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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:5aad42d3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/12 22:12
俺と鬼と賽の河原と。



「こんにちは」

「……こんにちは?」


 俺は、気軽に挨拶をしながら横を通り過ぎていった女を、思わず目で追った。

 雪の様に白い髪。同じく病的なまでに白い肌。そして、それに対して対照的な黒い瞳。

 冷徹な美貌の、和服美人だが――。


「なんでお前がここにいるんだ愛沙よ」


 いや、違う。

 それよりも――。


「お前、さっきお隣さんから出て来なかったか?」


 愛沙は、そんな俺の言葉に、一度足を止めると――。


「ああ、挨拶がまだでしたようで。本日ここへ引っ越してくることになりました数珠愛沙です……、といっても知っているのでしょうけれど」


 したり顔でそうのたまったのだ――。


「はい?」


 確かに、春奈はうちのお隣、こじんまりとしていながらも立派な、そんな一軒家から出て来たのだ。











其の百二十 俺とご近所付き合いが。













「手続きを終わらせたら、蕎麦を持っていきますので。それまで待っていなさい」

「お? おう」


 と、言うわけで。

 座敷で正座待機すること一時間ほど。

 何故俺は正座なのかと冷静になって自問自答し始めたその時だ。


「では、失礼」


 行儀よく、目の前の襖が開かれたのは。

 藍音によって呼び鈴を鳴らす前に招き入れられたのであろう愛沙は、先程会ったままの姿で、俺の前にこれまた行儀よく正座した。

 そんな愛沙に、俺は――。

 すっかり何を聞くのだったか、忘れていた。


「……お元気、でし……たか?」

「……何故そんなに不思議そうなので?」


 思わず飛び出た言葉に、それこそ不思議そうに愛沙は俺を見た。

 ……ええと、何を聞こうとしてたんだったか。

 確か、そうだな。

 俺の聞きたいことは……。


「そうだそうだ。お前さんは何故ここにいるんだ、と聞こうと思っていたんだよ」


 手を叩いて言った俺に、愛沙はああ、と納得したように肯き、答えを寄越す。


「先日準備が済んだので、越して来たのだけれど」


 いや、違うそうじゃない。

 俺は思わず難しい顔をする。もっと別なことが聞きたいのだが――。

 俺がどうにか聞きたいことを絞りだそうとした、そんな折、愛沙は勝手にこちらの言いたいことを理解して、言葉にしてくれた。


「なるほど。テメェの様な大罪人がなぁんでこんな短期間に平気な顔で娑婆の空気を吸ってんだカスが。保釈金でも支払ったのか、あぁ? と、言いたいので?」

「いや、違うそうじゃない。確かに正解に限りなく近いけどな? あれだ。俺、包むよ? オブラートに」


 幾ら俺だってでん粉製の薄いアレに包むさ。

 まあ、ともあれ。

 俺の意図を察してくれたらしい愛沙は、少々考え込むようにして答えを呟いた。


「ともかく――、そう。私は確かにそれなりの罪を犯し、早々出て来れる、という訳でもないのだけれど。司法取引、と、でも言えばいいので? まあ、意味合いはかなり違うのだけれど。……言うなれば、半分は閻魔の温情ですが」


 司法取引、なんつーか、罪を認めて情報とか渡すから罪を軽くしてね? みたいなあれだ。

 意味合いがかなり違う、というのは要するに、本来の司法取引とは用途が別、ということだな。

 実際、地獄にはない制度であるし。

 上手い言葉が見つからないのだろう。


「これでも、地獄有数の科学者なので」


 まるで、先程の意味合いの齟齬を補うように、愛沙は言った。

 なるほど、わかりやすい。


「ははぁ、なるほど?」


 要は、科学者として地獄に奉仕する代わりに、刑を軽くしてもらった、ということか。

 地獄はそのあたり、甘い所がある。死後故か、牢屋にぶち込むよりも勤労奉仕させた方がよっぽど良いという意識が強いのだ。


「故に、今は地獄で研究員として働いているのだけれど」


 うんうんと納得し、頷く俺。

 そんな中、愛沙はこともなげにあっさりと、


「――後は母を少々」

「……母親って少々やるもんなの?」


 俺は驚いた。

 驚きのあまり、突っ込み所が変になるほどだ。


「じゃなくてだな……、母親? 結婚でもしたんか」


 言いなおす俺に、愛沙は首を横に振った。

 違うのか。じゃあどういうことだ。


「んー……、母親って、誰の?」


 父親がいないのに子がいるとはどういうことか。


「それは……、――どうやら、来たようで」

「ん?」


 答えは、意外な所からやって来た。

 今度は勢いよく襖が開かれる。


「やーっくしー!! 遊びに来たわ!!」

「これが娘の、春奈」

「はい?」


 アホの子がお目見え舌は良いが、非常に予想外な言葉に俺は間抜けな声を上げる。

 そして、空気を読まず現れたアホの子の言葉が、俺を更に混乱させた。


「あっ、お母さんじゃん! 先に来てるなんてなまいき!」

「春奈、母親に向かって生意気とは――」


 なるほど、親子の会話だ。

 俺は愛沙の説教を遠くに聞きながら、次第に状況を理解し始めた。

 要するに。


「愛沙が、母親で」

「はい」


 俺は愛沙を指さし、次に春奈へ。


「春奈が、娘」

「うんっ」


 ふむ、なるほどなるほど?


