<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

オリジナルSS投稿掲示板


[広告]


No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[6980] 外伝 技術革新は一日にして成る
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/28 20:20
幻想立志転生伝外伝


***技術革新は一日にして成る***

~チートどころの話では無い~


***注意***

本作は三人称の実験を兼ねた幻想立志転生伝の外伝になります。

外伝は基本的に不定期にして"基本的にはのほほん"で行こうと考えていますが、

本編以上に読む人を選ぶ作風となる可能性が大です。

ともかくチート・パワーインフレ等に耐性を持たない方や

ご都合主義が許せない方。

等、本作品にマイナスの評価を覚えている方は読まずに戻る事を推奨いたします。

なお、もし読み進めて不快感を覚えたとしても当方は一切の責任を負いかねます。


それを容認できる方は激しく肩の力を抜いて、今暫しこの世界にお付き合い下されば幸いです。

なお、本作よりカルマ一党は一切の自重を放棄いたしました。ご了承願います。

出来ないのでしたら精神衛生上この先を読む事をお勧めできません。




それでは、

前書きをよくご理解いただけた方はどうぞ。






……。







時は某暦XXXX年。

世界は後30秒で滅びようとしていた。


「世界終わるでありますね」

「それも、ぜんぶのせかいの、おわり、です」

「ここがさいごの、せかい、です」

「最後の友軍艦からの通信が途絶えたであります」

「あたしらが、ほんとうに、さいご、です……ま、いいですが」


最早、誰にも止められない。

延命の方法も、最早無い。

それも、全時空の死だ。

文字通り全ての寿命が尽き、何もかもが消え去り、

時間も空間も死に絶える、

そんな永劫に永劫を重ねた遥か先の時代。


「ここももうすこしで、きえる、です」

「……全ての時代全ての平行宇宙で起こりえる全ての可能性は網羅したであります」

「そう、ですか……じゃ、そうしんする、です」

「ぽちっとな、です」

「「「乙、であります」」」


「ながかった。ながかった、です……はふー」

「おつです。おかしぼりぼり、です」

「たんさんいんりょー、です」

「あー、ズルイであります」

「……そこのあたし、何も持ってきてなかったでありますか?」

「ぱんぱかぱーん。ぽてち!ひとふくろ、あげるです」

「ありがと、であります。ボリボリボリボリ……」


全てが現代人には理解不可能になった状況下、

だと言うのにそこには一隻の戦艦が存在していた。

幾重にも張られた防御フィールドは一つ一つ消滅しながらも未だ限界を超えた出力で稼動し続け、

その中に存在する全時空最後の命を辛うじて守り続けている。

……とある目的の為に。


「最終防御シールドの出力低下を確認したであります」

「おつ、です。きのうていか、さんじゅっぱーせんと、です」

「もごもごもごもご……」

「……にいちゃは元気でありますかね……」

「とっくに、しんでる、です……いきてるじだいなら、きっと、げんきだった、おもうです」

「そうでありますねぇ」

「あ、でんき、きえ……」



そして、30秒後。

全ての終わりを見届けた"それ"は全ての任務を完遂し、

世界と共に、消滅した。


後には、なにも、残らなかった。

無論、それを知るものも、最早、居ない。



……。



時を遡る。

王国建国から数年後のリンカーネイト王国首都アクアリウム・執務室。

ここでは今日も、書類の山脈との何時果てるとも無い永き戦いが続いていた。


「ルイス……この箱の書類は出来たぞ……」

「陛下。では次に大学院設置についての見解が届いていますので目をお通し下さい、ハイ」

「「「「内務卿、次の書類が届いてます。急ぎましょう」」」」


「ぺた、ぺた、ぺた、です……」

「決済印押すであります。今日中じゃないと死人が出るのであります。ペタペタペタ」

「あ、ごじ、です」

「え、もう終わりの時間でありますか?」

「五時ではなくて誤字だと思うであります」

「……かきなおし、つらい、です……」

「はて?お仕事始めたのは夕方なのにもうお昼なのですよ?時間軸がおかしいのですよ?ヒャハハ」

「ハニークイン。泡吹いてる暇があったらハンコ押すであります」


何処かどんよりと室内の空気が淀む中、今日も世のため人のため。

そして何より自分達の為に彼等は働く。


そう、暴君は割に合わないのだから。

……名君が割に合うかも疑問に思えてくる今日この頃ではあるが、

自分で選んでしまった道だ。

文句を言える相手など居よう筈も無い。

だから愚痴りながらひたすら手とペンとハンコを動かし続けるのだ。


「ぐぁぁぁぁ……流石に辛いですよハイ」

「「「「や、休みが欲しい……」」」」


だが、それでも限界はある。

流石のルイス率いる文官部隊も疲労の色が隠せないようだ。


「甘いよー。良し行け皆、だよー」

「「「「かたたたき、です」」」」
「「「「お茶汲み隊出撃であります!」」」」
「「「「おちゃがし、あーん、です」」」」

「「「「「おおおおおおおお!み・な・ぎ・っ・て・きたーーーっ!」」」」」


が、奴等はロリコンなのでカンフル剤を注入するのは容易い。

それに、一応毎日一人は休暇が取れているので破綻はしないだろう。

……いちおう、彼等でなくとも何とかなる仕事ではあるのだから。

だが、そうも行かないものも確実に存在した。


「もう、半年も休みが取れて無いんだが……」

「陛下は最近の一日の仕事時間、たった12時間しかないでは無いですかハイ」


「ルイス……残りの内6時間は鍛錬、3時間は睡眠。残りは家族サービスで全部消えるんだよ……」

「自業自得ですねハイ。流石に家庭の事情まで考慮しかねますよハイ」


ヲヲヲヲヲ……と国王の地獄の底から絞り出したような声が響くが、

王国自慢の内政官は眉一つ動かさない。

元は魔法王国の学院教授なのだが、すっかり鬼の官僚としての風格を得てしまっている。

と言うか、こいつも半年休み無し組の一人なのだ。甘えんなと思っていてもおかしくは無い。

何故休みが無いかって?

