幻想立志転生伝外伝
***遊園地に行こう***
~ほんわか家族旅行記、暴走付き~
***注意***
本作は三人称の実験を兼ねた幻想立志転生伝の外伝になります。
外伝は基本的に不定期にして"基本的にはのほほん"で行こうと考えていますが、
本編以上に読む人を選ぶ作風となっています。
ともかくチート・パワーインフレ等に耐性を持たない方や
ご都合主義が許せない方。
等、本作品にマイナスの評価を覚えている方は読まずに戻る事を推奨いたします。
なお、もし読み進めて不快感を覚えたとしても当方は一切の責任を負いかねます。
それを容認できる方は激しく肩の力を抜いて、今暫しこの世界にお付き合い下されば幸いです。
なお、前作よりカルマ一党は一切の自重を放棄しております。ご了承願います。
出来ないのでしたら精神衛生上この先を読む事をお勧めできません。
それでは、
前書きをよくご理解いただけた方はどうぞ。
……。
≪リンカーネイト王国 首都アクアリウムの執務室≫
大陸から敵対者が消え、戦争とは無縁となったとしても、
日々の暮らしと言うものは続いていくもの。
そして、日々の暮らしと言う物はそれそのものが戦いなのである。
「……なあ。ホルス、ルイス……俺達、前に休み取ったのは何時だった?」
「主殿は確か三ヶ月前に12時間ほどの自由時間をお取りになられています。私は別に要りませんよ」
「さあ?まあ私の場合毎日が楽しくて仕方ないですから余り苦にもなりませんがねハイ」
「ルイス、おちゃ、です」
「肩叩きであります!」
ただ、それでも時として息抜きがしたくなる事もあるだろう。
そして、カルマは今猛烈に休みが取りたい気分だったのである。
……別に本気になったら好きに幾らでも休める立場なのはこの際気にしてはいけない。
ともかくカルマは休みの口実が欲しくなっていたのだ。
「父上。隣の大陸よりの使者の方と母上の会談が終わりました。僕はこれからご挨拶に行きますが?」
「ああ、そうか……俺も行かねばなるまいな」
とは言え、毎日忙しいのもまた事実。
こうして未だ幼い息子まで公務に勤しまねばならない現状は、
前世からの一般人出身たるカルマには少々きつかった。
……ただ単に休みが少なすぎるだけかもしれないが。
ともかく、グスタフの後頭部を見ながら歩いていたカルマはふとある事を思いついたのである。
「……夕飯の時にでも言ってみるか」
「何がです?」
以前建てたまま、何だかんだで一度も行っていなかったとある施設、
即ち遊園地の事を。
まあ要するに合法的?に休みを取る方法を思いついた。ただそれだけの話だ。
だからカルマは気付いていなかった。
休みの穴埋めの為、その前後の仕事は更に忙しくなるという事実に。
……。
まあ何にせよその日の夕飯時、
……爆弾は投下された。
「……と言う訳で、来月辺りに遊園地に皆を連れて行こうかと思うのだが?」
「父!良くぞ言った!よし、新しい余所行きの服を仕立て……母、睨まないでたもれ!?」
「……贅沢は敵。遊園地は賛成。子供とのふれあいは、とても大切」
「総帥。あの、私も連れて行っていただけるのですか?」
「あう、あー」
「そりゃそうだよね。僕も楽しみだな、ねえぐーちゃん?」
「はい。思えば家族で一緒に何かする等と言う機会は中々ありませんでした。父上の慧眼に感謝します」
「遊園地だよー!」
「ぜんいん、しゅうごう!です」
「いやアリシア。全部のあたし等が集まったら遊園地が物理的に破壊されるでありますよ」
そして、言葉の爆弾が投下される事を理解していた一部のお子様は、
既に投下区域に火薬をばら撒いていたりする。
「と言う訳で既にあたしら各自、時間配分の準備は出来てたりするでありますが」
「チケットも関係者全員分確保済みだよー!」
「にいちゃたち、くるだけで、おーけー、です」
つまり。
準備は既に整えられていたという事。
既に遠出の為の根回しは行われており、後はカルマの一言を待つのみだったのだ。
「……主殿のお気持ち、このホルス感激いたしました。後事はお任せを」
「まあ、自分達に任せておくっす。たまには羽目を外すのも良いっすよ?」
「ノンノン、レオ将軍。貴方はいつも羽目を外しすぎです!ともかくお嬢様、留守はお任せを」
「そうですね。私も賛成ですハイ。幼女には愛が必要なのですから、ハイ」
何にせよ、子供達の為とあれば、この場に居る者達に否応はなかった。
こうしてリンカーネイト王家一家の二泊三日日遊園地旅行が計画される事となったのである。
ただし、
「やっちまったーーーーーっ!」
「さあ、三日分の穴を埋めるのですから、今日から一ヶ月、休憩など無いと思って下さいよハイ!」