「二人は親子?」

「ええ」

「そうだよっ!」


 ……驚きの新事実である。

 まあ、確かにいつまでも地獄預かり、という訳にもいかないから、引きとる必要もあったのだが。

 まさか愛沙が引きとっているとは。

 ある意味しっくりくる展開ではあるが、相性的にはどうなのだろう。数珠家があった時代は結構犬猿だったはずだ。

 俺は、そんなどうしようもない心配をしてみるが、


「ねえお母さん、今日の夕飯はー?」

「ま、まだ決めていないので」

「とか言って、今日も炒飯なんでしょ! どう、わたしの名推理!」

「う、うるさいのでっ。料理に関しては目下学習中で……」


 意外と、上手く噛み合ってるらしい。

 数珠家っつー枷がなければこんなもんか。

 まあ、良いことだ。

 特に俺が口出すようなことじゃない。

 ということで、俺は別の話題に切り替えた。


「所で。エクスマキナは修理したのか?」


 何気ない、なんとなくの言葉。

 そんな言葉だったのだが――、


「はい……! 今回は前回の反省点を生かし小回りが利くよう自立型機動兵器を装備し、更には赤熱化機能を備え、それに伴い装甲を変更し緋々色金とオリハルコンの二重構造で硬度を上げ、霊思念エンジンを更に二基積むことでさらなる出力上昇も――」


