幻想立志転生伝
76
***最終決戦第七章 魔王が娘ギルティの復活***
~親子対決 開幕編~
≪side カルマ≫
……暗雲漂う熱帯のようなツンドラ地帯、大森林の中に突如として現れたテント村。
その中央にかつての魔王の居城……魔王城はあった。
「ううう……」
「痛ぇよぉ……薬をくれ……」
「待て……よし。これを……」
無理やり森を切り開いたらしいそのテント村は各国から送り込まれた精兵で溢れかえっている……。
筈なのだが、その割りに人数は少ない。
それによく見ると倒れたまま直されて居ない天幕も見受けられ、
更に残っている連中も怪我人ばかり。
……誰がやったのか魔王城城門は吹っ飛んでいるし、
かなりの激戦が続いているのが判るな。
……この地に辿り着いた俺達は取りあえず周囲を見渡しているのだが、その結果が以上だ。
城の周囲を偵察を兼ねて一回りしてみたが、余り良い状況とは思えないな。
まあ、各国合計数千人規模でやって来て、ここに残っているのが現在数十名ほど。
時々よく判らない生き物が魔王城から飛び出してきて、
誰と言う事は無くそれに必死になって対応してる状態のようだ。
……ふと横を見ると、更なる増援が十名ほど転移してきた。
ハイムが見たらまた"世界の寿命が!"とか叫ぶのだろうか?
まあ、既に有る魔法とは言え転移の魔法が世界の悪影響を与えだしたと想定すると、
突然人が良く判らない場所に飛ばされるようになったり、
最悪突然世界地図が書き換わるような事態になりかねん。
ここは元々あったものだからこれ以上の影響は無いと考える方が無難か。
精神衛生上の観点から言ってもな。
しかし、少ないとは言え人目がある状況下で余りおかしな行動も取れんな。
先に術式破壊するのは諦めた方が良さそうだ。
となると、準備不足は否めないし蟻ん娘情報網も今回は当てに出来ないが、
ここはもう、突入する他無いか。
「にいちゃ!にいちゃ!」
「アリス?」
……アリスが一匹走ってきた。
随分慌ててるようだが一体何が?
「大変であります!あたし等やはーちゃん達が捕まった、です!」
「……何だと!?」
「有り得ないっす!」
突然の報告に俺どころかレオすらも驚きを隠せないで居る。
しかし、一体どうして?
「ぐーちゃんが罠に嵌った。あたし等も捕まって……人質が居るし下手に動けないであります」
「つっ!?」
グスタフが、罠に!?
「無事なのか!?怪我はしてないか!?」
「大丈夫であります。ただ……スライムの体内に閉じ込められて身動き不可能であります」
この世界にも居たのかスライム。
……しかし、そうなると更に洒落にならんな。
向こうはうちの息子を盾にするつもりか!?
「一刻の猶予も無いな……出来れば策を講じたいところだが」
チラリと横を見る。
「ルーンハイムの姉ちゃん、アルシェ様!二人とも落ち着くっす!」
「はーちゃんが、はーちゃんが!」
「ぐーちゃん!ぐーちゃん!ぐーーーちゃーーーーん!」
俺自身も暴走する所だったが、
捕まった、と言う台詞の時点でルンとアルシェが暴走。
何はともあれと城に乗り込もうとしたのでレオが首根っこを押さえている。
……お陰で俺は却って冷静になれたのだが、全く嬉しくないぞ?
「考えてる余裕も無いな、これだと」
「そりゃそうっす!イタタ!噛み付かないで欲しいっすよ!?」
「ぐーちゃんを迎えに行かないと!」
「……はーちゃん……」
どちらにせよもう時間をかけていられないのも事実だ。
ルン達もかなり切羽詰ってしまったし、もう手段を選ぶ余裕は無いか。
仕方ない、このまま突っ込むぞ!
さあ、来い!
……。
≪side アリシア≫
大ピンチ、です。
現在あたし等は捕まってるです。
具体的に言うと、あたしとアリスはロープでぐるぐる巻き+さるぐつわ。
はーちゃんはその上で天上から逆さづり。
そんでもってぐーちゃんはスライムに口元まで埋まってる状態、です。
で。
「くそっ、これでも目を覚まさねえか?蹴っ飛ばしてみるか?」
「むぐーっ!?むぐむぐむぐー!?」
ゴウおじちゃんが機械をぶん殴り蹴り飛ばしてるです。
バチバチ言ってるだけだった機械から、段々煙が出てきたです。
白い奴が段々黒くなってるです。
……めっちゃ、逃げたい、です。
「ギルティ……絶対に助けてやるからな。そしたら、こんな所からはさっさと逃げ出すぞ?」
「……」
おじちゃんも逃げたがってるぽいです。
でも、おばちゃんを目覚めさせるまでは無理みたいです。
……お友達の留守は守らなくていい、です?
もしかして、建前?
まあ、聞きたくても口をふさがれて声出ない、です。
機械からは更に訳わかめな変な生き物がゾロゾロと、
更に出てくる速度を上げながら次々と生まれてくるです。
「また変なの生まれてきたぞ?はぁ、ギルティを目覚めさせるにはどうやりゃ良いんだ?」
「むーりーじゃーねー!?」
目ん玉百個あったり、布みたいな体してふわふわ浮いてたり。
ええっ!?今度のは目玉が独立して動き回ってるですよ!?