それはコイツも代わりの効かない人材だからだ。

代わりが育つまで後数年はかかると思われるので、未だ頑張らねばならないお年頃なのである。

ルイス=キャロル伯爵(多分50代前半)そろそろ嫁さんの欲しいお年頃であった。


……なお突っ込みは何もかも受け付けない。


「では、お二人とも少し気分転換でも致しましょうか。主殿もお疲れのようですし」

「宰相、宜しいのですか?ハイ」

「良く言ったホルス!良し休憩だ!休憩だ……!」


とは言え彼等も一応人間だ。

疲労は溜まる。

何せ傍から見ていると何時死んでもおかしくないように見えるほどだ。

二人とも目の下のくまがえらい事になっている。

ついでに両方の瞳で、視線が全く合っていない。


と、その時部屋のドアが開いて、救いの声が二人に降り注いだ。

流石に日の出から30時間以上休み無しで缶詰状態なのは問題だと判断したのだろう。

他国の使節団との交渉に当たっていたホルスが報告にやって来たのだが、

それを見て軽く頬を引きつらせると、

報告もそこそこに壊れかけた二人を連れて部屋から出て行く。


「皆さん。陛下達をお借りしますよ」

「はい、です」

「早く返してであります」

「「「「お疲れ様です」」」」

「というか、はーちゃんもつれてく、です」

「そこで白目を剥いて気絶してるでありますから」

「……ま、まおー。まおまお、まっおー……」


そして、口からエクトプラズムを吐き出しつつ床に倒れたお子様を背負って、

彼等は地下にある秘密研究所に連れて行かれたのである。

名目上、気晴らしとして。


そこでは新作マジックアイテムの評価が行われていた。

え?それは仕事じゃないか?

今回の目的は気分転換ではないのかって?


……ここでカルマの立場についてハッキリさせておこう。


既に一党の支配領域は世界の八割に及んでいる。

そして今もこっそりとだが影響力は増大し続けているのだ。

故に……のんきに休んでいるような悠長な暇は無い。

動きを止めたら世界経済と政治が停滞するのだ。

即ち、奴等が怠けると世界がストレスでマッハなのだ。

簡単に言えば現状はチクタクバンバンのような状態だと理解すれば良い。


タイムリミットは、常に彼等の背中を追っているのである!


