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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:2dbeab00 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/17 21:41
俺と鬼と賽の河原と。




「あー……、もしもし?」

「あ、もしもし、オレオレ」

「詐欺か?」

「違うって、オレだよオレ!」

「いや、名前を言えよ」

「だから、オレだって! オ、レ!」

「じゃあ、上から下まで名前全部言ってみろよ」

「オレオレオ」

「は?」

「だから、オレ・オレオ!」

「え、もしや、オレさん? 名前オレ・オレオさんなの?」

「やっとわかったのか、おせーぞ、拓也!!」

「え、拓也って誰だよ……」

「え……?」

「俺は薬師。貴方は?」

「オレ」

「貴方がおかけになったのは?」

「拓也」

「俺は?」

「薬師?」

「そう、正解」

「……どうやら間違えたみたいだ、申し訳ない」


 がちゃり、と音が響き、電話は切れた。

 俺は思わず叫ぶ。


「間違い電話かよッ!!」


 別にそこからオレ・オレオさんと何かがあった訳でもないのだが。









其の百十三 俺とあれな賽の河原と。










 呼ばれて来てみた玲衣子宅。

 いつものように勝手に侵入してみると――。


「今回も、よい返事は頂けないので?」

「ええ、そんな答え、ありませんわ」

「よー玲衣子ー、今日はどうしたん……」


 ――俺は非常に場違いだった。

 居間には、机を挟んで真剣に向き合う紳士然とした初老の男と、玲衣子の姿。


「お邪魔……、しました?」

「お待ちになって? 問題ありませんから、こちらへ」


 俺は思わず、開いた襖を閉め掛けて、玲衣子にやんわりと止められる。

 そのまま彼女は自分の隣の畳をとんとんと叩き、俺を促した。

 それに従い、俺は玲衣子の隣に座る。


「ああ、ええっと……、誰だね? 君は」


 面喰っていたロマンスグレーな男が俺に聞いた。

 果たしてどう答えたもんかと考えている内に、玲衣子が答える。

 俺の腕を抱きしめ、にっこりと笑って一言。


「私の、いい人ですわ」


 なんでやねん、と言いかけて、やめる。


「どーも、いい人の如意ヶ嶽薬師っす」


 俺は空気を読んだ。

 そうだ、今年の抱負は空気を読むで行こう。

 すると、紳士っぽい人は、酷く狼狽した。

 意外な人物に意外な恋人がいたって感じの驚き方じゃない。

 まるで憔悴と落胆が入り混じったような、そんな表情だ。


「そういうことですわ」

「そう、ですか。そういうことなのでしょうな……」


 何かを納得したように呟く爺さん。

 しかし、ここで困ったのが、俺だ。

 そう、この状況はなんだ。この爺さんは誰だ。


「ええ、とだな……、悪いが、玲衣子からなんも聞いて無くてだな。来客があるとか聞いてなくてそりゃびっくりしててだ」

「は、そうなのかね?」

「そうなんだ。で、お前さんの名前は?」

「ああ、私は関野 泉助。入獄課で働いている」

「ふむ……、で。そこな玲衣子との関係は?」


 俺が、核心に突っ込むと、そこな紳士、泉助は恥ずかしげにぽつりと呟いた。


「片思い中の身でね。まあ、たった今君の存在によって完全に振られてしまったことになる訳だが……」

「わお、そいつは驚きだな。正直どう反応していいか分らんね」


 無表情で呟かざるを得ない俺に、泉助は苦笑する。


「いや、すまないね。むしろ私の方が空気を読めていなかったようだ」

「いやいや、こちらこそなんかすまん」


 あまりの紳士振りに思わず謝ってしまう。

 むしろ応援してやりたい位だぜ、と思っていたら――。


「それで、玲衣子さん。うちのミケとの話は、無し、と言うことに?」

「はい。うちの子はあげません」

「え、なにそれ」


 そこなロマンスグレーさんが玲衣子に片思い的な展開なんじゃないの?

