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No.7573の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。(ほのぼのラブコメ)[兄二](2009/12/29 22:04)
[1] 其の二 あたしと彼と賽の河原と。[兄二](2009/09/21 21:30)
[2] 其の三 俺と鬼と地獄の酒場と。[兄二](2009/12/24 21:37)
[3] 其の四 俺と彼女と昨日の人と。[兄二](2009/09/24 13:26)
[4] 其の五 俺とあの子と昨日の人。[兄二](2009/09/24 13:50)
[5] 其の六 俺とあの子と一昨日の人と。[兄二](2009/04/01 21:22)
[6] 其の七 俺とお前とあいつとじゃらじゃら。[兄二](2009/09/24 13:55)
[7] 其の八 俺とあの子とじゃら男の恋と。[兄二](2009/04/04 21:04)
[8] 其の九 俺とじゃら男と屋台のおっさん。[兄二](2009/04/05 22:12)
[9] 其の十 俺と迷子と三途の河と。[兄二](2009/04/19 01:06)
[10] 其の十一 あたしと彼といつもの日常。[兄二](2009/05/18 23:38)
[11] 其の十二 俺と鬼と黒髪美人と。[兄二](2009/05/18 23:38)
[12] 其の十三 俺と少女と鬼の秘密と。[兄二](2009/04/13 01:47)
[13] 其の十四 俺と野郎と鬼と少女と。[兄二](2009/05/18 23:39)
[14] 其の十五 俺と河原と兄妹と。[兄二](2009/04/19 01:04)
[15] 其の十六 私と河原とあの人と。[兄二](2009/04/24 23:49)
[16] 其の十七 俺と酒場でただの小噺。[兄二](2009/05/18 23:32)
[17] 其の十八 俺と私と彼と彼女と。[兄二](2009/05/24 01:15)
[18] 其の十九 俺と彼女と気まぐれと。[兄二](2009/05/21 09:39)
[19] 其の二十 俺と彼女とデートと。[兄二](2009/05/24 01:16)
[20] 其の二十一 俺とお前とこの地獄と。[兄二](2009/10/17 19:53)
[21] 其の二十二 俺と天狗と閻魔と家族と。[兄二](2009/05/31 00:27)
[22] 其の二十三 俺と閻魔とパーティと。[兄二](2009/06/04 01:07)
[23] 其の二十四 俺と閻魔と部屋と起源と。[兄二](2009/06/05 00:43)
[24] 其の二十五 じゃら男と少女と俺と暁御と。[兄二](2009/06/09 23:52)
[25] 其の二十六 じゃら男と少女とでえとと。[兄二](2009/07/30 22:38)
[26] 其の二十七 じゃら男と少女と俺と暁御とチンピラ的な何か。[兄二](2009/06/16 00:38)
[27] 其の二十八 俺とじゃら男とリンと昨日と。[兄二](2009/06/16 11:41)
[28] 其の二十九 俺と酒呑みと変なテンション。[兄二](2009/06/20 00:27)
[29] 其の三十 俺と前さんと部屋とゲームと。[兄二](2009/06/21 19:31)
[30] 其の三十一 俺と河原と妹と。[兄二](2009/06/27 19:20)
[31] 其の三十二 俺と山と天狗と。[兄二](2009/06/27 19:18)
[32] 其の三十三 俺と山と天狗と地獄と。[兄二](2009/06/30 21:51)
[33] 其の三十四 俺と彼女と実家と家族と。[兄二](2009/07/03 20:35)
[34] 其の三十五 俺と家族と娘と風邪と。[兄二](2009/07/07 00:05)
[35] 其の三十六 私と彼と賽の河原と。[兄二](2009/07/09 23:00)
[36] 其の三十七 私と主と、俺と部下と賽の河原と。[兄二](2009/07/12 22:40)
[37] 其の三十八 俺と部下と結局平和と。[兄二](2009/07/17 23:43)
[38] 其の三十九 俺とその他と賽の河原と。[兄二](2009/07/21 08:45)
[39] 其の四十 俺とメイドと賽の河原と。[兄二](2009/07/20 22:53)
[40] 其の四十一 俺と無関係などっかの問題と幕間的な何か。[兄二](2009/07/22 21:56)
[41] 其の四十二 暁御と奴と賽の河原と。[兄二](2009/07/25 22:22)
[42] 其の四十三 俺と海と夏の地獄と。[兄二](2009/07/28 00:21)
[43] 其の四十四 俺と海と真の地獄と。[兄二](2009/07/30 22:35)
[44] 其の四十五 俺と貴方と賽の河原と。[兄二](2009/08/01 23:35)
[45] 其の四十六 俺とお前の滅亡危機。[兄二](2009/08/04 21:48)
[46] 其の四十七 俺とお前と厨ニ病。[兄二](2009/08/07 20:23)
[47] 其の四十八 疲れた俺と罰ゲーム。[兄二](2009/08/10 19:10)
[48] 其の四十九 俺と鬼と……、は? 猫?[兄二](2009/08/13 20:32)