「休憩!?休暇でなくて休憩が!?」
「クレアパトラもたまには主殿……父親に遊んでもらうべきなのです。私もその為に頑張りますよ」
「畜生ーーーっ!俺様も行きてええええっ!グスタフと遊びてえええええっ!」
「でもさチーフ。チーフまで抜けたら国が回らないよね?ほら、タクト叔父さんもすねないの!」
「……ま、孫と遊びたい……で、でも仕事が……せ、せめて文句をビリーに言わせてやる……うう」
「同一人物で文句がハモってるのですよー……一緒に並んでるとまるで腹話術なのですよー?」
「うっらうりゃうらぁぁぁぁーーーっ!気合入れていくよー!」
「はい、です!」
「遊園地ー。遊園地でありまーす!」
その間、カルマは政務に訓練に文字通り一時の休みも無い日々を過ごす羽目になったのであるが。
まあ、自業自得である。
……。
そして、嵐のような一ヶ月は瞬く間に過ぎ去り、
カルマの一家は遂に遊園地にやって来たのであった。
「悪いなウィンブレス。いつも好きに使っちまって」
『いえ。私の疾風の如き翼が役に立てれば幸いです。地下を滑るよりよほど早いですからね!』
「おおーっ!これが遊園地か。わらわは初めてぞ!」
「僕もです。ところで遊園地とは何をする所なのでしょうか姉上?」
「色んな乗り物とかで遊ぶ所でありますよ」
「ここが遊園地?うわあ、歓声がここまで聞こえてくるよ!ねえハピなら知ってるよね?」
「はい、アルシェ様。アリサ様達よりもたらされた幾つもの遊具が新規設置されていますよ」
「うあ、あ?」
「クレアパトラ……総帥、お父様に感謝して下さいね。私も本来なら今も奴隷として……」
「……ハピ。余り自分の過去を卑下したら駄目。貴方無しで商会は回らない」
「そうそう。僕らも頼りにしてるんだからさ?」
「ルン姉ちゃ達の言うとおりだよー。元奴隷とか今となっては大した問題じゃないからさー」
「まったく、へんなところでひくつ、です」
「もし周りが騒がなかったら、にいちゃへの想いを一生押し隠して生きてたでありますからね、ハピ」
一般客とは違うVIP用ゲートから入場しつつ、軽口に見えて中々重い会話が続いている。
とは言え、遊園地内に入ると騒々しいまでの音楽と、
周囲の熱気に押され、特に子供達は居ても立っても居られなくなる。
そんなおチビちゃん達を宥めつつ、
カルマ達は予めハピが確保していた広い芝生にシートを敷いて陣取った。
更にその周囲をさり気なく、と言うには少々厳重に、
ジーヤさん率いる魔道騎兵の精鋭達が固めていく。
「と言う訳で、だ。今日と明日はがっつりと遊びまくれ」
「はい、こちらが一日無料券になっております」
「ハピから貰ったカードは失くさないでねー。これを見せれば何でも乗り放題遊び放題だからさー」
「「「「はいです!」」」」
「「「「テンション上がるであります!」」」」
そして、子供達は走り出す。
行き先は千差万別、
ハイムやグスタフすらも子供らしい顔を見せて走り去っていく。
「そして俺は寝る、と」
「……膝枕する」
「あはは。じゃあ僕は持ってきた団扇で扇いであげるね」
「私は娘の世話をしながら仕事を進めさせて頂きます。どうしても外せない物も多いので」
「あ、うー?」
大人達と赤ん坊は芝生の上で寝転がったり座ったりとゆっくりし始めた。
やはり仕事疲れというものがあるのだ。
実は子供達に勝手に遊ばせておいて自分は寝ようと目論んでいたカルマの狙いは、
この時点では一応の成功を収めていたと行っても良かった。
芝生にはパラソルが建てられ、太陽光を丁度良い感じにさえぎってくれる。
風は心地よく頬を撫で、とても気持ちの良い休日になりそうであった。
……。
とは言え、
元気が有り余っているあの大軍勢。
何も問題を起こさない筈が、
無い。
「にいちゃーっ!」
「面白いでありますよ!」
「……おー……」
子供達は何かあると親元に戻って報告していくという傾向があるので、
カルマが半分寝ながら反射で返事をすると言う高等技術を駆使していた所、
「かんらんしゃ、です!」
「高いであります!」
「おー」
「みをのりだす、です!」
「一番てっぺんに登るであります!」
「おー」
「……あれ?です……ひゃあああああ?」
「アリシアあああああああっ!?落ちたでありますぅぅぅっ!?」
「おー……おおおおおおおおおっ!?」
観覧車の一番上から身を乗り出したお馬鹿さんがそのままゴンドラから落っこちると言う事件が発生。
地面に轟音と共に人型の穴を開け、更に何が面白いのか他の蟻ん娘も次々と続いて落ちていく。
「いっしょに、おちる、です」
「ぽろぽろぽろぽろー、です」
