俺と鬼と賽の河原と。
ここは河原。
「一つ積んでは母ため、をとある場所で翻訳すると――」
そこで、人は石を積む。
「Laden by one : for mother。それをもう一回日本語にすると、」
それが供養と言われつつ。
「苦しい1時までに、母親のために。Byとあるエキサイティングな翻訳」
それが、賽の河原。
「意味わかんないっ!!」
其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。
「薬師さん! おはようございます!」
「おはようございます!」
「よお、少年少女達よ」
彼らが、ここに就職して、やっと半月となる。
まだ、担当は決まってないが、双方、精力的に働いているため、周りからの評価は上々。
そして、もう一人。
「何を黙り込んでるんだ? 李知さんよ?」
「むう……」
もちろん、李知さんだ。
その彼女は――、口に手を当てながら、何事かを考えている。
「で、何を考え込んでいるのやら」
聞くと、李知さんは口元から手を離し、こちらを見た。
「いや、少し、計りあぐねていて……」
「何を?」
「お前を」
俺かよ。
「人を馬鹿にして楽しむ嫌な奴かと思えば、子供には優しい」
「俺にだってさっぱりだ」
「そして何より憎めない」
その辺は自分じゃ把握できないのだが。
「うん?」
「お前は、私を嫌ってるんじゃないのか?」
はて、それこそ意味がわからんが。
「何故に?」
「いや、私にだけあのような態度だし、他には優しいし」
あー、そうだっけか?
李知さんだけじゃない気がするが――。
ともあれ、俺は立ち上がって、李知さんの目をまっすぐに見つめて――、言う。
「うん? だが――、俺は李知さんのこと好きだぜ?」
「なっ!」
「恐る恐るの慎重な関係は他人。友人とは、気安く軽口を言い合える間柄を指す。俺の軽口はな? いつも親愛の情をこめて、親しみ易くあるように言ってるんだよ」
「…そ、そうなのか?」
「ああ。ほら、お前さんもいつの間にか敬語が取れてる。だが、俺としてはできる限り親愛の情を込めたつもりだったんだが、理解が得られんとは……。悲しいな」
と俺は悲しい目をしてみる。
すると、李知さんは申し訳なさそうに。
「そう、だったのか。すまなかった、私の浅はかな考えでお前の親愛を貶めてしまった……!」
信じた!
これはやべぇ…。
本気で面白い。
ここまで面白いと俺からの好感度が上昇ですよ、っと。
元より嫌いな訳はないんだが。
「ああ、わかってくれたならいい。だから、俺はお前さんをこれからも親愛を込めてからかいつづけるな!」
「ああ、これからも私をからかい続けてくれ!」
はいポチっとな。
俺は手元のとあるスイッチを操作した。
「言質とった」
「え?」
驚く李知さんに、俺は手の中の物をひらひらと振ってみせる。
「俺の手の中にあるのはなんだと思う?」
「て、てーぷれこーだー…」
では再生。
『ああ、これからも私をからかい続けてくれ!』
「なっ、お、お、お前」
『ああ、これからも私をからかい続けてくれ!』
「また私をからかって……!」
『ああ、これからも私をからかい続けてくれ!』
「う」
『ああ、これからも私をからかい続けてくれ!』
「う?」
『ああ、これからも私をからかい続けてくれ!』
「うるさーい!!」
確かに。
俺は手元を操作してテープレコーダー、ってかデジタルなのでボイスレコーダーを止める。
「お、まえはいい加減にっ」
「なあ、聞くがさ、お前は嘘をついたのか?」
「な、そんな事はない。私はいつでも清廉潔白、誠実あれ。嘘など吐かない!」
「ほい、言質とった」
「え?」
『私はいつでも清廉潔白、誠実あれ。嘘など吐かない!』
「嘘、吐かないんだろう?」
『ああ、これからも私をからかい続けてくれ!』
「な、な、な、それは……」
「それともあれか? 嘘を吐かないと言った舌の根も乾かぬうちに発言を翻すのか? 誠実な人は」
「うぐ」