[49] 其の五十 俺と盆と賽の河原と。[兄二](2009/08/17 00:02)
[50] 其の五十一 私と俺とあたしと誰か。[兄二](2009/08/19 23:35)
[51] 其の五十二 貴方と君の賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:03)
[52] 其の五十三 俺と藍音と賽の河原と。[兄二](2009/08/28 23:01)
[53] 其の五十四 俺と彼女ととある路地。[兄二](2009/09/04 21:56)
[54] 其の五十五 幕間 ある日の俺とメイドと猫耳。[兄二](2009/09/10 21:30)
[55] 其の五十六 幕間 俺と閻魔と妹の午後。[兄二](2009/09/14 22:11)
[57] 其の五十七 変種 名探偵鬼兵衛。前編[兄二](2009/09/21 21:31)
[58] 其の五十八 変種 名探偵鬼兵衛。 後編[兄二](2009/09/21 21:28)
[59] 其の五十九 俺が貴方と一緒に縁側で。[兄二](2009/09/24 22:25)
[60] 其の六十 俺と君とそんな日もあるさ。[兄二](2009/09/27 22:00)
[61] 其の六十一 俺とお前じゃ端から無理です。[兄二](2009/10/02 21:07)
[62] 其の六十二 今日は地獄の運動会。[兄二](2009/10/05 22:30)
[63] 其の六十三 ワタシトアナタデアアムジョウ。[兄二](2009/10/08 22:36)
[64] 其の六十四 鈴とじゃら男と賽の河原と。[兄二](2009/10/12 21:56)
[65] 其の六十五 俺と妹とソファやら鍵やら。[兄二](2009/10/17 19:50)
[66] 其の六十六 俺と御伽と竹林と。[兄二](2009/11/04 22:14)
[67] 其の六十七 俺と翁と父よ母よ。[兄二](2009/10/23 21:57)
[68] 其の六十八 俺と翁と月と水月。[兄二](2009/11/04 22:12)
[69] 其の六十九 貴方の家には誘惑がいっぱい。[兄二](2009/11/04 22:11)
[70] 其の七十 俺と娘と寒い日と。[兄二](2009/11/04 22:08)
[71] 其の七十一 俺と河原と冬到来。[兄二](2009/11/04 22:04)
[72] 其の七十二 俺と露店とこれからしばらく。[兄二](2009/11/07 20:09)
[73] 其の七十三 俺と貴方と街で二人。[兄二](2009/11/10 22:20)
[74] 其の七十四 俺とお前と聖域にて。[兄二](2009/11/13 22:07)
[75] 其の七十五 家で俺とお前が云々かんぬん。[兄二](2009/11/23 21:58)
[76] 其の七十六 俺と厨二で世界がやばい。[兄二](2009/11/27 22:19)
[77] 其の七十七 俺と二対一は卑怯だと思います。[兄二](2009/11/30 21:56)
[78] 其の七十八 俺とお前の急転直下。[兄二](2009/12/04 21:44)
[79] 其の七十九 俺と現世で世界危機。[兄二](2009/12/11 22:39)
[80] 其の一の前の…… 前[兄二](2009/12/15 22:10)
[81] 其の八十 俺と現世で世界危機。 弐[兄二](2009/12/19 22:00)
[82] 其の一の前の…… 後[兄二](2009/12/24 21:28)
[83] 其の八十一 俺と現世で世界危機。 終[兄二](2009/12/29 22:08)
[84] 其の八十二 明けましておめでとう俺。[兄二](2010/01/02 21:59)
[85] 其の八十三 俺と貴方のお節料理。[兄二](2010/01/05 21:56)
[86] 其の八十四 俺と茶店とバイターさんと。[兄二](2010/01/11 21:39)
[87] 其の八十五 俺と閻魔とセーラー服と。[兄二](2010/01/11 21:42)
[88] 其の八十六 俺と結婚とか云々かんぬん。[兄二](2010/01/14 21:32)
[89] 其の八十七 俺と少女と李知さん実家と。[兄二](2010/01/17 21:46)
[90] 其の八十八 俺と家と留守番と。[兄二](2010/01/21 12:18)
[91] 其の八十九 俺としること閻魔のお宅と。[兄二](2010/01/23 22:01)
[92] 其の九十 俺と実家で風雲急。[兄二](2010/01/26 22:29)
[93] 其の九十一 俺と最高潮。[兄二](2010/02/02 21:30)
[94] 其の九十二 そして俺しか立ってなかった。[兄二](2010/02/02 21:24)
[95] 其の九十三 俺と事件終結お疲れさん。[兄二](2010/02/06 21:52)
[96] 其の九十四 俺とアホの子。[兄二](2010/02/09 22:27)
[97] 其の九十五 俺とチョコとヴァレンティヌスと。[兄二](2010/02/14 21:49)
[98] 其の九十六 俺が教師で教師が俺で。[兄二](2010/02/22 22:00)
[99] 其の九十七 俺と本気と貴方と春と。[兄二](2010/02/22 21:55)
