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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:a0b36a85 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/07 21:56
俺と鬼と賽の河原と。






「猫と朝帰りですか」

「んん? まーな」


 猫を頭に帰宅した俺を出迎えたのは、やっぱり藍音だ。

 返って来たのが早朝五時なのに、見計らったように現れる辺り、相変わらずである。

 ちなみに、にゃん子は人間形態よりも猫形態の方が楽らしい。

 当然猫分の食事しか取ってないから人間として動くほどの熱量を確保しきれないとか、霊体だからどうのとかという話だが、よく理解できなかったので、人間分の飯を食えば人間形態で良しで、猫分の飯しか食わないなら猫形態で、という家計に優しい構造なのだ、と理解した。

 要するに、現在は、今流行りの省エネ、なのだ。多分。


「それで、これからキャットフードを買ってくればいいのですか? それとも猫飯でも?」


 それにしても、実に話のわかるメイドだ。

 俺はそんな気遣いに、少々考えてから答えた。


「んー……、猫飯だな」


 栄養素に関しては微妙だが、地獄においてはさほど影響ないだろう。

 それより、熱量の問題だ。別に人間形態でいたいとも言ってないが、選択肢は多い方がいい。


「分かりました。ではそうしましょう」


 そして、やっぱり聞きわけのいいメイドであった。







其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。







 寝ていたにゃん子が目を覚ますが、俺の頭から離れる素振りを見せない。

 俺はといえば、眠くて仕方ないので自分の部屋へ向かっている途中だ。


「なあ、にゃん子さんよー……、頭が重いんだが、風邪かな?」


 皮肉気に呟くが、しかしにゃん子はにゃん、としか答えない。

 猫形態では基本的に喋れないのだ。

 と、思ったが。


「だが断るにゃ」


 そう言えば、化け猫に犬をけしかけると、うわっ、驚いた、なんて言って化け猫だとわかる、などというよくわからない化け猫判別法があったな。

 だが、しかし。


「にゃん子。お前から聞いた説明と食い違いがあるんだが、そこんとこ詳しく」

「あれ、信じちゃってたのご主人? まさか、信じてるとは思わなかったのにゃ?」


 一応そのキャラ付けは続けるらしく、本人がそう言うなら俺に言うことは何もないが――。

 猫形態でも喋れることは俺は聞いていない。


「俺の純情を弄んだなっ!?」


 俺が叫ぶが、しかし。

 にゃんこは、器用に鼻で笑った。


「ご主人が純情とか……、ねえ? むしろどれだけの純情を弄んだんだかわかんないねっ」

「身に覚えがないんだが」

「それを嘘でも何でもなく言っちゃえるご主人が素敵っ。こんなに女の子を侍らせて遊んでるのにっ!」

「いや、言葉自体は間違ってないが意味は違うと思うぞ?」

「またまたー、にゃん子と過ごしてた十年ちょいでも知る範囲では二、三人弄んだくせにー」

「嘘を吐くな嘘を」

「うにゃ、まあ、仕方ないか、ご主人だし」


 なんだそりゃ。と、俺は首を傾げて、そういえばにゃん子が乗っていたな、と思い出す。

 現に、にゃん子が俺の頭を滑りかけ、にゃん子から、抗議の声が上がった。


「落ちる、落ちちゃうってっ」

「あー、悪い」

「それは悪いと思ってない時の声っ、直した方がいいと思うにゃ?」

「あー、悪い」


 言いなおしてみるも、違いは伝わらなかったようだ。

 にゃん子は呆れた声を上げた。


「にゃー……、ダメだこりゃ」


 溜息を吐かれてしまった。処置なしとでもいう気でありますか。

 と、そんな時だ。

 廊下の向こうに人影が。その人影は、嫌に震えていた。


「な、ななななな、薬師、その頭の上に乗ってる猫は……」


 李知さんだ。わなわなと肩を震わせているが、どうしたのだろう。


「もしかして、うちで飼うのか……?」


 おびえた様子の李知さんに、俺はあっさりと肯いた。


「おう」

「その猫は、雌か?」

「おう」

「遂に……、猫まで……っ」

「にゃん子、ゴーっ!」

「イエス、にゃーっ!」

「うわぁ!」


