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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 外伝 ショートケーキ狂想曲
Name: BA-2◆45d91e7d ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/14 15:06
幻想立志転生伝外伝


***ショートケーキ狂想曲***

~蟻ん娘達のお菓子事情~


***注意***

本作は三人称の実験を兼ねた幻想立志転生伝の外伝になります。

外伝は基本的に不定期にして"のほほん"で行こうと考えていますが、

本編以上に読む人を選ぶ作風となる可能性が大です。

ともかくチート・パワーインフレ等に耐性を持たない方や

ご都合主義が許せない方。

等、本作品にマイナスの評価を覚えている方は読まずに戻る事を推奨いたします。

なお、もし読み進めて不快感を覚えたとしても当方は一切の責任を負いかねます。


それを容認できる方は肩の力を抜いて、今暫しこの世界にお付き合い下されば幸いです。

それでは、どうぞ。


……。



リンカーネイト王国。数年前に突如として荒野に現れ、

いつの間にか大陸のほぼ全土を席巻していた新興勢力である。

王家の武威は止まるところを知らず、

私物の商会により財力も豊富。

配下に彼の地で随一の勢力を誇る宗教団体と数等の竜。

更には伝説の魔王をも有すると言う。

武力、権力、財力。

他者から見ればただただ羨むばかりの彼の国。

当然諸侯は危機感を募らせる。


そして北の帝国が倒れてから暫く後。

彼の国が魔道の力を独占したと噂が流れるに至り、

遂に世界的な連合軍が集結する事になった。


……のだが、何故かその日から不審火が続出。

翌日には世界中で宝物庫が空になると言う謎の事件が勃発。

更に疫病が突然流行し、反乱や暴動の類が突然活発化した。

最後に駄目押しとばかりに相次ぐ権力者の暗殺により、

結局集結すら出来ずに連合軍は瓦解したのである。


これにより、リンカーネイトという国に関し、

よく判らないけど兎に角逆らってはならないと言う共通の認識で世界が一つになった。

触らぬ神に祟り無しと言う奴である。


だが、人々は知らない。

そもそもあの国を牛耳っているのが人では無いという事実に。

王が竜である?いや、カルマは人だ。

肉体的にはさておき人であろうとする限り彼は人の範疇だ、と思われる。

問題なのは……。


「兄ちゃ。連合軍解散したよー」

「毒流すの、そろそろ止めるで有りますね」

「でも、わるいうわさ、ながしたあと、けせない、です。てきさん、ざんねんしょう、です」


この無邪気な顔して黒い事をのたまう蟻ん娘達である。

一見すると人間のように見えるだろう。

だが違う。

確かに人類にとってはビフィズス菌並みに有益な存在だが……違うのだ。

彼女達は根本的に人とは違う倫理観で動く、恐るべきクリーチャーなのである。


彼女達は蟻をベースに人とスズメバチの因子を併せ持つ。


ねずみ算の繁殖力を背景にした圧倒的な数の暴力。

生態に起因する女王への絶対的な忠誠。

記憶を共有するが為の想像を絶する成長力と万能性。

更に蟻であるが為に絶大な腕力を持ち、

人型であるが故に大きい脳は、高い知力を彼女達に与えた。

それらが合わさり、そしてカルマと言う進むべき道を指し示す存在が現れたその時、

彼女達は一種類のクリーチャー、と言う範疇を超えた何者かになったのである。


「とりあえず、あれだけ痛めつければもう攻めて来れないでありますね」

「おつ、です!」

「兄ちゃ?あたし頑張ったよー。褒めれ?撫でれ?」


ただし必要以上に警戒する必要は無い。

彼女達は知性はともかく性格は見た目どおりの幼子。

敵対せねば可愛いものである。


彼女達は美しい衣も輝く宝石もそれほど必要とはしない。

あれば綺麗だな、程度のもの。

欲望は人と比べ物にならないほど、薄いのだ。


「それにしても、お仕事頑張るとお腹空くよねー」

「ごはん、です!」

「でも、晩御飯にはまだ早いで有ります。おやつもさっき食べたでありますし……」



ただし唯一、食欲を除いて。



「ふふふふふ、です」

「どうしたでありますかアリシア。不気味でありますよ?」


「じつは、びすけっと、かくほしてる、です」

「おお、それは凄いのであります」


そう、この物語は。


「……ちょっと待ってよー。アリシアちゃん……あれ見てよー」

「ハニークイン?」

「ああああああっ!あれ、アリシアちゃんのビスケットであります!」


そんな子供達の巻き起こした、


「ふぇ?ハニークインちゃんは倉庫から失敬してきただけでありますよ?」

「あのそうこ、あたしが、つくった。あたしらの、おかしべや、です!」

「そうであります。メイン倉庫から失敬してきたお菓子の隠し場所でありますよ!」

「あれ?アリシア、肩に誰かの手が乗ってるよー……って誰?」



「……全然隠せてない」



「ね、ねえちゃーーーーーーーっ!?」

「後ろからいきなり声かけないで欲しいであります!心臓に悪いであります!」

「って、ま、待つのですよー?その手は何?だ、駄目ですよー!?ゲンコツは痛いのですよー?」

「……あ、あたし兄ちゃに用事があったよー!?ルン姉ちゃ、じゃあねー!?」

「にげた、です」

「アリサ、助けて欲しいでありますよ……」


本人達からすると"ちょっとした"レベルでしか無い、

そんな非常識極まりない……馬鹿騒ぎの話である。


……。


堅固な城砦の一室、と呼ぶには余りに広い空間。その最奥部。

赤い竜の頭部に、手のひらサイズの子竜を頭に乗せた男が鎮座している。

巨竜の頭上に男。男の頭上に手乗りドラゴン。

一見異様だが、このドラゴントーテムこそが謁見の間における彼等の基本隊列。


巨大な竜の瞳からは知性が抜け落ちていたが、

子竜のほうは目をキラキラとさせながら周囲をきょろきょろと見回している。

巨大な竜の名はファイブレス。

最早、相棒の魔力によって編まれる野獣に過ぎぬ……かつての管理者の成れの果て。


そしてその頭部にて、眼下を眺めてため息をつくその男こそ……戦竜カルマ。

