルフでやってみた」

「うん…、でも、これじゃ何も乗れないね」


 微妙に前さんが気落ちしている。

 そういう彼女を見るのは、得意じゃない。


「気にすんな。遊園地は乗り物だけじゃない。ってか乗り物しかないなら潰れてしまえそんな偏った遊園地」


 言いながら、容態の安定した前さんの手を引く。

 次はどこへ行こうか。





 その次は、お化け屋敷に行ってみることにする。

 そもそも、ここにいるのは全て幽霊だし、幽霊が幽霊を見て驚くというのは随分と倒錯的で、皮肉が利いているのだが。

 まあ、誰も文句はつけない。

 霊になっても精神は生前のままだしな。

 とか考えて。

 前さんの手を引こうとして。


「どうした?」


 微妙になんか顔が引きつっている気がする。

 あと、動こうとしない。


「い、いや、なんでもないけど?」


 なんとなく、S心が芽生えた。


「そうか、なら行こうすぐ行こう。大丈夫、お化け屋敷は揺れない」

「ぇ……? うん、そうだね」

「ま、怖いって言うなら別だが――」

「そんなことないよ! さ、行くよ薬師!」


 その結果。


「ひゃあっ!!」

「まあ、待て、落ち着いてくれ前さん。俺に飛びつくのはともかく金棒は振り回さないようにするんだ。薬師お兄さんとの約束だよ?」


 言う事があるとすれば、逃げて、幽霊の人逃げて。


「きゃあっ、やっ……。ひゃああっ!!」

「金棒ダメ、ゼッタイ」


 そんな俺は、現在進行形でさば折りタイム。

 そんなにきつく締めると、胴と下半身が別れを惜しんでしまうぞ?


「ぐぎぎぎぎ、こうなったら仕方がない」

「ほぇ?」


 前さんを抱えて走る。

 走る、走る。


「どいたどいた! 重くてでかい鉄の棘付きな鈍器に殴られたくなかったら逃げろ!」


 そしてついに。


「出口っ! 吹き抜ける!!」


 俺と前さんは外に転がり込んだ。

 いや、表現としてはおかしいな。


「ぜっ、ぜっ……」


 俺は、吸えない息と格闘する。

 どういうことかって?


「薬師、どうしたの……?」

「すごく、首がしまってるんだよ。無茶な首絞めはやめよう。……薬師お兄さんとの約束だ」


 すると、はっとしたように前さんが腕を離す。


「ご、ごめん!」

「いやいや、このくらいならその内いい気分に――、なりたくはないな」


 そんな趣味は無い。


「ごめん。これじゃ、遊園地なんて楽しくないね」


 しおらしい前さんに俺は首を振って笑った。


「十分楽しいっての」

「嘘。首絞められてたのしいわけないもん」

「いや、だから慣らせば快感に、ってそれはいい。いや、俺としては楽しかったぞ? お化けが怖くてきゃーきゃー言う前さんが」


 その瞬間。

 なんというかいきなり前さんが沸騰した。


「そ、そんなことないもん」

「じゃあ、さっきの醜態について詳しく」

「う、あれはちょっと驚いただけ」

「お、おい前さん!! 後に生首が!!」

「ひにゃぁああッ!!」


 ごっふぅ。

 前さんから鳩尾に頭突きを貰ったぜ。

 だが、そこは大人の余裕。

 脂汗を暑いせいとひた隠しにし、言う。


「いないぞ? 生首なんて」

「ほんと? ほんとにいない?」

「ああ、いないいない。怖いよな、生首は」

「うん、そうだよね。生首は……、怖いよね」

「って怖いんじゃないか」

「あ」


 そして、一度憤慨して、落ち込んで、今度は開き直った。


「……お化けがが怖くたって、いいじゃん」


 道すがら、前さんが口を尖らせながらそんなことを言う。


「怖いものは怖いもん」

「おう」

「別に夜中厠に行くのが怖くたって仕方ないじゃん」


 なんか、別のことまで暴露してないか?