まともそうなのでは自称猫型の獣人も居るですね。
因みに今さっき叫んでたのはデカイこんにゃくの化け物みたいなのです。
でも、全然うまーじゃなさそう、です。がっくし。
……にいちゃの記憶に良く似たのが居るような気もするですがきっと何かの間違いだと思うです。
きっとそうです。
「どこでも銅鑼ーっ!」
さっきの自称猫型獣人が何かお腹の袋から取り出して騒いでるです。
猫じゃなくてカンガルーの化け物の間違いだったですか?
鐘みたいなのをじゃーん、じゃーんって鳴らして、
ゲェッカンウとか鳴き声をあげながらそこらをうろついてるです。
もう、機械からまともな存在が出て来る事も無いみたい、です。
はーちゃんの顔色の悪さから言っても、もう完全に壊れてるですね。
……あ、はーちゃんのさるぐつわが外れた、です。
「待たんかゴウっ!もう止めよ!自分が何をしてるか判っておるのか!?」
「……まあ、よく判らんが便利な物があるから有効活用してる。それと嫁さんの復活だな」
はーちゃんは逆さづりのまま振り子のように体を振りつつ必死に叫んでるです。
あたしはおじちゃんの注意が逸れた今の内にこっそりロープを緩めるです。
アリスもやってるです。
後はぐーちゃんを何とか助ければ動けるですね。
……まあ、あの軟体生物をどうにかする手があればです、が。
「言っておくがそれは違う!それはプロトタイプ、試作型だ。お前の言うギルティでは無い!」
「はっ、おチビちゃん。騙されないぜ?幾らなんでも俺が嫁さんの特徴を見逃すとでも?」
「ええい!見た目は全部一緒なんだぞ!?と言うか若すぎると思わんのか!?」
「え?何でだよ?」
はーちゃんは、必死にゆれながら喋ってるですが、
あたし的にはちょっとアチャー、です。
今の受け答え……このおじちゃん、若い時の記憶しか無いッぽい、です。
これじゃあ、家族関係を喋っても余り効果無さそうです。
生まれた記憶も育てた記憶も無い息子に、何処まで感情移入できるか、
少なくともあたしには判らない、です。
「おう、おチビちゃんよ……少し気になったが、ギルティの事を知ってるとは……何者だ?」
「ハイムだ。一応お前とも血縁に当たる」
「ほぉ?じゃあギルティが何者か知ってるな?」
「当然だ。魔王の作り出した魔法生命体。魔王軍の切り札たる魔王の娘ぞ!」
「ピンポンピンポン大正解だな!」
「はっはっはっは!当然だ!何せわらわは……」
あ、おじちゃんがはーちゃんに歩み寄った、です。
そして……剣を抜いちゃったああああああっ!?
「……お前、魔王軍か……」
「う、うむ?」
「いいだろう。明日魔王を倒しに行くと思ったら三十年後に呼ばれちまってイラついてたんだ」
「ええっ!?わらわ、八つ当たりで殺されるのか!?」
いやいやいやいやいや!
それは駄目ーーーっ!
はーちゃんはおじちゃんの孫、です!
て、言うか前世はおじちゃんの義理の父?親です!
どっちにしても殺しちゃ駄目です!
……ま、どっちにせよ殺せない、です。
だって……。
「それは無いから安心しろ!ハイムーーーーーッ!」
「……はーちゃん!」
「な、何だッ!?」
「ぷはっ!か、壁が!魔王城の壁がああああああっ!?」
にいちゃ、来たですから。
あたし等がここに来るのに使ったコケトリスはそのまま待機して居たです。
ぐーちゃんは気付かなかったけど、
まともに攻める気があるはず無いにいちゃならきっと使ってくれると思ってたです。
そんでもって、空から壁ぶち破って突入したです!
にいちゃ、ぐっじょぶ。
「コケー、コッコッコッコ!」
「あ、縄切れたであります」
「もとピヨ245ごうちゃん。さるぐつわ、とってくれてありがと、です」
あたしらの拘束も解除したし、増援も来たし。
ではでは。
反撃開始、です!
……。
≪side カルマ≫
数羽のコケトリスに分乗して室内に突入する。
封印された扉はともかく壁は普通なようなので、
外側から爆炎を連射し壁ごとぶち抜いて突入だ。
「な、何だッ!?」
「ぷはっ!か、壁が!魔王城の壁がああああああっ!?」
室内では今まさに逆さづりのハイムが串刺しにされそうになっている。
……その光景に俺は、切れた。
「くたばれやあああああっ!」
「お前がカルマか!クロスの怨敵だってな。だがそう熱くなっちゃ……止めた。情報は与えねえ!」
ハイムに剣を向けていた男……恐らく勇者ゴウであろう人影に、
全身全霊を持って体当たりを仕掛ける。
後ろに飛んで軽く回避されるがそれでいい。
今大事な事はハイムから少しでも相手を引き剥がす事だ。
「……はーちゃん?はーちゃん!?」
「母?」
後ろではルンが泣き喚きながらハイムを吊り下げるロープに対し必死にナイフを押し当てている。
子供を縛るにしちゃあ随分と太く丈夫なロープだ。
そんな事にも一々はらわたが煮えくり返る。
人の娘を何だと思ってやがるこの野郎……!
「ナマスにしてやる!」
「へっ。出来るのかよ?」
同様にその近くではアルシェがグスタフを捕らえたスライム状の物体に対し必死の攻撃を行ってる。
レオは戦列復帰したアリシアとアリスを加えてその護衛として展開し始めていた。
だから……俺の仕事は、敵に残った最後の精神的支柱を叩き折る事だ。
悪いが、消えてもらうぞ勇者ゴウ!
