俺と鬼と賽の河原と。
ここは河原。
「One is stacked for mother」
そこで、人は石を積む。
「Two is stacked for father」
それが供養と言われつつ。
「あーと……、すりーいず……」
それが、賽の河原。
「うろ覚えの英語で頑張らない!!」
其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。
「ああ、そう言えば――、英語で伝えようと思えば、伝わるんだな」
どうでもいいが、そもそも、空気を震わせているわけでもないはずだから、俺達の話している言語はテレパシーに近いものがあるわけで。
なるほど、本人が何で喋ってるか意識すれば特定の言語で話せるのか。
「そうみたいだけど。何かあるの?」
「いや、特に何も」
そんな感じの賽の河原。
相も変わらず、俺は石を積んでいる。
そんな俺達の元に、石を踏みしめる音が届いた。
「お、センセイに姐さんじゃねえか」
そこにやって来たのはじゃら男。
その隣にはなぜか、黒髪美人を引きつれていて――、
「この下衆野郎っ!!」
俺の拳が唸った。
「くれらっぷっ!!」
何がクレラップだこの野郎!!
「何を人の友人を好きとかほざいておいて黒髪美人侍らしてやがるんだっ。ってああ、担当の鬼の人か」
いやお兄さん早とちりしてしまったよ。
ノーネクタイの黒いスーツに同じ色の長い髪。
背は、それなりにでかい俺よりも大きくスレンダーで、顔も前さんより数段おと……、げふんげふん。
その頭には――、普通に角があった。
「あ、どうも。私はこいつの担当で、李知と言います」
その女性が、ぺこりとお辞儀をする。
「いち、さんね。俺ぁ如意ヶ嶽薬師、河原のバイター」
習って、俺も自己紹介。
すると、李知さんは俺の言葉に戸惑いを見せた。
「ば、バイター?」
「積み人、ってな言い方もあるが、要するにバイターだろうに」
む、そこに疑問を持つか。
そこはかとなく、頭堅そうな感じがする。
「積み人というのはですね、ただ石を積むのではなく、徳を積むという意味も込めて積み人で、そんなバイターなんて呼称は不適切だと」
やっぱりか。
だが、まあここで「はいそうですね」、というのもあれなので。
「バイターなんて? おい、今お前さん世界中のバイター敵に回したぞ? アルバイトに生活掛けてる人はどうするんだ? そもそも仕事に貴賤などないだろう? バイターなんて? 徳も積まないバイターなんて死んでしまえばいいって言うのか」
俺は一気にまくしたてる。
「いや、そういうことでは……」
戸惑う彼女に俺はひと押し。
「なら謝るんだ、バイターに」
すると、彼女は本当に申し訳なさそうに、
「すいませんでした、私の表現が不適切だったようで」
……。
やべぇ、楽しい。
この子、生真面目さんだ。
と、そこに前さんが李知さんに言葉を掛けた。
「ねぇ李知、からかわれてると思うんだけど?」
いや、そんなこと言わんでも。
「え、本当に?」
「うん。ほら、薬師の顔を見たらわかると思うけど」
俺はとてもにっこり。
真面目な顔はしてないわな。
「な、な、な、わ、私を、からかっていた? ただの悪ふざけ?」
「ん? いやそんなことはない」
「そ、そうだよな?」
「ああ。俺はいつだって本気でからかっているんだ」
あと、微妙に敬語の鍍金が剥がれてますよ?
