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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 80 一つの時代の終わり
Name: BA-2◆45d91e7d ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/14 23:47
幻想立志転生伝

80

***最終決戦最終章 一つの時代の終わり***

~鏡に映るカルマの業~


≪side カルマ≫


『さあ来なさい!実は私、一回刺されると死にます!』

「剣を弾き魔法を無力化する鬼装甲の癖に何言ってやがる!後、打ち切り禁止!」


『当たらなければどうと言う事は無い。私のACは108までありますよ?』

「スポーツか戦争かどっちかハッキリしやがれ!」

「何の話か判らんわあああああああっ!」


ハイムが置いてけぼりで吼える中、

のっけからふざけた物言いの敵動力炉に魔剣を叩き込むが良い音だけを残して空しくはじかれる。

色々吹っ切ったが為の猛攻だ。お互いむき出しの精神をさらけ出し、

頭の何処かにある格好良さそうな(多分)台詞を乱舞しつつ獲物を叩き付け合う。


それにしても。

異常な硬度、そして魔力耐性……シェルタースラッグの殻と同じ材質か!?

しかもあいつ等と違って熱も見事な温度調節機能で無効化している。

……ありえないぞこれ……。


「くそっ!変態じみた防御力だな……ふざけてやがる」

『変態ではありません。もし変態だとしてもそれは変態と言う名の紳士ですよ』

「わらわには良く判らんが……つまりルイスか?」


さり気なくさっきから何処かはっちゃけ始めた神の模造品。

何故だろう、目に当たる巨大レンズが何処か血走って見えるのは?

ともかく爆炎で牽制……これも効かない!


『千年間頑張って世界を守ってきて、それを受け継ぎ得る逸材が出たと思ったらこれですから』

「うむ。それは同意する」

「俺もそう思う」


『貴方が同意してどうするんですか!?』

「わらわもそう思うぞ」

「まあ、ともかく最後の敵が余りに残念な出来だったんでやけっぱちか?」


腕の継ぎ目らしき辺りを俺が抑え、間接目掛けてハイムが斧を振り下ろす。

だがやはり効かない。

金属音っぽい音を立てつつ空しく弾かれるのみだ。

関節も弱点ではない、か。


……あ、ギロリと睨んできた。

更にプール二枚分もの巨大盾が振り回されるがそこは上手く飛び乗って回避する。


『……悪いですか?』

「いや、全然」


……しかし、受け継ぎうる人材、ね。

要するに自爆から何からのお膳立ては、元々魔法の管理を移譲する相手を探すための物か。

やはり古代人もお膳立ての限界は感じてても本当に失くすのには抵抗があったんだろう。

だから、蜘蛛の糸ほどの希望を残し、

それを乗り越えて来た者がもし居たら、全てを譲り渡す算段だったのかもしれない。


でもまあ、それで来たのが俺だしな。


やってる事も大概カオスだし、

ふざけんじゃねぇ。舐めんなよこの野郎!?

となってもおかしくは無いか。

だからこそ、こうやって腕をぶん回し砲弾を雨あられと降り注がせつつ、

何気なく殺気を振りまいているのだろう。

だとしても、機械化してる割には少々怒りすぎのような気もするがな。


『こちらは、いい気がしないんです、よ!』

「おっと」

「にぎゃああああっ!?落ちる落ちる落ちる落ちるーーーーっ!」


……おっと、このままでは機銃に当たるな。

振り上げた腕を顔面に叩きつけハイムを後ろに倒して、

回避後今度は胸倉掴んで再度引き戻し、と。


「まあ、それはともかく勝たせてもらうぞ……!」

『肩車で本気で勝つ気なんですか貴方は?』

「アイタタタ。多分本気だと思うぞ、機構本体よ」


俺が加速をかけた竜の脚力で近づき、ハイムは頭上で砲台に徹する。

そして、肉薄するや否や俺は近接戦闘を開始し、

ハイムは迫る攻撃の迎撃を行う。


『こんなにふざけているのに、こんなに強いのは反則ですよ!』

「オマエモナー」

「しかし殴ろうが斬ろうが刺そうが全く歯が立たん!父よ、やはり無謀だったか!?」


いや、無謀は今に始まった事じゃないだろ。

先の先まで考えて策は立てるが、

それが上手く行かなかったら何時だって臨機応変に対応してきたじゃないか。

……それを人は行き当たりばったりと呼ぶが。


「何にせよ、攻め口はある!ハイム、魔力弾頭を敵砲身に叩き込め!」

「判った!」


了解の声と共にハイムの周囲に魔力が集積し、幾つもの魔力弾頭(マジックミサイル)を形成する。


『魔王特権、専用術式起動……魔力弾頭!(マジックミサイル)』

『迎撃兵装を幾ら破壊した所で私自身は痛くも痒くも無いですし、すぐに修理しますよ』


そんな事は判ってる。

だが、すぐ直せるとは言え負担が無い訳ではあるまい。

即ち少しでも向こうにダメージを与える手段ではあるのだ。

未だ有効な手段は無い。

だが、それでも諦める訳にはいかない!


「飛んでけーーーッ!」

「よし、破損部分に急ぐぞ!」


無論、それだけではない。

砲台、砲身の破損した部分とは人で言うなら傷口だ。

普段なら何の問題も無い汚れでも、傷口になら……悪夢となる!

行けハイム!

俺が敵の攻撃を引き受けている隙に公から受け継いだ根切りの斧をぶち込め!

内側から、ぶち抜いてやるんだ。


「砕けた砲台内部を……抉ってやれ!」

「傷口に、塩ーーーーっ!」

『仲良いですねあなた方……ぐっ!?』


今、呻いた!

しかもレンズにノイズが走ったぞ。

どうやら、当たりのようだ。

この戦法なら、僅かづつでもダメージを与えられる!

……ってあれ?


『ひでぶっ!』


なんか、誘爆して。

何て言うか。

本体が、ぶっ飛んだ!?



『ぐわあああああああああっ……!』

「「あるぇーーーーーっ?」」



本当に一撃入れたら死んだーーーーっ!?