[100] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。[兄二](2010/02/25 22:37)
[101] 其の九十九 俺と家と諸問題と。[兄二](2010/03/01 21:32)
[102] 其の百 俺と風と賽の河原で。[兄二](2010/03/04 21:47)
[103] 其の百一 百話記念、にすらなっていない。[兄二](2010/03/07 21:47)
[104] 其の百二 俺と憐子さんと前さんで。[兄二](2010/03/10 21:40)
[105] 其の百三 俺とちみっこと。[兄二](2010/03/14 21:15)
[106] 其の百四 俺と保健室が危険の香り。[兄二](2010/03/17 21:48)
[107] 其の百五 俺と娘と妹でなんやかんや。[兄二](2010/03/20 21:43)
[108] 其の百六 大天狗は見た![兄二](2010/03/24 20:09)
[109] 其の百七 俺と春とクリームパン。[兄二](2010/03/27 21:33)
[110] 其の百八 俺と憐子さんと空白。[兄二](2010/03/30 21:44)
[111] 其の百九 猫と名前と。[兄二](2010/04/03 21:03)
[112] 其の百十 俺と猫とにゃんこと猫耳とか。[兄二](2010/04/07 21:56)
[113] 其の百十一 春と俺と入学式。[兄二](2010/04/17 21:48)
[114] 其の百十二 俺と子供二人。[兄二](2010/04/13 22:03)
[115] 其の百十三 俺とあれな賽の河原と。[兄二](2010/04/17 21:41)
[116] 其の百十四 俺と生徒とメガネ。[兄二](2010/04/20 22:07)
[117] 其の百十五 眼鏡と俺と学校で。[兄二](2010/04/23 21:52)
[118] 其の百十六 貧乏暇なし、俺に休みなし。[兄二](2010/04/27 22:07)
[119] 其の百十七 俺と罪と罰と。[兄二](2010/04/30 21:49)
[120] 其の百十八 大天狗を倒す一つの方法。[兄二](2010/05/05 21:39)
[121] 其の百十九 大天狗が倒せない。[兄二](2010/05/09 21:29)
[122] 其の百二十 俺とご近所付き合いが。[兄二](2010/05/12 22:12)
[123] 其の百二十一 眼鏡と俺とこれからの話。[兄二](2010/05/16 21:56)
[124] 其の百二十二 俺と刀と丸太で行こう。[兄二](2010/05/22 23:04)
[125] 其の百二十三 俺と逢瀬と憐子さん。[兄二](2010/05/22 23:03)
[126] 其の百二十四 俺と指輪と居候。[兄二](2010/05/25 22:07)
[127] 其の百二十五 俺と嫉妬と幼心地。[兄二](2010/06/02 22:44)
[128] 其の百二十六 俺と噂も七十五日は意外と長い。[兄二](2010/06/02 22:05)
[129] 其の百二十七 にゃん子のおしごと。[兄二](2010/06/05 22:15)
[130] 其の百二十八 俺とお人形遊びは卒業どころかしたことねえ。[兄二](2010/06/08 22:21)
[131] 其の百二十九 俺と鬼と神社祭。[兄二](2010/06/12 22:50)
[132] 其の百三十 俺と日がな一日。[兄二](2010/06/15 22:03)
[133] 其の百三十一 俺と挑戦者。[兄二](2010/06/18 21:47)
[134] 其の百三十二 俺と眼鏡と母と俺と。[兄二](2010/06/22 23:21)
[135] 其の百三十三 薬師と銀子と惚れ薬。[兄二](2010/06/25 22:09)
[136] 其の百三十四 俺とできる女と強面な人。[兄二](2010/06/29 22:08)
[137] 其の百三十五 逆襲のブライアン。[兄二](2010/07/03 22:49)
[138] 其の百三十六 俺とお前と学校の怪談が。[兄二](2010/07/06 22:03)
[139] 其の百三十七 俺とある日のアホの子。[兄二](2010/07/09 21:21)
[140] 其の百三十八 すれ違い俺。[兄二](2010/07/12 22:14)
[141] 其の百三十九 じゃらじゃらじゃらりとうっかり洗濯。[兄二](2010/07/15 22:11)
[142] 其の百四十 俺と序文はまったく関係ない話。[兄二](2010/07/19 22:50)
[143] 其の百四十一 俺と決闘と日本刀。[兄二](2010/07/22 20:42)
[144] 番外編 現在の短編:薬師昔話 お姫様の話。[兄二](2010/04/17 21:47)
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[7573] 其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:b80cdb5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/25 22:37
俺と鬼と賽の河原と。