 なんか失礼なことを言われた気がしたので、にゃん子をけしかけてみることとする。

 李知さんの頭ににゃん子が飛び乗って、後ろに着地した。

 俺は、なんとなく呟きたくなったので、俺は身を任せる。


「お前はもう、生えている」

「にゃあああああ!?」


 李知さんの驚きの声が猫化しかかっているがそれはともかく、あっさりと猫耳の完成である。

 人を跨いで呪いを掛ける、ねこまたぎだ。猫耳が生える呪いもあるらしい。

 猫憑きの呪いと言えばいいだろうか。

 これの凄い所は、一部の防壁を透過して浸透させることができることだろう。

 どういうことかと言えば、RPGで言うなら魔法無効防壁があっても、補助呪文は効き目がある、ってな話だ。猫耳は補助呪文らしい。聴力とか上がるしな。

 呪いは呪いでも、『のろい』でなく『まじない』、ということだ。


「ふはははははははっ、素敵っ、お利口っ、強い!」


 ともあれ、とりあえず勝ち誇って見た。育ちがいいかは知らないが少なくとも毛並みはふかふかである。

 にゃん子が、俺の背を駆けのぼり、頭に戻ってくる。

 李知さんが叫んだ。


「か、帰るっ!」

「帰るってどこにだよ」


 てんぱり過ぎて李知さんがなにを言ってるのかわからない。

 冷静に聞き返せば、更にてんぱった答えが返って来た。


「じ、実家に帰らせてもらうっ!」


 すると、にゃん子が楽しそうな声を上げる。


「わぁっ、夫婦喧嘩みたいだにゃ?」


 李知さんが更にてんぱる。


「ふ、夫婦だとっ……!? ……夫婦」

「わー、猫が喋ったのに突っ込まないよこの人」

「テンパってるんだ、許してやんなさい」


 てんぱってる人間に突っ込みまで求めるとはにゃん子も酷である。


「とりあえず、この人どうしよ」


 にゃん子が、李知さんを眺めながら言った。

 対して、俺は李知さんを見るのもそこそこに言葉にする。


「ほっとけばいいんじゃないか? 眠いし」


 俺は、眠さとめんどくささに任せ、部屋に戻ったのだった。

























「よし、いい朝だ。いや、昼だけど」


 部屋に戻ってひと眠りした俺は、少々眠って活動を再開した。

 座布団に乗った頭を少し浮かべてみれば、胸の上に黒い猫のにゃん子がいる。


「退いてくれたまえ」


 俺ががしっと胴を掴むとにゃん子が目を開いた。

 そうやって隣に置いて、身を起こせば再びにゃん子が俺の頭に鎮座する。


「腹が減ったな」


 独り言ともにゃん子に語りかけているともつかない言葉を呟いて、俺は居間へ向かった。

 時刻は丁度一時過ぎ。これならやはり腹も減る。


「飯はあるかね?」


 と、呼びかけてみれば、居間に居たのは憐子さんだ。

 ソファの背もたれから、憐子さんの顔が見えた。


「ああ、藍音が軽食を置いていってるよ」

「その藍音は?」

「買い物だ」


 本当に抜け目のないことだが、まあ、ともかく、台所だ。

 台所に乗っている籠に腕を引っ掛けて、俺は居間へと戻り、ソファに座った。

 籠を開けてみれば、サンドイッチだ。俺の苦手なトマトが入ってない辺り、流石である。

 感心しながら俺が卵サンドをつまむと、隣に座る憐子さんは俺の頭の上に興味を示した。


「ふふ、困ったお嬢さんは連れ戻したのかい?」


 にやり、とからかうように囁かれ、俺はため息交じりにやれやれと声を上げる。


「……本当に手のかかるこって」

「ところで、名前は?」

「にゃん子」

「……薬師らしいよ」

「そうかい……」


 なんだか納得されてしまったが、明らかに失礼だ。

 俺がそうして不機嫌そうに目を細めると、不意ににゃん子が喋り始めた。

 俺は、少々面食らって上に目線を向け、しかし目線を上に向けようとにゃん子が見えないことに気付く。


「やや、貴方が噂のお師匠さん?」

「憐子だよ。そこの朴念仁の、これだ」


 そう言って憐子さんは小指を立てる。


「おい」


 俺のぼやきは無視された。

 無視され、にゃん子はあえて憐子さんの冗談を無視する。


「貴方があっさり死んでご主人を一人にしたお師匠さん?」


 そんな棘のある言葉に、憐子さんが妖しげな瞳をもって答えた。


「そう言う君は二十年とて持たなかったにゃん子さんだな」


 なんだか、不穏な空気が漂ってきているな、逃げた方がいいだろうか。

 と、俺は頭の上で語るにゃん子を気付かれないよう降ろし、逃げだす方法を考え始めるが。