「いや待て姉ども!?死ぬぞ普通!何やってるのだ!」
次々と地面に人型の穴が開いていく。
そりゃもうボコボコボコと。
「綱無しバンジーであります!」
「宙を舞い、大地に降り立つ感覚は中々癖になるであります……」
「アホかあああああああっ!?」
まあ、丈夫な蟻ん娘達だから出来る芸当ではある。
だがここまでなら何時もの"あたしら"で済んだ話なのだが……。
「うわあ。凄いや!ぼくもやる!」
「わたしも!」
「……え?ち、ちょっと待ってたもれーーーーーーっ!?」
周りでそれを見ていた全く関係ない子供達が次々飛び降りる始末。
お子様達が周囲の熱狂に飲まれる中、
不幸にもたった一人まともな精神状態を維持していたハイムが泣きながら周囲を止めていた。
だって、普通の子が観覧車とかから飛び降りたら間違いなく死んじゃうし。
「うわあああああっ!?ちょっ!?待て待て待てぇぇぇっ!?」
「陛下!うちの子が!」
「うちの子を先に!」
……幸い、カルマが飛び起き、必死の思いで受け止め続けたので普通の子供達の命に別状は無かったが。
子供達は楽しそうだし怪我も無くて良かった、とも言える。
「にいちゃ?あたしらもうけとめる、です」
「そうであります。抱っこであります!」
「……寝言は寝てから言えアホ妹。羽目を外しすぎだ……」
だが、当のカルマはお陰でおちおち寝ても居られない精神状態に陥ったりしている。
もこっ、と盛り上がった地面の穴から顔を出した蟻ん娘達は次々に踏んづけられていく。
良い見本が回りに良い影響を与えるように、悪い見本もまた伝染するのだ。
子供の躾から政治まで。
それは変わらぬ人の業である。
「もう嫌だ……休暇に来た筈なのに……」
「……先生。私の胸で泣くといい」
「兄ちゃ。お父さんの休暇なんてこんなもんだよー」
そして、業と言えばこの男の業も深い。
体よく休もうとしていたカルマはかえって疲れる一方である。
何とも皮肉な話であった。
「カルマ君!大変、はーちゃんがジェットコースターってのに轢かれたって!」
「総帥。グスタフ様がお化け屋敷のお化けを斬ったと通報が……じ、従業員が重体です……」
「いっそ、ころせ……」
しかし。カルマの受難はそれにとどまらない。
そうこうしている間にも、問題の根と輪はどんどん広がっていく。
「大変なのですよー。パレードに混ざって同じ顔の子が一杯歩いてるって大騒ぎなのですよー」
「……アリシアちゃん達?」
「なんだと!?……と言うかハニークイン。お前は遊ばなくていいのか」
「ふっ。クイーンや魔王様が遊び呆ける今、ハニークインちゃんしか頼れる物は居ないのですよー?」
問題を起こすもの。
問題解決しようと更に被害を増やすもの。
そしてただのお馬鹿さん。
「……アリシアちゃん。パレードの人たちはお仕事。邪魔は駄目」
「あい、まむ。です」
「しまったなのですよー、見せ場取られたのですよー!?」
ともかく普通のお子様達に混ざるには、このクリーチャーと超人軍団は少々法外すぎるようだ。
普段は相当に気を使って生きているのだが、ちょっと羽目を外すとこのざまである。
もしくは、普段どれだけストレス溜まっているんだ?と言う話なのかもしれないが。
「足漕ぎ式モノレールであります」
「前のが遅いであります」
「あ、またぶつかった。です」
「……まえのこ、ないてる、です。かわいそうだから、もっと、ゆっくり、です」
「やっぱり、普通の人間じゃ相手にならないよねー……ゆっくりじゃつまんないけど仕方無いよー」
「こーひー、かあああああっぷ!です!」
「よし!姉どももっと回せ!もっと早くだ!」
「姉上。回しすぎで何人か遠心力に負けて吹き飛んでいるのですが宜しいのですか?」
「あたしは何処に飛んでくのでありますかアアアアアッ!?」
「にゃあああああああっ!?です!?」
しかし、
「おサルの電車でありまーーーす!」
「しゅーしゅーぽっぽ、です」
「やっほい、であります」
「おどるです。それ」
「あ、それ、それ、それ、であります」
本当に、
「お前らなあ……一つ言わせて貰う!」
「……屋根で遊んじゃ、周りの迷惑」
「駄目だよそれじゃあ!もう二度と連れて来て貰えなくなっちゃうよ!?」
「羽目を外すのもそれ位にして下さい。直すのはあなた達自身なんですよ……」
「「「……ええええええっ?」」」
これは、ひどい。
特に普通に遊んでいる個体が殆ど居ない所が酷い。
とは言え、生まれて初めて客として入る遊園地。
羽目を外したいのも判らないでもない。
……ただ、脱線具合が洒落にならないだけで。
挙句に既存の乗り物に飽きてきたのだろうか?