 暁御は決意した。

 戦おう、と。

 このままではまずいと。

 よく考えてみると、薬師が好きだと自覚して一年が過ぎ去ろうとしている。

 しかし、しかしだ。

 何らかの強制力が働いているかのごとく、なにも出来ていない。

 否。

 何かの意志により、まったく何もできないでいた。

 しかし、暁御はここで神への反逆を決意する。

 まずは出番を作らねばならない。

 薄くなった影を濃く塗り直すのだ。

 色恋沙汰は体当たり。

 さあ行こう。

 暁御の戦いはまだ始まったばかり!!

 暁御先生の次回の出番にご期待ください。


「え、まだ終わりませんよね! ね!?」






 じゃら男は決意した。

 もっと頑張らねばならない、と。

 暁御が好きだと言って早一年が過ぎ去ろうとしている。

 しかし、周りのサポートがあって尚、成果のほどは今一つ。

 鈴の滞在など色々と忙しかった、などというのは言い訳に過ぎない。

 恐る恐る行動したりして、まったく漢らしくない。

 男なら、真っ直ぐ見据えて真っ向勝負。

 恋を恐れてなにが言えよう。

 恋は戦いだ。

 守ったら負ける。攻めに出よう。

 そう思って、じゃら男は拳を握りしめた。

 まあ、どうせ玉砕するのだろうけど。


「……おい」








 薬師は決意した。

 もっと頑張らねばならないと。

 今に至るまで、ずっと怠けていた。

 しかし、これ以上はそうはいかない。

 男なら、もっとあるべき姿があるはずだ。


「そうだ、もっと早起きしよう」


 早起きかよ。


「意外と切実な問題だ」


 まあ、早起きしないとまずいのだ。

 最近薬師の布団に潜り込む人口が多すぎる。

 このままでは藍音とモーニングコーヒーを飲みかねない程度には多い。

 藍音が朝食の準備を終わらせ、そして再び薬師の布団に潜り込む前に、起きるのだ。






 こうして、三者三様の決意を胸に秘め、今日という日は始まった。






其の九十八 ~出番黙示録~アキミ。






 まずはじめに暁御が行ったのは、手紙を書くことである。

 あえて言葉をオブラートに包まないのであれば、ラブルェエトゥアアア。

 わかりやすく発音するとラブレターである。

 普通すぎるだろ詰まらんなそんなだから出番が無いんだこのじめついた女は、と言うなかれ。


「あの……、酷すぎません?」


 例え普通にアタックを掛けたとしても、何らかの意思が働き、薬師との接触すら危ういのが暁御だ。

 しかし。

 バレンタインデーのチョコレートは一日遅れながら発見されている。

 そう、それを鑑みての手紙なのだ。

 出番がないなりに、頭を捻って生み出した案、それがラブレターなのだ。


「ともあれ……、できた」


 暁御は、自分の部屋の机の前に立ち、したためた便箋を見つめて呟いた。

 実に、ラブレターラブレターした男が使うと痛々しい便箋に付けられたシールがきらりと輝く。

 差出人を書いていないというベタなミスはやっていない。

 そして、夜に書いてようわからん恥ずかしいものができるということも当然回避済み。


「うん……、じゃあ、行こう」


 そう言って暁御は部屋を飛び出した。









 その少し前、じゃら男は。