「だって、李知だって怖いの駄目なのは一緒だもん!」

「うん。そうだな。お化けは怖いな。俺も、赤い髪で縞模様の服を着た鬼に首を締められるのは怖い」

「もうっ!」


 そんなこんな。

 だが、意外と楽しかった。

 乗り物には乗れないわけだが。

 騒ぐだけで楽しいもんは楽しい。

 そして、最後にと、二人、観覧車に乗り込んだ。

 最初は、無言。

 次第に気まずく。

 ついに、前さんが口を開いた。


「ねえ、李知のこと好きなの?」

「それは、ライク的な、か? だったら好きだが?」

「そっちじゃなくて。恋愛として」

「だったら、否だな」

「じゃ、嫌い?」


 違う。

 そうでもないんだ。

 ただ、ただ一つ。


「なんつーか、自分が恋愛してる姿が思い浮かばない」


 それに、前さんは一つ、ため息をついた。


「いつも、薬師はそうだよね。ねえ、どうして? どうして薬師は、恋愛ごととなると、そうなるの?」


 それを、言わなければいけないのか。

 正直に言って、はぐらかせる雰囲気でもなく。

 諦めたように、俺も溜息を吐かせてもらうと、暴露した。


「俺の父親は、暴力亭主だった。その一言に尽きるな」

「え?」


 俺は、驚いた顔の前さんに、続けた。


「この俺とて昔は子供だったわけだが。俺は、父親に殴られる母親の姿を見ていた。その瞬間、結婚する俺が脳裏に浮かばなくなった」


 俺の父親は、酒を飲んでは母親を殴る。

 次第に、俺は父親のようになるんじゃないかと思った。

 故に。

 結婚に踏み出すことはできない。

 そして。


「母親は、俺と逃げた。母の実家は、温かく受け入れてくれたよ。母親はな」


 もともと、彼らは駆け落ち同然だったらしい。

 実家の人間にとって父親は憎むべき存在で、その血を持つ俺は、気に入られることはついぞなかった。


「俺は、そうだな、空気だった。母親がいなきゃ食事すら満足に与えられん。せめて、罵られりゃ楽だったはずだが、俺は完全にいないものとして扱われた」


 幼いながら、思ってしまった。

 恋、結婚、愛。

 これらは、俺のような生き物を生む。


「俺にとって恋愛や結婚は縁遠い話になった。俺が父親の二の轍を踏むかも知れんからな。そうなったら、忍びないだろう? 俺の子に」


 そう言って、俺は笑った。

 愉快な話じゃない。

 故に笑ってでもいないとやってられん。

 まあ、それだけじゃなくて、それを固定化した要因があるんだが。


「ほいほい、こんな暗い話はどうでもいいっつに。それより、俺の財布はここで限界だ」


 前さんがきょとんとした顔になる。


「よって、てか、もう五時か。それなりにいい時間になったもんだ」


 うーむ。


「ってことで、取りあえず銀行に寄ろう。その後飯を食いに行こう」

「え? うん」








 事は、その銀行で起こった。


「そいじゃ、行ってくる」

「うん、いってらっしゃい」


 俺は、前さんと別れて、銀行にはい――、あれ?


「強盗、ダメ、ゼッタイ」


 何で人々が数珠つなぎになって銃を突き付けられてるのかなー?

 そもそも地獄に銃なんてかなりきついはずなんだがなー、管理が。

 と、そこで俺の闖入に驚いた三人の強盗が言う。


「動くな! 手を挙げろ!!」

「床に膝をついて足を交差させ、手を頭の後ろにあてろ!!」

「床に伏せて両手を腰の上で組め!!」


 ――どうしろと?

 主に手をあげて手を頭の後ろにあてて、腰の上で組まなきゃいけないの?