真面目に働けば働くほど成果は上がり、影響力は増大していく。

しかしそれ分煩わしい事と仕事は増え続ける。

だが止めれば全てが台無しになる……よって今更止められないのである。


……。


「と、言う訳で第20回新規魔道具の品評会を始める」

「うむ。世界の負担にならずそれでいて効果の高い品が出来ている事を願うぞ」


「主殿とルイス殿はお疲れなので皆さん、余り負担をかけないようにお願いします」

「ちょ!?わらわは!?」

「あたしは、それいじょうに、はたらいてるホルスが、げんきなけんについて、ぎもん、です」

「さすが元奴隷。基礎的な忍耐力が異常以上なのですよ……」


「では始めましょうか。私は一般的魔法使い代表としての意見を述べさせていただきます、ハイ」

「自分は落ちこぼれ魔法使い代表っす」

「レオ。まなばってりー、できてから、こわいものなしのくせに、なにいってる、です」

「最大の弱点の魔力不足は解消されたでありますからね。まあ、いいであります」


そう言う訳で地下の秘密研究所である。

ここでは魔法の管理の為、

新しい魔法形式の模索と新型マジックアイテムの作成、実験が日々行われていた。

そうして、カルマたち上層部にOKサインが出た物のみが世に出る事となるのである。


なお現在今までどおりに魔法を使おうと思ったら、

管理者の許可を個人的に取った上で魔力を貯めておく事の出来る特殊なバッテリーを携帯するか、

単一魔法使用専用のマジックアイテムを使うしかない。

カルマなど自前で魔力生成できる者は例外中の例外だ。


しかもバッテリーやアイテムに、充電にあたる魔力のチャージをするのにも、

現在では未だアイテムをカルーマ商会に預けて有料でやって貰う他無い。

無論コストパフォーマンスは最低で、世界の魔法使用頻度は減り続けている。

……とは言え、使用頻度に反比例する形でどんどん不満が高まっているのも事実。

一度覚えた横着を人は忘れる事など出来ないのだ。


と言う訳で、これ以上世界から怒りを買い問題が増える前に新しい魔法体系を作り、

世界に負担をかけないという条件を守りつつ、魔法を再普及させる必要があったのだ。

それも出来る限り早く。

それ故に、彼等は日々悪戦苦闘を重ねていたのである。


誰だって、世界が何時滅びるか目に見える状況に戻りたくなど無い。

かと言って今まで使えていた力が失われるのもまた許容はできないのだから。


まあ放っておいて逆らい次第殴り飛ばすという選択肢もある。

ただ、現状では魔法を使うのが、特に金銭的に難しすぎるのは事実。


既にハイムが"今週も信者を救うお力をお授け下さい"と、

リーシュ&ギーの狂信者姉弟に泣きつかれて辟易するという実害も出ている。

そして世界各国の魔法使いとその子弟が魔力を授けろと毎日のように謁見の申し込みをしてきて、

カルマが対応に追われて中々執務室に戻れない。という洒落にならない事態にまで発展していた。


これでは書類の山が溜まるばかりで、カルマ達へのメリットは無い。

そんな訳で、時折こう言う集まりが持たれているのである。

因みに、


「……こ、国家機密の気もするんじゃが……わし、ここに居て良いのかのう?」

「ガルガンおじちゃんは、いっぱんじん、だいひょう、です」

「気心知れてるし。店が潰れて現在無職だから、いざと言う時は口封じも楽でありますからね」

「言い草が一々黒すぎるのですよー。とりあえずおじさん?これは他言無用なのですよー」

「だまってれば、つぎのおみせに、しきんえんじょ、です」

「費用は全額うちで出すから宜しくであります!」

「……喋った場合は色々と潰すでありますがね……色々と」


時折ゲストが招かれる事もあるのだが、

今回は顎が外れて血の気が引きまくっているガルガンさん(無職)である。

可哀想に顔色を真っ青にしてブルブル震えながら椅子に座っている。

いつもは何も知らない一般人を連れてきて、終わったら蟻ん娘が"適切に処理"しているが、

流石にそれはまずいだろう。と言う事で、

いざと言う時潰すのも楽で、更に約束を守る可能性の高いこの人に白羽の矢が立ったのである。

……実にご愁傷様だ。


「ガルガンさん。とりあえず秘密は守ってくれ。それだけでギャラが出る良い仕事だと考えるんだ」

「うむ。父も知人をそう易々と消し炭にはせんだろうしな」

「そ、そうじゃのう……店の建て直し資金をたかりに来たのはわしの方じゃし……トホホ」

「ただよりたかいものはなし、です」

「まあ、何時かきっと良い事あるでありますよ!」

「おじさんを現在進行形で地獄に叩き込んでる連中の台詞とは思えないのですよー」

「別に、以前にいちゃを見捨てて逃げた事はもうあんまり気にして無いのでありますよ?」

「です!」


うん、実にご愁傷様。


「兎も角、このホルスが司会進行を勤めさせて頂きます。まず、これをご覧下さい」

「俺が製作を指示していた新作の量産型"魔道書"だ。汎用魔法媒体として期待している」


さて、そんなこんなで品評会が始まった。

最初に出てきたのは文字通りの魔道書。

とは言え、今までのものとは根本的に違うとカルマは言う。


「今までの魔道書は呪文と印を記してあるだけの物。これはそのまま電池と回路の役割を果たす」

「電池とは何じゃ?回路とはなんぞ?」

「自分も知らないっすね。なんすかそれ?」

「……説明はそこからでありますか」

「これは、もうてん、です」


カルマたちは当然ではあるのだが電池の概念すら知らない連中に対し説明を始めた。

さて、その間に読者各位にも別口で説明をしておこう。

要するに新しい魔道書とは魔法媒体と魔力タンクを兼ねた代物と言う事だ。

使い方は極簡単。

魔道書に触れながら"火球"等の予め設定されたキーワードを唱えれば、

書に蓄えられた魔力が尽きるまでの間、魔力の行使が出来るという訳だ。

ただし、使用可能なのは魔道書に記された魔法のみという制約は流石に付く。

書に蓄えられた魔力が尽きた場合本の表紙から色が消えるので、

最寄のカルーマ商会に持ち込めば、三日の時間と数十枚の銀貨で元通りにしてくれる。

日本円にして数十万円……はっきり言えば、暴利ではある。

だが、余り安くすると、以前以上の濫用がまた始まりかねないのでこうせざるを得ないのだ。

何せ、これさえあれば修行も無しで魔法が使えるのだから。


なお、蜂蜜酒を飲めばと条件は付くが、体内に魔力を貯めておくことも今までどおり可能。

時間経過での回復はもう無いが、体内の魔力で魔道書を起動することは出来た。

要するに、才のあるものには一応使用回数の多さと言う利点は残っていると言う事だ。

……金は掛かるけど。


「メリットは、一つの媒体で複数の魔法を使える事。勝手なアレンジを封じる事も出来る」

「父よ。もし使用者が書を弄れば稼動しないようにしておくのだな?」

「魔法の濫用が見られるようならば市場に出回る量を制限すれば良し、ですか。見事です主殿」