凄い勢いでジャンクを量産してるんだけど!?

いやまて、逆に考えるんだ。

精密機器だから、カバーの下は脆弱なのだと。

……いや、本当にそれでいいのか?


「何か知らぬが、父よ……勝ったぞ!」

「勝ったどーーーーーッ!」

『おめでとう御座います。無人島で文無し生活でもされるのですか?』


……振り返る。

壁がスライドして開いていく。

そして、そこには。


「「もう一つ出てキターーーーーッ!?」」


全く同じのがもう一つ。

部屋のレイアウトまでそっくりそのままだ。

唯一の違いは砲塔が付いていないと言う事か。

つまり攻撃力はさておき、こちらにとっては破損部分を狙うさっきの戦術が使えない。

アハハハハ。

なんて言うか、もう笑うしかないじゃないか。


『何を言います。防衛システムは二機あるのが当然ではないですか』

「幾らこちらの相方が女神だからって……」

「むむむ。動力中枢にも予備があったという事か?」


何がむむむだ。

それはさておき、予備機か。

まあ、さもありなん。と言った所か?


『本当は使う気なんかありませんでしたけどね。ええ、何かムカついたので徹底的に潰します』

「ムカついたからかよ!?」


『千年の最後を飾るんです。こう……人格的にも優れた方に終わらせて頂きたいと思いませんか?』

「その気持ちは痛いほど判る、が。その流れは阻止する」

「判らんが判るぞ?二人とも全力でふざけておるな!?」


……異様な沈黙。

そして、機械仕掛けの神が動いた。

腕から炎が上がり、微妙に俺に向かってくる。

だが、避けられないレベルでは無いな。


『この機体は出力を押さえ防御性能を上げてあります。食らいなさい正規術式"炎"(ファイア)』

「……効かないぞ!と言うか火球に劣るじゃないか!」

「当然だろう?元々火球などは正規の魔法に不満があるから作られたのだからな」


そう言えばそうだな。

火をつける魔法なんて正規の術にあって当然だろうし。

それでもあえてと言うのなら、当然元のより威力が上がるわな?


『と言うか、幾ら焚き火に火を付ける為の魔法とは言え、生き物なんだから火は恐れて下さいよ』

「火竜の鱗舐めんな。今更熱量攻撃など効くか!と言うか焚き火!?着火用なのかよ!?」

「当然だ。正規術式の大半は暮らしに役立つ実用的なものだ。魔法とは本来そういうものだぞ?」


そう言う事か。まあ、世界を守る=科学技術を発展させない=満足な生活を保障。

の三点セットで世界を維持するつもりだったのだろう。

必要は発明の母だからな。

唯一誤算だったのは万能の魔法ですら人は満足せず、その先を求めたという事だろうか。

いや、それぐらい折込済みで無ければおかしいか。

ま、それを織り込んだから、目の前の敵がここに居るんだろうがな。


『そもそも貴方は何者ですか?私の時代の人間が何故この時代に生身で生きている?』

「知らん。そもそも異世界人かも知れんしな。ともかく死んだと思ったら生まれ変わっていた」


……む。相手が目を細めた。

まあ、シャッターを半開きにしただけだが、

いぶかしんでいる事は傍目からでもよく判る。


『……あの闖入者と似たような事を言うのですね。彼はトリッパーとか名乗っていましたが』

「マナリア、ロンバルティアの建国王か」

「あれが暴れたせいで技術は進み人は豊かになったが、世界は確実にそして一気に歪んだからな」


そこから始まる悪口合戦。

アイツが居たせいで色々面倒な事になった。とか、

あれが魔法の可能性を人に気付かせてしまった、等。

これでもかとマナリアの初代様をハイムと二人してこき下ろしている。

まあ、俺には関係無いが。


「そも、管理者を排除しようなどと思い立つ方が間違っておるわ。お陰で父の様な馬鹿が増えた」

『ええ、それもあの男が最初でしたっけ……いや、ルーンハイムの初代だったかも』


……そう言えば、転生にしてもトリップにしても異世界からの来訪者なのは同じ。

そう考えると、彼の建国王は俺の大先輩だといえるな。

考えてみれば俺も建国王になってるし。

まあ、異世界へ迷い込んだ奴が暴れまわったその後。

要するにここは異世界トリップ系主人公が暴れまわった後の世界な訳だな。

道理で何処かおかしい世界だった訳だ。

チート主人公が暴れまわると世界はこんな風に大迷惑しますよと言う事なのかも知れない。

めでたしめでたし、で世界が終わる訳じゃないもんな。


まあ、俺も人事では無い。

子々孫々の代までこの世界が残るようにしておきたいものだ。


「……って!何で戦闘中に和んでるんだよ俺等!」

『それもそうですね』

「うむ!」


ともかく、本題である機構の自爆阻止のため……もうそれに意味がある気がしないが、

ともかくそれでも敵の本体を確保する為に再び戦闘体勢に入る。

語るのは戦いが終わってからでも構うまい?


「ただ、考えてみれば爆発するほどのダメージもまた厳禁だと気付いてみたり」

「まあ、父の望み的には無傷で確保せねばな」

『駄目です。もしもの時は自爆します』


自爆は困るな。

と言うか、倒せば自爆されるなら処置無しじゃないか……。

あ、そうだ。


「じゃあ、一騎打ちだ……俺が勝ったら言う事を聞け。負けたら俺は死んでやる」

『いい度胸ですね。受けましょう』

「父!?正気か!?」


ハイムは驚いているようだが現在俺達親子は肩車中。

つまり俺が馬でハイムが騎手だ。

これが何を意味するかと言うと。


「じゃあ行くぜ!俺とハイム達で一騎だ!」

『いいでしょう…………む?……もしかしてこちらが一方的に不利な条件なのでは』

「父がまともに戦ってくれないのはわらわの記憶から読めるはずだろうに……」


騙された事に気付いた動力炉があっ、とあげた声に対し、ハイムが冷静に突っ込みを入れる。

確かに記憶のバックアップ云々言ってたから、

デジタル化かなんかした記憶のデータが向こうに残っててもおかしくない。

で、それに対して相手はというと。


『もうメモリ消しちゃったじゃないですか!』

「何で逆切れする!?……勘弁してたもれ」

「泣くな。吼えるな。後、装甲厚すぎるぞ」


見事なまでに逆切れしましたとさ。

……まあ何にせよこちらは戦力を落とさず戦えるという事だ。

でも、これだけで終わらせる気は無い。


俺の一騎討ち宣言と時を同じくして、蟻ん娘達が近寄ってきた。

ちょっとすすけているが、どうやら怪我は無いようで何よりだ。


「くつわとり、です」

「槍持ちであります」


そして"一騎"の内だと宣言を行った。

敵?呆然としてるけど何か?