「できた……、できたぜ」


 暁御と同じ思考回路に陥っていた。

 そう、ラブレターである。

 青春の青き思いを書き綴った、一歩間違えれば黒歴史になりかねない、そんなシロモノである。

 しかし、まあ。

 ここでじゃら男が名前を書き忘れるミスをする訳でもなく、飯塚猛の名が堂々と。

 多少の間違いを含むが徹夜で綴られた手紙は間違いなく問題ない。

 と、なれば後はすること一つ。


「鈴、ちょっと出かけてくるからな」


 鈴から突っ返される行ってらっしゃいの文字を見てか見ざるか、じゃら男は外に飛び出して、数分掛けると彼女の部屋の扉の前へ。

 その時、暁御は部屋の中でラブレターを書いていたりするのだが、それはともかく。


「行くぜ……」


 じゃら男は恐る恐る扉下部のポストに手を伸ばした。

 そして恋文は放たれる。

 自由を得たその便箋はかたんと音を立て投函された。


「やった……、遂にやったぜ!!」


 じゃら男はすぐにその場を去る。

 返事が来るかもしれない携帯を握りしめながら。








「あれ……? 手紙が来てる」


 所戻って暁御の元へ。

 暁御は、家を飛び出した際に、郵便受けに便箋が入ってることに気が付いた。

 包み隠しても仕方のないこと故にきっぱり言うが、じゃら男だ。


「ええと……」


 とりあえず暁御はそれを開く。

 そこには、黒歴史、もとい愛の言葉がのっぺり綴られていた。


「これって……、ラブレター?」


 詳しい内容は割愛させていただくが、内容の一部を取り出すなら、君は僕の太陽とかそういった感じだ。

 これがドSか鬼畜なら、ふんと笑って投げ捨てる所だが、そこはそれ、同じくラブレターを綴っていた暁御である。

 流石に笑う訳にはいかない。

 故に真摯に受け止めて、暁御は今一度便箋を見た。


「だ……、誰からだろう。私に男の人の知り合いなんて。え、で、でも、もしかして、や、や、や……」


 無論、次に続くのは薬師の一言。まあ、しかし、あの破壊的ファイナル朴念仁が詩的な恋文綴る訳がないだろうに。

 薬師が送ったと思うだけで明らかに死的な恋文である。

 しかし、僅かな希望を込め、暁御は差出人を見た。

 そこには、飯塚猛の文字……っ!


「飯塚猛……」


 そこには読めたオチが一つ。


「……誰だろう」


 それはもうあんまりな程の読めたオチだった。


「人違い、かな……?」


 世は常に無常なり、哀れじゃら男。


「まあいいや、行こ」


 まあいいやで済まされるじゃら男。じゃら男は既に改名すべきである。そうすればこんな悲劇は起きなかっただろう。

 ともあれ、暁御は歩き出した。

 そうして、そう遠くなく、暁御はあっさりと薬師の部屋の前に辿り着く。


「うん……、これを入れるだけ」


 暁御はじゃら男と違ってそれなりに名が通っているので、じゃら男の様な状況は起こらない。

 だから、このままその手の便箋が投函されれば、薬師へ暁御の想いがつまびらかになる。

 良くも悪くも、事態は大きく動くだろう。


「大丈夫。断られたって振り向かせれば良いだけ……。大丈夫」


 言い聞かせるように暁御は息を大きく吸いこんだ。

 果たして、このまま暁御は手紙を投函してしまうのか――!?