最後には、
「やほーい、です」
「ぶぉんぶぉんぶぉん!であります」
「「「「きゃっきゃっきゃ!」」」」
「何をやってるんだあれは……」
「えーと総帥。なんでもゴーカートごっこ、だそうですが」
「アリスちゃん達が車になって迷惑かけた普通の子達を肩車して走ってるんだってさカルマ君」
己自身が遊具と化している始末。
……しかも速い。
遊園地の外れを占拠してレースゲームを展開し、
挙句に横で賭博が始まるほどだ。
「楽しいのか?あれ」
「……楽しそう」
「総帥、本人達が納得しているのなら宜しいのではないでしょうか?」
「ううん、流石に普通の家族連れは迷惑してたと思う。あれはせめてものお詫びだと思うよ僕は」
「半分当たりなのですよー。お詫びではあるけど本人もノリノリなのですよー?」
ただ一つだけ言えること。
まさに蟻ん娘恐るべし、である。
……。
そして初日の夜。
普通のホテルでは周りの宿泊客にどんな迷惑がかかるか判らないため、
地竜グランシェイクを呼んで背中の城に宿泊する事に。
「それじゃあ、いただきます」
「……いただきます」
「美味いぞ!父、母、美味いぞ!」
ところで旅先での夜の楽しみといえば?
そう、食事である。
「あ、のこしたです?じゃあ、にんじんもらう、です」
「ちょっ!?ニンジンのグラッゼは後で食べようとしておったのだが!?」
「じゃあこっちはあたしが頂くであります!」
「ノオオオッ!?それは肉団子の餡かけ!やめろ!やめてたもれ!わらわのオカズを持って行くな!」
「ご安心を姉上!代わりを周囲から集めておきました!」
「いや、あたしらの、とるな、です」
「なんで取ってないあたし等のを代わりに持ってくであります?」
「……ぐーちゃん、冗談は兜だけにしてねー?」
食卓には所狭しと料理が並べられ、
そして所狭しと子供達がひしめいている。
……カルマと一緒のご飯は譲れないとの事だ。
「いえ、姉上方は一にして全ですから。連帯責任と言う奴です」
「ぐーちゃん……それはちがう。です!」
「お肉返せであります!」
「ロード集結!ぶん殴るよー!……殺されない程度に」
だが、そこでもひと悶着。
最初は可愛げのあるオカズの取り合いだったのだが、
「どくないふ、ずぶっ!です!」
「効きませんよ」
「すこーーーーーっぷ!……折れたでありますっ!」
「無駄です」
「グスタフ……化け物かお前は」
「はーちゃんが言っても説得力無いと思うなー。あ、あたしらもかー……」
やっぱり混沌とした事に。
ナイフが飛び、スコップが唸る。
……どう考えても食事風景とは思えない。
まあ、そんな事普段ではありえないのだが、
明らかに旅先と言う事で羽目を外しているのだ。
……突然ドアが開いた。
「そっちのあたし。じかん、です」
「交代であります!」
どうやら二匹ほど休暇時間の切れた個体が居るようだ。
代わりに休みに入る二匹が目を血走らせながら飛び込んできた。
……時計を指差しているという事はどうやら時間超過が起きたらしい。
普段は裏でこっそりと入れ替わるのだが、周りは身内のみ。
業を煮やして飛び込んで来たと言う訳だ。
「えー!?ごはん、まだ……です」
「ちょっと待ってでありま、ちょ!?もう少し待つでありますーーっ!」
しかし、何処かわざとらしく抵抗する二匹。
「いや、です」
「さっさと交代でありますよ。じゃあこれ、お掃除用具であります」
「「にゃああああああっ……」」
しかし、怒れる交代要員は止まらない。
今までオカズを取り合っていた内の二匹が連れ出され、
代わりのアリシア&アリスが席に着いた。
そして空っぽの皿に寂しそうにフォークで突付くと、
じーっとルンを見つめ、涙目で訴える。
……そして、場を治める"たった一つの冴えたやり方"を披露したのである。
「「ねえちゃ!……とりあえず、おかわり」」
「……ん」
その言葉を受けてルンが厨房から鍋を持ってくる。
ゴロゴロとお皿に転がされる沢山の肉団子。
湯気のたっぷりあがるそれをはむはむと口にするニ匹……。
今の今までテーブルの上で取っ組み合っていた数十匹の蟻ん娘+αだが、
これを見てピタリと停止。
そして一斉に自分の皿を突き出した!