『そんなのアリ!?』

「「蟻!」」


……痛々しい沈黙。

そして、そのせいで却って冷静になったらしい動力炉が軽く笑った。


『まあ、いいです。どうせこちらの装甲は抜けませんからね。弱点になる砲台は解除してますし』

「そういえば、そうです」

「にいちゃ、どうするで有りますか!?」


ちっ、痛い所を付いてきやがる。

確かにこのままじゃあ攻撃を当てても意味が無い。

しかし、正面から破壊するには少々厚過ぎる装甲。

さて、どうしたものか。

そう言って周囲を見回すと……。

眼前に広がる巨大なレンズ


「……目でも狙ってみるか?」

『残念ですがこれはメインカメラではなく主砲の発射口ですよ』


一度撃つとあまりの威力に暫く機能停止するので使わないが、

と念を押した動力炉はレンズにシャッターを下ろした。

見たところ目を閉じたような感じだ。


「くう、そうそう上手くは行かないか。父、どうする?」

「いや、目を狙う」

『いえ、ですからこれは主砲の発射口で……』


「……つまり、そこはそうこう、うすいです?」

「そもそも、怖く無いなら眼を開けるであります」


あ、黙った。

冷却水が本体表面に汗のように浮かび上がり、

メモリやCPUの限界まで酷使したパソコンのようにガタガタと音が鳴り響く。


そして……上下から砲台や機銃座がせり上がってきたり下りてきたり……。

うん、お約束だなこれも。


『現在の文明レベルではどう足掻いても勝ち目の無いチート仕様の武装郡ですよ。消えてください』

「誤魔化すな!それにチートならこっちも負けちゃ居ないぞ!」

「そうです!どらごんも、たべちゃった、にいちゃのちから、みるです!」


だが、


『……チートですか。まあ管理者を取り込んだ事は存じてます。転生者である事も。ですが』

「ですが?」


俺は次の言葉に、凍りつく。


『貴方は別にチートではありませんよ』

「……はい?」


……。


なんか、売り言葉に買い言葉で喋った台詞に予想外の反応が返って来た。

転生元の世界の言葉のお陰で魔法の理解が一瞬、

しかも先代魔王の孫で半魔法生物などの特殊条件が重なり元から常人の倍の魔力を持つ。

更に、幼い頃からの特訓の成果でパワーも並み以上。

トドメは蟻ん娘達を使った商売で資金量絶大ときたものだ。

これがチートじゃなくてなんだというのか?


「いや、前世の言葉と古代語が良く似てた、と言うかほぼ同一で魔法覚える苦労が無かった訳だが」

『……貴方は攻略本や攻略サイトを見てゲームした人を全てチートと断じますか?』


「血筋はどうだ?特別強力な物だと思うが」

『デメリットも莫大だったのでは?それに、それは"当たりを引いた"以上の物では有りませんよ』


ふと、視線の先に先程破壊した動力炉1の残骸が目に入る。

ラスボスを倒してもまた同じのが出てくる。

そう言うのがチートだと、コイツはそう言いたいのだろうか。

確かに呪われた親父のせいで子供時代は滅び行く村で食うに困る状況だったが……。

何の気は無く欠片を手にしてそう思う。

そして、閃いた。


「親父の特訓と言う名の虐めのお陰で、才能が無い割りに法外なパワーも持っているぞ?」

『それこそチートとは真逆の努力の成果でしょうに』


「蟻ん娘はチートだろ」

『……それはあくまでクイーンアントの能力で貴方自身では無いでしょう』


あれ、そうなると……。


「と言う事は」

『貴方はチートでもなんでもない。唯の人です。幸運も不運も人並み以上ではありますが』


なんてこった。

俺はチートじゃなかったのか!?

てっきり現状を鑑みてチート。それも主人公格だと思っていたが?


『もう一度言います。貴方は別にチートでもなければ特別な存在でもない。ただの人間です』

「おいおい。ファイブレスを取り込んだ俺が普通か?既に人では無いだろ」


あ、何か呆れられた。


『強いて言えばバグ利用の裏技レベルです。何度も言いますが貴方が特別な訳ではない』

「……何が言いたいんだ?」


さっきから随分特別ではない、とか拘るな。

一体何が気に入らないんだ?

頭の上で今も威嚇を続けるハイムを軽く宥めながらそんな事を俺は考える。


『自分が特別と自惚れるな、と言う事です。別に世界を救う勇者など用意してませんので』

「はあ」


『俺tueeeeeee!して楽しかったんでしょう?ねえ、英雄気取りはさぞスッとしたでしょう!?』

「まあ、それが出来れば何よりだったんだが……」

「にいちゃ、まけまくり、ですよ?」

「むしろ、実力者との戦いでは自力で勝ったためしが無いような気がするであります」

「父の場合、雑魚を散らすのは上手いのだがな」


しかし、まあ身内の評価が酷すぎる!

しかもそれだというのにその瞳には絶大なる信頼!

何これ!?