 暁御は神を越えられるのか?

 暁御はその手を離す。

 しかし、そうは問屋が卸さない。


「へ?」


 手を離した、その瞬間。その瞬間だ。

 ボッ! と。


「え……」


 便箋が燃えた。

 自然発火……っ! 自然発火だ。

 気象条件とか、全てを無視した自然発火。

 明らかにおかしい現象。

 自然発火を起こしてまで暁御を大局に関わらせまいとする神の意志がっ!


「えぇええぇぇぇー……?」


 たしかに暁御の道を阻んでいた。

 どっとはらい。






 しかし、話はもう少し続く。


「もう……、こうなったら」


 世界意志に手紙を燃やされた暁御は決意した。

 ええいっ! 駄目だ駄目だ!! こんな軟弱な方法では何も解決せんッ!!

 男なら――女だが――、突貫だアッ!!

 ということである。

 そう、現在暁御は非番、薬師は仕事。

 彼は間違いなく河原にいる。

 暁御はそう考えて走り出した。

 ……。

 転んだ。


「負けない……!」


 ここでも暁御の邪魔をする世界の意志に、彼女は反逆の意志を叩きつけて、再び走り出す。

 今度は転ばずに、寮の扉の前に辿り着く。

 暁御と外を隔てる扉は自動ドアだ。

 その扉が、容赦なく、暁御を阻んだ――!!


「あ、あれ?」


 開かない。

 センサーが暁御を認識していないっ!!

 影の薄さを示すSDN値は限界値を振り切っていた。

 今の暁御には、赤外線にサーモグラフィすら通用しないっ!!

 影の薄さここに極まれり。

 ファミレスで水を持ってきてもらえない人がいる。しかし自動ドアに認識されない人間がいかほどいようか。

 じゃあどうやって入ったんだと聞かれれば、人が入るのに続いて行けば何ら問題はないと答える。

 しかし、今日は平日、そして昼過ぎ。

 休みの人間は家でまったり時間を過ごし、仕事の人間はもう出払っている。

 既に自動ドアを開ける人間はいない。

 仕方がない。

 暁御は自動ドアの隙間に指を差し入れた。

 この女、自動ドアを手動ドアにするつもりである。


「ふ、ぬぬぬ……」


 女としてどうなのよという声を上げながら、暁御は強引に扉をこじ開けていく。

 実に必死だった。


「そぉいっ!」


 もう既にキャラが崩れるとか崩れないとかではない何かが発生し、扉は暁御が外に出るに十分な隙間を開けた。

 チャンスとばかりに暁御が外へ飛び出そうとする。

 その瞬間、自動ドアはその役目を果たし、すごい勢いで、まるでギロチンの様にその口を締めた。


「ひにゃっ!!」


 結果、体を横向けるようにして飛びだそうとした暁御は顔面強打。


「……」


 外へ出ることに成功はしたものの、しばし顔を抑え蹲ることとなる。

 そうして数十秒。

 痛みが引いて、現実世界にログインした暁御は、再び歩き出そうとする。

 そこに――。


「暁御っ!」


 じゃら男の声が掛かった。


「あれ? じゃら男、さん?」












 じゃら男は今一度決意した。

 手紙で言葉を伝え返事を待つことのなんと女々しいことかッ!!

 男なら、突貫だアッ!!

 果たして、恋する乙女とまったく同じ思考回路のじゃら男が駄目なのか、それともじゃら男と同じ思考の暁御が終わってるのか。

 ともあれ、じゃら男は変な男気を発揮し、暁御に突貫を掛けた。


「あれ? じゃら男、さん?」


 暁御は真っ直ぐにじゃら男を見つめる。

 それだけでじゃら男の心境はぶっちゃけ、オー、マイエンジェルッ! とまあ気持ち悪い。


「そ、の。俺の気持ちは、知ってると思うけど。冗談でもなくっ、本気だからなっ!?」


 そのように、じゃら男は前置いた。

 しかし、しかしだ。落ち着けじゃら男、それは手紙を正しく理解した前提の話だ。

 暁御には何の事だか、まるでこの間のしるこの様にわからな~い。


「好きだっ!! 付き合ってく――」

「すいませんッ! 急いでますから!!」


 あきみはにげだした!