 とか思ったが、実は違ったらしい。

 わざわざ泉助が説明してくれる。


「ああ、うちの猫に相手が欲しい、と思っていてね。できれば、子供もできればいいんだが……」

「そっちはわかった。完全に振られたっていうのは?」

「結婚しろ、とうるさいのですわ。こうやって恋人の一人や二人、いると言うのに」


 言いながら、ぎゅっと俺の腕を抱きしめる力を強める玲衣子。

 ははあ、なるほど、俺の恐れている展開にはまったくならないらしい。


「先に言ってくれれば、わざわざ見合い写真なんて持ってこないものを」


 などと泉助が苦笑交じりに呟く。

 ここのご家庭は見合いさせられそうになる週間でもあるんですか。

 という疑問は呑みこんだ。聞いても仕方ないだろう。


「まあ、この場にこんな老骨は不要だな。お暇するとしよう」


 立ち上がり、歩き出そうとする泉助。

 玲衣子が見送りに行こうとするが、泉助はそれを制した。


「はは、構いませんよ。若い二人の邪魔はできんのでね」


 すごいな……、玲衣子を若い分類に入れられる辺り凄い。

 そして俺も若くない。

 のだが、突っ込む所でもないだろう。

 黙って見送れば、泉助は帰って行った。


「なぁ……、俺をだしに見合い話を断るのは別にいいんだが。先に言っといてくれると吃驚しなくてすむんだが」


 俺のやる気ない抗議に、玲衣子はいつものように笑う。


「言ったら逃げてしまうでしょう?」

「どうだかな。第一お前さんもお前さんできっぱり断っちまえばいいもんを」

「お節介焼きなのですわ。泉助は」


 そう言えば、泉助と玲衣子はどういう関係だったのだろうか。

 俺以外の友人がいたことに多少驚きながら、俺は聞いた。


「そういやあのおっさんとは如何様な関係なんだ?」


 すると、玲衣子はからかうようにうふふと笑う。


「気になります?」


 そんな顔をされると非常に気になると言いにくい。

 べ、別に気にならねーよ、とか言いたくなる空気である。


「気になる」


 だが、そんな空気を横に捨てて聞いてみることとする俺。

 玲衣子は今度は、嬉しげに笑った。


「ふふ、お気になさらず。仕事の元同僚だったんですの」

「ふーん?」


 どちらかと言うと、玲衣子の方が先輩だったっぽいな。

 心の中で感想を下していると、俺はもう一つ気になった。


「なんで嬉しそうなんだい? 玲衣子さんや」

「気になる、と言ってもらえるのは嬉しいものなのです。それが貴方なら尚更」


 俺にはわからないが、本人が言うならそうなのだろう、と俺は納得する。


「そうなのか」

「そうですわ」


 双方納得し、俺はふと、机の上に置いてあった黒い本。要するに見合い写真。

 それを開いてみる。


「うえ、二枚目だ、やべーな、優良物件じゃねーか」


 そんな無責任な言葉を零したら、俺に向かって玲衣子は言った。


「私が結婚したら、いやですか?」

「ははぁ、そうだな。結婚式には呼んでくれな」

「私が結婚したら、こんな風に入り浸ることもできませんわ」

「そいつは困るな」


 俺の言葉に、玲衣子が苦笑する。

 俺も微妙な笑みを返した。


「まあ、お前さんが幸せな方向での結婚なら止めはしねーけど」

「じゃあ、無理にお見合いさせられそうになったら?」


 俺はかかっ、と喉を鳴らして言葉にする。


「見合い会場吹っ飛ばす。これで星が二つ目だな」


 玲衣子も何故か満足げに笑った。


「そうですか……」

「しっかし、お前さんも物好きだねー。さっきのあれなんか金持ちだしな、飛びつきゃ一生楽できんのに」

「高い、高いマンションの屋上に住むよりも。こうしてここに住んでる方が落ち着くんですよ」

「わからなくもないな」


 人はそれをもの好きと言うのかも知れんが。


「ふふ、それに、マンションじゃ猫も来ませんし、ね?」

「あー、来ないな」


 そりゃマンションの最上階まで昇ってくる猫なんていないだろう。

 そんな風に俺が納得していると、玲衣子が突然俺に詰め寄った。


「ん?」


 どうしたんだ、と聞く前に玲衣子は俺に囁く。


「泉助の前では、私と貴方は……、恋人になってしまいましたね、ふふ」

「そうさな」

「練習、しましょうか」


 そう言って、玲衣子はさらに俺へ距離を詰めた。

 鼻先一寸。そこに玲衣子の顔がある。


「いや、それには及ばんって」


 練習とかめんどくせー、とか思って俺は断ろうとしたが、そうはいかなかった。


「駄目です。貴方はきっと、あっさりぼろを出してしまうでしょう?」


 残念、否定できない。

 俺は大根である。演技的に考えて。


「何故、残念な役者を大根と呼ぶのだろう、とたまに考えるくらいには危ないな」

「よくわかりませんわ」

「俺にもよくわかってねー」


 しかし、練習とやらを玲衣子的にやめる気はないらしい。


「えいっ」


 可愛らしい掛け声が聞こえたと同時、俺は畳を背に付けていた。

 要するに、押し倒されているらしい。

 ……男女逆じゃね?