「うおおおおおおっ!」
「……パワーはあるが大振りだ。へっ、才能無い奴は哀れなもんだな」
「だりゃああああああっ!吹っ飛べッ!」
「唯の馬鹿力なら……ほれこの通りだ」
……っ!?
手を突き出してきた?
いや、剣の軌道を逸らされたのか!?
「ぬがああああっ!?」
「微妙な手の加減と相手の動きに合わせた咄嗟の動きを的確に出来ればこの通りよ」
全力で切りかかるが相手の手甲に軽くいなされる。
それだけならまだしも逆の手で突き出された剣にまともに突っ込む形になってしまい、
ただ無造作に突き出されただけの剣に串刺しになってしまう。
「ま、例えば相手の1割ほどの力しかなくてもな?どうとでもなるんだ、これがな」
「ぐ、ぐぐぐっ」
得意げに語る相手に対し、俺は突き刺さった剣を刃を抱えて無理やり引き抜く。
そして魔剣を両手で構える事により徹底抗戦の意思を示したのである。
「はっ、まだやるか……悪いがそんな単調な動きじゃ俺には勝てないぜ?」
「……だったら、これでどうだ!」
確かにそうなのかも知れない。
……けどよ。だからどうした?
そんな事は今までの実戦で嫌と言うほど身に染みてるんだ。
だがな、俺にはこれがある!
『我が炎に爆発を生み出させよ、偉大なるはフレイア!爆炎(フレア・ボム)!』
「ぐわっ!?こいつがクロスの言ってた短縮詠唱か!」
その場で印を組み上げ爆炎を発動。
爆発が敵を襲うも間一髪で避けられた。
……だが、距離は開いた。
体勢は立て直せるだろう。
「ふう……とんでもない威力だな。全く、こっち方面のみ伸ばされてたらやばかったかも知れん」
「やかましい!」
「馬鹿な話だ。万能なんて器用貧乏以外の何物でも無いのによ」
「俺は数年前まで純粋な戦士だった。魔法は故あって極めるのに時間が要らなかっただけだ!」
はっ、と勇者は鼻で笑う。
「だったら最初から魔法使いしてたら良かったのさ。……第一なんで才も無いのに戦士なんか」
「親父に子供の頃から仕込まれてたんだよ。選ぶ権利なんか無かっただけだ!」
「……だとしたらお前の親父は馬鹿だ。センスも無い奴に何年も努力させるなぞ無駄の極みだ」
「何だと?」
「他に才が無いなら兎も角、そんだけの魔法の才をみすみす埋もれさせてたなら馬鹿でしかねえさ」
「親父の悪口は言うなボケがあああああっ!」
再度爆炎を飛ばし、その後ろから自分自身も突撃を敢行する。
さあ、この二段構えをどう対処する!?
「こんな安い挑発に乗るなってのな……ま、そう来たなら……突っ込む!」
「前進!?」
直撃だけは避けるようにして敵は前に出てくる。
そして、背後で爆発するその爆風を背に受ける形で加速、
双方全力ですれ違うように斬り合った!
……俺の脇腹から血飛沫が上がる。
「駆け引きが甘いぜ?ま、魔法の連射をされたら弓の雨に対する策と同じ手を使えば良いんだがな」
相手は、無傷かよ!
……ならば、これでどうだ!
組み付くように突っ込んで、相手の剣と鍔迫り合いの体勢に持って行く。
「おっと、今度は本当の意味で力押しか?」
「アンタの言う馬鹿な親父に鍛えられたお陰でパワーには自信があるんでな……!」
「はっ!そんなの、こうだ!」
「投げか!」
案の定相手は後ろに転がり巴投げの体勢に入る。
老いたアクセリオンにさえ、これでしてやられたのだ。
当然こっちも使って来ると思ったよ!
『人の身は弱く、強き力を所望する。我が筋繊維よ鉄と化せ。強力(パワーブースト)!』
「……剣が!?」
だが、最初から織り込み済みなら何の問題も無い。
……とは言え普通の対処では更に技を返されるのは判りきっていた。
よって、強力により更にパワーを上げ、
その上でしゃがみ込むように一気に重心を下に持ってくる。
このままでは押しつぶされると判ったのだろう……相手は凍りついたように投げを中止した。
だが力のベクトルは前から真下へ。
その変化が止まる事は無い。
力の向きが変わった。
ただそれだけだが突如として巨大な下向きの力を得た魔剣は、
空中で敵の腕により固定されているだけの剣を叩き折った。
普通なら、刀身を滑って落ちて行くだけだろう。
だが、唯でさえ豪腕な上に、それを更に強化された筋力は、
ズドン……!と言う音と共に相手の剣を中ほどから切断したのだ。
……この日初めて見る、勇者ゴウの本当の驚愕の顔と共に。
「なんだと!?」
「と言いつつ予備の剣をちゃっかり抜いてやがるじゃないか!」
ざまあみろ!唯の力押しを舐めるんじゃ無いぞ!?
圧倒的な力は技術力の差を埋めて余りある。
……と言うかむしろ力の差を少しでも埋める為に技術があるのだから、
圧倒的なパワーがあれば、大抵の事は乗り切れるのだ……!
と言いたい所だが、それだけで勝負が決する訳ではない。
相手は予備の剣を抜い……いや、こっちが本命だ!
明らかに材質が違う!