 異常な食いつきに、引いた。

 あ、うん……、そうですか。としか言いようがない。

 なんせ、色々言ってはいるが、門外漢の俺にはさっぱりわからん。

 強くなったことだけは感じ取れるが。


「――と、言うことで、エクスマキナ弐型、シンカイが完成した、と」

「あ、うん……、そうですか」

「その微妙な顔はどういうことで?」


 今になって気付いたが、愛沙は意外と子供っぽいのかもしれない。















 大体聞きたいことも聞き終わった辺りで、俺は遂に足が痺れて来た。

 いや。誰が強制した訳でもないのだが。

 ともかく、正座を終了し、胡坐をかいて、そう言えば、と愛沙に聞いた。


「なんでうちの隣だったんだ?」


 そんな素朴な疑問に、愛沙はまるで困ったものだ、とばかりに溜息をつきながら答える。


「春奈がここが良いと」


 と、言うのだが、


「愛沙が勝手に選んできたんじゃんっ!」

「……ここにしか良い物件が無かったので」

「閻魔が他にも沢山勧めてたのに?」

「……」


 それきり、愛沙はそっぽを向いて黙ってしまった。

 その顔は赤い。

 なるほど、ここに何らかのこだわりがあったのか。

 それで、俺はなんとなく、場を和ませてみようと冗談を言ってみることにした。


「まさか、愛沙。俺に惚れたか」


 はっはっは、とわざとらしく俺は笑う。

 どうせ、何を言っているんだお前は、的な答えが返ってくると思ったのだが――。


「ち、ちがっ……」


 戸惑うような言葉のあと、俺に帰って来たのは。


「ぐふっ」


 どすっ、とガラ空きの胴体にまともに直撃した――、

 ――愛沙の拳だった。

 あまりの勢いに、俺は頭部を畳にぶつける羽目になる。


「いい、拳だな……」


 俺は、走り去っていく愛沙を見送って、そう呟いた。

 まともな人間だったら、吐く位の攻撃だ。

 それを迷いなく放つ愛沙に敬礼である。

 まあ、それはともかく。

 いやそれにしても良い拳だった、と感心する俺に、春奈が俺を上から覗き込むようにして声を掛けた。


「やくし、だいじょーぶ?」

「おう、多分な」


 俺は頭をさすりながら身を起こす。


「これが、愛?」


 真っ直ぐに見つめられながら聞かれて、俺は首を横に振った。

 目を輝かして聞いてくるが、これは否だ。殴り愛と表現するにはこちらが手を出してないので否ということでここは一つ。


「いや、こんな愛はお断りだ」

「そうなの?」

「痛いのは御免だぜ」

「ふーん?」


 適当にそう言ったきり、不意に立ち上がった春奈が、俺の頭を撫でる。


「なんだ?」

「痛いの痛いのとんでけーっ」


 その撫で方はあまりに不躾すぎて、逆に痛いんだが――。

 しかし、まあ、多めに見よう。

 と、まあたまに仏心を出してみると。

 ビシッ、バシッ、と段々撫でる、から、はたくに進化していた。


「いや、もう痛くなくなった。どうしてかというと殴られて元の痛みを感じなくなっただけだがなっ」

「ほんと?」

「ほんとほんと」


 本当に頭が痛いぜ。てかよく考えると一番痛いのは脾臓のあたりだ。

 そっちの痛みは、頭の痛みで本当に消えているが。


「やったっ」

「おめでとさん」


 春奈式治療術、右手が痛いなら爆弾で吹き飛べば右手の痛みが気にならないじゃないっ、の副作用によって痛みだした頭部をさすりながら俺は呟いた。


「そういやそれは誰に吹き込まれたんだ?」


 また、運営の世話役だった人間なのかと思いきや――。


「お母さんだよ?」

「ははぁ、愛沙が、ねえ?」


 似合わないことこの上ない。

 この上ないが、微笑ましい。


「やくし、笑ってる?」


 俺はについたまま肯いた。


「ああ、笑ってる」


 なんせ、この間まで、人形がどうの脅迫がどうのと言っていた愛沙がだ。


「こんな面白いことが他にあるかよ」


 人生、どうなるか分からないもんだ。

 もう死んでるが。
























おまけ。


「引っ越しですか。確かに、妥当ですね」


 と、引っ越しの相談を持ちかけた愛沙に、閻魔は納得したように肯いた。

 現在、暫定的に愛沙は春奈とアパートに住んでいるのだが、それは一人暮らし向けの物件だ。

 一時的に住む分には女二人、さほど問題は無いが、やはり手狭。

 当然の帰結だ。と閻魔は二人暮らしでも丁度いい位のアパートやらマンションやらの資料を持ち出した。

 家事は駄目でも仕事はできる閻魔。この程度のこと、予測の範囲内だ。その内必要になるだろう、と色々集めておいた。

 だが――。


「実は、その……。一応良い物件に目を付けてあるのだけれど」


 これは予想外だった。


「はい?」


 差し出されたのは壱枚の紙。当然載っているのは物件の話だ。

 こじんまりとしていながらも立派な、そんな一軒家。

 なんの問題もない。しかし。

 閻魔は、それを見つめて一つだけ、問題点を発見した。


「この、住所ですが……」

「なにか?」


 そう、その住所を見てみれば――。


「薬師さんのお隣じゃありませんか!」


 そう、そういうことだ。


「そ、そう。それは、知らなかった」


 妙に動揺した声で、愛沙は誤魔化した。


「そもそも、一軒家を買うようなお金は――」

「私のパテントを売るだけでもそれくらいの金額は出せるので」


 なるほど理にかなっている。しかし、閻魔が問題にしたいのはそこではない。


「……むぅ。というか、なんで薬師さんのお隣なんですか!」

「そ、それは、まったくの偶然で……」

「あり得ませんっ、貴方が引っ越すなら私も引っ越しますっ」

「いや、閻魔は仕事の関係上ここを動けないと思うのだけれど……」

「むう……、ってそうじゃなくて」


 気を取り直して閻魔は問う。


「もっと良い物件を紹介しますよ? 偶然なら場所が変わってもいいですよね? それとも、もう心に決めている、とか?」


 最後はおそるおそる聞いたのだが――。

 真っ赤になって愛沙は、ただ、こくんと肯いたのだそうだ。

 これを見て、閻魔はこの女、もう駄目だ、と思ったとか何とか。

























―――
ホームページを持ってから、身長が十センチ伸びました!
ホームページを持ってから、勉強がはかどります!
ホームページを持ってから、彼女ができました!
ホームページを持ってから、宝くじに当たりました!

はい、嘘です。
いや、拍手でなんかホームページ、無駄じゃないですよ、との慰めの言葉を頂いたので。


という訳で、お隣さんは数珠家のようです。

次回はビーチェかな、と思ってみる。






では返信。


SEVEN様

まあ、薬師を人間の感性にあてはめてもまったくの無駄、ということが前回でわかりましたね。
普通の人だったら仮に大天狗になったとしても地獄来る前に結婚して幸せな夫婦生活を送っていることでしょう。
女性陣にしてみれば、薬師の異常性は最大の不幸ですが、しかし幸運でもあるという。色々な意味で良かったのか悪かったのか……。
ともあれ、薬師を倒すなら、女性陣を味方につければあるいは……、あと、ウッドマンはどこに?