「「「「「ねえちゃ!おかわり、です!」」」」」
「「「「「おかわり三人前下さいであります!」」」」」
「母!わらわにも!」
「あたしもお代わり欲しいよー!」
「……いえ、姉上……このパターンは……」
そして、それに対し笑顔で応えるルン。
ただし。
「ルン、余りやりすぎるなよ……」
「ルンちゃん。お手柔らかにね?」
「ルーンハイムさん?たまの休日でアリサ様たちも子供らしくしている、そこは考えてくださいね」
「馬鹿ですよー。お馬鹿さんですよー」
場の空気は氷点下まで下がっていたが。
「……ルン姉ちゃ……?」
「やばい、です」
「あははははははは、であります」
「覚悟しましょう。大丈夫、骨一本くらいで済むはずです。多分」
鍋をメイドコンビに託し、無表情&瞳孔全開コンボで迫るルン。
そして怯えるお子様達。
そう、ここに今、阿鼻叫喚の地獄絵図が現出しようとしていたのだ。
まあ、とりあえず一言。
食卓で騒いではいけません。
「……お仕置き」
「「「にゃああああああっ!?です!」」」
「「「ねえちゃ!?ま、待つであります」」」
「逃げるだけ無駄か……ただ、硬化し強力を加えた腕が複雑骨折するまで引っぱたくのは勘弁だな……」
「歯を食いしばればそんなに痛く無いですよ姉上?僕も反省せねば。羽目を外しすぎましたからね」
「……それで済むのってぐーちゃんだけだよー。あ、そこのあたし、か、影武者宜しく!じゃ!」
「ええええええええっ!?あ、あい、まむ。アリサ……ひどい、です……にゃぁぁぁ……」
「アリサが逃げたであります!でもそれを庇うのがあたし等のあり方であります!」
さもなくば、流血の惨事が巻き起こる可能性があります。
……よい子も良い大人も決して真似しないで下さい。
ルン……即ち第一王妃の腕が鞭のようにしなり、
明らかに折れたような音を毎回立てながら、逃げる蟻ん娘達に叩き付けられて行く。
そんな物、誰だって見たい訳が無いのだから。
「い、今"メキョ"って音がしなかったか!?駄目だ母!止めてたもれ!?」
「……どうして、ご飯を粗末にするの……?」
「もんだいにしてるの……そこ、です!?」
「あぎゃらぱぱぱぱぱぱぱ……でありま、す……がくっ」
まあ……、
「しぎゃああああああっ!?母、痛い、痛い!やめて、やめてたもれ!」
「あう、あう、あう……です……」
「…………口から泡、吐くであります……ぶくぶく」
「姉上!?アリス姉上!?返事を、返事をしてください!?」
「こ、これは掃除が大変なのですよー……食堂が血みどろの大惨事なのですよー……」
「ルンちゃん……幾ら何でも自分の折れた腕の骨が肌を突き破るほどに引っぱたかなくても……」
「……駄目。この子達はまっとうに育てる。お母様の二の舞は駄目。絶対」
「気持ちは痛いほど判るが……それぐらいにしとけ、ルン」
絶対に、
真似は出来ないだろうが……。
……。
さて、流血の惨事となった食卓だが、お仕置きが終わればまた普通の?食事風景が戻ってくる。
「くちのなか、きれてる、です……でも、うまー、うまー……ぜったい、のこさない、です」
「骨が折れた?痣が出来た!?それぐらいであたし等の食欲を押さえられはしないであります!」
「姉ちゃは、ズルを……許さないんだよー……痛!うまー、痛!?うまー……今度はしないよー……」
「お前ら。飯の為とは言え……壮絶すぎるわっ!見てるこっちが痛くなるわああああっ!」
「姉上!?これ以上ルン母上を怒らせてはいけません!」
「二人ともなんで無事なのか判らないのですよー?皆以上に引っぱたかれていた筈なのですよー?」
「どいつもこいつも羽目外しまくってるな……」
「て言うかさ、ルンちゃんは大丈夫なの?骨が折れて腕から突き出してたよね確か」
「……何の問題も無い。皆が真っ直ぐ育ってくれればそれでいい」
「何時もの事とは言え、おねーさんの百叩きは壮絶なのですよー……」
「ルーンハイムさん。薬をどうぞ……総帥はお酒のお代わりいかがですか?」
窓から見える遊園地の夜景。