もしくはリンカーネイトの竜王、カール=M=ニーチャの名を持つ稀代の英雄なのである。

まあチラリと横を見て、大量の書類を持ち、早く来いと視線で語るロリコンに溜息をつく。

そんな姿を傍から見るととてもそうには見えないのだが。


「で、ルン。その後どうした?」

「……お仕置きした」

「て言うかさ。全員そこで転がってるよねルンちゃん。こぶが痛そうなんだけど」

「いたい、です」「テライタス、であります」「うなー」

「しかし、物資の勝手な持ち出しは許されません。第一王妃様の処置は正しいかと」


ここはリンカーネイト王国の王都アクアリウム。

その謁見の間である。

自らの魔力で再現したかつての相棒に乗り、生まれ変わった相棒を頭の上であやしつつ、

彼は妻からの報告を聞いていた。

第一から第三までの三人の妻。しかもそれぞれ反則気味の美人さん。

王様でなければ後ろから刺されても文句の言えない状況だ。

そして床には這い蹲り頭上のこぶを押さえてコロコロ転がりながらうめく蟻ん娘の群れ。

その数、数十匹。


異様だ。


何も知らない者が見たら正気を色んな意味で疑いそうな光景である。

だが当人達は全く意に介するそぶりも無い所を見ると、意外と日常茶飯事なのかも知れない。

ともかく妙に弛緩した空気の中で、呆れかえりながらも戦竜の異名を持つ王が口を開く。


「全く。お前ら世界一の金持ちなんだからお菓子ぐらい買って食えよ……」

「ちがうです。にいちゃ、おこづかい、ぜんぜんたりない、です」

「お小遣いはあたしら全員毎月決まった分だけ。で、ほぼ全部お菓子に消えてるであります」

「流石にロードたちにだけ辛い思いをさせる訳には行かないよー。額はあたしも一緒だよー」


溜息をつきながらカルマが声をかけると、蟻ん娘達は口々に騒ぎ立てる。

どうやら彼女達の個人資産はお小遣い制、かつ額は常識の範囲内であるらしい。

食事は十分に食べているが、甘いものは別腹という世の女性の理はこの子達にも当てはまるようだ。

そしてお菓子を見ると食べたくなるのは半ば本能らしい。

今も手乗りサイズに生まれ変わったファイブレス……通称ファイツーが口に運んでいるクッキーを、

よだれを垂らしながらジッと見つめている蟻ん娘達。

指を咥えたりしているが、視線は一点から決して離れない。

カルマがそれに気付いて、もう一回深くため息をついた。

正直、そんな下らない事で呼び出されたくは無かったのだ。

書類は今もその厚さを増しているのだから。


ともあれ、腐ってばかりも居られない。

カルマが横を見ると、横の文官団の視線がどんどん冷たくなっている事もあり、

何にせよ、早く話に決着をつけねばならなかったのだ。


「まあ、仕方ないか。お前ら用のお菓子保管庫を増設するしか無いな」

「……あるの?」

「うん。ルンちゃんは知らないかもしれないけど……」

「商会初期から自分達用の食料庫は確保していましたからね。その延長線上です」


ルンは驚き、アルシェが苦笑する。

なにせ后の内で第一王妃だけが、彼等の力の根源たる商会の運営に関っていないのだから。

無論、相応の理由はあったのだが既にその理由は消えている。

現在は半ば今までの惰性で秘密にしているのだが、

正直な所蟻ん娘達も可愛がってくれるルンに正体を知られ、今更嫌われるのは嫌なのだ。

さて、そんな訳でルンは知らなかったが、

蟻であるアリサ達にとって地下はホームグラウンド。

当然食欲旺盛な彼女達は地下洞窟内に自分達の食糧を大量に蓄えている。

そしてその中にはお菓子専用の倉庫も少なく無い数が存在していた。

まあ、それでも内訳を見てみると量を重視しているのか安物が多い。

故に散財としては一般的な王侯諸侯の贅沢に比べれば可愛いものではあるのだが……。


「何にせよ、ハニークイン。貴方も人の物を勝手に食べないよう気をつけてください」

「……判ったのですよー」


要するにそこのお菓子は大量にあるように見えても不足気味で、しかも個人資産だと言う事。

ハピが冷静に解説を始め、ハニークインが腫れ上がった頭に薬を塗りながら答えるのを聞くと、

カルマがもう一度口を開いた。


「とりあえずルン。この腹ペコ集団に何か食わしてやれ……」

「……ん、判った。じゃあ、ケーキを焼く」


「「「「ねえちゃのケーキ!」」」」


弾かれるように顔を上げる蟻ん娘達。

表情が突然希望に満ち満ちたものに変わっている。


この時、作る事になったのがルンでなければ。

もしくは焼くのがケーキでなければ……。

後にあんな大騒ぎにはならなかったのかもしれない。


まあ、何にせよこの後の騒動はこの時に定まったのであった。

後の世には残らない、だが確実に歴史を動かしてしまったその事件、

歴史の裏に詳しい事情通はこの一連の騒動をこう呼ぶ。


「ショートケーキ狂想曲」と。


……。


「……どうしよう」

「は、母、これは一体どう言う事だ……」


さて数刻後の食堂。

今ここはカオスの極みにあった。

困惑するルン母子の震える声が、

この場の混沌さ具合を如実に示している。


「いちごーーーーーー!かえして、です!」

「ぱく、です……けーき、うまー」

「そこのあたし!あたしのケーキ盗るなであります!」

「そこ、どいて、です。おいしいの、みんなわかる、です」

「うまーな感覚とお腹が膨れる感触の両方が無ければケーキ足りえないで有ります!」

「待て!あたしの取り分まで食うべからず、だよー!」

「アリサ、さっき、ひとさら、たべてたはず、です」

「幾ら女王蟻でも全部食べるのは無しでありますよ……命令なら従うでありますけど」

「そう、です!あたしら、きちんとひとさら、アリサのぶん、さきに、きりわけた、です!」

「せめて……おさら、なめる、です!」

「あああああっ!お皿に付いたクリームはあたしのでありますよーーーーっ!」

「だが、ことわる、です!」

「ならばナイフに付いた分はあたしが貰うで……あれ?」

「もう、なめた、です」

「アリシア……舌から血が出てるでありますよ?」


そこはまさに地獄であった。

焼きあがったケーキ一つを切り分けて、出来上がったのは僅か8皿。

……いや、アリサの分は別格として7皿のケーキを取り合う蟻ん娘、

出来上がりと同時に部屋に飛び込んでくる飛び入りが増えに増えて、

集まりに集まったその数、何と666匹!