いや……違う。

考えてみると、これは。


『…………えーと』

「まあ、とりあえず俺は勇者様にはなりようの無いタイプの人間なのよ。小物過ぎてな」


『何か、周りから酷い言われようですが?』

「ああ、いつもの事だ。気にする必要すらない」


『では。ここまでやっても特別ではない、ただの人である事に思うところは無いのですか?』

「ああ。チートで無いという事はむしろ誇らしい」


そう。チートとは同時に不正と言う側面を孕む。

それが全てではないし、これが現実である以上結果が全てと言う話もあるが、

それでも、俺の現状が不正ではなく、

つまり努力と創意工夫によってもたらされた物だと言われるのにはむしろ嬉しさを感じる。

別に特別でも何でも無い?望む所だ。


「俺は俺だ。俺が望むように生きる。誰にも邪魔はさせないし最終的には絶対に勝つ!」

「まあ、すっころぶたびに背負う物が大きくなるのがにいちゃの人生でありますからね」

「せんじゅつてきはいぼく、せんりゃくてきしょうりで、あなうめできる、です」


「まあ、所詮元引き篭もりの戯言だがな?もう自殺まで追い込まれたくは無いんだよ」

『……引き篭もり?自殺?』


……敵は目を少し開く。

いや、目では無いのか。

まあ俺にはそうとしか見えない自称主砲を僅かに開いた敵がポツリと呟いた。


『……名前を教えてもらえますか?』

「カルマだ」


おかしな事を言う奴だ。

俺の名前などとうに調べが付いてるのではないのか?


『違います。前世での名前ですよ……少し、気になる事がありましてね』

「前世の?俺の、俺の名前は……あれ?」


そう言えば、俺の名前はなんと言った?

流石に20年以上も前の事だし覚えている訳が……いや待て!

何でだ?20年前とは言え自分の名前が思い出せない訳は無いだろう!?

死に様とか境遇とか、そんな事はよく覚えているくせに!


『では、両親の名前は?家族構成は?生年月日は?……覚えていませんよね』

「……何でそんなことが判る?」


静かに、だが確実に背中に寒気が走る。

これを聞いてはならない、心の奥底で何かが言う。

だが、それ以上に恐ろしかった。

今までとは全く別の部分で俺を構成する要素が崩れ去ろうとする耐え難い感覚。

俺が信じていた、と言うか疑いすら持たなかった部分がおかしいと言う恐怖。

この感覚、余人には理解する事など出来まい。

吐き気と頭痛の中間点のような感覚が脳と胃を襲う。

そんな俺を、目の前の何かは哀れむような羨むような、

微妙な顔色で覗き込む。


『……君の正体が判った』

「何!?」


攻撃が止んだ。

敵の動きは止まり、なし崩しに俺達も攻撃を中断したのだ。


『そして、私が何故こんなに苛立っているのかも判った……近親憎悪だったなんて』

「近親憎悪だと?」


そして、物語は一つの結論を導き出す。


……。


『昔ね、虐めを苦に自らの命を絶った男が居たんです……で、その後どうなったかわかります?』

「その後?」

「しんだら、そのあとなんか、ないです」


『いえいえ……運が良いのか悪いのか。その人、秘密裏に人体実験に回されたんですよ』

「えええええっ!?」


『まあ、何で?とかは聞かない方がいいですよ。ともかく彼はモルモットになった』

「何でスルー!?」

「いや、多分聞かない方がいいぞ父。世の中闇だらけだからな」


その後も話は続くが要点だけ纏めるとこうなる。

まるで俺のような人生の終わり方をした男が居たが、

何の因果かその記憶は秘密裏に開発されていたコンピュータを作るのに使われたらしい。

これだけだと良く判らないだろうが、

要するに人格を持つほどの物を作るために一番手っ取り早い方法として、

人の脳味噌をコピーしたんだとか。


『まあ、その後はいちコンピュータとして働いてたんですけど……国が滅んだんですよ』

「何で!?」


『いや、お隣さんが最終兵器を……で、国の人口の内99.9%が滅びました』

「ヲイ」


『で、それだけなら兎も角一度使えば抑止も糞も無くなって……世界滅んじゃったんですよね』

「あっさり言うな」

「重く語れというならわらわやクイーンも出来るが?」


両手を挙げてほっぺたをつまむ。

ハイムがにぎゃーと叫ぶが無視して話の続きを促した。


『まあ、結果的にいの一番に滅んだ、と言われたお陰で生まれ故郷の人達だけが世界に残りました』

「それは喜んでいいのか……」

「まあ、最初だから多少の誤差はあったって事だ。喜べるかはまあ微妙だがな察してたもれ?」


察する?無理。

そんな展開どうやって予測せよと?

いや、ありえないとは言わんが。


『まあ、それはもうどうでも良かったんですが、ネットに繋がらなくなったのは痛かった』

「……同意すべきか否か……」

「なんという、こじんしゅぎ、です」

「まるでにいちゃでありますね」


……アリスの言葉に、背筋が凍った。

何せ今までの物言い、その"死んだ奴"はコイツ自身なのだろう。

そして、それはつまり……。


『で、一人取り残されて寂しかったんで……世界を救おうと決意しました。暇つぶしに』

「最後で台無しだ!」


『だって、世界にたった一人残されるのって、苦痛ですよ?』

「いや、そりゃ判るけど!」


『ただ、世界中から生き残りを探して支援するだけだと同じ歴史を繰り返すだろうと思い……』

「まさか、その為に魔法を?」


『ええ。世界観から作り直す他無いと私は考えた。で、数千年かけてシステム開発しました』

「因みに、その間に人類文明は衰退して、遂に無くなったのだぞ父!」

「おかーさんいわく、人工物に関しては風化してほぼ消え去ったと聞いているそうであります」


そういうことは早く言え、

と言いたいが、聞かなかったからな。

まあ気づかなかった事は仕方ない。

そんな事より話の続きが気になる。


『まあ、目指したのは古き良きエセ中世ファンタジー世界。で、出来上がったのがここですよ』

「そして、わらわや他の管理者、各種族の雛形が作られたのだ!感想を聞かせてたもれ?」

「無駄に壮大だな」


で、数千年かけて用意したシステムが千年で崩壊か。

けど崩れるまで短くないか?