閉園して月明かりに照らし出された観覧車が何処か幻想的な光景を……。
「やっほい、です」
「わーい。高いでありまーす!」
「よいしょ、よいしょ、です」
「天辺取ったであります!」
……幻想的な、と言うかなんと言うか。
旗持ったお子様が観覧車の外側をよじ登っているというか。
それを見たカルマは目元をニ~三回押さえてアリサを呼んだ。
「アリサ」
「兄ちゃ。どうしたのー?」
「あそこの四匹。三日間おやつ抜きな」
「……はーい」
「「「「ががーーーーん!」」」」
そして死刑宣告のような何かを告げられた四匹は、
もんどりうって観覧車からぽろぽろと転げ落ちていたりする。
「頭痛え……俺は休暇でここに来たんじゃなかったのか?」
「総帥。子供達を引き連れて休暇に来た以上、こうなる事は目に見えていたのでは?」
「あー、うあー、きゃっ、きゃっ!」
今回の遊園地二泊三日旅行は家族には好評である。
それは間違いない。
ただカルマの行動で失策だったのは、普段何だかんだで大人びている蟻ん娘達が、
休暇の名の下に遊び呆けるとどうなるかを良く考えていなかったという事。
そして。休日に遊園地に来たお父さんと言う存在が本当に休めると思ってしまった事だろう。
余談ではあるがおやつ抜き宣言の後、
闇の中の各アトラクションにたかっていた謎の生命体が多数一気に姿を消していたりする。
そしてつなぎを着て再び現れたその生命体はこう言ったのである。
「あはははははは!整備員であります」
「こわれたゆうぐ、なおすです……あそんでたんじゃ、ないです。ほんとう、です!……たぶん」
「頑張れあたし等ー♪るるるるるんねえちゃー♪遊んでなんか、居ないで、ありまーす♪」
「冷や汗じゃ無いであります!労働由来のあぶら汗であります!本当であります!あはははは!」
アリサが"あちゃー"のポーズ。
カルマは"がっくり"のポーズ。
兎も角飯を食い終わったカルマは徒労感を胸に深い溜息をつくのであった。
ただ流石に今日、これ以上子供達が問題を起こす事も無いだろうと思われた。
これでゆっくり眠れる。
それだけがカルマの救いだったに違いない。
「もういい、歯を磨いたら俺は寝る……」
「……ん」
「そうだね。うん、そうしよう!」
「では、寝室の準備をしましょう……グスタフ様、クレアを宜しくお願いします」
そして。
「では皆さんお休みなさい。さあ、クレアも言ってみて下さい?」
「あ、うー?」
「赤ん坊がわかる訳無かろう。では父、お休み……休めればいいな」
「あはは、ハニークインちゃんの休暇は一日なのですよー。今から帰りなのですよー、ちくしょー」
「「「あたしらも、です……あしたは、べつなあたしら、くる、です」」」
「「「にいちゃ、明日も他のあたし等を宜しくであります!」」」
夜はふける。
「おい。何故鍵を閉める!?」
「……家族サービスはまだ終わってない」
「まあ、たまには僕らにも構えって事だねカルマ君?覚悟はいいかな?」
「別に何をして欲しい訳ではありません、たまには愛情を確かめたいだけなんですよ総帥……ふふ」
「何ですとおおおおおおおっ!?」
ふけていく……色々と。
ただし、カルマがゆっくりと休めたかどうかは定かではなかったりするが……。
……。
翌日、二日目の朝が来た。
グランシェイクからカルマ一家ご一行様が飛び出していく。
「……お、は、よう……」
「……おはよう、皆。今日も一杯遊んで来るといい」
「うーん!いい朝だね」
「そうですね。本当にいい天気です」
「って、兄ちゃーーーーーーーっ!?」
「「「これは、ひどい。です」」」
「「「一日で何キロ痩せたでありますか!?」」」
皆、元気満タンでグランシェイクの背中から飛び出していく。
……唯一人を除いて。
「これで文句を言ったら罰が当たるよな、うん……あ、眩暈が……」
「ちょ!?父?隕石を素手で受け止める男が何をそんなに追い詰められておるのだ!?」
「あの後父上に一体何が……」
そんな事は気にしてはいけない。
まあ余りしつこい場合、ルンの視線が冷たくなって行くので、