部屋を埋め尽くさんばかりのちびっ子の群れである。

もう乗っかるわ、押し合うわ潰れるわで見られたものではない。

ケーキ本体に至っては皿を含めて一体何処にあるのか判らないほどだ。


「けーき!」

「ズルイでありますよ!」

「おやつ時間外、それもねえちゃのケーキ?えこひいき反対であります!」

「ひとくち!」


……さらに4匹増えた。

屋根裏から二匹と床下から一匹、そしてドアからも一匹が突入している。

そして次々と後続が……。中にはトレイディア駐在班のアリシアまでいたりする。

わざわざケーキの為にすっ飛んできたのだ。そして今も次々とこの部屋に向かって来ている。

まあともかく、出来れば自分の口に入れたい、と次々に蟻ん娘が集合していったのである。

げに恐るべきは甘いものへの執念……。

収拾が付かないとはまさにこの事であった。


「……なんで?」

「いつもはこんな事は無いのだがな……母、心当たりは有るか?」


ルンが首をかしげる。

そう、これが普通の時なら問題にはならなかった。

蟻ん娘は交替で食事を取るし、日々の献立はおやつ含めて全員同じものだ。

いつかは同じものを食えるから普段は不公平感など無い。


だが、今回はイレギュラー。

食った者は食っただけ得をするのだ。

しかも相手はケーキ。甘いお菓子の代名詞!