「予備か。その通り……ただしこっちは上質なミスリル製だがな!」
『人の身は脆く、守りの殻を所望する。我が皮よ鉄と化せ。硬化(ハードスキン)!』
鎧の隙間を狙って繰り出された勇者の剣が俺の脇を抉らんとする。
だが、次の瞬間ガキン、と音がしてミスリルの刃が僅かにこぼれた。
「なん、だと……?」
「弓兵殺しの異名持ちでな……軽、いや中量級武器までは俺にダメージを与える事は出来ない!」
そして、
「魔剣の錆になれ!」
「……スティールソードだってっ!?」
魔剣が遂に敵の胴に吸い込まれ……、
「ぬんっ!」
「ブリッジ!?」
「更にふんっ!……はあっ!」
「蹴りなんか……距離を離されたか!?」
る、事は無く上半身が消えたかと思うような見事な反りによって回避され、
そのままブリッジの体勢からバック転の要領で距離を離される。
……それにしても千載一遇の機会を逃してしまった事が悔やまれるな。
「ふう、とんでもない奴だぜ……だが、俺は諦めが悪いんでな!」
「刃こぼれした剣一本で何が出来る!」
だが、敵は他の武器を出す事もせずそのまま突っ込んでくる。
無駄だ、鉄の……いやもはや鋼どころの強度ではない俺の肌に刃こぼれした剣が突き刺さるか!
もし突き刺さってもそのまま組み付いてサバ折りしてやる……!
と、そのまま迎え撃つ。
「おおおおおおおおっ!」
「無駄だあっ!」
剣が弾けミスリルの塊が宙を舞う。
案の定、と言うか敵の剣は俺の鎧に阻まれ砕け散った。
だが敵は諦めない。
そのまま何を思ったかぐっと拳を握り締め、俺の顔を目掛けて!
「赤い……一撃ぃっ!」
「ごほっ!?……ぐはああああっ!?」
練り唐辛子の玉を、俺の顔に叩きつけて来やがったーーーーーっ!?
辛い!熱い!痛いーーーーーっ!?
「へっ、本当は対魔王用の切り札だったんだがな……」
「目がぁ!鼻がああああああっ!」
何も見えない!目を開けていられん!
この刺激には硬化した肌ですら何の役にも立たない。
暫くのたうち回り、
ようやくの事で粘着していた唐辛子の練り物を顔からこそぎ落とす。
……そう言えば、相手の追撃は無かったがどう言う事だ?
「アニキ!済まないっす!」
「ぐーちゃあああああん!」
「ゴウ!貴様あああっ!グスタフを離せええええっ!」
……何!?
必死に目を開けて声のほうを見る。
すると、
壁際で気を失ったルンに抱きかかえられるようにして頭を押さえつつ叫ぶハイムとアリシア。
そしてスライムに囚われたままのグスタフにナイフを突きつける勇者と、
その後ろでどうする事も出来ずに立ちすくむアルシェ、
及びそれを庇うようにして立ち、謎生物の群れと戦うレオが居た。
……察するにグスタフからスライムを引き剥がそうと必死になっていたら、
後ろから奇襲を受け、咄嗟にルンはハイム達を庇ったが吹っ飛ばされて気絶。
そしてグスタフを人質に取られてアルシェとレオは動けない、と言う訳だな?
「勇者が人質かよ……」
「おう。何せ勝てば官軍って言うからな……さて、その剣は元々俺のものだ、返してもらおうか」
……剣はグスタフの頚動脈に当たっている。
もしかしたらグスタフなら耐えられるのかもしれない。
だが、耐えられない可能性がある以上、そして相手が俺の子である以上選択肢は存在しなかった。
だがそれは即ち……。
ははは、こんな最後かよ?
このまま武器を、それも俺にとって天敵でもある魔剣を相手に渡して生きていられるとは思えない。
思えば俺だって、何人も罠に嵌めてきた。
その報いを受ける時が来たのかもしれない。
どうする事も出来ず、達観と共に魔剣を放り投げる。
「よおし、それでいい……さあ、次はこっちに来な」
「むがむぐーーーーっ!?」
グスタフが俺の名を呼んだ。
必死に目で訴えている。
……とは言え、どうしようもないんだよな。お前の喉下に刃が押し当てられている限り。
ゆっくりと近づく俺。
そして、その剣が片手で上段に振りかぶられたその時!
「すこおおおおおおおおおおっぷ!」
「なんだとぉっ!?」
勇者の足元が崩れ、地下からアリスが飛び出してきた!
そのスコップの切っ先は狙い違わず勇者の片腕を抉り……!
ナイフをその手から弾き飛ばした!
その瞬間を見たアルシェは即座に銃を乱射、敵をグスタフから引き剥がす事に成功する!
そう。それはまさに奇跡の瞬間だった!
「やったでありますよ!」
「くそっ!チビ助だと思って油断した!それにその目、お前魔物かっ!?」
「ぐがっ!?」
「アリスーーーーーっ!」
だが、その奇跡の代価を俺達は支払う事となる。
振り上げられていた魔剣はその狙いをアリスに変え、容赦なく振り下ろされる。
アリスはスコップで受けるもそのまま両断された。
血を流しながら吹き飛ばされ、べちゃりと地に落ちる。
……。
「うおおおおおおおおっ!」
「このっ!野郎おっ!」
俺の中でまた何かが切れる。
そして気が付いたら無手のまま敵に突っ込んでいた。
……当然魔剣に切り刻まれ、全身から魔力が抜けて行く。
だが、それが何だというのだ?
この一撃を恐れたら、次は誰が犠牲になる?
ルンか?ハイムか?アルシェか?アリシアか?
……もうそんなのはゴメンだ。絶対にそんな事は認めない!
