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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:a55d5bf9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/20 21:43
俺と鬼と賽の河原と。


 ある日の、朝のことだ。

 いつも俺を起こしに来るのは藍音だったが、今日は違う。

 その声は、子供の声で、女の声だった。

 ああ、由美か、と俺はもぞりと布団の中で蠢き、次第に意識を覚醒させていく。

 そう、それは確かに由美の声だった。

 しかし、今日の由美は、なんだか変だった。


「おにいちゃんっ、起きて、起きてくださいっ」


 お、にいちゃん、だと?

 いつの間に、お父様からお兄ちゃんに格上げ、いや、下げ?

 まあ、ともかくいつの間にお兄ちゃんに変更されたんだ、と俺は身を起こし、由美を見る。

 彼女は真っ赤だった。


「ご、ごはん出来てますからっ!!」


 そう言って走り去る由美。




 何があったんだ。








其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。








 茫然としていても仕方がない。

 それ故俺は、普通に食卓に着いて、由美と向きあって食事をしている。

 しているのだが。


「なあ、由美……」


 なんでお兄ちゃんなんだ?

 と聞こうと思う。


「なんですか? おっ、おにいちゃん」

「いや……」


 だけれど、なんだか妙に照れながらお兄ちゃんと呼ぶ由美に、問うことかなわず。


「何でもない」


 俺は黙って飯を食うことしかできなかった。

 果たして、俺は何をしたのだろうか。

 考えているうちに飯が終わる。

 そして、気が付けば由美は仕事に出かけていた。

 実は、由美も学校に通うようになったのだが、その時に無理して仕事しなくていい、とは言った。

 言ったのだが、それでもやると言って聞かないのだから恐れ入る。

 と、話が逸れたな。

 ともかく、俺は視線で由美を見送って、斜め後ろに居る藍音に呟いた。


「なあ……、なんかあったっけ?」

「なにがです?」


 藍音にしれっと返されて、俺は言葉を続ける。


「いや、由美がお兄ちゃんって呼んでくるんだが。何かしたかな、と」


 すると、藍音はさも当然、といった声音で俺に投げかけた。


「自分の胸に手を当てて考えてください」


 その言葉に、俺は疑問符を浮かべる。

 よくわからない。


「なんだそりゃ」


 藍音はではヒントを、と前置きして話を続けた。


「何もしていないのが問題なのでしょう」


 だが、俺の疑問は深まるばかりで、やはりよくわからない。

 そんな俺に向かって、藍音は宣告した。


「……そのままにして置くと、そのうち家出してしまいますよ」

「それは由々しき事態だな」


 俺は一つ首を捻ると、外へ向かって歩き出す。

 その際に、藍音に一度声を掛け、


「じゃあ、俺も行ってくる」


 藍音はと言えば、いつものように、しかし少し言葉を加えて俺を送った。


「いってらっしゃいませ。……大丈夫です、そこまで気づいているなら、貴方なら上手くやるでしょう。それと、顔が赤いでしょうが、何でも風邪で熱があると片付けないように」


 果たして何を上手くやれというか。

 そんな言葉に溜息で返しながら、やる気なさげに俺は言った。


「善処するよ」















 そうして、河原に着いた俺を待っていたのは、由美だった。


「あれ、前さんは?」


 問えば、顔の赤い由美は肩ひじ張って答えて見せる。



「別のお仕事を頼まれたそうです、おにいちゃんっ」


 風邪でも引いて熱があるんじゃないだろうか、というのは早計か。

 何でもかんでも熱のせいにするな、と藍音に言われたばっかりだ。


「お兄ちゃん、お兄ちゃんかー……」


 思わず呟く。

 俺には兄弟がいなかったから、なんとなく変な気分だ。

 ただ、まあ、本当の方のお兄ちゃんも大切にしてやれよ、と思う。

 由壱が沈んじゃうぞ?