Smith様

主人公最強モノに相応しき小揺るぎもし無さに私も驚きを隠せません。どうやったら倒せるんでしょう。
むしろ、今死んだら女性関係的にフルボッコですが。非難轟々でしょう。
あと、多分もげても生えてきますよ、地獄なら。もしくは下詰が高性能なブツを付けてくれるでしょう。
まあ、薬師もげろとか、結婚しろとか、責任取れとか、薬師が愛されてる証……、だといいな。


光龍様

罪なんて気のせいさ、と薬師は言いますが。落とした女性に対して罪の意識を持ってほしいとは思います。
もしくは責任を取ってもげるしかないです。ええ。覚悟を見せてもらわなきゃ。
さあ、来年にはフラグ数幾つになるんでしょうね。それも回収を待つだけの。
ハーレムルート入ったら宮殿つくれるんじゃないですか? モテモテさんめ。


志之司 琳様

いつか、このタイトルやろうと思っていた、大天狗が倒せない。最後の決め台詞に「俺を倒したきゃリーフシールドでも持ってきな」とか入れようかと思ったけど自重しました。
まあ、わざわざ人殺してまでなんかしようとしたのに、やっぱやめます、向いてませんでした、ごめんなさい、は無いと思います。
初志貫徹するのもまた一つの生き方だと。主人公らしいかはよくわかりませんが。
拍手お礼は、まあ、あれですよね。裸の付き合……、何でもないです。


奇々怪々様

殺してしまった件に関して土下座されても忸怩たる思いでしょうから、どっちにしたって変わらない気もしますけどね。あんまり。
まあ、薬師は遺族にぶん殴られても自信満々なのでしょうが。あと、スタンド半端ないです。どう考えてもスタンドです。
あと、がしゃどくろVS巨大武者鎧は昔からやりたかったところで、情景を思い浮かべると結局カオスですけど。
そして、今回もフラグ着工先が帰ってきたりと、もう駄目だと思います。


リーク様

竜巻を避ける努力をするよりも、竜巻に耐える努力をする方が何倍もましだと思います。
範囲攻撃を避けるとか、クロックアップでもしないと不可能ですねわかります。
後はもう光速で動けるとか――。
次元を移動できるとか変態技能が無いと不可避もいい所です。


min様

予測……っ、されていた!?
いや、まあ、私もなんかよくわからないノリで、というかノリノリで名前付けた訳ですが。
なんかもう、竜巻、強い、倒せない=エアーマンですねわかります。
とか言ってた訳ですが、もう自分ですらよくわからないテンションでした。


あも様

出たら試合終了神さまの名に恥じない働きでした。エクスマキナMk-Ⅱは。すごいぞ僕らのエクスマキナ。
そして、薬師はシリアスの度に薬にも毒にもならないことを言ってる気がします。
そのまんますぎて参考になりません。あと、ナイフはきっと擬人化してくれると私は信じてます。
ああ、そう言えば自分の記憶にあるトラウマと言えば、FF8だか9のダメージ9998ですかね。あっ、って言って全滅しました。


通りすがり六世様

法性坊はいつか二人で変身とか言い出さないか心配です。果たしてどこに落ち着くのか。
ちなみに、奇術師的作戦の変遷は――。「ひゃっふうナイフ刺さったこりゃ勝った!」→「効かねぇwww気がふれている」→「仕方ない、仲良くしてたビーチェを殺して痛み分けで終わろう!」
→「二人いる、天狗パネェ、チートwwww」→「こりゃ囮置いて逃げるしかねえな!」→「しかしまわりこまれた!」→「あっ、ちょ、まっ」←今ここ。
まあ、一段階目の作戦に失敗した時点で破れかぶれでした。あと、アホの子じゃなかったのは、敵の回しモノ的な空気が出せないからです。


HOAOH様

まあ、痛みと言えば死への警告、っていうのが通説ですから。
死ににくい大天狗ともなれば残念な鈍さにもなるのでしょう。
といっても皆今死んでるんですけどね。まあ、その辺は置いといて。
思うに、ナイフが刺さったままでも気付かないのは、どうなのかと。


春都様

結局、償わないけど、責任、義務、けじめ、その辺のことは果たす、というのが薬師のスタンスみたいです。
まあ、おとっつぁんの暴挙の風景は確実に薬師的にエロに踏み出せない原因の一つでしょうね。
親父に向かってまるで獣……、いや、獣以下だな。なんて考えてる訳ですし。
あと、やっぱり巨大ロボットは巨大な敵を相手に戦うのが良いと思います。ちまちましたのはロボット的にも性に合わないんじゃないかと。今回は貫禄を見せつけましたが。








最後に。


エクスマキナがファンネルを装備したようです。


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