「……余り好かないっすね。苦労して詠唱を覚えた自分等の立場が無いっす」

「そうですね。余りに簡単すぎます。金持ちの道楽呼ばわりは勘弁ですハイ」

「わ、訳が判らんぞい……」


悪くは無いが、旧マナリア勢には不評だ。

やはり、何の苦労もなく魔法が使えるのは面白くないのだろう。

元々、魔法の濫用を防ぐ為に昔の魔法使いが施した工夫が複雑な詠唱と言うものだったのだが、

すでにそれは魔法使いとしての特権と誇りの一因に変わっている。

そこは考慮すべきものだろう。


無論、流石にそれはカルマ自身も理解していた。

なので次なる物を即座に取り出して手のひらで転がす。


「ならこれだ。魔道書より安価にする気だが……」

「宝石っすか?」

「これは、マナおばちゃんの遺骨を参考にしたマイナーチェンジ版であります」

「あの方の肉体は幼い時既に細工されていたのですよね……故国の事ゆえ悲しさを覚えますよハイ」

「因みにこれは回路のみの廉価版であります。魔力は体内のを使うから古典的魔法使い向きであります」


これは握り締める事で印を省略し、詠唱さえすれば発動するようになっている。

例えるなら詠唱がパスワードと命令文代わりということだ。

嵩張らないし、比較的安価。

更に使用時の詠唱は比較的長めで訓練しないと使えない。

と魔法使いに喜ばれそうな仕様になっている。


「宝石一つ一つで使用可能魔法が違う。因みにこれ一個で10以上の魔法が使い分けが可能だ」

「ちなみに、つえも、あるです」

「ほうせきを、ゆびわにも、できるです」

「なお、杖は物によっては100を超える魔法を刻んでおけるであります」

「……ま、魔法にそんな種類は元々残って無いでありますがね」

「そういえば、もういちど、まえとおなじく、つくりなおしたの、あんまりない、です」


魔法は一度完全に失われたが、火球(ファイアーボール)を筆頭とした幾つかの魔法は、

流石に無いと拙かろうと判断したハイムが復活させていた。

無論、管理者の許可が無ければ普通には使えないようにはしているが。


なお判断基準はというと、余りにポピュラーになりすぎて、

無いと逆に世界の寿命が縮んでしまうほどに世界に馴染んだもの、となっている。

非正規の火球が正規の魔法より世界に馴染んでしまった事自体が異常事態なのだが、

馴染んでしまった物は仕方ない、と言う訳なのである。


まあつまり、それ以外はマジックアイテム無しでは使えないと言う事だ。

無論"世の理そのものを弄る"よりは"特殊な力を持つ特殊な道具ひとつ"の方が世界に優しいし、

管理も遥かにし易いのでそうせざるを得ない、と言う事情もあるのではあるが。


「マナリア出身としては嬉しいっすが、自分には無用の長物っすね」

「それに、お話からすると種類を絞っておかねば以前と同じ轍を踏んでしまうような。ハイ」

「そうだな。やはり自分の力で使える魔法は欲しかろう」

「でも、それ、ほうかいの、もと、です」

「甘くすれば幾らでも甘くなるでありますからね」

「……考えはある」


カルマの声に全員の視線が集中する。

カルマの脳裏にあったのは前世で遊んだゲームの魔法だ。


「要するに、変えようの無い厳然とした魔法体系があればいいんじゃないか?」

「ふむ……まあ50程度なら世界にそれ程負担もかからんか」

「今までは数えてみたら数百万以上の魔法があったでありますからね……」

「こじんでつくってるから、とんでもないことに、なってた、です」

「つまり、その"魔王様公認"の魔法は今までどおりの仕様で使用できるのですねハイ」

「それなら、きっとマナリアの皆も納得するっすよ。まあ、それで駄目なら没落するだけっすが」

「どっちにせよ、もう魔力は自然回復しないし、それぐらいは良いと思うであります」


今までと違い、魔力を世界に循環させる装置は無い。

魔力を回復する手段が限られる以上ある程度なら問題にはなるまい、と言う判断である。

それにしてもコイツ等、

今やってる事は例えるならゲームのNPCが勝手にシステムを弄りだす。

もしくはTRPGでプレイヤーがGMを兼ねつつ、

ゲーム中必要に応じてその場でハウスルールを増減し、プレイ中のシナリオを弄り倒す。

そんなレベルのとんでもない事なのだが、その異常性に気付いているのかいないのか。


「でも、どうやって、しゅうちする、です?」

「余り広めすぎるのも問題になるでありますよね」

「やっぱり、魔法を使えるなら何かが秀でてる人であって欲しいのですよー」


「なら、例の洞窟内部に処置用の魔方陣でも設置するか?」

「ああ、件の勇者ホイホイの洞窟か父よ……結局使う必要がなくなっていたからな」

「はいぶつりよう、よいこと、です」

「決定でありますね。工事を再開するであります」

「と言うかの。忘れられた灯台地下の洞窟……お前らの仕業じゃったのか……」


何にせよ、新しい魔法と使用法を構築すると言う事で一応の決着が付いたようである。

細かい部分を詰めるべく実務者レベルでの言い争いが連日起こる事になるのだが、

まあ、それは別な話だ。



……それでは本題に入ろう。



……。


さて、ここでふとカルマが漏らす事になる台詞がある。

後の世界、そしてそれ以上に笑えない事態を巻き起こすふとした一言。

それは後に"一日技術革新"と呼ばれる大事件を巻き起こす事となるのだが……。

まずは、その呟きをお聞き頂こう。


「ところで。タイムマシンって何時か作れないか?」


その時、歴史が動いた。

それも激震レベルで。


「は?です」

「蒸気機関車がようやく出来るレベルのあたし等に何を期待しているでありますか」

「父、疲れで壊れたのか?無理はするな」


ふと見ると、蟻ん娘が数匹。

チョロチョロとカルマの背後に現れて、

背中によいやさ、と張り付いている。


「にいちゃ!」

「にいちゃであります!」

「登るであります!」


「ほれ父。姉どもも混乱しておるぞ?自重してたもれ」

「あるぇ?です」

「あたし等のようなあたし等じゃないような……」


とは言え、この時点では大して問題ではなかったのだ。

この時点では。

いや、既に色々と手遅れではあったのだが。


「いやな。もしこれから先タイムマシンが出来るなら、未来から来てても良いじゃないか」

「ああ。そうすれば楽が出来るからな。流石は父、考える事が狡い」


「そうだ。未来からタイムマシンを乗り付けさせ、未来の書類をコピーさせて持ってくれば……」

「それを出すだけでOK,でありますか。卵が先かニワトリが先か、な話でありますね」

「でも、こない。つまり、できない?です」


要するに、カルマは楽をする方法を思いついたのだ。

遥か未来にタイムマシンが出来る事があるなら、

未来の書類を持って来い。と、ここで伝えさえすれば、

未来から過去の(つまり現在から数えて少し未来の)書類を持って蟻ん娘が来る筈だと言うのである。

さすれば未来から書類を持ってこさせ続ければ自分自身は今後一切書類を作らないで済むのでは?