 いや、俺に女を押し倒せるほどの若さは多分ないが。


「ううむ、所で聞きたいんだが」

「なんでしょう?」

「恋人って人前でこんな真似すんの?」

「します」

「過激だな」


 どうやら時代は変わったらしい。

 こんな老骨では時代についていけないようだ。


「では、練習といきましょう」


 となにともなく練習を始めようとする玲衣子を、俺は一度制止した。


「いや、まて。そもそも何をするんだ」


 そんな俺に、玲衣子はきっぱりと言い放つ。


「囁いてくださいませ。歯の浮く台詞を」

「……すまん、それ無理」

「あらあら、意気地のない」


 そんなこと言われても無理なもんは無理だ。

 一体玲衣子は俺を彼女いない歴何年だと思ってるのか。

 何年じゃないぞ? どころか十何年でもないし、何十年ですらない。

 俺の彼女いない歴は四桁だと言うに、お嬢さんは無理難題をおっしゃる。


「あいし、てるよ?」

「合志照代さんですか?」

「だーもう、無理無理、わからん、駄目だ」


 俺は、降参を示して、身を起こした。

 あら、と俺の上に乗っていた玲衣子を身を起こすこととなる。


「ほら、男は黙って突っ立ってるからよー。そっちで頼むぜ」


 そこまでさせられる義理はねえっ、と俺は開き直って見た。

 要するに、俺は借りて来た猫のようにじっとしてるからそっちでどうにかして頂戴ね、と言う訳だ。

 そんなことを俺が言うと、玲衣子は納得した。

 納得してしまったのだ。


「じゃあ、聞いてくださいね?」


 胡坐を掻いている俺に、玲衣子は後ろから抱きついた。

 そして。


「お慕いしております……」


 と、耳元で囁くのだ。


「愛してますわ……」

「すまん、こそばゆい」

「貴方が言ったのに?」

「俺が悪かった」

「んふふ、それは残念ですわ」


 どうやら諦めたようだ。

 ほっと一息ついた俺、そして、そこに不意にメール。


「ん? げ……、呼び出しだ」

「あら、それは残念」


 携帯には、閻魔から助けを求める文章が。

 仕方がない。

 俺はどっこらせ、と年寄り臭く立ち上がる。

 合わせて、玲衣子も立ち上がった。

 二人で、玄関へ。


「ふふ、では行ってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくる」


 そんな時、ふと悪戯っぽく笑って玲衣子は言った。


「次くるまでに、歯の浮く台詞、考えておいてくださいね?」


 俺は、苦笑と溜息を返す。


「無理無理、よく考えてみると、俺、お前さんのこと好きとか嫌いとか、考えたこともないから」


 なんつうんだろうな、と自分でも考えながら。

 そして、言葉にした。


「お前さんといると気が楽なんだ。別に何もしてなくても、なんとなく楽しいんだよ」


 そう言って俺は外へ出て、その背中に声が掛かる。


「言えるじゃありませんか。歯の浮く台詞」


 俺にはよくわからない。しかし、玲衣子の方が分かっているのだろうので、俺は片手を上げて答えた。


「そんなもんかね?」

「そんなものですわ」


 その顔は、照れたように笑っていたんじゃないかと思う。
























 その後。

 俺は学校で――。


「え、ええと、はい! ベアトリーチェ・チェンチと言いますですっ、はい」


 とある少女と出会った。











―――
いや大変だった。百十三です。
実はこれ、一回書きなおして別の物に差し替えたんですね。