いや、むしろ人の欲望に晒されてそこまで良くもったと言うべきか。


『それがどういう歴史を辿ったかは君の良く知るとおりです。多分ね』

「……それで、それが俺の正体とどう関係する?」


動力炉、いや古代人の生き残りとでも言うべきコンピュータは少しためらった後口を開いた。


『……魔王や他の魔法生物の人格の雛形は私や当時の生き残りの人格を混ぜて作ったんですよ』

「それで?」


『細かい技術的な事は省きます……貴方は転生者である事は間違い無い。ただし』

「ただし……」


『その魂は……私の生前の物です』

「え?お前?」


『正確に言うとモルモットにされてコンピュータに記憶と人格をコピーされた誰かの残骸ですか』

「なんで、そんな事が判るんだ?」


最早、俺達以外に声を上げるものは無い。

蟻ん娘達もジッと耳を傾けている。

既に銃撃音も剣を振るう風を切る音も聞こえない。

不気味な沈黙の中、掠れるような合成音。

幻想的な世界には余りに似つかわしくない物のオンパレードだ。


『魔力には人格が溶け込むのはご存知ですよね?その中に"彼"の記憶が混ざったのでしょう』

「確かにそうだが、個人特定までしていいのか?」


『そんな濃い前世持ちで同時代の人間など二人も居る訳無いでしょう』

「成る程。対象者が一人しか居ない、と」


ぶっちゃけると転生と言うより、記憶の残滓が赤ん坊に紛れ込んだだけなのか?

魔力量が多い=記憶の溶け込んだ魔力が体内に充満している?

いや、少し違うような……。


『これは、私の希望が七割ほど入った予想ではあるんですが……』


既にその声に敵意は無い。

妙な羨望と願望の入り混じった迷いの有る声色。

そして、その機械仕掛けの神の言葉と共に、

不毛な戦いは幕を閉じようとしていた。


『貴方は……人間としての私の転生、では無いかと思うのです』

「じゃあアンタは……いや、何でもない」


考えてみれば向こうは間違いなくコピーだ。

だが希望や願望、と言うのは何なのだろうか?


『まあ、普通に考えれば記憶が混入しただけなんですよ。でも、それだと夢が無いでしょう?』

「昔の自分が生まれ変わったと考える方が夢があると?」


頷く代わりに目が細められる、


そして、記憶が混じっただけならその時の魔力量が上がるだけ。

魔力総量の器、最大MPに当たる部分が上がっている以上、

何らかの特殊な状態に陥ったのではないか。

前世の記憶に釣られて赤ん坊の脳内に"彼"の人格が宿ったのではないか。

人格移植や思念体形成の能力を持っていた母親……ギルティ母さんのように。


機械仕掛けの神は自分の推論をそう締めくくる。

……矛盾があった。

前世の俺は母さんが生まれるより前に死んだ筈だ。

故に、今の俺に母さんの能力が遺伝していたとしても前世の俺には適応されない筈。

だからこそ自分の希望七割と言ったのだろうが……。


まあいいさ。

そう信じた以上相手にとってはそれが真実なのだろう。

既に検証不可能なそれを無碍に否定する意味は無い。

……その事を伝えると"彼"はなにやらポツリと呟き、そしてまた語りだした。


『おぼろげな記憶の自分を思い出して下さいよ。なじられたら竦みあがっていたでしょう?』

「そうだな……今の俺なら逆に殴り倒すが」


ボール状のボディの中央、目のように見える大型レーザー砲を覆うシャッターが開く。

興奮したように音声のボリュームも上がっていく。


『そう。もしかしたら私もそうなれたかもしれない。それは大きな希望ではないですか?』

「……」

「父、どうしたのだ、黙り込んで」


何も言えなかった。

何故か急に目の前に居る存在が、年老いた老人のように見える。

未練と後悔ばかりの人生の果てに人間としての肉体すら失い、

最後に見出した希望が、生まれ変わった自分がもう少しマシな人生を送っていた事?