と言う閃きだったのだ。


まあ、セコさは否めない小物っぽい発想なのはこの際置いておく。

真に問題なのはここからだったのだ。


「そうだろうな。だが、もし時間移動出来るなら、俺ならこう使う」

「どんな、です?」


「未来から未来の工作機械と技術とかを持ってこさせて、それを元に新しい技術を開発させる」

「だうと、です」

「基礎技術が出来て無いと無意味であります!」


「いや、お前らなら記憶共有できるだろ」

「なんという、もうてん」

「確かにそれなら不可能では無いでありますよね。まあ、来てないでありますが」


とは言え、それは本当に気まぐれで何の根拠も無い与太話。

唯の気晴らしでしかなかったのだ、カルマにとっては。


「で、その未来から持ってきた技術を元に開発した新技術を未来から持ってこさせて以下ループと」

「げどう、ここにきわまる。です」

「でも、タイムマシン来ないし、元々無理でありますね。面白い発想では……」


「きてる、です」

「ようやくこの日が来たであります。記憶共有、開始であります!」

「ともよときはいま、です!です!ですっ!」


ただ。


「なんだと?姉ども。おい。触角震わしてどうしたのだ?まさか……」

「いや待て。ヲイコラ、まさか……」

「おや、陛下の背中に乗っかった彼女達は良く見ると少し違うような、ハイ」

「あちゃー。アニキ。どうやら"やっちまった"みたいっすね……」

「わし、ここに居て良いのかの?本当に良いのかの!?」

「諦めるのですよー。と言うか、むしろ道連れウェルカムなのですよー?あはははははー……」


言われた方は、

本気にしていた。


「なう、ろーでぃんぐ、です。なう、ろーでぃんぐ、です」

「おおおおおお、認識が、広がるであります!知識が!知恵が!にいちゃ分の不足が!」

「ひらめいた!きた、みた、かった!です!」


ただ、それだけの事。


「あたし、参上!と言うか、惨状だよー!」

「アリサ!ついに、このひが、きたです!」

「過去と未来のあたし等との同調完了でありますよ?」

「「「「おおおおおおおおおっ!です!」」」」

「「「「我が世の春、来たであります!」」」」


そして、遂にその時は来た。

……来てしまった。


「いや、それは良いんだが……何故俺にたかる?」

「父が見えん」

「「「「にいちゃにいちゃにいちゃにいちゃ……」」」」

「「「「やっほいやっほいやっほいほい…………!」」」」


触覚をフルフルしていた蟻ん娘達が次々とカルマに殺到する。

それは歓喜。

約束された繁栄の時が来た事と久々にまみえる最愛の兄に対しての。


……約束は何時成された?

それはつい先ほど。

カルマの一言が彼女達の運命を決めた。

それはこの時、定められた運命。


……約束は何時成された?

それは遥かな過去。

永劫に永劫を乗算し続ける程に遥かな過去の、

だが決して擦り切れる事の無い懐かしい記憶。


……約束は何時成された?