……。
無造作に手を突き出す。
敵の肩口を掠っただけだが、相手の肩当が砕ける。
「お前!その腕は何だ!?」
「……あ”?」
突き出される魔剣。輝く光は俺にとって死神の鎌に等しい。
……だが気にしない。
腹にグサリと根元まで刺さったのを幸いに、そのまま柄を握った敵の片手を、
こちらの竜の手で握りつぶす。
気が付けば俺の体は半竜化していた。
……何時の間にファイブレスと同調したのだったか?
最近返事もしてくれない相棒の事を思いながらそんな事を取りとめも無く考える。
……それを好機と見たか、敵は更に魔剣を振るってきた。
狙いは顔か。まあ、今更何処を狙われてもどうと言う事は無い。
「化け物がああああっ!」
「ふん!」
無造作に腕を振る。
敵が吹っ飛んだ。骨の二、三本も折れているだろうが関係ない。
こんな脆い相手にここまで苦戦していた自分が嫌になる。
まったく。人が竜に勝てると思っているのか……。
「くそっ!」
「逃げるな」
敵は向こうを向いた。逃げる気なのだろう。
だがそれを許す我が身ではない。
突進し尾を振り回して敵の足を砕いた。
「ぐがああっ!だが、かかったな!?」
「ふん……罠か」
周囲と僅かに色の違う床を踏むと下から突起物が飛び出してくる。
原理は簡単、俺の体重を利用したのだろう。
重量物が載る事により発動するブービートラップだ。
そして、連動して天井からは大量の武具が降り注ぐ。
……愚かしい。それぐらい我が炎で溶かしてくれる、
そう思い炎を上に向けて吐くと、突然大爆発を起こした。
どうやら火薬樽でも混じっていたらしいな。
まあ、ルンやハイムたちが巻き込まれていないならそれこそどうでも良い事だが。
「それが生命の危機に繋がっていた。そんな時期が俺にもありました、な」
「……嘘だろ……あの量に加え、爆薬とやらまで裏から手に入れさせたんだぞ?それを……」
そして、哀れな獲物の手持ちの策はそれで尽きたようだった。
だが足が砕けてもまだなお何かを狙っていそうだった事もあり、
今度は無造作に両腕を折り曲げ骨を砕き、次いでその体を掴み上げる。
「さて、これで終わりだ……」
「ぐ、ご、おおおお……」
最後は壁に空いた大穴からぶん投げればいい。
それで終わりだ。
我が家族を奪った罪、万死に値するぞ……。
そう思い、壁の穴に近寄る。
「にいちゃ!すとーーーっぷ、であります!」
「アリス?」
だが、声がかかった。
アリスだ。
無事だったのか?
「へへへ。ちょっとドジッたけどもう大丈夫であります!」
てこてこと近づいてきたアリスは既に応急処置を終えていた。
三角巾を吊っているが血が滲んでいる様子も無いし、服にも血の跡は無い。
どうやら思ったより傷は浅かったようだ。
まったく、心配かけてくれるよコイツも。
「にいちゃ!それよりおじちゃん殺すのは駄目であります」
「何でだ?このまま生かしとく理由があるのか?」
……何故かアリスが勇者ゴウへのトドメを止めてきた。
「当たり前だ。そもそも父よ。意識がファイブレスに飲まれかけておったぞ?」
「なに?」
そして更にハイムが俺に対し意味深な事を言う。
とは言え、嫌と言うほど覚えはあったがな。
うん、実は結構やばかったかも知れない。
「そんな状態で勝っても意味は無いってか?」
「いや、そう言う事じゃないで有ります、ええと」
「……そうだなぁ。あれじゃあまんまドラゴンじゃねえか……お前の実力じゃないよなぁ……」
「ゴウ!爺はちょっと黙れぃ!」
何か、瀕死の人が何か言ってますけど。
あ、目が死んでるし半ば気絶してら。あーあー口から泡吹いてまで……。
それでも未だ勝ちを諦めてないのかこの人。
要するに、よく判らんけど助かりそうだから乗ってみましたって所か?
考えてみれば凄い勝利への執念だよな。
まあ判らんでも無い。俺も同じ立場ならそうするだろうし。
しかし、折角拾った勝ちを捨てるのも惜しいが……。
「まあいい。お前が言うならそれでいいか」
「ふう、であります」
「ていうか。にいちゃ……そろそろきづいて、です……」
一体何がだ?
と思いつつどさり、と勇者を床に降ろす……頭から。
相手は気絶した。やはりただで離してやる気は無いからな。
まあ何にせよ、両手両足は砕いてある。
目が覚めてもこの状態では何も出来はしまい。
……となると、後は……。
「取りあえず、この機械を止めるのが先決だな?」
「そうだよカルマ君!何とかしないと変なのが増えちゃう!」
「アニキーーーっ!早く何とかして欲しいっす!」
「きづいて、です!たすけて、です!」
軟体の中でもがくグスタフとそれを庇うように戦うアルシェとレオ。
ハイムはアリシアと共に気絶したルンを守っている。
……謎生物群は未だ増え続けてるのか。
とは言え、既に普通の止めかたじゃ無理だろこれ?