そんなの寂しすぎ……、


と、ここまで考えて気付いた。

目の前に居る存在は、かつての俺だ。

追い詰められ最後には自らの命を絶つ他無かった無力な俺そのものだ。

そしてその頃の俺ならどう思うか?と考える。


今なら噴飯物だ。

だが、思い出せる。

追い詰められボロボロになった心のどこかで考えていた。

人生やり直せたらどんなに嬉しいかと。

いっそ生まれ変わりたいと。


……馬鹿な話だ。

そんな事を考えてる暇があったら殴り返されるのを覚悟で敵をぶん殴れば良いだけなんだ。

だが、その当時の俺は明らかのその選択肢を心の中から失くしてしまっていた。

そして……目の前のアイツはその時の俺だ。


親父に殴り飛ばされながら必死に食らい付いて行った日々が俺を変えた。

力を蓄えねば生きて行く事も難しかったのだ。


だが、力が付いてきたら体を鍛えるのも苦にならなくなった。

努力に勝る才能は無いが、努力する心を育むのに才能に勝る物は無い。

得手の物は放って置いても上手くなり、他者より優れた分野は唯行うだけで楽しいものだ。

もし、苦手だろうと努力できる奴が居たらそれこそ最大級の才能だろう。


だが人はそうでは無い。

では、凡人が努力しやすい環境はどうやって作られるのか。

答えは簡単だ。

下手でも恥にならない幼い頃から何かを続け、他者より優れたものを持っていれば良い。

要するに幼少時の教育だ。

今回の俺の人生でのそれは親父との特訓で得た腕力。

それが俺の自信と行動力を支えていると思う。


幼い頃に甘やかされてきた場合、大きくなってから自分を変えるのはとても難しい。

大切に育ててくれた親を怨むのは筋違いだがそれでも人生の難易度は数段階も違ってしまう。

他の者には理解できない苦労を背負い込む事になるだろう。

無論、中にはそのまま落ち零れる者も出てくる。

可愛い子には旅をさせよと言う言葉があるが、伊達に長く語り継がれていないのだ。

そして、今回の俺はそういう意味では良い父親に恵まれていた。


それがコイツには羨ましいのかも知れない。

唯の偶然ではなく、自分が生まれ変わって俺になったと思いたくなる程度には。

……なにせ俺自身、前世と比べると天と地もの差があると思うほどの人生だしな。

最も、こいつの推察が外れている可能性も残されては居るのだが。


ただし、確実に判る事は有る。


失いたくない、手に入れたいと足掻き続けた俺だが、

もし前世と何一つ変わらない状況なら動き出す前に諦めていただろう。

何とか出来るかもしれないと思わせてくれたのは他ならぬこの体力。

少なくとも力では"普通"を上回れると感じ取った時、俺の人生は開けたのだ。

そう考えると、親父のシゴキがどれだけありがたいものだったのか改めて痛感する。


『……私は長く生き過ぎた。魔王が動いたのも何かの縁。終わりにしようと思って居ました』

「何か、自爆って雰囲気ではないが?」


判っているが軽口を叩く。

相手も何処か笑っているようにも見えた。

いや、泣いているのか怒っているのか……複雑怪奇な感情が渦巻いている。


『だから。私が消えた後の事は全部任せます。だって、貴方は私なのですから』

「勝手にそう思ってろ。まあ、こんな世界だけど長持ちはさせるからよ」


……段々と周囲が暗くなる。

千年の時を駆け抜けた機械神が、

いや、数千年存在し続けた無力だった男が、消えようとしている。

外側の不要と思われる部分から順に電源が落ちていく。


『どんな事を考えてるかは知らないですが、まあ、好きなようにするといいですよ』

「ああ、任せろ」


『では、さよう、な、ら……』

「ああ、お別れだ」


そして、機構は千年ぶりにその機能を停止したのだ。

ただし、何時でも再起動をかけられる状態のまま。


……。


「終わったな」

「うむ。何か不完全燃焼でもあるがな……」


全てが終わった魔王城地下。

非常灯のみで周囲が照らし出される中、俺はハイムを肩車したまま立ち尽くしていた。

間の前に鎮座する停止した動力炉。そして予想外に突きつけられた俺の真実。

だが、それは俺に新しい自信を与えてくれた。

そして、全てが終わったと言う安心感も。


「とは言え、大変なのはここからか」

「新しい魔法体系を作らなきゃならないでありますからね」

「ちいさくて、こんぱくとじゃなきゃ、せかい……もたない、ですよ?」

「そうだな。まあ、父ならそれこそ月並み、とか言うのだろ?」


だから。

俺は気付けなかった。


『……嘘だよ!』

「なあっ!?」


突然の再起動。

そして、レンズに収束する光を。


『お前も私の癖に一人して充実してるんじゃ、ねええぇぇぇぇeeeeeeeeeeeee!』

「なんかぶちきれておるぞーーーーーーっ!?」

「俺だ!俺が居る!」


そうだ、当たり前だ。

自分が苦労して、苦しんで、だと言うのにもう一人の自分が幸せになっている。

……今の俺なら許容出来る。何故なら何だかんだで幸せだから。

失いたくないと心底思えるほどの価値ある物を沢山手に入れているから。


だが、あの俺にはそれがない。

自分には何も無いのに良く似た奴は全部持ってる。

……あの時の、昔の俺ならどう思う?

ああ、許せる訳が無い。それだけは何がどうしようと生かしておける訳が無いじゃないか!

かつての俺ならそう考えるに違いなかったのだ。


「父ーーーーーッ!?」

「蟻ん娘も逃げろっ!」


だが、決して譲れぬ一線がある。

故にハイムの足を掴み部屋の隅にぶん投げる。

だが、俺は回避をしない。

まかり間違ってハイム達に当たったら後悔どころでは済まない。

だから……。


「全部受け止めてやる!来い!」

『成長してなくて悪かったなアアアアァァァァaaaaaa!』


スパークする光が血走ったようにしか見えない、動力炉……いや、

もしかしたらもう一人の俺だったかも知れない彼の攻撃を、

正面から……受け止める!


「うがあああああああああっ!?」

『外ああSRG伝数VTHTH話後おおおおおで投DHYJT下しまHよぁJTすよっ!?』


既に言葉になっていない電波じみた狂気の叫びを上げるコンピュータより、

その動力炉に残されたであろう全動力をかけた最終攻撃が放たれる。

もし、光をその目に捉える事が出来たなら光の柱に見えたであろう強力なビーム砲。


「父いいいいいいいぃぃぃぃっ!?」

「いっちゃだめ、です!」

「にいちゃの気持ち、無駄にするなでありますよ……アリサ!緊急警報であります!」


心臓を無理に活発化させ、魔剣を掲げ敵の攻撃を、魔力を食らう。

ビーム砲も魔力を生み出す動力炉からエネルギーを取っているだけに魔力を帯びているのだ。

だが、吸い取れるのは魔剣に照射されている部分のみのようだ。

全身の大半は太陽ですら生易しい強烈な熱量に晒され、

焼ける間も無く消し飛ばされようとしている。

辛うじて耐えられているのは俺が同化しつつある竜が火竜であるがゆえ。

吸い取った魔力はそのまま心臓に送られ、俺の体内を駆け巡る。


『我が纏うは癒しの霞。永く我を癒し続けよ、再生(リジェネ)!』


再生を唱え、後は根競べ。

機構初期化で使い果たしつつあるであろう敵の力が尽きるのが先か、

それとも俺が消し飛ぶのが先か……!


『恒星に匹敵する極大熱量……受けて、みなさい!』

「がああああああああっ!」


熱いとか熱くないとかではない。

自分が光の中に消えていくような感覚。

けれど、負ける訳には行かない。

負けたら何もかも無くなってしまう。


……肉体の痛みにはもう慣れた。

けれど、心が痛いのは……。


もう、嫌だああああああっ!