数年前にカルマとアリサが記憶を頼りに再現したこのお菓子は、

既に国内はおろか近隣大陸でさえ市民権を得て普通に存在している。

既にポピュラーなお菓子の一つと言ってもいいだろう。

だが、やはりルンの作るものは別格らしい。

せめて一口と本能で集結していく蟻ん娘達を誰が責められよう。


強いて言うなら仕事を押し付けられたルイス率いる文官団辺りか。

唯でさえ激務の中、仕事が増えまくった彼等は怒っても良いと思われた。

……だが、奴等はロリコンなので特に問題は起きていないが。


因みに学校からの最初の卒業生達はさっさと新設された高等学校に進学した。

故にカルマも含めた彼等の仕事が減りだすのはそれから七年後であった事を追記しておく。


まあともかく、蟻ん娘達は次々と集まっていく。

何故なら先程も言ったがそれはルンの作ったものであるからだ。

ルンは洋館の一件の後、料理を覚え趣味とするようになったのだが、

今ではプロ顔負け、と言うか下手したら大陸一と言う腕前を誇る。

……病んだ人間の歪んだ執着心が奇跡の腕前を生んだのだがそれはこの際関係ない。


「どいて、です!」

「ぺろれろれろれろ……であります!」

「あー、もう、ない、です……」

「折角遠くから来たのに酷いであります!うえーーーん!」


ともかく普段は人数が多すぎるのでルンも蟻ん娘のお菓子までは作らない。

例外はアリサがハイム達のおやつに付き合う時ぐらいか。

ロード達がルンのお菓子を口に出来るのはその際に運良くアリサのお供をしている時か、

ハイム達当人からのおこぼれに預かる時くらいだ。

よって目の前にあるケーキは、蟻ん娘達にとって宝の山に等しいのである。


「……皆、記憶を共有するって言うから一匹食べれば全員が食べるのと同じだと思ってた」

「それはそれ、これはこれ、だろうな……」


そんな訳で現在この食堂では普通ではありえない、

クイーンアント一族による同士討ち。

と言う、マニアが生唾飲み込みそうなレア物のシチュエーションが繰り広げられているのだ。

まあ種族の存在自体が隠されている彼女達に、マニアが居ればの話だが。


「すばああああああっ!この欠片はあたしのでありまあああぁぁぁぁす!」

「やだ!とらないで、です!」

「たべさせて、です……」

「せめて一口であります!」

「こんしんの、いちげきぃっ!です!」

「甘いであります!」

「すこーーーーーっぷ!」


……聞き捨て不可能な叫びが室内に響き渡る。

流石にルン親子の顔から血の気が引いた。


「ち、ちょっとまてえええええええっ!いや、本当に待ってたもれ!?」

「……スコップは、やり過ぎ」


ケーキの取り合いはエスカレートし、遂に喧嘩を経由して戦争になりつつあった。

爪が舞い、牙をむき出しに。

挙句に幾多もの血を吸ってきたスコップが唸りを……。


「これで怪我人が出たら……もう、二度と作ってあげない」

「「「「「「え?」」」」」」


あげようとしたその瞬間、

ルンの言葉に反応した全蟻ん娘、緊急停止。

そして、一瞬の間をおいて再起動。


「「「「まって、です!」」」」

「「「「後生であります!」」」」

「謝るから前言撤回をお願いするよルン姉ちゃー!?」


スコップが危うく一匹の脳天に突き刺さりかけた時、遂にルンが動いたのだ。

ルンの声が小さく発せられた瞬間、周囲の時が止まったかのように一瞬で場が静まりかえる。

そして、謝罪の言葉がその場に飛び交った。

文字通り"蟻ん娘総員土下座祭り"の開催である。

影の権力者の鶴の一声により、空しいと言うか馬鹿らしい争いは一気に収束したのだ。

ただし、蟻ん娘は全員意気消沈しているが……。


「……もう、喧嘩はしない?」

「「「「しない!」」」」


しかしそこはルン。

苦労人でもあるためか、気落ちした人間がどうして欲しいかは心得ている。

だから蟻ん娘達に出来るだけ優しく声をかけた。

何故なら、自分が落ち込んでいる時はこうして欲しいから。

主にカルマとか先生とか旦那様とかに。


「本当に?」

「本当だよー、あたしの名にかけて誓うよー、だからお菓子無しは勘弁してー」

「「「「ちかう、です。あうあう」」」」

「「「「言う事聞くであります!」」」」


ルンと言う人間は、実は完全に運から見放されている。

だがそのハンデを乗り越えて(本人的には)幸せを掴み、

一国の国母にまでなったのは伊達ではないのだ。

蟻ん娘全員が部屋中でしょげかえって泣いているのを見て、流石に思う所があったのだろう。

あえて、くすっと微笑み言葉を続ける。


「……じゃあ、今度全員分作ってあげる。おっきいのを」

「「「「「「お、おおおおおおおおおおっ!?」」」」」


この時、ルンの脳裏にはウエディングケーキも真っ青な風呂桶サイズのケーキが浮かんでいた。

少し手間はかかるがそこはそれ。

絶対にアリシアちゃん達との約束は守る。

まあ、全員分ともなるとそれでは足りないから、

何回かに分けて全員に行き渡るまで作ってあげねばならない。

と、まあ大体そんな風に思っていたのだ。


「けーき!」

「おっきいの……」

「ドキドキであります」

「ふわぁ……」


だが、目の前に居るクリーチャーおよそ700匹の脳裏には、そうは写らない。

ほんの僅かな情報が脳内を駆け巡り、不足する情報は望む方向に肥大化していく。

憶測が憶測を呼び、共有する意識は一つの偶像を作り上げていった。

イメージは山。色は白。

天より高く、雲を突き抜ける風景を幻視する。


……そして、形は定まった。


触角がピクピクと痙攣し、ゴゴゴゴゴ……と謎の擬音を背負う。

目の奥がキュピーンと光り輝き、心象風景の背景が炎に染まる。

そして……突然何かに弾かれたかのように騒ぎ出した!


「ねえちゃ!じゃあ、ざいりょう、よういする、です!」

「用意できたら作って欲しいであります。約束であります!」

「……よし、じゃあ皆……材料集めるよー!急ぐよー!」

「すばああああああっ!です」

「ガルガルガルガルルルルル!であります!」


まるで波が引くかのように、一斉に部屋から飛び出していく蟻ん娘たち。

嵐のように去って行った後には半壊した部屋。

取り残されるはルンとハイムの親子だけであった。

まるで強盗にでもあったかのような惨状の中、ハイムが呆然としながら言う。


「…………食い意地張りすぎだ。クイーンどもめ」

「……アリシアちゃん達はケーキが大好き。覚えた」


結論から言えば、その二人の言葉は正しかった。

だが、双方の認識の隔たりが予想以上だったと言う事実。

それをこの親子が知るのは、それから三日後の事になる。


……。


そして運命の日。

幸か不幸か実母が原因不明の仕事量激増で妙に忙しくなったらしく、

古代エジプト女王の名をもじって名付けられたハピの娘をあやしていたルンの元に、

アリシアが一匹、目を血走らせてやって来たのである。


「ねえちゃ!」

「……静かに。くーちゃん寝てる。絨毯に包まって幸せそうに寝てる」

「こら。末妹が起きるではないか!赤ん坊なのだぞ?泣き出したらどうするつもりだ?」


幸い目を細めているので周りにその目の血走りぶりが伝わる事は無い。

だがそれでも迸る異様な雰囲気に回りは全員ドン引きしていた。

だが、蟻ん娘達としてはそんな事どうだって良かったのだ。


「ようい、できた、です!」

「ケーキ作ってであります!」

「おむかえ、です!」

「連れてくであります!」


すばぁー!と言う叫びと共にルンを数匹で抱き上げ、

お神輿状態に担ぎ上げる。

……ついでにハピの娘を横にいたメイドコンビにパスして……、


「……?」

「ちょ、母を何処に連れて行くのだお前ら!?」


ルンを乗せ、走り出す蟻ん娘。

その移動する姿はまさに神輿だ。

そして蟻ん娘達の発する熱気は殆ど祭りの熱狂だと言っても過言ではなかった。


「いまのあたしら、だれにもとめられない、です!」

「どけどけどけどけ!で、あります!」


後ろから必死に飛んで追い縋るまおー様を尻目に、

蟻ん娘達は城と外縁部を繋ぐ糞長い吊り橋を突っ切り、

城壁を飛び降り、

そして、荒野を疾走する。


そう、全てはケーキの為に!