そんな彼女に、俺は満面の笑みを向けた。
そして――、
「からかっていいんだな? これからも」
む、固まった。
そしてしばらく震えていたか、と思うと。
「……ああ」
承諾した。
いやホントに面白いな。
「というのもここまでがぶっちゃけからかいなんだが。まあいいか、なんか勝手に承諾してくれたし」
いや、承諾してくれなくてもからかうんだが。
と、まあ、俺はそれでひと段落、とボイスレコーダーをしまおうとする。
のだが。
「な、お前、消せっ」
必死に李知さんが手を伸ばしてきていた。
俺は反射的に後ろに下がる。
「あっ」
と、そこで問題が生じた。
俺は、目の前に石を積んでいたわけで。
そこに、何の準備もなしに踏み込むと――、
転ぶ。
「っと、あぶねぇ」
俺は、それが解ったのでとりあえず、李知さんを抱きとめた。
なんとか被害は――、俺の積んだ奴が壊れてるね。
お疲れ。
とか自分を労いつつ、李知さんに声を掛ける。
「おーい、大丈夫か?」
「あ、ああ」
微妙に動揺した声を聞いて、俺は彼女が体勢を直すのを待とうとしたら――、
彼女はそれを好機と見たらしい。
俺がボイスレコーダを握ったままでいる李知さんの背へと手を伸ばした。
俺は身動きできない、どころか――。
「ほら、観念して寄越せ!」
「おい、ちょっと待て、この体制で無理に暴れられると――」
「え、あ、きゃあっ!!」
後ろに倒れこむ事になってしまった。
背から首にかけて衝撃が走る。
「ぐお、後頭部が痛い」
「な、あ、え?」
丁度、俺の首元に頭がある李知さんが、戸惑いながら声を上げた。
「で、悪いがどけてくれまいか?」
ぶっちゃけると覆いかぶさるように倒れられたため、動けないんだな。
これが。
あと、今まで気付かなかったが、密着体勢になって気づいたことがある。
結構あるんだな、何が?
察してほしい。
言うなれば、俺じゃなきゃこの状況、襲ってるぞ?
が、なかなか李知さんが動かない。
「おーい、李知さん?」
声を掛けると、やっと反応が返ってきた。
「あ、ああ、今――」
と、そこで。
「李知……? 薬師を押し倒して、何やってるの……!?」
まさかの展開が来た。
ちょっと首を動かして見ると、そこには誤解満載の前さん発見。
家政婦は見たって顔してるよ。
「五分経ったから来てみたら、そこの二人を置いてけぼりで、突然抱きあったかと思えば、押し倒して――」
「い、いや、これは違くて」
がばっと上体を起こし必死に弁明しようとする李知さん。
俺はそれに続いた。
「そうだ! 例え李知さんが色々な物を持て余していても、俺にその気はない!」
「そ、そうだ! って違う!! 私は持て余してない!」
うーん、だがね?
「とりあえず馬乗りの状況からどいてくれるか? そのままマウントポジションで俺をぼこぼこにでもするつもりかね?」
言うと、やっと李知さんは動いてくれた。
「で? 話はきかせてもらうんだからね?」
そして前さんが、恐怖政治を始めた。
まさに鬼。
「それで?」
「と、まあこうなったわけです」
正座する俺達の前で、会話するロリとロ……、げほんげほん。
えー、あー、会話する少女達と少年。
要するに事の一部始終を見ていた二人が説明をしてるわけである。
そして、その結果。
「消してあげなさい」
「えー」
「えーじゃない」
消すのか、せっかくいい声が録れたのに。
「それに、無くても結局からかうんでしょ?」
「おう」
「一瞬の躊躇もなく言われた……」
微妙に落ち込んでる李知さんはスルーで。
「仕方ない……」
俺は、かちゃかちゃと、適当にレコーダーをいじる。
「ほいっと、おーけい」
「よろしい」
その前さんの言葉に俺は胡坐をかき、李知さんは立ち上がる。
と、そこで、なんか俺を見る由美。
「どうした」
「いや、なんかすごいなー、と」
何がすごいと!?
そんなこと言う子には――、
「肩車してやろう」
「え、あ、あの」
いきなり由美を肩車してみたんだがあれか?