「それで、千年放置されたお師匠さん?」

「千年忘れ去られていたお猫様だな?」

「奇遇だにゃ?」

「奇遇だな」


 双方、にやりと笑う。

 そうして、にゃん子は軽やかに跳んで、憐子さんを越えた。

 完全に杞憂だったらしいが――。


「どうせなので、二人同時に……」


 人間状態に戻ったにゃん子と、猫耳の憐子さんに迫られる現状を省みるに――。


「にゃんにゃんしてみるっ?」


 やはり逃げた方が良かっただろう。


「遠慮する」

















 最近の俺の逃げ足は、人智を超え、神の領域に達し始めて来た気がする。

 速度は神速、そして気配遮断に分身による追手の撹乱まで、至れりつくせりだ。

 喜んでいいのか悲しむべきか、それともこれじゃいかんと一念発起するべきか、判断はつきそうにない。


「いや、一応喜ぶか。厄介事押し付けられても逃げられて便利だと思おう」


 などと、思わず呟いてしまえば――。


「薬師……、何一人でぶつぶつ言ってんの?」


 意外な人物に出会う。

 家の近くを歩きながら出会ったのは、前さんだ。

 俺の進行方向の角に前さんが立っていた。


「いや、俺の逃げ足の速さの成長について悩んでたんだ」

「……なにそれ」

「俺にもわからん」


 俺が考えるのを放棄すると、前さんは俺の目前まで、やって来る。


「ねえ」


 前さんが俺の胸元に手を伸ばす。


「ん?」


 はて、一体どうしたのだろう、と思ったら。


「これ、なんの毛?」


 前さんが摘まんで見せたのはにゃん子の毛だ。

 なんだ、修羅場か。


「なんだ、修羅場か」

「修羅場ってなにさ」

「いや、この髪の毛、どこの女の毛よっ、的な」

「随分とショートカットだね。その女の子」


 おっと、前さんに呆れられた目で見つめられてしまった。

 仕方がないので本当のことを言おう。


「うちで猫を飼うことになりました」

「へぇ、名前は?」

「にゃん子」

「その猫にご愁傷様って伝えといて」

「ひでえ」


 にゃん子はどこでも不評である。

 と、そう言えば。

 思い出したように俺は呟く。


「前さんにも猫耳生えてたん?」


 ずっと気になっていたのだ。俺の周囲に猫耳が生えていたが、ついぞ前さんとは会うことがなかった。

 前さんは仕事だし、俺は猫の捜索にいそしんでいたから当然と言えば当然だが。

 そして、とうの前さんと言えば。


「な……、なんのこと?」


 ぷい、と白々しく顔を逸らした。


「生えてたんだな?」

「な、なに言ってるのさ! 猫耳なんか生えてないからねっ!?」


 まあ、にゃん子の気まぐれでまた生えてしまうかもしれないが。

 と、思って前さんを見れば、彼女は妙に戸惑った言葉を返した。


「み、見たい?」

「ううむ……、ちょっと見たいかもな」

「で、でも、残念だね。もう無くなっちゃったし」


 思い切り白々しい前さんだが、とりあえず俺は前さんに事実を突きつけよう。


「ああ、多分また生えるわ」


 ――前さんが、固まった。


「え」

「そんときは見せてくれよな」

「う、うん……。こっそりだよ? 秘密にしてね?」

「おう」


 俺は肯く。すると、前さんは意外な言葉を口にした。


「ねえ、ここ最近仕事に出てなかったのってその、猫耳のせいなんだよね?」


 まったくもってその通りだ。俺は同意する。


「おう」

「終わったの?」


 簡潔な問いに、俺はもう一度肯いた。


「ああ」


 すると、前さんはほっと胸をなでおろすように息を吐く。


「……よかった」

「よかったって……、何が?」


 聞けば、前さんは頬を朱に染め、恥ずかしげに言葉にした。


「これでも、心配してたんだけどね……? その、やっぱ柄じゃないかなっ、あははっ!」


 しおらしいのも程々に、空元気と分かる明るさを見せる前さん。

 俺は、一瞬悩んだが結局。何も言わないことにした。


「なあ、今から呑みに行かないか? 今はちょっと懐に余裕があるんだ」


 非日常はいったん終了。そうして夢から覚めたなら、やはり日常に帰るべきである。












「いらねー、とは言ったんだ。今回の件については俺とにゃん子の問題だったしな? なのに閻魔はいきなり財布から札取り出して、これでなにかおいしい物でも食べてください、ってな。お前は俺の親かなんかか」