 まるではぐれメタルの如く逃げだした。

 もしも、手紙にじゃら男と書いていれば、真意を汲み取り、真摯に答えてくれたのだろうが、仕方がない。

 残念、じゃら男の冒険はここで終わってしまった!

 後には凍りつく、まるで塩の柱の様な男が残されるのみ。

 めでたしめでたし。












「好きだっ!! 付き合ってく――」


 そんな言葉をどこか遠くで聞きながら、暁御は走った。


「鋤田…? 誰だろ?」


 見事に曲解されたじゃら男の言葉。

 暁御、貴様は薬師か。

 じゃら男に対し、薬師にあしらわれても文句は言えないほどの対応だが、恋する乙女は一直線。

 駆け足に河原へ向かう。

 それから先は、色々あった。

 転んだり、穴に落ちたり異次元に飛ばされかけたり神隠しされたり。

 あらゆる事象が暁御を妨害した。

 しかし、遂に暁御は河原の前に辿り着く。


「これで……、やっと……」


 この道路の向こうに河原はある。

 感慨も一入に、暁御は駆けた。

 その瞬間である。

 暁御は実に疲れていた。

 故に、注意力散漫。

 故にこそ、走るトラックに気付けないでいた。

 トラックの運転手は居眠り。地獄においては罰金罰則懲役ものだが、今現在どうすることもできない。

 気付いた時にはもう遅い。


「あっ……」


 トラックはすぐそこ。

 もしかしたら薬師が助けてくれるかも、なんて乙女妄想を心のどこかで展開し、暁御は目を閉じた。

 なるほど、車にひかれてもびくともしそうにない面子は置いておいて、由美や銀子に玲衣子辺りが轢かれそうになったら、薬師は謀ったかのように現れるだろう。

 しかし。

 現実は厳しい。

 あっさりとトラックは暁御を通りぬけた――!!


「……あれ?」


 まあ、ぶっちゃけるとSDN限界値につき、あっさりと暁御はステルスモードに移行。

 トラックの認識から外れた故、無傷。


「うふふうふふふふふふふふ……、分かってます、分かってますよそんなこと。私が影が薄いことなんて知ってますよーだ……。でもここまですることはないと思うんです。ぐすん」