 阿修羅でもなきゃ無理だっつに。


「は、早くしろ!! でないとこいつを撃ち殺すぞ!!」


 そう言って、男の一人が銀行員の女性を掴んで、銃を突き付ける。

 だから、どうしろと。

 俺は呆れた声音で、

 言った。


「あー、はいはい。だが、残念だが、今日はそこの銀行員さんに、運があるみたいだ」

「何言って――」


 そう言おうとした男の声を遮り、言う。


「いい風が、吹いてる」









 俺は、通常通り金を下ろすと、平然と前さんの元へ戻った。

 本当は色々事後があるのだろうが、人をまたしてんだよとごねたらなんとかなった。


「よ、終わったぜ」

「時間かかったね」

「混んでたんだ」


 危ないマスクの人が来るくらい。

 と、そこで、電気屋のテレビに映るニュースに、俺の眼は釘づけになった。


「どうしたの?」


 それだけではない。

 あちこちから聞こえるサイレン。

 そして、耳障りに聞こえる放送。





『地獄の各地で、強盗、テロ活動が相次いでいます。皆さん、家から出ないようにお願いします』




「こりゃ、夕飯とか言ってる場合じゃねーな」






―――



二十です。
なんかあれです。
大幅修正がかかりそうな予感がします。
とりあえず三回ほど見直したのですが、眠さのあまりちゃんと書けてるか微妙です。
後で見てみるに堪えないものだったら直すこととなりましょう。

ちなみに今回は、薬師の過去が公開されました。
ああ、こりゃ女性に優しくなるし性欲もなくなるわ。
ってな感じの。
なんというかトラウマチック。
次の話は、薬師の過去にバーンと迫って、ついに彼の正体が明らかになったり。

なんというか、あれなんですよね。
トラウマもちが多すぎる。
だから、この微妙な関係が続くのでしょうが。



あ、それと、だいぶ前(前の前の投稿)なんですが、十八の後半、レストランのやり取りを追加していますので、読んでない方は読んでおくといいかもしれません。






さて、返信を。




妄想万歳様


薬師の特技は旗を立てることです。
問題は回収する気がないことか。
名前もない商人少女ですら、そのハートをブレイクしちゃったり。



スマイル殲滅様


感想ありがとうございます。
何度でも叫んでみるといいですよ?
鬼っ娘は人類の生みだした叡智の結晶っ!!
さて、性欲がないことについて色々晒した薬師ですが、これでは別ベクトルで心配になってくる。



00113514様


感想、感謝です。
確かに、地獄ラブコメはあまり見ませんね。
目撃証言があれば拝みに行きたいですが。
ちなみに、薬師の懐事情ですが、三食寮で出るので、完全に食費が浮くのです。
そのおかげで、かなり生活費を切り詰められた挙句、こういうときくらいしか金の使い道は無い薬師だったり。



ねこ様


本日の石積みはコロンブスの卵方式でした。
でも、石が一部砕けるってどんだけ叩きつければいいんでしょうね。
こっからは完全に関係ない話ですが。
あと、貴方のHNを見て、不意に清杉を思い出しました。



ザクロ様

お久しぶりです。
なんか風邪で寝込んだりしてあれでした。
仕事は、まあ大体現世と変わらないんですが、河原とか、死神、渡守とか地獄専用の職種があったりします。
あと供養課とか特殊な課とか。



XXX様

はい、彼女はろりっ娘です(笑顔)。
別に小学レベルじゃないけど、前さんより年上くらいかな。
実年齢ではないですが。
ちなみに、なんか白っぽいようなクリーム色っぽいような髪を、胸の前でまとめています。
実はいつか再登場させたいキャラの一人。
会話のテンポが良かった。



獣様

感想どうもです。
薬師の旗立機能は、彼の意志とは関係なく発動するのです。
さて、鬼っ娘に目覚めてくれたようでなによりです。
さあ、更に奥深くに突っ込んで妖怪萌えを――、うわなにをするやめ。
あと、誤字報告ありがとうございました。
修正しておきます。





さて、最後に。



フラグ立ても程々に。薬師お兄さんとの約束だ。


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