気が付いた者から黙る故に彼らの間では特に問題になりはしないのだが。
「そんな事より、今日は何処行くでありますか?」
「しゃとるるーぷ、です」
「ばんじーじゃんぷ、するです」
「いちにちじゅう、おかしやさんのまえでよだれたらしてる、です……あたし、お菓子抜き、です……」
「オーナーの一族が営業妨害してどうするでありますか……」
ともかく、子供達は今日も元気一杯なのであった。
「……今日は寝れるかな……」
「……諦めた方、いいかも」
大人は兎も角として。
「カルマ君!植え込み迷路に穴を掘ったアリサちゃんが居るって従業員さんからクレームが!」
「総帥……英雄劇場(ヒーローショー)に"です"口調の謎の乱入者が湧いていると通報が!?」
「おにーさん大変なのですよー!本国でクイーンの部下どもがストライキを起こしたのですよーっ!」
「「「あたしらも、あそびたい、です!」」」
「「「厳密に言えば、にいちゃに構って欲しいであります!」」」
「……その気持ち、判る」
「のあああああああああっ!?何だってーーーーーッ!?」
合唱。
……。
ついでに言えば、そのままの勢いで二泊三日の全日程を終え、
疲労困憊してふらつきながら城に戻ったカルマに一つオチがついたりしている。
「では溜まった分の書類を片付けましょうか?ハイ」
「主殿。各国代表との会見スケジュールも詰まっております」
「アニキ!軍の連中が訓練の視察をして欲しいって五月蝿いっすよ。一度顔出して欲しいっす!」
「すべらああああああああっ!?」
休日の翌日は仕事。
つまりこれは当たり前の結末である。
楽をしようとして却ってキツイ事になる。
策士策に溺れるのいい見本となったのであった。
……めでたしめでたし。
「めでたくなーーーーーいっ!」
「……にいちゃ!だめ、です」
「あたし等を全力で愛でるであります!」
教訓のようなもの。
休日のお父さんは大抵疲れているものです。
これを読んでいる中に良い子達が居たとして、
もし、たまの休みに折角遊園地に行ったにも拘らず芝生で寝てばかりいるお父さんが居たとしても、
温かい目で見守ってあげてくださいね。
きっとそのお父さん達は疲れ果てているんです。
そして特に忙しい毎日を送っているお父さん達にとって、
休日の昼間は貴重な休憩時間なんです……たとえそれが行楽地だったとしても。
その場所まで長い距離、自家用車を運転していたのだとしたらなおの事です。
……彼らはこの腐れた不況の中、家族を養う為に身を削って働いている……筈、ですから。
次の日もまたお仕事なのに家族の為に身を削ってるんですから。
だから本当に……大事にしてあげてください。
いや、まじで。
……。
≪二泊三日旅行終了の翌日≫
「……まあ、何にせよお疲れ様だ父。大変だったな?」
「それについて労ってくれるのはお前だけだハイム……」
夜の帳の下りた月明かりに照らされる首都アクアリウムの屋上。
中央の巨大噴水から水が噴出すその脇でベンチに並んで座り、
月夜を見ながらポテトチップを頬張る、とある親子の姿があった。
「うむ。泣くな父。まあ、実際わらわも千年生きておる。父の辛さもわかるのだ」
「その割りに童心全開で突っ走ってなかったかお前も?」
「そうか?まあ、気にしないでたもれ?」
「気にするわ!お前が壊したジェットコースター、幾らすると思ってるんだ!?羽目外しすぎだ!」
ハイムは塩味の聞いた芋の揚げ物をポリポリとかじりながらにんまりと笑う。
「はっはっは。千年生きておっても子供として生きているのは初めてだ!羽目を外して何が悪い?」
「……そうだな……悪く無い。悪く無いぞハイム!子供なのは今の内だけだ、目一杯楽しんでおけ」
カルマはそれに応えてツインテールの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「うむ!……それにしても楽しいな。うん、毎日楽しいぞ」
「そうか。そりゃ何よりだ」
ベンチから飛び降りた小さな影が、月明かりに照らされながらくるりと一回転。