「ふーん。所で、閻魔様と薬師ってそんなに仲いいの?」

「悪くない、と自称してみる。あんまり良いって言って相手側からそんなにと言われると空しいから深く言及はしねー」

 いつもの居酒屋で、酒を片手に語る。

 前さんはできるだけ酔わないようちまちま呑む心積もりらしい。


「じゃあ……、閻魔様のこと、好き?」


 どうにも、藪から棒である。いきなりそんなことを問われようとは思わなかった。

 はて、言われても少々答えに困ってしまうな。


「好き嫌いで論じるのは少々難しいものがあるなぁ……」


 そうすると、前さんは微妙な顔をした。

 微妙ってなんだ、と言われると、なんかはっきりしないな、という残念そうなそうでもないような顔だ。

 微妙ったら微妙なのだ。


「……そうなの?」

「そうなんだ」


 俺は肯いて話を続けた。


「例えば、グリーンピースの好き嫌いを聞かれると困ってしまうよ、俺は」


 グリーンピースは食えないほど癖はないが、好んで食うほどの味じゃないと思うのだ、俺は。


「グリーンピースと人を比べないでよ」

「いや、人の方が多分もっと複雑で困る話だろ」

「そんなもん?」

「そんなもん」


 そんなもんだ。多分。


「じゃあ、好き嫌い以外で論じるなら?」

「嫌いじゃねーな」

「じゃあ、あたしは?」


 いきなり、聞かれる。

 俺は思わず戸惑ってしまった。そんなことを聞かれるたぁ、ついぞ思っちゃいなかった。

 だが、なんというか。

 俺の答えは一つである。そもそも、俺は違うように事細かに繊細に伝えられるような感性の持ち主ではない。


「嫌いじゃねーよ」

「ふーん……?」


 詰まらなさそうに、前さんは言った。

 ただ、このまま放置してしまうと勘違いしそうなので、俺は小指で黒い頭を一つ掻き、


「……男の言う嫌いじゃねーってのは、ただの照れ隠しなんだがな」


 言った。ああ、恥ずかしいったらないね。なにが悲しくて友人相手に好き嫌いを囀らねばならんのか。

 多少なりとも酔ってんのかね。


「……ふーん?」


 さっきと同じ答え。しかし。

 今度の前さんは、

 ――確実に楽しそうだった。


「そっちはどうなんだよ」


 俺が口を尖らせれば、前さんはもっと笑った。


「嫌いじゃないよ」


 仕方ないので俺は不貞腐れたように告げるしかない。


「そうかい」


 しとしとと、温かい雨が降り出していた。


















「私、猫耳だったのに構ってもらってない」

「知るかっ」


 そんな会話が銀子と俺で繰り広げられたとかどうとか。

















 更に余談。


「それで、結局夕飯に誘えなかったの? 美沙希ちゃん」

「うう……、今一歩だったのに……」

「それでお金渡すだけじゃあ駄目ね……、もっと頑張らないと」


 なんていう会話があったとか無かったとか。














―――
てことで其の百十と。多分このながれで拍手お礼の前さん編に行くんだと思います。
四月四日から雪かきと言うか砕氷作業のせいで帰って即座に寝たりしたおかげで中々書けなくて苦労しました。
番外編も序盤更新。序盤中盤終盤の更新で完成すると思います。



なんか、どうでもいいですが、薬師の台詞が某社長のように聞こえる所がありました。元ネタは全然関係ないのに。不思議。




猫耳について。

本編にもあった通り、呪いの一種だそうです。
起動キーは跨ぐこと。
ちなみに、閻魔は敵性呪文は容赦なく反射しますが、こちらは補助呪文にカテゴライズされ、閻魔の防壁をスルーできます。


にゃん子の呪いについて。

またぐことで呪いを掛ける、猫又の様式に則った呪い方です。
普通に掛けるのもにゃん子には可能ですが、しかし、またぐという儀式をはさむことで確実性は上昇します。
最大の特徴は、街単位など広い面積を跨いで範囲的に呪いを掛けられること。






西行法師様

猫参上でありました。
これから先は如意ヶ嶽家の飼いネコとして生きるようです。
ちなみに、にゃん子は本人的にはこれだっ、って思ったらしいです。
周りからは、ああ、うん……、見たいな空気で見られてるようですが。