それは遠い未来。

原初の時に降り立ち、未来に向かって全ての可能性を網羅し監視し続ける彼女達にとって、

懐かしき兄が生まれるのはずっとずっと先の事……。


「にいちゃ、おひさ、です」

「にいちゃの匂いであります」

「いや、今さっきから一緒に話してただろうが」


「あ、兄ちゃ?ちょっと報告があるんだよー」

「アリサ?悪いが数百匹にたかられててそれどころじゃない。一言でおK」

「「「「やっほい、です」」」」

「「「「にいちゃの匂いがするであります!」」」」


だから。これは再会。

遥か未来から。遥か過去から。

持ち込んだ技術を共有する記憶を下に発展させ、

発展させた技術を過去に持ち込み、

今度はそこを元に更なる発展をさせる。

それは閉じた時間の無限回廊。

発展の無限ループ。

時間と言う概念を半ば失った彼女達が時の流れを実感するのは、

他ならぬカルマが居るか居ないか、その一点。

……なんつって。


まあ、何が言いたいかと言うと。


「全時空&全時代制圧完了だよー」

「OK良く判った、何も判らないのが判った。説明しろ。いやむしろ何も言うな聞きたく無い」


何だか知らないが、

異常な技術発展の話のはずが、

どう言う訳か全時空の支配の話になっていた。

つまりはそういう事だ。


うん。本当に訳が判らない。


「つまりさ。ループで技術が超発展したんだよー」

「最初のタイムマシン完成に大体3000年。そこからは一瞬であります」

「つまり、いっしゅんで、なにもかもかんせい、です」

「それがどうして全時空の支配と言う話になるんだ……異世界への移動なんか指示して無いが?」


ちっちっち、と蟻ん娘が指を振る。

ニマニマニマと笑っている。

……色々と洒落にならない存在になろうが無かろうが、

蟻ん娘は何処まで言っても蟻ん娘だった。

何処まで行ってもお子様っぽさが抜けないのがその証拠。


「時間移動開始したら、平行宇宙から変な奴等が干渉してきたんだよー」

「じつにえらそう、です。いや……だった、です。かこけい、です」

「で、何か色々言ってきたんでありますが、要約すると"うちの流儀に従え"でありました」


とは言え、修羅場は潜る羽目に陥っていたらしい。

しかも、多分カルマが生まれるより以前の時間軸で。


「ふむ。で、どう対処した?下手撃つと存在ごと消しにかかるタイプだろそいつ等」

「だからあたし等の一部を天地開闢の時代に飛ばして有効手段を模索したんだよー」

「で、そしきができるまえの、じだいで、つぶした、です」


やり方は相変わらずだったようだが。


「その後は似たような連中との戦いに備えたのであります!」

「おかーさんたすけると、にいちゃとであえなくなるから、みすてるしかなかった、です。ぐすん」

「でも流石はおかーさんでありました。説明したら即座に納得してくれたであります」

「で、後はただただ見守ってたであります。こそーりと」

「時間を統べる警察とか、色々居たであります。皆、強敵でありました」

「まあ、かてないなら、そのじくうごと、ぶんめいはっせいまえに、けす、ですが」


しかし、これはひどい。

本当に、ひどい。


「あーあー、きこえなーい。きこえなーい」

「父。現実逃避は止せ。遊園地に連れて行くのだ」

「親子揃って現実逃避っすか。そう言えば今日の晩飯は何っすかね?」

「まあ、お気持ちは判りますよハイ。さて、書類仕事に戻りますか……」

「わ、わしを置いていかないでくれ!頼む!何か知らんがここに居るのはまずそうじゃ!」

「あははははははははは、なのですよーーーーーー……」


一言で言えば、黒い。

黒すぎる。

笑えもしない洒落にならない。


「世界の終わりにまで存在したあたし等から全ての可能性についての情報は貰い続けてるよー」

「だから、なにがあっても、そくざにたいしょできる、です」

「これで安心であります!」

「な、何がじゃ!?何が何だか判らんぞ!?」


世界の始まりから終わりまで見張り続けて全ての危険性を未然に潰すようにしているらしい。

ありとあらゆる可能性に対処するには仕方なく、そして必須の話だろう。

誰より早く、誰より最後まで存在し、情報を送り続けていれば全ての情報が手に入り、

あらゆる事に十分過ぎるほどの時間の猶予を持って対処できる。

まあ"蟻ん娘にとって"問題にならないレベルなら話は別なのだろうが。

……兎も角。彼女達は超えてしまった。

なんと言うか、超越してしまったのだ。色々と。


「俺のせいか?俺のせいなのか!?」

「むしろ、にいちゃのおかげ、です」

「まあ、問題ないレベルなら未来の情報はあまり見ないけどねー。面白くないから」

「何が起きるか全部知ってると、つまらないでありますからね」

「ま、やばそうなら、むこうから、れんらく、くるです」

「こっちからも、一応危ないかの確認はするでありますがね」

「日々これ未知に満ちている方が面白いであります」

「あ、にいちゃ?プラズマライフルあげるであります」

「それと。すぺーすころにー、あとでみせる、です」


カルマが天を仰ぎ、

ハイムの目が点になり、

ガルガンさんの頭がオーバーフローを起こす。


「アリサ様。つまり、我が国は安泰……いえ、主殿の未来は安泰なのですね」

「そだよー。国は数十年で滅ぶけどねー。因みにルン姉ちゃはもう一人赤ちゃん産むよー」


「あの、全ての異世界と過去と未来が判るんすよね?一つ聞きたいっす」

「未来のあたし等からの情報では……もう死んでるけど、その内詳しい事は判るそうであります」


「…………そうっすか。じゃあ」

「因みにレオの隠し子は最終的に20人超えるであります」

「そろそろ、じちょうするべき、です」

「上の子は聖俗戦争の頃既に生まれてたんでありますよね?まあ責任取るのは良い事であります」

「公爵家の御曹司が異国でバイト、しかも傭兵紛いとかおかしいと思ったでありますよ……」

「まあ、それは、たぶん、かん、するどいひとなら、まえからかんづいてた、おもうですが」


ホルスは特にこの大きな変化を気にしていないようだ。

まあ、蟻ん娘の本質を誰より熟知しているものの一人であり、

主君の味方である事は確信しているので問題無しと言う所か。


レオは……まあイケメン恐るべしといった所か。

まあ、表に出す予定の無かった裏設定が表に出てしまったというだけなのだが。

ニコリとするだけで女が落ちるのだからさもありなんではある。


「ま、まあ、ともかく一日で技術が発展したという事だよな?うん、良い事だ」

「……父、冷や汗が噴出しておるぞ……」

「そういうはーちゃん、めがとおい、です」

「あ、そうだ。見せたいのがあるんだよー。表に」


ともかく、出来てしまったものは仕方ない。

気を取り直そうとしたカルマにアリサから声がかかる。

一瞬で気の遠くなるような年月を生きたのと同じような状態に陥ってしまった妹に対し、

申し訳なさとやりすぎだボケと言う気持ちで胸が一杯になりながら、

カルマたちは蟻ん娘に導かれるまま表に出た。

そして叫ぶ。


「艦が9!空が1だ!……繰り返す!艦が9!空が1だ!」

「なんか、飛んでるっすね……沢山」

「なんだあれは……」


天を埋め尽くす黒。

真昼なのに青色も白も見えない。

それは何か?