なんかわなわな震えてるし。
「ところで、わなわな、ってなんだろうな?」
「知らないよ」
「じゃら男はどう思う?」
「いや、俺に聞かれても……」
「うるさーい!!」
いや、李知さんの方がうるさいと思う、とは言わない。
大人だから。
「あ、謝れ」
「誰に?」
「私に!」
「なにゆえ」
「わ、私は本気で申し訳なく思って謝罪したのに……、と、とにかく謝れ―!」
「正直、すまんかった」
「真面目に!」
「えー、実際の話、申し訳なく思っております」
「形式じゃなくて」
「へぇへぇ、私が悪ぅござんした」
「いい加減にしろ!」
叫んで、一度止まり、肩を上下させる李知さん。
それに、俺は優しく微笑みかける。
「いや、悪かったな。俺も悪ふざけが過ぎた、ほれ、落ち着いて深呼吸でもするといい」
言いながら、俺は立ち上がって背中をさすってやった。
すると、こちらを見て、李知さんも微笑む。
「……ああ、すまない」
すーはーすーはー、と息を吸う李知さん。
そして、すーのところで――、
「完全にどうでもいい話だが、想像してみてほしい。ウェディング姿の青野鬼兵衛」
「っぷふぇいっ!」
見事吹き出す李知さん。
とてもいいリアクション。
前さんもじゃら男も噴き出してるが。
「お、お前という奴は……っ」
「いま、ぷふぇい、っつったな」
「そうだな、センセイ」
俺の言葉にここぞとばかりに、にやにやするじゃら男。
ふん、きっといつもは頭が上がらないんだろうな。
こいつのことだから。
だが、何故か李知さんは否定した。
「言ってない!!」
言い張る李知さんに前さんが突っ込みを入れた。
「いや、それは苦しいと思う」
残念、前さんにも道をふさがれた。
またもわなわなと震える。
それにしてもわなわなってなんだ。
「う」
「う?」
「うあーーーっ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ李知さん。
そしてじゃら男が殴り飛ばされる。
こう、ストイック風味な感じだが、こうしてみると実に可愛いじゃないか。
そんな彼女に俺は、苦笑い一つして昼飯のおにぎりを一つ差し出して見せる。
「いや、悪かったな、ここまでからかうつもりはなかったんだが――、ほら、これやるから機嫌直してもらえないか?」
「……貰っておこう」
それを彼女は素直に受け取って、両手で口元へ持って行き、一口。
今だっ!!
「そうだじゃら男よ」
「ん?」
「レオタードの青野鬼兵衛」
「ぽふぁいっ!!」
よし。
そして俺はじゃら男に向かって喋っただけだから罪はない。
ユーノットギルティ。
「き、貴様は……」
「お? どうかしたか?」
「う」
「う?」
「うあーーーっ!!」
いや、本当に面白いな。
だが、まあ、とりあえずここまでにしておこうか。
これ以上は涙目さんが可哀そうだ。
「はっはっはっはっは。いや、今回ばかりは本当に悪かった。もう何もしねぇから安心して食ってくれ」
「本当に?」
「ああ。涙目の人に追い打ちを掛けたりはしないさ。俺は」
恨みがまし気に、李知さんは俺を見つめていたが、ついにおにぎりを再び口へ運び出す。
俺は、それをぼんやりとしばらく眺めていたが――、
と、そこで。
俺は河原に、見知った影を見つけた。
「おお、こないだの少年少女じゃないか?」
身長俺の腹ほどの、よく似た少年と少女。
ちょいと前に、チケットをなくし、困っていた所を助けた二人だ。
その二人は、俺の声に反応して、こちらを振り向いた。
「あれ? あの時の……?」
「ああ、如意ヶ嶽薬師だ」
「はい、薬師さん、こないだはどうもありがとうございました!!」
元気よく、そして微妙に舌足らずな敬語で俺に頭を下げる少年。
こないだは、緊急事態で少々情けない印象だったが、本来は意外としっかりしてる模様。
そんな彼らは、今は何故、ここにいるのだろうか。
「なんでここに?」
すると、今度は少女の方が答えた。
「私達、ここに就職することにしたんです」
「ほお?」
「僕達を養ってくれるっていう親切な人がいて、それで何かできることがあるかって聞いたら、ここを」
ああ、いい人に出会ったのか。
こう言ったことは地獄では珍しくない。
地獄に来て身寄りのなくなった子供を、家族登録するのは、特に珍しいことでもないのだ。
それに、バイトをしながら転生を待つのも珍しくはない。
結局、転生待ちは暇なのだ。
「とてもいい人なんですよ! 僕達に二人だけだと大変だろうって」
「ほお、と、まあ、色々と話を聞く前に思うのだが、名前聞いていいか?」
ここまできといてあれだが。
すると、先に少年の方から自己紹介を始めた。
「僕は、安岐坂 由壱、兄です」
次に、少女。
「私は、安岐坂 由美って言います、妹です」
どちらもしっかりしている。
前見たときとはずいぶん違うが、大体、一月近くあれば変りもするか。
「おーけい、あきさか、よいちによみ、だな?」
肯く二人に、俺は手まねきする。
そして、近づいた二人を、じゃら男、前さん、李知さんに紹介した。
「ほい、じゃあ、新入りの安岐坂 由壱に由美だ」
尚、
「じゃら男はいじめたり、劣情も対象にしないように」
「なっ!!」
慌てるじゃら男。
一歩引く前さん。
由壱が、自分の背に由美を隠す。
「お、お前……」
信じられないものを見る目つきの李知さん。
そして、
「私はお前をそんな性犯罪者にした覚えはないっ!!」
李知さんの拳が唸り。
「ぽりふぇのーるッ!!」
じゃら男がまるで、ダミー人形のように吹っ飛んだのだった。
なんだか、
今日も河原は平和なようです。
―――
其の十二です。
少年少女のメインまで、行かなかった!!