なにが悪かったって、途中まで書いて何かしっくりこないな、って思うこと、ありますよね?
多分あります。大体の物書きに。
おかげさまで、昨日から零から一気に書き始めて徹夜して突貫作業でした。
ともあれ、なんかベアトリーチェさんとやらも出て来たようだし、色々あるようです。





では返信。


春都様

ロリ、百合、両手に花とか薬師は一体どこの桃源郷に居るんでしょう。
地獄なのに。いい加減針山地獄を素足で歩いて欲しいもんですね。
そして、番外編で2フラグ立ててますね。予想を裏切らない薬師でした。美香はいつかどっかで出てくるかも。しかも近いうちに。
実は、今回そのフラグの一つを回収しようと思ったんですけどやめました。主に自分の精神の安定的に問題があって。


奇々怪々様

コーヒーはブラックで、とか言えないのが薬師です。五十三杯はコーヒー味の砂糖ですが。
そしてアホの子は見事トリックスターの位置取りをかっさらって行ってますね。流石アホの子。
ロリコンであろうとなかろうと被害が出る薬師は、やはりもうどうしようもないのでしょうか。
いい加減あのフラグビルダーっぷりはどうにかならないものか。


トケー様

……とても素敵な御友人がいらっしゃるようで。凄絶ですね。
そして、閻魔家は暴走の家系なのでしょうか。玲衣子さんが暴走したらどうなることやら。
……十八禁ですねわかります。どう考えてもエロ展開。
薬師の必殺技については――、大丈夫、放射能の出ないクリーンな最終兵器だよ! と言うどこぞの攻略本の様なキャッチコピーが思い浮かびました。


SEVEN様

飲食店でGの話はタブーですよね。それでもしてしまうのは喫茶店の店主と言うより趣味人だからに違いない。
李知さんも暴走するし、閻魔も駄目だし、由比紀もアウト。これは酷いですね。その内あの未亡人もなんでしょうか。
アホの子については、現在預かっている運営のおねーさんと昼ドラとか見て社会勉強中です。
しかし、番外編は酷く脳筋っぷりを露呈してましたね。たしかに。まあ、腕力で問題をどうこうするために強くなるのですから当然の帰結ですけど。


光龍様

慌てだすと人間なにするか分りませんからね。
鍋が噴きこぼれそうになって、思わず掴んで火傷したのもいい思い出です。
そのまま気合でテーブルに乗せてやりましたけど掌がべろんべろんでした。
そして、アホの子の無邪気攻めは今までにない攻勢を見せるようです。


通りすがり六世様

ははは、そこまで言ってもらえるとなんか照れますね。
確かに未だ終わりが見えてないっす。あと、細長くやれればいいなと思ってるんで、やっぱり長くなりそうです。
いやはや、春です。きっと変態も沸きますね。ああ、後ちなみに妹の幼女化は月経みたいなノリで入ってくるので本人で周期は把握しているようです。
しかし、薬師に関してはもう何が普通で普通じゃないんだか分らないです。今回なんて押し倒されてますし。


志之司 琳様

閻魔さん地は全体で暴発したがる家庭みたいですね、ええ。カオス。
果たしてロリコンだったら何人喜ぶんでしょう。あと、何人が下詰の元にロリ化薬を求めに行くのやら。
アホの子は、ドラマやら、預かりになってる運営のOLおねーさんの話で勉強中です。色々吹き込まれたようです。
下詰は、なんというか既にデウスエクスマキナの領域と言うか、オチ担当というか。対価さえあれば世界さえ売ってくれる素敵な店主さんです。






最後に。


書きなおす前はスライムと少女Aとの話だった。
命拾いしたな、と言ってみる。


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