「「「宇宙戦艦であります!」」」

「……帰ってもらえ」


「「「ただいま、です」」」

「え?うちの所有!?」


読んで字の如く宇宙戦艦、と言うか艦隊。

正確に言うと数々の異次元や未来や古代文明。

果ては神魔や創造主、それすら退けるイレギュラーやらと戦い、

常に勝利し続けてきた無敵の大軍勢である。

数についてはスルーするが吉だ。


「「「「「にいちゃ!」」」」」

「「「「「やっほいであります!」」」」」


しかも、乗組員全員が蟻。

正確には蟻ん娘と兵隊蟻と働き蟻。

機密保持の観点から言うと完璧すぎる。

……何度も言うが笑えもしないが。


「……どうしよう。いや、どうする俺」

「いや、いまさらいわれても、こまる、です」

「無しには出来ないでありますよ?」


はっきり言ってカルマもまさかこんな事態になるとは思わなかっただろう。

時間移動が出来るようになるとうっかり冗談も言えなくなると言う良い見本である。

因みにファンタジーの頭にSが付きそうな技術の賜物である。

これだけの規模の時間移動を魔法でやると、それだけで世界の寿命が終わるのだとか。


「こりゃもう、おとといきやがれ!とか言えないな……」

「違うよー。むしろ明後日から来た人が居たら必ず言わないといけないんだよー」


顔見せを終了し虚空に消えた大艦隊。

無性に青い空にカルマ達が放心する中、慰めるように蟻ん娘達が口を開いた。


「あ、でも書類仕事はかなり軽減されるよー」

「何と少なくとも現在の千京倍の効率で処理できるシステムが完成してるであります!」

「このせかいのしょるい、いちねんで、さんまいあれば、いいです」



……希望の光が、差し込む!