『魔力が……更に!?』

「心臓が弾け飛んでも構わん!今は、今だけはアアアアアッ!」


叫びに応えるかのように、想像を絶する魔力が俺の全身、

そして心臓に集中したその時。


……パリン。


俺の体内で何かが割れるような音。

心臓からの魔力供給が途切れ、全身が焼け焦げ始める。

力を込めても、もう心臓は何の反応もしてくれない。

……これで終わりなのだろうか?

そんな感覚が全身を包む。

だが、それでも諦める事は出来ず両腕を前に突き出す。

それで稼げる時間は一瞬。

けれど、今回もまた。

その足掻いた結果が……勝敗を分けた!


『馬鹿、な……そんな結末が……』


全身を覆っていた極大熱量が消滅する。

敵の根気のほうが先に尽きたのだ。

いや、違うか。

蟻ん娘達が敵の本体から伸びるコードをコンセントから引き抜いている。

お笑い種だ。動力炉の稼動に別な動力源が必要とはな。

まったく、ネタに走りすぎるからだ。馬鹿な奴……って俺か。


何にせよ、ここに居る俺達の勝ちに違いは無い。

そして俺は、ドサリと地面に倒れたのである。


……。


片目が開かない。

多分潰れているであろうそれを開ける事は諦め、残った片目で周囲を見渡す。

まあ、後で治癒でもかければいいだろう、と普通に考えている自分に苦笑した。

俺自身でさえ奇跡の力があるのが当然になっているじゃないか。

もしこれで、ただ魔法が消滅していたらどうなっていた事か。


「にいちゃ!」

「大丈夫でありますか!?」

「父、無事か!?」


ふと気付くと娘と妹達が駆け寄って来ていた。

目の前の巨大コンピュータはエネルギー切れで停止している。

……終わった。

一つの時代が終わったのだ。

古代人が作り出した魔法と世界の形。

それが時代にそぐわなくなり淘汰されたである。

……多少の犠牲を引き換えに。


「父、無事かと聞いておる!キチンと答えてたもれ?」

「はーちゃん。にいちゃ、つかれてる、です」

「そうでありますよ。ま、これで機構動力炉の確保も完了したであります」


「後はどうなるのだ?」

「他のあたし等が世界中で機能停止した機構関連のインフラを確保してるであります」

「それを、かいたいして、ちいさな、きこう、つくりなおし、です!」


しかし目の前ではしゃぐチビ助たちに、何て言えば良いのか。

ま、黙ってても仕方ないわな。


「後は任せるからな」

「はいです!」

「任せるで有ります」

「まったく、父よ主語が無いぞ?何を頑張れと……父!?」


自分の胸に手刀を突き入れる。

そして"それ"を取り出した。


「ぎゃぁう?」

「相棒の事、宜しく頼むな……」


それは赤い竜。

手のひらサイズの小さなドラゴン。

それはファイブレスの生まれ変わり。

そして、さっきまで俺の心臓だったもの。


「……父?」

「「に、にいちゃ!?」」


竜の心臓は即ち竜の卵。

アイブレスが生まれ変わったように、今ファイブレスが大量の魔力と引き換えに新しい命を得た。

魔力の尽きた肉体が、魔剣を握っていた左腕から崩壊していく。

もう、自力で魔力を生成する事は出来ない。

かつて結界山脈で見た光景が、己自身の体で起ころうとしていた。


「蜂蜜酒であります!」

「にいちゃ、のむです!」


喉を潤す蜂蜜酒の甘い香り。

だが、それも崩れる体を一時的に留めたのみ。

足りないのだ。

竜と言う存在を維持するほどの魔力の器を満たす。

それだけの魔力をたった一瓶の蜂蜜酒が持っている訳が無い。

ましてやこちらの体はボロボロなのだから。


「アリサに伝えろ……」

「いや、です!」

「にいちゃが死ぬなら言う事聞いてあげないであります!だから死なないでであります!」


とは言ってもな……ファイブレスの心臓が魔力を蓄えすぎて卵と化して復活してしまった以上、

俺の心臓ではいられないだろう。

母さんのように魔力の続く限り生きていられるとか言うなら良かったが、

元が普通の心臓の有る生き物だったせいで心臓無しでは生きていけないようだ。


それにしてもまさかこんなに早くとは思わなかった。

アイブレスの件から考えてかなり長い年月がかかると踏んでいたのだ。

むしろ俺とファイブレスの意識の混濁による人格障害のほうを恐れていたくらいだからな。

まあ、心臓が停止した以上これが俺の寿命なのかも知れない。


「父?おい父!?冗談だろう!?目を、目を開けてたもれ!?」

「し、しんぞうまっさーじ、です!」

「し、心臓無いでありますよ!」

「ぎゃう?」


けど……まだ、死にたく、無いよなぁ。

ああ、みんなの声が……遠く、なる……。





……。





≪≪エピローグ≫≫

リンカーネイト王国は二代国王グスタフの晩年にその姿を消す。

生き過ぎた福祉国家は、その有り難味を知る者が生きている内のみ健全に機能した。

だが、代が変わり与えられる事が当然と考える世代が大半を占めるようになった時、

鉄壁を誇った王国の結束は無残に失われる事となったのである。


「昼食にチーズとサラダを!」

「夕飯の酒はビールではなくワインを頂きたい」

「王家は民の為に一人頭一日銀貨3枚を下賜すべきである。それが出来なくて何が為の王家か!」


傍から見ていると何を言っているのか判らないだろう。

だが、彼等は真剣であった。

本気で自分達にそれを手に入れる権利があると信じていたのだ。


「彼等は働いているからと言って贅沢な暮らしが出来るのはおかしい」

「働かない者にも働くもの同様、いやそれ以上の厚遇をすべきだ!」

「何故なら、それは差別だからである!」


彼等は生まれた時から食事は毎朝毎晩運ばれてくる物だと信じていた。

何時しか働いてそれ以上のものを得るより、

声高に主張を続けることにより権利を得ることを正義と思い込んだ民衆は、

リンカーネイト王家に対し無制限とも言える要求を叩きつけ続けるようになる。

だが、それでも彼等は終わらない。


「王家は資金を溜め込み続けている!」

「その半分でも我々の為に使う義務がある!」

「王家を、潰せ!」


挙句、生活の改善と最低限の生存権の保障……。

この場合衣食住の他に月額銀貨100枚の手当ての支給と、

国民一人当たり一人づつの使用人の支給を求め、

国軍の半分をも巻き込む一大クーデターが勃発。


これに対し国王グスタフ=カールはクーデター軍を一人で殲滅。

その後、宝物庫一杯に金貨を詰め込んで王位を降りたのである。

そう、父の言葉どおりに。


……その後のリンカーネイトは悲惨の一言に尽きた。


最初の一年で心ある者達と魔物、竜達は去る。

そしてサンドールやルーンハイム(旧マナリア)