「なんでお兄ちゃんなん?」


 ふと、遂に聞いてしまった。

 ただ、これは地雷だったかもしれない。

 由美は、俺の言葉に肩を落とし、しゅんとしてしまう。


「男の人は、おにいちゃんって呼ぶと喜ぶって……」


 ……それはどんな趣味の人のお話だ。

 つーか、誰に聞いたんだ。

 藍音か。藍音か。

 実に反応に困ってしまうから自重してくれ。


「いや、うん、お兄ちゃん、なあ? 別に無理せんでいいぞ、お父様で」


 すると、由美は特に表情を変えることもなく、


「そうですか」


 と肯いた。


「そんなもんだ」


 そうして、俺は石を積み始めた。

 ぼんやりと黙って積んで、それを由美は崩す。

 それだけの行為をまるで一生懸命に、楽しそうにやる由美が不思議だった。

 何故だろう。


「楽しいか?」


 確かめたくて聞いてみる。

 由美は、優しげな笑顔で肯いた。


「はい……っ」


 なにが楽しいのやら。

 わからないが、楽しいならいいだろう。

 そんなことより、由美の様子がおかしい理由だ。

 なんで、由美は俺をお兄ちゃんなんかと呼んだのだろうか。

 即座に思い当たるような理由はない。

 そして、やっぱり顔が赤い。

 藍音の助言に従えば、熱や風邪ではないらしい。

 やっぱり、思い当る理由はない。

 それでも、理由もわからず放置というのも気味が悪い。

 さて、何だろう。

 俺をお兄ちゃんと呼んで何が得られるのだろうか。

 ……。

 ――わからんっ!!

 俺は思考をどこかに放り投げたくなった。

 まじわからん。俺をお兄ちゃんと呼んで何の影響があっただろうか。


「お父様? どうしました?」


 精々、俺がこうしてどうしたことかと悩んでいる位じゃないか――。

 ――あ。


「そうか」


 なんとなく、閃いた。


「嫉妬してるのか」

「えっ?」


 由美の肩がびくりと震える。

 俺は間抜け面晒して聞いた。


「違うのか?」


 そうだ、多分だが、由美は春奈に嫉妬しているのだ。

 俺の気を引こうとしてお兄ちゃん、とはなかなかかっ飛んだ思考ではある。

 別にないがしろにしたつもりはないのだが、しかし、由美とあんな風に遊んだことはない。

 由美の方から求めてくることはなかったからこちらも応えることはなかった訳だが――。

 なるほど、俺は駄目な父親だったようだ。


「その……」


 言い淀んだ由美に、俺はもう一度聞く。


「違うのか?」


 すると、由美は顔を真っ赤に染め上げ、明後日の方を向いて言った。


「嫉妬っ……、してますっ」


 やっぱりか。

 なるほどなー。

 俺はうんうんと肯く。


「そうかー」


 そして、更に続けようとして由美と声が重なった。


「ごめんなさいっ」

「由美は可愛いなー」


 次の瞬間、由美は呆けた声を上げることとなる。


「え……?」

「いや、うん。悪かった悪かった、所謂あれだ、そう、スキンシップ、とやらが足りないという話だろ?」


 そういうことなのだ。


「えっと、はい」


 やっぱりそういうことだ。

 では、どうしようか。

 とりあえずこれから頑張るとしても、今からどうしたものだろうか。


「まあ、とりあえずあれだ。そろそろ仕事も終わるし、一緒に帰るか」

「はいっ」


 そんなことを考えながら、俺は石を積んだ。



















「なあ、こんなんでいいのか?」


 夕暮れの街を、由美と手を繋いで帰る。

 もっと凄いことを要求されても問題ないような気がしていたのだが、由美が俺にした要求はそれだけだった。

 そうして、手を繋いだ先に居る由美は、俺を見て微笑んだ。


「はい、十分すぎます」


 そう言って、本人が幸せそうに笑うのだから、俺には文句のつけようもない。

 そうかい、と俺は投げやりに呟いて、ただ、道を歩いた。


「お父様、一つお願い、良いですか?」


 ふと、由美がそんな言葉を告げる。

 俺は肯いた。


「おう、無理じゃなけりゃ何でも聞くぞ?」


 すると、由美は息を一つ呑んで、紡いだ。


「今度は、私も一緒に遊ばせてくれませんか?」


 俺は、一瞬目を丸くする。

 そんなことでいいのか、第二弾であった。


「別に構わんよ。今度呼ぼうと思ってたくらいだしな」


 俺は言って、由美の頭を繋いでない方の手で撫でる。

 そして、徐に由美を持ち上げた。


「お、お父様っ?」


 抗議の声は無視して、俺は由美を肩車する体勢となる。


「たまにゃこれ位、いいだろ?」

「お、お父様……」


 きっと、上では由美が頬を赤くしているのだろう。

 それを想像して、俺は薄く笑った。


「手ぐらいならいつでも繋いでやるから、今日はな」


 俺の頭に置かれた手が、優しげに動く。


「もう……、お父様ったらっ」


 言いながらも、抵抗しようとはしない。

 だから、俺は笑って言った。


「かっかっか。これも親子の触れ合いだ、諦めな」

「親子じゃなくって……、できればもっと――」

「うん?」


 由美の呟いた言葉はよく聞こえなくて、聞いてみたが、由美は何でもないと返す。


「いえ、なんでもないんです。はい、今は子供でいいんです」

「そうかい」


 何の事だか分らんかったが、本人がいいなら構うまい。


「そだ、春奈お馬鹿さんだから、色々教えてやってくれ。頼りにしてるぜ、由美?」


 きっと、近いうちに由美と春奈が遊んでる姿が見られるだろう。




「――はい!」
















―――
ってことで百五、由美編でした。

ちなみに、先日番外編をこっそり更新。
次の番外編のアンケート実施中です。




では返信。




志之司 琳様

前回分

驚きの保健室っぷりでした。体温計がないとかどうかしてますねわかります。
まあ、IFエンド貰ったばっかりの人がちゃっかり出現してたのは、学校の魔力のせいです。
いやはや、校長に腫れたあれを治療とか、正に異常なシチュエーションですね。
問題は腫れようのないことでしょうか。