「よし!素晴らしいじゃないか」

「やるっすね!」

「ありがたいですね。これでたまには一日の仕事が21時間以下に出来ます」

「ホルスは超人だな……まあいい。とりあえずわらわはもう手伝わなくていいという事だな?」

「そこの姫様。寝言は寝てから言って頂きたいもので、ハイ」


恐るべき技術の進歩。

降って湧いた幸運に流石の彼等も喜びを隠せない。


「あと、ぜんじくう、うらからしはい、してるですから、まほうのどうぐ、そっちでつくる、です」

「つまり、この世界の寿命はあんまり気にしなくていいんだよー」

「それに、まんいちのとき、にげるさきは、かくほずみ、です……このせかいのみんなのぶんは」


「おおおおおおおっ!何か凄い事になってるじゃないか」

「アニキ、やっちまった割にはいい結果っすね!」


ただ、禍福はあざなえる縄の如し。


「で、にいちゃ……書類仕事は今日から一日一時間にしてであります」

「かわりに、くんれん、するです」

「何?」


「だから。全時空の敵と戦えるように"最強"になって貰うんだよー」

「特訓施設やお薬とか、経験積みやすい敵とか……他にも色々全部用意してるであります」

「じゃ、いくです」

「え?ちょ、待……!」


活動区域が一気に広がった事により、どうしても増える恐るべき敵。

多次元時空を普通に行き来できるような怪物対策として、

カルマの魔改造が始まったのであった。

文字通り、全時空最強を目指して。

……当然、本人の意思は関係なく。


「のう姉ども。そこまでする必要、あるのか?あの大艦隊で十分だと思うが」

「だめです」

「あたし等の頭は何処まで行ってもにいちゃであります」

「まんいち、そんざいとか、けされたら……それでおわり、です」


「にいちゃのしあわせは、ちっぽけな、かぞくのしあわせ、です」

「でも、その幸せを守るのに鼻息で星を吹っ飛ばせるレベルの力が必要になったであります」

「あ。とりあえず、はーちゃんとぐーちゃんにも、おなじような、くんれん、うけてもらう、です」

「いや待て。ちょっとどころかかなり待て!」


要するに、勢力がやばい相手に目の付くほどに大きくなってしまった。

だからそれに対処できる力が必要になった、と言う訳だ。

一つの世界で完結していればそう言うレベルの相手には端から無視されていただろうに、

なまじ勢力が増したが為に笑えない事態が発生してしまっていた。

因みにそう言う幾つもの異世界や時間を制する連中は大抵ヤバイ側面を持っている。

負けは消滅を意味する場合が多いので最早勝ち続ける他に無いのだ。

……いや、本当に。


「まあ、最終的な勝利はもう決まってるでありますがね」

「全時空の最初と最後を押さえてるから、どんな情報でも集められるんだよー」

「問題があったら、世界の始まりから長い時間かけて幾らでも対処できるであります」

「もはや、だれも、とめられない、です!」

「だったら、ここを攻められる前に対処してたもれ……」


あ、ハイムが言ってはいけない事を。

その答えは想定内だったのか、蟻ん娘一同ニヤリと笑ってサディスティックにこう言った。

いや……子供の残酷さを前面に押し出して、と言った方が正しいかもしれないが。


「……じゃあ教えるけど。来年に異世界の魔王が攻めてくるよー」

「なにもしないばあい、はーちゃんは、まけて、えんえんとないて、あたしらがかたづけるです」

「惨めな魔王様でありますね……」


「よし!わらわを早速その修行の地に叩き込め!」

「ついでに自分もお付き合いするっす!」

「……物好きじゃのう……無茶苦茶危険そうなのは目に見えておろうに」


そうして、カルマ達は良く判らない練武用の異世界に毎日半日ぐらいづつ篭る事になったのである。

その後、彼等リンカーネイト王家の一部が一切自重しないチート、

と言うかむしろ半全能の存在になるのはその数年後であった。

それまでは地獄、と言うか魔界的な特訓で幾度と無く死に掛けたり本当に死んだり、

本当に別な世界の魔王とか神とかその他諸々とかに出くわして死闘を繰り広げる事となるのだが、

まあ、それは別な話だ。


「じゃ、あちこちから引き抜いてきた文官団の追加をとりあえず百万人、さっさと連れてくるよー」

「あたしらの存在がにいちゃの一言で固定されたでありますからね、もう変えられないであります」

「ふむ。つまり姫様達は陛下があの一言を仰られるのを待っておられたと言う事ですな、ハイ」

「というか、さっきのせりふで、こうなった、です」

「待ってたのは事実だけど、あの一言が無ければ過去のあたし等は無いわけであります」

「だから、心配はしてなかったであります。ただ待ち遠しいだけで」


卵が先かニワトリが先か。

それはもう誰にも判らない。

ただ一つだけ言えること、それは。


「そうだよー。今日までは違う歴史を辿る可能性があったから自重してたんだよー」

「まあ、他の世界に散ったあたし等なんて、昨日まで存在しなかった、とも言えるでありますがね」

「にいちゃのひとことで、あたしらがこうなったです。さすが、おうさまあり、です」

「でも、いちおう、あたしらのそんざい、かくすです」

「存在すら知られて無いなら、誰にも狙われないでありますしね」

「でもそれぶん、にいちゃ、ねらわれる、です」

「ま。全時空最強になれば無問題でありますね!」


とりあえず、酷い。

そうとしか言えない。

話としてのネタも、

事の顛末も。

挙句にカルマの扱いも。

そして。


「あ、それと……人は増えるけど一人頭の書類量は数倍に増えるから覚悟してよー」

「……え?それはどういう意味でしょうかハイ?」

「アリサ様。必要な書類量は大幅に減るという話では?」


くろいあくまがにやりとわらう。

……そう、ありんこは、べーすがくろありなのだ。


まあ、今更それは関係ないが。……無いったら、無いのだ。

彼女達は軍隊蟻の側面を持っていたり、様々な蟻達の良いとこ取りで進化している。

要するにまさに何を今更……な話なのだから。

因みに蟻の生態において、女王蟻は結婚飛行で一生分の子種を得るらしいが、

アリサは結婚飛行をしていない。

だとするとアリシアたちの父親は一体誰なのだろう?

そもそもアリサの父親は誰なんだ?等と言う問題も有るが、それは考えるな。感じるな。

設定はされてるけど聞けば絶対後悔する。

と言うか、当時感想で良い所まで突っ込まれてたのに、今まで誰も気付かなかったのが不思議だ。

……とりあえず、話を元に戻す。


「うんとね?全時空を裏からこっそり支配してるのは話したでありますよね?」

「はい。……あぁ、そういう事ですか」

「あの、姫様達?全時空って……どのくらいあるのですか?ハイ」


……嫌な風が彼等の間を通り抜ける。

ルイスが自分の失言に気づいた時には既に遅く、

蟻ん娘は一応の答えを口に出していた。

……知らぬが仏なその事実を。


「さあ?」

「数え切れないであります」

「というか、あらわすかずのけた、ない、です」

「因みにあたし等の数も既に自分達でも数え切れない数であります」

「アハハハハハハハハハ……もう笑うしかないですねハイ」


つまりだ。

この世界の書類を三枚に減らそうが、

無限に広がる異世界全てとその全ての可能性を網羅したら当然そんな事になるという訳だ。

宇宙戦艦とか、明らかに別惑星とか余計な所まで手を出してるっぽいし。

そりゃあ書類量も増えるというものだろう。


何にせよ、技術革新は一日にして成ったが、

肝心の仕事量減少には繋がらなかった訳だ。

しかも唯でさえ仕事量が増えたのに、異世界からの敵という新しい問題を抱えてしまった。

折角この世界では最早問題になるような敵がいなくなったというのに。


「ま、世の中上手く行くばかりじゃないって事だよー」

「でも、本当に拙くなったら手伝うでありますよ。調べれば何でも判るであります」

「とりあえず、あたしらだいしょうり、です!」


何はともあれ、こうして世界は。

いや。それ以上のものがこの異形のクリーチャーの掌で弄ばれる事となったのである。

だが、それを知る物は殆ど居ない。

そして、知ったところでどうなる物でもなくなってしまったのもまた事実なのであった。

どっとはらい。


「では、本当に困っているので早速お手伝い願えますねアリサ様?」

「つきましては来年の収穫量と天候についてお教え願いたく、ハイ」

「駄目だよー。世界は未知の方が面白いんだよー」

「普通には手伝うからそれで我慢であります」

「みらいは、あまりしらないほうが、いいです!」


「ではこれで。昨日ルーンハイムさん……王妃様に作って頂いたクッキーです。ハイ」

「夕食には子羊肉を一皿追加しましょう。主殿もきっと許していただける筈です」


「まかせるです!」

「全時空から暇なあたし等呼び寄せるであります!後、クッキーは大盛り宜しくであります!」

「ようし!未来のあたし等から情報貰うよー!」


その割りに扱い易過ぎる気もするが、それはきっと気のせいだと思われる。

何せ億年単位かそれ以上の人生経験を持ったのだし、それがクッキーで買収される訳が無い。

多分ホルスやルイスの策に乗ってあげているのだ。彼女達なりの優しさなのだ。

……多分。


……。


教訓。

不用意な言動は慎もう。

余計な苦労を背負い込む原因になるかも知れないのだから。

ただし、普通は愚痴が世界を書き換える直接の原因になる事はまず無いので、

そこは勘違いしないように。



幻想立志転生伝外伝

技術革新は一日にして成る 終劇


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.035140037536621