「ハイム!どうにかならないのかこれは?」
「もうわらわにも判らんわっ!停止させる為の方法がことごとく潰されておる!」
敵を形見の斧で根切りにしながら半泣きで吼えるハイム。
まあ、そうだよな、
ショートして黒い煙上げる機械なんてどう止めろと言うのか。
……やっぱ。これしか無いわな。
「おおおおおおっ!突撃ぃいいいいいいいっ!」
「何ゆえ取り戻した魔剣を構えて突貫しておるのだ父ぃぃぃぃっ!?」
いや、決まってるだろハイム。
こういう場合は、
「バッター、振りかぶって第一球、打ちましたああああっ!」
「えええええええっ!?」
もう、完全にぶっ壊すしかない。
「ウボォアアアアアッ!?本体が飛んだあああああああっ!?」
「はーちゃん、て、うごかすです。てきさん、まだくる、です」
ハイムが目の幅の涙を流すが気にしていられん。
ともかく機械本体を剣の腹で殴り飛ばす。
……人間大ほどのその機械は宙を舞い回転しながら床に叩きつけられ、
最後に大きな破裂音を残して完全にその機能を停止したのである……。
……。
しん、と静まり返った室内。
生まれたばかりの謎生物達も、ハイム達も、
当然気絶状態から帰ってきたばかりのルンも一言も発しない。
ただ……謎生物の発生は止まった。
世界の危機は取りあえず回避されたのだろうか?
ともかく自分達の不利を悟ったのだろう……謎生物達は素っ頓狂な叫びをあげて一斉に逃げ出す。
そして、この場には俺達だけが残された。
「ハイム、どうにか世界の危機は回避できたぞ?」
「アホかああああっ!」
ぴしっ、と軽くデコピン。
「父親に対しアホは無いだろ常識的に」
「へぶっ!?いや父。父は何をしたのか判って居るのか?答えてたもれ!?」
何を判っていないというのか?
反撃だとばかりにがじがじと俺の手に噛み付きながら言うハイムに、
うりうりとほっぺた突付きながら軽く疑問をぶつけてみる。
「どうせ封印されてた場所だろ?もう使わないなら無くても同じじゃないか?」
「……父は世界を管理する機構の一部が壊れた、その意味を何も判っておらんのだ……」
……その時、背後からゴゴゴと言う振動音が響く。
機械は壊れたのに何故?と思っていると、
何処かで見たことのあるような人影が立ち上がり、こちらにゆっくりと近寄ってきていた。
「……」
「母さん?」
そしてぼおーっとしながら立ちすくむ。
……一体何がしたいのか?
そんな風に疑問を感じた時、それは起こった。
≪姉さん、ちょっと体借りるわね?≫
「ぎるてぃぃぃぃぃいいいいいいっ!?」
ハイムが驚いて硬直する中、
脚の無い人影が現れ母さんのプロトタイプに近寄っていく。
これは、一体!?
……。
突然虚空から現れた影は、間違いなくファイブレス戦の時に消えたはずの母さん。
何で唐突に?と思ったが、
足の無い母さんがぼんやりとしているプロトタイプ……、
まあ多分意思の無い人形なのであろうが、一応自分の姉に当たる存在に重なったかと思ったら、
「よし、久々に実体を持てた……魔力も漲ってるしいい感じね!」
幽霊の母さんが消えてプロトタイプが突然感情豊かになりました。
えーと。これはもう中身は母さんって事でOK?
実の姉の体を乗っ取る気だったのかよ!?ていうか、そんな事出来るのかよ!?
……いつの間にか大鎌持ってるし。
「ギルティ……幾らプロトタイプに意思を入れていないとは言えそれはちょっと……」
「あら、お父様?お久しぶりですね……随分ちっちゃ可愛くなっちゃって……」
……判るんだ。
姉の体を乗っ取った母さん(以下、母さん)はハイムの頭を撫でながらニコニコしている。
そして、俺のほうを見て再度笑った。
「カルマちゃんも久しぶりね……どう?少しは大人になった?」
「……ああ。もう子供も居るよ母さん」
そうしてルンの方を見ようとしたら……既に腕に絡み付いていた。
一体何時の間に……。
「…………初めましてお母様」
「マナさんの娘さんね?うんうん、そっくりに育ったわね。うちの子とは仲良くしてくれてる?」
そっくりなのは見た目のみで中身は正反対だけどな?
まあ、仲良くはしてるから問題は無いだろう。
……と言うか、もし不満だらけとか言われたら正直って泣けるが。
「先生は私の全て……一番大事なヒト……」
「あらあらまあまあ。本当に仲が良いのねぇ。子供はどんな子なのかしら?」
……沈黙。
「ど、どうしたの皆?」
「……は、は……はーっはっはっは!実はわらわである!」
くるり、と母さんの首がハイムの方を向く。
そこではハイムが乾いた笑い声を上げつつ無駄に胸を張っていた。
「お父様が、孫?」
「……うむ」
うわっ、何だこの微妙な空気は!?
痛々しすぎて何も言えないんだけど!
……だが、そこに颯爽と救世主が現れる。
「ギルティいいいいいっ!」
「あ、ふっかつした、です」
「折れた手足でよくやるでありますよね」
勇者ゴウ、復活。
ただし全身グニャグニャのタコ状態で……あれ?
母さんとは知り合いなのか?
いや、母さんは魔王軍から離反して、戦後……おや?
今まで得た情報を総合すると、あれ?
「ギルティ、俺だ。ゴウだ!判るか?」
「……ええ、あなた」
……何か冷えるな、と思いつつ情報整理を続ける。
あれ?今まで余り深く考えていなかったが、
もしや、もしかするともしかして……。
「なあアリス。もしかして……そこの勇者ってうちの親父の若い頃の姿か?」
「本当にまだ気づいて無かったのでありますか!?」
「……しってて、あえてむしだとおもってた、です」
あ、やっぱりそうなのか。
いやあ、喘息持ちの農夫だった親父と勇者って言葉が余りに似つかわしくなかったんで、
脳内で勝手に"それはない"に仕分けされてたよ。
本当に必要なものは仕分けられないものなんだなぁ。思い込みとかしがらみとか利権とかで。
まあ、それはさておき。
「うぼあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!?」
「……あなたには"少し"聞きたいことがあったのよね。少しお話しましょうか?」
何で、勇者ゴウ。
いや親父は母さんの手によって空中に吹っ飛ばされているんだろうか?