 涙目になりながら、暁御は進む。

 その途中で暁御は気を取り直した。

 この先に薬師が居る。

 そう、想いを伝えるのだ。

 ボロボロになりながらも暁御はぎらついた輝きを持って歩いていく。

 そして、遂に河原に到達。


「どこ、かな」


 暁御は辺りを見渡した。

 見当たらない。

 仕方がない、と暁御は所を歩いていた前さんに問うてみた。


「あの、薬師さん知りません?」


 ほえ? と前さんは応えた。




「薬師? 薬師なら呼び出されて学校だけど?」




 ああ、無情。

 やっぱりそんなオチ。


「え、ええええぇええぇぇぇぇー……?」


 世は無常、気分はオーにアールゼット。

 暁御はそこにくずおれたのだった。















『どう、だった?』


 帰ってくるなり、鈴のメモがじゃら男に突き出された。

 じゃら男はげんなりと、溜息を吐くように、言葉を放る。


「だめだった……」


 じゃら男はぼすん、とソファへと飛び込んだ。

 妙な疲れを感じ、瞼の重さに身を任せる。

 瞼はすぐに降りて、少しずつ、意識は下降していった。

 気分も最低、だが、体は休養を要求する。


「ん……?」


 じゃら男は、誰かが頭を撫でる感覚に、妙な安心感を覚え、その安らかな気分に全てを任せた。

 音も言葉も無い中に、彼は鈴の言葉を聞いたような気がした。



 その後、鈴の膝枕でじゃら男は目覚めたという。
















「はあ……」


 街をふらつく暁御のSDNはとうの昔に限界値。

 どんよりげんなり、歩く道は夕焼けなのに新月の夜が如く。


「はぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ……」


 陰気オーラ纏って歩く彼女に。


「あ?」


 ふと、ある人影が見える。

 よれたスーツにやる気なさ気な歩き方。


「え、薬師さんっ!!」


 暁御は慌てて駆け寄った。


「お? 暁御?」


 流石にこの場はSDNも自重して、薬師はその存在を認める。

 遂に見つめた愛しき人に、愛の言葉を叩きつけよう。

 暁御の決意は一瞬、勝負に出る。


「その、薬師さんっ!!」


 その思いのたけは――。


「……なに言うんだったか忘れました……」


 放たれなかった。

 色々あり過ぎた。そう言うことだ。

 薬師は苦笑い一つ。


「そーかい。じゃ、一緒に帰ろうぜー。思い出すかも知れないかんなぁ」


 勿体ない気もしたものの、すぐに暁御は諦めた。

 まあいいか。今日はこれで満足しよう。


「はい、そうしましょう……!」


 千の不幸と一の幸運。

 それだけあれば、人生十分。


 今度こそ、どっとはらい。







―――

遂に暁御様が帰還しました。
次回の出演は、未定です。

あと、執筆の調子も大分復活気味かも。




春都様

未亡人、未亡人です。
薬師は多淫好色の妖怪なはずなんですけどねー……。
フラグ建設にしかその気が見えません。
使い物になったらなったで中々凄いことになりそうですけどね。


光龍様

未亡人なのでエロエロなのです。
玲衣子さんの家に引っ越す案もなくもない程度には引っ越しが考えられてたりします。
薬師と住んでる人数は現在確か六人位だったはずです。
師匠については、そう遠くないうちに、としか言いようがありませんが、本当にすぐそこです。


へたれ様

惜しい……っ! 暁御でした。
憐子さんの出番もいよいよ近い感じですよ。
何話後登場とか言ってしまっても良いくらいには近いです。
暁御よりもあっさり出てきますから大丈夫。


ReLix様

遂に、未亡人もブレイクです。
人徳が無い訳じゃない薬師ですが……。
どうにもフラグ立ての鬼畜ぶりに人徳者と呼びたくない人です。
あと、天狗だから、天徳ってかくと、すごくいい人みたいですね。


SEVEN様

未亡人につき、エロ増量中したりしなかったり。
ある意味ラブコメらしい気もしますが。どちらかと言うとドラマ向けの。
ここにて強敵発生中です。
多分憐子さん含めて大人組のレベルが高いです。


奇々怪々様

薬師が現代っ子なのは、か、確定的に明らかです。
ただ、不能薬師でも否定できないのも確定的に明らかです。
彼に立てれないフラグが無いのも明らかです。
そして、影の薄さが成長して帰ってくるあの人も確定的に明らかですねわかります。


通りすがり六世様

精神は肉体に引きずられる説はあると思います。外見通りの扱いされるのが普通ですから精神的にも適したものに落ち着くと。
まあ、手間暇については、薬師は究極の暇人ですからね。その辺を楽しめるのが年季って奴なんでしょうか。
あと、やっぱり一夜すごしたらなんだかんだと責任取ると思います。
なし崩しでも、無理矢理でも、包容力だけはあるっぽいので幸せに生きていけるんじゃないでしょうか。


やっさん様

撃墜数一アップ。キルマークが一つ増えました。
地獄なのに桃源郷とはこれ如何に。
もう既に、一族郎党建設完了ですからね、もうカオスです。
それと、じゃら男さんも今回出してみました。いつも通りの扱いですが。


トケー様

薬師に教えを請えば、きっとフラグの一つ二つなら余裕だと思うんです。
入学したいです。学校に。
李知さんに深刻したら大慌てでしょうね。応援したいようなやばいようなで大変なことになると思います。
最終的に薬師が親子丼で話を付けてくれると思いますけど。


Smith様

感想感謝です。
もうカオスですよねー。あらゆる人々に薬師が愛されすぎだと思います。
未亡人からロリババアまでっ! あらゆるフラグを取り扱います。
私も、地獄に行って学校入学、薬師の弟子になってフラグ立てたいです。




最後に。


SDN値、マイナス六万九千八百だと!? 馬鹿なっ、まだ上がり続けているッ!?


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