盗賊団も不運な動植物も、全てを踏み潰し飲み込みながらちびっ子神輿は往く。

それはまさに狂気と言っても過言ではなかった。

ただし、本人が狂気そのものであるルンにとっては別に気にする程の物でもなかったようだが。


「……テント?」

「で、でかいな」


「ざいりょう、あのなか、です!」

「おっきいの、つくる、です!」

「いっぱい、いっぱい用意したであります!」

「ルンねえちゃ、指示出して欲しいであります!」


突き進む蟻ん娘の頭上に載せられたままルンは進んでいく。

驚く間も無く景色だけが、瞬く間に変わっていった。

……そしてその視界に見たことも無いものが現れる。


荒野のど真ん中に、突然テントが現れたのだ。


とは言っても、ただのテントではない。

グランシェイク(城が背中に乗っているドラゴン)が数頭入る事が出来そうな巨大なものだ。

はっきり言って並みの城より大きい。

何枚もの分厚い布を無理やり縫い合わせて作られ数本の柱で支えられたそれは、

まさに文字通りの突貫工事で作られたらしかった。


「さあ、はいって、です!」

「ねえちゃ、うまーなケーキをお願いであります!」


「いや待て姉ども。この山のような食料の山は何だ!?」

「……凄い量」


そして、その中には大量の食料。と言うかケーキの材料の山。

あろう事か、もし建材なら巨大要塞でも建てろ言わんばかりに用意してあるではないか。

もしこれでケーキを作れば、

それはもう文字通り、"山"になってしまうであろう事は想像に難くなかった。


「おっきな、けーき、です!」

「山のようにおっきなケーキ!中に潜って食べるであります!」


……そう。

蟻ん娘達の脳裏に浮かんだ"おっきなケーキ"は文字通り山のように大きかった。

そして、彼女達にはそれを実現できるだけの財力もあった。

よって……本当に準備してしまったのである。

その山のようなケーキの材料を、全部。

それもたった数日で。


お馬鹿である。

それも行動力のあるお馬鹿さんであった。

ただし……本気と書いてマジと読む……でもあったが。


「母!どうするのだ!?人の手に負える量では無いぞ!?」


まおーが慌てふためいて叫ぶ。

蟻ん娘の期待のオーラが高まる。

異様な雰囲気が周囲を包み込んでいく。

……そして、ルンは決断した。


「……作るしかない。でも、皆も手伝って」

「「「「はいです!」」」」

「「「「腕とお腹が鳴るであります!」」」」


全身から飢えた猛獣的オーラを発する蟻ん娘達。

今更否応などある訳が、そして文句があっても言える訳が無かった。

こうして、文字通り山のように大きなケーキの製作が決定したのである。


……。


ケーキ作りは当然の如く難航を極めた。

お菓子作りのはずなのにまずは建築現場の如く足場の製作から始まり、

何故か設計図や進捗の管理シート、そして個別の作業手順書が書かれる始末。

実作業の方もスポンジの間に挟むフルーツの準備が蟻ん娘数十匹による流れ作業。

クリームを泡立てるボウルも二階建ての家屋に匹敵する特注品だ。

巨大なオールのようなものを持ってボウルの周囲を走り回る事でクリームを泡立てて行く。

……因みに流石にそれ以上巨大では蟻ん娘達でも泡立てられないらしい。

はっきり言えば洒落になっていない。


ともかく当然だがこのサイズともなると製作まで時間もかかる。

腐らせては本末転倒のためルンは陣頭指揮に専念。

仕上げの時の為に体力を温存する事にして、自らは蟻ん娘達にきめ細かい指示を出し続けた。


果物の皮が剥かれ、細かく切り刻まれていく。

その間に同時進行でスポンジやクリームが次々と量産されていった。

この日の為に作られた窯では大量のスポンジケーキが焼かれていく。

勿論クリームの方も凄まじい勢いで仕上がっていったのだ。


「つまみぐい、です」

「クリーム、うまー、であります」

「……あ、そこ!食べちゃ駄目だよー!?」

「つまみぐいは、つまみだす、です!」


ただし、そこは蟻であり子供達でもある。

どうしてもつまみ食いが出るのはお約束。

手を全く付けない個体はむしろ少数派だ。

よって、不公平を是正すべくルンが動く事となる。


「たべちゃだめ、です。たべちゃ、だめ……たべちゃ……」

「待って、少し味見する」


ルンは現場監督をしながら周囲を見渡す。

すると一匹だけ必死につまみ食いを我慢しながらクリームを泡立て続けるアリシアを見つけた。

糸目から涙を、口元からよだれを流し続けながら、必死に己を律し続けている。


因みにその横では同じように巨大ボウルで、

……但し飛び散ったクリームをペロペロ舐めながらかき混ぜる他の蟻ん娘達が居る。

その個体はその姿を心底羨ましそうにしながらも、自らが手を付ける事は無かった。

そんな真面目なアリシアの姿を認めたルンはその子の前に歩いて行く。

そして、おもむろに指先でクリームを掬った。


「……ん、いい味。アリシアちゃんも少し味見する?」

「ふぇ!?……は、は、はい、です!」


ルンの指先に付いたクリームを、そのアリシアは心底"うまー"そうに舐め取る。

それはもう、満面の笑みで。

本当にほっぺたが落ちそうな感じだ。

……傍から見ていると、それはとてもとても羨ましくなるような光景だった。


「あー、そっちのアリシアちゃんもつまみ食いであります!」

「ふこうへい、です!」

「いや、母の許可取ったんだからいいのではないか……?」

「そうだよー。勝手に食べちゃ駄目だよー!あたしも我慢してるのにさー」

「アリサ。よだれ拭くであります」

「あたしも、なめたい、です」

「そこのアリス!いちばんさいしょ、つまみぐいしたの……しってる、です!」

「だから、これ以上は駄目でありますよ、そこのあたし!」

「あ、あそこのあたしも……口元にクリームがベトベトしてるであります」

「かたるにおちた、です。みんなつまみぐい、です」

「だからルン姉ちゃは真面目な子にはあえて舐めさせたんだよー。感謝だよー」


さて……そんな大騒ぎの中でも準備は着々と進んでいく。

時折生クリームの出来をルンがチェックしOKの出たものから運び出され、

まるでサイコロのような形に焼きあがったスポンジ部分を、クリームで繋いで組み上げていく。