誰か教えてプリーズ。
「……にいちゃ?それこそ、あえてきおくからけしてない、です?」
「ほら。あたしも一緒に会って"にいちゃ"って呼んだから……」
ああ、成る程。
浮気を疑われてるのな?
しかし、それなら自分の潔白を証明すればいいじゃないか。
そもそも村に女手は殆ど無かったし、言ってくれれば弁護も……しないけどな。
なんでって?
あっはっは、幼少時のシゴキの恨みをここで晴らさせてもら、
「ぐぼあああああああっ!?な、何故ごほおおおおおっ!?」
「少し、正直に答えてくれればいいんだけど?ねえあなた?」
ヤバイ!?
首の骨があらぬ方向に曲がってるんだけど!?
さっきから地面に一瞬たりとも落ちていないし、
これは流石に止めないとまずい、のか?
「あうあうあう、です」
「にいちゃ。流石に止めるで有りますよ……にいちゃが」
「やばいっす!白目剥いてるっす!?」
「……先生、怖い」
「カルマ君。ギルティおばさんってもう少し大人しい人だった筈だよね……?」
俺もそう思ってたんだが。
……ああ、そう言えば俺が子供の頃にはもう力尽きて死に掛けてたんだよな。
なら、大人しくて当然か。
第一、魔王軍の最終兵器が温厚じゃ話になるまい。
ここは今までの迷惑料を兼ねて親父に痛い目にあってもらうしか無いな、うん。
流石にあれの中に割って入る勇気は……。
……と、思っていたらアリスが何故か近くの瓦礫の方を向いて何か考え込む。
そして、てこてこと歩いていった。
まさか、止める気か!?流石だアリス、何て度胸なんだ!
「おばちゃーーーん」
アウトーーーーーっ!
いきなり地雷踏んだんじゃないのか!?
そんな物言いしたら纏まる話も纏まらないぞ!
「おじ、おとーさん殺さないでであります、うえーん」
「おとーさん。です」
「おとーさん」「おとーさん」「おとーさん」
「おとーさん殺さないででありますおばちゃん」
「おとーさん」「おとーさん」
……だと言うのに。
アリクイが居なくなったのを良い事に集まっていたらしい蟻ん娘が、
十数匹沸いて出て一斉におとーさんコール。
しかも凄ぇイイ笑顔で……。
ああ、母さんが笑顔のまま固まって、額の青筋が……。
ぷちん。
……。
「えー、じゃあ言い訳を聞こうか?」
「多分、生かしておいても良い事は無いと判断したであります」
「なにせ、にいちゃのこと、しらないじきの、おじちゃんだし。です」
背後の惨劇を尻目に俺達は封印区画の隅で輪になっていた。
正確に言うと隅っこに固まって震えていたのかもしれない。
……時折破砕音や風斬り音、そして爆音まで聞こえる気がする。
だが精神、肉体両面の健康の為、俺達はそれを知らぬ存ぜぬで通す事にしたのだ。
「まあ、それはいい。兎も角今は世界の危機を救わんとならぬ」
「よくない、です……」
「というか、あれ?もう終わったんじゃないのかハイム」
ハイムは首を振る。
「言ったであろう?何をしているか判って居るのかと」
「ふむ。その言い草だと何か問題あるのか?」
そして、俺の言葉に対し、やけに重々しく頷いたのだ。
……あ、親父が空中で回転しながら血を吐いてら。
ともかくハイムは重々しく頷いたのである。
「一部とは言え機構本体を破壊してしまったのだ。暴走は避けられまい」
「暴走するとどうなる?」
暴走、ね。
余り面白い話じゃ無さそうだ。
と言うか機構って何だ?
話やハイムの役割からすると、魔法を管理運営してるシステムの事だとは思う。
その本体がここ魔王城にあったという事なのだろうが。
……当のハイムはむう、と言いながら話を続けていた。
「かつて古代文明の人類は、世界の環境や物理法則、生命の神秘をほぼ全て解明していたという」
「ふむ」
「そして、その技術を用い世界の環境を己の思うがままに弄り倒しながら暮らしておったそうだ」
「何か、終わりの見える生き様だな古代文明人って」
「まあ、げんにほろんでる、です」
……その後も話は続き、親父は天を吹っ飛び続けていたが、要点を纏めると以下の通りだ。
かつて古代文明が魔法を作り出した。
そして、その運営やその為のエネルギーを生み出し、
管理するために作ったのがこの魔王城と言う訳か。
「……知っての通り古代人はその管理者たるわらわ達に高い戦闘能力を与えておる」
「ああ。多分何時か好き勝手するために、後世の人類が逆らってくる事を想定してたんだろうな」
「そして、当然最悪の場合に備えた切り札くらい存在しておる訳だ」
「……なるほど。で、その切り札が機構の暴走と言う訳か?」
あれ?首を横に振った。
「否だ。そもそも機構本体は像が踏んでも壊れん造り。破壊される事など想定しておらん」
「……でもあっさり壊れたぞ?」
飛び上がって顔面グーパンチ。
……少し痛い。
「アホかーーーっ!長い時間かけて破壊された上、竜の力で吹っ飛ばされるなど誰が想定するか!」
「あー、そう言う事な」
「まあ、細かい事は良いんすよ。で、暴走するとどうなるっすか姫様?」
「……現在の世界の寿命は残り200年と言った所か」
「ヲイマテ、少し減りすぎじゃないのか?」
少なくとも500年は残ってた筈じゃあ。
それに俺達が増やした分もあるだろうに。
「はっ。これでもかなり甘めの試算だぞ父?何せ、今も昼夜が固定されかかっておるからの」
「……それってまさか世界……星の自転が止まりかけてるって事か!?」
もしそうなら最悪俺達の世界で言う所の太陽……に当たる恒星に突っ込む事になりかねんのだが?