そして、月の陰になって表情が見えないように父親の前に立った。
「父。わらわは生まれて初めて誰かの子供になったと思う。今までの両親が愛してくれた事は無い」
「……それは親じゃない。お前を蔑ろにする親なんて親に数えるな」
「そうか?ならわらわの親は父と母だけになる。ああ、最初の親は少なくとも必要とはしてくれたな」
「……違うぞ」
その答えは予想外だったのだろう。
小さな影が不審げに揺れる。
それをぐい、と抱き寄せた父親はそのまま抱き上げた娘に対し言い聞かせるように口を開く。
「なに?製作者は親に入らんか?」
「そうじゃない。お前の母親は何人居る?」
「…………少なくとも三人」
「そうだ。皆家族だ……ルンだけじゃない。それに、だ」
カルマの目配せ。
……噴水の後ろでピクリと何かが動き……そして観念したように此方に寄って来た。
「ばれてしまいましたか。姉上?僕も、皆も姉上のこと、大好きですよ?」
「そう言う事だよ、はーちゃん」
「……ん」
「総帥はとっくにお気づきでしたか。姫様、精進が足りませんよ?」
「あう、あー?」
そして、更にその後方では、階段の下から押し寄せる人の波を押し止める影が多数。
「「「はいはい、今日はここまでにするであります!」」」
「「「きょう、これいじょうは、おじゃま、です」」」
「あたしも少し場違いな気がするからここで余計な野次馬をシャットアウトするよー!」
……本当に多数。
そりゃもう、うじゃうじゃと言う言葉がしっくり来るくらいに。
「何だあれは……」
「皆、お前の事を心配してるんだよ」
「いえ、仕事を放り出して急に消えた父上と姉上を捜索していた方々です」
「あのさ。えーと……ぐーちゃん。空気読もうよ、ね?」
娘を抱き上げたまま固まる父親と抱き上げられたまま固まる娘。
そして生暖かい家族の視線。
居たたまれなくなって、カルマがハイムを降ろした。
多分、ハイムに言いたい事は別にあったのだろうが、それどころではなくなってしまっている。
「うむ。では仕事に戻ろうか……何故子供が書類に埋もれねばならぬのか、とは言わんぞ父」
「ああ、そうだな。休憩はここまでだな」
何にせよ、仕事に戻らねばと階段に向けて走り出すハイム。
だが、突然立ち止まるとくるっと半回転した。
「そうだ。言い忘れる所だった」
「何をだ?」
そして、ぺこりとお辞儀をする。
「父、母達。そして弟妹よ。わらわの家族になってくれて、本当に……有難う御座います」
「…………はーちゃん……」
「何言ってるんだか。そんなの当たり前だろが馬鹿娘」
「こちらこそ、姉上が姉上で本当に有難う御座います!」
「うわ、先越されちゃったね。うん、はーちゃんは良い子だよ。本当に」
「同意見です。……ルーンハイムさん、感涙するのは良いですが涙は拭いて下さいね?ふふっ」
「あう?」
しん、と静まり返った屋上に、暖かな空気が広がる。
「な、何か恥ずかしいな。さあ戻るぞ!……なあ父?」
「ん?」
「……遊園地。また連れてってたもれ?」
「ったく、仕方ないなお前も……良い笑顔だよ全く」
王家と言う立場にありながら、その家族には強固な絆が存在する。
親は子を愛し、子はそれに応える。
当たり前でありながら、それを形に出来る家族がどれだけあるだろうか。
連れ立って家に戻っていくその家族。
彼らを月が優しく見守っていた……。
「「「計画通り!」」」
また遊園地に行ける。にいちゃに遊んで貰える!
と、ニヤリと笑う大量の蟻ん娘も、
当然、物凄く暖かな視線で見守っていたりするのだが。
「あれ?……俺もしかして自分の首絞めてないか?」
「きのせい、です」
「気のせいであります」
「気のせいだよー。次はもっと大勢で行くんだよー♪」
まあ、こうしてカルマは数ヶ月に一度、定期的に大群を率いて遊びに出かける事になったのである。
死ぬほど大変だが、家族は喜ぶから良しとせねばなあ。
そんな風に思うカルマなのであった。
こんどこそ、
めでたしめでたし。
幻想立志転生伝外伝
遊園地に行こう 終劇