それは料理と言うよりはむしろ土木工事。

……と言うかむしろ左官屋の領域である。


「れんがづみ、です。っと」

「流石に一度は作れないでありますからね」

「……その段はもっと厚くクリームを塗って。果物も載せるから」

「あい、まむ。です」

「がんばれー!がんばれー!母ーっ、クイーンの分身どもー!」

「原因であるハニークインちゃんには食べる権利が無いのですよー?でも、応援はするのですよー」


ルンが指示を出し、蟻ん娘達が文字通り指示の通りに動く。

全てはウマーなおやつの為。

後ろではハイムとハニークインが一生懸命応援している。……役立つかは別問題だが。

そして。


「いちご、どばーーーーっ!です!」

「……そう。そんなに大きなイチゴは無いから山盛りにして形だけでも整える」


「で、こ、れーーーーしょーーーーーーんっ!クリームドバドバドバでありまーーす!」

「……そこはそれぐらい。後は外延部をぐるっと回って」

「あい、まむ。です」


ついに。


「……でかい。な」

「はーちゃんにも一切れあげるでありますよ」

「大丈夫。はーちゃん達の分は別にある」

「でけた、です」

「早く食べたいよー……よだれドバドバドバだよーーーーーっ!」


文字通り山のようなケーキが完成した。

まさに馬鹿らしいほどの巨大なお菓子である。

と言うか……むしろこんなの作る奴は頭がおかしい。とも言える。

実際頭はおかしいのだが。


まあそれはさておき、遂に仕上げの時である。

最後に軽くデコレーション用のチョコチップなどが大量にばら撒かれ、

この時の為に拉致されていたらしいライオネルとレオが、

ライオネル愛用のものより遥かに長い特注の長々剣で出来上がりを八等分した。


そう、超巨大ショートケーキは遂にその姿を彼女達の前に現したのである。


「ありえないっすね親父……」

「ありえねぇよなレオ……」


そして、獅子の親子がその山を見上げて呆然とする中、

運悪く巻き込まれたり興味本位で覗いてしまったせいで、

この化け物の製作を手伝う羽目になっていたらしい哀れな守護隊の連中の手により、

巨大ケーキはテントとは名ばかりの巨大空間内で分散するように運ばれていく。

そして蟻ん娘達は、それぞれ思い思いのケーキの山の下に走り、


……何故か守護隊の手により、次々と檻の中に入れられていった。


「……なにゆえ、です?」

「狭いであります!」

「けーきーっ!」

「がるがるがるるるるるるっ!です!です!」

「出せであります!」


無論、抜け駆け防止のためである。

文字通り"こんな事もあろうかと"用意されていた頑丈極まりない猛獣用の檻に、

ルンの指示の元、守護隊に捕らえられた蟻ん娘達が次々と放り込まれていく。

巻き込まれた守護隊の精兵達は微妙な顔をしながらも無言で黙々と作業を続けていく。


「おふぅ……!?」

「はふぅ……つかまった、です」

「けーき!」

「出すであります!」


因みに今までで、許容以上に派手なつまみ食いをしでかしたお馬鹿さん達は、

今日のおやつを食べる権利を剥奪の上、檻の番をする羽目に陥っている。

具体的に言えばクリームの中に飛び込んで舐めまくった個体などがそれに当たる。

まあ、何にせよ今も泣きながら、とりあえず檻の番は真面目にやっていた。

もしここでまた馬鹿をやったら今度は多分晩御飯抜きのため、彼女達も必死である。


「あたしは食べれないであります!せめて皆も食えない辛さを少しは味わうであります!」

「おーぼー、です!」

「目の前にケーキあるのに食べれないであります……」

「おやつのじかん、まだ……です?」


「……あと、100数えたら」

「「「「あと、100!?」」」」


当然お預け状態の蟻ん娘達は暴れ、騒ぎ立てる。

だが、何処かのアリシアの問いにルンが何気なく答えたその時、

突然周囲が静まり返る。


しん……と無音が音のように聞こえた。

それは無言の圧力。

本来は全員が余裕で入れる広さのある檻なのだが、

解放へのカウントダウンが始まった途端、凄まじい勢いでその形がひしゃげていく。

檻の前半分に押しくらまんじゅう状態で詰まっている蟻ん娘達。

あるものは檻の隙間に挟まって潰され、にらめっこ状態。

またあるものは檻の後方でクラウチングスタートの体勢をとっていた。

中には完全に別個体の大群に押し潰され外からは全く姿が確認できない者まで居る。


「はちじゅうはち……はちじゅうなな……はちじゅうろく……」


まさにカオス。だがその風格はまさに歴戦の猛者。

どうもそれを発揮する場を間違っているような気もするが、本人達にとっては一大事であった。

フォークを片手に闘志を漲らせる。

こればかりは例え同族でも容易に譲れなかったのである。

何故なら山のようなケーキは既に目の前にあるのだから。


「……全員お腹一杯食べれる分はあるのに」


例えそんなルンの台詞が真実だとしても。


……。


がたがたがた、と檻が鳴る。

殆ど狂犬のように蟻ん娘が唸る。

檻の入り口付近に"みっちり"と押し合い圧し合いしている。

腕が伸びる。

だが、届かない……。


「ねえちゃ……けーき……」

「目の前にあるのに食べられないであります!」

「ところでさー。あたしまで檻の中っておかしく無いかなー?」

「クイーンも、おねーさんにかかれば他のロードと同等なんですよー。諦めるのですよー」


鋼鉄製の檻が今にも破壊されんばかりに軋む音が響く中、

遂に"その時"はやって来る。


「……にい、いち、ぜろ。おやつの時間……はーちゃん。檻、あけて」


「判った。待たせたなクイーンの分身ど、ふぎゃああああああっ!?」

「おおおおおおおっ!けええええええきいいいいいいいっ!」
「突撃いいいいいいいいいっ一!」
「にぎゃあああああああっ!?」
「ふぎゃ!?みぎゃっ!?ぷぎゅうううううっ!?」
「ま、まって、です!」


檻の開錠と共に内容物が噴出すように爆ぜ、そして駆け出した。

まるでパーティー用クラッカーから飛び出してきたと言わんばかりだ。

哀れなまおー様は鍵を開けた瞬間にそのまま吹っ飛ばされる。

そして檻から飛び出した飢えた餓狼の如き蟻の集団は甘くて白い壁に突っ込んで行く!