「別にスキンシップが足りないわけじゃないのか?」
幼くして死んで家族の愛が足らなかったのかと思ったが違うらしい。
「いや、別にそう言う訳じゃ……」
言い淀む幼女、もとい由美。
「うん?」
と、思えば由壱の方が、こちらを見ている。
「おお、お前さんもか」
一度由美を下ろし、由壱を担ぎあげる。
「え、あ。すごい」
お、由壱は普通に喜んでくれてるぞ?
というのはともかく。
少し、気になったことがあるのだが、後で聞いておかねばならんか。
「薬師、お疲れ様」
「お、時間か」
あれからしばらく。
仕事の時間が終わった。
「じゃあ、帰るか」
俺は、立ち上がり、歩き出そうとして、気づく。
由美が、俺の服の裾を掴んでいる。
「どうした?」
怪訝に思って聞いてみるが、彼女は黙ったまま俺を見上げてくる。
……。
「行こう、由美」
そこに、由壱が声をかけて、彼女は俺の服から名残惜しそうに手を離した。
「お兄ちゃん……、うん」
二人が、渡し守にチケットを渡し川の向こうへと消える。
やはり、なんかあったのか?
そして、俺は振り向かずに後ろにいる二人に聞いた。
「なぁ、どうやったら鬼になるか、正確に教えてくれないか?」
すると、前さんの戸惑う声がした。
「え? でも、それは」
次に、咎めるような李知さんの声。
「いきなり何を言うかと思えば。私達が言うと思うか?」
だろうなぁ。
だが、ちょいと確かめないといけないことができちまった。
だから、問う。
「だったら、質問を変えるが。極度の飢餓に陥ると、鬼になるってのは――、正解か?」
二人の、息を飲む音が聞こえた。
「!」
ビンゴ、か。
だったら、あいつらは帰すべきじゃなかったかもしれない。
「肩車したときにも思ったが――、なあ、安岐坂兄妹、やつれてなかったか?」
―――
おかしいぜ!!
安岐坂兄妹メインだと思っていたらそうでもなかったんだぜ!!
うん。
本当は次の奴と一本だったはずなんだけど。
李知さんのせいで予定外に伸びたので、もう一本増やす。
安岐坂姉妹、どうなるのか。
どうでもいい近況報告で、
テレビCMでつるのがチルノに聞こえた。
穴があったら入りたい。
テレビ番組で謙信が建立(こんりゅう)した寺、が謙信が混入した寺に聞こえた。
うどん吹いた。
お前、謙信食ってる時にうどんの話すんなよ、とか思いついた。
消えたい。
ニュースで、マケイン氏上院議員が、魔剣士上院議員に聞こえた。
死にたい。
では返信。
妄想万歳様
誤字報告ありがとうございます。
そしてけーね先生が頭に浮かんだ貴方。
同志ですか。
自分で書いててあれですが、読み返したら、あるぇー?
角は長くないけど。
ザクロ様
まあ、じゃら男はこういうキャラという事で。
あと、地獄の広さですが、在獄中の霊の数で広さが変わります。
ただ、五丁目はかなり広い。
色んなとこから霊が集まりますので。
ついでに、空間も大分捻じれ切ってるので、四丁目は中々カオスに。
次に、形は平面になっております。
果てに着くと、進んでも進んでも進まなくて無限ループ。
自然の方は結構豊富。
斬り倒された木とかが地獄に生えてくる。
結構霊樹が豊富。
珍獣は、地獄生まれ、としては鬼もまた一つの地獄名物。
他は、タラスクみたいな妖怪の類がちらほら。
という感じでしょうか。
更新、頑張ります。
GEORGIA様
コメントありがとうございます。
どうも。
こ洒落てますね。
というのはともかく。
李知さんのいは李ぢれる年上のい、だと思ッてゐる今日この頃。
くぁwせ様
感想どうもです。
面白いと思っていただけたなら感謝の極みです。
石積みですが、意外とこれが難しくて、上の指定した高さに到達しないといけないという決まりが。
だが、それをやると崩れてしまう、ので玄人の技がいる、と。
ちなみに、母のためは言わなくても大丈夫です。
もうすでに両親への供養から外れているので。