新キャラが出るし。
まあ、じゃら男が本筋に絡んだ時点で出さざるを得ないわけですが。
次こそどうにか。
では返信を。
オンドゥル翻訳機様
気に入っていただけたようで幸いです。
これからもまったりゆらゆら頑張っていきます。
たまにちらっとシリアスが入る可能性もありますが。
ちなみに、萃香との違いは、角の長さと酒が飲めないことと余裕がないことだと思う。
今上釘御様
コメントどうもです。
薬師の過去っぽいものとか、そう言ったものは少しずつ描かれる予定。
多分だけど。
ただ、予想通り薬師は今も昔も変わらないんじゃないかなぁ。
そんな彼にも子ども時代はあったようだけども。
妄想万歳様
一 桃太郎さん 桃太郎さん お腰につけた黍団子 一つわたしに 下さいな
二 やりましょう やりましょう これから鬼の征伐に ついて行くなら あげましょう
三 行きましょう 行きましょう あなたについてどこまでも 家来になって 行きましょう
四 そりゃ進め そりゃ進め 一度に攻めて攻めやぶり つぶしてしまえ 鬼が島
五 面白い 面白い 残らず鬼を 攻めふせて分捕物を えんやらや
六 万々歳 万々歳 お伴の犬や 猿・雉子は勇んで車を えんやらや
ともあれ、桃太郎もサンタクロースも同じ香りがします。
こう、いつか真相を知ってしまうとちょっと悲しいことになるというあれ。
まあ、児童向けのは程々になってるけど、結構酷い童話ってのは多いもんですしね。
灰かぶりとか、現代人との感性の差があるのかもしれませんが。
という話はぶっちゃけどうでもよくて。
結局、二人は例え恋人になってもこんな感じな気がします。
ザクロ様
地獄にある物質は、まあ、ぶっちゃけると全て霊の規格になっています。
現世とは全く正反対であり、魂でしか作用できないし、魂にしか作用しないので、実体が来るとすり抜けます。
料理とか作物とかその他諸々も大体一緒、霊体×実体、実体×霊体だと上手くいきませんが、実体×実体のように霊体×霊体ならなんら問題なく同じようにいきます。
季節や天候に関しては、ありますが、前話に説明した仏とか神の類が頑張って照らしたり風吹かしたりしてます。
なので、さぼると、全く季節も風もあったもんじゃなくなります。
尚、DSとかそういうのは、卸してる業者というか店があったり。
コーラとか、現世の物を色々卸している。
ちなみに、下詰神聖店という、胡散臭い店。
どうも、霊体で作ったものではなく、実体を霊体に変えたものだとか。
当然のように他の娯楽もありますけど、基本的にあらゆる現世と変わりないかと。
がお様
感想ありがとうございます。
地獄はいいとこ一度はおいで、がテーマだったりテーマじゃなかったり。
あと、冒頭の方は毎回微妙に頭を悩ませながら作っております。
それで笑っていただけたなら毎回毎回書いてる甲斐があります。
ニッコウ様
えー、まあ、四月八日から、高校生になりました。
こないだまでは、普通に中学生やってたんですけどね。
ともあれ、前回はほのぼの真っ最中。
次にシリアスが入るかもしれないので。
ちなみに、前さんは確実に初恋。
その辺の事情も、ちらちらと話されるんじゃないかなぁ?
では、最後に。
河原で再会した少年少女。
意外なまでにしっかりした二人だったが、ここまでに何があったのか。
そして気付く二人の変化。
彼らの身に何が起こったのかっ!
次回、俺と鬼と賽の河原其の十三!
俺と野郎と鬼と少女と。
薬師、変わってくれっ!