「うえのいちごはもらう!です!」

「内側から、食い破るでありまあああああす!」

「そおれ!どーーーん、でふっ!」

「もがもごもごもごもご……ぷはっ。前進であります!」


蟻ん娘は同族に踏みまくられ足跡だらけになりながらも、

フォーク一刀流やスプーン二刀流でケーキの山を目指す。


先頭集団は遂にケーキに辿り着き、今まさにスポンジケーキの中に体ごと飛び込んで行った。

あるものはスコップで外側をこそぎ落としつつ食い進め、

またあるものは自分の形をした穴を開けて内部から食い進めようと沈み込んでいく。

そしてまたあるものは両手でケーキをもぎ取ると、己の口に無理やり突っ込んでいった。


「どけどけどけどけであります!あたしは上から、あれ?……にゃああああああああっ!?」


上から攻めるつもりかハシゴを持って走る奴も居る。

そして、立てかけるとそのままハシゴごとケーキの中にズブズブと沈み込んでいった。


「よいしょ、よいしょ、よいしょ……」

「れっつ、だいびーんぐ。です」


テントを掴んで天井部分に上っていった蟻ん娘も居るようだ。

天井から自由落下し、生クリームの雪原にズボッと埋もれて外からは見えなくなった。

まあ、恐らく最下層まで落ちているだろうが……。


「さかみち!」

「モグモグモゴモゴモゴ……」


本当に上部に登りたい蟻ん娘は下層から斜めに食い進み、

頂上の甘い雪原は匍匐全身で進んでいるようだ。


兎も角カオスの極みだ。

大半の蟻ん娘はクリームまみれで凄い事になっている。

何より凄いのは、そんな状況下でも床にこぼれるスポンジなど無駄にする食べ物が一切無い所。

自分の体に付いたクリームも舐め取りながら先に進む蟻ん娘達に一切の迷いは無かった。


「うまー!」

「うまうまうまうまうまーであります!」


下から食べ進める者はまるで雪に潰されるかのように上から押しつぶされ、

上から突入した連中は、進むのにも苦労しながらも自分の周りから食べ尽くしていこうとしている。

イチゴの山の上に座って黙々とイチゴだけ食い続ける個体も居た。

唯ひたすらクリームを舐め続けるものも居る。

腹が一杯になったのか、ケーキ内部で居眠りを始める者も出始めた。

スコップで食べていたら顔を出した仲間にクリティカルヒットを出したお馬鹿さんも居た。

そして。

あろう事か……。


「ええい!見ているだけで胸焼けがするわあああぁぁぁぁぁっ!!」

「はーちゃん、落ち着いて」

「そうですよー。第一全部食い尽くされたから胸焼けの元は消えたのですよー?トホホですよー」


残らず食いきりやがったのである。

文字通り山のようなケーキを。

おこぼれ目当てのハニークインが残念そうにする中、こうして狂乱の宴は幕を閉じたのである。

とは言え……。


「時に母。一つ聞かせてたもれ?結局あれ、作ったのはクイーン達自身のような気が……」

「……私は作り方を教えた。次からは自分達で出来るから問題ない」

「流石に二度目は無いのですよー。おねーさんでもやっぱり無理なのですよー」


「と言うか姉ちゃ。考えてみればあの化け物ケーキ。ショートケーキと言えるのかなー?」

「アリサ……それは考えない方が幸せな事のような気がするのでありますよ」

「まあ、そこは、りんかーねいとのしょーとけーきがこれ、ということにする、です」


実はケーキを作ったのはルンではないかも知れないし、

そもそもあれは最早ショートケーキじゃないかもしれない……と言うオチを残しつつ。


……。


「……さて。出来た」

「おおっ!?母、その普通のケーキは一体!」

「おかわりです?え?ちがう、ですか……」

「あれ?でも"アリシアちゃんへ"って書いてあるでありますよ?」


狂乱の宴が終わり、腹を膨らませたチビ助達が床にコロコロ昼寝しているその頃、

……最後にもう一つ、普通サイズのケーキが現れた。

どうやら隙を見てルンが一つ別個に作っていたようだ。


ルンはそれを手に、少し何かを迷うような表情を浮かべた。

そして、意を決したように横にいたアリサに声をかけたのである。


「……ひとつ質問……あの子のお墓は、何処?」

「ね、姉ちゃ……!?」


……。


翌日、既に廃墟となったマナリア王都の片隅、旧ルーンハイム公爵邸宅。

そこにカルマ一家と足代わりにされた風竜の姿があった。

既に崩れかけ、廃屋と化した邸宅の隅に……ちょこんと佇む庭石。

一見するとただの庭石にしか見えないそれこそが、

表向きは生き延びたとされた、とあるクリーチャーの墓標であった。


「……アリシアちゃん。今までお墓参りにも来なくて……ごめんね」


ルンが未だ学生だった時の事だ。

彼女を守るべく働き、捕らえられ、

そしてその短い生涯を終えた一匹のアリシアが居た。

マナリア崩壊の序章となった一連の事件。

その引き金となった"最初のアリシア"の死。

……その時は別な個体が無事を演出したのだが、

どうやらルンは薄々感づいていたらしい。


「……レキの城で、沢山居るアリシアちゃん達を見た時、確信した」

「でも、どうしていわなかった、です?」

「そうであります。言ってくれればお墓の場所ぐらい教えたでありますよ」

「と言うか、クイーン達を"匹"で数えてる時があったから怪しいとは思っていたのですよー」

「というか、こわくない、です?」

「あたし等が人じゃないのは理解したと思うでありますが……」


さり気なく。だがかなり内心冷や汗物の告白。

お互いの回答によっては、家族がバラバラになってしまうかも知れない。

それは恐怖だ。

だが、これは何時かやらねばならなかった事なのだろう。

思えば、万一スキャンダルとして悪意と共に暴露されたら取り返しが付かない事実だ。

だから、これは良い機会だったのかも知れない。


「関係ない。異種族でも何でも、一番辛い時味方だった皆の方が、先生のほうが……」

「ヲイ、その当時俺は未だ普通の人間だったような」

「……父よ。そもそも転生者な時点で普通な訳無いと思うぞ?」

「にいちゃ。余り気にする必要は無いであります。ねえちゃはどっちでも良いらしいであります」