番外編分

貴方なら見つけてくれると思っていましたよ。驚きの信頼度です。
まあ、こうして次の更新で告知してるから大丈夫だと、思います……、多分。先に見つけれたらラッキーみたいな感じで。
さあ、武勇伝がガチ武勇伝過ぎて残念な武勇伝になりそうですが、とりあえず姫様一票で。
もしかしたら時間を掛けて全部書くかもしれないですが。


光龍様

危険な学校ですね。明らかに。なんか精神的にも肉体的にも危ない気がします。
物理的に危険なのとエロ方面に危険なのが入り乱れてクロスミラージュですよもう。
それにしても、XXX版ですか……。ぶっちゃけると自分まだギリギリ十八じゃないんですよねー。
今年誕生日来てないんで十七にもなってないっす。この場合、R-18を書いたらどうなるんでしょ。


西行法師様

コメントありがとうございます。
黒猫参上の日は遠くないかもしれませぬ。そりゃあもう。
しかし、暁御以外誰と恋仲になっても違和感なさそうだね、とは……、鬼畜、と言う前に反論できないぜッ!!
いやはや、それにしてもうるっときて頂いてありがとうございます。物書きにとっては無常の喜びですよ。


奇々怪々様

そも、体温計の無い保健室なんてルーの乗ってないカレー並みにどうしようもない気がしますけれど。
その内、学校からなんか、巣窟、とか魔境、とか聖域に名称変更されそうです。
それにしても、後一文字だったのに由比紀は惜しいことをしたものです。
どうせ言いきっても要塞にぷっちりつぶされるだけな気がしますけど。


あも様

未亡人辺りが大人故もう手段を選んでないですね。その影響で他もなりふり構ってないようです。
閻魔妹辺りももう、強引に押し切ろうと思ったようです。要塞は甘くなかったようですが。
どうでもいいですが、溶けた胴って消化できるんでしょうかね。まあ、うちの閻魔辺りはやたら酸っぱい飲み物とか呑まされてるんでしょうけど。
それと、美沙希ちゃんはきっと耳年増だと思います。いや、素で年増なんですけ――、おや、誰か来たようです。


SEVEN様

自分でもなんでこんなことになってたのかわからない保健室の乱でした。
美沙希ちゃんの暴走っぷりは異常でした。
その反動で今回はできる限りほのぼのできたとおもいます。
それと、前さんが耳付きになったりするなら、バランス的に犬耳なのでしょうが、李知さんの方が犬っぽいなと思ったりそんなこんなでした。


通りすがり六世様

閻魔一杯、エロもいっぱいでした。
もうあれなんじゃないかなと思いましたよ、こう、18禁になるかならないかのボーダーラインをまるでチキンレースの如く駆け抜けるのがこの話の醍醐味なんじゃないかと。
薬師じゃないとこんなのできませんし。
どうやって、そんな要塞を落とすって、例えを借りるなら、義手を作るか他で代用するかですよねー。


トケー様

古川さん、忘れてはいませんよ。ただ、出すタイミングがいつもつかめない。
それにしても李知さんが勝利するとは我ながら予想外でした。勝手に転がって来ただけなんですけど。
閻魔は未だ男性経験なさそうですしね、由比紀もあれでおぼこな女の子ですし。もう、閻魔の家は行かず後家の家計なんじゃ……。
最後に、猫の話ですが、いい話と言っていただけると私も実に嬉しいです。私もあんな相棒が欲しいです。将来は猫屋敷になりたいです。


スイカ様

投票に感謝です。
最悪の場合一から六まで書いてしまうのでやばいです。
私の気が向かないことを祈ります。
と、言う訳で吸血鬼に一票目です。実は二票入ってたりして中々可能性が高かったり。


アストラ様

投票どうもです。
未亡人はいいですよね。喪服の未亡人とかやばいです。
ということで、吸血鬼に二票目が入りました。
しかし、もう二票目とは実に驚きであります。なんというか、貴様っ、見ているなッ!? って感じです。





最後に。

最近私の徹夜がやばい。


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