Smith様

猫はやっぱりいいと思います。
うん。ノーマルも猫耳もありです。
両方あれば尚いいです。
ただ、猫形態は外せません。毛並みが大事だと思います。


志之司 琳様

お酒は怖いです。呑まれようがなにしようがいいかとは思いますが、急性アルコール中毒だけはいかんです。
ちなみに、憐子さんと修羅場なるか、と思われましたが手を組みました。シンパシーというものがあったようです。
でも、やっぱり猫が生きている間にもちょっとは落としてたらしいです。でも後腐れないか遠距離恋愛だったのであれだったようですが。
いやはや、健全に感動できるのはいいことです。自分は書いてる途中どうも倒錯的なものを感じてあれでしたから。


名前なんか(ry様

感動していただけたならこれ幸い。
書いてても自分ではこれが本当に楽しいか、とか判断付かなくて微妙なんですよね。
こういう時に感想を書いてもらえるとやはり安心します。
特に感動系なんかは、ここ数年泣くなんて全くなかったから錆ついてんじゃないかとびくびくしてますし。


SEVEN様

あんなお願いをされて断れるはずもありません。美沙希ちゃんのお願いがあれば筋肉痛で左腕が使用不能でも小説が書けます。
ちなみに猫耳は呪いだそうです。という説明がついてますが、でもやっぱり萌えればなんだっていいです。
藍音さんに関しては、まあ、あの状況は当然口移しですよねー。ええ。
そしてやっぱり薬師の責任は重いです。もうこれは娶るまでが子育てだと思います。


奇々怪々様

桃源郷が発生しておりました。まあ、一部女性陣は困ったことになっていたようですが。
あと、弱み録音しても耳まで触りに行かなかったのは薬師の優しさです。誰が何と言っても優しさです。
にゃん子の語尾についてはですね、アルなんていう中国人がいないのと同じ理屈だと思います。猫がにゃあと言うのは声帯の問題ですからねええはい。
誰が何と言おうとにゃ、なんて語尾に付ける猫耳はいないと思います。でも、言ってほしい自分がいます。存在しない物を追い求める浪漫なんです。


通りすがり六世様

果たしてキャラ付けで羽生やすのと、にゃなんて言うのどっちがいいのか悪いのか。まあ、妖怪がそれらしくいようとするのに関しては仕方ないと思います。
果てしなく妖怪と言うにはどうしようもない人間的な悩みですが。人じゃないんですけど、人間なんて関係ない、とも言えない微妙な関係がいいと思ってます。
憐子さんは、お見事、正に先生ですね。師で母で姉で友です。果たして妻になれる日は来るんでしょうか。
そして、この先薬師のネーミングセンスはジョグレス進化するんじゃないかと思います。


光龍様

まあ、千年ものの化け猫ですから、結構な力は持ってるようです。
それに足して、閻魔の防壁は死に関わる、大幅な戦力低下につながる、などの悪意の籠った場合にしか発動せず、あれは補助呪文扱いですから、スルーされますし。
猫耳による戦力低下は閻魔補正でさして問題ないですし、ぶっちゃけると無理して撥ね退ける様な呪いじゃないんですね。身軽になる、耳がよくなるなどの特典付きで。
そして、力づくで無効化できはするのですが、労力と被害に見あいません。空間が歪んだりします。と色々語った訳ですが、もう閻魔が可愛いので何でもいいです。


トケー様

きっと、販売したら地獄内でも凄い利益が見込めるでしょう、ボイスレコーダー。
そして、猫耳じたいは薬師的には満更でもないらしいので、いい武器になるようです。まあ、ペット扱いですが。
あと、にゃん子は人間になったり猫に戻ったりしながら薬師にべったりしていく方針のようです。猫形態なら一緒に寝てても薬師に嫌な顔一つされません。
藍音さんは、もう、結婚しろとは言わないから生涯一緒に居てやれといいたいです。そのぐらい男の甲斐性です。


春都様

閻魔の恥じらい……、プライスレス。あと、猫の可愛さもプライスレスです。
自分ももっとコメディかと思ってましたが、いつの間にかしんみりしたりしてました。でも可愛いです。
藍音さんの話は、ずっと前から決まってたんですけど、中々書けなくてやきもきしてたんですよね。
どうにも、精神的にお疲れのようですが、自分はどうにも未熟で、作品の中以外で語れることはないようです。願わくば、見て癒される作品であることを祈りつつ、癒される作品を作れるよう頑張りたいと思ってます。


f_s様

多くの人間の心を惑わせる、美沙希ちゃんの猫ボイス……。
美沙希ちゃんはその存在が罪だと思います。
ただ、罪で言えば薬師の方が上ですね。ええ、はい。どう考えても。
とっとと償いを開始するべきだと思います。









最後に。

千年放置された女同盟結成。


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