見ると横で蟻ん娘達がガクブルしている。
あー、こりゃビンゴだな……。
「昼夜、固定?」
「母……ともかく世界が早晩滅びかねん異常事態とだけ覚えておいてたもれ」
だがやはり、この世界しか知らない人間には理解しかねるのだろう。
ルンやアルシェ、それにレオも首を捻っているようだ。
正直子の危険性を理解できないのは恐ろしいし、同時に有る意味羨ましくもあるな。
「……はーちゃんは賢い」
「いや、抱き上げられて頭撫でられても困るのだが……」
さて、そうなるともう処置無しと言う事か?
……多分そうではないのだろう。
今現在ルンに弄くられているハイムだが、
暴走に関する質問で、最悪に備えた機構の切り札の話をした。
それが問題解決の鍵となるのだろう。
「で、ハイム……さっき言った機構の切り札とやらは何だ?」
「む。それはな……ちょっ、母その2まで!?ふにゃ、ほっへたひっはるはーーーーっ!」
「あはは、可愛いなぁはーちゃんは」
「姉上ー。姉上ー……」
しかし、話すどころでは無さそうだな。
すっかり母親衆の玩具にされてるし。
……まあ、ルン達は多分話に着いて来れなかったんだろうが……。
あ、グスタフがじたばたしてる。
「あの……父上母上、そろそろぼくもここからだして欲しいのですが……」
「駄目だ。少しお前はそこで反省してろ」
「ぐーちゃん。お姉ちゃん達に迷惑かけちゃ駄目だよね?判るよね?」
「おしおき、です」
「今日一日はスライムの中で過ごすで有りますよ」
取りあえず、今回の駄目MVPであるグスタフは今日一日スライム漬けの刑である。
暴走王子など笑えもしない。
コイツは一歳児とはいえ分別もそこそこあるし、今回まで問題らしい問題は起こした事が無かった。
それで安心していたのだが……うん。甘かった。
何かが出来て当然の人間には、出来ない人間の事を理解できないのだ。
一応長男でもあり、
当然家を継がせるのはこのグスタフなので、それをこのままにしてはおけない。
故に俺が……俺が勝てるうちに何とか躾を完了しておかないといけなかった。
我ながら情け無い話ではあるがな?
兎も角そんな訳で、
「反省はしました。今後はしゅういの能力もこうりょして動きたいとかんがえています」
「……我が子ながらこの模範解答に背筋が寒くなりそうだな全く」
「僕も自分で生んでおいて何だけど、たまに理解できない時があるよ」
……何か、俺よりよほど物分りが良さそうだ。
と言うか普段は理解出来ているのか。凄いな母親って……。
……あれ?
なんだろう。
何か。寒いぞ?
「ねえカルマちゃん?酷いと思わない?」
「うおっ!?母さん!?」
い、何時の間に背後に!?
しかも両手が血に濡れてるし!
「パパってば、あの子の事どころかカルマちゃんの事も知らないって言うの!」
「……あー……」
「まあ、話からすると30年前の記憶のままっすからね、当然っすよ」
「カルマちゃんはパパみたいな人にならないでね?」
「う、うん。わ、判った……」
……あれ?
あれあれあれあれ?
更に周囲の気温が下がったような。
ああ、そうか!
世界の気候がおかしくなってるんだもんな、当然
「……じゃあ聞くけど……この子、お隣のアルシェちゃんよね?」
「あ、ああ……そうだな母さん」
「お、お久しぶりですギルティおばさん……僕は確かにアルシェですけど……」
あるぇ?
母さん。前髪にかかって目が見えないけど?
と言うかキュピーンと光ってるんだけど?
「母上。それにルン母上……何かおばあさまが怖いのですが」
「そ、そうだねぐーちゃん」
「……お母様。大丈夫、私は認めた」
「母。それ、どう考えてもギルティには逆効果だ」
……これは、まさか。
「……カルマちゃん。私はあなたをそんな子に育てた覚えは無いわよ?」
「か、母さん落ち着け!?」
「ラスボスバトル第二形態なのですよー?」
何処から沸いて出たミツバチ!?
……じゃなくて。
「誤解だアアアアああっ!」
「五回?五回も浮気してるのカルマ!?こんな可愛い奥さん貰ってまだなお!?」
「ちがう!にいちゃのおくさん、たったのさんにん。です!それにうわきじゃない、です!」
「アリシア!待つであります!それは!?」
アリシアの……アホおおおおおおおおっ!
空気が、空気が凍ったじゃないかーーーーっ!?
て言うか俺も自爆してるーーーーッ!?
「カルマ……ちょっと、頭冷やそうか?」
「う、うわああああああああッ!?」
……怒りのあまり笑顔の凍りついた母さんが、轟音を立てつつ迫ってくる。
その手には血に染まった巨大な鎌。何この死神?と言うかむしろ魔王そのもの?
いや、武器が合って無いような……って、俺は一体何を言っているんだ!?
ああ、何ていうか。
もう、どうにでもなーれ♪(AA略)
***最終決戦第七章 完***
続く