そして魔王領(旧シバレリア)とエンカナトリウム。

更にその他諸々の地方がそれぞれ独立を宣言し国力が激減する。


宗主国を名乗るリンカーネイトのクーデター政権は、

残された金貨を使い独立した各国に戦争を仕掛けるが、


魔王の一撃であっさり全滅。


その後は数年で王家の遺産を食い潰し、

更にクイーンアントが管理を止めたリンカーネイト海は腐った水の漂う死の海と化した。

そして、10年経たない内に首都アクアリウムは無人の廃墟と化したのである。


だが、その王国は伝説となった。

幻の理想郷として。

そして数千年後、世界が滅ぶその日まで、

リンカーネイトの名を持つ国家は増減しながらも最後まで残り続けたのである。

そう。カルーマの名を持つ巨大財閥と千年の時を生きる女社長と共に。


……。


≪エピローグ side カルマ≫


「以上です。主殿……未来を予測する水晶玉は上手く行きましたが……この未来は……」

「良いんじゃないのか?まあ、ある意味やっぱりか、だしな」


何件かの試作と失敗を経てようやく軌道に乗り始めた新しい魔法の管理法。

それは世界そのものはそのままに、例外的な力を持つ道具にて奇跡を起こすことだった。

総数を制限し、再使用に充填を必要とする事で濫用を防ぐ狙いは一応の成果を上げている。


「ほかのあいてむも、じゅんちょう、です」

「ともかく、魔法は今後魔法のアイテムだけで賄うよ大作戦は成功だよー」

「あくまでアイテムだけでありますから勝手に使用者が増えることも無いでありますね」

「ふむ、管理はし易いな。まあ良いのでは無いか父よ」

「魔力の補充はカルーマ商会が行います。ですが使用回数の無いものは厳重に管理しなくては」


新しい心臓と、新規マジックアイテムの調子は上々だ。

最新型の水晶玉にろくでもない未来も見えたが、まあそこはある意味仕方ない事かもしれない。

苦労を知らない以上ああなっても仕方ないと思うのだ。

……苦労するのは自分達だしグスタフの配下で無くなる以上、そんな連中俺は知らない。

信じる奴だけ救えばいいしそれ以上の事をする余裕は無い。


……ぴしり、と竜の心臓にひびが入る。

これは卵と化すのも近いだろう。

そう考え予備の心臓を取り出しポケットにしまっておく。


「しかし、竜の心臓……探せばあるもんだな」

「まあ、一時期乱獲されてたから。領主の館の宝物庫には一個ぐらいあるよー」


しかし、まさかアリサが竜の心臓を買い求めているとは思わなかった。

いや、ただ単に借金のカタに取り上げたものらしいがな。


ともかく、俺の心臓が孵化する事があるならと

あれから買占めに近い形で世界中から竜の心臓が買い求められてきた訳だ。

まあ、今後は孵化するたびに新しい心臓を胸にぶち込む事となる。

肉体的な無理は承知だが、それでも2~30年は生きられるだろう。

まあ流石にそれ以上は望まないさ。

それまでに後々の事を考えて用意しておけば良い。

人の命数を越える時を生きる気は無いのだ。


思えばあれから色んな事があった。


魔法を無くした事を世界中から責められたり、

一個のケーキから始まった騒動の為に国の機能が一時麻痺したり、

例の灯台地下ダンジョンがとうとうオープンしたりとかな。

後は何人か異世界に召喚されて大騒ぎになった事もあったっけ。

ハイムが魔王として隣の大陸に呼ばれ、あろう事かうちを攻めろと言われた時もあった。


何にせよ、この大陸に俺の敵はもう居ない。

そして、リンカーネイト以上に強大な相手ももう居ない。

気が付けば大陸の覇者と言われる様になってしまった。


そう、俺の出世双六はこれにて上がり。

この地に転生してきてからの立志伝はこれにて幕、と言う訳だ。

まあ、これからも俺の人生はまだ続くけどな。


「アニキ!稽古の時間っすよ?不肖レオ=リオンズフレア。この自分がお相手するっす!」

「ああ、判った。じゃあ、今日はここまでにするか……さて、行くぞ」

「うむ!明日も同じ時間に試作品が来るそうだ。遅れるなよ父!」


うん、それでは今日も腕が鈍らないように頑張るとしますか。

早くしないと今度は書類に埋もれる時間だしな。

ひらひらとハイムに手を振りながら訓練場に移動をしようとして。

……不意にくるりと部屋を見回してみた。


「先生?」

「カルマ君どうしたの?」

「総帥。忘れ物でしょうか」


妻達がいる。


「父。どうかしたか?」

「父上。いかがしました?末妹が絨毯に包まっているのはいつもの事だと思いますが」

「……お父さん?」


子供達が居る。


「主殿、急がなくて宜しいので?」

「まあ、宜しいのではないですかハイ」

「アニキ、急ぐっすよ!」

「ククク、サボればそれだけ腕が落ちるぜ?」


そして仲間達が居る。

この世界で手に入れた俺の大切なもの。

昔は持っていなかったもの。


「……ああ」


思わずこぼれる笑顔。

そして、決して失いたくないと思う。

だから俺は先に進む。

……拾った命が、尽きるまで。


*** 最終決戦最終章 完了 本編完結***


長らくのご愛読、真に有難う御座います!




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