「ねえちゃ、きにしないなら、あたしら、ずっと、みかたです」


そして、これが彼等の出した答え。

何を今更と思う者も多いかもしれない。

だが、大事にされていた反面様々な事柄を秘密にされていた"お嬢様"が、

この時、本当の意味で"カルマの一派"になった。

そういう意味でこの告白は重要、かつ重いものなのだ。


「……アリシアちゃん」

「なんか、いきなりだきしめられた、です」

「察しろ姉ども。母がどれだけ気に病んでいたのか判らんのか?」

「そうだな。ルンの場合明らかにアリシア贔屓な所があったしな」


不特定の蟻ん娘を呼ぶ場合、ルンの場合は基本が"アリシアちゃん"である。

別にアリサ達を差別している訳ではないが、

やはり命までかけさせてしまったと言う罪悪感があるのかも知れない。


「……私は、皆が人でなくても気にしない。でも、皆は気にしてたみたいだったから」

「ああ、一応隠してたからな。まあ魔物が人権を持った現状じゃ意味あるかって意見もあるが」

「まあ母の心配も判る。とは言え、こやつらも周りから見れば普通の魔物の一種でしかあるまい」


「ねえちゃ、ありがと、です……ほんと、ありがとです……」

「ねえちゃはやっぱりあたし等のねえちゃであります!」

「姉ちゃ?でも表向きは今後も内緒だよー。お仕事に差し障るからねー?」


ルンが不安を口にすると、カルマが言葉を続けハイムが纏めた。

そしてアリシアとアリスが礼を言い、一応アリサが釘を刺す。

何だかんだで仲の良い家族なのだ。

それが壊れる事が無くて安心したのかほっとした空気が場を包んでいく。


「……有難う。皆、大好き」

「どういたしまして!であります。あたしらもねえちゃの事、好きでありますよ?」

「ねえちゃ、にいちゃのだいじなひと。だからあたしらにもだいじなひと、です……」


暫し家族の抱擁が続く。

和やかな雰囲気の中、そっとアリサがカルマの服の裾を掴んだ。


「兄ちゃ……」

「ん?どうしたアリサ」


そして、何か、思う所でもあったのだろうか?

涙目になりながら口を開いた。


「歯が、痛いよー」

「……虫歯か」


だが違った。ただ、歯が痛み出しただけだった。

色々と台無しだ。

先日のケーキを腹いっぱい詰め込んだのは良いが、歯を磨いていなかったらしい。


「ん?」

「……どうしたの先生?」


……そしてカルマは気付いた。

気付いてしまった。


「ちょっと待て。昨日歯を磨いた蟻ん娘は居るか!?」

「居ないよー」


即答だ。その言葉に軽く気を失いそうになったカルマを誰が責められよう。

よく見るとルンに抱きしめられているアリシアを含め、どいつもこいつも頬を腫らしている。

そう、そしてまさにこの時も、危機はすぐそこに迫っていたのだ。


……。


「あのー、アリシアさん?本日運んで欲しいと言う荷物の件で……」

「いたい、です……はがしみて、じんじん、するです……」

「今日はお休みするでありま、イタタタタタ!」


「問屋さん!?今日は定休日じゃないでしょ!?」

「も、申し訳ありません!その、不慮の事故で……ええ、今後このような事は!必ず!」

「ひんひんひん……痛いであります……」

「お馬鹿!歯が無事なあたし等だけじゃ回せないであります!」

「ケーキたべれないし、いそがしいし……すとらいきでも、おこす、です?」

「……考慮するで在ります」


「ええええええっ!?役所が休み!?そんな事今まで……」

「ほんじつ、ていきゅうび、に、したです……にぎゃびゃびゃ!?し、しみる……です……」

「でも、はいしゃさん、こわい、です……ぶるぶる」


歯の痛みに七転八倒する蟻ん娘達と、

ケーキを食いにいけなかったために無事だった。しかしそのお陰で、

使い物にならない"あたしら"の尻拭いに奔走する羽目に陥ったその他の蟻ん娘達。

無論お菓子抜きの上、仕事まで増やされた居残り組みの士気が上がろう筈も無い。

普段なら自分で処理できる書類も、容赦なく上にあがっていく事となる。

結果、カルマの執務室は、

既に足の踏み場どころか人の存在できるスペースすら取れるか不安になるような惨状である。


「のおおおおおおっ!?何だこの書類数は!」

「主殿、仕方が無いのです、暫し耐えましょう」

「まあ、幼女の為です。皆、全力以上を発揮するのですよ、ハイ」

「「「「「おおおおおおおおっ!」」」」」


蟻ん娘情報網はリンカーネイトとカルーマ商会の命綱。

普段は完全すぎるほどに完全な動きをしているだけに、

対応の僅かな遅れが巨大な社会不安を生み、

遂に社会そのものが三日ほど機能不全を起こすに至ってしまったのだ。

結局復帰までまともに機能し続けていたのは防諜のみだったと言う。

……リンカーネイトがいかに彼女達に頼っているかが判る一幕であった。


「……ちゃんと、約束して」

「はいであります!今後は、寝る前に歯磨きするであります」

「わかった、です。いたいの、いやです……」

「二度と同じ失態は起こさないよー」


結局、このドタバタのせいで世界中で経済が混乱。

結果として大小合わせて数百社の倒産が相次ぎ、

とんでもない数の失業者が世界に溢れる事となったのである。


その後、責任を感じたカルマやアリサ達が頑張って被害者に職をこっそり斡旋するなどしていたが、

結局、元の状態に戻るまでに半年を要する事になったこの事件。

本当の事を喋る訳にも行かず、

公式には謎の風土病が突然流行り、都市機能が麻痺したからとされる事になった。


だが、忘れてはならない……かも知れない。

事件の本質はお菓子を食いすぎた子供が歯を磨かなくて虫歯になった。

ただそれだけの話なのだと言う事を。


そして忘れてはならない。

子供達への躾の大切さを……。




教訓。

甘いものを食べたら、歯を磨こう。

もしかしたら、

それが悲劇の引き金になる……のかも知れないから。




幻想立志転生伝外伝

ショートケーキ狂想曲 終劇



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